魔剣異聞録~The Legendary Dark Slayer/Zero 作:月に吠えるもの
パンドラが変形した小型の
ソリ状の
重傷を負っているクレドはガンダールヴの魔人が吊り上げることで辛うじて運ぶことができる。
「きゃっ! ま、回ったわ!」
六枚の羽を備えた頭上のローターが回転を始めるとルイズは目を見開いて驚いた。
座席の背もたれに掴まるタバサも極端ではないにせよ、激しい音を響かせながらみるみる速く回り出すローターを興味深そうに見上げていた。
「ちゃんと掴まってないと落ちちゃうわよ。――ダンテ、良いわ」
リングの上に腰を下ろしているトリッシュが頷くと操縦席のダンテは足の間から長く伸びた操縦桿を手前に引く。
目にも止まらぬ速さでローターが回転する中、機体は徐々に浮上を始めていた。
「あ!!」
上を見上げたルイズは真上からそこそこ大きい瓦礫が落ちてくるのを見て思わず目を見開く。
だが瓦礫はローターに当たると同時に粉々に砕かれ弾かれていった。
(なーるほど。元々はこういう武器って訳かい)
デルフはガンダールヴの能力を使って今のパンドラを調べてみたが、回っているローターの羽は分厚い大剣のような
このブレードの回転によって生まれる気流を利用して飛ぶことができるようだが、同時に敵を切り刻む武器としての意味もあるのだ。
それこそ人間がこの回転に巻き込まれれば瞬く間にしてバラバラのミンチ肉になってしまうだろう。
「さあて、ひとまずどこまで飛んでく?」
「アルブム大橋にちょうど良いヘリポートがあるじゃない」
トリッシュの指摘にダンテは軽く口笛を吹くと、足を乗せているペダルを踏み込んだ。
巨神像の足先と共に天窓から飛び出てきたヘリは海上を迂回してアルブム大橋を目指して飛んでいく。
緩やかに飛んでいるように見えるが、タバサにはシルフィードで空を飛んでいる時のような感覚だった。
(……うるさい)
だが回転するローターの音はシルフィードにはない騒音であり、タバサにとっては耳障りである。
落ちないようにしがみついているルイズは眼下に見える魔剣教団の本部を見下ろしていた。
本部は巨神像が出てきた塔だけでなく、自分達が通ってきた施設も地響きと共に崩れ落ちていく。
「ちょっと!? 前、前!!」
大聖堂があった摩天楼が中心から折れるように倒壊を始めるが、よりによってルイズ達の進行方向に倒れてきたのだ。
取り乱すルイズにダンテはニヤリと微笑むと操縦桿をスッと軽く前に傾ける。
それに従って機体も前に傾いていき、加速しながら高度を落としていった。
「きゃああああああ!?」
全身に強風を受けながらもしがみつくルイズはグッと強く目を閉じていた。
100メートル以上も上空だったのがあっという間に海面スレスレにまで急降下してきて、そのまま倒れこんでくる摩天楼の真下を猛スピードで潜っていく。
巨大な水飛沫を立てて摩天楼が水面に落ちてきた時にはとっくに機体は安全圏まで出てきてまた浮上していた。
「ハッハーッ!! ちょっとした絶叫マシーンだったな」
「何が絶叫マシーンよ!!」
歓声を上げるダンテにルイズは激しく食ってかかった。
「もう少し優しく飛んで欲しいものね。怪我人もいるんだから」
「おめえ、本当に
トリッシュとデルフにも呆れられつつもダンテは肩を竦めて楽しそうな笑顔を崩さなかった。
タバサは涼しい顔を絶やさないまま、チラリと後ろを振り返る。
飛び立った巨神像は周囲に無数の瓦礫を浮かべながらさらに天高く上昇していた。
◆
アルブム大橋の広場に着陸すると、ルイズとタバサは怪我人のクレドを下ろしていた。
教皇に斬り落とされた右腕を抱えたままずっと蹲ったままのクレドは力なくその場に座り込んでいる。
「見ろよ、羽が生えてやがるぜ」
ダンテはさらに上昇を続けている巨神像を見上げて面白おかしそうに笑いだす。
反面、トリッシュはサングラス越しに顔を顰めていた。
「悪趣味という他ないわね……あんなの」
巨神像の背中には巨大な半円状の光輪が二つ浮かび上がっており、さらに頭上にも同じ形の小さな光輪が見える。
傍から見れば、まるで翼を伴った天使を彷彿とさせる。
だがあの内部は神々しい印象とは裏腹に悪魔達の血肉が集まっているというのだから、何とも皮肉な話である。
(あの野郎によく似てやがんな……)
ましてやダンテとトリッシュには、その姿が二人にとっては因縁とも言うべき悪魔の存在を思い起こさせていた。
「あいつ、一体どこに行こうっていうのよ……?」
ルイズとタバサも空を見上げるが、巨神像はやがて曇り空の中へと潜り込んでしまい、姿が見えなくなってしまう。
ダンテは座り込んだままでいるクレドを振り返りだした。
「おい、その辺はどうなんだ? 神サマは完成したそうじゃないか。あれでこれから何をしようってんだ?」
「教団の〝救済〟とかいう理想郷を作る計画が、要は教団の信仰を広める世界征服だっていうのははっきりしてるけど……具体的に何をどうしようとしてるのかまでは掴めなかったし、聞かせてもらおうじゃない? もうあなたにはどうでも良いことでしょう?」
皮肉っぽくトリッシュも尋ねかけると、厳めしい顔のままずっと黙り込んでいたクレドは口を開き始める。
「……今の腐敗し、堕落した世界を変えるためには大いなる混沌をもたらさねばならない。それこそ、2000年前にこの世界が魔界の脅威に晒された時のように――」
「それって……ムンドゥスが魔界から攻めてきた時のこと?」
唖然としながらルイズは問いかける。
「そうだ……かつて魔剣士スパーダが混沌を退け世界を救済した時のように、魔界と人間界を繋ぎ、あの〝神〟とそれに仕える我ら魔剣教団が新たなる救済者となるはずだったのだ……」
ルイズは思わず愕然としたまま呆けてしまった。
魔界を復活させて悪魔達に世界を破壊させ、その悪魔達を他ならぬ彼らを呼び出した魔剣教団の手で討伐する。
そのためにこそ、魔界へ通じる地獄門を開く鍵となる閻魔刀を必要としていたのだ。
「やれやれ……幼稚な出来レースって奴だな」
「自作自演もここまで来ると笑い話にもならねえな……」
「なまじ正義を気取っている分、タチが悪いわね」
ダンテもデルフもトリッシュも心底呆れ返っていた。
……あまりにも馬鹿げているとしか思えない。
要するに魔剣教団の目的は完全なるマッチポンプに過ぎず、最初から最後まで人々を欺く悪辣極まりない卑劣な所業に過ぎなかったのだ。
その悪魔さえもダシにしようとしている分、魔剣教団のしようとしていることは余程下劣な企みだと言える。
――ビシッ!!
鋭く叩く音が響き、ダンテ達は呆気に取られていた。
「おいおい、娘っ子……」
まなじりを決してクレドを睨みつけるルイズの手には乗馬の鞭が握られている。
クレドのこめかみからは血がじわりと流れ落ちていた
「スパーダを……あんた達なんかと一緒にするんじゃないわ!!」
さらにルイズは力一杯に鞭をクレドの頭に叩きつけた。鋭く鞭打つ音が響くがクレドは微動だにしない。
「あんたら、スパーダを馬鹿にしてんの!? ふざけんじゃないわよ!! 彼は英雄になりたいからこの世界を救ったんじゃないわ!! スパーダは人間に感動したから、魔界からの侵略を食い止めて平和をもたらしてくれたんじゃない! その平和を自分からぶち壊しにするですってぇ!? 馬鹿も休み休み言いなさいっ!!!」
激しい絶叫と共にルイズは何度も何度も鞭を振るっては返し、クレドに叩きつけていく。
ダンテとトリッシュもルイズの鬼気とした剣幕に呆然としたまま成り行きを見届けていた。
「あんな大きな地獄門が開いたらどうなるか、ちょっとでも考えたことがあんの!? 街の人達がどれだけ傷つくと思ってるの!? あんたの妹だって、悪魔に殺されちゃうかもしれないじゃない!!」
既にクレドは顔中が裂けて血まみれであるが、顔色一つ変えないままルイズの咆哮に耳を傾け続けている。
「それとも何!? あんたは、外法で手に入れた力で妹を守る気でいたって言うの!? 人間を辞めて、あんな怖ろしい悪魔の力さえあれば大丈夫だって考えてんの!? 思い上がんのも大概にしなさいよ!!」
ついにはクレドの頭をルイズは足蹴にしていた。
ルイズの怒りは収まる気配がないばかりか、さらに激しさを増していく。
本人にしてみれば、虚無の魔法を叩きつけてぶっ飛ばしてやりたい気分なのである。それができないから、こうするしかないのだ。
「この世界が堕落してるかどうかなんて、あたしには判んないわよ。でも、悪魔に侵略されて大勢の人達が血を流すよりずっとマシじゃない!」
そもそも世界が堕落し腐敗し切っているなどというのはあくまで魔剣教団……ひいては教皇サンクトゥスの勝手な妄想に過ぎない。
たった一人の人間の心に生じて膨れ上がった妄想が、多くの犠牲者を出す結果になったのだ。
「何が天使よ! 教皇も、アグナスも、あんたも……みんな悪魔だわ! あんた達なんかをスパーダが認める訳ないじゃないの! この恥知らず! 卑劣者!! 卑怯者!! 裏切者!!! バカ犬!!! クソ犬!!!!」
沈黙し続けているクレドをルイズは容赦なく罵倒し続けた。その度に思いきり振りかぶった鞭を振り下ろしては叩き込み、自分のパートナーを侮辱された怒りをぶつけていく。
クレドは反論はおろか抵抗すらせずになすがままになり続けていた。まるで自分にはその資格すらないとばかりに沈痛な態度だった。
「何すんのよ! 離して!!」
何度目か分からぬ程に鞭を振るっていた手が突如掴まれた。
振り向けばダンテが苦笑しながらルイズの腕を取っていたのだ。
「……その辺にしときな。可愛い顔が台無しになっちまうぜ? この男だってもう反省してんだろ。お嬢ちゃんのその怒りはあの爺さんにぶつけてやんな」
「……っ」
憤慨やるかたなく激しく息を切らしながらルイズはクレドをさらに睨みつけた。
何度も鞭を叩かれたおかげで、酷い有り様と化している。
それでもクレドは重い顔のまま声一つ漏らさず沈黙していたのだ。
ダンテの手を振り払ったルイズはクレドから背を向けだす。
顔も見たくないとばかりに憮然と眉を顰めてムッとしていた。
「街の地獄門を開くつもりなら、閻魔刀はそこで使うつもりよ。あの地下に封印を解く場所があるの」
殺伐とした空気を変えようとするかのごとく、トリッシュはダンテに切り出し始めていた。
「地獄門の真下か……つーことは、野郎が行ったのもそこだな」
その話題に乗るようにデルフも頷きだす。
そういえばスパーダもあの地獄門の下に封印があると言っていたのをルイズも思い出す。封印した本人が言うのだから間違いない。
「スパ……〝
色々あってほとんど忘れていたが、街に向かったスパーダはこちらに戻ってくる気配がまるでない。
一体、街の方で何をしているのかルイズはとても気になっていた。向こうの近況が判るのはデルフしかいないのである。
「ま、行ってみりゃ分かるさ。俺らがこっちで大騒ぎしてた間……野郎がやってた保険とやらを見せてもらおうや」
「ふぅん……それは楽しみだな」
ダンテは興味深そうに小さく口元を綻ばせていた。
広場の真ん中に置いてあるパンドラのヘリに再び乗り込み、トリッシュにタバサ、さらにルイズも続いていく。
「そこで少し休んでな。気が向いたらあんたの妹に顔を見せてやんなよ」
言いながらダンテはポケットから取り出したものをクレドの前に放り出す。
転がるそれは、緑色に光る星形の石。魔剣教団でも利用されているバイタルスターだった。
再び轟音を立てて浮上を始めるダンテのヘリは、街の方へ向かって飛び去っていった。
座り込んだままクレドは顔も上げずに俯いていた。すぐ近くに落ちているバイタルスターに手を伸ばしもせずに沈黙を続けている。
(ネロを、頼む……)
その願いをクレドはあの四人に託すことはできなかった。
いや、それを口にする資格すら自分にはなかったのだ。
自分の愚行のために今まで多くの罪なき人々を欺き、大切な妹と弟すら騙し続け、想いを踏み躙ってきたのだから。
作品の良かったところはどこですか?
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登場人物
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世界観
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読みやすさ
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話の展開
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戦闘シーン
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主人公の描写・設定
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悪魔の描写
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脚色したオリジナル描写・設定