魔剣異聞録~The Legendary Dark Slayer/Zero   作:月に吠えるもの

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Another Mission <土産と追憶-Vergil> 61章

すっかり日も落ちた頃、ネロは城の地下にある研究施設を訪れていた。

「あったあった。これだ」

書斎の中を物色していたネロはいくつかのファイルに目を通し、目当ての物を見つけるとホッと息をつく。

ルイズとタバサが隣に寄ってくると、ネロが目を通すファイルを覗き込んだ。

そこにはネロの愛剣であるレッドクイーンに似た剣の図面がいくつも記されていた。

「しかし、あのクソ眼鏡がいなくなっちまうのは、それはそれで厄介になっちまうなあ」

「仕方ないさ。やれるだけやってみるよ」

嘆息するデルフにつられてネロは苦笑した。

 

技術局長アグナスはダンテの仲間のグロリアことトリッシュが仕留めている。

その現場となった歌劇場に死体は残されておらず、衣服やモノクル、私物らしきメモ帳が落ちているだけだった。

ネロにしろルイズにしろ、アグナスはサンクトゥスに劣らない外道で憎たらしい相手だったので死んでもらっても一向に構わなかった。

だがネロにとってはアグナスの死で少し困ったことが起きてしまった。

愛剣のレッドクイーンを含め、教団騎士の用いる機動剣のメンテナンスを今後どうするかだ。

簡単な手入れであればネロ達でも行えるが、複雑な整備となると技術局の人間でなければ不可能である。その技術局がアグナスと共に消滅した以上、故障した時に修理をしてくれる者がいなくなってしまうのだ。

それはさすがに困るため、ネロは機動剣の設計者であるアグナスの資料の中から設計図なりを求めてこの書斎に来たのである。

目当てのものは割とすぐに見つかったのは幸いだった。

 

「お前達、本当にここの物を持っていくのか?」

用事は済んだので保管庫の大広間へと出ると、ネロは溜め息を漏らして顔を顰めだす。

実験素材を収めているカプセルのチャンバーの大半が開放されており、中身は空になっている。

「あたしに聞かないでよね。……〝(ディー)〟が決めたことなんだから」

「危険なブツなら、持ってってくれるなら有難いけどな……」

ルイズとネロは共に片眉を吊り上げていた。

先刻、スパーダはこのカプセルの中に収められていた備品をいくつか回収していたのである。

魔剣教団が世界各地の遺跡などで集めた魔具を元の世界へ持ち帰る気でいるようだった。

書斎にあったアグナスの膨大な研究資料もまた利用するつもりのようだが、当然そのまま持ち帰るなど不可能である。そこでドッペルゲンガーに内容を記憶させてハルケギニアに戻ったらそれを元に改めて写本とするらしい。

 

「まあ、安心しな。野郎だったら悪いようにはしないさ。お前さんもあのクソ眼鏡の遺産はたっぷり利用してやれば良いじゃねえか。悪用されるかされないかはお前さん次第さ」

「こんな薄気味悪い場所なんか、今すぐにでもぶっ壊してやりたいんだがな……」

デルフの言葉にネロは渋い顔を浮かべる。

スパーダがアグナスの資料を持ち帰る話を聞いた時にルイズは、悪魔の力を平気で悪用するアグナスの研究は危険ではないかと危惧した。

だがスパーダは「技術自体に善悪はない。使う人間次第だ」と返していた。

スパーダのことなのでさすがに外道な研究は写本には記さないだろうが、それでも他にどんな怪しい研究をしていたのか気になって仕方がない。

「あのクソ眼鏡も腕自体は良かったのにな。勿体ないことしたもんだぜ」

スパーダがアグナスの技術そのものを認めていたのと同じように、ネロもルイズも同感であったのは認める所だ。

アグナスの過ちは、自らの技術を人の道から外れた悪意と欲望のために使ってしまったことだ。

それさえ無ければ、性格はともかく立派な技術者であり続けただろう。

 

「お前達はこれからも〝(ディー)〟の奴に付いて行くのか?」

大広間から通路に出るとネロは新たに話題を切り出してきた。

「当たり前じゃない。早く向こうに帰ってちい姉さまにだって会いたいし……あ、そういえば錬金術の続きだってあったんだったわ! やることいっぱいよ……」

思い出したようにハッとしてルイズは忙しなく感情を上下させる。

そんなルイズを見るネロは小さく苦笑していた。

「お前達って普段何やってるんだ? まさかいつもあいつと一緒に悪魔狩りをしてるって訳でもないんだろ?」

ネロにしてみれば自分とそう歳は変わらない、下手をしたら年下の少女達が凄腕のデビルハンターの助手を務められる程に場数を踏んでいるのは異様としか思えないのだ。

 

「う~んと……」

「彼はわたし達の学校の教師。裏でデビルハンターの仕事をしている」

返答に困ったルイズだったが、タバサが代わりに答えていた。

その表現はあながち間違ってはいない。スパーダはルイズに直接錬金術の指導をしているし、男子達にも剣術を教えている。おまけに自筆の教本まで学院に寄贈しているのだから、もうほとんど魔法学院の教師に等しかった。

「……まさか魔法を教える学校なんて言うんじゃないだろうな? 今時、お前達みたいな魔法使いなんて絶滅してると思ったぜ」

怪訝そうにネロは目を細める。

魔法使いの学校などというメルヘンチックな存在は、映画や小説の中にしかあり得ないと思っていた。

だが現実に、目の前の少女達は本物の魔法使いなのである。

「それは秘密」

「下手に人前で魔法なんて使ったら、フォルトゥナの外でも最悪、魔女狩りに遭っちまうから気を付けなよ。……まあ、〝(ディー)〟の奴からちゃんと教わってるんだろうけど」

くすりとネロはどこか感嘆とした笑みを零していた。

教え子を連れ歩いて悪魔退治の仕事をするのは正直な所、褒められたものではないが、この二人の少女はあのデビルハンターから人の道を踏み外さないように多くの大切なことを教わったのだろうとネロは感じていた。

冷徹でつっけんどんではあるが指導者としては間違いなく、サンクトゥスなどよりも遥かに上で誠実なのだと。

 

「……そういえばダンテと〝(ディー)〟って、親戚かなんかなのかな」

唐突なネロの呟きにルイズは目を丸くした。

「あの二人って何か雰囲気も似てやがんだよな……ダンテが魔剣士スパーダの息子だとかいう話だけど……あいつもそうなのかな……閻魔刀ももう一本持ってやがるし」

(鈍感ね……)

(まあ、そっちの方が都合が良いだろうよ。そういうことにさせておきな)

フォルトゥナに伝わる魔剣士スパーダのイメージはあの石像のようなものしか無いので、人の姿をしている所など想像できないのかもしれない。

巨神像と戦った時に彼は本来の姿に戻っていたが、遠目で見ていた住民達は誰一人として彼らの神が本当に降臨していた事実に気付いていなかった。

あの時のスパーダ達の悪魔の姿をはっきり見れたのは戦いの合間に遠見の呪文を試してみたルイズとデルフだけである。

 

「ねえ、ネロ。……もし、魔剣士スパーダがあなたのお父様だったらどうする?」

ルイズの問いにネロは一瞬、呆然としだす。

ダンテもネロも、魔剣士スパーダの血を受け継ぐ子孫だという。だがそれはあくまでこの世界におけるスパーダの話だ。

ダンテは自分がスパーダの息子だとはっきり言っており、昔は交流もきっとあったのだろう。だが捨て子のネロにはそれがない。

ネロの父親がスパーダ本人なのかは分からないが、その人物はネロという息子のことを認知しているのだろうか。

「笑い話にもなんねえぜ……」

握り締める右の拳を見つめながらネロは苦笑した。

「お父様に会いたい?」

タバサが問うと複雑そうにネロは顔を歪めていた。

「……別に。今の俺にはキリエ達だけで充分さ」

ネロにとって家族とは血の繋がりが全てではない。キリエやクレドのように家族同然に迎えてくれる温かな心を持つ者達と繋がり合えることが、本当の家族の証なのだ。

「いつか会えると思う?」

「……分かんねえよ」

血の繋がった本当の父親が何者だろうと、何処で何をしていようと、今のネロには関係のないことだった。

 

 

かつての城主の私室でスパーダは寛いでいた。

部屋の内装は領主をしていた頃とあまり雰囲気は変わっておらず、大きなベッドもそのままだ。

とはいえ、スパーダは横になって寝ないのでせいぜい上に腰を下ろすくらいにしか使わなかったが。

そのベッドの周りには、このフォルトゥナで得たいくつもの品々が置かれていた。

地下で回収した魔具やグラディウスの刀身、さらには街で買っておいた代物もある。

どうせフォルトゥナの貨幣は元の世界へ戻ったら無用の長物と化すので、全て使い切らなければ無駄になる。

 

(あとはルイズ達が寝るだけか……)

ベッドの枕元に置かれた獣の首の眼はこの世界に来た当初と違い、仄かな光を宿して輝きに満ちている。

どうやら元の世界の方では、スパーダ達を呼び戻す準備が整っているようだった。

本来なら今すぐにでも呼び戻せるが、向こうはそのタイミングを計っているのだろう。三人が揃っていて、周りに異常が無ければ呼び戻すことはできないのだ。

結界も張っているおかげで悪魔達に邪魔される恐れもない。

となれば、最良のタイミングはルイズ達が眠っている時である。

そのルイズとタバサはネロと一緒に地下に赴いており、今こちらに戻って来ている最中だった。

 

『貴様、何者だ……』

暖炉に火を入れ、椅子に腰かけるスパーダは街で買っておいたワイングラスに持参していたワインを注いでいた。

小さな円卓に置かれるグラスとボトルと共にもう一つ、黄金の像が並べられている。

『お前に用はない。黙って寝てろ』

時空神像から発せられる光の中に浮かぶ光景の中には、二人の男の姿があった。

一人は教皇サンクトゥス。しかし、老いさらばえていた先刻よりも多少若く見える。まだ初老と呼んで良さそうな風貌だった。

映されているのはこの部屋とほぼ同じ風景の寝所だ。ベッドから飛び起きているサンクトゥスは剣を手にし、目の前に佇む男と相対している。

 

(やはり閻魔刀か……)

頬杖を突くスパーダは目を細めていた。

サンクトゥスが相対する銀髪の男は腰に一振りの剣を携えている。

黒塗りの鞘に白の柄の日本刀。紛れもなくネロに受け継がれた閻魔刀そのものだった。

『貴様、まさか、人間ではないのか……?』

『だったらどうした? 貴様には関係ない』

剣を向けられても男は一顧だにせず部屋の中を歩き回っている。

調度品などを手に取って色々確かめたりしているが、サンクトゥスは男の発する冷たい気迫に圧されている様子であり、その場から動けずにいる。

 

(青い男……こいつか)

スパーダが今目にするこの時空神像の記憶は、17年前のものだ。

当時、サンクトゥスは先代の教皇を暗殺してその地位に自らが就いた。

そして、就任の儀礼が行われたこの部屋に賊が侵入したという。

それこそ、当時の騎士団長が見かけたという青い剣士……すなわち今映っている青いコートを身に纏った男なのだ。

 

『……Letdown.(……ハズレか)』

サンクトゥスを無視して物色を続けていた男は小さく呟くと、外の墓地へ続く扉の方へと向かいだす。

『……ま、待て! 貴様は一体……』

困惑するサンクトゥスは剣を降ろすと男の背に向かって駆け寄ろうとしていた。

戸を僅かに開けた男は肩越しに振り返る。

冷たい視線に射抜かれてサンクトゥスの足がピタリと止まった。

『せいぜい今はスパーダを崇めていろ。だが、俺はいずれその神を超える。その時、どちらを崇めるべきか考えるがいい』

男の口端に薄い笑みが微かに浮かび上がり、

『貴様らの神か、それを超えた神の子かをな――』

そう言い置いた男はそのまま外へと出ていってしまった。

サンクトゥスは呆然と立ち尽くしたまま、賊を見送るしかなかった。

 

(神を超える、か……)

小さく鼻を鳴らすスパーダはグラスに手を伸ばしてワインを一口啜った。

今の男は銀髪をオールバックにしているがスパーダと違って逆立てており、より威圧的な印象だった。

言うまでもなくこの世界におけるスパーダではないし、ダンテの若い頃でもない。

 

映像は切り替わり、今度は生い茂る木々を映し始める。それがミティスの森であることを一目で察していた。

そして、あの青い男がまた映っており、広場の中に一人佇んでいる。

さらにその周りには無数の黒い影が浮かび、男を取り囲んでいた。

黒い霧状の衣を身に纏い、つばの付いた帽子を被るその悪魔はファウストだ。

「Vergil…….(バージル……)」

ふと、スパーダの背後で小さく声が響いた。

振り向きもせず映像に集中すると、ファウスト達は赤く煌めく鋭い爪を一斉に青い男目掛けて伸ばしていた。

(見間違えるのも無理ないか)

先日、グロリアことトリッシュがスパーダを人違いするのはある意味当然と言えた。

 

 

ダンテがこの部屋に入って来たのはほんの少し前だった。

そこに映る一人の男の姿に思わず嘆息してしまったのである。

かつて袂を分かった男……双子の兄の生前の姿が今まさにダンテの目の前にあるのだから。

『How boring…….(つまらん……)』

ファウスト達の一斉攻撃は兄・バージルを捉えることはなかった。

無数に突き出された爪の先にいたはずのバージルは残像を残して忽然と消えていた。

と、ファウスト達の頭上から突如無数の光の雨が降り注いでくる。

浅黄色をした薄く透き通った魔力の刃――幻影剣は次々とファウスト達の纏う闇の衣を突き破っては瞬く間に散らし、本体を剥き出しにしていた。

『――Die.(――死ぬがいい)』 

低い唸りと共に無数の剣閃が大きな空間の歪みの中に刻まれ、空中に投げ出されたファウストの本体が斬り裂かれていく。

 

(相変わらずだぜ……)

肉片がバラバラに零れ落ちていく中、少し離れた所で佇むバージルは静かに居合いの構えを解いていた。

その神速の抜刀はダンテですら捉えることは困難を極める。

兄が得意とする居合術は遠く離れた敵すら難なく斬り裂くことができるのだ。

(親父と五分五分って所か)

ちらりとダンテは目の前にいる父の背中を見やった。

父もまた兄と同じく居合の剣術を操ることができる。

この映像はバージルの風貌からして完全に袂を分かつことになったあの時……ダンテもまだ成人間近だった頃に違いない。

その時、既に兄の剣術は父の領域に達していたということなのだ。

もし今も生きたままだったら、恐らく彼が宣言したように超えていたかもしれない。

 

(それにしても髪までそっくりにしてやがる)

バージルはオールバックにした髪がトレードマークだが、目の前の父も少し形は違えどほとんど同じである。

自分達が幼い頃の父はどんな髪型をしていたのかよく憶えていないが、もし意識して真似をしていたとなれば、失笑するしかなかった。

そんな所まで兄は父の存在を強く意識していたことの証である。

 

あっという間に敵を蹴散らしたバージルが立ち去ろうとする中、時空神像の映像は静かに消え失せていく。

先を見てみたいものだが、そもそも時空神像にこんな能力があるなどダンテは知らなかった。

映像が消えると同時にスパーダは腰を上げると、ダンテの方を振り返りだす。

「一杯奢ろうか。〝D-BOY(ディー・ボゥイ)〟」

父からの唐突な誘いにダンテは呆然と目を丸くしていた。

作品の良かったところはどこですか?

  • 登場人物
  • 世界観
  • 読みやすさ
  • 話の展開
  • 戦闘シーン
  • 主人公の描写・設定
  • 悪魔の描写
  • 脚色したオリジナル描写・設定
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