魔剣異聞録~The Legendary Dark Slayer/Zero   作:月に吠えるもの

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Another Mission <ダンテの激闘-Fierce Pursuit> 41章

 

大聖堂内部の破壊は著しく激しさを増していた。

先の悪魔化したジョシュが暴れ回った時以上に、巨人の拳の一撃は床を穿いて砕き、太い柱を丸ごと吹き飛ばしていく。

「~~~~っ」

巨人の繰り出した大振りの右フックをダンテは左腕一本で受け止めていた。

「……こりゃ効くな」

苦笑しながら渋い顔を浮かべ、後ろへ跳ぶと左手を軽く振るった。

魔力を瞬間的に集中し肉体を硬化させたので無傷ではあったが、衝撃は左腕全体に響き渡り痺れてしまいそうだった。

先程の悪魔が振るった機械仕掛け(イクシード)の斧による豪速の刃よりもさらに強烈だ。そう何発も直撃を受け止めていては、さすがにしんどくなりそうである。

「ま、坊やのアッパーに比べりゃ、まだまだだがな!」

歌劇場で喰らわされたネロの渾身の一撃をダンテは思い起こす。

正直な話、あれはかなり効いた。心臓を剣で貫かれた時よりも珍しくダメージが残って、頭がふらつくのが数時間も収まらなかった程だ。

今はギルガメスを装着しているが、あの時はそんな物などなかった。あの右腕がただの腕ではないことを、ダンテはその時に初めて悟ったのだ。

ギルガメスを装着した今ならば、どれ程の破壊力が発揮できるのか正直、興味がある。

 

「……おっと!」

鈍重に歩み寄ってきた巨人は不意に一気に踏み込み、薙ぎ払うように裏拳のラリアットを繰り出してきた。

紙一重で屈んでかわし側面に回り込んだダンテは片手に持ったままのパンドラの箱を変形させる。

上下二つに割れた箱の中心に備わった小型のガトリング砲が、高速で回転しながら大量の銃弾を連射していった。

「タフな奴だな……」

全身に浴びせられた銃弾の雨は容易く弾かれ、ビクともしない。

先程も愛銃のエボニー、アイボリーを顔面に集中してみせたがまるで手応えがなかったのが実に癪だった。

大抵の悪魔は愛剣であるリベリオンを使うまでもないのだが、それが通じないとなればこの巨人は人工的とはいえ生半可な悪魔ではないことを意味している。

 

「うおっと……!」

振り向き様にハンマーのように叩きつけられた巨人の拳をダンテは横に転がってかわした。

床を大きく砕く中、ダンテはコートの裏から水平二連式のショットガンを取り出し、寝転んだ態勢のまま巨人の脇腹目掛けて散弾を叩き込む。

「やっと少しは効いたか?」

〝コヨーテ・(エース)〟と名付けているショットガンはダンテが自らカスタマイズを施した代物だ。以前からマガジン装填式の水平二連ショットガンはよく使っていたが、これはダンテが個人的に対悪魔用に調整した物である。

大口径のシェルが二発同時に発砲され、大量の散弾が至近距離からぶち込まれたことで巨人はようやく僅かに身じろぎをしたが、それだけだ。

大抵の悪魔は巨体であっても衝撃に耐えられずに吹き飛ぶか大きくよろめくというのに、巨人の強靭な肉体には大した効き目にはならない。

 

 

【挿絵表示】

 

 

「トカゲちゃんの真似ごとか?」

跳ねるように起き上がると巨人が左腕を払うように軽く素振りするのを見てダンテはニヤリと微笑む。

右腕以上に肥大化した外殻に包まれた左手の爪が右手以上に長く伸びだす。ついには床に届きそうな程に鋭い鉤爪と化していた。

ミティスの森や過去にも幾度か遭遇したブレイドと同種の悪魔達は皆、一様に鋭い爪を有していたが、この巨人の爪はそれらよりも遥かに大きい。

人間の体など容易く八つ裂きにし、貫いてしまうことだろう。

 

「慌てんなよ。今、良いものをくれてやるさ」

右腕よりも速い爪の素振りをかわし、後ろに大きく跳躍したダンテはコヨーテをしまい、パンドラを今度は大きく変形させると肩に担ぎだす。

三つの砲門を備えたバズーカのようになったパンドラの狙いを、迫り来る巨人へと真っ直ぐ定める。

「Fire!(発射!)」

ランチャーから一斉に三発のミサイルが束になって放たれ、炎と煙の尾を引きながら巨人へ突き進んでいった。

「お?」

直立しながら歩んでいた巨人は突如腰を落とすと身構えだし、左の爪を薙ぎ払い出した。

目前に迫っていたミサイルは全て一斉に弾かれ、明後日の方向へとバラバラに飛んでいってしまう。

壁や柱に命中したミサイルが激しい爆発を起こし、大聖堂を揺るがした。

 

「……結構とっておきだったんだけどな」

ダンテはパンドラを元の箱に戻すと頭を掻いていた。

「やっぱり、剣で相手しないといけねえか……」

どうにも飛び道具は分が悪いことがハッキリした。銃弾はまだしもミサイルすら正面から難なく捻じ伏せてしまうとは、この人造悪魔の戦闘能力はダンテの想像を超えているようだ。

単なる有象無象の悪魔とは大違いである。

「……気に入ったぜ。掃き溜めにしておくのは勿体ねえな」

満足げに微笑んだダンテはパンドラを光に収めてしまうと、背中のリベリオンを抜いて肩に担ぐ。

自我を持たない巨人はダンテが何を口にしようが沈黙を保っている。

教団に植えつけられているであろう命令――即ち目の前の敵を抹殺することのみを黙々と実行するだけの戦闘兵器(マシーン)ほど厄介なものはない。

かつてマレット島で三度に渡って死闘を繰り広げた悪夢(ナイトメア)のように、戦闘にのみ特化した悪魔は本気を出さねばダンテですら遅れを取りかねないのだ。

何より、からかい甲斐が無いのが面白くない。

 

「よっと!」

巨人は深い前傾姿勢で陸上選手さながらの完璧なフォームで駆け込み、一気にダンテ目掛けて突っ込んできた。

右フックと袈裟に振り上げられた爪の連撃が後ろにステップを踏みながら体を逸らすダンテの鼻先をギリギリ掠めていく。

巨人の身に宿る魔力の影響か、豪速の攻撃は爪から赤い残像の軌跡を残していた。

「いいねえ。こんなにガッツのある相手とやり合うのは久しぶりだ」

巨人は怪力しか能が無いものの、瞬発力や反応速度にはダンテも目を見張るものがある。

ダンテが僅かな隙を突いて繰り出したリベリオンの反撃にも反応してきて打ち返す程だった。

かつてマレット島で幾度も戦った黒い騎士(ネロ・アンジェロ)のように小細工なしの真っ向勝負を仕掛けてくる相手は単純な力勝負だけで打ち勝つのは困難を極める。

如何に僅かな隙を見つけ、そこを攻めるかの駆け引きが勝敗の決め手となるのだ。

 

「あらよっ!」

豪速の右フックをダンテは巨人の肩を器用に片手だけで乗り越えてかわし、背後に回り込む。

「うおっ……!?」

だが巨人は突如巨体を反転させてスピンしながら左手を水平に薙ぎ払ってきた。

その瞬発力にはリベリオンで防御するのが僅かに遅れ、巨大な水平チョップがダンテの腹にめり込む。

「おー痛てて……」

一気に十メートル近くも床を滑らされて吹き飛んだダンテは軽く脇腹を摩って渋い顔を浮かべていた。

そのまま振り向いていた巨人は休む間もなくさらなる猛攻を仕掛けてくる。

陸上競技のスタートダッシュのような姿勢で低く踏み込むと滑走するように跳躍し、一気に突進してきたのだ。

振り上げられた巨大な爪は火花を散らす程に床を削りながら迫ったが、ダンテは後ろに大きく跳んでギリギリで回避していた。

 

「さて、どうしたもんかね……」

困ったように苦笑しながらダンテはリベリオンを担いだ。

教団が生み出した人工の悪魔ではあるものの、その戦闘能力はそこらの雑魚悪魔など比較にならない。

休みなく猛攻を仕掛けてくる上に機械のような動きの精密さに瞬発力、パワー、耐久力と戦闘能力は完璧だ。

こちらから攻撃を打ち込もうとしても超反応で打ち返してくるので、始末に負えない。

「と、なりゃあこいつをぶっ倒すには……」

顎に手を当てて考え込んでいる内に巨人は目前にまで迫っていた。

一瞬にして左の爪を突き込んできたが、ダンテはそれを紙一重でかわし――

「オラアッ!!」

閃光が煌めき、凄まじい衝撃音と共に巨人は大きく後ろによろめき仰け反っていた。

巨人の攻撃に合わせ、腹部に繰り出されたボディブローが巨体を吹き飛ばしたのだ。

徒手空拳の防御の際に受けた衝撃を一時的に蓄え、その力を一気に解放(リリース)する。特にカウンターの要領で叩き込めば相手の推力も相乗してその破壊力は一層強くなる。

その気になれば大抵の悪魔はこれだけでも粉々にできるのだが、巨人はダンテの渾身の一撃に耐えていた。

 

「悪いが、そろそろ遊びは終わりにさせてもらうぜ」

ぼやきながらもダンテはリベリオンを引き絞るように身構えだす。

その目付きはそれまでの軽薄さとは打って変わって本気になっていた。

リベリオンの刀身を徐々に赤いオーラが包み込み、その濃さは増していく。

ダンテにとっての奥義の一つだが、最大にまで威力を発揮させるには魔力をさらに剣に込める必要があった。

そのためには時間がかかり、巨人の猛攻を前にしては使う暇も無かったが、今だけがそのチャンスである。

数メートルもよろめいていた巨人はようやく体勢を立て直すと、即座にダンテ目掛けて突っ込もうとしてきた。

「Sweet Dream!!(ネンネしな!!)」

一気に振り上げられたリベリオンの刀身から、赤く巨大な剣風が床を駆け抜けて巨人へと突き進んでいく。

避けようともしない巨人は紅蓮の奔流の中に飲み込まれていった。

 

 

「やれやれ……意外と手間取っちまったな」

ダンテは肩を揉みながら首を動かし、軽いストレッチを行っていた。

衝撃波をまともに喰らった巨人の肉体は一撃で粉砕され、四散した肉塊が無残に散乱している。

このフォルトゥナを訪れて歯応えのある相手とやり合うのは実に三度目だ。それなりに息抜きにはなった。

その内である三人の少年少女達は今頃、教団本部の奥に向かっているはずだろう。

先に潜入していたダンテは大方調べ回ってはいたものの、一番奥の方までは済んでいない。教皇がいるとすれば、間違いなくそこだ。

 

「あなたを手こずらせるなんて、アグナスの自信作も中々だったみたいね」

突然響いた女の声にダンテはゆっくりと踊り場の方を見上げだす。

いつの間にかそこには女が一人、手すりに腰かけていた。

巨人と戦っている最中に新たな気配をダンテは察してはいたが、相手が相手だけに気にすることもなかったのだ。

下に降り立った白髪の女――ネロ達も出会ったグロリアをダンテは目を丸くしたまま眺めていたが……。

「……アッハッハッハッハッ!!」

突然、吹き出すと膝まで叩いて爆笑しだす。

聖堂内にはダンテの笑い声がよく響き渡っていた。

「この格好、そんなに変かしら?」

グロリアはきょとんとして肩を竦めだす。

ダンテはいつまでも笑い転げていたが、徐々に治まっていくと満面の笑顔を彼女へ向ける。

「いいや、似合ってるぜ。しかし、教団の連中には目に毒だな、そりゃ」

「そうかもね」

と、グロリアは脇から大きな暗幕を自分の目の前に広げると己の姿をダンテの視界から遮りだす。

幕が落ちると、その姿は全くの別人へと様変わりしていた。

肌から髪に至るまで何もかもが違う黒のビスチェを身に着けた女は、その手に二丁の拳銃を携えている。

 

「あら。結局それは回収したのね」

金色の長髪を揺らすグロリアことトリッシュはダンテの足元に置かれたパンドラの箱に視線を落として目を丸くした。

「他の奴も全部引き上げてくれたぜ。あの坊やや嬢ちゃん達がな」

パンドラの箱を肩に担ぎながらダンテは聖堂の奥へ親指を差す。

「閻魔刀は返してもらわなかったの?」

ダンテとネロが遭遇したことを悟ってトリッシュは意外そうに首を傾げだす。

「ちょっとだけ貸してやった。見込みはありそうだったもんでね」

と、小さく笑いながら述べたダンテはトリッシュと肩を並べて歩き出す。

「それでどうだ? 教団の秘密は全部分かったのか?」

「いいえ。でも、一つだけハッキリしたのは、本部の一番奥に〝神〟っていうのがあるらしいわ。魔剣スパーダもどうやらそこに運ばれたみたい。その〝神〟とかいうのを動かすのに、魔剣スパーダとスパーダの血が必要なんですって」

「どうりで探しても無い訳だ」

苦笑しながらダンテは頬を軽く指で掻いた。

わざわざ魔剣スパーダという大きな餌で釣ってやったというのに、一番重要な所は掴めなかった。

それは教皇がトリッシュのことを本心からは信用していなかったからに他ならないだろう。所詮、教団にとって彼女は余所者に過ぎないのだ。

(甘く見過ぎたか?)

トリッシュは教団の幹部として潜り込んで内偵をしたものの、何だか逆に利用されたような気分で、ダンテは少しだけ不安を感じ始めていた。

教団の〝神〟とやらが動き出す二つの鍵は揃いかけている。

魔剣スパーダは連中の手元にある上、スパーダの血も近づきつつあるのだから。

 

「それでどう? デビルハンター、〝(ディー)〟とは会えたの?」

「いいや、ニアミスしちまったみたいだ」

溜め息交じりに答えるダンテにトリッシュはクスリと笑いを漏らした。

(ディー)〟なるデビルハンターと顔を合わせるのをダンテは内心楽しみでもあり……半ば不安でもあった。

「顔は一応隠しておいた方が良いかしらね」

言いながらトリッシュは何処からともなく取り出したサングラスをかけだす。彼女の数少ないお洒落である。

「それが良いぜ」

同意したダンテだがその表情は僅かに深刻だった。

彼女は二つの意味で〝(ディー)〟に顔を合わせない方が良いだろう。

世界は違っても、父が愛した女と同じ顔なのだ。万が一にでも驚かせ、怒りを買うことがあってはならない。

(親父はやっぱり怒ってんだろうな……)

自分にぶつけられた桃色の髪の少女の怒りの叫びをダンテは思い起こす。

その激高こそがダンテの予感を示唆していた。

 

作品の良かったところはどこですか?

  • 登場人物
  • 世界観
  • 読みやすさ
  • 話の展開
  • 戦闘シーン
  • 主人公の描写・設定
  • 悪魔の描写
  • 脚色したオリジナル描写・設定
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