魔剣異聞録~The Legendary Dark Slayer/Zero   作:月に吠えるもの

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Another Mission <父の戒め①-Father and Son> 62章

 

寝静まった街に降りてきたダンテとスパーダは〝FORTUNA INN〟に足を運んでいた。

相変わらず閑散とした食堂にはレコードプレーヤーから流れるピアノの静かな音色が流れている。

スパーダはフォルトゥナ城地下の書斎でアグナスが作った物らしい一台の蓄音機を見つけていた。クラシック音楽がかなり記録されているらしいことが判ったので、ついでに失敬させてもらったのだ。

元の世界へ戻っても今流れているこのベートーヴェンの〝月光〟は拝聴することができるのは僥倖というものである。

 

「ストロベリーサンデーを二つだ」

ダンテと共にカウンターの席についたスパーダは開口一番に注文を行った。

新しいワイングラスなど私物も含めて色々と土産を買っていたが、フォルトゥナでの路銀はこれでちょうど使い切ることになる。

「はいはい。それじゃあしばらくお待ちを」

店主は微妙な顔を浮かべながら頷いていた。

先日のダンテもそうだったが、大の大人が二人も揃って子供っぽいものを堂々と食するのが奇異に見えるらしい。

 

(そういえば、親父も昔はストロベリーサンデーを食ってたっけな……)

ダンテは幼い頃、父と過ごした頃の記憶は曖昧だった。顔もよく憶えてはいなかったが、怒った時には厳しく叱りつけてきた母と違い、怒鳴りこそしなかったが幼いダンテら兄弟が震え上がってしまう程に凄みを見せていたのは今でもはっきり脳裏に焼き付いている。

幼い頃は父の正体が悪魔であることなど知る由もなかったが、思えばあれこそ真の悪魔としての冷酷さだったのかもしれない。

それでも家族と普段過ごしている時は、妻の手作りのストロベリーサンデーやらケーキといったお菓子を子供達と仲良く食していた。

昔の父の顔はよく思い出せない。だが、その時の父がお菓子を取り合う兄弟を見て苦笑を浮かべていたことを、ダンテは薄っすらと憶えていた。

「〝Devil May Cry(悪魔も泣く)〟か」

突然の呟きにダンテはちらりと父の方へ視線を流した。

無精髭も生やす自分よりも五年は若い姿をしている。子は時と共に老いていくのに、純粋な悪魔故に老いることがない。

姿こそダンテより若いのに、その不相応な貫禄はかつての父を思い起こさせていた。

だが目の前にいるのは父であって父ではない。自分とは異なる世界から訪れた赤の他人も同然の存在。

そう……父としての魔剣士スパーダではなく、自分と同じく悪魔を狩るデビルハンターの一人なのである。

 

「ずいぶんと洒落た店の名だな。デビルハンター・ダンテ」

頬杖を突くスパーダは見向きもしないまま共闘した仲間の名を初めて口にしていた。

魔剣教団は今までずっとダンテの身の周りを探っていたが、その資料を読む中でスパーダはダンテというデビルハンターについて上辺だけではあるが把握できていた。

このフォルトゥナから遠く離れた都会の一角に小さな事務所を構え、内容問わずに様々な依頼を受ける便利屋〝Devil May Cry〟を営んでいるという。

だがそれは表向きであり、悪魔達を仕留めるデビルハンターこそダンテが生業としているものなのだ。

「そうかい? ありがとうよ」

一瞬、ダンテは微笑を浮かべたが、

「なら、お前が最後に泣いたのはいつだ」

そう問われて思わず目を丸くする。それは全く想像もつかなかった話題だった。

だが、言われてみればダンテはここ何年も涙を流したことなどないことに気付く。

最後に涙を流した時のことは憶えている。それは10年も前のこと……復活した魔界の帝王との戦いの時だった。

 

――俺はお前を……暗闇から救えなかった……!

 

亡き母と同じ姿を模して造られた魔帝ムンドゥスの申し子は、母と同じく自らを犠牲にしてダンテを庇った。

年甲斐もなく、ダンテは激しく泣いた。クレドを失ったネロのように。

あれ以来、ダンテは他人が涙を流す所を見ることはあっても自分自身が涙を流すような機会はなかった。

 

「〝Devils Never Cry(悪魔は涙を流さない)〟」

ダンテが黙りこくる中、スパーダはまた唐突に呟きだす。

「だが、お前の心は奴らのように冷めている訳でもないな」

スパーダはダンテの心に宿るであろう深い情熱を感じ取っていた。巨神像との戦いで見せたあの怒りと魂の咆哮こそ、その証である。

涙は流すのを忘れていても、他者を思い遣る人間の心そのものを失っている訳ではない。

「その心が最初からあれば、ルイズ達に手間をかけなくとも済んだかもしれん」

そのスパーダの言葉にダンテはピクリと目を細めだす。

本人は冷徹な表情を顔色一つ変えないままに淡々と語り続けていた。

「……〝0点〟だ。今回のお前達の仕事ぶりはな」

「……間違いねえ。あんたの言う通りだな」

父の言いたいことをダンテは痛いほどに思い知っていた。

 

――あんた達のせいで、このフォルトゥナが悪魔だらけになったってことなんじゃない!!

 

自分に怒りをぶつけてきた桃色の髪の少女の激情が全てを物語っている。

間違いなくフォルトゥナの地の混乱を悪化させたのはダンテ達自身なのである。

正確に言うと先行していた相棒のトリッシュが元はと言えば勝手に魔具を持ち込んだからなのだが……。

 

「何故、お前達が他の地獄門を壊さなかったか判るか?」

父からの問いかけにダンテは答えられなかった。

確かにその気になれば父達よりも先に三つの魔具だけでも回収はできたはずだった。なのにダンテはトリッシュに後回しでも良いと言われたのもあるが、結果的に放置していた。

地獄門も壊さないでいたのも、単に一時の気まぐれだったのだろうとダンテ自身は感じていたが……。

「最近、力を持て余して退屈だったろう。……何しろお前は、ムンドゥスの連中をも退けた程だからな」

何で知ってんだ? と言わんばかりにダンテは目を丸くしたまま父の話に聞き入っていた。

魔剣教団が自分を以前から監視していたらしいことはルイズやデルフの言葉から察することができた。それを父が把握しているのも理解できる。

だが、父の指摘はダンテを内心驚かせた。父の言う通り、最近暇を持て余していたことは事実なのだ。

何より、今回の仕事は半ば退屈凌ぎで始めたのがきっかけなのだから。

「話にならん」

父は冷たく吐き捨てながらダンテの方を横目で見据えだす。

目を逸らすことなく、ダンテは射抜いてくる父の視線を真っ直ぐに受け止めていた。

 

「判らんか? お前達も魔剣教団の連中と同じことをしていたことをな」

ダンテは苦笑するしかなかった。

魔剣教団は自らの手でフォルトゥナを混乱に陥れながら、その収拾を自ら行い、救世主を演じようとしていた。

無論、ダンテにその気はなかった。……だが、結果的に父の言う通り、魔剣教団の愚行の片棒を担いでしまったのだ。

「まあ、今回は大した騒ぎにまでならなかったのは幸いだがな」

「……本当に、恩にきるぜ」

街が魔界の悪魔達によって蹂躙される……最悪の事態を未然に防いだ立役者こそ父なのだ。

地獄門の解放の阻止ばかりか、街に結界を張って住民を悪魔達の魔手から人知れず守っていた。

ダンテ達では成し得なかったことを、父は難なく成し遂げてみせたのである。

もし父がこの地に偶々訪れていなければ、今頃は大勢の犠牲者が出たことだろう。

 

「……何のためにお前の父親から剣を託された?」

一瞬、父が溜め息を漏らしたことに半ば呆れの感情を抱いていることをダンテは察していた。

自分の父が最初に息子達に教えたのは、剣の扱い方だ。それも大切な者を守るための。

「私達デビルハンターがすべきことは、ただ敵を狩るだけではない。奴らの魔手から人々を守って初めて務めを果たしたことになる。……今のお前達のような心で、誰も守れるはずもあるまい」

何とも手厳しいが、言い訳のできない事実だった。

父にとってはここが所縁の場所だったとはいえ、千年以上も前のことでありながら当時と変わらぬ無辜の人々への慈しみを持ち続けていたのだ。それ故に、陰で色々と気配りをした末にそれらが成就した。

(ざまあねえな……)

一方のダンテ達は違った。行きずりで訪れた辺境の街に、出来るだけ被害をもたらさないようにするような気遣いは希薄だった。

無意識に己の力を過信するばかりか、張り合いのある敵を求めて欲求不満を解消しようとまでしていた。

それは、デビルハンターにあるまじき醜態の極みだった。

もしダンテ達に父のような人々を憐れむ心があればそんなことはしなかったかもしれない。……いや、あったかもしれないが、仕事への驕りと侮りの方が遥かに勝っていたのだ。

元より、今回は退屈凌ぎで始めたことだったからいい加減な気持ちになるのは当たり前である。

父が言うように、そんな中途半端な心で誰も守れる訳がない。

 

「まあ、何事も完璧とはいかんがな……」

スパーダは細く溜め息を漏らしながら自嘲の笑みを零していた。

フォルトゥナの民を守るために街に結界を張り巡らしたが、それが結果的に改心したクレドを死に至らしめることにもなってしまったのだ。

ネロやキリエには悪いことをしてしまったと、責任は感じていた。

如何にスパーダと言えど、人間と悪魔を同時にかつ正確に守るなどという矛盾したことを成すのは至難の業である。

第一、最初の時点ではクレドのことも魔に魅入られたサンクトゥスらと同様にしか見ていなかったのだから、ああなってしまうのは必然なのだ。

スパーダは決して全知全能の神ではない。ありとあらゆる未来を事前に予測するなど不可能である。

 

「お待ちどおさん」

やがて店主が戻って来て、二人の前にストロベリーサンデーが盛られたグラスがそれぞれ差しだされた。

「釣りはいらん」

スパーダは懐から手持ちの金を全てそっと差しだすが、店主は困った顔を浮かべだす。

仕方なさそうに吐息を零したスパーダはちらりとダンテの方を見やり、

「それならこいつにハンバーガーでも作ってやってくれ」

「いや、ピザが良いな。オリーブ抜きでLサイズ。昨日の奴と同じで構わないぜ」

「あんた……懲りないね」

店主は苦笑を浮かべつつもまた厨房の奥へと引っ込んでいった。

スパーダとダンテは共にスプーンを手に取ると、好物のデザートを食し始める。

ダンテにとっては三度目となるが、中々にイケる味をしていた。

馴染みの店であるカフェのマスター・フレディが作る物にも負けてはいない。またこの地を訪れる機会があれば、是非またここのストロベリーサンデーを堪能したいと思う程だった。

 

作品の良かったところはどこですか?

  • 登場人物
  • 世界観
  • 読みやすさ
  • 話の展開
  • 戦闘シーン
  • 主人公の描写・設定
  • 悪魔の描写
  • 脚色したオリジナル描写・設定
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