魔剣異聞録~The Legendary Dark Slayer/Zero   作:月に吠えるもの

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Another Mission <安楽の死を……-Not josh> 39章

「な、何よ!?」

ルイズ達が振り向いた先には、いつの間にか大きな影の姿があった。

 

――ウォオァァァアアアアアッ!!

 

ドスドスと足音を鳴らしてその巨体は猛然と迫り、手にしている長い物を一気に振り上げてきた。

「危ねえっ……!」

耳障りな激しい騒音を響かせながら振り下ろされた一撃はタバサの目でも追えない程に速い。

「え、え……!?」

突然のことだったのでルイズは全く反応できず、前に出たネロが咄嗟に右腕を構えていた。

「ぐっ……!」

ネロが受け止めたのは、両刃の斧だった。ただの斧ではない。槍のように長い柄は2メートル以上にも達しており、鋭く広い刃はルイズの身長もありそうな程だ。

「ジャベリン!」

タバサが放った氷の槍は巨体の腹に深々と突き刺さる。激しい呻き声を上げて相手は怯んで後ろによろけた。

 

――ウォオァァァアアアアアッ!!

 

だが即座に体勢を整えて相手は喚きながら斧を振り下ろしてくる。

パンドラを持ち直すルイズはタバサに手を引かれて聖堂横の踊り場の回廊へと飛び上がり、ネロも同様だった。

轟音と共に叩きつけられた巨大な刃は床を砕き、破片を周囲へと飛び散らせる。

「ヒューッ、ずいぶんとご機嫌な奴だな」

ダンテ一人だけその場に残っており、呑気に口笛まで鳴らしながら目の前の相手を眺めている。

対峙する悪魔はダンテが見上げる程の巨体だったが、いびつに歪んだシルエットをしていた。爬虫類を思わせる異形の皮膚に上半身は異様なまでに肥大化し、棘の生えた背骨も大きく湾曲しているし、片手や片足は巨体に相応しい程に発達しているのに、反対側は逆に細い。

 

――ウォオァァァアアアアアッ!!

 

ダンテ目掛けて振り下ろされた斧を本人は避ける素振りすら見せない。

そればかりか両手を腰に当てて迫り来る悪魔を面白そうに見上げるばかりだ。

 

――ガキンッ!!

 

「げ……!? 嘘だろ……!」

ネロだけでなく、ルイズも目を疑った。

重い衝撃音を響かせて悪魔は大きく後ろによろめいたのだ。

ダンテはネロと同じように右腕を眼前で構えている。当たる寸前に構えられた腕は、あの強烈な斧の一撃を難なく弾き返したのである。

ネロのように籠手を装着するならまだしも、生身であっさり受け止めた。それは人間ではまず不可能な芸当だった。

(やっぱり、スパーダの技だわ)

スパーダも同じように片腕一本で敵の攻撃を無傷で防御することができる。

ダンテが使ったのはそれと全く同じものであることがルイズには判った。

 

――ウォオァァァアアアアアッ!!

 

だが悪魔はやはり少し怯んでもすぐに体勢を立て直して攻撃を再開してくる。

三度振るわれた巨大な斧の一閃を、ダンテは跳躍してかわすとそのまま三人の元までやってきた。

「やれやれ、実に元気な野郎だね」

ストンと手すりに直接腰掛けるダンテは肩を竦めて苦笑していた。

「坊主、あいつの斧はお前さんのと同じだぞ。一発でも喰らったらミンチだ」

デルフの言う通り、悪魔の斧にはイクシードの機構が備わっている。

両刃の中心にある丸い装置がそれで、よく見るとブースターが上下に風車のように複数取り付けられている。

あの巨大さに加えてイクシードによる加速にも振り回されず操るとは、悪魔は相当な剛力であることは確かなようだ。

 

「何だ。お嬢ちゃんのそいつは、喋れんのかい?」

声を発したルイズのアミュレットにダンテは目を丸くした。

「おうよ。話は後だ! てめえも手伝いやがれよ、不良中年」

「おいおい、中年とは聞き捨てならねえなぁ。俺はまだ40にもなってねえぜ?」

小さく笑いながらそう言いつつもダンテは背中のリベリオンを抜き放っていた。

「く、来るわよ!」

一気に高く跳躍してきた悪魔はそのまま一行を跳び越えて踊り場へと着地していた。

ぐるりと振り向きだす悪魔は斧を正面に構えだす。

荒々しく繰り返される呼吸はまるで野獣のようだ。

「かかってきやがれ! ぶった斬ってやらあ!」

ルイズとタバサが杖を構える中、デルフの叫びと共にルシフェルを肩に装着したガンダールヴの魔人が浮かび上がる。

横目でそれを見たダンテは軽快に口笛を吹いていた。

 

ネロは迫り来る悪魔を見据えながら右腕のギルガメスに備えられた閻魔刀に手をかけようとした。

「……え?」

「どうしたの」

杖をかざすタバサはちらりとネロの方を見やった。

悪魔の顔を睨むネロの表情は愕然と歪んでいるのが判る。

巨体に反して悪魔の頭部は小さく、髪は完全に色が抜け落ちた人間のものがぽつんと生えていた。

「ジョシュ……ジョシュなのか……?」

赤く染まり、血走った悪魔の瞳に理性などというものは存在しない。

だがネロはこの悪魔の顔に覚えがあった。

一ヵ月前、悪魔との戦いで命を落とした同僚の一人。教団の工作でその死を隠蔽され、存在そのものが無かったことにされた男。

口から鋭い牙を伸ばし、変わり果てた姿になってもネロはかつての仲間の顔を見間違えなどしなかった。

 

――ウォオァァァアアアアアッ!!

 

かつてはジョシュだった悪魔は呻き声のような絶叫を上げながら斧を薙ぎ払ってきた。

「おっと!」

ガンダールヴの魔人とダンテが各々の剣で同時に受け止め、刃はピタリと止まる。

『エア・ハンマー!』

ルイズと杖を重ねたタバサは一際強化された突風の槌をみぞおちへと叩き込んだ。ジョシュだった者は軽く仰け反って数歩後ろによろめくが、そのまま振りかぶった斧を振り下ろしてきた。

一行は辛くも下へ降りたため、斧の刃は手すりを一刀の元に両断し粉砕するだけだった。

だが、相手はすぐに軽々と跳躍して階下へと降り立ち、追ってくる。

 

――ウォオァァァアアアアアッ!!

 

悪魔が目に付いたのはルイズとタバサだった。

「きゃっ!?」

タバサはルイズを横に突き飛ばすと、振り下ろされた斧を反対に跳んでかわす。

だがジョシュだった者はイクシードの騒音を鳴らし、炎を噴かす斧を豪快に振り回しながらタバサへの追撃を緩めない。

フライの魔法で低く跳躍しながら逃げ回るタバサは怒涛の勢いで斧を振り回し、迫る巨体に反撃すら儘ならない。

その見境のなさは、さながらバーサーカーのようだ。

 

「やめろ! ジョシュ!! やめてくれ!!」

聖堂内を破壊しながらタバサを追い回す巨体に向けてネロは必死に叫んだ。

うずくまるルイズの後ろでダンテはリベリオンを肩に乗せたまま成り行きを見届けている。

「坊主。気の毒だが、あいつぁもう生ける屍なんだぜ。あのクソ眼鏡の操り人形なんだ」

デルフの言葉にネロは歯を食い縛り絶句する。

スパーダが目を通したアグナスの資料には教団騎士の死体を素材に帰天実験を行ったとあった。その素体に使われていた名前に〝ジョシュ〟という一文があったのをデルフも見ていたのだ。

「帰天とかいう馬鹿げた儀式に失敗すると、ああなっちまうって訳だ。あいつは元から死体だったみてえだがな……」

「ひどい……」

ルイズも思わず口を手で覆って顔を顰めた。

元は人間――しかも死体を悪魔に変えてしまうだなどと、アグナスは常軌を逸している。

フォルトゥナ城の地下で目にした悪魔に憑依された犠牲者以上に残酷でえげつない。

 

「……せめて、楽に仕留めてやるしかねえな」

小さく吐息を零したダンテの顔から笑みが消える。

荒れ狂う……というより暴走しているに等しい悪魔に追い回され続けるタバサはどうにかしてこちらに矛先が向かないようにしているが、あのままではジリ貧も良い所だ。

いくらタバサが魔法を叩き込んだ所で僅かに鈍るのみで物ともせず、勢いのままに暴れ続けている。

「タバサ!」

振り下ろされた斧をタバサは後ろに跳んで軽々とかわした。が、悪魔は即座に斧を突き出してきた。

咄嗟に杖を正面に構えるタバサだったが、激突した衝撃はあまりに強く、そのまま一直線に柱まで吹き飛ばされてしまった。

 

――ウォオァァァアアアアアッ!!

 

悪魔は間髪入れずに叩きつけられようとするタバサへ突進する。

「危ない!!」

咄嗟にルイズはケブーリーの銃を構えて引き金を絞った。

「そら、行けぇ!!」

ガンダールヴの魔人がデルフの叫びと共に、両手にルシフェルから引き抜いた無数の赤い小剣を一斉に悪魔へと投げ放つ。

ニードル弾と共に横腹に突き刺さった途端、一斉に炸裂して悪魔の巨体を揺るがした。

だがやはり、どれだけ肉体が傷を負おうと一瞬だけ怯むのみで目の前の敵を粉砕すべく足を止めようとはしなかった。

 

――ウォオァァァアアアアアッ!!

 

「もうネンネしなよ。楽になりたいだろ?」

雄叫びと共に振り下ろされた斧はタバサには届かなかった。

間に入ったダンテが両手でかざしたリベリオンの刀身が受け止めていたのだ。

ギリギリと音を立てて斧の刃が押し付けられるが、ダンテは苦も無くその場で踏ん張っている。

「……ちきしょおおおおおおおっ!!」

絶叫と共にネロは駆け出していた。

背中のレッドクイーンの柄を捻り、イクシードを起動させると悪魔の横から飛びかかる。

けたたましい轟音を鳴り響かせて、炎に包まれたレッドクイーンの刃が豪速で振り下ろされた。

 

 

静まり返った聖堂には悪魔の躯が大斧と共に横たわっていた。

首を失った巨体は僅かに痙攣をしており、切り口からはドロリとした血が垂れている。

あれだけ暴れ狂っていた悪魔の躯の前で、ネロは立ち尽くしていた。

「すまねえ、ジョシュ……俺には、こうすることしかできないよ……」

かつての仲間の変わり果てた姿を見下ろして、ネロは力なく詫びていた。

別に親しい友人でもなかった。顔を合わせればいつも他の取り巻きと一緒にネロに因縁をつけるような相手だった。

それでも仲間には変わりなく、しかも自分と同じ孤児院の出身だった者が無残に命を落とし、挙句の果てにこんな醜い姿に変えられてしまうなど、悲惨でしかない。

ジョシュだった者の躯は徐々に骨ごとドロドロに溶けていき、やがて跡形もなく消え去ってしまう。

「またかよ……また、俺ばかり……」

結局、ネロは頼まれもしないのにかつての仲間を人知れず始末するという汚れ仕事をこなしてしまった。

しかも今度は一度命を落としたはずの者を、また手にかけたのだ。

教団の悪行のツケを、ネロ自身が払わせられる破目になるなど馬鹿げているとしか言えない。

 

「ネロ……」

後ろではルイズ達が肩を落とすネロの背中を見つめている。

ダンテは一番後ろで腕を組んだまま、目を細めていた。

「ダンテ……悪いが、あんたにこの刀は渡せない……」

振り向きもしないまま、ネロは右腕を横にかざした。

ギルガメスの籠手に装着された閻魔刀は結局、今の戦いでは使わなかった。

この強力な武器を、かつての仲間に対して振るいたくはなかったのである。

「一時間……いや、三十分だけでいい……この刀を俺に貸してくれ……」

ひょんなことから手にしてしまった強大な力。それは倒すべき敵に対して使うべきだとネロは決めていた。

そして今、ネロにはどうしても自らの手で倒したい敵がいる。

たとえ正当な持ち主がいようと、倒すべき敵を倒すまで、この力を手放したくはなかった。

 

「いいぜ。持っていきな」

ネロの懇願にダンテはあっさりとそう言い放った。

「は?」

振り向いたネロも、ルイズも呆然とダンテを見つめる。

つい先ほどまでは返せと言っていたのをあっさり覆した赤い男は、笑みまで浮かべていた。

「何、シケた顔してんだ? それが必要なんだろ? なら、そいつと一緒に持っていけよ。あの爺さんに、お前の鬱憤をたっぷりぶつけてやんな」

おまけにギルガメスまで持って行って良いときた。

ネロの意図を汲み取ったらしいダンテの瞳には、強い信頼の思いが込められていた。

 

「ずいぶん気前が良いわね」

「仕事道具は一個もありゃ、遊ぶには充分なんでね」

そう言いながらダンテは箱を片手で軽く掲げてルイズに見せつける。

「あ……」

いつの間にか足元に置いていたパンドラの箱はダンテが手にしていたのだ。

「そいつを代わりにってことかい? 抜け目ねえな。不良中年」

「俺はまだ中年じゃねえ」

デルフの冷やかしにダンテは片眉を吊り上げて苦笑すると、いまだ呆けたまま突っ立っているネロに歩み寄って軽く肩を叩く。

「そういう訳だ。早く爺さんの所に行ってきな」

肩越しに聖堂の奥の方を指差し、ダンテはパンドラの箱を肩に担いでいた。

「ダンテはどうすんのよ?」

どうもダンテは自分達と一緒に同行してくれる訳ではないことをルイズは察していた。

「俺はちょっと、お客さんを相手してやるさ」

そこまでダンテが言った所で、タバサはハッと頭上を見上げた。

ダンテが見上げていた高い天井の一点が突如として突き破られ、何か大きな影が落ちてきたのである。





今回登場した悪魔は、バイオハザード・コードベロニカからのオマージュとなります。
デビルメイクライ5でアグナスがウロボロスの研究員だったという設定を引用して脚色を加えました。
次回も同様にバイオハザードからのオマージュになります。

作品の良かったところはどこですか?

  • 登場人物
  • 世界観
  • 読みやすさ
  • 話の展開
  • 戦闘シーン
  • 主人公の描写・設定
  • 悪魔の描写
  • 脚色したオリジナル描写・設定
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