魔剣異聞録~The Legendary Dark Slayer/Zero   作:月に吠えるもの

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Another Mission <スパーダの秘策-Tyrant> 40章

「おおっ!?」

デルフが素っ頓狂な声を上げる中、ネロとタバサはサッと身構えだす。

聖堂の中央に落ちてきたのはたった今、二度目の死を迎えたばかりのジョシュにも劣らない巨体だった。

前屈で腰を落としていたジョシュと違って直立しているので余計に大きく見える。

「何……? 人間なの……?」

佇んだまま沈黙している巨人を見上げてルイズは顔を顰める。

分厚いコートのような暗いローブを纏い、フードを目深く被っている。そのフードの下からは厳つそうな男の顎が覗けていた。

「んな訳ねえだろ。こいつもあのクソアゴ野郎の精鋭とやらだぜ」

罵詈雑言と共にデルフは言い放ち、ガンダールヴの魔人が再びルイズの背後に浮かび上がった。

それに反応するように、巨人はゆっくりと一歩を踏み出してきた。

「エア・ハンマー!」

タバサが杖を振ると、巨人の胸元に分厚い突風の槌が叩き込まれる。

「……っ」

だがジョシュの時と違い、巨人は微動だにすらせず地響きのような足音と共に迫ってくる。

呻き声一つ上げない巨人の被っていたフードは今の突風で剥がされ、素顔が露わになっていた。

 

「騎士の誰かじゃねえな……」

ブルーローズを構えていたネロは怪訝そうに眉を顰める。

スキンヘッドで彫りの深い強面をした中年男性の素顔をした巨人の肌はまるで彫像のように灰色で、瞳がない白目には理性はおろか、生気すら宿っているようには見えない。

「こいつぁ、人造人間(ホムンクルス)らしいな。教団の新兵器にしようとしてたみたいだぜ」

「馬鹿げてやがる……」

デルフの言葉にネロは吐き捨てるように呻いた。

今更な話ではあるが悪魔を憎み、駆逐すべきはずの魔剣教団がその悪魔を兵器として自ら利用しようとするのでは元も子もない。

鎧騎士や武器と融合した悪魔に加え、こんなあからさまな人造悪魔まで生み出すなど、狂気の産物以外の何物でもなかった。

「じゃあ、遠慮はいらないわね!」

「おうよ!」

ルイズはケブーリーを構えるなり、ニードル弾を無数に拡散させて発射する。

魔人が一斉に投げるルシフェルの小剣と共に放たれたニードル弾は巨人の胸、腕、腹とありとあらゆる箇所に突き刺さっていく。

一歩ずつ鈍重に迫ってくる巨人との距離は10メートルは開いている。起爆しても問題はないはずだ。

 

「……っ!」

無数のニードル弾と小剣が一斉に爆発したその余波は、ルイズ達の元にまで届いてきた。

爆発と煙に包まれた巨人は姿が見えなくなったが――

「え……!?」

煙の中から突如影が飛び出てきて、巨人の強面が一直線に迫ってきたのだ。

「避けろ!」

ルイズが呆気に取られる暇もなく、タバサはネロの叫びと共にルイズの手を引いて飛び上がった。

ダンテも含めて一行は空を切る音を重く響かせ腕を薙ぎ払ってきた巨人から大きく距離を取る。

「見ろよ、娘っ子。あれが奴の正体だぜ」

巨人はたった今の爆発のためにローブが全て千切れ飛んでいた。

一糸纏わぬ灰色の肌が露わになり、巨体に相応しい筋骨隆々な肉体のシルエットは肥大し歪んでいたジョシュとは違って人間らしい。

だがやはり悪魔だった。胸板や四肢はゴツゴツとした黒い岩のような分厚そうな外殻で覆われ、特に両腕は肩に至るまで肥大化し、肘からは鋭いトゲが突き出ている。

さながら鎧を装着しているようだ。

 

(こ、怖い……)

巨人のゴツイ顔ははっきり言って怖い。

その威圧感はルイズが思わず息を飲んでしまう程だった。

ジョシュのような激しさや獰猛さは微塵も無いというのに、あちらよりも遥かに怖ろしく感じてしまう。

そんなルイズを尻目にダンテは迫り来る巨人を顎を摩りながら眺めて唸っていた。

「掃き溜めにしちゃあ、ガッツがありそうな奴だな」

「んなこと言ってる場合じゃねえだろ!」

呑気に笑っているダンテにネロは思わず顔を顰めた。

ブルーローズを数発発砲して巨人の顔面を狙うが、まるで身じろぎもしない。

タバサもウィンディ・アイシクルで氷の矢を次々と放ったが、巨人には蚊が刺した程でしかなく、足は止まらない。

「ちっ……」

ブルーローズをしまったネロはギルガメスの閻魔刀に手をかけ、抜き放とうとする。

「待ちなよ、坊や」

「何だよ」

だが、ダンテはリベリオンを抜き放ってネロの前にかざして制してきた。

「お前さんがそいつでぶっ倒すのはこんな雑魚なんかじゃないだろ?」

「……」

ちらりとダンテはネロが抜きかけていた閻魔刀に視線をやると、憮然としている本人の顔を見て小さく笑った。

「行きな。三人で仲良く、爺さんを叩きのめしてこいよ。あいつは俺の獲物だ」

「……判ったよ」

確かにこんな所で足止めを喰らっている訳にはいかない。

ダンテの言わんとしていることを理解し、ネロは閻魔刀を収めると振り返って南棟に向けて駆けだしていた。

 

「ま、待ってよ!」

ルイズも慌てて、すぐ後に続いて行ったタバサを追って走り出す。

一人残されたダンテは肩越しに聖堂の奥へ走っていった三人の少年少女達を見送ると、迫ってくる巨人の方を振り返った。

「来な、フランケン野郎。遊んでやるぜ」

リベリオンを軽く掲げながらダンテは挑発する。

目前にまで迫っていた巨人はピタリと足を止め、今までずっと閉じていた握り拳の右を眼前にかざしだす。

指の付け根から関節、手の甲と至る所から次々と鋭く太い爪がスパイクのように生えだしていた。

 

 

フォルトゥナの市街地にそびえ立つ地獄門は広場の真ん中に位置している。

由緒正しき観光の名所である巨大な石板の真下で、スパーダは腕を組みながらじっと見上げていた。

ネロから託されていたキリエの身柄は宿に預けてあり、もうしばらくもすれば目を覚ますはずである。

宿の主人は運ばれてきたキリエに大層驚いていたが、ネロに頼まれたことを告げるとすぐに納得してくれた。

 

――まさか……トニオか?

 

――そういやあ、帰天の儀式に志願した騎士が二人いたって書いてあったな……。もう一人はサガンって奴だったはずだけどよ……。

 

――何だと!? それじゃあ、こっちの檻の奴が……!?

 

脳裏ではそのネロやデルフの声がざわめいている。

教団本部の奥を探索しているルイズ達はどうやら教団の狂気による犠牲者達を隔離している施設を訪れている様子だった。

 

――ちきしょう……何でだよ。お前ら、何でこんなことを……。

 

スパーダにはぼんやりとしか向こうの様子が届いてはこないが、動物を入れるような狭く小さな檻の中で蹲っている影の姿が映り込んでいる。

かつての仲間達の無残な変わり様にネロはまたも大きなショックを受けており、その場でへたり込んでいた。

 

――しっかりしなさいよ。みんなの仇を討つんでしょう?

 

――ああ……奴だけは絶対にぶっ飛ばしてやる……!

 

ルイズの叱咤を受けるネロはギルガメスを装着する右手を固く握り締め、強く震わせていた。

 

(危ういな……)

ネロ達がこのまま教皇を仕留めることができるかは五分五分といった所だ。

教皇も帰天をしている以上、アグナスやクレドと同じように悪魔の力を行使できる。しかもあの二人よりも強い魔力を秘めている。

教皇を歌劇場で目にした時、その身に宿すであろう魔力はネヴァンほどの上級悪魔とも肩を並べられるだろうとスパーダは踏んでいた。

 

(奴がいてくれれば良かったがな……)

自分と入れ替わるようにネロ達は赤いデビルハンターと鉢合わせをした。

あのダンテとは共闘できるはずだったが、結局はネロ達と別行動することになってしまった。

あの人造悪魔をダンテがとっとと始末すれば問題ないが、それを期待することはできそうもない。

ダンテの実力ではなく、余裕過ぎる態度が問題なのだ。十中八九、あの刺客を相手に戯れるであろうことが想像できた。

 

「……保険はかけるか」

小さく溜め息を漏らしてスパーダは閻魔刀を抜き放つ。

周りに人はおらず、足元を斬り裂いて時空の穴を開いたスパーダはその中へと飛び降りていった。

敵が愚劣な策謀を巡らせてきた以上、ネロ達がその罠にかからないとは言い切れない。

何より、ちょっとした意趣返しは必要だ。

 




今回登場した悪魔もバイオハザードからのオマージュとなります。

本編でネロとダンテが戦った後、ダンテが教皇戦に乱入してくるまでの空白を補完する目的でダンテの戦闘シーンを用意しました。

作品の良かったところはどこですか?

  • 登場人物
  • 世界観
  • 読みやすさ
  • 話の展開
  • 戦闘シーン
  • 主人公の描写・設定
  • 悪魔の描写
  • 脚色したオリジナル描写・設定
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