魔剣異聞録~The Legendary Dark Slayer/Zero   作:月に吠えるもの

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Mission 18 <猛る閃光、吠えよ青銅、舞えよ雪風>

 

翌朝、ニューカッスルの秘密の港ではイーグル号及び拿捕した輸送船、マリー・ガラント号に非戦闘員である女子供達が搭乗していた。

まもなく行われるであろう一方的な虐殺から逃れるべく、白い雲の中を潜り抜けてこのアルビオン大陸を離れていくのである。

その脱出船が出航する寸前、始祖ブリミルの像が置かれた礼拝堂では礼装に身を包んだウェールズと、鉄兜で身を固めた十数人ばかりの衛士達が新郎と新婦の登場を待っていた。

扉が開き、その向こうから現れたのは二人の男女。ワルド子爵と、制服の上から純白の新婦のマントとヴェールを身につけたルイズであった。

二人を祝福する観客はたったの三人。キュルケ、ギーシュ、タバサである。

 

「へえ、結構似合っているじゃないか」

ゆっくりと入場し、祭壇までの道の両脇に控える衛士達の間を進んでいく二人の花婿と花嫁を見て最前列の長椅子に座るギーシュが嘆息する。

「フィアンセの子爵と結婚できるなんてあの子も満足でしょうね」

先祖代々、いがみ合ってばかりいたヴァリエール家であり、あれだけからかってばかりいたとはいえルイズが結婚をするというのであればキュルケも素直に祝福をしていた。

「しかし、突然結婚式を挙げるだなんて、子爵もずいぶんと大胆だなぁ。おまけにその媒酌をウェールズ殿下に頼むとは……。ああ、僕もいつかはこうしてモンモランシーと盛大に式を挙げたいよ」

ギーシュはトリステインに残している愛しの女性との結婚式を想像して、表情が綻んでしまう。

「そうしたいなら、浮気癖はやめた方がいいんじゃない?」

「い、いや……あれはだねぇ……!」

二人が小声で喋っている中、キュルケの隣に座っているタバサだけは己の杖を手にしたまま、黙々と本を読み続けていた。

 

一部を除き、二人を祝福してくれる人間達がいる中、当の花嫁であるルイズの表情はどこか浮かなかった。

朝早くいきなりワルドに起こされたルイズは意味も分からぬまま、妙に熱くなっている彼に連れられてここにいるのである。

彼は「これから結婚式を挙げる」と言ってきたのだが、あまりにも唐突な展開にルイズの頭は付いて行けずどう答えれば良いか分からなかった。

もっとも、ワルド自身はその沈黙の肯定と取ったのか、ほとんど一人で勝手に準備を進めていったのである。

……正直、こんな状況でこんな花嫁の姿をさせられても嬉しくも何ともない。

あまりに突然とはいえ、自分が結婚をするという話を聞いたギーシュは祝福の言葉をかけてくれたし、あのキュルケも素直に「おめでとう」と言ってくれたことには驚いた。

 

そして、スパーダも同様に祝福をしてくれたらしい。

らしい、というのはワルドが先日スパーダに結婚のことを話したら、「おめでとう」と言っていたことを伝えられたからであり、直接本人からは聞いていないのだ。

彼は今、ここにはいない。

ワルド曰く、タバサのシルフィードに乗ってレコン・キスタの軍を見物しに行っているらしく、まだ戻らないのである。一応、途中出席になるかもしれないと言っていたらしいが。

何ともおかしな真似をしだすスパーダの行動がルイズには理解できない。

(……何でよ。何で、あたしには何も言わないの? あたしのパートナーでしょう?)

思えばスパーダとは離れ離れなってしまうことが多い。彼が一人で散歩に出た時を始め、一人で町へ行った時も、ラ・ロシェールで分かれた時も……おまけに今度はこれだ。

パートナーが自分に何の話もしてくれずに一人でどこかへ行ってしまうことが、ルイズにとっては結構なショックでもあった。

(もしかしたら、あたしを信用していないのかもしれない……)

パートナーに対する不安、そして先日見てしまった死を覚悟した者達の姿を見て傷心であったルイズを激しく落ち込ませていた。

 

 

「では、式を始める!」

いつの間にかルイズは祭壇に立つウェールズの前まで来ていたが、俯いたまま顔を上げようとはしなかった。

「新郎、子爵ジャン・ジャック・フランシス・ド・ワルド。汝は始祖ブリミルの名において、この者を敬い、愛し、そして妻とする事を誓いますか」

「誓います」

ワルドは重々しく頷き、杖を握った左手を胸の前に置く。

ウェールズはゆっくりとルイズへと視線を移す。

「新婦、ラ・ヴァリエール公爵三女。ルイズ・フランソワーズ・ル・ブランド・ラ・ヴァリエール――」

朗々と誓いの詔を読み上げるウェールズ。

訳が分からず混乱したままとはいえ、今この瞬間が結婚式の最中であることを改めてルイズは実感する。

(ワルドと、結婚……)

その相手は幼き頃より憧れていた、頼もしいワルドだ。

彼のことは嫌いではない。むしろ好いているはずである。

なのに、どうしても今は彼と結婚する気になれない。喜ぶべきなのに、喜べない。

 

「新婦?」

ルイズが答えないためか、心配そうにウェールズの声がかけられた。

そんなルイズの肩を抱いてきたワルドが落ち着かせるように諭す。

「緊張しているのかい?しかし、何も心配する事はないんだ。僕のルイズ。君は僕が守ってあげるよ。永遠に。それをたった今、誓った。殿下、続きをお願いいたします」

(……そうよ。あたし、言ったじゃない)

ワルドがウェールズに言い、再度誓いの詔を読み上げる中、ルイズは何故自分が今この結婚を喜べないのかに気が付いた。

ラ・ロシェールでワルドに言ったではないか。自分はまだ、多くの人に認められるような人間ではない。だから吊り合わない、と。

それにワルドに今まで抱いていた思い。それは結婚とは全く違うような気がするのだ。

そうだ。自分は多くの人に認められる存在になりたい。

スパーダに、パートナーにも認められる存在にならなければならない。

「どうしたね、ルイズ。気分でも悪いのかい?」

「日が悪いなら、改めて……」

ウェールズの言葉の途中、ルイズは首を振り、毅然とした態度で口にした。

「ごめんなさい。ワルド、あたし、あなたと結婚できない」

突然の花嫁の否定の言葉に礼拝堂中がざわめく。観客であるキュルケ、ギーシュも唖然としていた。

同じように驚いたウェールズとワルドも目を何度か瞬かせて言葉を失う。

「ル、ルイズ?」

「新婦は、この結婚を望まぬのか?」

ワルドの顔が強張り、ウェールズは困ったような表情で問う。

「そのとおりでございます。お二方には、大変失礼をいたすことになりますが……」

そうルイズが答えると、ウェールズは納得したように頷きワルドの方を振り向く。

「子爵、誠にお気の毒だが、花嫁が望まぬ式をこれ以上続けるわけにはいかぬ」

残念そうにウェールズが告げる中、ワルドはそれを無視してルイズの肩を強く抱く。

それが少し痛くて、思わずルイズは僅かに顔を顰める。

「……ルイズ、緊張しているのだろう? そうでなければ、僕との結婚を拒むなどありえない」

「ごめんなさい、ワルド。昔はあなたに憧れて、恋をしてたかもしれない……。でも、今は違うわ」

「ルイズ!」

毅然としたまま拒むが、荒く叫ぶワルドは肩を掴む手の力をさらに強くしたため、今度ははっきりと顔を顰めて痛さに呻いていた。

 

 

 

 

「な、何だか意外な展開になってきたなぁ……」

「あら、結婚式にはこういうトラブルは付き物よ?」

客席で見物しているギーシュとキュルケがあまりに唐突な出来事に驚いていた。キュルケに至っては同時に、この状況そのものを少し面白がっているようだ。

そんな中、タバサはパタンと本を閉じると手にしていた杖を構えだす。その射貫くような瞳は、豹変したワルドへと向けられていた。

ワルドの顔は険しくつり上がり、瞳には冷たい光が宿っている。

 

「世界だ、ルイズ。僕は世界を手に入れる! そのためには君が、君の能力が、君の力が必要なんだ!!」

今までのあの優しかった雰囲気を一変させたワルドに詰め寄られ、ルイズは恐怖を感じながらも告げる。

「……いらないわ、世界なんて」

必死に食い下がるワルドの姿を見苦しく感じたのか、ウェールズがワルドを諌めようとした。

「子爵……君はフラれたのだ。いさぎよく……」

「黙っておれ!」

ウェールズの手をはねのけ、なおもワルドはルイズに迫った。

「ルイズ、いつか君に言ったことを忘れたか!? 君は始祖ブリミルに劣らぬ優秀なメイジに成長する! ラ・ロシェールでも君の力を見せてくれただろう! その才能が、僕には必要なんだ!!」

だが、ルイズの答えは変わらない。それにあれは自分の才能なんかではないのだ。

「わたし、そんな才能のあるメイジじゃないわ」

「だから何度も言っているじゃないか! ルイズ!」

ルイズは静かに首を横に振り、告げた。自分の才能だと思っているあの力を。

「いいえ。あれは才能でも何でもないわ。本当は、あれもただの魔法の失敗なのよ。……あたしはあの失敗を全く活かすことはできなかった。でも、スパーダがあの失敗を活かせるように導いてくれたの。あたしの才能なんかじゃないわ」

スパーダがいてくれなかったら、きっとあの失敗を活かせることなくこれからもずっと欝屈した道を進んでいたことだろう。

思えばスパーダは、決して自分を信用などしていない訳ではないことに気が付いた。そうでなければあそこまで自分を気にかけてくれはしなかったはずなのだから。

もしもルイズを見捨てているのであれば、助言など一切してはくれなかっただろうから。

ルイズの口からスパーダの名前が出てくると、ワルドの眉間に皺が寄せられた。忌々しそうな表情で、彼は叫ぶ。

「あんなメイジでもない、どこの馬の骨かも分からない男のことなど気にするな! 奴は君の才能を失敗と思い込んでそんなことをしていただけだ! メイジでも、貴族でもないあんな男など気にする必要はないんだ!」

 

……あんな、だと? 

あまりに酷い、スパーダを侮辱する言葉だった。

確かにスパーダはメイジでない、異国の貴族だ。

このハルケギニアにおいて魔法を使えない貴族など無価値な存在だと軽蔑されることだろう。

だが、魔法が使えないだけではないか? それだけで貴族として価値がないと言うのか? 

 

彼は立派な貴族だ。他の貴族達が認めなくても、自分は彼を認める。

敵に後ろを見せずに立ち向かい、少しつっけんどんではあるが平民にも貴族にも関係なく分け隔てずに接し、他の貴族達の蛮行さえも正したことがあるというのだ。

彼自身は極めて謙虚であり、そして公明正大である。

あれだけ貴族らしい貴族が、この世界の他にどこにいるのか。

 

だからこそ、ルイズの心には怒りが満ち溢れていた。パートナーを、そして自分自身を侮辱したこの男に。

「……そう。あなたが必要で愛しているのは、何の根拠もなくあたしにあるって思い込んでる、魔法の才能なのね。そんな理由で結婚しようだなんて……。それに使い魔であり、大切なパートナーであるスパーダをこうも侮辱するなんて……主であるあたしを侮辱するのと同じよ!!」

精一杯の力で自分の肩を掴むワルドの手を振り払い、怒号するルイズ。

「誰があんたみたいな奴と結婚なんてするもんですか!」

「なんたる無礼! なんたる侮辱! 子爵! 今すぐラ・ヴァリエール嬢から手を引け! さもなくば我が魔法の刃が君を切り裂くぞ!」

ウェールズが腰に当てていた手で素早く杖を抜き、ワルドへ向けた。他の衛士も同じく、一斉に。

客席に座る三人の生徒達も、同じように杖を構えていた。

 

だが、こんな状況の中、ワルドは突然落ち着きだすと優しい……優しすぎて作り物に過ぎない、悪魔のような冷たい笑みを浮かべて言う。

「こうまで僕が言っても駄目なのかい? 僕のルイズ」

「Nonsense. You're Scum!!(ふざけないで。このひとでなし!!)」

不思議と、その口からはたまにスパーダが呟くことがある、異国のものと思われる言葉が出てきた。

何故、自分がこれを知っているのかは分からない。だが、あまりにも自然と出てきたことにルイズは驚いていた。

 

 

 

 

溜め息を吐きながらワルドは天を仰いだ。

「やれやれ……この旅で君の気持ちを掴むために努力はしたんだが……仕方がない。こうなったら……目的の一つを果たすとしようか」

「目的?」

困惑したルイズの呟きにワルドは答えなかった。

代わりに、ワルドは二つ名の「閃光」に相応しい速度と手際でレイピアの杖を抜き詠唱を完成させ、青白く光る魔力の刃をウェールズに繰り出して来た。

 

狙いは、心臓。

 

あまりの速さに、トライアングルの風メイジであるウェールズでも動きに対応できない。

だが、突風と共にワルドのレイピアの側面に真空の塊による一撃が叩き込まれたおかげで狙いは外れ、左肩を貫くだけに留めていた。

「ぐあっ!」

「何!」

ウェールズが呻き、ワルドが当惑の声を上げる。

「きゃっ!」

次の瞬間、フライによって素晴らしい速さで飛んできたタバサがルイズとウェールズを回収し、反転するとキュルケ達の元へと戻っていく。

「殿下ぁ!!」

「貴様ぁ!」

狙いが外れたとはいえウェールズが傷つけられたことに衛士が激昂し、ワルドに向かって魔法を放とうとする。

だが、ワルドは振り向きざまに杖を振ると、杖の先から鋭い雷鳴と共に嵐のような凄まじい稲妻を放ち、十数人の衛士達を一瞬にして全滅させる。

そこにキュルケがファイヤーボールの魔法を叩き込むが、風の障壁によってかき消されてしまった。

 

「き、貴様、レコン・キスタ……」

ルイズに支えられ、血が溢れ出る左肩を押えながらウェールズは呻いた。

「ワルド……!! あなた、アルビオンの貴族派だったのね!」

キュルケ、ギーシュ、タバサが二人を庇うように前へ立つ中、ワルドは平然とした態度で答える。

「いかにも。しかし、アルビオンの、というのは正確ではないな。我々レコン・キスタは国境を越えて繋がった貴族の連盟さ。我々に国境はない」

そして、ワルドはちっと舌打ちをしながら続ける。

「この旅における、僕の目的は三つあった。一つはルイズ、君を手に入れること。……しかし、これは果たせないようだね。二つ目の目的は……ルイズのポケットに入っている、トリステインとゲルマニアの同盟を瓦解させるという手紙の入手。そして三つ目、そこにいるウェールズ皇太子の命だ。それを邪魔しおって……」

忌々しそうにワルドはタバサを睨む。

それにしてもタバサの行動力の速さにはルイズはおろかキュルケ達も驚いた。

始めに放ったエア・ハンマーも、まるでワルドの行動を初めから予測していたかのような動きであった。

 

「何で! 何があなたをここまで変えてしまったの!?」

「あいにく、それに答えるほど暇ではない。全てはハルケギニア統一のため。そして、ハルケギニアは我々の手で1つになり――始祖ブリミルの光臨せし聖地を取り戻す。そのために、お前達にはここで消えてもらわねばならん」

冷酷な笑みを浮かべ、ワルドはレイピアを構える。それに反応し、ルイズ達の前に立つ三人が身構えた。

「……まったくルイズ、君にも困ったものだよ。あんなどこの馬の骨とも知れん男を使い魔にするとは……。奴を痛めつけて君に僕の力を見せつけようと思ったら下手に抵抗したし、そこの三人をラ・ロシェールへ置いていこうとしたのも邪魔してくれたし、おまけに君にも余計な入れ知恵をしてくれたおかげで全てが台無しだ。もっとも、その奴がここにいてくれなくて良かったよ」

ルイズは歯噛みした。ワルドの言う通り、スパーダがいない最悪の状況なのだ。

パートナーであるはずなのにどうして今、危機に陥っている自分達の近くにいないのか。ルイズはスパーダを恨みたくなるほどに悔しがっていた。

「ああ、言っておくが彼なら外のどこにもいないぞ? どうせあの竜に乗って一人で逃げたのだろうさ。いくら貴族といっても所詮は平民ということだな」

目を細めてワルドは鼻を鳴らす。

「あんなメイジでもない、どこの馬の骨とも知れん平民上がりの没落貴族ごときでは君のパートナーは務まらなかったようだな!」

スパーダを侮辱する言葉を吐き出すワルド。

ルイズはその言葉に対してさらに怒りを感じ、言い返そうとした。

 

「黙れ! 裏切り者め!!」

唐突に、ルイズのものではない怒りに満ちた叫びが礼拝堂に響き渡る。

その怒号を発したのは、何とギーシュであった。

普段のキザったらしい彼とは思えぬ堂々とした男らしい叫びにルイズはおろかキュルケでさえも呆然としていた。

表情や目付きまでも怒りに満ちて変化していたギーシュは床に落した造花の花びらを錬金で剣へと変え、それを手にするとワルドに突き付ける。

「スパーダは立派な貴族だ! 彼は僕らが目指すべき、真の貴族の姿だ! それを侮辱することは、彼の弟子であるこのギーシュ・ド・グラモンが許しはしない!!」

ギーシュにとって、スパーダは特別な存在だった。

初めはワルドが言ったようにどこの馬の骨とも知れない平民の貴族などと軽蔑していた。

だが彼と剣を交え、その強さと人柄に触れていくことで、ハルケギニアの貴族とは全く違う異国の貴族としての風格に惹かれていった。

魔法こそ使えず冷徹で厳しい所もあるが、彼はまさしく本物の貴族なのである。

ギーシュにとってスパーダは師であり、まるで父のように尊敬できる存在だったのだ。

それを侮辱されたことが、許せなかった。

 

ギーシュの怒りの言葉にワルドは一瞬、呆気に取られていたがすぐに嘲笑していた。

「おやおや、軍家たるグラモンの人間があのような没落貴族に惚れこむとは滑稽だな!」

「黙れえぇっ!」

ギーシュはワルド目掛けて突進し、腰だめに引いていた自らの剣を勢いよく突き出した。

スパーダが使っていた技を見様見真似で放ったものであり、突進力や動きの鋭さなどは遠く及ばないが一応形にはなっていた。

ワルドはその突きをあっさりとレイピアでいなしつつギーシュの側面に回りこむ。振り上げたレイピアには、ブレイドによる魔力の刃が宿っていた。

ギーシュは即座に体を反転させ、振り下ろされたレイピアを受け止めて押し返す。

後ろへ跳んだワルドは祭壇の上へ身を翻しながら着地した。

 

そこへキュルケが杖を向け、魔法を放とうとしたがタバサが杖でそれを制してくる。

「二人を守って」

ちらりとタバサはルイズと傷ついているウェールズを振り向いた。

今ここで全員が戦えば、ワルドは隙を突いて二人を殺しにかかってくるだろう。

「もう少しすれば彼が来る。それまで持ちこたえる」

「タバサ。それ、どういうこと?」

ルイズが問いかけるが、タバサはそれ以上答えることなく両手で剣を手にして身構えているギーシュの隣まで歩み寄っていった。

「ん? 何だい?」

タバサがマントの裏から取り出した赤く光る星形の石を自分にかざしてきたため、ギーシュは戸惑っていた。

石が砕け散ると、ギーシュの全身は一瞬、赤い光で包まれてからすぐに収まる。

タバサはさらに星形の黄金に光る石を取り出して自分の胸にかざすと、今度は彼女の全身を黄金の光が包んでいた。

「何をしているか知らんが、こちらから行くぞ!」

ワルドが祭壇の上からウインドブレイクの魔法を放ってきたが、タバサも自らの魔力の全力を出した同じ技で相殺していた。

「うおおおっ!」

そこへギーシュが飛び掛り、大上段に振り上げた剣を叩き付けようとする。

ワルドは素早く杖をギーシュに向け、エア・ハンマーを放つ。

「何!」

直撃したはずのエア・ハンマーは彼を吹き飛ばすことはなく全身が一瞬、赤く光を発しただけで彼自身はまるで怯みもしなかった。

「ちっ」

ギーシュの剣をワルドはフライで飛翔することで回避した。

そこへタバサが次々と絶え間なくウインディ・アイシクルを放ってきたため、ワルドは礼拝堂内をまさしく閃光のような速さで飛び回ってかわし続けていた。

二人のメイジがスクウェアのメイジと激闘を繰り広げるのを、ルイズとウェールズ、キュルケは息を呑みながら見届けていた。

 

 

 

 

アルビオン王党派の人間達が籠城しているニューカッスルはアルビオン大陸の最南端に位置しており、サウスゴータ地方からシルフィードで直進し片道で飛んで行けば一時間程度で到着できる距離だった。

だが、それは深夜という時間帯でほとんどの人間が寝静まり、闇夜という地の利を得ることで達せられる。

明け方で太陽が昇り始めてきた頃になると空の上を飛んでいると非常に目立ってしまい、ニューカッスルを取り囲んでいる貴族派の軍の目をかい潜ることは不可能に近かった。

強行突破は不可能ではないものの、ロングビルやティファニアがいては二人に被害が出てしまう。

そのため、シルフィードをあえて大陸の外へと飛ばさせ、そこからニューカッスルの南側へと迂回させて戻ることにした。

さすがに貴族派も追い詰めた王党派にとっては行き止まりである南側には軍を配置していなかったことが幸いした。これならばニューカッスルに近付くことができる。

あまりにも遠回りなルートを飛んでいったがために、結果的に三時間もかかってしまい、すっかり夜も明けてしまったが。

 

「綺麗……空ってこんなに大きいものなのね」

アルビオン大陸南西の岸が見える空の上を飛翔するシルフィードの上でティファニアは、頭上一面に広がる朝空を眺めて息を呑んでいた。

彼女はこれまでの人生を屋敷の中と、森の奥という閉鎖的な環境の中で過ごしてきた。

故にこのような絶景を目にする機会など皆無だったのである。

極めて魅力的で雄大な景色を眺めていたティファニアであったが、その表情はどこか悲しげであった。

「あの子達にも、見せてあげたかった……」

ウェストウッドの村で、自分が親代わりとなって面倒を見てきた孤児の子供達。

みんな無邪気で可愛かった、幼い子供達。年相応に悪戯などをしたりすることもあったが、その生活は充実で楽しかった。

もしも外の世界へ出る機会があるならば、その子供達も一緒に連れて行きたかった。

 

……だが、それはもはや叶わない。

みんな、もうこの世にはいないのだから。

だから、この景色を見せてあげることもできない。

自分だけが生き残ってしまって、とても後ろめたい思いだった。

 

悲しげに空を見つめるティファニアをロングビルはそっと抱き締める。

彼女自身も悔しげな表情で唇を噛みしめており、自分が守れなかった子供達のことを思った。

貴族派、レコン・キスタの連中がロングビルを従えるためにティファニアを人質にし、残った子供達は更なる脅しとして皆殺しにされた。

ロングビルは残されたティファニアを守り通すことを、そして大切なものを奪ったレコン・キスタへの復讐を誓っていた。

 

 

二人が悲しみに暮れている中、スパーダはシルフィードの上で座ったまま短銃を両手でクルクルと回していた。

既にニューカッスルは目と鼻の先だ。ここからでも取り囲んでいる軍隊もろとも眺めることができる。

どうやら間もなく総攻撃が始まるらしい。見ると、王党派のものと思われる軍隊も出陣しようとしているのが窺えた。

だが、数は三百対五万。とても王党派が勝てる数ではない。もっとも、玉砕しようとしているのだからこの際数などどうでも良いらしいが。

 

あそこにはまだルイズ達が残っている。それを知ることができたのは、シルフィードのおかげであった。

シルフィードは主であるタバサと感覚を共有し続けているらしく、ぶつぶつとタバサが今どのような状況なのかを時々呟いていたのだ。もちろん、人語ではないが。

まだワルドとの結婚式とやらは終っていないらしい。いや、むしろ始まったばかりだという。

これならば出席には間に合うだろう。

もっとも、別にその結婚とやらを祝福するのが目的ではないのだが。

スパーダはちらりと、ティファニアを肩越しに見やった。

 

滅び行く王族の皇太子への、せめてもの手向けだ。

 

(きゅいっ! 大変なのね! お姉様達が危ないのね! あの髭面が裏切ったのね!)

「ど、どうしたの? この竜、こんなに騒いで……」

突然、シルフィードがわめきだしたことにティファニアが困惑していた。

「心配はいらん」

これまでの状況から予想はしていたとはいえ、スパーダは僅かに口元を歪ませて笑っていた。

残念ながら向こうがどのような状況になっているのかはスパーダ自身には直接分からないものの、ワルドがはっきりと裏切った以上、結婚式とやらはかなりの修羅場になっていることだろう。

そして、ルイズ以外に残ったトリステインの生徒達もその修羅場に巻き込まれているに違いない。

(激しいパーティになりそうだ)

 

 

 

 

ニューカッスルの礼拝堂の中、始祖ブリミルの像の目の前で三人の戦士達は激闘を繰り広げていた。

「だああああぁっ!」

ギーシュはワルドへ一気に駆け寄るとその場で跳躍し剣を思い切り振り上げ、持てる力の限りで叩きつけるようにして一気に振り下ろしていた。

「ぬっ」

ワルドはその兜割りをレイピアで受け止めると、僅かに呻く。全体重が乗せられているその一撃は鋭く響く剣戟の音から、威力があるのは明らかだ。

そこへタバサが横からエア・ニードルで自らの杖に真空の槍を纏わせて突き出してくる。

ワルドは即座に予備の杖を手にしエア・ハンマーを唱えてギーシュを吹き飛ばすと、さらにレイピアに同じエア・スピアーの魔法をかけてタバサと切り結んだ。

スピードに関しては小柄であるタバサの方が勝り、隙あらばワルドの死角に回り込んで攻撃を仕掛けるのだが、ワルドの反応はあまりに速く、どうしても攻撃をいなされてしまう。

「なるほど。貴様も相当な手練れのようだ……スピードにかけては私より上かもしれん。……だが!」

「!!」

エア・スピアーで切り結んでいたと思ったら、レイピアの先から突如ウィンド・ブレイクが放たれ、タバサの小さな体を吹き飛ばして柱へと叩きつけていた。

さらに追い討ちで放たれたライトニング・クラウドによる稲妻がタバサの全身を駆け巡っていく。

「タバサ!」

礼拝堂の隅でルイズとウェールズを守っているキュルケが悲鳴を上げた。

あれほど強力な魔法をまともに浴びれば、いくら何でも……。

 

「……何?」

だが、同時にワルドも顔を顰めていた。

叩きつけられ、確かに稲妻が直撃したはずのタバサ本人はまるでダメージを負っている様子はなかった。

その小さな体は、未だ黄金の光で包まれている……。

 

スパーダから渡されていたアンタッチャブルの効果により、タバサの全身は結界で覆われており、肉体は外部からのあらゆる攻撃で傷を負うことはない。

おまけにトライアングルクラスの魔法を連発しても、全く精神力が尽きることはおろか、削られることもなかった。

もっとも、前者の効果はあくまで傷つかないだけで肉体に掛かる衝撃そのものは無効にできないみたいだ。

先ほどギーシュに使ったスメルオブフィアーは衝撃さえも無効にしてしまうほど強力な結界らしいのだが、あちらは結界が発生する回数に限度があるらしく、ギーシュがワルドの攻撃を何度も受け続けていたのでとっくに効果は切れてしまっている。

「ジャベリン!」

すぐにタバサは体勢を立て直すと、ワルドに杖を向けて氷の槍を次々と放っていく。

ワルドも同じ魔法を即座に放って迎撃すると、フライを唱えて宙へと逃げた。

 

「逃がすものかっ!」

吹き飛ばされて倒れていたギーシュが起き上がると、手にする剣をワルド目掛けて投げつけた。

勢いよく回転する剣をワルドは難なく回避する。

「血迷ったか! 自ら武器を――」

だが、かわしたと思った剣が勢いはやや失いつつもブーメランのような軌道を描いて返ってきたため、ワルドは自らの杖を払ってそれを弾き返していた。

ギーシュは自らが投げた剣を睨みながら造花の杖を捻るように振るうと、弾かれた剣の軌道がさらに変わり、ワルドに襲い掛かる。

さらに下方からタバサが杖を向け、ウィンディ・アイシクルを放ってきた。

「……生意気な!」

忌々しそうに呻いたワルドが自分を包むようにエア・シールドによる突風の障壁を発生させると、それらの攻撃を全て弾き返してしまっていた。

ギーシュの剣に至っては弾かれた途端に刀身が砕かれてしまっている。

「おおおぉっ!」

だが、すぐにギーシュは造花の花びらを錬金で剣へと変えて手にし、再びワルドに正面から斬りかかっていた。

 

「ギーシュったらやるじゃないの」

キュルケはタバサと二人がかりとはいえ、スクウェアのメイジであるワルドとまともに渡り合えているギーシュに感服していた。

剣さばき、体の動き、そして反応の速さ。スパーダに比べれば遠く及ばないものの、紛れも無く立派な戦士の姿だ。

「スパーダに鍛えられただけのことはあるわね……」

ルイズも同様にギーシュがあそこまで果敢に立ち向かえることに驚いている。

学院であれだけスパーダにみっちりと特訓を叩き込まれていた甲斐があったのは間違いないだろう。

今のギーシュは目つきからその気迫も普段とはまるで別人のようだ。あそこまで男らしい顔を見せるなんて、初めてである。

何度ワルドにあしらわれ、魔法で吹き飛ばされてもその闘志が折れることはない。

もしもモンモランシーがこの場にいたのであれば、その勇姿に見とれていたかもしれない。

「私が……このようで無ければ、加勢もできたのだがな……。ぐっ……」

「ウェールズ殿下。動いては駄目ですよ」

悔しげに呻いたウェールズが肩の痛みに悶え、ルイズがその体を支えていた。

(スパーダ。早く戻ってきてよ……!)

確かにギーシュとタバサの連係はワルドを一時的に追い詰めたりはするものの、相手は腐っても魔法衛士隊の隊長だ。

すぐに劣勢から立ち直ってしまい、反撃に出てくるのだ。旗色は徐々に悪くなっていく。

スパーダがいてくれれば、もしかしたらワルドでさえも返り討ちにしてくれるのかもしれない。

だが、そのスパーダがいつ戻ってきてくれるのか分からないのでは、どうすることもできない。

タバサは先ほど、「もうすぐ戻ってくる」などと言っていたが、何故彼女にそれが分かるのか。

 

 

 

 

ワルドはタバサとギーシュの同時攻撃を受け続けながらも、未だ息一つ乱していなかった。

対するギーシュはそろそろ息が上がってきている。普段、こんなに全力を出したことも無かったので持久力が無いのだ。

そして、タバサの全身を包んでいた黄金の光は治まっており、アンタッチャブルの効果が失せたことを表していた。

ここからは慎重に魔法を使わねば精神力が持たない。

「でやあっ!」

剣を構え、ワルドと睨み合っていたギーシュが剣を突き出しながら突進を仕掛けた。

にやりと笑ったワルドはギーシュの頭上を飛び越え、その背後に着地した。

だが、反撃はギーシュにではなく横からジャベリンを放ってきたタバサへと向けられた。

レイピアの先から同じくジャベリンを放って相殺すると、反転したギーシュが全力で剣の乱舞を繰り出しながら攻めてくるのをいなし続けていた。

「ぐはっ!」

その最中、防御に徹していたワルドが剣を振り上げようとしたギーシュの胸に素早くエア・ハンマーを叩き込み、吹き飛ばしていた。

受身を取れなかったギーシュは床に叩きつけられ倒されてしまう。

「ぐっ……げほっ……。うぐっ!」

起き上がろうとしたギーシュの胸にワルドの足がのしかかり押えつけると、さらにレイピアを突き付けてきた。

「魔法衛士隊のメイジは、ただ魔法を唱えるだけではない。詠唱さえ、戦いに特化されている。杖を構える仕草、突き出す動作、杖を剣のように扱いつつ、詠唱を完成させる。軍人の基本中の基本だ」

ワルドは馬鹿にしたような態度で鼻を鳴らす。

そんなことはギーシュとて分かっている。そう叫んでやりたかったが、胸をギリギリと捻じこむように押えつけられていたために喋ることすら困難だった。

 

「君は確かに、軍家の貴族だな。才能はあるかもしれん。その闘志も認めよう。……だが、所詮は没落貴族の伝えた技だ!」

ワルドはとどめと言わんばかりに、ギーシュの体にブレイドの魔法がかけられたレイピアを振り下ろそうとする。

もはや、これまでか。ギーシュは悔しげに顔を顰めてワルドを睨んでいた。

「ファイヤー・ボール!」

「ジャベリン!」

居ても立ってもいられなくなったキュルケが飛び出し杖を構え、ワルドの横から火球を放った。

さらにその反対側からタバサが氷の槍を放つ。

ワルドは頭上にフライで飛び上がり、外れた二つの魔法はギーシュの頭上でぶつかり、水蒸気となってかき消えた。

 

ワルドが飛び上がったのを見計らい、タバサもフライの魔法で飛び上がるとワルドの懐めがけて突撃していた。

手にする杖にはブレイドをかけてある。そして、ワルドはキュルケが追い討ちで連続で放つ魔法をかき消している最中だった。

今なら、行ける。

 

 

 

 

「やった!」

倒れているギーシュに駆け寄って念力で起き上がらせ、引きずっていたキュルケが歓声を上げた。

ワルドの横から飛び込み、突き出されていたタバサの杖がワルドの脇腹をえぐっていた。

魔力の刃で斬り裂かれた部分から血が噴き出て、さらにえぐられた肉が飛び散る。

確実に、致命的な一撃が決まった。さすがにワルドもこれで……。

「うっ……!」

だが、呻き声を上げたのはワルドではなく、タバサの方だった。

ワルドは脇腹に負わされた傷など意に介さず、瞬時にブレイドをかけたレイピアでタバサの肩を突き貫いたのだ。

杖を手放してしまったタバサに対し、ワルドはその細い首をがしりと掴み取っていた。

「タバサ!」

拘束されたタバサの姿にキュルケが更なる悲鳴を上げた。

 

地上に降り立ったワルドはタバサの体を掴み上げたまま不敵な笑みを浮かべ睨みつけている。

「まったく、こうも私をてこずらせおって……本当に生意気なガキどもだな」

「く……」

忌々しそうに言うワルドの首を掴む力が強くなる。タバサは苦しそうに呻いた。

ワルドは脇腹の肉をえぐられ、出血しているのにも関わらずまるで平然としている。痛みさえも感じていないようだ。

何故だ。この男はこんな致命傷を負っているのに、どうして平気でいられるのだ。

タバサは何とか拘束から逃れようと抵抗するが、力に関しては大人であるワルドの方が圧倒的に上だった。

「しぶとい奴だな……」

ワルドが嘲笑すると、首を掴む手と腕が光りだした。

「う……く……」

力が、入らない。

タバサは体力から精神力まで、体中のありとあらゆる力が吸い出されていく脱力を感じていた。

力が抜けていくタバサとは反対にワルドの脇腹の傷はみるみる内に癒えていく。

朦朧としていく意識の中、タバサはその光景を目にして驚愕していた。

この男、一体何の力を使っているのだ。これは、魔法などではない……。

 

「タバサを離しなさい!」

キュルケが杖を向けながら叫ぶと、ワルドはぐったりとしたタバサの体をまるでいらなくなったゴミのようにキュルケ達の方へ放り投げる。

「タバサ! しっかり!」

床に転がったタバサは、キュルケに介抱されていた。

ほんの僅かだが体力と精神力が残っていたタバサは弱りつつもスパーダから渡されていたバイタルスターとデビルスターを自分の胸にかざし、失われた力をある程度回復させる。

だが、これ以上の戦闘は不可能だ。半分ほど回復したとしても、ワルドはまるで消耗していないのだ。

 

「さて、これでチェックメイトだな」

レイピアを生き残っている五人に向けながらゆっくりと近付いて来るワルドに、キュルケがタバサの体を抱えながら杖を構える。

ギーシュも再び花びらを錬金で剣に変えて手にし、先頭に立っていた。

「本当にしぶといガキどもだ。……まあいい。息も絶え絶えな小鳥の首は容赦なく捻ってやろうか」

冷酷な笑みを浮かべるワルドのレイピアに、バチバチと稲妻が散り始める。

「待て……!! この者達にはこれ以上……」

ウェールズが肩の傷を押えながら杖を手にし、自分の体に鞭を打って立ち上がった。

それを見たワルドがつまらなそうに鼻を鳴らす。

「死に損ないが……」

「やめなさい! みんなには……みんなには、これ以上手出しはさせないわ!」

ルイズも湧き上がる恐怖に耐え、立ち上がると杖を手にしてウェールズをかばうようにして前へ出る。

「もう君はいらんと言っただろうが……まったく、素直に私と共に来れば良かったものを……。そうすれば、このガキ共も助けてやったのに」

残念そうに息を吐き、ワルドは首を横に振った。

「……では、そろそろお別れだ。君と一緒に、世界を手にしたかったよ。ルイズ」

レイピアに纏う稲妻が激しさを増す。

あんな強烈な魔力が解放されれば自分達は、いや、この礼拝堂そのものも焼き焦がしてしまいかねない。

 

もはや、万事休すなのか。

 

ルイズは唇を噛みしめた。

 

「さらばだ!」

ワルドが吠え、レイピアを振り上げた。

もう、駄目だ――。

 

 

突如、礼拝堂に響き渡った二発の銃声。

それと共にワルドのレイピアが手から弾き飛ばされていた。

ルイズ達に向けて解放されかけた稲妻は天井へと放たれ、粉砕するとワルドの頭上に瓦礫が降り掛かってきた。

驚く暇もなくワルドは後ろへ飛び退く。ルイズ達の目の前に小さな瓦礫の山が出来上がった。

「何だ!?」

レイピアを弾かれ、ビリビリと痺れる手を押えながらワルドは銃声が聞こえた方を振り向く。

他の五人も、同じように振り向いた。

まさか、とは思うが……。

 

礼拝堂の入口、そこには三人の男女の姿があった。

その中の、濃い紫のコートを身に纏い、短銃を手にする銀髪の男の姿に四人の生徒達の表情に希望が宿る。

 

「「「スパーダ!」」」

 

希望に満ちた声を上げる生徒達。

そこにいたのは紛れもなく、ルイズの使い魔にしてパートナーである男、スパーダであった。

そして、その傍にいるのは魔法学院の秘書ロングビルと、フードを被った見慣れない金髪の少女だった。

礼拝堂の中へと歩を進めたスパーダはその中を見回し、第一声を放つ。

「ずいぶんと過激な結婚式だ」

恐らくは冗談なのだろうが、その凛とした表情は普段と変わらぬ威厳に満ちたものであった。

 

ワルドはスパーダの唐突な出現に驚いていたが、その傍らにいる二人の姿を目にして嘲笑した。

そして、全ての状況を把握する。

「やはり裏切ったか、マチルダ。その男と共にそいつを連れ出すとはな。もはや貴様に救いはない」

「誰がいつあんた達に忠誠を誓ったの? 冗談じゃないわ、この悪魔め!」

ティファニアを一瞬、睨みつけたワルドに対し、ロングビルが吠えた。

「まあいい。その忌まわしい血を宿した娘もろとも、あとで始末してやろう」

ワルドに睨まれたティファニアはロングビルの後ろに隠れる。そのティファニアを庇うように、ロングビルはしっかりと抱き締めていた。

 

「ミ、ミス・サウスゴータ?」

ウェールズはマチルダと呼ばれたその女性に見覚えがあった。確か、彼女はかつてのシティオブサウスゴータの太守の令嬢、マチルダ・オブ・サウスゴータだ。

「な、何でミス・ロングビルがここに……?」

ルイズ達も同様に驚いていた。先日帰省したはずだった学院の秘書が何故こんな場所に、しかもスパーダと共にいるのか。

それにもう一人の少女は一体誰だ? 

だが、タバサは驚いてはいなかった。何故なら、彼女達がここにいる理由を知っているから。

むしろ、彼の到着が間に合うまで持ち堪えられたことに満足していた。

 

「ずいぶんと出席が遅かったな。残念ながら、結婚式は中止となった」

「そのようだ」

銃を収めたスパーダはリベリオンに手をかけ、さらに前へと出て行く。

「彼女達の元にいろ」

ルイズ達の方を顎で指しながらロングビルに小さく声をかけ、そのままゆっくりと前へ進んで行った。

途中、ちらりと脇にいるルイズ達を見やった。ほとんど全員がスパーダの登場に喜びと希望を露にしていた。

ルイズに至っては目元に涙まで浮かべている。

「よくやった。褒めてやる」

その中で満身創痍でいるタバサとギーシュを見やると、ここまでぼろぼろになるまで必死に戦ったらしい二人を軽く労ってやる。

 

「貴様がレコン・キスタの一員であることは明白だな」

「いかにも」

ワルドは予備の杖を手にしながらスパーダと相対する。

スパーダはリベリオンを手にし、片手で左右に振りつけていた。

このワルドが裏切り者の内通者であることをスパーダが察したのは、昨晩のラ・ロシェールでのことだ。

ロングビルを監視するために見張っていた仮面のメイジ――風の偏在の分身は、この男と全く同じ性質の魔力を有していた。

自分達を裏切るために何かしらのリアクションをしてくることは予想できていたが、このような場所でそれを行ってくることまでは完全には予測できなかった。

 

「まったく、実にタイミングの悪い……貴様がこのまま戻らねば、私も目的は達せられたのだがな」

「それは失礼した」

互いに8メイルほど距離を置いて向かい合う二人の武人の姿に、ルイズ達は息を呑んだ。

二人が戦う様は以前にも見たことがある。だが、それはあくまでも互いの腕試しに過ぎない。

これから行われるのは、死力を尽くした戦いだ。

強者達の間に感じられる静かな殺気に、ウェールズでさえも緊張していた。

 

「貴様の茶番はもはや終りだ。〝閃光〟よ」

 

「あいにく、その幕は貴様の死と共に引かれる。〝ガンダールヴ〟」

作品の良かったところはどこですか?

  • 登場人物
  • 世界観
  • 読みやすさ
  • 話の展開
  • 戦闘シーン
  • 主人公の描写・設定
  • 悪魔の描写
  • 脚色したオリジナル描写・設定
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