魔剣異聞録~The Legendary Dark Slayer/Zero   作:月に吠えるもの

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Another Mission <真の天使-Savior> 56章

 

ちょうど教皇サンクトゥスが魔剣スパーダを用いた奥義を繰り出そうとしていた頃。

フォルトゥナの住民達は困惑と混乱の中、巨神像の頭上に映し出され続ける映像に釘付けになっている。

キリエもまた祈りと共に映像の中で戦い続けるネロを見守り続けていた。

危うくなりそうになると何度悲鳴を上げそうになったか分からない。不安と緊張に苛まれながらも、決して目を逸らすことはなかった。

「え……!?」

何の前触れも無く、空中から無数の影が降りてきたのだ。

キリエが戸惑う暇もなく、目の前に姿を現わしたのは純白の鎧を身に纏い巨大な槍を手にする騎士達(ビアンコ・アンジェロ)だった。

「な、何だ!? こいつら……!」

宙を浮く鎧の騎士達にホテルの店主だけでなく、近くの住民達までもが狼狽している。

騎士達は彼らには目も暮れず、沈黙のままにキリエを見降ろしていた。

ふと、騎士達の遥か後ろに別の金色の鎧騎士(アルト・アンジェロ)が一体だけ降りて来るのが見える。

 

(わ、私……?)

キリエが思わず後退るとそれに合わせて鎧騎士達は静かに距離を詰めようとしてくる。

鎧騎士達の無機質な威圧感にキリエは恐怖を感じざるを得ない。

そして悟った。相手が狙っているのは、自分ただ一人だけだと。

「あっ……!」

足がつまづいて転んでしまい、尻餅を突いてしまう。

「……キ、キリエ!?」

周りの住人達の悲鳴の中、鎧騎士の一体がキリエに手を伸ばそうとした。

 

「え……?」

見開いたキリエの視界の中で、鎧騎士が突如横に吹き飛んでいった。

代わりに目の前に降り立ったのはまた新たな騎士だった。

鎧騎士達とは違う、白毛に包まれたその騎士は人の姿をしていない。

隻翼を生やし、左腕に備えた大きな盾を構えるとキリエを庇うように鎧騎士達の前に立ちはだかっていた。

『キリエ! 逃げろ!!』

振り返った騎士が発した声にキリエは驚きと共に激しく困惑した。

間違いなく、それは騎士団長である兄のものだったのだ。

 

『――Jack pot!!(大当たりだ!!)』

遠く巨神像の頭上に浮かぶ映像の中では、ネロが歓声と共に教皇サンクトゥスを巨大な腕で殴り飛ばしていた。

 

 

無傷だった二体のビアンコ・アンジェロが左右に散開し、高速で迫ってくる。

アンジェロ・クレドは隻腕となった右手と共に隻翼を大きく広げると、自身の左右に無数の小さな投槍(ジャヴェリン)を発現させた。

一斉に放たれた投槍はビアンコ・アンジェロ達に打ち込まれて動きを止め、直後には閃光の煌きと共に胴体が真っ二つに両断されていた。

右手を失い、隻翼を剣の代わりに振るったクレドはキッと空を睨む。

上空には疑似魔界の魔法陣が次々に現れ、ビアンコ・アンジェロ達が姿を見せていた。

(やはり、キリエを捕らえる気か……!)

教皇サンクトゥスの思惑はクレドには判り切っていることだった。

ほんの数時間前、主命を受けたクレドがしくじった時のように今もまた、自らがネロに敗れた時の保険としてキリエを利用しようというのだ。

 

『逃がさねえ!』

現にサンクトゥスは完全にネロに圧倒されており、敗北するのは時間の問題である。

正直、クレドはネロが発揮した力に驚かされた。

それが悪魔のものとはいえ、伝説の魔剣スパーダの力を物ともしない圧倒的な力。

妹が受け入れ、妹を救ったあの力と彼の心は決して(よこしま)なものではない。

 

(これ以上、あなたの好きにはさせぬ……!!)

アンジェロの一団は一斉に槍を突き出し、イクシードの騒音と共に突っ込んでくる。

構えた左腕の大盾に衝突するが、クレドは一気に押し返し弾き飛ばした。

他のアンジェロ達が迂回しようとするのを見ると一気に飛び上がり、隻翼を構える。

『ハアァッ!!』

その場で激しく身体を一転させながら、翼を薙ぎ払った。

全方位に広がる斬撃の衝撃波はアンジェロ達をまとめて切り刻み、バラバラにしてしまう。

(やはり、結界の力は強い……)

立て続けに翼を振るう中、クレドは僅かによろめきだしていた。

街全体に張り巡らされている結界はクレドの肉体を押さえつけるかのような重圧をもたらしている。

帰天の力を解放していない時はクレドにもアグナスにも全く効力をもたらさなかったが、今は存分に発揮されている。

結界にとって今のクレドは街で暴れている悪魔の一体に過ぎないのだ。

ビアンコ・アンジェロ達にも結界の力は作用していて若干、動きはぎこちない。だがクレドのように苦痛を感じてはいない分、動きの乱れは一切見られない。

 

(たとえ、この身が砕けようとも……私は……!)

思うように身体を動かせず立つだけでも辛い。それでもクレドは全身全霊の力を振り絞って身体を動かし、結界の外とほぼ変わらない運動力を発揮していた。

動けば動くほど、技を繰り出せば繰り出すほどに苦痛と激痛が襲いかかり、徐々に激しさを増していく。

『ウオオオオオオッッッ!!』

だがクレドは決して屈しなかった。

フォルトゥナの民を、そして何より掛け替えのない妹を守る。

自分が何をすべきなのか、本当は何をしたかったのかを自覚した以上、必ず成し遂げなければならない。

たとえ悪魔と恐れられ、拒まれようとも。

ただそれだけの固い信念が、クレドを突き動かしていた。

 

『ぐあぁっ……!!』

幾度とない翼の薙ぎ払いの直後、ビアンコ・アンジェロの槍がついにクレドを捉えた。

脇からの突撃がクレドの肉体を貫き、さらに一体、もう一体と前後左右からぶち当たっては串刺しにしていく。

「兄さんっ!!」

『クレドォーーーーッ!!』

逃げずに留まっていたキリエの悲鳴と共に、ネロの絶叫までもが轟き渡った。

 

 

ネロは愕然と映し出される映像を見つめていた。

全身を貫かれたクレドは力なくぐったりと項垂れるかに見える。

だがすぐに顔を上げ、左右の鎧騎士を蹴り飛ばすとさらに身体を激しく振るって槍ごと残りを振り払っていく。

凄まじい精神力だった。ネロも同じ目に遭って立ち直るのに時間がかかったというのに、クレドはそれ以上の深手を負いながらもすぐ持ち直したのだ。

(あいつら……)

別の鎧騎士がキリエを捕まえるべく迫ろうとするが、突然明後日の方へ吹き飛びだす。

タバサとルイズが手を繋ぎながら滑空しているのが見えた。タバサが杖を突き出している所から、風の魔法で吹き飛ばしたようだ。

だが安堵などしていられる状況ではない。

 

眉間に皺を寄せてネロは振り返りだす。

「よくも……てめえ……」

いつの間にかそこにいたはずのサンクトゥスの姿は消えていた。

だがどこに潜んでいるかは右腕の反応で分かる。

ネロは歯を食い縛りながら、天井の一点を睨みつける。

『それは何だ? ……それが貴様の〝愛〟というものか? 肉親ですらない者に?』

「黙れ……!」

響き渡るサンクトゥスのせせら笑う声にネロは拳を強く震わせていた。

『クレドも救いようのない愚か者よ。そんなに家族が大事なら、いくらでも代わりを造れるというものを……貴様の恋人のようにな』

「……っ!」

どこまでも下劣な物言いにネロの怒りは爆発しそうだった。

クレドの信念を否定し、愛する家族の命も奪い、残されたキリエまでも人質や替え玉として利用しようとする下種の極み。

こいつにとって全ての人間は自分の道具であり、〝救済〟とかいう訳の分からない手段を成すための生贄であり、虫けら同然なのだ。

 

『さあ、閻魔刀を捨てるがいい。さもなくば、貴様の恋人は――』

勝ち誇るサンクトゥスの声が突然途切れた。

ネロもよろける程の激しい衝撃と震動が部屋全体を揺るがしたのだ。

またダンテ達が外でこの巨神像を壊そうとしているのだろう。そう思った時だった。

 

『Silence, Scum.(黙れよ、てめえ)』

ダンテの声が静かに響き渡りだす。

ネロは右腕を押さえながら思わず息を飲んだ。

ドスの効いたその声音は、それまでの歳に似合わない不良中年のような軽薄だった空気が完全に消え失せている。

『How much longer are you going to keep zapping.(いつまでも調子に乗るんじゃねえぞ)』

ダンテの声もまた怒りに満ちているのが判る。

右腕はビリビリと痺れるように激しく感応していた。

まるで、あの時の〝(ディー)〟のように、威圧感溢れる魔力を感じ取っていたのだ。

 

作品の良かったところはどこですか?

  • 登場人物
  • 世界観
  • 読みやすさ
  • 話の展開
  • 戦闘シーン
  • 主人公の描写・設定
  • 悪魔の描写
  • 脚色したオリジナル描写・設定
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