魔剣異聞録~The Legendary Dark Slayer/Zero   作:月に吠えるもの

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陰謀の降臨祭編
Mission 78 <魔法学院の実験>①


トリステイン魔法学院のヴェストリ広場にて。

放課後になれば普段はギーシュを筆頭とした男子達が剣術や武術の特訓を行っているはずであった。

もしくはスパーダが作ったブラッディパレスで実戦の訓練に励むのだが、今日はそのどちらでもない。

「……なあ、ルイズ。本当にやるのかい?」

広場の真ん中でギーシュは困惑しながら、相対するルイズに問いかける。

「つべこべ言ってんじゃないわよ。だったら、あんたを直接引っ叩くわよ」

と、ルイズは手にする乗馬鞭を軽く素振りさせるとギーシュに突きつけた。

強気な態度で意気込む少女の姿に戸惑うのはギーシュだけではない。遠巻きに見守る他の男子達も同様である。

別に校則で禁止されている決闘をする訳ではないのだが、ルイズの立ち振る舞いはほぼそれに近く、物々しい雰囲気と化している。

 

ギーシュは僅かに冷や汗を滲ませつつ引き攣った笑みを浮かべだす。

「……エレオノール先生やフォンティーヌ先生も心配するだろうし、お手柔らかにいくよ」

もしまたルイズの身に何かあろうものなら、三週間前の一件もあるので自分がエレオノールに――言葉では形容しきれないであろう罰を与えられるのは間違いない。

そもそも彼女が今日は学院を留守にする日だからこそ、こんな無茶なことができるのである。

小さく溜め息を漏らしたギーシュは愛用の薔薇の造花の杖を振るい、舞い散った一枚の花びらを青銅のゴーレム・ワルキューレへと変える。

 

ルイズは鞭を片手に握り締めたまま、ぐっと目の前に現れた騎士人形を見据えだす。

「くれぐれも、あんまり無理はしないでくれたまえ。――行け、ワルキューレ!」

ギーシュの一声で丸腰のワルキューレはルイズ目掛けて一直線に突進してくる。

ガチャガチャと甲冑を鳴らしながら駆けてきたワルキューレは軽く片手を伸ばし、ルイズを捕まえようと迫った。

「えいっ!」

ルイズは払い除けるかのように鞭を横へ振るう。

ヒュンッ、と空を切りながらワルキューレの手の甲に打ち付けられ……。

 

――バンッ!!!

 

突如鋭い破裂音が轟き、周りの男子達は思わずビクンと身を竦めだす。

「ありゃ……」

目を丸くするギーシュはワルキューレを操作するのも忘れて呆然としていた。

右腕を伸ばす体勢のまま硬直するワルキューレの手元から小さな破片が飛び散っていくのが見える。

それは紛れもなく、ワルキューレの手首から先の部位だった。

「ギーシュのワルキューレが一発で……」

「ふーん。あれがあの鞭の力なのね……」

唖然とするマリコルヌやレイナール達から少し離れた所でタバサと一緒に見物するキュルケは、感嘆としながらルイズを見つめていた。

あの鞭はただの鞭ではない。ルイズ手作りのマジックアイテムだ。

連日にも渡ってスパーダに指導されながら錬金術の実験を続けていたルイズは局所的に爆発を起こす素材〝発火布〟を完成させた。さらにそれを加工したのが今、手にしている鞭である。

その実験を行うために、ギーシュを付き合わせることになったのだ。

 

「ちょっと! 何を止めてんのよ!」

怒鳴りつけたルイズはワルキューレの胴を真っ直ぐに靴底で蹴りつける。

「早く動かしなさいよ! 練習にならないじゃない!」

「ああ、悪い悪い……」

ハッとして苦笑したギーシュは気を取り直して再度杖を軽く振るう。

右手を吹き飛ばされたワルキューレだったが、今度は反対の手をルイズに伸ばして捕まえようとしてきた。

だがルイズは後ろへピョンと軽く跳ねるとその体はふわりと浮くようにして、一気に数メイルの距離を低く飛んでワルキューレから遠ざかる。

「ルイズっていつの間に魔法をちゃんと使えるようになったんだ?」

「最近、コモン・スペルくらいは使えてるみたいだからね。今のは念力で自分の体を浮かべたんだよ」

声を上げた男子の一人にレイナールが感心気味に答える。

だが一見するとルイズが持っているのは鞭だけであり、普段使っているメイジの杖はどこにもない。

 

「――飛べ!」

ルイズは横合いに転がっているワルキューレの手の破片へ鞭を向け、さらに薙ぐようにワルキューレへ向けた。

青銅の破片はルイズの杖の動作に合わせて小さく浮き上がり、続けてワルキューレ目掛けて一気に吹き飛んでいく。

ルイズに突っ込もうと駆けてきたワルキューレの片足に衝突し、ぐらりと前のめりにバランスを崩して倒れ込み跪いていた。

「えぇいっ!!!」

一気に駆けこんだルイズは鞭をワルキューレの頭上から力一杯に叩きつける。

 

――ドンッ!!!

 

先程よりもさらに鋭い音を轟かせ、より大きな火花を弾けさせる。

ギーシュだけでなく、他の男子達も唖然とした。

鞭を打ち付けられたワルキューレの右肩は粉々に吹き飛び、破片を撒き散らすばかりか右腕も外れてゴトンと地に落ちたのだ。

(魔法の方も成功みてえだなぁ)

タバサに預けられていたデルフも無言のまま嘆息する。

錬金術師アウレオルス=ベリによる〝POWDER〟の秘術から始まり、最終的に作り上げられたあの鞭が起こす爆発は、ルイズが叩く強さに比例してより強化される。

青銅のゴーレムの体を容易く破壊できることはこれで実証された。

それと同時に鞭はルイズの新たな杖としての役割も担っていた。

メイジが用いる杖は実に多種多様で、タバサが使うような物など色々な形がある。

そう。何も〝杖〟である必要はないのだ。現にギーシュは薔薇の造花を杖にしているし、ルイズの母・カリーヌこと〝絶風〟カリンは靴のヒールに杖としての機能を持たせた斬新な実例がある。

それと似たような感じで、ルイズは作った鞭にメイジの杖としての契約を交わしたのだ。

 

――バンッ! ドンッ!! バンッ!!!

 

起き上がろうとするワルキューレへルイズは幾度も鞭を叩きつけては返し、その都度炸裂を起こしては青銅の体を砕いていく。

左腕、右胸、左腰、しまいには頭までもが吹き飛んでいった。

「よ、容赦ないなあ……」

ギーシュは無惨に壊されていくワルキューレの姿に乾いた笑みを浮かべるしかなかった。

ルイズの苛烈な気迫も相まって、あの鞭で人間を直接叩いたらどれ程の惨い光景になるものだろうか。想像するだけで血の気が引いてしまいそうだった。

無論、ギーシュはルイズがそこまで惨たらしい行為に手を染めるような人間ではないと分かっている。

彼女のパートナーたるスパーダはそんなことのためにルイズにこのマジックアイテムを作らせたのではないのだから。

 

「ルイズって、普通に僕らより動き良いね」

「ミスタ・スパーダから剣とか教わってるんじゃないのにな」

「鞭も手で振り回すのには変わりないけどね」

マリコルヌもギムリもレイナールも、ルイズの機敏な身体能力には目を見張っていた。

魔法学院は文字通りに魔法を教えるための場である。反面、生徒達の体力などを鍛えたり、測ったりするような指導は当然ながらカリキュラムにはない。

魔法以外の学びに関してはあくまで生徒自身が自主的に行うことだが、キュルケのように実家で軍人としての訓練を多少教わったり、タバサのように場数を踏んでいるのでもなければほとんどの生徒達は自分の体を激しく動かすことに慣れていない。

元々ルイズは魔法がまともに使えなかった反面、自らの体だけでこれまで色々とこなしていたので、自然と運動能力が身に着くのは当然である。

無論、彼らはルイズが自分の母の若い頃の勇姿を目にして、より影響を受けたことなど知る由もないが。

 

「これならブラッディパレスでもいけそうだな」

「異世界の冒険は良い鍛錬になったって所かしら」

キュルケはクスリと微笑し、隣のタバサの頭を撫でた。

三週間も前にルイズとタバサは獣の首という魔界のマジックアイテムでスパーダと共に別の世界へと飛ばされてしまった。

ハルケギニアとは違う世界での体験をキュルケは土産話として聞かせてもらったが、興味と関心を刺激されるものばかりだった。

ルイズはその異世界での経験も含めて、これまでもスパーダと共にいた時間を通して大きく成長したのは明らかだ。

もう誰もルイズを〝ゼロ〟などと罵ることはできないし、その資格もない。

それでも今後、彼女を〝ゼロ〟と蔑むような者は大小誰であれ偏狭で卑小な小物でしかないだろう。

 

 

魔法学院の図書室には連日、下級生を中心に多くの生徒達が訪問することが多くなった。

スパーダが学院に寄贈した異国の錬金術の書が主な目的であったが、最近は別の理由が増えていた。

「えーと……今日は新しい本は入ってる?」

「あ、これかな? 〝アンデルセン童話 第三集〟……」

軽く三十メイルに達する館内の本棚に比して、1/10程度の小さな本棚が設けられており、そこにスパーダの書物が納められている。

本自体はそれぞれ一冊ずつしか無いので誰かが先に読んでいると当然、待ちぼうけを食らうことになる。

その時間潰しで読むのが、新たにスパーダが寄贈した本の数々だった。

ただし、それらは錬金術関連のものではない。

「〝うさぎとかめ〟か……。ホッホッ……スパーダ君がこんなおとぎ話にまで通じておるとはのう」

本を一冊手に取って軽く目を通した学院長オスマンは、愉快そうに笑みを零した。

「たまにはな」

軽く相槌を打ちながらスパーダは受付の司書に持参してきた本を一冊手渡す。表紙のタイトルは〝千夜一夜物語〟だ。

 

この数週間、スパーダは元の人間界で知り得る限りの古今東西のおとぎ話や史記を翻訳しては図書館に寄贈している。

獣の首で渡ったフォルトゥナの街の図書館へ立ち寄った際に、スパーダが元居た時代よりも後の時代に作られたものも見つけていた。

魔界の侵略を受けた時代よりもさらに古代に作られたイソップ童話を始め、アンデルセン童話、グリム童話、さらに東洋からもいくつか有名な物語を翻訳して本に纏めている。

とはいえ、当然ながら原本から直接参照した訳ではないし、時代に合わせてオリジナルより脚色された部分もかなりある。

それでも異国の本は生徒達の好奇心を刺激し、退屈凌ぎにもちょうど良い様子だった。

 

「まあスパーダさん。また新しい本が出来たんですか?」

図書館へと新たに姿を現わしたカトレアはスパーダと鉢合わせをしていた。

にこやかなカトレアにオスマンは頷き返した。

「うむ。正式にあそこに並ぶのはもう少し待っておくれ。ミス・フォンティーヌも、今日は何を生徒達に読み聞かせるのかな?」

「まだイソップ童話の最後の一冊が読み終わってませんから。結構、下級生の子達も気に入ってるんですよ」

そう答えるカトレアこそが一番気に入っていると言わんばかりだった。

元々、フォルトゥナから持ち帰ってきた膨大な研究資料を纏めていた中、気晴らし程度に書いてみただけなのだが、カトレアはスパーダが翻訳した異国の童話が大層気に入ったようだった。

 

「ふふっ、動物が主役なお話なんてとっても面白いですね。あの子達にも読み聞かせてあげられれば良いんだけど……」

彼女が言う〝あの子達〟というのは連れて来ている動物達のことだ。

確かにハルケギニアにおいて創作される物語は大体が〝イーヴァルディの勇者〟のような勧善懲悪の英雄譚だとか冒険譚のような娯楽ものが多く、後は〝バタフライ伯爵夫人の優雅な一日〟のような官能や恋愛を取り扱うものが主だ。

だがハルケギニアにおいてはイソップ童話のような人間以外の動物を擬人化させた寓話が作られるケースはまず無いと言って良い。

あったとしてもマンティコアといった人語を解する幻獣などをモチーフにするか、使い魔の契約のように人語を介する能力を人為的に与えるといったものに留まっている。

故にイソップ童話のような寓話はハルケギニアでは新鮮な物語のようだ。

 

「ま、ちょっとした戒めにはちょうどええかもな。どれ……」

実の所、オスマンにしてみれば教育にはちょうど良い題材と感じていた。

意外なことだが、学院の図書館には教訓や道徳心を養うような本は極めて少ないのである。

感心した様子で唸るとそのイソップ童話の一冊を手にし、手近なテーブルへ移っていった。

入れ替わりでカトレアは別の一冊を手に取りだす。

「ところで、スパーダさんのお話は無いんですか?」

「無い」

目を丸くするカトレアにスパーダは冷然と返した。

かつて人間界を魔界の侵略の魔手から救った正義の悪魔をモチーフにした英雄譚がある。

元の世界では既に魔剣士スパーダの伝説はおとぎ話扱いされている程に存在は風化しているが、魔剣士スパーダの伝説を信じ、信仰が厚いフォルトゥナにおいては崇高な伝承として丁重に取り扱われていた。

「私、一度スパーダさんのお話を読んでみたいですわ」

「つまらん与太話だ」

スパーダは自分の伝説が元となったおとぎ話をここに置く気など毛頭なかった。

自分が今ここに存在する以上、全く同じ名前の主人公の物語があるなど馬鹿馬鹿しいにも程がある。

 

(アーサーの話の方が遥かにマシだな……)

かつての戦友をモチーフにした英雄譚〝魔界村〟はスパーダも何度か読んだことがある。

フォルトゥナの図書館で見つけて読んだ時には挿絵のアーサーは鎧を砕かれて派手な下着一丁だけという滑稽な姿で描かれていた。

史実のアーサーもそうであったが、偶然とは思えなかった。

アーサーの恋人だった小国の王女は生前、魔界からの侵攻も含めて恋人の活躍を日記にしたためていたという。〝魔界村〟の英雄譚はその日記を元に作られたらしいのだが、アーサーの活躍から痴態に至るまで史実とほぼ一致していたのだ。

ほぼ正確な記録と伝承を元にしたアーサーの英雄譚に対して、スパーダの英雄譚ははっきり言ってかなり脚色による嘘や欺瞞で塗り固められており、とてもではないが見れたものではない。

スパーダが人間界を救う過程で手を染めざるを得なかった、負の一面がバッサリと無視されていたのだから。

 

作品の良かったところはどこですか?

  • 登場人物
  • 世界観
  • 読みやすさ
  • 話の展開
  • 戦闘シーン
  • 主人公の描写・設定
  • 悪魔の描写
  • 脚色したオリジナル描写・設定
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