魔剣異聞録~The Legendary Dark Slayer/Zero 作:月に吠えるもの
爆風の中から凄まじい豪速でギルガメスの籠手だけが飛び出し、教皇目掛けて飛んでいく。
気絶したフリをしていたネロは、教皇の気が逸れている隙を見て密かにギルガメスにパワーを充填し続けていたのだ。
地獄門やこの塔の入口を破壊した時よりもさらに時間をかけて溜められたパワーで、ギルガメスはネロのイメージに合わせてさらに多くジェット推進器を生み出していた。閻魔刀の鞘は邪魔だったのでこれだけは悪魔の右腕の中に取り込んでいる。
教皇は目を丸くして迫り来るギルガメスに明かな動揺を示している。
直接殴ってやりたかった所だが、それはできない。故にネロができるのは文字通りのロケットパンチだ。
正直な話、思い付きで初めてやってみる手段なのでイチかバチかの賭けだった。
「あっ!?」
ギルガメスのロケットパンチが教皇にまで達しようとした寸前、巨神像の左手がかざされ、教皇の姿を覆い隠した。
手の平に直撃したロケットパンチはブースターから激しい炎を噴き出したまま推進を続けている。
巨神像の手を徐々に押し出しては逆に押し戻されるのを繰り返し、パワーは拮抗しているようだった。
「くそっ……!」
露わになった悪魔の右腕を叩きつけてネロは悔しがった。
やがてブースターの推進力が見る間に弱まっていき、ギルガメスの籠手は弾き出されて広場に落ちていく。
「結構、イカしてたのにな……」
下ではダンテも少々残念そうに溜め息を漏らしていた。
あれだけのパワーと衝撃が直撃しても巨神像自体には傷一つ付いていない。それだけこの巨大な悪魔の耐久力は凄まじいことを意味しているのだ。
巨神像が左手を降ろすと、ルイズは目を見開き動揺する。
「い、いない!?」
そこにいたはずの教皇の姿が忽然と消え去っていたのだ。
「……ぐあっ!?」
「ネロ!?」
戸惑う暇も無く、ネロが呻きだしたのを聞いてルイズはハッとする。
見ればネロのすぐ隣に教皇が立っており、閻魔刀の刃を右腕に突き刺していた。
「無駄なことを。その程度の力が、我らの〝神〟に通じると思ったか」
さっきもそうだったが、教皇はこの巨神像の内部を自由に移動できるらしい。どうやら左手を通じてあそこに直接現れたのだ。
「もはや逃れることはできぬ。大人しく〝神〟の一部となるがいい」
勝ち誇ったように笑う教皇にネロは激痛に喘ぎながらも睨み上げていた。
今にもこの右腕で握り潰してやりたいと思っていたが、しっかり縫い付けられて動かすことができない。
「安心しろ。お前の恋人も後で取り込んでくれよう。――無論、人形ではない本物の方をな」
「て、てめえ……! ――ぐああああああっ!!」
ネロの全身を電撃が駆け巡る。教皇の手からは激しい雷光が迸り、閻魔刀を通してネロへと流し込まれていった。
「ネロ!」
「待て娘っ子! 近すぎるぞ!」
ケブーリーを構えようとしたルイズをデルフが押し留める。
「さあ、これで〝神〟は完成する! 異教徒どもよ。新たなる神の誕生を、そこで拝むが良い!」
閻魔刀をネロから引き抜いた教皇は、高笑いを上げながら巨神像の中へと吸い込まれていった。
残されたネロは完全に脱力しきってぐったりとしていた。それまで光を宿していた右腕は力を失ったように弱々しくなり、消え失せていく。
「どうした? もうギブアップか、坊や」
「うるせえ……見りゃ……判んだろうが……」
茶化すようなダンテの呼びかけにネロは息も絶え絶えになりながらも悪態をついていた。
見るからに憔悴しきっており、もうまともに身体を動かす気力も残っていないらしい。
「何を呑気に見てんのよ! 早くネロを助けないと!」
ダンテにしろトリッシュにしろ突っ立っているだけで加勢しようとしないので、ルイズは激しく苛立ち食ってかかった。
スパーダがいてくれれば、彼は何も言わずとも自ら行動を起こしてくれるのに。
「いや……もう手遅れみてえだぜ」
呻くデルフにルイズはハッとしてネロを見た。
彼を掴んでいる周りの表面に光が湧き始めると、徐々にネロの体はその中へと沈み込んでいくのだ。
「何でネロを取り込む必要があるのよ……」
教皇はネロをこの巨神像に取り込むと言っていた。内部は何万もの悪魔達の血肉が集まっているらしいが、その一部と化してしまうなど考えるだけでもおぞましい。
「こいつがデカ過ぎて、そこらの雑魚悪魔共の魔力をいくらかき集めたくらいじゃ足りねえからさ。だから連中の神サマの力を必要としてるんだとよ」
「スパーダ……」
デルフはアグナスの資料をスパーダと一緒に見ていた。ならば、彼ももちろん知っていたことだろう。
だが彼はネロの体に流れるという悪魔の血が、スパーダに連なるものだということを知っていたのだろうか?
「ルイズ……! タバサ……!」
力を振り絞ってネロは必死に声を上げていた。
もう頭もほとんど飲み込まれて口元しか見えず、右腕を必死に伸ばそうとしている。
「頼む……! クレドを……キリエと一緒に、安全な所に……! 二人を――」
声が途切れ、ついには右腕までもが完全に飲み込まれてしまった。
「ネロ……」
呆然と立ち尽くすルイズだけでなく、タバサも悔しさに満ちた顔で唇を噛み締める。
今にしてみれば連中は最初からネロをここに誘いだすつもりでいたに違いない。あの偽りの恋人……何かの魔術で生み出した人形をおとりに使ってネロを動揺させようとしていたのだ。
その策謀にまんまと嵌まってしまった。恋人は既に保護されているのだから、ここにいるはずはないと判っていたはずなのに。
サポートし切れなかったタバサにとっても実に無念でしかなかった。
「お、とうとうマジで動き出すみたいだぜ。娘っ子」
ルイズがハッとすると塔内が激しく揺れ出すのが判る。しかもそれは徐々に激しさを増していき、辺りが崩れだしている。
巨神像の額や胸にある青い結晶体が光を発しだしたかと思えば、徐々にその巨体が上昇を始めていた。
天窓のガラスを突き破り、巨神像は天に向かって浮上していく。
その余波で塔内の崩れはより激しくなっていった。
「ははっ、神サマのお目覚めって訳か?」
落ちてくる瓦礫を気にも留めず、ダンテは落ちていたギルガメスの籠手へと手を伸ばす。
ギルガメスは瞬く間に小さな光球に変わると、そのままダンテの手の中へと吸い込まれていった。
「この本部を沈める気みたいね。早く出ないと海の藻屑だわ」
(何なのよ、この二人……!)
ダンテは呑気に笑っているし、トリッシュも全然危機感というものがない。
どうにも不真面目な二人を見ていると、ルイズは余計に苛立ってしまった。
「どーすんのよ! 外に出るまで間に合わないじゃない!」
シルフィードでもいれば天窓から一気に外に出られただろうが、いない以上はそうはいかない。引き返しても出口までは一直線だがそこそこ距離がある。
何より負傷したクレドも運び出さなければならないのだ。
「おい、不良中年。お前さんだったら、こんな時にどうするよ?」
「中年じゃねえ」
「不良なのは否定しないのね」
デルフとダンテのやり取りにトリッシュが小首を傾げながら突っ込んだ。
「うっせ」
少々うんざりしつつも苦笑したダンテの手の中にまた光が生じ始める。
晴れた光の中からは、ダンテが返してもらっていたパンドラの箱が現れていた。
「離れてな」
そう告げつつもダンテは自ら一行から少し下がっていくと足元にパンドラを置きだす。
ルイズとタバサは何をしようとするのか気になって見守っているとパンドラはまた光に包まれ、ますます膨れ上がっていく。
「これは……」
二人の少女は目の前に現れた物に呆気に取られていた。
それは今までに見たことのない乗り物とも言うべきものだった。
大きな椅子に腰を下ろすダンテの周りを半円の太いリングが縦・横・水平と取り囲み、座席の後ろにはトンボの尻尾のようなものが伸びている。
椅子の後ろには大きな風車のようなものが上に向かって備わり、尻尾の先にも横に小さな風車が取り付けられていた。
「何だぁこりゃあ?」
デルフも思わず声を上げてしまう。
全く訳が分からない乗り物だが、パンドラが兵器である以上はこれも一種の武器なのだろうと確信はできていた。
「あなた、ヘリの操縦なんて出来たかしら?」
リングに取り囲まれた中央で椅子に座っているダンテにトリッシュは問いかけるが、本人は面白おかしそうに笑うだけだった。
ここまでが本来想定していた第4章になります。
次の5章がエピローグ前の最後の章です。12月の頭くらいまでに外伝を終了させられれば最適です。
今回のシーンのラストについてですが、元々プロットの段階ではシルフィードも同行していて神との戦いでダンテが乗って足場にしたり指笛で呼び寄せたりといったシチュエーションを想定していましたが、シルフィードも付いてくると人数が多くなってそこに至るまでの会話ややり取りがややこしくなるため、没にさせてもらいました。
今回のパンドラの変形は、アーギュメントの派生を連想してもらえると幸いです。
作品の良かったところはどこですか?
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登場人物
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世界観
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読みやすさ
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話の展開
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戦闘シーン
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主人公の描写・設定
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悪魔の描写
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脚色したオリジナル描写・設定