魔剣異聞録~The Legendary Dark Slayer/Zero 作:月に吠えるもの
「兄者よ。またアラストルの使い手が見えられたぞ」
「うむ。一体、何用じゃ?」
「知らぬ。だが、せっかく遥々参られたのだ。歓迎してやらねばならぬのではあるまいか?」
「しかし、どうやって歓迎してやるのだ?」
「さて、どうしたものか」
正門に備えられた台座で控えている、二体の番人・アグニとルドラが饒舌に無駄話を続けているのを、アニエスら銃士隊の面々は堂々と無視していた。
以前に式典で訪れた時にアニエスはこの二体の門番の口やかましいお喋りにはうんざりさせられたのである。スパーダが従えている悪魔でなければ、愛用のグレネードの弾丸をお見舞いしてやった所だ。
「……あいつらのお喋りはどうにかならないのか?」
アニエスは出迎えに現れたスパーダへ開口一番に愚痴を零した。
「放っておけ。いつものことだ」
微かに苦笑を返したスパーダは軽く顎をしゃくり、アニエスらを招く。
こんな門の前にいるから耳障りになるのであって、離れてしまえば気にならなくなる。
「送ってやった代物は、その後どうだ?」
「良い物をよこしてくれたな。あのブラッディパレスとやらも、女王陛下もとても感心なさっていた」
先日にスパーダはトリスタニアの王宮に銃士隊に使わせるマジックアイテム等をいくつか作っては送っていた。魔光石を利用した松明代わりに使えるブローチを隊員分、用意してやったのだが、ブラッディパレスに関してはアンリエッタから直々に依頼があったものだ。
何でも以前、お忍びで来訪した際にブラッディパレスで特訓をするギーシュ達を見てえらく興味を抱いたようで、ぜひ王軍の育成に利用したいと申し入れてきたのだ。
「他の騎士隊も使っているのか?」
「いいや。我々銃士隊や魔法衛士隊くらいだな。他の連中は一回だけ試して見向きもしなくなった」
「そうか」
トリスタニアに送ったブラッディパレスは練兵場に設置されているはずで、ギーシュ達が使っているものと多少形は異なるが能力自体は変わらない。
アニエスの言からして、他の騎士隊はその気になれば自分の力で越えられるはずの敵を倒すことができなかったのだろう。
たった一度の挫折だけで諦めるとは、幻に恐れをなしたかブラッディパレスそれ自体が気に入らなかったのか……。
使う使わないは当人達の自由だが、アンリエッタは顔を顰めているかもしれない。
「……それで、我々をわざわざ呼び寄せて今度は何を託してくれるというんだ?」
ヴェストリ広場へ向かう道中、アニエスは悪戯っぽく微笑を浮かべだす。
「まあ色々だ。その大砲に役立てられるはずだからな」
アニエスは魔界の名工・マキャヴェリに特注でにオーダーした、対悪魔用のグレネードランチャーを今も携えている。
見れば他の三人の隊員達も形は違うが、それぞれランチャーをベルトで肩から提げていた。
アニエスに送られるマキャヴェリのレゾネをスパーダも見させてもらったことがあったが、大半は
何でもアニエスは最近、副隊長や小隊長らのために自腹で購入したらしいことを、マキャヴェリはスパーダにも送ってくるレゾネに添えた手紙に書いていた。
ちなみに、そのレゾネには単発式以外にも回転式の弾倉を備えた6連発から12連発も可能な大型も載っていたが、アニエスの予算では手に負えなかったらしい。
「いつもお前には世話になるな。苦労をかける」
新たなマジックアイテムで銃士隊の戦力がさらに強化されるのはアニエスとしても実にありがたいことだった。
正直な話、如何にアニエスがシュヴァリエに叙され近衛隊の地位を得たとはいえ、予算不足にはかなり悩まされている。
メイジが主体となる魔法衛士隊と比すると、銃火器の弾薬費などでコストがかかりやすい。軍部から予算が出ても、基本的にはそれらの維持で精一杯だった。
個人的に任務とは別に以前から行っていた悪魔退治の依頼も続けており、その報酬を貯めて、最近ようやく自分の愛用の武器を部下達にも配ることができた程だ。
だが、マジックアイテムを有効活用させていくには、どうしてもメイジなどの魔法の専門家の協力が不可欠とならざるを得ない。
何よりスパーダの援助があるからこそ、銃士隊は近衛隊になる以前とは比べ物にならない程に戦力は強化されたのだ。
◆
ヴェストリ広場は新たな実験の場と化しつつあった。
「おーい、スパーダ君! 用意はできたよーっ!」
スパーダからの指示で、ギーシュは得意の錬金の魔法で数体の青銅のゴーレムを作り出していた。
ゴーレムの人型が並べられる中でスパーダとアニエス達は数十メイル離れた位置で待機している。
遠巻きに生徒達が見守る中、ルイズはスパーダ達の傍らで見物していた。
足元にはコルベールが研究室から持ってきた箱が置かれており、その中には色とりどりの大きな弾丸が収められていた。
「どれから試すの?」
「アニエス達に任せよう」
ルイズに問われたスパーダはアニエスに視線を送る。
頷いたアニエスは丸い弾頭の砲弾の一つを手に取り、自らのランチャーの砲身を折ると中に装填する。
他の隊員も各々のランチャーにそれぞれ選んだ砲弾を装填していった。
「構えろ!」
隊長の号令と共に隊員達は両手でランチャーを構える。
狙いは当然、前方の彼方にある青銅の人形だ。
「Fire!(放て!)」
バシュッ、と鈍い音と共にアニエス達のランチャーから砲弾が吐き出された。標的目掛けて真っ直ぐに飛んでいき――
「――だあああぁぁぁぁっ!?」
異なる爆音が重なると、間の抜けた悲鳴が轟いていた。
ギーシュは横合いから見物する他のギャラリー達より少し標的に近い位置に立っていた。
一番近い位置にあったゴーレムに着弾した途端に目も眩むような閃光が一瞬で膨れ上がり、さらには耳をつんざく甲高い爆音が轟いたのだ。
「は……はう……」
他の生徒達は思わず目を覆い、耳鳴りに見舞われてふらついていたが、比較的一番近くにいたギーシュだけが昏倒して悶絶していた。
「おい、あっちのゴーレムが!」
「溶けていってるぞ」
爆光はすぐに治まり、グレネードの砲弾が命中したゴーレムはそれぞれ異なる様相を呈していた。
アニエスが狙ったのは閃光を発した以外は胴体に多少焦げ跡が出来ている程度だったが、他は炎に包まれて燃え上がったり、激しく弾けて迸る電撃に包まれたり、さらには白煙と共に泡を噴き出し見る見るうちにボロボロに崩れ落ちていくのだ。
「おお、こりゃおでれーたな。あんなもんを人間にぶちこんだら、ひとたまりもねえや」
「嫌な想像をさせないでよ……」
デルフの軽口にルイズは思わず震え上がった。
このグレネード弾は全て、スパーダが錬金術で作ったものだ。
アニエスが使っているグレネード弾は元からいくつか種類があり、単純に爆発する炸裂弾以外にも煙幕を撒き散らして敵を攪乱させるものなどがある。
それらはゲルマニアのマキャヴェリから取り寄せているようだが、スパーダは彼女達のために色々な効果を発揮する新しいグレネード弾の見本を作ったのだ。
黄色い弾頭は中に強力な酸の液体が詰まっており、スパーダによると黄金をも溶かす王水を超えるものらしい。
赤い弾頭にも液体が詰まっているが中身は油のような可燃性のもので、あのように標的を燃やすことを目的にしている。
紫の弾頭は少し変わっており、中に詰まっているアンチモンの砂粒を撒き散らし、放電現象を巻き起こす。
そしてアニエスが使った黒い弾頭は錬成したマグネシアと鳴き石が混入されており、炸裂と同時に鳴き石が弾けて爆音を発し、さらにマグネシアが一気に熱せられて目が焼けるような閃光を放出するのである。
「どうだ。使い心地は」
「まあまあだな」
アニエスは小さく肩を竦めて自分の部下達を見やった。
他の隊員達は自分が撃ったグレネード弾がもたらした効果に呆気に取られている様子だった。
「サイクロプスが相手でも、あのように溶かしてやれば充分他の攻撃も効きやすくなるはずだ」
「それは有難いな。奴らは石のように硬いから、我々も苦労しているんだ」
隊員達もスパーダから与えられた魔法剣で悪魔達とも互角に戦えるようになり、敵の弱点を突いて仕留めるのだが、その力だけでは対処しきれない相手となると容易には始末できないのだ。
「こいつは威力が強すぎだからな。普通は、あれぐらいの強さがちょうど良いんだ」
と、アニエスは炎上するゴーレムを見つつ、箱の中に収められている別のグレネード弾を手に取りだす。
大半は弾頭が丸みを帯びているのだが、今手にしている赤い弾頭は先端が大きく尖った形で、五割ほど大きくなっている。
「奴の自信作だそうだが、気に入らんか」
「そういう訳ではないが……」
アニエスがこれまで使っている中で最も強力なグレネード弾は、フレア弾と呼ばれている代物だ。弾頭には熱の力を蓄えた火石が仕込まれてあり、その力を一気に開放することで十数メイルにも及ぶ広範囲を一気に焼き尽くす。
タルブ戦役の際や悪魔退治でも役立てた、アニエスにとっては切り札とも言うべきものなのだが、下手をすると味方すら巻き込みかねない程に威力があり過ぎでもあった。
「……君は、火が嫌いなのかね?」
ふと歩み寄ってきたコルベールは眉をひそめながらアニエスに問いかけだす。
いきなりの話題に対してアニエスは憮然と横目でコルベールを睨みつけていた。
「いや……失礼した。君が火を見る目が少し気になったものでね」
確かに燃え上がる炎を目にするアニエスの表情はいつもと雰囲気が違うことにスパーダも気付いていた。
その瞳に宿っていたのは、恐怖と憎しみの感情だった。
「完全に忌避しているのでもあるまい。そうでもなければ、炎剣の小隊を率いたりもしないだろう」
銃士隊はアニエスが率いる雷の魔法剣を得物にする雷剣隊を筆頭に、氷剣隊、風剣隊、そして副隊長が率いる炎剣隊の四部隊で構成されている。
隊長の私的な感情で隊の一つを冷遇などしようものなら、隊自体が成り立たなくなる。
「……あれぐらいの炎なら、何のことはない。こいつが起こす炎くらいになると昔を思い出すだけさ」
スパーダの指摘にアニエスは燃え上がるゴーレムに視線を流しつつ、手にするグレネードの強化火炎弾を見つめだす。
(因縁の相手か……)
アニエスの様子からして、恐らく20年も昔の記憶が呼び起こされているのだろう。
彼女の故郷であるダングルテールを滅ぼした原因の一つであるという、炎を操る悪魔は彼女の記憶から消えることはないのだ。
「火が嫌いなら、こいつを使ってみたらどうだ」
スパーダは箱の中からグレネード弾の一つを取り出し、アニエスに差し出した。
弾頭は丸く色が青いそれをアニエスはフレア弾と交換して受け取ると自分のランチャーに装填する。
他の隊員達に与えられたグレネードランチャーはどれもストックが付いているのだが、アニエスのものはそれが付いていない。
取り回しの良さを重視してグリップもピストル式に換装されているようだが、本来は拳銃のように片手で扱える代物ではない。
だが、アニエスは愛用のランチャーを片手で構えて燃え続けているゴーレムに狙いを定めていた。
――バシュッ!
発射の反動を難なく片手で制御し、一切のブレを起こさずに放たれたグレネード弾は標的に命中し、甲高い破裂音を響かせた。
「おお、火が消えた!」
「何だありゃ? 凍ってるのか?」
周りのギャラリー達はさらに目を丸くして驚きの声を上げていた。
白い霧が噴き上がりゴーレムを覆うと燃え上がっていた炎が瞬く間にほとんど鎮火していったのだ。
しかも着弾した場所とその周りは白い霜で覆われて凍りついている。
「雨で敵が濡れているなら、その分効果は強くなる。覚えておくと良い」
呆然とするアニエスにスパーダは微笑を浮かべながら言った。
冷凍弾と称する特殊な弾の製作には遥か未来からの錬金術が大いに役立てられた。
アグナスの資料の中には未来の時代までに見つかった百を超える元素の周期表があり、スパーダの元いた時代ではまだ発見されていなかったり、名前もついていないような物も多かった。
それを参考にして以前から行っていた大気を液化させる錬金術で、〝窒素〟と未来で名付けられている成分を利用して、冷凍弾を作ったのである。
その冷却能力は氷点下196度に達し、液化させた酸素と違って、こちらは火に反応を起こしたりしない。それどころか逆に蒸発した際の窒素の霧が酸素を薄めるので、鎮火させることもできるのだ。
「これも今のと同じ奴なのか?」
アニエスは箱の中から尖頭のグレネード弾を手にして尋ねた。その弾頭の色もまた、青色だった。
弾頭の形で威力の強弱が区別分けされてるので、より強力な冷凍弾であることは他の隊員達も察することができる。
「炎を操る悪魔ならより効果を発揮するはずだ」
強化冷凍弾にも液化された気体が封入されているが、それは窒素ではない。
窒素は大気の大半を構成する成分であり、手軽に抽出して大量に液化させることができる。だが、大気の成分の中には極僅かしか存在しない種類もいくつかあり、中には液化した窒素よりもさらに高い冷却能力を有している。
特に〝ネオン〟という成分の氷点下は246度にもなり、〝ヘリウム〟にもなると絶対零度にも達しようかという驚異的なものになるのだ。
ハルケギニアの大気からではそれらの成分を大量に抽出できないが、幸いなことに風石に含まれている成分は大半がそのヘリウムとネオンであることが判った。
風石から抽出したそれらを液化して混合し、さらに固定化の魔法も加えて安定させることで強化冷凍弾の弾頭に封入してある。
炸裂時には同じく封入してある水を噴霧させてより標的を極低温の冷気で凍らせるのだ。
「……有難く使わせてもらおう」
「それから、これも渡しておこう」
ふとスパーダが懐から取り出したものにアニエスは注目した。
同じくグレネード弾の一つだったが、その弾頭は鏡のように磨き上げられた銀色だった。
「何? その弾、いつ作ったの?」
横から覗き込んできたルイズは怪訝そうに、太陽の光を反射して輝く弾を見つめだす。
スパーダが錬金術でグレネード弾を作っている作業をルイズも見物していたが、今手にしている弾の存在は初めて知ったのである。
他の弾は一昨日には全て箱に収まっていて、コルベールの研究室に保管してあったのだ。
「今朝出来たばかりだからな。これは他の弾と違って、悪魔達にしか効果はない特別性だ」
アニエスはまじまじと渡された銀の砲弾を見つめだす。
尖った弾頭の形状から強化弾と判るが、対悪魔に特化したという効果がイマイチ、ピンとこない。
他のグレネード弾ですら、悪魔達にも充分通用するであろう効果の代物ばかりであるはずなのに、それすら超えるとは一体どれ程のものなのか、見当もつかなかった。
試すべき悪魔は目の前にいるが敵では無い以上、今ここで試し撃ちをするのは不可能だ。
「……良いさ。その時が来たら使わせてもらう」
小さく笑みを零したアニエスは銀のグレネード弾を、他の弾が収められたベルトの空いているスペースへと挿入した。
今回、挿絵でアニエス達が使用するグレネードランチャーおよび弾のイメージを完全に固定化しました。
ランチャーはカプコンのバイオハザードを含めたサバイバルシリーズが元ネタとなります。
作品の良かったところはどこですか?
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登場人物
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世界観
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読みやすさ
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話の展開
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戦闘シーン
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主人公の描写・設定
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悪魔の描写
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脚色したオリジナル描写・設定