魔剣異聞録~The Legendary Dark Slayer/Zero   作:月に吠えるもの

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Another Mission <白亜の巨神像-Scoundrel> 43章

「うおおおおおっ!!!」

右腕のギルガメスに固定された閻魔刀を抜き放ち、ネロは一気に教皇目掛けて突撃していく。

『エア・カッター!』

タバサとルイズが重ねた杖からつむじ風の刃が次々に教皇へと殺到する。

二人のトライアングルメイジが放った無数の不可視の刃は教皇の体を直撃し掠めていくが、当人は僅かに身じろぐだけでその場に佇み続けていた。

普通の人間であれば体中を切り裂かれて平然としていられるはずはないのだが、やはり教皇の体にはまともな傷一つ付けることはできない。

この男もクレドやアグナスと同様に悪魔の力をその身に宿している。見た目は二人と違って変化は無いのだが、紛れもなくその力が彼を人外の存在へと変えていることの証明だった。

 

それでも仲間の援護を得てネロは閻魔刀を一気に薙ぎ払おうと構え――

「オラアァ!」

小脇に構えていた右腕のギルガメスでボディブローを繰り出していた。

「っ!?」

棒立ちのままだった教皇に叩き込まれるはずだったフェイントの一撃は、その老体には届かなかった。

教皇の体は光に包まれたかと思うとふわりと宙に浮かび上がったのだ。

「逃がすか!」

だがネロは追撃を緩めずに跳び上がり、今度こそ閻魔刀の刃を横に一閃させようとした。

だが振るわれた刃は薄い光の壁によって阻まれ、教皇にはまたも届かない。

「くそっ……」

身を翻して着地したネロは浮遊する教皇を見上げて舌を打った。

 

「愚か者め。お前達ごとき小童がこれ以上触れることは許さぬ」

尊大な態度で冷笑する教皇はスッと片手をかざしだす。

「やべえぞ坊主、下がれ!」

「うおっ……!」

デルフの叫びにネロはハッとしてその場から飛び退いた。

無数の落雷がいくつも周囲で巻き起こり、稲妻の嵐の中を縫うようにネロはステップを踏んでかわしていく。

「喰らえっ!」

居合い抜きのように閻魔刀を脇から袈裟へ一気に振り上げるとその刃の軌道は青白い煌めきを発した。

剣閃はそのまま一陣の風となって一直線に教皇目掛けて飛んでいく。

だが閻魔刀の衝撃波は教皇を守る光の障壁に弾かれ、打ち消されてしまう。

「ちっ……面倒くせえ野郎だ」

 

(こんな時に虚無が使えないなんて……!)

鬱陶しそうに毒づくネロに同調してルイズも歯噛みする。

あの光の壁も教皇の魔力が生み出した防御の魔法か何かなのだろう。あれがある限り、教皇を傷つけることは叶わない。

いや、それ以前に銃弾を撃ち込もうが魔法をぶつけようが、教皇には蚊が刺した程度のものでしかないのだ。

(何で虚無が使えないの!? 何でなのよ……!!)

悔しさのあまりルイズの杖を握り締める手に力が込められブルブルと震えた。

今この時にこそ役立てられるはずの虚無の魔法は〝解除(ディスペル)〟。それさえ使えれば、あんな防御だろうが教皇の肉体に宿る魔力も打ち消せるかもしれない。

だが、この異世界を訪れてからというもの、ルイズは〝解除(ディスペル)〟はおろか〝爆発(エクスプロージョン)〟すら使えない。〝転移(テレポーテーション)〟でスパーダを迎えに行って加勢してもらうことすらできない。

どうして虚無の魔法が使えなくなっているのか、さっぱり理解できない。系統魔法は使えても、今のルイズが欲する魔法ではないのだ。

ある意味では、かつての〝ゼロのルイズ〟に逆戻りしてしまったも同然だった。

 

鉄壁の守りに包まれた教皇は一行を見下ろしながらニヤリと薄く笑いだす。

「お前達には〝神〟の鉄槌をくれてやろう」

スーッと浮遊する教皇は巨神像の頭の頂上に立つ。

すると、それまで沈黙を保っていたはずの巨神像に初めて変化が起きた。小さな地響きと共に塔全体が揺れだし、巨神像の右腕が持ち上がり始めたのである。

「こいつ、動くのか……!?」

ネロだけでなくルイズとタバサも愕然としていた。

石像とは思えない程に柔軟な動作は人間そのものとしか言えない。

「危ねえ!!」

巨神像が肩の上まで右腕を持ち上げるとデルフは慌てて叫びだす。

ネロはハッとしてルイズら三人の元へ全力で駆けだそうとした。

巨神像の拳はネロではなく、三人目掛けて一気に振り下ろされたのである。

叩き潰されてしまう……とネロは一瞬戦慄したが、逆に呆然とした。

頭を手で覆うルイズの前に現れた青白い女戦士の幻影――ガンダールヴの魔人が剣を盾にして巨拳を受け止めているのである。

「ぬおおおおおっ……!!」

デルフの雄叫びと共に魔人は眩い光を全身から放っていた。ギリギリと音を立てて巨神像の絶大なパワーに抗っており、辛うじて持ち堪えているのだ。

 

「しっかりしろ、クレド」

駆け寄ってきたネロは倒れ伏したままでいるクレドに肩を貸して抱えると、急いでその場から離れていく。

「こっち」

それを見たタバサはルイズの手を引き、フライの魔法で一気にネロ達の元へ滑るように移動する。

ガンダールヴの魔人もやや遅れてルイズに合わせて追従していくと、巨神像の拳は一行がいた場所に叩きつけられていた。

「やっぱりこっちを狙ってきやがったぜ。用済みの騎士団長まで利用するとは、本当にあくどい野郎だね」

溜め息交じりにデルフが呟くと、クレドを横たえたネロは眉間に皺を寄せて巨神像の上に立つ教皇を睨みつけた。

「許さねえ……キリエもクレドも、てめえなんぞの道具じゃねえ!」

いきり立ったネロは叩きつけられたままでいる巨神像の拳の上に跳び上がった。

腕を伝い肩に向かって駆け上がっていくネロだが、巨神像は左手も動かすとネロに伸ばして捕まえようとしてくる。

「Get out of my way!!(邪魔だ!!)」

凄まじい衝撃音と共に巨神像の左手が弾かれる。ネロの右腕の裏拳が難なく押し返したのだ。

「やりやがるな……サーシャでも受け止めるのが精一杯だってのによ……」

嘆息するデルフにルイズも思わず唸ってしまう。

ギルガメスを装着しているとはいえ、あんなに巨大な悪魔のパワーにすら屈さない所か、逆に難なくあしらってしまうなんて。

 

「タバサ!」

ネロが巨神像の肩まで上がるとタバサもフライの魔法で一気に頭の角まで飛び上がっていく。

「もう逃がさねえぞ、クソ野郎」

ネロも上がってくると、タバサの杖と一緒に閻魔刀の刃を教皇に突きつけていた。

教皇は二人を一瞥し、不快そうに顔を顰めだす。

「我らが〝神〟の御身に汚らわしい足を乗せるとは、不敬な奴らめ」

「てめえはどうなんだ」

「微妙に浮いてる」

タバサの呟きにちらりとネロは教皇の足元に視線を落とす。

確かに教皇の足は微かに、ほんの僅かだが巨神像から浮いているようだった。

とはいえ、そんなのはただの屁理屈でしかない。

 

「異教徒よ。まずはお前から消えるがいい」

教皇は手を突き出すと、稲妻の嵐がタバサを襲う。

「ライトニング・クラウド!」

タバサの杖先からも雷撃が巻き起こり、教皇の稲妻とぶつかり合った。

両者の間で稲妻が幾度も弾け、閃光をまき散らす。

「――うおおおおおっッ!」

大きく跳躍して教皇の反対側へと回り込んだネロはその背中へと閻魔刀を振り下ろす。

だが刃は光の障壁に阻まれ教皇の体には僅かに届かない。

教皇は肩越しにネロを振り向き、薄い笑みを浮かべていた。

「余裕ぶっこいてんじゃねえぞ!!」

激高したネロは力任せに右手で持った閻魔刀を叩きつけていた。

執拗に、何度も何度も、遮二無二渾身の一撃を叩き込み続ける。

その度に甲高い衝撃音を響かせては弾かれるが、次第に光の壁にはヒビが入りだす。

「お、さすがに効いてるみたいだな」

下に残っていたルイズはその場から動けず戦いを見上げていた。

いつまた巨神像が人質を攻撃してくるか判らない以上、クレドの元から離れる訳にはいかないのだ。

 

「小僧め……」

顔を顰める教皇はタバサへの攻撃を止め、空中へ逃れようと上昇を始める。

「Crash and bash!!(砕け散れ!!)」

だがネロも同時に跳び上がり、教皇の頭上から一気に閻魔刀を突き下ろした。

刃先が光の壁に衝突した途端、ガラスが砕けるような音を響かせて教皇を守っていた魔力の障壁は粉々になっていた。

途端に教皇は軌道を修正し、一気に巨神像の頭から離れていく。

巨神像は左手を眼前に掲げ、教皇はその上に降り立っていた。

「待ちやがれ!」

ネロはタバサと共に一足飛びに教皇へと一気に躍りかかり、閻魔刀を振り上げていた。

「……っ!?」

タバサはウィンディ・アイシクルの呪文を唱えようとして、中断してしまう。

「くたばりやが――」

ネロが振り下ろそうとした閻魔刀の刃もピタリと止まる。

教皇の目の前に突如光が湧き上がり、その中から現れた姿に絶句した。

 

(――キリエ……!?)

助けたはずの愛する女性が、忽然と目の前に現れたのだ。

ここにいるはずがない、既に安全な場所に送り届けられているはずの女性は間違いなくそこに佇んでいたのである。

その表情は妙に無機質で一切の表情は無いのがネロに違和感を抱かせたのだが……。

「ネロ!」

「……!」

空中でブレーキをして静止しているタバサの声にネロは我に返る。

いつの間にかキリエの姿が眼前にあり、巨神像の手の上に自分も降り立っていた。

「ぐあっ……!!」

突然、全身が圧し潰されるような凄まじい圧迫感で包み込まれる。

 

「ネロ!!」

下で見上げるルイズもクレドも愕然としていた。

教皇は光に包まれながら手の中に沈み込み、直後に降り立ったネロはキリエもろとも伸びてきた巨神像の右手に掴み取られてしまったのだ。

「ぐっ……」

肩から下を巨神像の手に包まれたネロは身を捩って逃れようとするが、その圧倒的な力の前に抗うことはできない。右腕も動かすことすら儘ならず、完全に抵抗できなくなってしまった。

「愚かなものよ。愛という幻想のために勝負を捨てるとはな」

教皇は冷笑と共に巨神像の右肩の上に光に包まれながら姿を現わしていた。

右腕に降り立ったタバサはネロを庇うように杖を構えて教皇を見据えだす。

「愛する者と同じ姿であれば、人形でも構わぬという訳だ。卑しい奴め……」

嘲笑を浮かべる教皇にネロはハッとして隣にいるキリエの方を見た。

自分と同じく苦痛を味わっているはずなのに、表情は先程から全く変化していないのだ。

まるで人形のように固まっているその様に困惑し、疑心を募らせていたネロはハッとすると教皇を睨みつけた。

「てめえ……!!」

歯を剥き出しにして怒りの眼差しで射貫く。

このキリエはネロを欺くために用意した、文字通りの意思のない人形であると確信したのだ。

 

「そんなに愛する者を欲するなら、いくらでも用意してやっても良い。それはもはや使い物にもならぬからな」

冷たく教皇が言い捨てると、キリエの形をしたレプリカに異変が起き始めていた。

ピシピシと音を立てて顔の表面にヒビが走り出したかと思えば、髪は砂のように崩れ去っていき、顔面は見るも無残に蝋人形のように溶けるようにして崩れ落ちていく。

「……!」

その様を隣で目の当たりにするネロは絶句した。

本物ではないとはいえ、愛する者と同じ姿が自分の目の前で惨たらしく崩壊していく光景は決して目にしたくない惨状なのである。

瞬く間に愛する者の姿をした人形は自分の目の前から跡形も無く消え去ってしまい、破片の砂が巨神像の上に零れ落ちていた。

 

「てめえ……てめえええぇぇっっ!!!」

あらん限りの絶叫と共にネロは怒りの咆哮を轟かせた。

 

作品の良かったところはどこですか?

  • 登場人物
  • 世界観
  • 読みやすさ
  • 話の展開
  • 戦闘シーン
  • 主人公の描写・設定
  • 悪魔の描写
  • 脚色したオリジナル描写・設定
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