魔剣異聞録~The Legendary Dark Slayer/Zero   作:月に吠えるもの

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Mission 16 <天空を制する者達>

既に夜は明け、眩しい日の光が降り注ぎ、頭上を見上げればすぐそこには蒼穹の青空が広がっている。

ルイズ達が乗るフネは海上より遥か上空の白い雲の上を進んでおり、予定ならばもうすぐアルビオン大陸が見えてくるはずである。

一行は船内から甲板に出ており、ギーシュとキュルケは空の上から眺められる絶景に息を呑んでいる。

 

ワルドは後甲板の方で風の魔法を帆に向けてゆっくりと少しずつ放ち続けていた。

燃料の風石がアルビオンまで持たないために、数時間も前からこうしてその足りない分を補っているのだ。

スクウェアのメイジだからこそ、それだけの芸当が可能なのである。

 

そんな中、ルイズだけは甲板の上をうろうろしたり、時には何かを確かめるかのように船尾から遥か後方の空を眺めたりと落ち着きのない行動を取り続けていた。

(何でよ……何で、まだ来ないのよ……)

鬱積した思いで、ルイズはスパーダ達が追いついてくるのを今か今かとずっと待ち続けていた。

五分に一回はこうした行動を繰り返し、その回数はとうに百を超えている。

なのに、未だにスパーダは姿を現さないことにやきもきしていた。

スパーダだったら、あんな岩のゴーレムなど一撃でバラバラにしてしまってもおかしくない……はずだ。

だったら、このフネが出航してからそれほど間を置かずにタバサのシルフィードに乗って追いかけてきているはずである。

なのに、何故未だに追いついてこないのだ。

スパーダほどの実力なら、ゴーレムにやられるなどまずないというのに……。

 

「アルビオンが見えたぞー!」

いつまで経ってもスパーダが現れないことに苛立つ中、鐘楼の上に立った見張りの船員が大声を上げるのが響き渡った。

その声に反応し、顔を顰めていたルイズは面を上げた。

 

雲の切れ間から、黒々と大陸が覗いていた。大陸ははるか視界の続く限り延びている。

地表には山がそびえ、川が流れていた。大河から溢れた水が空へと落ち込み、そこで白い霧となって大陸の下半分を包んでいた。

霧は雲となり、大雨を広範囲にもたらすのである。

それがこのアルビオン大陸が、〝白の国〟と呼ばれる所以なのである。

 

この大陸はトリステインの国土ほどもある大きさで、大洋とハルケギニアの上空を定期的にさ迷っているのだ。

初めて目にする者であれば、誰もがこの雄大な景色に息を飲むことになるだろう。

「へぇー、あれがアルビオン大陸ね! 初めて見るけど、すごいじゃない!」

実際、甲板の上でキュルケは感嘆の声を上げて、その絶景を眺めていた。

「いやぁ、全くだよ……」

ギーシュも同じように目を丸くして驚嘆している。

 

(やっぱり、何度見てもすごいわね……)

ルイズもかつて姉達と共に何度か訪れたことがあるものの、やはりこの絶景には目を奪われる。

……それにしても何て雄大で穏やかな景色なのだろうか。

とても今、このアルビオンで内乱が起きているようには見えない。

 

「右舷上方、雲中より船が接近してきます!」

突如、見張りの船員が緊迫した声を上げていた。

船員含め、ルイズ達の視線がそちらへと向けられる。

「いやだわ……反乱勢……貴族派の軍艦かしら」

そこにはこのフネよりも一回り大きな黒塗りの船体が、二十数門にも及ぶ砲門をこちらの船に向けているのが見える。

「でも、この船ってその貴族派に荷物を運んでいるんでしょう? だったら、攻撃されることはないわ」

キュルケが腕を組みつつ、楽観的に呟いた。

確か、積荷として硫黄を運んでいると船長が言っていた気がする。

火の秘薬であり、火薬の原料にもなる硫黄は、戦争が起きている場所ではゴールドにも等しい高値で売買される。

そして、この硫黄を買い取っているのが、あの忌まわしいアルビオンの貴族派なのだ。

 

 

だが、見張りの船員は次にとんでもないことを叫びだした。

「……あ、あのフネは旗を揚げておりません! あれは、空賊です!」

船員達の顔がみるみるうちに青ざめる。

「う、嘘だろう!?」

「空賊って……」

「こんな時に何よ……!」

ルイズ達の表情にも緊張が走った。

内乱の混乱に乗じて活動を行っているのだとしたら、このフネは格好の標的だ。

 

それを空賊達は横取りしようというのか。

だがどちらにしろ、せっかくアルビオンが目前だというのにこんな連中に襲われては任務の障害となってしまう。

「逃げろ! 取り舵いっぱい!」

「だ、ダメです! 既に砲台の射程内です!」

その言葉を肯定するかのように、黒船は脅しの一発をこのフネの針路目掛けて放ってきた。

放たれた砲弾はフネの進路上の雲の中へと吸い込まれていく。

おまけに、黒船は停船命令の旗まで登らせてきていた。

 

「き、貴族様……!!」

苦渋の決断を強いられた船長は唇を噛み締めると、頼みの綱であるワルドへと助けを求めるように見つめる。

だが、当の本人は実に涼しく落ち着き払った顔でこう言った。

「魔法はこの船を浮かべるために打ち止めだよ。残念だがあの船に従うしかない」

ここでワルドが魔法を止めるのを止めれば、海へと真っ逆さまだ。

「ちきしょう……これで破産か……」

船長はがくりとうな垂れ、他の船員達に停船を指示し始めた。

 

やがて、停船を余儀なくされたルイズ達の乗るフネの舷側に黒船が隣接してくると、向こう側の甲板には短銃やら弓などで武装した男達がズラリと並んでこちらに狙いを定めていた。

少しでも変なことをしようものなら、確実に攻撃が飛んでくるだろう。

「ええい、応戦だ! こうなったらワルキューレで……!!」

「やめなさい。下手に暴れたりしたら、この船ごと海の藻屑になっちゃうわよ。あたしは嫌だからね、そんなの」

切羽詰った表情のギーシュが薔薇の造花の杖を構えようとするのを、キュルケが制した。

そうこうしている間に、黒船から放たれた鉤縄がこのフネへと引っ掛けられ、次々と空賊達が縄を伝って乗り込んできた。

悔しそうな渋い顔をするギーシュは、ヴェルダンデに抱きつくなり、「ああ! ヴェルダンデ! こんな所で空賊に捕まってしまうだなんて!」などと酔ったような言葉を上げていた。

乗り込んできた空賊達はおよそ数十人。全員が斧やら曲刀などを手にしている。

 

甲板に繋ぎ止められていたワルドのグリフォンが空賊達を威嚇するように吠えていたが、その頭を突如白い雲で覆われ、ドスン、と力なく倒れて横たわると寝息を立て始めていた。

「眠りの雲か……確実にメイジがいるようだな」

ワルドはこのような状況でありながら、何故か面白おかしそうに不敵な笑みを浮かべている。

ルイズもギーシュと同様に自分の魔法でこいつらを吹き飛ばしてやろうかと考えたが、メイジがいるのでは少々分が悪い。

諦めて、杖を手にしていた腕をゆっくりと下ろす。

やがて、甲板には無精ひげに左目に眼帯をした、ぼさぼさの長い髪の男が乗り込んできていた。

ずいぶんと若いが、服は他の空賊達より立派である。どうやら、空賊の頭領らしい。

「船長はどこだ?」

「私だ……」

震えながらも、船長が精一杯の威厳を保ちつつ手を上げていた。

頭領は船の名前と積荷を確認すると、その積荷を自分の支配下におくことを宣言する。

「よおし、船ごと全部買い取ってやる! 代金はてめぇらの命だ!」

その後、頭領は甲板にいるワルドやルイズ達に気がつき、振り向いてきた。

「おやおや、貴族の客まで乗せていたのか」

そう言いながらルイズに近づき、顎を手で持ち上げる。

「こりゃあ、別嬪だ。お前、俺の船で皿洗いをやらねえか?」

男達が一斉に笑い声をあげる。しかし、ルイズはその手をぴしゃりとはねつけるなり怒りを込めて男達を睨みつけて叫んだ。

「下がりなさい! 下郎!」

「こりゃ驚いた! 下郎ときたもんだ!」

頭領は大声で笑う中、ルイズは拳を握り締めながら唇も噛み締めていた。

(あんた達なんか、その気になったらあたしの魔法で……)

だが、状況が状況だ。今、それをやることはできないことがどうにも悔しかった。

(こんな時なのに……何でまだ来ないのよ!)

そして、未だ追いついてこないスパーダに対する心配と不安は、徐々に不満へと変わっていった。

本来なら彼は使い魔であり、自分の傍にいてくれる頼もしいパートナーであるはずでなのに……何故、こうも離れ離れになるのだろう。

と、いうより彼にはパートナーとしての自覚があるのだろうか……。

「てめえら。こいつらも運びな! 身代金がたんまり貰えるだろうぜ!」

頭領の指示により、ルイズ達は連行されることとなってしまった。

……状況は、あまりに最悪だった。

 

 

 

 

空という場所は山や森といった地形は一切、存在しない広大な空間だ。

よって、空で鳴り響く音は障害がない限り、地上に比べて広範囲に渡って轟くのである。

ラ・ロシェールを発ち、スパーダ達を乗せて飛翔し続けるシルフィードは雲の中を抜けるようにさらに浮上している最中だった。

小回りの利かない大きなフネに対し、こちらは風竜。出発そのものは遅れはしたものの、そろそろ追い付いても良い頃だろう。

 

そんなことを考えていた時、その重い砲撃のような音がスパーダ達の元へ届いていた。

「アルビオンは紛争の最中だったな」

話によれば浮遊大陸であるアルビオンにおける軍艦も空を飛ぶフネであり、この大空の中で戦闘を行っているのだという。

となれば、この砲撃音も納得ができるだろう。つまり、もうアルビオン大陸は目と鼻の先なのだ。

……ルイズ達が乗っていたのは単なる輸送船。純粋な軍艦などと比べれば戦力差は火を見るより明らかだ。

もしも戦闘に巻き込まれでもすれば、ひとたまりもない。

「もう少し速く飛べるか」

「お願い」

スパーダがタバサに尋ねるとこくりと頷き、シルフィードに飛行速度の上昇を命じる。

飛行速度を上げて上昇を続けていると、ついに雲を抜け出て陽光が照り散る蒼穹の大空へと出てきていた。

 

目の前に広がるその雄大な光景に、スパーダは息を飲む。

地形が空に浮かぶというのは、魔界ではそう珍しくもない光景ではあるが、これほど巨大な大陸が堂々と空に浮かぶ姿には、嘆息がもれてしまう。

だが、そんな光景を目にして楽しむ余裕などありはしなかった。

「案の定だな」

呟きながら、スパーダは背中のリベリオンに手をかける。

前方のやや中空に、二隻のフネが隣接しているのが目に入ったからだ。

片方は、ルイズ達が乗っていた輸送船に間違いない。そして、もう一方はそれより一回り大きい軍艦らしきフネだ。

やや遠目ではあるものの、軍艦から縄を伝って輸送船に乗り移っているのは……一見、軍人ではないように見えるが。

「このまま下に付けるんだ。気づかれんようにな」

スパーダの指示にタバサはシルフィードの高度を維持するように飛ばさせ、二隻のフネの間へと近付いていった。

 

 

「頭の前だ。挨拶しな」

空賊の船にしては立派な部屋にルイズ達は連れて来られていた。

元々、先ほどまでは船倉に押し込められていたのだが、そこで様子を見にきた空賊がルイズ達の目的を尋ねてきた際、

ルイズが「誰が薄汚いアルビオンの反乱軍なものですか! あたしは王党派への使いよ!」と、堂々と喋ってしまったのだ。

彼らは貴族派に協力しているようで、ここで「自分達は貴族派です」と誤魔化しておけば港まで送ってくれたというのに、馬鹿正直に目的を語ってしまったルイズは

「こんな連中に嘘をつくくらいなら死んだ方がマシよ!」とか、「大使としての扱いを要求するわ!」などとプライドを振り回した行動を取り続けていた。

ギーシュやキュルケはルイズの行為にほとほと呆れ果てていたのだが、それでもルイズは「最後まで諦めないわよ!」などと強気であった。

 

そして、しばらく経った後、空賊の頭領が会いたいということでここへ連れてこられたのである。

当然、全員杖は取り上げられており、抵抗することはできない。

「すぐにあたし達を解放しなさい! そうじゃなかったら、あんた達なんかとまともに口を聞いてやるもんですか!」

机の上に足を投げ出している空賊の頭領と相対した途端、ルイズは腰に両手をやりながら、居丈高な態度を取っていた。

こんな状況でよくもまあ、これだけ強気に出られるものだと二人の同級生は呆れていた。

「気の強い女は子供でも好きだぜ? と言っても、トリステインの貴族は気だけは下手に強いみたいだけみたいだな。肩が震えてるぜ?」

「な! そんなこと……ないわよ!」

とは言いつつも、本当はルイズも怖いのだ。

スパーダのおかげで魔法の自信が付いたのは良いものの、こうして杖を取り上げられれば自分は前と同じく無力な存在。

スパーダがいてくれれば、こんな恐怖など吹き飛ぶに違いないのだ。

魔法は使えないとはいえ、スパーダほど頼りになる存在はいない。

スパーダさえいてくれれば、きっとこんな奴らなど蹴散らしてくれる。

「まあ、いいさ。王党派への使いと言ったな? 今更、あんな奴らの所に何の用だ。明日にでもなればすぐに消えちまうよ」

「あんた達に話すことなんてないわ」

「ふぅん。それじゃあ、貴族派につく気は……」

「死んでも嫌よ!」

内心は恐怖でいっぱいであったが、精一杯の虚勢を張り続けるルイズ。

そんな中、ギーシュはハラハラしながら事の顛末を見届けており、キュルケは頭を抱えている。

ワルドは何故か、このような態度を取り続けるルイズを感心したように見つめていた。

姿勢を正した頭領は、じっとルイズの目を睨むように見つめだす。

「もう一度言う。貴族派につく気はないか?」

頭領が再度そう言った、その時だった。

 

突然、ルイズ達の背後の扉が乱雑に開け放たれ、数名の空賊達が入りこんできたのだ。

あまりに唐突であったため、ルイズ達は思わず倒れてしまった男達を避けてしまう。

何が起きたのだろう。船中が慌ただしくなっている。

「何事だ!」

「て、敵襲です!」

空賊の一人が起き上がりつつ、そう叫ぶ。頭領は机を叩きながら椅子から立上がった。

「どういうことだ!」

「とにかく、甲板に来てください!」

無言で頷く頭領はルイズに顔を向けると、真剣な面持ちで言う。

「話の続きはまた後にしよう、大使殿。それまでここにいてもらう」

(な、何よ。いきなり態度を変えて)

突然、先ほどまでの荒くれ者のような態度が一変したことを不審に思ったが、頭領達は他の空賊達と共に部屋を出ていく。

鍵がかけられたこの部屋に取り残された一行は、あまりに唐突すぎる展開に呆然としていた。

「敵襲って……こんな空賊船を誰が襲うっていうの?」

「ま、まさかとは思うけど……」

キュルケが首を傾げる中、ギーシュは何か予感したのか乾いた苦笑を浮かべている。

だが、港までの進路も変えられてしまった以上、自分達がいる場所をスパーダが知ることなど不可能なはずだ。

今頃、アルビオンのスカボロー港へ向かっているか、到着している頃だろう。

しかし、もしも彼が来たのであれば……それはルイズ達にとっては唯一の好機であると言えた。

 

 

 

 

シルフィードは軍艦のすぐ真下を飛び続けながら、追跡を行っていた。

輸送船は軍艦のすぐ後ろに付けられているようであり、シルフィードはその下へ潜りこんで今ここにいるのである。

どうやらこの軍艦は空賊の船であるらしい。話に聞けば、アルビオンの内乱に乗じて活動を活発化させているらしい。

だが、何にせよルイズ達はこの艦に移されたのを先ほど目にしていた。

とりあえず、追い付けはしたというわけだが。

「どうするの」

「こいつの横へ付けろ」

スパーダの指示通りに、タバサはシルフィードを軍艦の右舷へと移動させてさらに間近へと近付ける。

「どれ、乗り込むとするか」

言うなり、立ち上がっていたスパーダはシルフィードから軍艦の船体へと飛び移りだした。

リベリオンを突き刺してそれを足場にするのかとタバサは思っていたのだが、その考えとは異なる行動を彼は取っていた。

スパーダは船体に足を付けるなり、そのまま足場にして垂直に駆け上がりだしたのだ。

トライアングルクラスの土メイジならばあれぐらいのことは朝飯前であるらしいが、彼は魔法など使わずに素で壁を足場にしている。

船体の2/3ほどまで一気に駆け上がったスパーダは、そこから突然船体を蹴って宙へと身を躍らせる。

空中で体を捻った彼の足元に、突然赤く光る円盤が現れると、スパーダはそれを蹴りつけさらに高く跳躍しだした。

「きゅい! きゅい! やっぱり、あの悪魔はすごい力を持ってるのね!」

スパーダの姿が甲板の向こう側へと消えていったのを見届けると、シルフィードが驚いたように叫んでいた。

 

スパーダが甲板へと飛び上がった時、そこで待機していた十数名の空賊達の姿を一瞥していた。

(これが空賊か。……そうとは思えんな)

「き、貴様! 何者だ!」

突然姿を現したスパーダに男達は全員虚をつかれたように驚いていたが、すぐに我に返ると甲板に着地したスパーダを取り囲んで次々と銃やら弓やらを向けてきていた。

中にはメイジなのか、杖まで手にする者までいる。

「貴族派の襲撃か!」

(……そういうことか)

男達が銃弾と矢を放とうとするその刹那、スパーダは自らの短銃を抜き放つと、それぞれ違う方向へ向けて射撃を行った。

一発撃つ度に男達の手から武器を撃ち落とし、目まぐるしく体や腕の向きを変え、スパーダに飛んでくる矢や銃弾をかわしつつ次々と魔力を固めて銃弾として放っていく。

五秒と経たぬ内に空賊達は武器を弾かれて無力化されてしまった。

あまりの出来事に男達は唖然としている。

スパーダは短銃を収めると、自分を取り囲む男達をぐるりと見回し、その顔を一人一人一瞥していく。

 

「この船の主に会いたい」

「ふざけるな! 貴様、一体何者だ! 貴族派の手の者か!」

今度は斧やら剣やらを手にしだすが、鋭い剣戟の音が響き閃光が瞬いた途端、男達が手にする武器が次々と真っ二つに斬り落とされていた。

いつの間にか、スパーダは閻魔刀を手にして静かに鞘に収めてようとしている。

圧倒的な力の前に男達は愕然とし、中には恐怖で尻餅までつく者までいた。

「もう一度言う。この船の主に会いたい」

スパーダは先ほどから何の感情も窺えない、氷のように冷たい表情を浮かべつつ再度命じてくる。

 

「この俺に、何かご用かい?」

すると、他の空賊達とはやや異なる雰囲気をかもしだす派手な服装をした金髪の青年が姿を現した。

スパーダはその頭領から感じられる魔力に、僅かに顔を顰める。

他の男達をかき分け、スパーダと対峙した頭領は不敵な笑みを浮かべながらスパーダを足元から頭まで、舐めるように視線を這わせていた。

「一人でこうも大胆に乗り込んでくるなんて、ずいぶんと派手なことするじゃねえか。で? 用件を聞こうか」

「つい先ほど、この艦に貴族の子女達が乗り込んできていたはずだが。返してもらいたい」

腕を組みながら、スパーダは頭領の前まで歩み寄る。

「ああ、あいつらのことかい。何でも、トリステインからアルビオン王党派への使い、だとぬかしてるがな」

こいつら、ルイズ達の目的を知っているようだ。誰かが喋ったのだろうか。

「今さら明日にでも消えちまうあいつらに何の用があるのかねえ。……まあいいさ。で、あんたもあいつらの仲間かい。別に貴族派の連中でもなさそうだな」

「そのようなものだ」

静かに答えつつも、スパーダの視線は頭領へと向けられてはおらず、この艦そのものへちらちらと向けていた。

頭領は値踏みをするかのようにスパーダを観察している。

「それじゃあ、あんたにも提案がある。貴族派につく気はないかい? あいつらはメイジや、あんたみたいに強い奴を欲しがってる。礼金もたんまり弾んでくれるだろうさ」

 

スパーダは黙りこくったまま、頭領の顔をじっと見つめていた。

頭領も同じく、スパーダを見返している。

他の男達は緊張した様子で、事の顛末を見守っていた。

「……空賊にしては立派な船だな」

唐突に話題を切り替えたスパーダに、頭領も含めて他の男達も訝しむ。

「それにお前の部下達も、ずいぶんと統率が取れている。まるで軍隊だ」

男達を見回し、スパーダは静かに語った。

「先ほど誰かが口走ったが、何の変哲もない空賊がアルビオンの貴族派を過剰に敵対と警戒をしているのも不自然だ」

「……何が言いてえ?」

頭領の問いに、スパーダは彼と目を合わせて言う。

「茶番はここまでだ」

細く溜め息を吐いたスパーダの言葉に、頭領は顔を顰めていた。

「大方、空賊を装い、貴族派への補給を断とうとしていた、そんな所か」

スパーダの指摘に、男達がざわめきだす。頭領までも呆気に取られたような顔をしている。

「お前達が王党派ならば、話は早い。ウェールズ・テューダーとやらの元までこのまま案内してもらいたい」

「その必要はない」

頭領はそれまでの賊らしい態度を一変させ、若さに似合わぬ威厳を漂わせていた。

「トリステインの貴族は下手に強気な者ばかりだと思っていたが、あなたのような貴族もいたのだな」

頭領はバンダナとアイパッチ、そして髭を外し、着崩していた上着をしっかりと着直すとそこには精悍な顔立ちをした青年の姿があった。

「名乗らせてもらおう。アルビオン王立空軍大将、本国艦隊司令長官……もっとも本艦イーグル号しか存在しない無力な艦隊だが」

青い軍服を纏ったその青年は、先ほどまでの荒くれ者から一転し、高貴な雰囲気を身に纏っていた。

「アルビオン王国皇太子、ウェールズ・テューダーだ。あなたの名も伺おう」

「I'm Sparda.(スパーダだ)」

差し出された手をスパーダが握り返し、二人は握手を交わした。

他の男達も軍人らしく直立し、二人を見守っていた。

 

「ミス・タバサ、もう良いぞ」

スパーダがそう告げた途端、甲板の下から突然一頭の風竜が浮上してきた。

タバサを乗せたシルフィードに男達が驚く中、堂々と甲板の上へと着地していた。

 

 

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