魔剣異聞録~The Legendary Dark Slayer/Zero   作:月に吠えるもの

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Mission 22 <魔剣士との契約>

 

ルイズの部屋を後にし、一人学院の庭を訪れていたスパーダは隅に置かれているベンチに腰掛けていた。

この学院に留まれるかどうか、それを決めるのはルイズの答え次第。彼女がスパーダを拒めばすぐにここを去ることになる。

もっとも、彼女自身は人間だ。悪魔である自分を拒むのは当然とも言える。

人間は本能的に闇や魔を恐れている。1000年以上もの間、人間界を見守ってきたスパーダには分かりきっていることだった。

だから自分が人間に拒まれたとしても、それは当然のことだと割り切っている。

この世界でもまた同じこと。あの礼拝堂や先ほどもルイズはおろかキュルケやロングビル、タバサまでもが悪魔を恐れていたのは明白だ。

(仕方あるまいことだな)

さて、ルイズの答え次第ではここを去らねばならないわけだがその後はどうするか? 

どちらにしろ、スパーダにはやらなければならないことがある。

 

(どの勢力が黒幕だ?)

この世界は今、魔界に狙われている。

このハルケギニアを訪れてから、まだ少数ではあるが悪魔達の姿を所々で見かけた上にアルビオンの反乱軍、レコン・キスタにも悪魔達が与していた。

今の所、対峙したのは全てが有象無象の下級か中級悪魔であり、少数でも独自の勢力を率いるほどの力がある上級悪魔そのものは姿を現していない。

レコン・キスタを裏で操っているのは間違いなく、上級悪魔だ。それも大軍を統率できる最上級悪魔が……。

かつての主、魔帝ムンドゥスが人間界を侵攻しようとした時のように、この世界の人間を利用して同じく侵略を仕掛けようとしている悪魔がいる。

その悪魔の勢力を魔界に追い返さねばならないが、情報はまだ不足している。何しろどの勢力かさえも分からないのだ。

 

ただかつての主、魔帝ムンドゥスではないことだけは分かる。何千年も右腕として仕えてきたスパーダは主のやり方を熟知しているからだ。

 

だがレコン・キスタに自分の勢力の一部を与え、さらには異世界の技術までも与えた所から見ると、一筋縄ではいかないだろう。

異世界を侵略するためならば、その異世界の住人さえも利用しようとする狡猾さを発揮するのが悪魔なのだ。

 

いずれにせよ、レコン・キスタが魔界によるハルケギニア侵攻の手駒として利用されていることには違いない。

ここに留まるにせよ、離れるにせよこれからレコン・キスタとは何度も敵対することになるだろう。

トリステインの貴族であったあのワルドでさえも密約によってその一員となり、しかも悪魔の力を得ていたのだ。

人間同士の純粋な争いには興味がない。だが、その裏で手を引いている者達を野放しにはできない。

 

スパーダはおもむろに胸元のスカーフに飾っていたアミュレットを外し、手の中に収まるそれをじっと見つめた。

アミュレットは片面が金ともう片面が銀の縁に、それぞれ真紅に輝く石がはめられている。

人も悪魔も流す血を固めたようなその赤い石は、夜空に浮かぶ二つの月に仄かに照らされていた。

(いずれ、お前をこの手にしなければならんな)

かつて魔界を封じた時、全盛期であったスパーダの力はあまりにも強すぎた。

その強すぎる力は人間界に留まるには危険であり、またその力によって下級悪魔達を自然に呼び寄せてしまいかねなかった。

だからスパーダは己の力の大半を魔界の深淵に封じた。自分の分身と共に。

だが、もしも魔界からの侵攻が激しくなるのであれば今の状態では正直、力不足だ。ムンドゥスにも匹敵する最上級悪魔を相手にするのであれば尚更である。

かつてスパーダが自ら封じたの真の悪魔の力、そして分身はいずれ再びスパーダ自身の手で解かなければならないだろう。

 

 

「こんな所にいたの」

そこへ突然現れたのは、先ほどまでスパーダの素性を目の当たりにしていた一人であるロングビルだった。

ルイズの部屋を後にした後、庭を散歩していた彼女はスパーダの姿を見つけるなり、迷うことなく歩み寄ったのである。

ロングビルの接近に気づいたスパーダはアミュレットを元に戻すと、自分の隣に腰を下ろす彼女をちらりと横目で見やった。

「で、ミス・ヴァリエールが拒めば、本当にここを去るつもり?」

「一応、私は彼女の使い魔ということになっている。私が必要ないのであれば、こちらもここに留まる理由はない。全ては彼女次第だ」

「未練も何もなし、ということね……」

はあ、と溜め息を吐くロングビル。

「野暮用があれば立ち寄ることはあるかもしれんがな」

「そもそも、ここを去ってこれからどうするのさ」

「当てなどないが、彼女に呼び出される前とやることは変わらんだろう」

ルイズに召喚される前、スパーダは人間界でいつものように各地を放浪しつつその日暮らしな生活を送っていた。

悪魔絡みの事件を耳にすれば即座に駆けつけ、剣を振るって悪魔を狩るか魔界に追い返していた。

一応、スパーダはデビルハンターでもあったためにそうした仕事で生計を立てるのが常であったのである。

 

「この世界にも奴らは現れる。それを見過ごすわけにはいかん」

ここを去ろうが留まろうが、魔界からの侵攻を食い止めなければならない。

たとえ人間界だろうがハルケギニアという未知の異世界だろうが、その世界に在らざる者は手を出してはならないのだ。

「私は構わないわよ」

「ん?」

「あなたが何者だろうと、私はあなたを認めるわ」

真っ直ぐとスパーダの横顔を見つめ、微笑むロングビル。

「あなたはあの子を、テファを助けてくれた。それにあの子はあなたのことをしっかり認めていたわ。だから私も、あの恐ろしい悪魔だろうとあなたを信じる」

何の迷いもなくロングビルはスパーダを肯定し、受け入れた。

大切なティファニアが人とエルフの間に生まれたハーフエルフであり半分は人の血を受け継いでいるのとは異なり、スパーダは純粋な悪魔だ。

だが、それでもスパーダは悪魔とは思えぬほど人間らしい存在であることをロングビルは認めていた。

 

これまで彼と触れ合っていた時間、そして彼が語ってくれた過去が全てを物語っている。

たとえ本性があの恐ろしい悪魔の姿だろうと、彼は人間のように繊細な心を持った存在なのだということを。

そんな人間らしさで溢れた悪魔であるスパーダに、ロングビルは惹かれていた。

 

はっきりと悪魔であるスパーダを認めてくれた二人目の人間であるロングビル。

スパーダとしては自分が認められようが拒まれようが構わないのだが、面と向かって自分を受け入れる人間がいてくれることに不思議と満たされる気がした。

「私にも手伝えることはないかしら。あなたは、自分の同胞とこれからも戦う気でいるんでしょう」

「無理はしなくても良い。奴らはこのハルケギニアに生きる亜人達とは存在そのものが違う。深く関わりすぎればただでは済まん」

「私はね、あなたに色々と借りを作ってしまってるのよ。それを返せないようじゃ、〝土くれ〟のフーケだった私のプライドってもんが許せないわ」

ロングビルは土のトライアングルメイジ。中級悪魔程度であれば巨大なゴーレムを作り出して薙ぎ払いでもすれば一蹴はできるだろう。

少なくとも、足手まといにはならない。

「妹は悲しませないことだな」

好きにすればいい。そして悪魔と関わり、その身に何があってもスパーダは関知しない。そう言外に込めてやった。

「私は死なないよ。あの子を残して安々と逝けるもんですか」

かつて目にした、〝土くれ〟のフーケとしての強気な表情をロングビルは返してきていた。

 

 

ロングビルはスパーダと別れて中庭を後にしていた。だが、スパーダはまだルイズの部屋へ戻るつもりはない。

その間、スパーダはここでゆっくりと夜を明かすことにしていた。

だが、どうやらスパーダの思いとは裏腹にどうやら静かにはさせてもらえないようだ。

「何の用だ? ミス・タバサ」

ベンチに腰かけたまま、腕と脚を組んで瞑想していたスパーダは近づいてきた魔力の気配に対し、一声を発する。

 

ロングビルが中庭を去るのと入れ違いでスパーダの元を訪れていたタバサは、自分の背丈よりも長い愛用の杖を携えていた。

スパーダが目を開き、彼女を見やるといつもの無表情とはまた違う、真剣な面持ちをしていることに気づく。

そして、彼女の瞳には力への欲求、渇望という思いが宿っているのをはっきりと感じ取っていた。

「お願いがある。私と手合わせをして欲しい」

「……何故だ?」

いきなりとんでもないことを口にした青い髪の少女に、思わずスパーダも面食らった。

 

「ルイズの答え次第では、あなたはここからいなくなる。その前に、本気のあなたと戦ってみたい」

スパーダの力を間近で何度も目にしてきていたタバサは常々、自分の力が彼にどこまで通じるものか試してみたい欲求を抱いていた。

手練れのメイジでさえ敵わない異国の剣豪かと思われていた男が実は悪魔だった。

使い魔であるシルフィードがいつも彼をそう呼んでいた意味を思い知らされた今、彼は今まで戦ってきたどんな相手よりも強い存在であることを認識した。

自分の力を更に高めるにはこれ以上にない相手だった。

もちろん自分が彼に……伝説の魔剣士に勝てるなどとは思ってはいない。自分はあの悪魔と化したワルドにさえ敗北し、そのワルドを彼は赤子のように軽くひれ伏させたのだから。

それでも、タバサは彼と戦ってみたかったのだ。

 

スパーダは自分との戦いを求めるタバサを見つめていたが、やがて静かに閻魔刀を手にして腰を上げた。

「Why do you need to gain the power?(何故、そこまで力を求めるのだ?)」

タバサの瞳を真っ直ぐと見つめながら尋ねるスパーダに、当の本人は自分の心を見透かされていたことに驚き目を見開いた。

「君が何のために力を欲するかなど私は知らんが、これだけは言っておく。〝力〟だけを得ても結局、何も手に入りはしない」

スパーダの冷たいながらも真摯な眼差しに射抜かれ、タバサは思わず慄きそうになる。

「たとえ、目的が復讐であってもだ」

「!」

自分が抱いている思いを指摘したスパーダにタバサは愕然とする。

「〝力〟は所詮、手段の一つに過ぎない。それだけを追い求め、他のものを切り捨てても最後には何も残らない」

言いながら、スパーダは閻魔刀の刃をスラリと優雅な動作で抜き、無造作に垂らしていた。

「それでも〝力〟を欲するかはお前次第だ。〝雪風〟よ」

 

口調が、変わった。

……悪魔としての本性が露わになったらしい。

 

タバサはゆっくりと杖を構え、スパーダから10メイルほど距離を取りつつ向かい合う。

「I need more power.(もっと、力が欲しい)」

たまにスパーダが呟く異国の言葉で、タバサは自らの意思と決意を告げた。

澄んだ音色が響き、スパーダの周囲には無数の赤い魔力の剣が現れ、付き従うように浮かんでいた。

「It begins.(始めよう)」

幻影剣が連続で射出され、タバサはエア・スピアーを纏わせた杖を正面で器用に回転させて弾いていく。

スパーダの技を間近で目にしていた彼女が会得していた新たな技である。

そして、この戦いを通してさらに彼の技を盗むこともタバサの目的の一つだった。

風を纏い、優雅に舞う〝雪風〟は伝説の魔剣士の魔の刃を次々とかわしながら懐へ飛び込んでいった。

 

 

 

 

スパーダが部屋を出た後、ルイズはずっとベッドに突っ伏したままだった。

生涯を過ごす使い魔にしてパートナーと別れるかどうかという重大な選択を迫られている以上、そう簡単に答えは出ないものだ。

使い魔……パートナーの存在は、自分が魔法に成功したという証でもある。魔法に失敗し続けてきたルイズにとってはその証がなくなってしまうということは、

これまで通りの〝ゼロ〟へと戻ってしまうことに他ならない。

その証を、手放したくはない。……だが、スパーダが悪魔であるという事実を放置することはできない。

今のスパーダは遠い異国から来た剣豪にして、平民出身の貴族であったという風に周囲から見られている。

学院で生活する生徒、働いている教師や平民達はスパーダを尊敬していたり、平民上がりの没落貴族だなどと見下していたりと様々な思いを抱いている。

だが、そんなスパーダの素性を知った時、多くの人々は掌を返して悪魔である彼を拒絶することだろう。元々、彼を見下していた者達ならばなおさらだ。

 

そして、その悪魔を使い魔にしていた自分もまた、これまでの〝ゼロのルイズ〟などと馬鹿にされていたのを通り越した残酷な侮蔑の言葉を吐きかけられ、虐げられるだろう。

 

悪魔を呼び出した、出来損ないのメイジ? 

 

ゼロ以下のマイナスのルイズ? 

 

そして、自分は学院をおろか実家からも追放される? 

 

色々と自分の身に起こるであろう結末を想像して、思わずルイズはその身を震わせた。

 

……怖い。

スパーダの素性が知られた時に何が起こるのかは結局、その時にならなければ分からないのだ。

人々から拒絶される恐怖。それは自分がゼロのルイズなどと馬鹿にされて認められないことよりも恐ろしいものだった。

 

やはり、スパーダとは別れなければならないのか。

あれだけ頼りになれるパートナーだというのに、それが忌み嫌われる悪魔であってはリスクが大きすぎる。

(……悪魔?)

ふと、ルイズは悪魔という存在に対して疑念が生じだす。

そもそも、悪魔とは何なのだろうか? 

一般に悪魔というと、イメージされるのはやはりおとぎ話などに出てきそうなものだ。

見るだけでも恐ろしい姿、人を堕落させて奈落の道に陥れる狡猾さ、時にはその血肉はおろか魂さえも喰らい虐げる残忍さ……。

明らかに人間とは相容れない存在だ。

 

一方、スパーダはどうなのだろう。

これまで彼は誰かを陥れたり、虐げたりしただろうか。たとえ剣を振るう武人とはいえ、無差別に命を奪ったりしただろうか。

思えば、スパーダはその悪魔らしさとはほとんど無縁であることにルイズは気が付いた。

少々つっけんどんではあるが自分の進むべき道を正してくれた。自分達が窮地に陥った時はどんな敵だろうと恐れずに助けてくれた。

そもそも彼は異世界で同胞を裏切ってでも人間のために戦ったのだ。

人間の愛を知り、心を打たれ理解した彼は……悪魔ではない。

もしも彼が本当の悪魔であれば、自分達よりも力を持たない人間を守ろうなどと考えなかったかもしれない。

 

(そうよ。……スパーダは人間だわ。あたし達と何も変わらないじゃない)

如何に彼の本性があの恐ろしい姿をした悪魔なのだろうと、その心は人間と同じなのだ。

だから、何も恐れることはない。

一番大事なのは姿形でも、力でもない。……心なのだ。

彼が人間の心を持っているのであれば、何も問題などないではないか。

これからも生涯を通して、パートナーでいられる。

 

 

 

 

「ぐっ……!」

学院の外壁に背中から叩きつけられ、タバサは呻いた。

だが、それで怯んでいる暇などない。すぐにフライでその場から離脱する。

スパーダの周囲に音色を響かせながら次々と現れる幻影剣がタバサ目掛けて放たれ、その軌跡を縫っていく。

「エア・カッター」

複雑な軌道で飛び回りながら回避し続け、スパーダの右側に回りこむと素早く呪文を完成させ、風の刃を放つ。

スパーダは振り向きもせずに閻魔刀を一振りだけ、振り上げた。

風の刃は閻魔刀によって斬り裂かれ、跡形もなく消滅してしまう。

だが、それくらいはもはや分かりきった結果だ。先ほども死角から何度も魔法を放っても、即座に閻魔刀によって斬り飛ばされてしまうのだ。

魔を喰らい尽くすとされる閻魔刀にとっては、〝魔〟を宿す魔法は投げられた餌同然である。系統魔法はおろか、精霊の力さえも容赦なく喰らってしまうことだろう。

ウインディ・アイシクルはおろか、アイス・ストームのような大技でさえも閻魔刀の前には無力だった。

 

だからタバサは大技で攻めても無駄だと即座に判断し、小技を用いて死角から攻めているのだが、やはりスパーダには通じない。

「!」

突如、スパーダの姿が残像を残して掻き消えた。

後ろか? タバサは振り向きざまにエア・ハンマーを放とうと思ったが……背後にスパーダの姿はない。

耳元、スパーダの姿が掻き消えた背後で空気が唸り、タバサは咄嗟に横へ飛び退く。

次の瞬間、スパーダが閻魔刀を抜刀しながら滑るように疾走していた。

タバサが立っていた場所を一直線に駆け抜け、その軌道上には無数の剣閃が刻まれていたのである。

 

だが、背中を見せたスパーダの隙を逃すはずもない。これまでは側面しか取れなかったが、今度は完全な死角だ。

タバサは一気に距離を詰めようとし……目前で急停止した。

八本の幻影剣がスパーダを囲むように現れ、さらに周囲を旋回しだしたのだ。

剣先が外に向けられている以上、近づけばミンチ肉にされていたかもしれない。

 

手合わせとはいえ、スパーダは確実にタバサを殺す気でいる。以前、ギーシュを殺す気で特訓をしてやった時のように。

だが普通の手合わせは所詮、命の駆け引きのない遊びのようなもの。タバサはその駆け引きができる手合わせをしてくれているスパーダに感謝していた。

慌てて飛び退いたタバサだったが、澄んだ音色と共に掻き消えた幻影剣が自分の周囲に配置されたのだ。

四本が自分の四方に水平で旋回し、もう四本が斜め上から囲むようにして逆方向に旋回している。

 

これはかなり難しい配置だ。

先ほどはスパーダの周囲から直接放たれるだけでなく、自分の頭上に配置した幻影剣を落下させてきたりしたのだ。

そして、今度はタバサの動きに合わせて固定された幻影剣が放たれようとしている。

水平から放たれたのをかわしたとしても、斜め上か別の方向から放たれた幻影剣がタバサを貫くことだろう。

フライを使ったしてもかわしきれるものではない。

ならば、いっそかわすより……。

「エア・ストーム!」

杖を掲げ、自分を中心にして巨大な竜巻を発生させた。

放たれた幻影剣はその竜巻に吹き飛ばされ、砕け散ってしまう。

賭けには勝った。だが……。

「うぐっ!」

タバサの正面に突如現れたスパーダが閻魔刀の柄頭で腹を打ち据えたのだ。

口から呻きと共に空気が吐き出され、一瞬息ができなくなる。

だが、スパーダは容赦なく怯んだタバサの腹を左手で持っていた閻魔刀の鞘をさらに叩き込んでいた。

強烈な連続攻撃に錐揉みしながら吹き飛ばされ、杖を手放してしまい、地面に叩きつけられる。

「うっ……げほっ……」

苦しそうに咳が喉の奥から漏れ、タバサは腹を押さえた。

転がった杖をスパーダが拾い上げ、閻魔刀を鞘に収めだす。

体を起こしたタバサはよろめきつつも立ち上がり、スパーダにゆっくりと歩み寄っていく。

「Have you satisfied?(満足したか?)」

スパーダの言葉に、タバサは杖を受け取りながらこくりと頷く。

やはり自分と彼はレベルが違う。……だが、伝説の魔剣士と戦うことができたことはとても満足だった。

後は、結果を待つだけだ。彼がここを去るか否かを。だが……。

「仕事が来た時は、私にも知らせて欲しい」

「懲りないな……。だが、まあ良いだろう」

飽くなき力を追い求める少女の執念に、スパーダは小さく溜め息を吐いた。

 

 

 

 

さて、そろそろルイズの元へ戻ってみるとしよう。

スパーダはタバサと共に中庭を後にし、女子寮へと戻っていった。

部屋と階が違うタバサとはそこで別れ、ルイズの部屋を目指していく。

もしもルイズが自分を拒めば、このルーンを排除してリベリオンとパンドラを持って去るとしよう。時空神像はさすがに持ち歩けないが。

まあ、どこかに別の神像があることだろう。それを頼れば良い。

スパーダは平然とした態度のままルイズの部屋の扉を静かに開け、中へと入っていく。

明かりが消されたままの室内には窓の外から入り込む月の光が光源となり、薄暗かった。

ルイズはベッドに腰掛けたまま、戻ってきたスパーダをずいぶんと真面目な表情でじっと見つめていた。

「答えは出たか?」

その前まで歩み寄り、単刀直入に問いかけるスパーダ。

「ええ、決めたわ」

深呼吸をし、ルイズははっきりと告げる。自分の導き出した答えを。

 

「あたしは、あなたを受け入れる」

何の迷いもなく告げられた言葉にスパーダはふむ、と唸る。

たとえ自分は悪魔であろうとルイズは、スパーダをパートナーとしてここに置くことを選んだ。

それは、どうした考えで決められた答えなのだろう。

「ねぇ、スパーダ。あなたは悪魔だって自分でも言っているみたいだけど、それは違うわ」

「どういう意味だ」

 

「本当の悪魔っていうのはね、他人の心を知ろうとしないようなものを言うのよ。でも、あなたは人の心に理解を示してくれたわ。そして、その異世界の人達やあたし達を助けてくれた」

ずいぶんと真面目なことを言うルイズにスパーダは呆気に取られる。

「あなたは悪魔なんかじゃない。立派な人間だわ。本当の姿はあの恐ろしいものなのかもしれない。でも、あなたの心は間違いなく人間よ。もしも本当に悪魔だったら、あなたはあたし達のような弱い人間を助けようとも思わなかったはずでしょう?」

その場で立ち上がったルイズがスパーダの顔を間近で見上げながら続ける。

「あなたが人の心を、愛を知ることができたのも、あなたが人間だからだわ」

「人間、か……」

自分が、人間。……残念だがそれは違う。

スパーダは自嘲の笑みを浮かべだす。

「あいにく、私は悪魔だ。人間ではない」

「どうして!? あなたは人間よ!」

自分を否定するスパーダに、思わずルイズは声を上げた。

 

「Devils Never Cry.(悪魔は泣かない)」

「え?」

「心を持たない悪魔は、決して涙を流すことはない。心を震わせて流れ落ちる涙は人を想う心と、悲しみの心を持つことができる人間の掛け替えのない宝物だ」

どこか切なそうにするスパーダは、椅子に腰掛け閻魔刀も傍に立てかけた。

先ほど、自分の過去の一部を話していた際と同じようなスパーダのその表情を見て、ルイズは不安になった。

「心を震わせ涙を流してこそ、人間である証だ。だが、私はまだ涙を流したことはない。それは悪魔である何よりの証拠だ」

人間の愛する心を知ったスパーダが今、最も欲するものがただ一つある。それは人間の宝物である、涙だ。

「……違うわ。あなたは人間よ。たとえ涙が流せなくても、あなたの心は人間だわ!」

「その気持ちは受け取っておこう。だが、私は自分が人間だとは思わん」

「分からずや……」

不貞腐れ、小さな声でルイズは呟く。

そうして悩み、切なそうにしている姿は紛れもなく人間だというのに。

スパーダにとっては99%の人間の証だけでは気が済まないのだろう。残りの1%、それが涙なのだ。

 

「……とにかく、あたしはあなたをこれからもパートナーとして認めるわ! 悪魔だろうと何だろうと、あなたはあたしのパートナーよ!」

ルイズはピシリ、とスパーダに指を突きつける。

「それは構わん。……だが、一つ忠告しておきたい」

「え……?」

冷徹な態度へと一変させ立ち上がったスパーダにルイズは思わず身を竦ませる。

「私は人間を見守ると心に決めた。……だが、悪魔のような心を抱く者には決して容赦はしないつもりだ」

腕を組んでじっと見つめてくるスパーダに息を呑む。

「ミス・ヴァリエール。君がもしも道を踏み外し、悪魔の心を宿してしまうようなことがあれば私はある程度その軌道修正はしてやる。ただし……」

「っ……」

閻魔刀を振り抜き、その剣先をルイズの顔に突きつけてきた。

「それで君が改めぬようであれば、私は容赦なく切り捨てる。……その覚悟はあるか」

冷徹な表情で睨んでくるスパーダに、まるで心臓を握り潰されてしまいそうな恐怖を感じていた。

彼は人間を守るべくその剣を同胞に向けた。だが、同時に魔に魅入られて堕落し、悪魔の心を持つようになった人間に関しては例外としているようだ。

あのワルドが良い例である。魔に魅入られ、悪魔の力を手に入れた彼をスパーダは容赦なく捻り潰した。

もしも自分も彼みたいになれば、同じように斬り捨てられるのだろう。

「……あたしはワルドなんかとは違うわ」

きっぱりと覚悟を告げると、しばしの沈黙の後、スパーダは閻魔刀を収めて薄い笑みを微かに浮かべる。

「今の言葉、忘れるなよ。ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールよ」

 

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