魔剣異聞録~The Legendary Dark Slayer/Zero 作:月に吠えるもの
ダンテが操縦するヘリは教団本部から海を越え、一直線に市街地に向けて飛んでいった。
沿岸沿いの陸路で行けばかなり時間はかかっただろうが、道も何もかも無視できるので十分とかからずに街外れの上空に差しかかっていた。
つい先ほど飛び立ったばかりの巨神像は今、目の前でその巨体を街のすぐ上空に浮かべているのだ。
「まさかアレの二刀流とはね……」
機体を上昇させながらダンテは思わず嘆息していた。
遠巻きに見える巨大な地獄門の頂上の人影に、散開した鎧騎士達が次々と四方八方から襲い掛かっていく。
影は鋭い煌めきを一閃、また一閃とさせながら騎士達の槍と剣を難なく捌いていた。
跳躍し身を翻すと次々に騎士達を踏み台にしては飛び移り、両手の刃――閻魔刀で切り刻んでいく。
宙には魔法陣が浮かび上がり、増援の騎士達が次々に飛び出てくるが、まともな足場もない空域を飛び交う一人のデビルハンターを捉えることすら叶わずあしらわれている。
そればかりか背中に備わっている翼を毟るように奪われていた。
「ずいぶん器用な真似をするわね」
トリッシュもサングラスをずらしながら感嘆と唸る。
「あんなの、彼なら朝飯前よ」
ちらりとダンテはリングにしがみつくルイズへ視線を流した。
微笑すら浮かべ、これ程巨大な敵を前にしても何ら狼狽えることのないその態度は、自分達の保護者たるデビルハンター・〝
(親父の方が一枚上手だったってことか)
閻魔刀が敵に奪われた時の〝保険〟とやらが、まさか地獄門の封印を強化するだなどとダンテは想像もできなかった。
地獄門が解放されていれば今頃は街中に悪魔達が蔓延り、住民達の多くが犠牲になっていたに違いない。
だがそんな最悪の事態だけは未然に防がれた。封印を施した本人だからこそ可能な一策なのだ。
教皇達にしてみれば、自分達の計画をご破算にされてさぞ悔しかったに違いない。
教団の狂気の計画を食い止めたその男は今、ぐんぐん上昇していく飛翔する騎士の翼の上に立っていた。
彼は逆手にした二振りの閻魔刀を軽やかに振るい、さらには足技も駆使した体術で騎士達を次々に蹴散らしている。
(そういやあ、あの婆さんって親父と昔会ったことがあるって言ってたっけな……)
ダンテはその戦いぶりに奇妙な既視感を生じさせていた。
ほんの数年前に今回のような仕事で訪れたデュマーリ島。そこへ自分を導き、共に戦った一人の女戦士の姿を思い起こさせる。
――あなたは冷たい人ね。……でも、これだけは言わせてちょうだい。
――お帰りなさい……ダンテ。
彼女……ルシアも二刀流と体術を中心にした技で悪魔達と戦っていた。元々その技は、彼女を育てた養母から教え込まれたものだという。
娘に戦いの術を託したその老婆は若い頃には、かつての父と共に戦った仲らしい。
今、目の前で戦うデビルハンターは全く同じという訳ではないが、ダンテに戦友達を思い出させる程の鮮やかでアクロバティックな戦いぶりで敵を翻弄していた。
『神の裁きを受けるがいい! 悪魔め!!』
教皇の叫びと共に巨神像の頭上の光輪が輝きだし、光がその中心に集まりだす。
「きゃっ!」
突然の閃光にルイズが思わず悲鳴を漏らした。
巨神像の頭上から眩い光と共に一筋の光線が下に向けて放射されたのだ。
狙いはもちろん、騎士達を蹴散らしているデビルハンターである。
だが彼は騎乗しているアンジェロの翼の上で直立したまま二振りの閻魔刀を同時に薙ぎ払った。
二つに重なった巨大な剣閃は逆に巨神像の光線を掻き消しながら突き進んでいく。
巨神像の頭上に立ったままだった教皇の姿が沈み込むと、直後には剣閃が通り過ぎていった。
デビルハンターを乗せたアンジェロの翼は巨神像の脇を潜って後ろに回り込んでいく。
『逃がしはせぬ!!』
巨神像は両脚を深く曲げて空中で屈むような姿勢になったかと思えば、そのまま巨体を大きく旋回させて回し蹴りを放ったのだ。
「うおっと……!」
攻撃の余波はダンテ達の元まで及び、吹きつける分厚い突風が機体を揺らす。
周囲に浮かぶ瓦礫が薙ぎ払われる巨大な脚で次々と砕かれる中、小さなアンジェロの翼もまた残骸を散らしていく。
だが、そこに巨神像が倒すべき敵の姿はなかった。
彼は既に瓦礫の浮き島へと飛び移り、逆に巨神像を見下ろしているのだ。
巨神像はさらに拳を構え、敵が乗る浮き島もろとも砕かん勢いでパンチを繰り出す。
「ずいぶんと洒落た技を使いやがんな」
「あんな動きまでできるんだ……」
ダンテと同じくルイズも目を丸くしていた。
巨神像の動きはとても石像とは思えない程に柔軟であり、人間以上の身体能力を発揮している。
あれだけの巨体の一撃はまともに喰らえばひとたまりもないだろう。
だがルイズは、スパーダが負けるなどという可能性は微塵も考えていなかった。
現に巨神像の攻撃は教団本部の一部だった瓦礫を砕くことはできても、彼には掠りもしていないのだから。
「どうする、ダンテ? 彼を手伝う?」
「高みの見物もしてられねえしな」
トリッシュがそう言うと、ダンテは片眉を吊り上げて苦笑した。
敵がこちらに気付いていないはずは無いだろうが、どうにも無視されているような気もするのが癪であった。
教皇達が今戦おうとしているのは、仮にも崇めていたはずの〝神〟である。
その〝神〟の子には何ら興味が無く、軽く見られているというのがダンテには薄っすら感じられていた。
「お嬢ちゃん達は降りねえのか? 空は飛べんだろ?」
「嫌よ」
きっぱりとルイズはダンテを睨み返した。
真下はフォルトゥナの市街地だが、今のルイズであればレビテーションの魔法で一人で降りることもできはする。
だが、ルイズにその気はさらさらない。当然、タバサもである。
「おい、不良中年。俺らを舐めんなよ。娘っ子達には娘っ子達にできることがあんのさ」
「中年じゃねえ」
「まあ、それは良いんだけど……」
再三にダンテが言い返す中、トリッシュはピクリと眉を顰めだす。
「そろそろガス欠みたいよ」
「お?」
デルフが何かに気付いた途端、タバサもハッとして頭上を見上げた。
回転するローターが乱れた音を発しているのが分かる。
「ちょ、ちょっと……まさか落ちちゃうんじゃないでしょうね?」
「そのまさかだぜ」
不安そうにするルイズにダンテはあっさりと返してみせた。
「冗談じゃないわよ! 早くどこでも良いから降りなさいよ! あんなにいっぱい浮いてるのがあるんだから!」
喚きながらルイズはダンテの肩を足で何度も小突きだす。
言われるまでもなくダンテは機体を手頃な場所に向けて飛ばしていくが、辟易とした苦笑を浮かべていた。
(やれやれ……とんだお転婆な嬢ちゃんだぜ)
お転婆娘を相手にするのは慣れてはいるが、まさかこんな所でも出会うことになるなどとは正直考えもしなかった。
じゃじゃ馬娘の保護者は一体どれだけの苦労をしているのか、実に興味深いものである。
◆
スパーダが操る二刀流の技は決して我流ではない。
かつて二刀流を操る人間の戦士と肩を並べて戦ったことがあり、その者達の技を参考にしたものだ。
攻防一体の剣技でスパーダとも渡り合った宮本武蔵の二天一流に、軽業師の如き体術で舞うように悪魔達を翻弄したデュマーリの守り手。
この二人の技は特にスパーダの記憶に強く刻まれていたのだ。
(……確か、マティエだったな)
ふと、思い出せずにいたかつての戦友の名をスパーダは記憶の淀みの中から探り当てることができた。
巨神像の全身から溢れる膨大な魔力の影響で、周囲には無数の瓦礫が漂っている。
正面の離れた位置に浮かぶ瓦礫に降り立ったスパーダは逆手にしていた閻魔刀を構え直し、敵を見据えていた。
『如何に閻魔刀といえど、この〝神〟に傷つけることなどできはせぬ!』
サンクトゥスはそう豪語するが、それはスパーダも認めざるを得ない。
「頑丈さは大したものだ」
巨神像の巨腕をかわしながら何度か閻魔刀を一閃させてはいたものの、表面には掠り傷しか付けられない。
幾万もの悪魔達の血肉が凝縮されているこの巨体の魔力は膨大だが、その密度も凄まじいものがある。
閻魔刀は魔力を紙のように斬り裂き、喰らい尽くす能力を持つ退魔の剣だが決して絶対という訳ではない。
この巨神像のように魔力の密度があまりにも大き過ぎると、さすがの閻魔刀でも一気に破ることは困難を極める。
現に、閻魔刀では同じく絶大な魔力を有する魔帝ムンドゥスに傷を負わせることはできないのだから。
『我らの〝神〟は、貴様の絶対の力を得ている。そのようなか弱き力ごときで、太刀打ちできると思ったか』
巨神像は眼前で両手を構えると、その中心に黒い魔力が集中していく。
巨大な魔力の球体が高速で放たれ、スパーダはその場から高く跳躍した。
一発、二発、三発と巨神像は砲弾のような魔力の塊を放ってくる。外れた魔弾は着弾する度に激しく炸裂し、爆風をまき散らす。
「奴はあそこか……」
瓦礫の破片を蹴って次々と飛び移りながらスパーダは巨神像の身体に見える青い結晶体を注視していた。
フォルトゥナ城で〝神〟と題された設計図を見ていたが、巨神像の両手両足と至る所に点在するそれは膨大な魔力を安定させるためのものらしい。
これだけ巨大な身体を自在に動かすには魔力の扱いが非常にデリケートになる。故に魔力の循環を安定させるための機構があの結晶体なのだ。
「全部で9、だな……」
中でも額と胸にある結晶体は特に重要な箇所となっている。
膨大な魔力によってこの巨神像の内部は一種の異空間が形成されており、内部は見た目よりも広い構造になっているらしい。フォルトゥナ城にもあった鎧騎士を量産する設備も備わっており、疑似魔界を介して外に出撃しているのだ。
サンクトゥスは頭部にある心臓部という機関室にいるはずで、そこでこの巨神像を操っている。
「小僧はあそこのはずだが……」
そして、胸部に位置する魔心炉という動力機関。
取り込まれたネロは、そこにいることをスパーダは確信していた。
この巨大すぎる身体を動かし、ここまでの能力を発揮させるためにはより強大な魔力を動力とするしかない。
そのために選んだのが魔剣士スパーダの力だった。グロリアが持ち込んだ自分の半身が宿す絶大な魔力を利用して、この巨神像は動いているのである。
とはいえ、半身の魔力を引き出せるのは他でもないスパーダ自身。それだけでは中途半端にしか動かすことができない。
そこで連中は別の方法で力を引き出すことを考えた。
スパーダの血族を代わりに利用する――
そのために連中はあのダンテを……そしてネロをも狙ったのだ。
「こちらからは入れんな……」
蹴散らした騎士達からまたも翼を剥ぎ取って足場にしたスパーダは顔を顰めていた。
閻魔刀で斬り裂いた亜空間を通って巨神像の内部に直接乗り込むのも魔力の密度が高すぎて不可能だ。
取り込まれたネロを引きずり出せばこの巨神像の力は大幅に落とせるはずである。それこそ飛行するのも儘ならないだろう。
とはいえ、今の位置では街の真上なので被害を出させないようにもっと海の方に誘いださなければならない。
問題はどうやって内部にいるネロを閻魔刀で救い出すかである。
――あいつ……! デルフ!!
――おうよ!
『む、む、む、無駄な抵抗は、や、や、や、辞めるがいい。貴様の剣技など、じ、じ、じ、時代遅れだ』
巨神像を迂回して背後に回り込むと、吃声が耳に入りだしていた。
視界の端で羽ばたいている白い影――アンジェロ・アグナスの方を見向きもしないまま、スパーダは自らの周囲に無数の幻影剣を浮かべると一斉に射出する。
狙いは背中にある結晶体。次々に突き刺さった紅い刃はやや間を置いて炸裂し、青い破片が飛び散りだす。
『む、む、む、無視するな! 貴様ぁ!!』
先程の件もあって相当に苛立っていたのだろう。激昂するアグナスの背後に無数の魔法陣が浮かび上がり、中からバジリスク達の顔が浮き出てくる。
――オラアァ!!
『……うおっ!?』
火球の礫が発射された途端、スパーダの姿はアンジェロの翼の上から忽然と消えていた。
外れた礫は巨神像の身体の表面で空しく弾けるだけだった。
『ど、ど、ど、どこ――ぐおぅっ!?』
慌てふためきながら周囲を見回すアグナスの身体を突如、光が貫いた。
飛来してきた一本の光の槍は脇腹を突き抜けていたのだ。
『がっ!?』
「道化は寝ていろ」
直後、頭上からの凄まじい衝撃でアグナスは真っ逆さまに地上へと墜落していった。
真っ二つに切り裂かれた金色の翅の破片も後を追うようにヒラヒラと舞い落ちていく。
アグナスを足蹴にしてアンジェロの翼に戻ったスパーダはちらりと槍が飛んできた下方を振り返った。
そこには浮き島の上に立つ四人の姿が見える。
魔人を伴い、ヒラヒラと手を掲げるルイズの姿がはっきりと映っていた。
次回の投稿についてですが、諸事情により次週はお休みとさせてもらいます。
詳しくは↓を参照してください。
https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=332680&uid=72215
作品の良かったところはどこですか?
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登場人物
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世界観
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読みやすさ
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話の展開
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戦闘シーン
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主人公の描写・設定
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悪魔の描写
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脚色したオリジナル描写・設定