魔剣異聞録~The Legendary Dark Slayer/Zero 作:月に吠えるもの
「アグナスも愚かな男だ。自ら心の拠り所を捨てたのだからな」
ダンテと同じくストロベリーサンデーを味わいながら、スパーダは懐から一枚の写真を取り出しカウンターの上に置いた。
それはアグナスが落とした家族との写真だった。死体すら残っていなかったため、手向けで返してやることはできなかった。
「……勿体ねえもんだな」
差しだされた写真を見つめるダンテは小さく嘆息した。
トリッシュからアグナスという男の話はある程度聞いてはいたが、身の上まではさすがに知らなかった。
家族がいて、子供までいて、こんなに幸せそうにしているというのに……魔に魅入られて魔剣教団の悪事に加担してしまうとは、何とも残念に感じてしまう。
残された家族は今は一体どうなっているのか、気になるものである。
「ネロには心の拠り所がある。それがある限り道を誤ることも、自分を持て余すようなこともあるまい」
「そうだな……いい彼女を持ってるぜ」
父の表情が微かに綻んでいるのを見て、ダンテもつられて笑っていた。
かつて自分の父が一人の女性と愛し合ったように、あのネロもまた悪魔の力を受け継ぎながらも掛け替えのない恋人が傍らにいてくれる。
それは、この上ない心の拠り所に違いない。
「お前はここから戻って、誰かが待っているのか?」
「一応、いることはいるんだけどな……」
と、ダンテは片眉を吊り上げながら苦笑を浮かべた。
事務所に戻れば今回の仕事の依頼主であるレディと色々やり取りをすることになるだろう。もっとも彼女からの報酬など最初からアテになどしていない。
(パティの奴が待ってたりしてな)
今頃、事務所にはひょっとしたらお節介焼きの少女が清掃係気取りで待っているかもしれない。
どの道、戻ったらしばらく事務所は喧しい場所に変貌するはずだ。今から気が滅入りそうになる。
「ひと時でも、拠り所が得られるのはアグナスよりはまだマシだな」
小さく嘆息したスパーダはストロベリーサンデーに飾られている細長いビスケットを摘んで咥えだす。
「だが、その様子だとお前は何度もそいつを台無しにしているようだな。……拠り所となるべきものを自ら遠ざけているだろう」
ダンテは呆気に取られながら、細々とビスケットを齧っている父の横顔を見つめていた。
確かに心当たりはあった。それもほんの数年以内のことである。
去年、パティが以前世話になっていた孤児院でクリスマスパーティを催した時のことだ。わざわざダンテにまで招待状を送ってきたが、その日はちょうど悪魔絡みの仕事が直接入った所だったので欠席することになった。
懇意にしている情報屋のモリソンが代わりに出席したが、パティはダンテにサンタクロースの衣装を着させようとしていたそうで、かなりがっかりしていたという。
その気になればとっとと終わらせられるような楽な仕事だったが、ダンテはわざと仕事を長引かせて出席しないようにしていた。
正直な話、自分のような存在はそんな陽気なパーティは場違いでしかないので、欠席したのは正解だったとは思っている。
さらに数年前、デュマーリ島に赴いたダンテはそこで起きた事件を解決する過程で魔界に閉じ込められる破目になってしまった。
何日も、何週間も魔界を彷徨っていたダンテだったが、辛うじて人間界に脱出を果たすことができたのである。
事務所に戻った時、自分の帰りを待っている者が一人だけいた。
それは相棒のトリッシュではなかった。あの時のトリッシュはちょうど今のように別行動を取って世界中を放浪していたのだ。
(ルシアには悪いことしちまったな……)
デュマーリ島に自分を誘い、共に戦った仲間。デュマーリ島を守っているはずの戦士が、ダンテを出迎えたのだ。
魔界に閉じ込められたダンテの無事を願い、ずっと待ってくれていた彼女は帰還したダンテとの再会に涙を流し、抱擁までしてくれた。
だが、そこに入った一本の電話が感動の再会に水を差した。
合言葉ありの依頼。それは即ち、悪魔絡みのものを意味していた。
「その分では女を悲しませたのも、一度や二度ではないようだな」
「どうかな……」
全てを見透かすかのような父の指摘にダンテは苦笑を浮かべだす。
便利屋を営むダンテではあるが、余程、金欠であるのを除けば普段はどんなに報酬を積まれようが気が乗らない依頼は受けない。
だが、合言葉があれば――悪魔絡みとなれば話は別である。
どれだけ疲れていようが、場所がどこだろうが、報酬があろうがなかろうが、断る訳にはいかない。
それが、人を仇なす悪魔を狩るダンテの使命だからだ。
(野郎にはマジでハメられたな……)
だがデュマーリの一件に続く、その時の依頼の正体は悪魔からの罠だった。
遥か遠く日本という異国にまで赴いてダンテに任されようとしたのは、悪魔の手によって半人半魔に変えられた少年との殺し合いだった。
ダンテをも欺いた悪魔によって踊らされていること気付き、半魔の少年と共闘したことで、依頼主でもあり黒幕だった悪魔を逆に仕留めることになったのだ。
その時に戦利品として得たのが、今回使った魔具の一つのルシフェルである。
(ルシアも誘ってやるべきだったかね……)
……結局、この依頼のせいでルシアは興醒めしてしまい、険悪な雰囲気で別れることになってしまった。
だがルシアが憤慨するのは当然だったとダンテは自省していた。何しろ引き留めてきた彼女を突き放すような態度を取ってしまったのだから。
それでも彼女は別れ際、名残り惜しそうにダンテの帰還への祝福だけはしてくれた。
食べ尽くしたストロベリーサンデーのグラスの中にスプーンを置いて、スパーダは小さく吐息を漏らしだす。
「悪魔を狩るお前の使命感は大したものだ。……だが、逆に普段の営みに生き甲斐を感じていまい」
父の指摘にダンテは反論できずに黙り込んでいた。
今回パティが事務所に来るのはあくまで、一時的なもの。普段のダンテは事務所や馴染みのカフェで適当に過ごしながら、便利屋としての依頼が来るのを漫然と待ち続けている。
たまに舞い込むデビルハンターとしての仕事も張り合いが無いし、気分転換にもならない。
そんな退屈の日々が少なくともフォルトゥナに来る前は何ヶ月も続いていた。
それはひとえに、ダンテ自身があまりにも強くなり過ぎたが故だった。
「その満たされない心が、お前の〝力〟に渇望を与えた」
溜め息を漏らした父の顔を見てダンテは目を細めた。
それまでとは打って変わって深刻そうに眉間に皺を寄せていたからだ。
「……その内、お前も〝使命〟と〝力〟に喰われるぞ。バージルのようにな」
ネロに託された閻魔刀の前の持ち主が何を望み、成そうとしていたのかスパーダは把握することができた。
先刻、時空神像で垣間見た過去の断片よりも、むしろ閻魔刀の方にこそバージルという男の一面を窺い知れる要素が詰まっていた。
元々閻魔刀はスパーダの魔力から造り出されたもの。その刀自身が宿している残留思念を読み取ることなど容易い。
先日、ネロが修復した際に刀を手にした時、宿り続ける記憶が濁流のように流れ込んできたのだ。
ひたすらに〝力〟を追い求め続ける男の魂の叫びが。
――何故だ……母さん。何故、ダンテばかりを……。
――俺に、もっと力があれば……みんなを……。
――愚かだな。力こそが、全てを制するというものを。
――力が無ければ、何も守れはしない。己の身さえもな。
――お節介な女だ……余計なことを……。
――もっと力があれば、こんなザマには……。
――絶対に親父を超えてやる……親父が出来なかったことを、俺が成してみせる……。
――何故、弱い人間を愛した……? 何故、俺を不完全な存在で産んだ……?
――貴様さえいなければ……その剣も、親父の力も、俺だけのものだったんだ……。
――今回だけだ。貴様と付き合うのはな……。
――銃など俺の性に合わん……。こんな人間の造ったものなど……。
――黙れ……母さんに散々愛された貴様に、俺の何が分かる……!
――悪いが、俺の魂はこう言っている。
――もっと、力を……!!
――もう帰れ……お前は、ここにいるべきじゃない……。
――泣くな……ダンテ……。そんな顔を俺に見せるな……。
――魔界の王と相討つなら、本望だ……。貴様を倒せば……俺は、親父を超えられる……! 母さんの仇を討てる……!!
――誰が……貴様などの……言いなりに……。
――かあ、さん……。
――アイツハ……マタ、俺カラ奪ウノカ……。
――足リナイ……モット、〝力〟ヲ……。
――奴ニダケハ、負ケナイ……。
――邪魔ダ……コンナ弱イ身体ナド……。
――俺ニハ、コノ〝力〟ダケデイイ……。
肉親への愛憎が渦巻くもう一人の未来の息子の不器用な生き様は、スパーダを顰めさせる程だった。
この世界でダンテ達の身に何が起こったのかを、スパーダは悟ることが出来たのだ。
兄弟共々、過酷な人生を歩んできたことを。
思ったより長くなったので、二分割で二日連続投稿します。
今回のルシフェル入手の経緯についてですが、これは「真・女神転生Ⅲ-NOCTURNE-」にゲスト出演した時の出来事をモチーフにデビルメイクライ風に脚色したものです。
作品の良かったところはどこですか?
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登場人物
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世界観
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読みやすさ
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話の展開
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戦闘シーン
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主人公の描写・設定
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悪魔の描写
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脚色したオリジナル描写・設定