魔剣異聞録~The Legendary Dark Slayer/Zero   作:月に吠えるもの

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Another Mission <魔剣士、共闘-Memento> 53章

 

「来る」

タバサが杖を手に身構え、ぽつりと呟きだす。

蹲っていた巨神像が轟音と共に巨体を起こし始めていた。膝を突きながらも上半身を起立させ、スパーダ達を見降ろしてくる。

スパーダとダンテは落ち着き払ったまま見上げ、ダンテに至っては笑みすら崩さない。

「さて、後はこいつをぶっ壊すだけだな」

ダンテがリベリオンを肩に担ぎだすと、スパーダも背中のフォースエッジを手にして軽く左右に振りつけだす。

「お前達は離れていろ。後は私達がやる」

「むぅ……」

ルイズは一瞬、不服そうに口を尖らせたが巨神像の方を見上げてさらに苦い顔を浮かべていた。

どうあがいてもルイズ達の力では壊せる訳がないし、かと言ってサポートをしようにも浮き島はほとんど壊され、それらにはもう大砲も置かれていない。

「あの爺さん、何をしでかすか分かったもんじゃねえからな。俺達は下がってようぜ」

デルフの言う通りだった。また自分達を狙ってきて、それをスパーダ達が庇うようでは逆に足手纏いになりかねない。

もうそんなことになるのはごめんだった。足を引っ張ってばかりではパートナー失格だ。

「あんな木偶の坊、思いっ切りぶっ壊しちゃって! 二人ならできるでしょう?」

伝説の魔剣士スパーダと、その血を受け継ぐという未来の息子。

それ程の強豪が揃っていて、できないはずはない。少なくとも、ルイズはそう期待している。

 

「ま、坊やに先を越される前にやりたいもんだ。なあ?」

小さく笑うダンテはスパーダが手にするフォースエッジを見つめた。

本来、ここにあるはずのない父の形見の魔剣の仮初めの姿。

教皇の手元にある方のように、真の力を解放させればルイズが言ったようなことは恐らく可能だろう。

だが今の所、目の前のデビルハンターがそれをする気は無いことを悟っていた。

「なら、お前も本気を出せ。――遊びは終わりだ」

軽く睨みながら声を凄ませるスパーダに、ダンテは笑みを消すと目の前の敵を見据える。

ルイズ達が手を繋いでフライの魔法で浮き島から離れていく中、教皇の声が響いてきていた。

『調子に乗らぬことだ。小僧の力が欠けようとも、〝神〟の健在は変わらぬ。貴様らごときを滅するのは訳ないことよ』

巨神像は海面に突き立てていた両手を引きずり出し、肩まで持ち上げだす。

「強がりは一人前だな。大した根性してるぜ。爺さんよ」

「悪あがきに過ぎん」

巨神像の力は最初と比べれば遥かに弱まっているのは明らかだ。

各所のコアは全て破壊された挙句、重要な動力の一つだったネロも脱出された今、その巨体を操るだけでも一苦労している有り様である。

飛ぶことはもちろん、先刻のような大規模な魔力を発揮することはもはや不可能だろう。

 

『仮初めの力ごときで、真の力を宿す〝神〟を破れると思ったか。所詮、旧き神の力など時代遅れに過ぎぬわ』

教皇の嘲笑にスパーダは逆に冷徹な眼差しを送りながら微かに鼻を鳴らしだす。

「大いなる〝力〟の輝きに目を奪われるか。俗物だな」

言いながらスパーダはフォースエッジを横へと流し、斜に構えだす。

「口で言っても無駄さ。耄碌した野郎には特にな」

すると、ダンテはリベリオンの剣先を巨神像へ突きつけだしていた。

「夢ばかり見てる爺さんに、本当の現実(リアル)って奴を教えてやろうぜ」

 

巨神像は振り上げた右の拳を反対側へ振りかぶると、一気に薙ぎ払って水平チョップを繰り出してくる。

二人は見向きもしないままに跳躍すると、轟然と迫って来た手の甲へ難なく飛び乗っていた。

「「――オオオオオオオォォォォッ!!」」

豪快に振るわれ続ける巨腕の上を二人の魔剣士は咆哮と共に、慣性など物ともせずに駆け抜けていった。

 

 

歌劇場の内部では激しい銃声が立て続けに鳴り響いている。

トリッシュは両手の拳銃を交互に連射し、銃弾を次々に吐き出していった。

不完全な翅を羽ばたかせ僅かに宙を浮くアンジェロ・アグナスはグラディウスの剣を正面に構えて盾にし、弾丸を防ぐ。

アグナスの背後に疑似魔界の魔法陣が無数に浮かぶと、中から炎の礫が弾け飛んだ。

トリッシュは側転し、拡散する火球を辛うじて回避に成功する。

『じ、じ、じ、地獄に落ちろ! め、めめ、め女狐め!』

必死に翅を羽ばたかせて床を滑るようにして迫ってきたアグナスは両手にグラディウスを握り締め、トリッシュに斬りかかってくる。

とはいえその剣筋は非常に鈍く大雑把であり、かわすのは造作もない。

軽やかなステップでアグナスの剣をかわすトリッシュは床に落ちていた別のグラディウスの剣を真上に蹴り上げて掴み取った。

 

『ぬおっ!?』

両手で振るわれるトリッシュの剣筋はアグナスとは比べ物にならなかった。

規模で言えばダンテのリベリオンよりも遥かに大きいグラディウスだが、トリッシュはまるで棒切れでも振り回すように軽々と使いこなしていた。

アグナスの剣を一つ弾き飛ばすと間髪入れずに身体を反転させて自らの剣を薙ぎ払う。

咄嗟に盾にされた剣で受け止められ、分厚い刃同士がせめぎ合った。

「無理しない方が良いんじゃない? あなた、クレドはともかく他の騎士達よりも剣の扱いは慣れてないでしょう?」

『う、う、う、うるさいうるさいうるさい! だだだ、黙れ黙れ黙れ!!』

喚き立てるアグナスは剣を押し出そうと力を込めるが、互いのパワーは拮抗しておりどちらも一歩も引かない。

ギリギリと音を立てながら剣は震えていた。

 

トリッシュは後ろに低く跳び、舞台の上に着地して距離を取った。

「ほとんど互角、ね……」

溜め息を漏らすトリッシュの声音にはくたびれた疲労の色が見え始めている。

実の所、トリッシュは内心苛立ちを感じていた。

本来であれば、このような相手などすぐに始末できるはずだった。それこそ五分とかからない。

だが、今のトリッシュは本気を出すことができないでいる。

(街に被害を出さないのはさすがだけど……困ったわね)

トリッシュは複雑そうに苦笑を浮かべていた。

 

市街地を包み込むように張られている結界は魔界からの干渉を防ぐばかりか、悪魔の力を抑制する機能を有している。結界内に入り込んだ悪魔は魔力はもちろん、思うように身体を動かすこともできなくなり、著しい弱体化を余儀なくされてしまう。

昨晩、一度ラーミナ山から街に降りてきたトリッシュはこの結界の存在を知って驚いたものだ。町外れで出没したスケアクロウが結界の中に入った途端にまるで押し潰されるようにして身動き一つ取れなくなったのだから。

同じく悪魔であるトリッシュは格としては上級悪魔に位置しており結界に抗うことはできたが、それでもしんどかったことに変わりない。

教団本部でもダンテは「しんどい結界だった」とぼやいていた。

 

(向こうも条件は同じだけど、どうしたものかしら……)

得意とする稲妻を操る力を行使しようとすると、結界が強く反応してしまう。そうでなくとも身体が重くて本領を発揮できないのは正直、もどかしかった。

アグナスの疑似魔界はあくまで彼の技術であって、悪魔としての能力という訳ではない。だから転送されてきた人造悪魔達が結界内で自由に動けなくなるのは同じだが、武器として使ったり魔法陣の境目から物理的に攻撃する分には何の制約もかからない。

アグナス自身にも結界の力が働いているおかげで帰天で得た悪魔の力の本領は発揮できていないが、戦況は五分五分と言えた。

 

『バ、バババ、バラバラにしてやる!』

激昂するアグナスの手に今度は二匹のカットラスが握られると、彼は全身を急速に回転させ始める。

空を斬り裂く音を静かに響かせながらコマのように激しくスピンするアグナスはそのままトリッシュ目掛けて突っ込んできていた。

本来であればそのまま跳び越えたい所だが、能力が制限される今の状況では完全に避けきれる確証はない。

グラディウスを突き立てると、その柄頭を足場にし高度を確保して跳躍した。

アグナスがグラディウスを弾き飛ばすと、トリッシュはその反対側へ跳び越えて着地しようとする。

『あ、ああ、あ、甘いわっ!』

だがアグナスはその手からカットラスを手放し、トリッシュへ飛ばしてきたのだ。

「……っ!」

一つに重なりブーメランのように飛んできたカットラスにトリッシュは咄嗟に横へ飛び込む。

間一髪、髪を掠めるだけで外れたカットラスは壁に激突し突き刺さっていた。

 

(スパーダの戒めなのかしら……)

街に細工を施したのが何者であるか、トリッシュは昨晩の時から既に把握していた。

ラーミナ山で出会い、劇場の外でダンテと共に戦っているであろうデビルハンター……彼が張り巡らした結界は悪魔達が人々を脅かすことを許さず、街に平和をもたらしている。

結果として悪魔であるトリッシュもとばっちりを受けた格好になってしまった。

(誰も傷つけるな、ね……)

フォルトゥナの人々を守る。……正直な所、トリッシュはこの街の住民にそこまで心を配ることができなかったのは事実だ。

彼はきっとそんなトリッシュの心意気を咎めていたに違いない。

(紛い物の魂でないなら……)

あのルイズという少女の身に着けていたペンダントの精霊(デルフ)を介してではあるが、怒りをぶつけているのは明らかだ。

 

――寄るな悪魔!

 

――その顔を二度と見せるな。魂の灯火が消えた、作り物の顔をな!

 

直接彼と顔を合わせたら、果たしてそう言われるのだろうか。

世界は違っても、この素顔は元々彼が愛した女性のもの。ある意味、紛い物であることは事実なのだ。

自分が魔帝ムンドゥスの産物であることを、彼は見抜いているに違いない。

遠い過去から来たにせよ、この素顔を見せる訳にはいかなかった。

 

 

巨神像の周りには数えきれない程の鎧騎士達が飛び交っていた。

いや、騎士だけではない。グラディウスが刃の翼を広げて滑空し、巨腕の上に立つ二人の魔剣士を取り囲んでいる。

「総動員って訳か。本気を出してきたな」

背中を合わせるダンテとスパーダの周囲には無数の赤い剣が浮かび上がっていた。

ダンテの背と両肩には先程ルイズから返してもらったルシフェルの魔具が装着されている。

それにより生み出された小剣がスパーダの幻影剣に混じり、当人の手にも数本が握られていた。

アルト・アンジェロが剣を振りかざし合図をかけると、ビアンコ・アンジェロ達は攻撃を開始した。

前後左右、さらに上空とあらゆる方向から次々と槍を構えて一斉に突撃してくる。

 

――ま、無駄だろうよ。

 

だが騎士達は逆に射出された刃の群れに貫かれ、動きが鈍る。

直後には刺さった刃が次々に爆発し、砕け散っていった。

「オマケだ!」

ダンテは両手の小剣を六本まとめてアルトに投げ放ち、全身から翼に至るまで串刺しにしていた。

力を失って墜落していくアルトは爆発に飲み込まれ、跡形も無く粉砕される。

 

――また来たわよ!

 

巨神像の左手が振りかざされ、一気に振り払われてくる。

だが二人は跳躍して難なくかわすばかりかその手に乗り移っていた。

互いに愛剣を突き刺したまましがみ付いていると、左手が肩の上まで振るわれたのを見てさらに高く跳躍する。

一気に振り上げた愛剣の刀身には赤いオーラが纏わりついていた。

「オラアッ!!」

ダンテの掛け声と共に振り下ろされた二つの剣は巨神像の頭から横に伸びる右の角へ、ほぼ同じ個所に叩き込まれる。

轟音と共に角は根元から砕き折れて分断され、刎ね飛ばされていった。

 

――やったわ! 折った、折ったわよ!!

 

想像を絶する強度を誇ったはずの巨神像の外殻だが、やはりその耐久力は圧倒的に落ちている。

ダンテもスパーダも渾身の力で繰り出した一撃だが、その結果はこの通りだ。

これなら完全に破壊できるのも現実になりつつある。

問題は、ネロが全てを終わらせるまでに済ませられるかだ。

 

『おのれ……! 〝神〟の身体を傷つけるとは!』

肩に着地すると教皇の声が響いてきた。驚きや怒りで満ちると同時に焦燥までも感じられる。

二人は振るわれ切った左手が迫ってくるのを見て、今度はそのまま巨神像の背中側へと飛び降りていた。

跪いたままの巨神像はもはや立つことも儘ならない。向きを変えるには時間がかかるので事実上、背後は死角になる。

 

僅かに残っている浮き島に降り立ったダンテとスパーダは周囲に目を配りだす。

疑似魔界の魔法陣が次々と浮かび上がり、その中から無数の影が飛び出てくる。

「鳥野郎に加えて、ワンちゃんにお魚ってか?」

周囲を駆け回るバジリスクや刃の背びれを露出しながら地中を泳いでいるカットラスにダンテは軽く鼻を鳴らす。

前からはグラディウスが滑空し、後ろからカットラスが飛び出し、刃を広げて突っ込んできたが、激しい銃声と共に墜落する。

背中を合わせる二人の手にはそれぞれ水平二連式のショットガンが握られ、正面に突きつけられていた。

微妙に形は違うが共に連続射撃が可能なマガジン装填式のショットガンだった。

 

「そらそらっ!!」

ダンテはその場でコヨーテ・(エース)をヌンチャクのように四方八方へ振り回しながら、次々と散弾を撒き散らす。

飛び掛かろうとしていたバジリスク達は散弾を浴びて次々に吹き飛ばされていった。

「大した腕だ」

肩越しに振り返りながらスパーダは囁いた。

スパーダもダンテと同じようにスパルタン――都合上、これもそう呼ぶことに決めた――を振り回しながら散弾をまき散らしたが、ダンテの射撃よりもテンポは遅かった。

レヴェナントで実行するよりはやりやすかったが、それでもダンテ程スムーズには撃てない。

この男の射撃技術は自分より遥かに上であることを改めて実感させられる。

 

褒められたダンテもちらりと肩越しに振り返り、目を丸くした。

スパーダが構えているスパルタンの銃身に刻まれている小さな文字に目が行ったのだ。

〝BY .45 ART WARKS〟というロゴに。

「婆さんの……」

思わず嘆息が漏れてしまった。

「知り合いか?」

ダンテがスパルタンの刻印を見ているのにスパーダは気付いていた。

彼の顔には驚きと共に喜びの色が薄っすらと浮かんでいるのである。刻印を刻んだ者、すなわちこのスパルタンの製作者と顔見知りであることを悟ることができた。

「ま、ちょっとな……」

「良い仕事をしているみたいだな。気に入った」

「大事に使ってやってくれよ。婆さんもきっと喜ぶぜ」

言う間にも二人は互いのショットガンを自分と互いの脇越しに背後へ向けて発砲する。

また飛び掛かってきたバジリスク達は至近の散弾を纏めて浴び、今度はその身を砕きながら散乱させていた。

「何という名だ。一応聞いておきたい」

「……ニール・ゴールドスタインさ」

 

――どうしたのかしら?

 

――珍しくシケてやがる。

 

ダンテの声はどこか切なそうな響きが込められていた。

(良かったな……婆さん。親父が、あんたの銃を使ってくれてるんだぜ)

ニール・ゴールドスタイン。かつて〝45口径の芸術家〟と謳われた銃職人。

もう20年も前にダンテも世話になった女性だった。

ダンテの愛銃であるエボニーとアイボリーは彼女がダンテのために造り上げた一品であり、大切な形見でもある。

(本当に良い腕してるぜ。婆さん)

スパーダが持つショットガンは元々、彼女が暇潰しで仕上げた珍品だ。

店に飾ってあるのを何度も見たことがあったが、売り物ではないのでダンテにさえ売ろうとはしてくれなかった。

一度だけ試し撃ちはさせてくれたが、普通のショットガンよりも使い心地や使い勝手もダンテにはよく馴染んだのである。

それ以降、仕事先でコピー品を拾ったりすることもあったが、彼女のオリジナルと比べれば微妙に使い勝手は良くなかった。

 

「その名前……憶えておこう」

スパーダが呟いた途端、二人は腰だめにショットガンを引いて自らの正面――互いの後方に向けて一気に飛び出した。

魔法陣から新たな鎧騎士が姿を現わそうとしていたが、滑走しながら突進し、互いのショットガンを敵の懐へと突き出し発砲する。

ゼロ距離で放たれた散弾は強固な鎧を砕き、重い体を難なく吹き飛ばした。

 

(あんたの真似してみたが、中々いけてると思うぜ)

ダンテが持つコヨーテ・Aも実の所、彼女が造ったそのショットガンをモデルにして自ら仕上げたのだ。

事実上、それまで手にしてきたコピー品ということにもなってしまったが、自分用にカスタマイズしたのだから使い心地はオリジナルと寸分違わない。

(掃き溜め共に使われるよりは、親父が使ってくれた方が良いよな)

彼女のこのショットガンには悪い思い出もある。

憎き魔界の帝王が送り込んできた刺客の手に渡り、一時はダンテの命を脅かしかけたが、辛うじて退けることはできた。

その時の品が紆余曲折を経て、父の手に渡った。

悪魔達から人々を守るために使われるなら、きっと彼女にとっても誇らしいはずだ。

ニール・ゴールドスタインの三つの形見の品は二人の魔剣士の手の中で、丁重に使われることだろう。

 

作品の良かったところはどこですか?

  • 登場人物
  • 世界観
  • 読みやすさ
  • 話の展開
  • 戦闘シーン
  • 主人公の描写・設定
  • 悪魔の描写
  • 脚色したオリジナル描写・設定
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