魔剣異聞録~The Legendary Dark Slayer/Zero 作:月に吠えるもの
降臨の間と呼ばれる教団本部の最奥部は教団幹部の一員であっても、教皇が認めた者でなければ通ることを許されない。
入口は隔壁のように分厚く大きな扉によって閉ざされているはずだったが……。
「――Crash!!(ぶっ飛べ!!)」
轟音と共に突き破られ、バラバラに砕け散っていた。
立ち込める粉塵の向こうでは三人の男女達が立ち尽くす。
「おお、一発か。やるじゃねえか坊主」
「すごい破壊力……」
呆然とルイズは右拳を突き出したままでいるネロを見つめていた。
「地獄門よりは固かったな……」
ギルガメスで覆われた右拳を見つめながらネロは小さくしたり顔を浮かべる。
教団本部の奥へと進み入ってきたネロ達三人は会議を行う円卓の間を越え、さらに一番奥まで来た所で分厚い扉に阻まれていた。
ネロは右手に装着したギルガメスによる渾身の一撃を叩き込み、見事突破に成功したのだ。
ミティスの森の地獄門を破壊した時のように極限まで力を溜め込み、悪魔の右腕の持つパワーも合わさってその破壊力はまさしく衝撃的である。
「何なのよ、ここ……」
ぶち破った扉の先は上へ続く大きな螺旋階段がある回廊だった。
塔のような場所なのか吹き抜けになっているのだが、その中心にあるものに三人は注目する。
「何だありゃ? 石像か?」
近づいてみると、それは巨大な〝足〟であることが分かった。
回廊の吹き抜けを上に向かって突き抜けている人型の石像のようだが、頂上は相当上の方まであるようで、真下から見ただけでは全貌がよく分からない。
「大っきい……どんだけあるのよ?」
ハルケギニアでは考えられない程に巨大な石像は、ルイズもかつて間近で見た悪魔・アビゲイルよりも数倍はあるだろうと感じられる。
「こんなもんまで造ってやがったのか……」
ネロの見立てでは100メートルには確実に達しているだろうと踏んでいた。
本部の最奥、しかも厳重に閉ざされていた場所にこんな巨大な像を造り上げていたとなると、ただの石像などではないと容易に想像できる。
「きっと、こいつが教団が造ってた〝神〟とかいう奴なんだろうな。何でも、雑魚悪魔共の血と肉を材料にしたんだとさ」
「じゃあ、これも悪魔だって言うの?」
「資料によりゃあ、ざっと数万匹の悪魔を世界中で捕まえてきたらしいぜ」
半ば呆れ気味に語るデルフにルイズも石像を見上げながら唖然とする。
「マジでイカれてやがるぜ……」
けっ、とネロは舌打ちして吐き捨てた。
怖ろしい悪魔に加えて悪魔を呼び出す地獄門まで造り出し、終いにはこんなネロの想像もつかないようなスケールの代物まで築き上げた。
教皇の最終的な目的がロクでもないことであろうことは考えるまでもないだろう。
「きっと教皇の野郎はこの上だ。行こうぜ」
ネロは階段の方へ向かおうとしたが、そこへタバサがコートを掴んで止めてきた。
「一気に上へ行く。掴まって」
「……ま、確かに階段を昇るよりは速いな」
小さく笑いを漏らしてネロはタバサの肩に左手を乗せる。
「あ、あたしもやるわよ!」
慌ててルイズもタバサの手を掴むと、二人は一緒にレビテーションの呪文を詠唱する。
三人の体はふわりと浮き上がり、吹き抜けの塔の中をどんどん上昇していった。
途中、巨象の全身だけでなく回廊の各フロアを一望していくが、色々な装置が置かれている以外、人の姿はどこにもない。
ここが重要な施設であろうことは明らかなのに、あの鎧騎士のような警備さえ一人もいないのだ。
(静かすぎる……)
訝しげにタバサは眉を顰める。
ダンテと別れた後、ここまで来るのは一直線だったので迷うことはなかった。
本部内には人っ子一人おらず閑散としており、何の妨害も受けなかったのでスムーズに来られたこと自体は都合が良かった。
だが、あまりにも簡単にここまで来れたことが逆にタバサに違和感を抱かせていたのだ。
まるで、敵は自分達を誘いこんでいる……そんな疑念も感じる程に不穏な空気なのである。
◆
降臨の間の最上階は天井全体がドーム状の天窓となっており、昼の曇り空が覗けている。
その真下に魔剣教団が造り出した〝神〟と呼ばれる巨神像の頭頂部が迫っていた。
最上階のフロアは巨神像の胸辺りの前に広場が設けられている。
教皇サンクトゥスは巨神像を前にしてその雄大な姿を見上げ、眺めていた。
「……クレドか」
機械の駆動音が響き、振り向くとそこには昇降機から降りる騎士団長クレドの姿があった。
歩み寄ってくるクレドは常日頃からサンクトゥスを前にしても気難しい面持ちをさらに険しくしている。
その表情を見てサンクトゥスは僅かに目を細めていた。
「お前の言いたいことは解っている。妹には手荒な真似をしてすまなかったな。……だが、全ては万全を期すためだったのだ。あの小僧の力は我らの想像を超えているのでな」
取り繕うように説くサンクトゥスだが、クレドはあからさまに納得しかねるといった態度を隠そうとしない。
「全ては我らの楽園のため……より多くの民を救うため、些少の犠牲はやむを得ぬ。辛いだろうが、お前もそのことは重々理解しているであろう?」
そう言って宥めてくるが、クレドは絞り出すように声を発し始めていた。
「私は……あなたの築く理想のために、これまで何でもやってきた……どんなに手を汚そうとも、それでより多くの人々を救えるなら……教徒達を欺くのも厭わなかった……」
キッと射貫くようにクレドはサンクトゥスを睨みつける。それはこれまでサンクトゥスに仕えてきて一度も見せたことのない反抗の意思の表れだった。
「だが、私は妹までも犠牲にするつもりはない……! あなたはキリエを、誰よりも救われるべき無垢なる者を利用した……それだけは断じて許せぬ……!」
声を荒げてクレドは腰のデュランダルの柄へと手をかけていた。
教団騎士の筆頭である騎士団長が教皇へ刃を向ける――そのような狼藉を他の教徒達が目にすれば乱心したと仰天するだろう。
敵意を向けられる当のサンクトゥスは動じもせず、それまでと打って変わった冷たい目でクレドを見返していた。
「小僧の世迷言に惑わされたのか? それとも……あの男か?」
アルト・アンジェロを通してアルブム大橋での出来事を見届けていたサンクトゥスはクレドも反抗するのではと予想していた。
ネロが叫んだ両親の死の真実、何よりあのデビルハンターの戯言に心を迷わされるかもしれないと懸念を抱いたのである。
それは今まさに現実のものとなったのだ。
「……お前の妹は背教徒であったようだが、まさかお前までもそうであったとはな。かつてお前に言ったことも無駄になったか。……残念なことだ」
「何を!!」
軽蔑するように溜め息を零すサンクトゥスにクレドは激昂する。
クレドの両親が亡くなった当時、サンクトゥスは心に迷いを生じさせていたクレドに説き伏せていたのだ。犠牲者が出てもそれは理想郷を実現するために必要なものであり、尊いものであると言い聞かせて。
その説法を受け入れてからのクレドはまさしくサンクトゥスの忠実な右腕として働いてくれた。そのはずだったのだ。
「憶えておくがいい、クレド。我らが信ずるべきは博愛や仁義ではない――」
「っっ!?」
デュランダルを一気に抜き放とうとしたクレドの全身を突如、激しい雷光が包み込む。
サンクトゥスのかざした右手から稲妻の嵐が溢れ出し、クレドに浴びせられかけていた。
「がああああっ!!!」
電撃に激しく悶絶するクレドの体が徐々に上空へ持ち上げられていく。
サンクトゥスはそれまで見せたことのない冷酷な眼差しでクレドを見上げていた。
「絶対的な力……それだけなのだ!!」
もう片方の手を横にかざすと、その中で瞬く間に炎の塊が球体となって浮かび上がりだす。
「クレド!!」
怒声と銃声が共に響き渡り、サンクトゥスの体がぐらりと揺らいだ。
◆
ネロ達三人が吹き抜けから最上階に上がってきた時、真っ先に飛び込んできたのはクレドが教皇によって痛めつけられている光景だった。
反射的にネロはブルーローズを取り出し教皇の背に向けて発砲すると動きが鈍り、クレドを包んでいた雷撃が掻き消える。
「レビテーション!」
宙に浮いていたクレドの体が落下しそうになるとタバサは杖を振り、ゆっくりと地上へ降ろしていった。
「うおおおおおっ!」
イクシードの轟音を鳴らしてネロは一気に駆け込み、ふらついていた教皇に背後から斬りかかる。
薙ぎ払われた豪速のレッドクイーンの刃は確かな手応えと共に教皇の肉体へと刻み込まれていた。
「クレド!」
勢いのままに教皇の横をすり抜けていったネロは二人の少女と共に倒れているクレドへと駆け寄っていく。
「ネ、ネロ……」
息も絶え絶えなクレドは上半身を起こしながら困惑の面持ちでネロを見返していた。
「安心してくれ。キリエなら無事だよ」
言いたいことを察していたネロはクレドの体を抱き起して頷きかける。
実の所、ネロ自身も心配ではあったがここまで来る道中でデルフが別れたデビルハンター〝
「安心するのはまだ早えぜ、坊主!」
「っ!?」
デルフが叫ぶ中、ハッとネロは後ろを振り向いた。
いつの間にか四人の前に青白い光の膜が張り巡らされ、その表面に稲妻の嵐が浴びせられていたのだ。
「い、生きてるわ!?」
愕然と叫ぶルイズにネロも目を疑った。
そこには教皇が健在であり、しかも平然と立ったまま電撃を放ってきているのである。
確かにレッドクイーンの一撃を胴体に叩き込んだはずで、人間だったら一刀両断にされているはず。なのに、教皇の肉体は切り刻まれた形跡すら見られない。
「野郎!」
ネロはブルーローズを構え、教皇の顔面目掛けて何発も発砲する。
全弾が耳、頬、そして額と命中していくが不思議なことに血が出ない。代わりに小さな光の粒が粉のように飛び散るだけだった。
教皇は自分に刻み込まれたネロの攻撃に意にも介さず、ルイズとタバサにちらちらと視線を向けだす。
「……そうか、お前達は古のマギ族の末裔という訳か。よもやこの現代に生き残りがいたとはな」
「マギ族?」
ルイズはきょとんとしながらもタバサと共に教皇へ杖を向けていた。
「だが、失われたルーン文字を知るのなら尚のこと。お前達は我らに仇なす異教徒だ。生かして帰す訳にはいかぬ」
「誰が異教徒ですってぇ!? あんたこそ、悪魔に魂を売った邪教徒じゃないの! あんたなんか助けなきゃ良かったわ!!」
憤慨するルイズだが、教皇は気にも留めず逆にせせら笑った。
「異教徒の助けなど元より必要としてはおらぬ。私は既に天使として人を超えた身……あの時、ダンテの手にかかろうと何も問題はなかった」
だがそれは単なる負け惜しみにしか三人には聞こえなかった。
恩知らずな老人はちらりと後ろを振り返り、巨神像を見上げだす。
「我らの〝神〟は今日、ここに完成する。その暁にはダンテもお前達異教徒もまとめて滅してくれよう」
「何が〝神〟よ。こんなゲテモノをスパーダと一緒にしないでちょうだい!」
「同感だ。てめえの悪趣味なんぞに付き合う気はねえよ」
ネロもルイズも吐き捨てるように言い放った。
教皇が〝神〟と呼ぶ巨神像――それは歌劇場やこの本部内にも飾ってあったスパーダの石像に似ていた。石膏像のような全身と違って頭から左右に突き出た角は金色で、額や胸には青い宝石のようなものが埋め込まれていたり、肩には羽のような装飾があったりと所々、デザインは異なる。
「てめえには落とし前をつけさせてもらうぜ。ジョシュに、トニオに、サガン……そして、キリエとクレドの両親の仇だ!!」
鋭く叫んだネロはクレドを横たえて立ち上がり、ギルガメスに包まれた右手をかざし固く握り締める。
教皇はネロの右腕を見て小さくほくそ笑んでいた。その視線は腕そのものではなく、装着されている閻魔刀へと向けられているようだった。
「惜しいことをしたものだな小僧。お前の恋人がおれば共にこの〝神〟に取り込み、一つになれたものを……」
憐れむような嘲笑を向けてくる教皇にネロは不快に顔を歪めだす。
「この〝神〟の中で溶け合い一体化すれば、愛する者同士で永遠の時間を過ごすことができる……それでこそ、究極にして真の愛を証明できるというものだ」
「おー、気色悪……耄碌した爺さんの趣味は分からんね」
「頭が沸いてるわ……」
「変態」
悪趣味極まりない語りにデルフだけでなくルイズとタバサまでもが不快感を隠そうともせずに顔を歪めていた。
ネロに至っては唾を吐き捨て、教皇を激しく罵りだす。
「テメエのシケた×××を××××でもしてやがれ!!」
が、その途端にパシンと軽い音を立てて頭が叩かれた。
「……てっ! 何すんだよ」
「何すんだじゃないわよ! そんな汚らしい言葉を軽々しく、つ、つ、使うもんじゃないわ!」
顔を引き攣らせながらルイズは怒りと羞恥に顔を歪め、朱に染めていた。
ネロは叩かれた頭をポリポリと掻いて苦笑しだす。
勢い任せに出てしまった罵倒は、確かに女の子が聞いていいものではない。特にキリエには絶対に聞かせられないような卑猥すぎるものだった。
この場に彼女がいなくて本当に良かった、とつくづく安堵する。
「良いんじゃねえの? あの爺さんにはピッタリだと思うぜ」
「一応、効いてる」
デルフとタバサの言葉に二人は教皇の方を振り向いた。
見れば何百匹もの苦虫を噛み潰してルイズ達以上に顔を歪めているのだ。
そんな教皇の無様な顔を目にしてネロはほくそ笑んだ。
「みんなの仇……取らせてもらうぜ! クソ野郎!!」
ゲーム本編では教皇との戦闘場所は天井なしですが、演出の都合で天井を追加しています。
作品の良かったところはどこですか?
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登場人物
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世界観
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読みやすさ
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話の展開
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戦闘シーン
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主人公の描写・設定
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悪魔の描写
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脚色したオリジナル描写・設定