魔剣異聞録~The Legendary Dark Slayer/Zero   作:月に吠えるもの

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Another Mission <スパーダの意志-Jack pot> 55章

 

浮遊していた残りの浮き島は全て巨神像の巨腕によって砕かれ、一つも残っていない。

それでも海上には瓦礫と混じって破片がいくつか飛び散り漂っている。

ルイズとタバサはフライの魔法で街に程近い場所に浮かんでいたその一つへと移っていた。

水面に僅かに顔を出す程度なので、ちょうど二人がくっつき並んで立てる分のスペースしかない。

「これで六発目」

タバサが呟く中、巨神像の左の鎖骨の一部が砕け散る。

「硬えな。ハリボテでも神サマって名乗るだけはありやがる」

スパーダとダンテは幾度も渾身の一撃を繰り出しては巨神像の身体の一部を砕いていた。

右の角に始まり後頭部、左肩、右胸、右上腕、そして鎖骨に愛剣を同時に叩き込んでは削ぎ取っている。

徐々にだが確実にダメージを与えているのは間違いないのだが、それでもまだ巨神像の動きが止まりそうな兆候は見えない。

 

「もう……一気にぶっ壊せないのかしら?」

少々やきもきしながらルイズは唸っていた。

魔剣士スパーダの力ならとっくに拳や腕の一本は破壊していてもおかしくはないのに、二人も揃っていながらチマチマと削っていくだけなのが実にもどかしい。

「ま、それだけあのデカブツが硬えってことだろ」

デルフの言うことは恐らく正しいのだろう。

だがルイズにはスパーダ達がまだ完全に全力を出し切っているようには見えなかった。

『Power of the Sword!!(スパーダの力を思い知るがいい!!)』

先程の後頭部への一撃でどこか壊れたのか、巨神像の頭上には遠目からでもはっきりと見える巨大な映像が浮かんでいる。

そこにはネロと完全に悪魔の姿と化した教皇サンクトゥスとの激闘が映し出されていた。

宙に浮かぶサンクトゥスが手にする剣を振りかざすと、赤黒いオーラに包まれながら剣の刀身がみるみる倍近くに巨大化していく。

 

(魔剣、スパーダ……)

禍々しい肉塊に分厚い三日月形の刃が張り付いたような、おおよそ剣とは思えない威容。ルイズの目を何より惹くのはその肉塊の一部に嵌め込まれている赤い宝玉のような飾りだ。

スパーダのスカーフに飾ってあるアミュレットに付いているのと瓜二つである。

『どうした……! それでも元は騎士団長かよ……!!』

振り下ろされた巨剣の一撃はネロの背後に浮かぶ魔人が腕を伸ばして受け止めていた。

サンクトゥスは黒い目の中で赤い瞳を爛々と怒りに輝かせながら睨みつけている。

(あれと同じだわ……)

ルイズはサンクトゥスが持つ魔剣に見覚えがあった。

いつだったか、夢の中でスパーダが手にしていた剣と全く同じもの……。

そもそも柄の部分の意匠は今もスパーダが持っているフォースエッジと同じなのだ。多少、巨大化して鍔部分が鋭くなってはいるが。

(それじゃあ、あの剣もあんな風にできるってことよね?)

あの魔剣スパーダがフォースエッジの真の姿だというなら、何故スパーダは真の力を解放しようとしないのだろう。

羅王アビゲイルの戦いの時もそうだったし、今までもそうだ。真の力を使えば楽に強大な悪魔も倒せたはずなのに、何故か彼はそれをしようとしない。

今のままでも充分過ぎる程強いのは御覧の通りだが、スパーダの真意がルイズにはよく分からない。

ダンテには本気を出せと言っておきながら、結局は自分も本気を出していないということになるのだから。

 

 

巨神像は休みなく腕を振り回して周囲を飛び回るスパーダとダンテへの攻撃を緩めようとはしない。

だがさすがに腕が届く範囲外に出ると攻撃を止めてしまう。

まともに歩くことも儘ならない巨神像は両手を海上に突き立て、巨体を支えながら這うように二人に向きを変えて近づこうとしていた。

スパーダとダンテは共に騎乗する翼の上で互いに剣を無造作に垂らしたまま眺めている。

正確には、巨神像の頭上に――

『お、おのれ……こんなはずでは……!』

浮かび上がる巨大な映像の中でサンクトゥスは魔剣スパーダに視線を落としながら狼狽している。

『……てめえの剣なんざ、クレドに比べりゃ大したことねえよ』

そう吐き捨てるネロの全身からは魔剣スパーダとは対照的な青白いオーラを湧き上がらせていた。

右手で閻魔刀をしっかりと握り締めながらサンクトゥスを睨み据えるその瞳は、同じように赤く染まっている。だが、サンクトゥスのような禍々しさは微塵も感じられない。

「良い眼をしてるぜ。坊や」

スパーダと共に刀身に魔力を溜め込んでいく中、ダンテは小さく微笑んだ。

 

『……魔剣スパーダよ! 我に力を与えよ!!』

『……っ!』

サンクトゥスが叫ぶと高く掲げる魔剣を包むオーラが弾け出し、周囲に稲妻の嵐をまき散らす。

夥しい力の余波に怯みながらもネロはサンクトゥスから視線を外しはしなかった。

魔剣スパーダは再び巨大化すると共に瞬く間に形を変え、刀身がより長く鋭くなっていく。

と同時に宙を浮くサンクトゥスの背中に光の翼が生じだした。

炎のように揺らめく紅蓮のオーラに包まれながら、サンクトゥスは魔剣を大きく後ろに引き絞る。

『いいぜ。勝負だ……!』

不敵な笑みを浮かべたネロも腰を落として身構えだしていた。

 

魔剣が重く唸る響きだけが静かに続く中、ネロとサンクトゥスは睨み合ったまま動かない。

青と赤、相反するオーラに身を包む両者を一行はじっと見守っていた。

『行くぞ、小僧!!』

サンクトゥスは魔剣スパーダを突き出しながら滑空し、一気に突進してきた。

全身を包むオーラは勢いのままに鋭くなり、周りの壁や床を大きく削りながらネロ目掛けて迫る。

ネロはその場で高く跳躍して突撃を飛び越した。だが、サンクトゥスは即座に反転しながら軌道を修正し、急加速してネロに再度突撃する。

 

――あ、危ない!

 

突撃しては避けられるが、その速さはこれまでの攻撃とは比べ物にならない。一発を掠っただけでも危ういかもしれない。

 

――ちょっ……何、ボーッとしてんのよ!!

 

――坊主の奴、大博打でもする気か?

 

紙一重で避け続けるネロだったが、今度は避ける素振りすら見せずに反転しようとするサンクトゥスを見据えていた。

いつの間にか閻魔刀は消えており、右手の拳を固く握り締めている。

『You're prepare for judgment!!(裁きを受けるがいい!!)』

天井付近からサンクトゥスは一直線に猛然と突進してくる。

だがネロはとても落ち着き払った表情のまま、真っ直ぐに迫る敵を睨んでいた。

魔剣スパーダの刃がネロの眼前まで迫った途端――

 

『オラアッ!!』

『ぐぶっ……!!』

サンクトゥスの身体が衝撃と共に大きく跳ね上がりだす。

 

――やったわ! ネロ!!

 

――ナイスショット。

 

「ヒューッ……」

ダンテは思わず小さく口笛を鳴らして感嘆とした。

ネロのアッパーカットに合わせて現れた幻影の魔人が拳を突き上げ、サンクトゥスの突進を妨げたのだ。

だがそれだけでは終わらない。さらにネロは眩い光を放つ右腕を大きく引き絞ると、魔人は同じ動きをしながら巨大化していく。

『――Jack pot!!(大当たりだ!!)』

バランスを崩して宙を舞うサンクトゥスに魔人は豪快なストレートを叩き込んだ。

魔剣スパーダもろとも紙のように吹き飛んだサンクトゥスはそのまま壁に激突し、めり込んでしまう。

 

「チェッ、坊やに先に決め言葉を言われちまったぜ」

チラリとスパーダはダンテの方へ視線を流すと、彼は満面の笑顔を浮かべていた。

その口振りは悔しそうな反面、どこか嬉しさも混じっている。

『お……の、れ……』

『逃がさねえ!!』

めり込んだままのサンクトゥスが光に包まれながら壁の中に沈み込もうとしているのを見て、ネロは即座に右腕を突き出した。

巨大な幻影の腕が伸び、まだ突き出ている魔剣スパーダの刀身を鷲掴みにすると、サンクトゥスはそれ以上壁の中に潜れなくなる。

『出てきやがれ!!』

力一杯にネロが腕を引くとサンクトゥスは壁の中から一気に引きずり出され、外に飛び出ていた。

『ぐぅ……』

床の上に倒れたサンクトゥスは息も絶え絶えだった。

ネロは閻魔刀を再び手にし、静かに歩み寄っていく。

 

――ざまあみなさい! ネロ、思いっ切りやっちゃいなさいよ!

 

――さっさとトドメを刺さねえと、舌なめずりすんのはちとやべえんだがな。

 

スパーダが僅かに目を細める中、サンクトゥスはよろよろと立ち上がりだす。

『何故だ……! 魔剣スパーダよ!』

手にする魔剣を眼前で見つめながら困惑の声を上げていた。

『伝説の魔剣の力が、この程度のはずはない! 何故、我に力を与えてくれぬ!? 一体、何が欠けているというのだ!?』

嘆くように喚き立てるサンクトゥスに、ダンテは溜め息を漏らしながら肩を竦めていた。

「そんなもん、決まってるよなあ?」

ほくそ笑みながらスパーダの方を見ると、彼は冷めた目付きでサンクトゥスを見据えている。

『てめえ、それでも教皇かよ……』

足を止めたネロも溜め息交じりに呆れながら顔を顰めだす。

『昨日の魔剣祭でも言ってただろうが……スパーダは俺達人間を愛して、剣を振るってくれたって……』

サンクトゥスは後退りながら顔を歪めていた。

『みんなに散々説法しておきながら、一つも信じてなかったのか? なら、てめえは何を信じてやがったんだ?』

軽蔑しきった視線でネロは閻魔刀の刃先を突きつける。

『たった一人の人間を愛する心もない、そんな腐った性根の下種野郎にスパーダが力を貸すはずがねえだろうが』

静かに糾弾され、逆に説法を受けるサンクトゥスはギリギリと歯を食い縛りながら睨み返している。

 

「……だってよ」

ダンテはニヤニヤと笑みを浮かべたままスパーダをじっと見つめだす。

スパーダもまた僅かに口端に小さな笑みを零していた。

確かにネロの言うことは本質を突いている。……もっとも、彼が言ったような回りくどい理屈などではない。

何も難しいこともない、たった一つの単純(シンプル)かつ率直(ストレート)な答えなのだ。

「奴は気に食わん」

吐き捨てるようにスパーダは呟いた。

突き詰めてしまえば、たったそれだけの感情論で全て完結してしまうのだ。

 

『てめえの誇大妄想のせいで、みんな犠牲になったんだ。トニオも……サガンも……ジョシュも……それに、キリエとクレドの両親も……!』

眉間に深い皺を寄せるネロの閻魔刀を握る右手に力がこもり、震えている。

『……みんなの仇だ』

閻魔刀もろとも包み込む青白いオーラが激しさを増し、まるで炎のように揺らめいていた。

『You shall die!!(死にやがれ!!)』

『ちぃっ……!』

サンクトゥスは必死の表情で咄嗟に片手を突き出し、閻魔刀を薙ぎ払おうとしたネロに稲妻を放った。

 

――ネロ!

 

電撃に体を焼かれながらもネロの動きは止まらず、閻魔刀を力一杯に袈裟へ薙ぎ払った。

剣閃が煌めき、美しい軌道を描く。

 

――ちょっと浅かったか。

 

『グゥ……!!』

閻魔刀の一撃は間違いなくサンクトゥスの身体を捉えていた。だが後ろへ滑るように下がっていたため、完全に両断するには至らない。

左肩から右腰にかけて深く斬り裂かれたサンクトゥスはドス黒い血を撒き散らしながらよろめく。

『お……おのれ……』

『さすがのてめえも、この剣で斬られちゃ再生できねえみたいだな』

一度ネロはレッドクイーンでサンクトゥスを真っ二つに両断する程の一撃を与えていたはずだった。だが、不思議なことに当人の身体には傷一つつけられなかった。

その肉体はほとんど帰天の儀式で手に入れた悪魔の魔力によって構成されており、通常の物理的な手段では傷つけられないのだろう。

だが、ネロの悪魔の右腕や魔を分かつ力を宿す閻魔刀なら話は別なのだ。特に閻魔刀は致命傷になりかねないはずである。

 

『……小僧、貴様は〝愛〟が大切だと言ったな』

「あん?」

突然、サンクトゥスは勝ち誇ったような笑みを浮かべだす。

仮にも教皇であった者とは思えないような下劣さに満ちていた。

『その〝愛〟のためなら、貴様がすべきことは分かっていよう』

『何?』

片眉を吊り上げるダンテのようにネロも戸惑いだす中、壁の一部の光る膜の中に何かが映し出される。

 

――あいつら……!

 

「性懲りも無くゲスいことしやがる」

スパーダとダンテは共に街の方を振り返った。

遠目ながら海沿いの街のすぐ上に、無数の小さな影が飛び交っている。

『キリエ……! ――クレド!』

巨神像の映像にはネロの愛する女性が映り込んでいた。

宙を浮く鎧騎士の一団がバラバラになっては零れ落ちていく。

騎士達の前には彼らとは異なる翼を広げる者が立ちはだかっていた。

それは隻翼を羽ばたかせる精悍な天使だった。

 

作品の良かったところはどこですか?

  • 登場人物
  • 世界観
  • 読みやすさ
  • 話の展開
  • 戦闘シーン
  • 主人公の描写・設定
  • 悪魔の描写
  • 脚色したオリジナル描写・設定
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