魔剣異聞録~The Legendary Dark Slayer/Zero 作:月に吠えるもの
「見て! 効いてるみたいよ!」
軽い歓声を上げてルイズは巨神像を指差した。
背中の青い宝石の装飾を壊された巨体が、僅かだがぐらりと揺らいでいる。
「あの宝石を壊されると身体のバランスが崩れるっぽいな。あんだけデカい身体だ。魔力の扱いはデリケートなのさ」
「なら、もう少しぶっ壊してみるか?」
デルフの講釈にダンテは不敵な笑みを浮かべながら頷きだす。
「待ちな。奴から言付けが来てやがる」
「何? ……〝
アグナスを叩き落としたスパーダは騎士の翼の上で直立したまま、今度は巨神像の周りを旋回しながら下半身に向かって下降している。
両膝の下にもそれぞれ青い
「下に落ちたクソ眼鏡を片付けて来いとさ。あの程度じゃくたばらねえんだとよ」
アグナスは真っ逆さまに市街地へと落ちていった。ちょうど歌劇場があった辺りである。
100メイル以上もある高度から地上に激突すれば無事では済まないはずだが、悪魔と化している以上は曲がりなりにもその生命力は馬鹿にはできない。
決して無傷ではないだろうが、放っておいたら何をしでかすか分かったものじゃないのは確かである。
「どうする? お嬢ちゃん達には因縁がありそうだから、トドメを刺したいなら今の内だぜ」
「む~……」
ルイズは微妙な顔で唸った。
ダンテはルイズ達をこの巨神像と戦わせるのを避けようとしているようだが、メッセージを送ってきたスパーダも同じことを考えているようにも感じられた。
ルイズの本心としてはアグナスを直接とっちめてやりたいが、スパーダをサポートしてやりたいという気持ちも強い。
どうしたものかと迷っていると、トリッシュがダンテの前に出てきて言った。
「それなら、私が行ってくるわ」
名乗り出たトリッシュにダンテは目を丸くしだす。
「良いのか? お前にはしんどいんじゃないのか?」
「それは今なら向こうも同じでしょ」
と、小さく苦笑を浮かべるトリッシュは浮き島の縁に向かって歩み出す。
「おい、姉ちゃんよ。奴からまた言付けが来てるぜ」
ちらりとトリッシュは肩越しに振り返ると、ルイズの身に着けるデルフのアミュレットを見返していた。
ルイズだけでなくダンテも同様に彼女に注目している。
「――〝街の者達を傷一つ付けるな。紛い物の魂でないなら、示してみせろ〟――だとさ」
(責任を取れって言ってるのかな……)
スパーダはグロリア――トリッシュの行いに対して明確ではないにせよ、怒りを露わにしているようだった。
どんな事情であれ、彼女の持ってきた魔具がフォルトゥナの地の混乱を大きくしてしまったのは事実なのだ。
ダンテの仲間だというからには敵ではないのは間違いないが、魔帝ムンドゥスの申し子でもある以上、不信感は強いのかもしれない。
「行って来いよ。けじめをつけてきな」
「ええ。……そうさせてもらうわ」
ダンテに促され、トリッシュは向き直ると軽く跳ねて身を宙に躍らせていた。
下からの風を受けて長髪を靡かせながら急降下し、眼下の街中へと姿を消していく。
(……落ちても平気なのかしら)
ルイズは縁から顔を出して下を覗き込み、目を丸くしていた。
もっとも彼女は悪魔なのだから、躊躇なく飛び降りることができるのは納得できる。
事実、隣に立っているダンテはトリッシュを見送ると体勢を立て直そうとしている巨神像を平然と見上げていた。
「さて、俺ももう遊んでいられねえな」
そう呟く彼の表情はそれまでとは雰囲気が変わっていることにルイズは気付く。
笑みは絶えてこそいないが歳に似合わない軽薄さは消え失せ、とても落ち着き払った微笑である。
「離れてな、お嬢ちゃん」
ダンテは背負っているリベリオンを静かに抜き放つと腰を低く落とし、後ろへ引き絞るように逆手に構えだした。
「その技……」
刀身に赤いオーラが纏わりついていくのを見てルイズはハッとする。
魔力のオーラはみるみる濃さを増し、さらに小さな雷光までも弾け始めている。
ダンテが何をしようとしているのか、ルイズにはすぐ理解できた。
「――オラッ!!」
一気に振り上げられたリベリオンから鋭い剣風と共に衝撃波が放たれる。
それはスパーダが特技とする奥義そのものだった。
「もう一発!!」
さらに数度切り返したリベリオンから立て続けに赤いオーラを纏った光の衝撃波が飛び、遠く離れた巨神像へと一直線に突き進んでいった。
『ぬっ……!』
衝撃波は胴体で弾け、またも巨体が僅かによろめく。
かすり傷を負わせた様子こそ窺えないが、あの巨体を怯ませられるのはダンテの放った技がそれだけの威力を秘めていることの証明だった。
『脆弱な者どもめ。〝神〟の戦いに横槍を入れるか』
体勢を立て直した巨神像は光を纏った拳を一気に薙ぎ払った。
下半身の宝石を壊して浮上していたスパーダは一気に真上へ跳躍して巨拳をかわす。浮遊していた鎧騎士の一体を踏み台にして浮き島の一つへと飛び移っていく。
ご丁寧に背中の翼を剥ぎ取っていたが、ルイズ達が感心する暇などない。
「ちょ、ちょ、ちょ、ちょっと!? こっち来るわよ!!」
慌てふためくルイズの横でタバサも身構えだす。
薙ぎ払われた巨神像の手からは四方八方に青い光球が無数にばら撒かれ、軌道を緩やかに曲げながらルイズ達のいる浮き島目掛けて飛んでくるのだ。
遠くから見ると小さく見えたが、近づいてくるとルイズよりも大きい。
「こんなもん、屁でも――」
ガンダールヴの魔人が大剣を構えた途端、激しい銃声が響きだす。
立て続けに鳴り響く銃声にルイズとタバサはダンテの方を振り向いた。
赤いオーラを纏ったその両手に黒と白の拳銃を握るダンテは交互に連射を行い、次々に弾丸を吐き出していく。
弾道に小さな赤い軌跡を残す銃弾は、魔力が込められているのが見て取れた。
(スパーダより速いわ……)
スパーダも二丁拳銃を扱えるが、ダンテの射撃とは少し違う。
彼は基本的に一定のリズムを刻むような感じで二発撃つと一瞬だけ
その圧倒的な速度で放たれた銃弾は飛来してきた光球を次々に砕いて撃ち落としていた。
「掃き溜めの野郎に比べりゃ、大したことないな」
見事な銃捌きだった。ルイズとしては正直な所、褒めてあげたいくらいなのだが、そうもいかない。
「来たわよ! デルフ!」
「おう!」
「ライトニング・クラウド!」
鎧騎士達がついに一行の浮き島にまで飛来してきて、タバサは杖を突き出した。
拡散する電撃を鎧騎士達は散開してかわすが、ダンテの二丁拳銃と魔人の投槍によって次々に蹴散らされていく。
「おいおいおいおいおいおい!?」
「なっ!?」
大きく驚きの声を上げて慌てふためくデルフと一緒にルイズも思わず目を見開いてしまった。
こちらを向いた巨神像はゆっくりと片足を大きく頭上にまで伸ばして振り上げだしたのだ。
「こっち!」
タバサに手を引かれて、ルイズの身体はふわりと一気に高く浮き上がった。
フライの魔法で飛び上がった直後、ルイズ達が乗っていた浮き島は巨神像の振り下ろした踵落としによって粉々に砕かれる。
「ダンテは?」
タバサと共に別の浮き島へ移ったルイズはきょろきょろと見回し、あの赤い男の姿が無いことに気付く。
「あそこ」
杖を突き出してタバサが差し示したのは、また別の浮き島だ。ルイズ達のいる場所とほぼ同じ高度の小さな足場にダンテは立っていた。
『スパーダの血族が何人集まろうが、我らが〝神〟を倒すことはできぬ! 所詮、旧き〝神〟に過ぎぬのだ!』
ちらりとルイズは上方の浮き島の一つを見上げた。
スパーダは両手に閻魔刀を手にしたまま、巨神像を冷たく見据えている。
遠巻きなのではっきりそう見える訳ではないが、ルイズにはスパーダがどんな目で敵を睨んでいるのかが何となく想像できていた。
「ねえ、デルフ。スパーダは何か言ってる?」
「いいや。ノーコメントだな」
ルイズは小さく吐息を漏らした。
最初からスパーダのことなど本心で崇めていた訳ではないにしても、ここまで無礼でいられるのは自信過剰を通り越している。
この巨神像だって元はといえばたった今、散々に貶めているスパーダの血族であるネロを取り込んでその力を利用しているからこそだというのに。
それまでだって信仰と威光を散々利用していたくせに、いざとなれば掌を返して用済みだなんて身勝手にも程がある。
「来る」
タバサが呟くと巨神像は再び大きく腕を薙ぎ払い、大量の光球をばら撒くように放っていた。
スパーダにダンテ、別々の場所にいる二人の魔剣士達を追って魔力の塊が殺到する。
ダンテは二丁拳銃の曲撃ちで、スパーダは二刀流の刃で軽々と叩き落してはいなしていく。
だが巨神像は勢いよく身体を旋回させて裏拳を繰り出し、周囲を薙ぎ払いだしていた。
幸い、二人とも迎撃をしながら間一髪で跳躍することでやり過ごし、また別の浮き島に飛び移っていた。
「こっちはシカトしてやがるみたいだな。弱い奴には興味ねえってか」
「何よ。ムカつくわね……」
ルイズ達のいる場所には攻撃が全く飛んでこなかったし、先程もダンテが攻撃を仕掛けるまではこちらを見向きもしなかったので、それは間違いないだろう。
そもそも向こうはこちらが教団本部から一直線に飛んできたことなど察知していたはずなのに無視していたということは、最初から自分達を脅威とみなしていないからだ。
確かにあの巨神像はスパーダやダンテの力をもってしてもまともなダメージを与えることは難しいようだ。ルイズ達の力では尚更である。
だが、先程のダンテの全力の攻撃で怯ませることはできたのだ。全く無意味という訳ではない。
「よおし、それじゃあこいつを使ってみるか?」
「こいつって、何のことよ?」
「娘っ子の後ろだよ」
何故か意気込みだすデルフに困惑するルイズは振り返ってみた。
それまでまるで意識していなかったが、自分達がいるこの浮き島には大きな装置が置かれているのだ。
横にはさらに大きな装置が鎮座しているのだが、注視するルイズは思わず顔を顰める。
「これって……」
「なあに、動かし方は何とか分かるぜ。大丈夫だ。壊れてもいねえみたいだしな」
タバサもまじまじと目の前にある装置を眺めている。
それはハルケギニアにも存在する武器……魔法を使わずに船を沈める大砲であった。
◆
「オラアッ!!」
振り下ろされた巨神像の拳が鋭い衝撃音と共に弾かれる。
ダンテの四肢は展開されたギルガメスで包み込まれていた。アッパーカットを繰り出した右腕の肘からはパイル状のブースターが激しい蒸気を噴き出し続けている。
――ブンッ
押し返された巨神像の右手首の裏あたりの空間が大きく歪み、無数の斬撃の軌跡が刻み込まれた。
(やっぱり親父も使えんのか)
思わずダンテは笑いを漏らした。
遠い浮き島の上から放たれた斬撃は間違いなく閻魔刀によるものだ。
その技は自分の兄が得意としていた居合術。遠くの敵だろうが空間もろとも容赦なく切り刻む必殺の剣技である。
それでも巨神像の身体にはやはり大したダメージにはならないが、手首にあった宝石は粉々に砕け散っていた。
今の所、彼の手によって背中と両足、そして今の右手の宝石が壊されている。
それに対してダンテはまだ一つも手をつけられていない。
『小癪な……』
巨神像の頭上に浮かぶ光輪にまた光が収束し始めている。
先程も使っていた光線を放つつもりだろうが、まるっきり同じ攻撃を行う訳でないことは察せられた。
敵は二人の敵を一度に片付けるつもりでいるのだ。ならば、あの光線が一方以外にも放たれる可能性は高い。
ギルガメスをしまい、リベリオンに持ち替えて回避に備えようとしたその時だった。
『ぬおっ……!?』
突如、巨神像の巨体が大きく揺らいだ。
側頭部に下方から光の塊が飛んできて直撃したのだ。その拍子に光輪に集まっていた光が瞬く間に消え失せていく。
ダンテが攻撃が飛んできた方向を見ると、そこにはあの少女達の姿があった。
彼女達の傍らには大きな大砲らしきものが見える。
起動する前の巨神像が収められていた教団本部の塔を昇る際、ダンテはいくつかのフロアに同じ物が置かれていたのを目にしていた。
大きく体勢を崩した巨神像は、力を失うようにぐらりと背中から崩れ落ちる。
いくつかの浮いている瓦礫に凭れ掛かりながら倒れ込んでいた。
「悪戯好きなお嬢ちゃん達だ!」
くすりと失笑を漏らしつつ、ダンテは一気に跳躍して巨神像の左腕目掛けて飛び込んでいった。
その反対側にも、少女達の保護者たるデビルハンターが颯爽と飛び降りていくのが見えた。
作品の良かったところはどこですか?
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登場人物
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世界観
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読みやすさ
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話の展開
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戦闘シーン
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主人公の描写・設定
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悪魔の描写
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脚色したオリジナル描写・設定