魔剣異聞録~The Legendary Dark Slayer/Zero   作:月に吠えるもの

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Another Mission <〝神〟の威光-Royal guard> 51章

市街地に面する海上の沖合いには灯台が建つ小島が一つ浮かんでいる。

その上空で浮遊する無数の小さな瓦礫の一つに立つスパーダは眼前の巨神像を見据えていた。

街への被害を少なくするためにさりげなく海の方に誘導してきたが、敵は上手いこと追ってきてくれた。

「やったわっ!!」

近くの空域に浮かぶ浮き島の上でルイズが歓声を上げている。

 

巨神像は激しく仰け反り、今にも背中から墜落しそうなほどに体勢を崩していた。

額の結晶(コア)が砕け、無数の青い破片が飛び散り、辺りに降り注いでいく。

赤い影が身を翻しながら巨神像より飛び退き、ルイズ達のいる浮き島に降り立っていた。

「やるじゃねえか。不良中年にしちゃあ、イカした銃捌きだ」

「中年じゃあねえよ」

デルフの茶化しにダンテは苦笑混じりに嘆息しながら両手に握る二丁拳銃を収める。

(マキャヴェリと良い勝負だな)

ダンテの銃捌きははっきり言ってスパーダ自身も認めるほど、遥かに卓越したものだった。

あそこまで極限までに連射し、かつ精密さを失わないのは銃の性能だけでなく、彼自身が相当に銃の扱いに長けているからこそだからだろう。

スパーダにとって銃はあくまで戦闘の補助が目的であるが、この男はむしろ剣と銃の双方を主力にしているのは明らかだ。

(後は一つ……)

巨神像は辛うじて崩れた体勢を留まらせ、巨体を前に起こしだす。

各所に点在していたコアは今のダンテの破壊により、残す所一つとなった。

それは胸部の真ん中に見える一際大きなものである。

 

「ス……〝(ディー)〟! もう一息よ! あんな木偶の坊、一気に倒しちゃいましょうよ!」

「あんま調子に乗んなよ。トロいっちゃトロいが、一発でももらったらアウトだぜ」

意気揚々と声を上げるルイズにデルフが諫めだす。

(アビゲイルとは雲泥の差)

巨神像を見上げていたタバサはちらりとルイズの方に視線を流して嘆息する。

考えてみればルイズはこの巨神像の攻撃に驚いたり慌てることはあっても、露骨に怖気づくようなことは一切なかった。

タバサにしてもそうだ。かつて相まみえた魔界の王の一角であるアビゲイルは自身も死を覚悟する程の怖ろしさと威圧感を振りまいていたが、不思議とこの巨神像からはそのようなものは一切感じられない。

(一撃は強い。でも、激しくはない)

戦いの中で冷静に分析してみても、この巨神像はルイズの言った通りに木偶の坊と言って良い。

物理的なパワーも魔力も絶大ではあるものの、アビゲイルのまさに破壊の権化そのものに等しかった熾烈さに比べれば散発的でしかも単調である。

殺意と感情が剥き出しな純粋な悪魔達と違って、これは人間が操る傀儡の人形に過ぎない。それ故なのか威圧感も伝わってこない。

無論、だからといって油断などして良い訳ではないが。

 

『脆弱な力しか持たぬ異教徒め。我らが〝神〟の前では無力であることを知るがいい』

「ははっ。それにしちゃあ、お嬢ちゃん達に良いようにやられてるぜ? 神サマ」

ダンテは両手を広げながら堂々と挑発する。

ルイズ達は先程も別の浮き島に放置してあったレーザー砲を動かして巨神像を怯ませたのだ。

その隙にダンテ達は巨神像の攻撃をやり過ごしつつコアの一部を破壊することができたのである。

『この程度の傷など、我らが〝神〟には蚊が刺したほどにもならぬ。所詮、人間の力で出来るのはここまでよ』

ルイズ達を見下し、嘲るその言い様に当人はムッとした顔を浮かべだす。

「確かに、人間は弱いさ。あんたの言う通りにな。……だがな、爺さん。人間には、悪魔には無い力があるんだぜ」

正直な話、ダンテはこの少女達の健闘ぶりには驚かされていた。

魔法を使えるというアドバンテージがあるとはいえ、足手まといにもならず的確に自分達をサポートが出来ているのは、相当悪魔と戦い慣れているからだろうと認めざるを得ない。

「ちっぽけな力だってな、その気になれば俺達にもできないことだってできんのさ。小っちえ虫をあんまり甘く見てると、痛い目を見るぜ?」

ちらりとダンテは視線を横に流し、この少女達の保護者たる男を見やる。

自分の知らない世界で、少女達はあのデビルハンターの元で修羅場を潜ってきたことだろう。

もっと成長すれば、自分がこれまでに出会ってきた数々のデビルハンター達とも肩を並べられるだろうと確信していた。

 

『そのか弱き力が、如何に貴様達の足手まといになるかを教えてやろう』

巨神像の背中に浮かぶ光輪が唸りと共に激しく光を帯び始める。と同時に巨神像自身は上体を大きく前に屈め、その光輪を露わにさせていた。

「Go!(行け!)」

光輪の中心に魔力が集まり、膨れ始めると、スパーダは声を張り上げていた。

「タバサ! 野郎の横に回るんだ! 喰らったらやべえぞ!!」

言われるまでも無くタバサはルイズの手を引っ張ってフライで飛び上がりだす。

ルイズの詠唱も加わって一気に加速し、次々と宙に浮く瓦礫を蹴っては飛び移っていった。

今、巨神像が行おうとしているのは明らかにこれまで行ってきたどの攻撃よりも強大なものに間違いない。

元より自分達には掠っただけでも致命傷になるであろう巨神像の攻撃である。スパーダやダンテならまともに喰らっても平気なのかもしれないが、自分達はそうもいかないのだ。

絶対に捌ききろうなどと考えてはならない。

 

「お、追ってきてるわ!」

巨神像はさらに魔力を集中させていく中、散開するスパーダやダンテには目も暮れずに体の向きや高さをルイズらに合わせてきていた。

「こんにゃろ! 邪魔すんじゃねえ!!」

しかも行く手には何体もの鎧騎士達が飛来してきて、道を塞いできている。

ガンダールヴの魔人が剣を振るって退けていくが、確実にタバサの足は止められていた。

「ちっ……」

「性悪な爺さんだ……!」

敵の意図を悟った二人のデビルハンター達は舌打ちと共に飛び出していた。

一足飛びに次々と瓦礫を飛び渡り、騎士達に纏わりつかれている少女の元へ急行していく。

その間にも少女達を狙う巨神像はさらに膨大な魔力を集中させていった。

 

『異教徒どもよ! 神の威光を受けるが良い!!』

巨神像が一気に仰け反った途端、光輪に集まっていた光が弾けた。

真正面に背中の光輪と同じ大きさの魔法陣が浮かび、轟音と共に光の帯が一直線に放たれたのだ。

その巨大さたるや頭上の光輪から撃ってきた光線など比べ物にならない。

「じょっ、冗談でしょ!?」

さすがのルイズもこればかりは驚くしかなかった。

間一髪、直撃こそしなかったが、ほんの数メイル後ろの空間は巨神像の波動によって覆い尽くされている。

射線上の全てが破壊されていき、足場にしていた瓦礫や浮き島も、鎧騎士達も、何もかもが光の中で塵と化していった。

「足を止めんな! 急げ!!」

巨神像がゆっくり旋回するにつれてどんどん破壊の光は二人に迫ってくる。

一瞬でも立ち止まれば終わりだ。

「……っ!」

降り立った浮き島の上を全速で疾走するタバサは思わず目を見開く。

目の前にはまた鎧騎士の一団が現れ、立ち塞がりだしたのだ。

 

「しゃあねえっ……!」

タバサが急停止すると、ガンダールヴの魔人は二人の前で大剣を正面にかざしだす。

魔人が纏うオーラが輝きを増す中、突如その前に新たな影が降り立っていた。

「Get down!(伏せろ!)」

「しゃがんでな、お嬢ちゃん!」

立ち塞がる赤と紫の影、それは二人のデビルハンター。

腰を落とすダンテは叫びながら身構え、力を込め出す。

赤いオーラが全身を包み込むと瞬く間に形を変えていき、ダンテの上半身を鎧のようなもので覆い尽くした。

頭や肩など所々に鋭い角状の突起を突き出したその姿は、さながら悪魔そのものだ。

スパーダも逆手の閻魔刀を手にしたまま両腕を眼前で重ねだして身構えだす。

二振りの閻魔刀と共に漆黒のオーラがスパーダの全身から湧き上がりだしていた。

 

「きゃっ!」

ルイズとタバサは二人の男達の背中に隠れた途端、追いついた破壊の波動が一行を覆い尽くす。

鎧騎士達は光に飲み込まれ、次々と消え去っていった。

「うおおおおおおっ!!」

デルフが雄叫びを上げる中、魔人は真っ先に盾にする剣と共に全身で破壊の光を受けている。

だがその威力はまさしく破壊の激流そのもの。魔力を吸収するデルフと魔人の力だけでは打ち消しきれていない。

ある程度軽減されているとはいえ破壊の光をまともに受ける二人のデビルハンターはその場で踏ん張りながら持ち堪えていた。

スパーダの全身を赤黒いオーラが瞬間的に膨れては掻き消される現象が断続的に繰り返され、その都度凄まじい衝撃音を響かせている。

 

「こりゃあ効くぜ……!」

両腕を構えたまま踏ん張り続けるダンテは半笑いを漏らしているが、魔力で作られた装甲が徐々に崩れていく。

三人がかりであっても、完全に防ぎきることはできない。

それだけこの破壊の光は桁違いの威力なのだ。山をも吹き飛ばすアビゲイルと良い勝負である。

「……っっ!!」

二人の少女は這い蹲ったまま吹き荒ぶ暴風に必死に耐えていた。

三人の戦士が全力で盾になってくれているからこそ、ルイズとタバサには破壊の力が及ぶことはなかった。

 

『おのれ……〝神〟の威光を防ぐとは……!』

光が収束すると、教皇の狼狽する声が響きだす。

一行が立っていた浮き島は破壊の光を浴びたために塵も残さず消え去っていた。

代わりに流れてきた別の瓦礫の上へと降り立っていた。

「あんまり子供を虐めんなよ。年甲斐もなくみっともねえぜ?」

ダンテの魔力の鎧は跡形も無く消え去っていたが、本人は全くの無傷である。

誰一人として、掠り傷を負った者はいなかった。

 

「あたし達をダシにするなんて、あんた、本っ当に最低だわ!」

タバサと一緒にレビテーションで降りたルイズは力を込めて叫び倒す。

今のが恐らくこの巨神像の切り札だったに違いない。その最大級の攻撃をスパーダ達に確実に当てるため、ルイズ達を狙ってきたのだ。

スパーダやダンテと違って逃げるしかまともに身を守る術がないルイズ達を庇うであろうことを見越していた。だが、わざわざ弱い相手を狙ってくるその魂胆は卑劣極まりない。

卑怯な手を使わず正々堂々と立ち向かってきたアビゲイルの方が遥かにマトモだと思えるくらいである。

(一番の脅威は、教皇……)

巨神像は力そのものは絶大だが、総合的に見れば大したことはない。

最も恐れるべきはそれを操る人間そのもの。勝つためなら手段を選ばない醜悪な人間性であることをタバサははっきりと認めていた。

 

「これ以上、手出しは許さん。――下衆が」

両手に携えた閻魔刀を眼前で十字に重ね、スパーダは巨神像を睨み据えた。

『ならば、今一度――』

再び巨神像が上体を屈めかけた途端、異変は起きた。

突如胸を大きく突き出し、仰け反りながらよろめきだしたのである。

 




今回、登場している舞台の灯台島についてですが、ゲーム本編のミッション12と18のデモシーンで映っているものです。

作品の良かったところはどこですか?

  • 登場人物
  • 世界観
  • 読みやすさ
  • 話の展開
  • 戦闘シーン
  • 主人公の描写・設定
  • 悪魔の描写
  • 脚色したオリジナル描写・設定
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