魔剣異聞録~The Legendary Dark Slayer/Zero 作:月に吠えるもの
金髪の巻き毛が自慢である少女、〝香水〟のモンモランシーは趣味で秘薬作りに勤しんでいる。
彼女の実家のモンモランシ家はトリステインの由緒正しい伝統ある名家であるが、色々な事情があって領地の経営だけで精一杯の状況である。
故にモンモランシーも小遣いを自分で稼ぐために香水を作ってはそれを街女や貴族の女性らに売り捌いていたのだ。
彼女の香水は独特の香りがすることで中々評判があり、結構な高値で売れるのである。そうしてお金を稼いでは、珍しい秘薬の材料を手に入れて作るのである。
もっとも、それらはコレクションを目的としているために使う機会はほとんどないのだが。
あくる日の夜のことである。寮の自室でモンモランシーはいつも以上で真剣に秘薬作りに熱中していた。
「見てなさいよ……絶対に振り向かせてみせるんだから」
ぶつぶつと呟きながら、るつぼの中の秘薬をすりこぎでこね回していた。
今作っているのははただの秘薬ではなく、国法によって作成と使用を禁じられている品である。
これまでコツコツと貯めていた小遣い1000エキュー以上を費やして禁断の秘薬を作るための高価な秘薬を購入していたのであった。
見つかったら大変な罰金が科せられると知りつつも、モンモランシーはその秘薬を作らねばならなかった。
自分の大切な人が今、奪われようとしている。しかもあのスパーダという男と一緒にいたためかギーシュは以前とすっかり変わり果てた姿になりつつあった。
その時の男らしい気迫ある姿は悪くないとは思いつつも、そんなのは本当の彼ではない。ギーシュはキザっぽいのが一番似合っているのだ。それが変わってしまうのが嫌だった。
だがあのスパーダという男にすっかり入れ込んでおり、まともな手段では元のギーシュには戻せないだろう。
だからこそ、これから作る秘薬に全てを賭けているのだ。
滑らかにすり潰した香木に竜硫黄、マンドラゴラ、そして闇市でなければ手に入らない肝心の秘薬……香水瓶に入れられたほんの少量のその液体をるつぼの中に入れていく。
ちょうどこの一滴が闇市で扱っていた最後の一品。しかも今後、入荷の予定はないというので本当にギリギリだったのだ。決して、失敗は許されない。
少しずつ、少しずつ……こぼさぬように細心の注意を払って一滴一滴をるつぼの中へ落としていき、慎重にかき混ぜていく。
大切な人を何としてでも取り戻すために、モンモランシーは徹夜で禁断の秘薬を作り続けていた。
アルビオンより帰還して既に一週間以上が経っていた。
その日は虚無の曜日、多くの男子生徒達は朝からヴェストリ広場でスパーダの行なう剣術の稽古に参加していた。
この稽古によって己の状況、環境が変化した生徒が何人かいる。
まず、ルイズと同じクラスの同級生で〝風上〟の二つ名を持つマリコルヌ・ド・グランドプレ。
元々、彼がスパーダの稽古に参加したのは女の子にもてたいからという理由であった。小太りな体格である彼は女子には全くモテたことがない。
故にギーシュが師事しているスパーダから剣術を習って少しでもモテるためのきっかけを作ろうとしていたのだ。
スパーダの稽古は昼休みの合間、そして時々午後の授業が終わった夕方近くにも行なわれる。
それが何週間もほぼ毎日続けられており、マリコルヌにとっては極めて辛い運動となっていた。
「君、最近少し痩せたな?」
共に稽古を受けているギムリはマリコルヌの体を見て思わず呟く。
そう。結果的にその稽古をほぼ毎日受けていたのが功を成したのか、マリコルヌのぽっちゃりとした体は以前より少しではあるが逞しいものへと変わっていた。
出ていた腹も少し引っ込み、脂肪の多かった体などには筋肉がつき始めている。
「よぉしっ! もっともっと、修行に取り組むぞー!」
その指摘を受けたマリコルヌは、いつになく張り切っていた。女の子にモテる様を想像して、思わず顔がにやけてしまう。
「あっ! おい!」
「うげっ!」
結果として、組み手の相手をしていたギムリの木剣を腹へまともに受けることになってしてしまった。
「ワルキューレ!」
スパーダの直接の弟子であるギーシュ・ド・グラモンはいつにも増して戦士としての気迫を発揮していた。
剣を片手に杖を振り、青銅のゴーレムを作り出すと正面に立つスパーダ目掛けて突進させていく。
スパーダは腰の閻魔刀は手にせず左手に篭手のデルフを装着しており、向かってきたワルキューレに一発フックを叩き付けた。
バゴンッ、と鋭く重い打撃音と共に粉々に砕かれるワルキューレ。
だが、ギーシュは既に武装したもう二体を作り出して左右から時間差で向かわせていた。
「てやっ!」
さらに、スパーダ目掛けて自らの剣を投擲する。
勢いよく真っ直ぐに飛んでいく剣をスパーダはひらりと体を横に捻ってかわした。
右から来たワルキューレがメイスを振り下ろそうとする。だが、スパーダはそのまま体を勢いよく左に一転させる。
遠心力を利用して繰り出された左手の裏拳がワルキューレのメイスを腕ごと吹き飛ばし、もぎ取っていた。
砕かれた青銅の残骸が草地に放られるようにして転がる。
左から時間差で向かってきたもう一体のワルキューレもまたメイスを薙ぎ払おうとしていたが、一転し終えたスパーダはそのまま腰を低く落として足払いを繰り出した。
軽々と宙を舞ったワルキューレだったが、スパーダの頭上をギーシュの剣が回転しながら通過していくのをはっきりと耳にしていた。
「てえりゃあっ!」
念力で剣を引き戻したギーシュは即座に、立ち上がろうとしているスパーダへと駆け寄り斬りかかろうとした。
だが、スパーダは草地に叩きつけられていたワルキューレを蹴り上げ、再び宙へと舞わせていた。
「おっと!」
今までずっと、スパーダが腰だめに構えていた左拳を目にしたギーシュは慌ててその場で倒れるようにして伏せる。
直後、先ほど以上に鋭く凄まじい衝撃音と共にワルキューレが吹き飛ばされていた。
「危ない!」
「きゃあっ!」
まるで砲弾のような勢いで飛んでいったワルキューレを観戦していたギャラリー達は慌てて道を開けるようにして左右によける。
そのまま学院の外壁まで飛んでいったワルキューレはそれに衝突し、バラバラに砕け散っていた。
「ひゅーっ! 飛んだ、飛んだ!」
正拳突きを繰り出したスパーダの左手、装着されているデルフが歓声を上げていた。
「おおおっ!」
ギーシュは回避に成功したことを確認してすぐに起き上がり、そのままスパーダに斬りかかっていた。
袈裟に振り上げ、体を捻りつつ斬り返し、懐目掛けて突くなど、次々と剣の乱舞がスパーダに繰り出される。
矢継ぎ早に繰り出されるその剣を、スパーダは子供をあしらうかのように篭手で全て防ぎきっていた。
「素敵よ! ギーシュ様!」
乱舞を次々と繰り出すギーシュの表情はまるで獅子のように勇ましく、ギャラリーの女子達から黄色い声が上がっていたがギーシュの耳には届いていなかった。
「――うわあっ!」
スパーダに乱舞を繰り出し続け、剣を振り下ろそうとした途端、激しい閃光が瞬いた。
同時にギーシュは自分の胸に風魔法のエア・ハンマーが叩きつけられた時以上の強烈な衝撃を感じていた。
ギーシュの体は軽く10メイルは吹き飛ばされ、剣を手放し草地に叩きつけられてしまう。
スパーダは左手を突き出したまま、静かに立ち尽くしている。
「ふぅ……。突っ込み過ぎだったなぁ、貴族の坊主」
蓄積されていた衝撃を開放されたためにどこかスッキリした様子でデルフは言った。
「痛い……」
まともに魔力開放によるカウンターを食らってしまったギーシュは草地の上で仰向けになったまま、起き上がれないでいた。
全身が痺れてほとんど動けない。
ちらりと、ギャラリー達の方を見やる。……初めはそこにいたモンモランシーの姿は、どこにもなかった。
(何故だ? どうして、僕を見てくれないんだい)
哀しそうな面持ちで、ギーシュは溜め息を吐いた。
アルビオンから帰ってきてからというものの、モンモランシーは何故かギーシュを避けるようになっていた。
以前、二股をかけてしまった件はあったものの、ギーシュの本命はあくまでモンモランシーである。
だから積極的に愛の言葉を囁いたり、薔薇の花を贈ったりなどして気を引いたり、共にお茶を飲んだりもしていた。
彼女もまんざらではないのか、表面上は仕方なさそうにギーシュに付き合ってくれたのだ。
ところが最近はどれだけ彼女の気を引こうとしても無視されてばかりであることにギーシュは困惑していた。
その理由を、「自分が弱々しいから」と判断していたギーシュはいつも以上に剣の修行に取り組むことにしたのである。
自分がモンモランシーを守れるようにもっと強くなることで振り向いてもらいたかったのだが、どうやらまだまだ彼女に認めてもらえる強さにはなっていないようだ。
そのためにもこうして更なる特訓に打ち込み、それが終わった後には諦めずにモンモランシーにアタックするのである。
体を起こしたギーシュは未だビリビリと痺れる胸を押さえる。
「……そ、そういえばどうしてタバサはいないのかな。また手合わせを頼もうかと思ったのに」
「実家に帰ったそうだ」
スパーダは左肩を揉みつつ回しながら言った。
タバサは今のギーシュの練習相手としてはちょうど良い相手であり、暇な時は手合わせをしてくれることに了承してくれていた。
しかし、いざそれを頼もうかと思ったら今日は朝食が終わってからシルフィードに乗ってどこかへ行ってしまった。
おまけに親友であるキュルケも面白そうだから、という理由で同行したためにここにはいない。
タバサは時々、授業を休んだり抜け出したりして留守にすることが多い。その際、伝書フクロウが必ず飛んでくるので何か特別な用事のようである。
そもそも彼女の実家はどういった場所なのかよく分からない。ガリアからの留学生だということは分かるのだが。
まあ、何にせよタバサとの手合わせができなかったので師匠のスパーダにこうして直接、手合わせをしてもらったのである。
スパーダとの手合わせは本気の殺し合いに等しいものだった。
以前にもたっぷり味わった悪魔としての本性を露にしていた組み手はタバサの時と違って、絶対に気は抜けない。
少しでも気を緩めれば確実に殺される。故にギーシュも本気を出し切らねばならなかったのだ。
◆
結果的にギーシュは殺されはしなかったものの、スパーダの体術で徹底的に痛めつけられることになった。
顔こそ傷つけられることはなかったものの、体中に無数の痣をつけられている姿は実に痛々しい。
それでもモンモランシーは以前のように彼を介抱してくれることはなかったが、ギーシュ本人はこの傷だらけの姿を彼女に見せることで自分はさらに強くなったことを示すのだ。
「ああ……待っててくれよ、モンモランシー。今、君の元へ……」
足取りはおぼつかず、剣を杖にしなければまともに歩くことはできなかったが。
(ギーシュもこりないわね。あんなにボロボロになるまで続けることないのに)
始祖の祈祷書を抱えながらルイズは呆れたように嘆息する。
朝食を終えてからというものの、式で告げる詔を自室や図書館、そしてつい先ほどまでこの広場と回って初めの文程度までは考え付いていた。
そこから先で停滞してしまったので、気分転換をするため一時中断しているわけである。
「それからどうだ。何か詔は考え付いたのか」
庭の隅のベンチに腰掛けるスパーダに近づくなり、何の前触れもなく単刀直入に尋ねてきたためルイズは渋い顔をした。
「ありきたりなものかもしれないけど……」
「では、思いついたのを述べてみろ。だが、あまり批評には期待しないでもらおうか」
「ま、あまり固くなるなよ? どうせ、ほとんどは王宮の奴らに手直しされるんだから」
左手に装着したままのデルフがけらけらと笑うと、ルイズはムスッとした顔になる。
「うるさいわねっ。黙って聞いてなさい」
こほん、と小さく可愛らしい咳をしてルイズは考え付いた詔を読み上げていく。
「この麗しき日に、始祖の調べの光臨を願いつつ、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。畏れ多くも祝福の詔を詠みあげ奉る……」
「どうしたい? 続けろよ」
そこで黙り込んでしまうと、デルフが急かしてきたので拗ねたように唇を尖らせた。
「これから火に対する感謝、水に対する感謝……順に四大系統に対する感謝の辞を、詩的な詞で韻を踏みつつ読まなきゃならないの。
でも、詩的な表現なんてそう簡単には思いつかないわよ」
かと言ってスパーダは芸術などにはあまり関心がなさそうなので助力は求められないし、デルフなど論外だ。
「……詩、か。ギーシュにでも聞いてみてはどうだ」
黙って詔を聞いていたスパーダが提案するが、ルイズは渋面を浮かべた。
「嫌よ。だって、ギーシュの考え付くのなんてキザ臭いものばかりじゃない。そんなもの詔になんかしたら恥よ」
「それじゃあがんばって、自分で考えるこったなぁ」
他人事のように笑うデルフにうぅ~、と唸るルイズ。
「ねぇ、スパーダ。本当に何か良い詩とか知らないの?」
あまり芸術に興味がないスパーダとて、何もそういった分野に無知というわけではない。世を渡り歩いていると自然に耳にしてしまうものもあったりするものだ。
が、やはり今のルイズに必要なものをスパーダは耳にしたことがない。
「やはり力にはなれん」
「……もういいわ。まだ時間はあることだし、ゆっくり考えることにする。さ、お昼ご飯にしましょう」
残念そうに溜め息を吐いたルイズは、既に生徒達は解散して自分達以外に誰もいない広場をスパーダと共に後にしていた。
昼食が終わって一時間ほど経った後、ルイズは詔を考えるのは一日中断することにし、スパーダを連れて学院裏手の草原へと訪れていた。
詔を考えるのも大事だがもう一つ……ルイズにはやらなければならないことがあるのである。
そのために昼食が終わった直後、スパーダに頼み込むことでこうして来てもらったのだった。
この場所を選んだのはヴェストリ広場では人が来るかもしれないため、スパーダの悪魔の力を見られる恐れがあるからである。
「それじゃあ、お願いね」
「うむ」
杖を抜き身構えるルイズに対し、スパーダは自分の左右に無数の赤い魔力の刃、幻影剣を浮かべていた。
なお、デルフを幻影剣にしたままだとうるさくなるために篭手にして装着している。
高速で回転する幻影剣を学院の外壁に向かって射出する。呪文を唱えていたルイズはその刃に向けて杖を振り下ろした。
「ファイヤー・ボール!」
別に呪文など何でも良かったが、ルイズはこの魔法を選んでいた。
ルイズがイメージしたのは、幻影剣の少し先の空間に爆発を起こすことだ。
――ドンッ!
何もない空間に一瞬、透けた魔力が収束したのが見えた途端、その場所を中心にして爆発が起きた。
「おっと、おしかったなぁ」
篭手のデルフが呟く。
狙いは僅かに外れており、爆発は飛んでいった幻影剣のすぐ横で発生している。ピンポイントで狙えなかったのがルイズは悔しかった。
「まだまだ続けるわよっ。スパーダ、お願い!」
ルイズはさらに杖を構えてはりきっていた。スパーダは無言で幻影剣を自分の周囲に作り出していた。
自分の魔法は本来ならただの失敗に過ぎないものだ。四大系統魔法のどれにも当てはまらない。
だが、スパーダが助言をしてくれたおかげでその失敗を自分なりに活かすという道に進ませてくれた。
コモン・マジックならば何とか使いこなせるようになったとはいえ、この失敗も更に活かすことが大切だ。
ルイズの目標は多くの人に認められる立派なメイジとなることなのだから。
気分転換にもちょうど良い。
スパーダの放つ幻影剣を的にしてルイズはこの魔法の失敗による爆発……〝バースト(炸裂)〟と名付けることにした魔法を撃ち続けていた。
今のように射出され、高速で飛んでいく幻影剣を一発のバーストで撃ち落したり、大量に放たれた幻影剣を小さなバーストを連鎖的に同じ場所で発生させて一掃するなど様々なバリエーションで魔法を行使していた。
それは夕方になるまで続き、スパーダは黙々と自分の魔力から作った幻影剣を的にしてくれていたが、ルイズは次第に精神力を消耗してきて頭がクラクラしていた。
「今日はもはや打ち止めだな」
「まだよ。あともう二、三発くらいは撃つわ」
だが、それでもルイズは虚勢を張って続けようとした。
「おいおい、娘っ子。あまり無理すんなよ? 引き際が肝心だぜ」
「うるさいわね。アンタを的にしてあげなかっただけでも感謝しなさい」
茶々を入れてきたデルフに言い返すと、ルイズは改めて杖を振り上げようとした。
「あ……」
その途端、これまで以上の目まいがルイズを襲い、さらに視界もぼんやりと霞みだす。
ルイズの体はくらりと、力なく倒れそうになるがスパーダが左手で支えてくれた。その拍子に、左手で抱えていた始祖の祈祷書が足元に落ちてしまう。
「限界だ。自重しろ」
スパーダはルイズを支えたまま諌めてくる。
「もう……こんな時に……」
「だから無理すんなって言ったじゃねえか。メイジの魔法は無限じゃねえ。いくらイレギュラーな魔法つったって、精神力の消耗は他の魔法とそう変わらないんだからな」
ルイズとしてはもう少し特訓を続けたかった。
スパーダはギーシュ達に何時間にも渡って剣の稽古を付けているのだから、自分にだってそれと同じくらい特訓に付き合ってもらいたい。
悪魔であるスパーダの体力はそれこそ人間の何十倍もあるだろうが、人間であるルイズの体力や精神力はそう高くはない。
「ねぇ、スパーダ。例のデビルスターって秘薬……」
「残念だが、今は切らしている。どの道、戻らねば作れん」
悪魔の秘薬に縋ったが、やんわりとスパーダは断っていた。
「うぅ~……」
やはり、今日はもう切り上げた方が良いのかもしれない。悪魔であるスパーダの忠告はある意味、的を射ているものばかりだ。それを拒めばどうなるか分からない。
ルイズは仕方がなく、その言に従うことにする。落としてしまった始祖の祈祷書を拾おうと屈みこんだ。
「やだ……本当に今日は休んだ方がいいみたい」
「何だ」
篭手のデルフをしまったスパーダが尋ねる。
「気にしないで」
開かれていた祈祷書の1ページ、白紙しかないはずのそこに一瞬、文字のようなものが見えた気がした。
次に目を凝らしてみてもそれは霞のようにページの上から消えてしまっており、もうそこには何も見えなかった。
本当に疲れてしまっているようだ……。
拾い上げた祈祷書を抱えてルイズはスパーダのコートに寄りかかったまま、共に学院へと戻っていった。
右手の指にはめている、アンリエッタ王女から任務の褒賞として貰った水のルビーが仄かに光っていることに気づくことはなかった。
◆
同じ頃、学院本塔正面の中庭にて、モンモランシーは設けられたテーブルの一席についていた。
頬杖を突いていた彼女は恐る恐るポケットの中から手の中に収まるほどの小さな香水瓶を取り出すと、それを両手で包んだままじっと見つめていた。
「今のうちに入れちゃおうっと……」
誰も人がいないことを確認し、モンモランシーはテーブルの上に置かれていたワインを二つのグラスに注ぐ。
そして、今しがた取り出した香水瓶の中にある液体をほんの一滴……僅かな量だけを双方のグラスに落とした。
あまり量が多すぎると効果が強くなりすぎるらしいので、これくらいがちょうど良い。
後は、ギーシュの到着を待つのみ。
昼間、スパーダと組み手をしたおかげでボロボロの姿になって現れたギーシュはいつものようにモンモランシーに愛の言葉を囁いていた。
「僕はこんな姿になるまで、彼の稽古を受けていたんだ」とか、「君を守れる強い男になれるなら、この程度の痛みなど、問題ないさ」などと言ってきたのである。
そんな風に熱心に口説かれると、モンモランシー自身は悪い気はしなかった。
もっとも、そんな姿を見せられた所でモンモランシーはツンとした態度で彼をあしらう。そうすることでギーシュはさらに必死になって自分に食いついてくれる。
モンモランシーがずっと彼に対してつれない態度をとり続けていたのは、そうすることで自分へもっと目を向けるように仕向けたのであった。
そして、仲直りをするということで夕方、一緒に一杯やろうということになった。……だが、ただの仲直りではない。
「でも、本当に効き目あるのかしら……?」
たった今、ワインに注いだポーションの正体は国法で作ることを禁じられている惚れ薬だ。
何故、そのような物を作ったのか。理由はただ一つ。
ギーシュはあのスパーダという男の元で貴族であるはずなのに剣の稽古を受けるようになったことで彼に夢中になってしまったのである。
おかげで自分と過ごす時間は大幅に減ってしまい、おまけに自分の知らない姿になりつつある。
それを阻止するためにも、何としてでも自分へと振り向かせてやるのだ。そのためには、たとえ違法である惚れ薬を作ることさえ躊躇わない。
スパーダは女子だけでなく、多くの男子でさえ惹きつけられるほどの強いカリスマを持った男だ。
まともにやったのではまるで勝ち目がないからである。
……しかし、当のギーシュはいつになっても現れない。
スパーダに痛めつけられたダメージが祟ったのか、この密会の約束をしてからすぐに気絶してしまい、今は自分の部屋で寝かせてある。
あれから大分経っているのにまだ起きていないのだろうか。
だが、いずれ起きるのだからモンモランシーはそれまで待つことにした。
取り出した手鏡で髪の調子などを整え、いつ彼が来ても良いように準備をする……。
「こんな所で何してるの?」
突然、誰かに声をかけられた。振り向くと、そこにはギーシュを奪ったスパーダとルイズの姿があった。
何だかやけに疲れている様子で、スパーダに寄りかかっている。
傍から見れば父と娘みたいに見える姿である。
「ギーシュを待ってるのよ。あれだけボロボロになるまでがんばったんだから、ちょっとだけ許してあげることにしたの」
「ふぅん。今までずっとギーシュにつれない態度だったのに、急に許してあげるなんて。どういう風の吹き回し?」
「べ、別に良いでしょ。ルイズには関係ないわ」
「あっそ……。これ、もらうわよ」
すると、ルイズが手を伸ばしたのはテーブルの上に乗っていたワイングラス。
それを見たモンモランシーは慌ててルイズに飛び掛る。
「……あっ! 駄目よ! それはギーシュに飲んでもらうんだから!」
「いいじゃないの。あたし、疲れて喉が乾いてるんだから。減るもんじゃないでしょ」
「駄目だったら駄目なの!」
ルイズが手にしたワイングラスを取り返そうと、モンモランシーは彼女と取っ組み合いになった。
スパーダはその様子を黙って傍観しているだけであったが、ふと近づいてくる人影に気づきそちらを振り向いた。
「何をこんな所で騒がしくしているのかしら」
学院長の秘書、ロングビルであった。
彼女は休日ということで朝早くからトリスタニアの修道院を訪れ、ティファニアに会ってきたのだ。
そして、たった今こうして帰ってきたばかりなのである。そこで目に付いたのが、隣で騒いでいる二人の女子とスパーダだった。
「気にするな。それより、彼女の様子はどうだ。変わりはないか」
「ええ。他の子達ともよくやっているわ。すっかり馴染んでいるわよ」
「うむ。何か異変が起きたら私にも知らせろ。スカロンにも相談をしておくといい」
ロングビルはあのオカマの男の顔を思い浮かべ、思わず渋い顔を浮かべていた。
「……ところで、あなた明日明後日は用事がある?」
「何か用か」
「あの子があなたに会いたいっていうのよ。あなたのことをずいぶんと気に入っているみたいでね」
ティファニアがスパーダの話題を切り出すと、妙に明るくなっていたのをロングビルは思い起こす。
スパーダは魔法学院でどのようなことをしているのか、自分とはどのような関係なのかといったことを熱心に聞いてきたりするのだが、あれはまるで身内のことを知りたがる子供のような姿だった。
たとえスパーダが悪魔であろうとその内に秘めたる人間らしさは分かっているようで、また会って話をしたいなどと言ってきたのだ。
「別に用はない。付き合ってやってもいいぞ」
「そう。それじゃあ、明日は平日だから私の仕事が終わったら行くことにしましょうか」
隣では未だルイズとモンモランシーがいざこざを続けていたが、二人は気にせずに話を続けていた。
ふと、ロングビルはテーブルの上に乗っていたワイングラスへゆっくりと手を伸ばした。
帰ってきたばかりで喉が渇いていたこともあるが、スパーダと会話を続けていたためにほとんど無意識な行動であった。
ロングビルはくいっ、と中に注がれているワインを一飲みしていた。……安物のようだが、まあ悪くはない味だった。
「素直にすれば良いのよ。それじゃ、貰うわね」
一方、腕っ節は強いルイズはモンモランシーをようやく組み伏せ、奪い取っていたワインを同じように一口で飲み干してしまった。
「あっ!」
それを見たモンモランシーは青ざめた顔で声を上げる。
もう、全てが台無しだ。……このままでは。
「やあ、遅くなってすまないね。モンモランシー。僕はこの通り、すっかり回復したよ……」
と、そこへ今になって現れたのはモンモランシーが待ちわびていた男、ギーシュであった。
ルイズはあの惚れ薬が入ったワインを飲んでしまった。もしも、ここでギーシュを見てしまったら……。
「わああああああっ!」
起き上がり、上に乗っているルイズを弾き飛ばしたモンモランシーはそのままギーシュに向かって体当たりした。
二人はそのまま草地の上に倒れこんでしまう。
「おっとっと……ど、どうしたんだね。そんなに僕が待ちきれなかったのかい?」
何も知らぬギーシュはそんな彼女の行動に酔ったように笑っていた。
「いたた……何すんのよ、モンモランシー! たかがワインの一つや二つくらいでそんな……に……」
体を起こし尻餅をついていたルイズの視界に入ったのは、スパーダの姿。
その姿を目にした途端、ルイズは己の胸が熱くなるのを感じていた。
スパーダはルイズにとって、いわば尊敬できる教師か父親のような存在であった。
自分の失敗を活かせるように導いてくれただけでなく、強大な剣技をもって自分達を守ってくれた。
おまけに彼は人間のために力を尽くした正義の悪魔であり、人間の愛を知って故郷と決別したのだという。
その彼の偉業を思い出し、ルイズは更にスパーダに対する憧れを強くしていた。彼のように強くなってみたい、と。
だが、その憧憬はたった今、好意へと変わった。あのワルドに抱いていたようなまやかしなどではなく、心の底から彼を愛する思いが膨れ上がった。
たとえ悪魔であろうが、そんなことは関係ない。自分は、彼が好きなのだ。
ルイズ自身でさえ当惑するほどにその感情は大きかった。
とろんとした目つきで、スパーダを見つめる。
そして、そんな彼の傍にいつの間にかいるロングビルに対する嫉妬心が大きくなっていた。
一方、同じようにワインを飲み干したロングビルにも変化があった。
ロングビルは密かにスパーダに対して強い思いを抱いていた。
初めは同じ平民出身の貴族ということで親近感を抱き、次は自分のために色々と手助けをしてくれた挙句たった一人残された身内までも助けてくれた彼に恩義を抱いていた。
ロングビルはそんな彼に対していつかその借りを返したいと思い、その中でスパーダに心惹かれていた。
たとえ彼が悪魔だろうと、それは変わらない。
もっとも、スパーダが自分に振り向いてくれるとはさすがに思ってはいなかった。だから、それ以上の思いを抱くことは自ら封じていた。
ところが、そのスパーダをこうして間近で見た途端、彼女もまた心の奥に秘めていた彼への思いがより大きく膨れ上がった。
この男に対して、どんな女が色仕掛けをしかけようが振り向くことなどありえないことだろう。
だが、それでもロングビルは濁流のように膨れ上がった自らの思いを抑えることはできなかった。
自分はこの男に尽くす。そう決めたのだ。
惚れ込んでいた男の顔を見て、ロングビルの顔は仄かに赤く染まった。ぽろりと、手にしていたグラスが落ち、カシャンと音を立てて割れた。
妖艶な目付きで、じっとスパーダの顔を見つめてくるロングビル。
そして、スパーダの胸にそっと自分の頭をうずめて抱きついていた。
スパーダは自分に抱きついてきたロングビルを平然としたまま見下ろしている。
「ああ……スパーダぁ……」
いつもの彼女とは思えぬ色気のある声で呟く。
「ねぇ、お願いよ……私を抱いて……」
「だめぇっ! スパーダはあたしのものなの! 他の女の人と一緒にいちゃ嫌ぁ!」
ルイズがロングビルに飛び掛るが、彼女は敵意を剥き出しにした表情でルイズを睨みつけていた。
「……うるさいわねっ! 子供が大人同士の恋路に入り込むんじゃないよ!」
「あたし、子供じゃないもん!」
二人の女は一人の男……悪魔を巡って争い合った。
倒していたギーシュの上から起き上がったモンモランシーはその様を見て唖然とした。
「ミ、ミス・ロングビルまで……」
見ると、テーブルに乗っていたもう一つのグラスがないことに気付いた。
これが惚れ薬の効果なのだろう。どれほどの効果があるか少し不安だったモンモランシーだったが、これで納得ができた。
結局、それをこのギーシュに飲ませるのは失敗したが……。
「な、何がどうなってるんだね? これは一体……」
全く状況が理解できないギーシュはモンモランシーと共に、二人の女が争い合う姿を見ているしかなかった。
それに対し、二人が取り合おうとしている当のスパーダはというと、
「Did you even touch?(気でも狂ったのか?)」
などというあまりに素っ気ない反応であった。
◆
「スパーダはあたしの使い魔よ! だからあたしのものなの! 秘書のおばさんは黙ってて!」
「誰がおばさんだい! 私はまだ23だよ! ガキのくせして、威張るんじゃないよ!」
夕日は徐々に沈み、宵闇が訪れようとしている中、ルイズとロングビルは互いに罵り合いながら激しく取っ組み合いを始めていた。
ロングビルに至っては理知的な秘書の装いをかなぐり捨て、素の状態を晒しだしている。
ルイズは腕っ節は強いもののそれは同世代のひ弱な生徒達に限る。相手は大人であり、かつては〝土くれ〟のフーケとして修羅場を潜り抜けているロングビルであり、実力差は歴然としていた。
二人とも草地の上を転がり、体を汚しながら自分達が愛したスパーダを巡って争い合う。
(何だこれは)
二人を尻目にスパーダはルイズとロングビルが落として割れていたワイングラスの破片を手にして匂いを嗅いでいる。ルイズ達がおかしくなったのはちょうど、このグラスのワインを飲んでからだ。
そして、ほんの僅かだが破片に残っていたワインの匂いの中に違和感があり、何か別の物が混ざっていることを察していた。
それがグラスに注がれる前から入っていたことはあり得ない。あのグラスおよびワインは元々、モンモランシーが用意したものである。
くるりと、スパーダは座り込んでいるギーシュとモンモランシーの方を振り向いた。
唖然としているギーシュであったが、モンモランシーはこそこそと地を張ってこの場から離れようとしていた。
「Freeze.(待て)」
スパーダの冷徹な呼びかけに、モンモランシーはびくりと体を竦めて固まった。
まずい、まずい。惚れ薬を作ったことがバレたりしたら……ただではすまない。
モンモランシーの全身からどっと冷や汗が溢れ出る。恐る恐る、後ろを振り向くと……。
「どういうことか、説明してもらおう」
悪魔のように冷徹な視線で見下ろす、スパーダの姿がそこにあった。
視線を浴びせられるだけでも恐ろしい瞳で見つめられ、モンモランシーは震え上がりながらこくりと頷いていた。
本来ならばこの後は夕食の時間であったのだが、スパーダはルイズとロングビルを女子寮のルイズの部屋へと運んでいた。
二人はやたらとスパーダにくっ付いてくる上に「スパーダに触れていいのは自分だけ」などと叫んでは喧嘩を続け、あまりにもやかましいために閻魔刀の鞘と柄による当身で昏倒させることでようやく静かになったのだ。
気絶している二人をベッドの上に預けると、スパーダは腕を組みながらくるりと振り返り、連れてきたモンモランシーを見やる。
「あのワインに何を仕込んだ?」
単刀直入に、スパーダはモンモランシーに問いかける。モンモランシーは青い顔をしながら気まずそうに呟いた。
「ほ、惚れ薬です……」
「惚れ薬って……! モンモランシー! それはご禁制の品じゃないか!」
付いてきていたギーシュが驚き、大声を上げる。
「そんな大声を出さないでよ! バレたりしたらあたし、タダじゃすまないのよ……」
「だったら、何でそんな物を作ったんだね。君の言うとおり、バレれば莫大な罰金か牢獄行きなんだぞ。もしも君がそんなことにでもなれば、僕は……」
詰め寄ってくるギーシュに対し、俯いていたモンモランシーはいたたまれなくなって突然大声で叫びだす。
「……大体、あなたが悪いのよ! ギーシュ!」
「え、ええ?」
唐突に逆上しだしたモンモランシーに、ギーシュは面食らっていた。
きっとギーシュを睨みつけ指差してくる彼女の目元には薄っすらと、涙が浮かび上がっている。
「あなたがミスタ・スパーダとばかり一緒にいるから! あたしのことなんか放って!」
「な、何を言っているんだね。僕は毎日、君の気を引こうと必死だったじゃないか。それにスパーダ君の稽古を受けていたのは、君を守れるように強くなるためで……」
「だからって! あたしはあなたに変わって欲しくなかったのよ! キザで、ナルシストなのが本当のギーシュなのよ! それがミスタ・スパーダから稽古を受けているうちにすっかり変わって……」
嗚咽を漏らしながら号泣するモンモランシーの悲痛の言葉にギーシュは唖然としていた。
「……それで、僕に惚れ薬を飲ませようと?」
「他の女の子に浮気されるのも……ミスタ・スパーダとばかり一緒にいられるのも嫌よ……。あたしの知らないギーシュに変わってしまうのも……」
ギーシュはモンモランシーを守れるような強い男になるべく魔剣士スパーダから地獄のような特訓を受け続けていた。
その結果、以前と違って自分の力に自信がついたし、己の力量も見極められるようになった。
思えばアルビオンから戻ってきてから他の女子達と付き合ったことなど一度もない。モンモランシー一筋だった。
スパーダと共にいることで、そして彼の影響を受けることでギーシュは以前とは全く違う存在へと変わりつつあった。
「モンモランシー……そんなに僕のことを」
だが、ギーシュはモンモランシーの本当の気持ちに気づいてあげられなかった。彼女は苦しんでいたのだ。愛する人と共にいられない寂しさと、彼女の知らない存在へと変わってしまうのが。
それこそ惚れ薬でお互いの心を変えようとするまでに思い詰めていたのだ。
顔を両手で覆って泣き続けるモンモランシーの体を、ギーシュはがばっと抱き締めた。
「ごめんよ。君の気持ちに気づいてあげられなくて。愛する人を悲しませるなんて、僕は貴族失格だ。……だが、信じてくれ。僕は僕だ。
ギーシュ・ド・グラモンという名の一人の人間だよ。決して、君の知らない男になんかなりはしない」
モンモランシーは涙でぐしゃぐしゃになってしまった顔を上げ、間近でギーシュの顔を見つめていた。
「僕はずっと、君の永遠の奉仕者だよ……」
モンモランシーの顎を持ち上げ、ギーシュはその唇に接吻をしようとする。モンモランシーも目を瞑り、自分の唇を重ねようとした。
「……ふげっ!」
バシッという音と共にギーシュは情けない声を上げていた。
スパーダが閻魔刀の鞘でギーシュの頭を小突いたのだった。
「後にしてもらおう」
「……や、野暮天だなぁ。君は」
頭を擦りながらギーシュは渋い顔でモンモランシーの体を押し出してスパーダを見やる。
せっかく良い所だったのに邪魔されたのが不服だったモンモランシーも彼を恨めしそうに睨みつけていた。
「それで、あの二人を元に戻せるのか」
顎で未だ目を覚まさぬルイズとロングビルを指すスパーダ。
対するモンモランシーは困ったように顔を曇らせていた。
「うう……一応、解除薬を作れば何とか。でも、惚れ薬を作るのに希少の材料を全部使っちゃって……」
「それは何だ」
「ラグドリアン湖に住んでいる水の精霊の涙、という秘薬なんだけど……。闇屋であたしが買ったのが最後の物だったのよ……。おまけに入荷がもう絶望的らしくて」
「何故だ」
以前、読んだ本にその水の精霊とやらの説明を見たことがある。そいつは人間よりも遥かに長く生きている存在であり、六千年前、始祖ブリミルが生きていた時代から存在していたという。
水の精霊の涙というのはその精霊の体の一部であり、水のメイジが交渉することによって手に入れるものだという。
「話によると、その水の精霊達と連絡が取れなくなってしまったそうで……」
「それじゃあ解除薬は作れないということじゃないか」
ギーシュはどこか他人事のように言う。下手をすれば自分が飲んでいたというのに呑気な発言だった。
「でも、しばらくすれば元に戻るはずだし、ミスタ・スパーダだって、別にあの二人が相手だったら悪くは……」
「まあ、その道をとるのも悪くはないかもしれん。私は待ってやっても良い」
嘆息しながら言ったスパーダに、モンモランシーも安堵の顔を浮かべる。彼が納得さえしてくれればこちらもこれ以上は……。
「だが、あれだけの効き目だ。他の者達、特に教師連中が彼女達を見ればその異常に気づかぬはずはない。とりわけ、オスマンやコルベールなどはな」
淡々と言葉を口にするスパーダに、モンモランシーはうっと唸った。
あまりに豹変した彼女達が目立ちすぎると、その異常を教師達が調べることであろう。そして、惚れ薬を使われたということが分かれば必ず捜査が入る。……ずっと隠し通せるとは思えない。
「それでバレても私は知らん」
「……分かったわよ! じゃあ、近いうちにギーシュがラグドリアン湖に行って秘薬を直接、取ってくれば良いんでしょう!」
「お、おい! 僕が行くのかい! 第一、水の精霊は水のメイジの交渉が必要なんだろう?」
突然、自分を指名されてしまったためにギーシュは慌てた。
「あたしは嫌ですからね! 水の精霊って滅多に人前に姿を現さないし、ものすごく強いのよ! 怒らせでもしたらたいへ……」
モンモランシーは言葉を止め、絶句していた。
気づけば、スパーダの手にはいつの間にか一丁の短銃が握られており、その銃口をモンモランシーの顔面に突きつけていたのだ。
「お、おい! やめてくれ! 何をするんだね、スパーダ君!」
思わずギーシュはスパーダの腕を掴み懇願する。
「責任は自分でとれ」
「はい……」
スパーダは別に怒っているわけではないのだが、モンモランシーは異国の貴族としての威圧感に背筋を震わせた。
観念したモンモランシーは、がっくりと肩を落としていた。スパーダも銃を収める。
「では明朝、出発することにする」
「明朝って……学校はどうするのよ!」
「一日休んだくらいでどうにもなりはせん」
冷たく突き放すスパーダに、モンモランシーは大きな溜め息を吐き、頭を押さえていた。
◆
(本当はこれを使っても良いのだがな)
モンモランシー達が去った後、部屋に残っていたスパーダは懐から二つの青く光る星形の石を取り出す。
ちらりと、まだ目を覚まさない二人とその石を交互に見比べていた。
あらゆる毒を浄化し、肉体を正常な状態に戻すという触れ込みのホーリースターだが、別に毒だけを浄化するというわけではない。
肉体を内側から侵食している存在であれば、それが純粋な毒物でなくても構わない。それこそ、彼女達が飲んでしまった惚れ薬とて同じことだ。
心を操作する力のある魔法の薬であろうと、それさえも浄化できるはずである。
これを今すぐこの二人に使ってやっても良いのだが、この世界における適切な解決手段があるのであれば可能な限りそちらに任せるべきである。
それに、その水の精霊とやらを直接目にする良い機会なので、ちょうど良いきっかけができた。
(交渉次第では使わざるをえんが)
もちろん、水の精霊の涙が手に入らなければ即座にこれを使わせてもらおう。
その時まで、スパーダはこの二つの青い霊石を懐に納めることにした。
「ん……んん」
その時、ベッドの上に横たわっていたルイズが目を覚まし始めた。
先ほどスパーダの閻魔刀の一撃がみぞおちに決められたせいでまだ少し痛む。だが、それは自分がいけない子だからということは分かっている。
むくりと体を起こしたルイズは自分が愛するスパーダが部屋から出て行こうとしているのを目にし、思わず声を上げた。
「……いっちゃだめぇ!」
そのままベッドから飛び下り、スパーダの背中に体当たりしながら抱きつく。
……ああ、まるで父様みたいに大きくて逞しい背中。こうしているだけで、不思議とスパーダが父親のように思えてしまう。
ギーシュが厳しい特訓を通して彼を父親のように思うのと同じように、ルイズもスパーダの父親のような包容力をその身に感じ取っていた。
彼が本当は悪魔であることも、忘れてしまいそうだ。
「あたしを置いていかないでっ。もっとあたしのことを見てよぉ!」
スパーダは夕食をシエスタに頼んで持ってこさせようとしていただけなのだが、目を覚ましたのであればこのまま連れて行っても構わないだろう。
「食堂に行くだけだ」
「だめっ! 外に出たら他の女の子と仲良くしちゃうわ! そんなの嫌っ! ずっとここにいるの!」
相当、惚れ薬によって心が変異させられてしまっているようだ。普通の惚れ薬ならここまでの効果はないだろう。水の精霊の涙とやらの力が効いているのだ。
「飢え死にしたければそれでも構わんが」
スパーダは冷徹に一蹴しようとするがルイズも諦めない。
「いいもん。スパーダさえいてくれれば、何もいらないもん」
「シエスタに頼んで食事を持ってきてやる」
「だめっ! あのメイドの所に行って仲良くするつもりなんでしょ? そんなの許さないんだから」
ぷくっと頬を膨らませたルイズはスパーダの体を抱く腕に力を込め、離れようとしない。
「スパーダはあたしの使い魔だもん。だからご主人様のお相手をしなきゃだめなんだもん」
拗ねた子供のように反抗するルイズに、彼女の本心ではないとはいえいい加減スパーダも辟易としてきた。
「他の女の人なんてどうでもいいの。ご主人様のあたしだけを見て?」
これ以上、付き合っていても埒があかない。スパーダは無視を決め込み、ルイズに抱きつかれたまま部屋を出ようとした。
その時、抱きついていたルイズの腕が突如として離れだし、さらには体もスパーダから引き離されていた。
部屋の中には、コモン・スペルの念力による魔力が感じられるのが分かる。
「きゃああっ! 助けて、スパーダ! 助けて!」
振り向くと、引き離されたルイズは天井付近に浮かばされてじたばたともがいている。
さらに身に着けていたマントがするすると外され、ルイズの体と両手を器用にロープのように縛り付けていた。
「痛いっ!」
「子供はそこで大人しくしてなさい」
いつの間にか目を覚まし、杖を握っていたロングビルが冷たい顔で床に落ちたルイズを睨みつけていた。土くれのフーケとしての本性を現したその表情には秘書としての装いは全くない。
「ふんだ。婚期を逃したおばさんになんてスパーダの相手は勤まらないもん!」
「言ってなさいな。小娘め」
冷笑を浮かべ鼻を鳴らすと、ロングビルはスパーダに近づいていった。
艶かしい顔を浮かべ、そっとスパーダの胸の中に抱きつく。
「さ、あんな子供なんて放っておいて、私達だけで楽しみましょうよ……」
スパーダの頬にロングビルの細い右手が伸び、左手の指先がツツッとスパーダの胸元でなぞられていた。
その姿はさながら妖艶な女悪魔に等しいものであり、並みの男ならばこの誘惑に負けてしまうかもしれない。
同じタイプのキュルケが霞んで見える。
(ネヴァンみたいになってしまったな……)
思わずスパーダは溜め息を吐く。
かつて魔界にいた頃、魔帝ムンドゥスの勢力に共に属していた上級悪魔〝妖雷婦〟ネヴァン。
スパーダが戦いを終えると毎度のように誘惑をしてきて迫ってきたあの女。
娼婦そのものであるあの女は魔界でも珍しい享楽主義者であった。
一時の強い刺激を味わうのが趣味であるネヴァンは幾度となくスパーダに誘惑を繰り返してきたものだ。
彼女にとっては魔界も人間界もあまり関係がなく、ただ自分の楽しみのためだけに生きている。
スパーダが魔界と決別する際も、ただより強い刺激を味わうためにスパーダと戦い、結果として封じられたのだ。
「だめ! だめよ! スパーダはあたしの使い魔なんだから! あたしだけのものなのよ! 他の女の人は近寄っちゃだめぇ!」
後ろ手に縛られているルイズは喚きながらも暴れ、何とかマントを外そうとしていた。
そんなルイズのことを無視し、ロングビルはスパーダの顔を悩ましげに見上げながら彼の顎に手をやった。
「ねぇ……覚えている? あなたが私のゴーレムをそこの破壊の箱やあなたの剣で粉々にした時のこと……。あの時は本当に痺れちゃったんだからぁ……」
本当にどうでも良いことを引き出して、話題を広げようとしている。
「私はもっと刺激を味わいたいのよぉ……。今夜は私の部屋へいらっしゃって。こんな小娘なんかと朝まで過ごすことなんてないわ……」
「断る」
本心ではない中途半端な感情で、そんなことをされてもスパーダには良い迷惑だ。
身も心も、人生さえも捧げる覚悟もなしに悪魔と契約の契りを交わすなど、御免こうむる。
「ほらやっぱり! 23のおばさんなんかにスパーダが振り向くはずないもん!」
未だ縛られた手を何とかしようと躍起になっているルイズが勝ち誇ったように言った。
「ふん。主人と使い魔の関係でしかスパーダと繋がりを持てないくせに、威張るんじゃないよ」
だが、ロングビルも負けずに余裕の表情で言い返す。
「そんなことないもん! スパーダはあたしのことをちゃんと認めてくれてるもん!」
「あら。何だかうるさい犬がさかり鳴いているようね。……ほら、もう行きましょう。こんなうるさい所にいたって、何にもないわ。今夜は私が付きっきりで相手をしてあげる……」
ルイズを無視しスパーダに寄り添ったままのロングビルは自ら扉を開け、外へと出ていった。
「嫌だぁ! スパーダぁ! そんなおばさんなんかと一緒にいちゃだめぇ!」
その後、女子寮を離れていったスパーダは夕食をルイズの元へと運ぶためにロングビルと共に食堂を訪れていた。
「おいおい……あの秘書さん、ミスタ・スパーダとできてるのか?」
「意外と一緒にいる時が多かったみたいだけど、まさかあそこまで進んでいたのか……」
「あんな大人の女性に寄り添われて……うらやましいなぁ」
普段は決して見せぬ妖艶な大人の魅力を発揮するロングビルがスパーダに寄り添っている姿を、食堂中の人間が唖然としながら見つめていた。
男子達はあんなに美人な大人の女性を傍に置いて引き連れているスパーダをうらやましく思い、スパーダに憧れている女子達はロングビルが殿方に寄り添っているのが悔しくて、嫉妬を露にした表情で睨みつけていた。
そんな様々な思いのこもった視線を受けながらもスパーダは給仕をしている最中のシエスタを見つけて近づく。
「何よぉ。こんな平民の娘なんてどうでも良いじゃない……」
「シエスタ。すまんが、ルイズの元へ食事を運んでやってくれ」
(スパーダさんは……ミス・ロングビルのことが好きなのかな……)
ロングビルを無視して話しかけてきたスパーダを振り向いたシエスタであったが、傍に寄り添っているロングビルを目にすると哀しそうな顔を微かに浮かべていた。
時々、シエスタは二人が一緒にいる所を見届けており、お互いに気が合う様子に悔しさを感じていた。
「彼女のことは気にするな……」
スパーダはべったりとくっ付いているロングビルに鬱陶しそうな顔で呻いていた。
(あれ? でも、スパーダさんのあの態度じゃ……)
そのスパーダの様子を見て、シエスタはロングビルが一方的に彼にくっ付いているということを察し、安心していた。
自分にもまだまだチャンスはあるかもしれない。
「はい、かしこまりました。スパーダさん達もごゆっくり……」
微かに笑みを浮かべ、シエスタはちらりと冷たい目でロングビルを睨みつけていた。
そしてスパーダに言われたとおりに食事をルイズがいるであろう女子寮へと持っていく。
「わたしも……負けられないっ」
道中、誰ともなく強く意気込むシエスタであった。
◆
ロングビルがこの状況では食堂で夕食をとるわけにもいかないため、教師達のテーブルに用意されていた自分達の食事を持って夜のヴェストリ広場のベンチへと移動していた。
そこでのロングビルは二人分の食事がちゃんとあるというのにスパーダに自分の食事を「ほらぁ。口を開けて。私が食べさせてあげるわ……」などと言って与えようとしたのだ。
スパーダは無視して黙々と自分の食事を口にしていたのだが、ロングビルはあまりにもしつこくスパーダに食いついてきた。
これがもしもネヴァンだったら、容赦なくその身を閻魔刀で貫いて大人しくさせていただろうが、彼女は人間だ。そんなことはできない。
「もぅ……あなたが悪魔だからってそんなに冷たくしないで……。それとも、人間の私なんて興味がないのかしら?」
「さてな」
惚れ薬の効果が出ている状態では何を言っても無駄だ。だからスパーダもよほどのことがなければ生返事しかしないことにした。
「ああ……。明日はどうしようかしら。テファに会いに行くのもいいけど、それじゃあスパーダがあの子になびきそうだし……」
「悪いが、明日は急用ができてしまった。明後日以降に回してもらう」
「どこへ行こうというの……私を一人にしないで。それだったら、私も一緒に行かせてもらうわ。私はいつまでもスパーダと一緒よ……」
(付き合いきれん……)
黙々と食事を続けつつ、スパーダは娼婦のように様々な誘惑の言葉を囁き続けるロングビルをあしらっていた。
食事を終えたスパーダはそのままルイズの部屋に戻るとまた厄介なことになりそうだったので、このまま外で夜を明かそうとしたのだが、ロングビルが本塔の自分の部屋へと連れ込んでいた。
外で構わない、とスパーダが断っても「あなたが一緒に寝てくれないと、安心して眠れないのよ……」と言って無理矢理引っ張っていったのである。
おまけに扉には〝ロック〟の魔法までかけて。
秘書である彼女の自室は平民用の宿舎と似たような質素な部屋であった。小さな机とベッド、そしてチェストがあるのみである。
スパーダはその机に備えられた椅子に腰掛け、閻魔刀を抱えたまま眠りにつこうとしていた。
ロングビルは目の前に男がいるにも関わらず衣服を脱いでいき、やがて生まれたままの姿となった。
「もぅ……そんな所で座ってないで……こちらへいらっしゃいよ……」
ネグリジェに着替えることなく、ベッドの上にしゃがみこむロングビル。胸元をシーツで隠し、まるで焦らすように誘う姿はとても魅力的なのかもしれない。
普通の男ならばこんな状況になりでもしたら、たまらずに抱きついたり押し倒してしまったりするであろうが、そこはスパーダである。
魔界の女悪魔の扱いさえも熟知している彼は相変わらず無視を続けていた。
「ねえったらぁ……」
シーツを体に巻きつけ、スパーダの元へ歩み寄るとロングビルは顔を彼の首筋に近づけ、優しく息を吹きかける。
その時であった。
扉がガチャガチャと乱暴な音を立てて開けられようとしていた。しかし、ロックの魔法がかけられているために力ずくで開けるのは不可能である。
ロングビルは扉の方をちらりと向き、僅かに顔を顰めたがすぐに鼻を鳴らす。
ここはもう二人だけの世界だ。誰にも邪魔はさせない。
「気にしないで……。今夜は私達二人だけで楽しみましょう。そうだわ……ここにいる時は私のこと、マチルダって呼んでちょうだいな……」
無表情のまま瞑目しているスパーダの口元に、ロングビルの唇が触れようとしたその瞬間……。
鋭い爆音と共に扉が粉々に吹き飛んだ。
あまりに予想しなかった状況にロングビルは慌てて振り向く。
「スパーダは渡さないわっ!」
杖を構えて立つ、ルイズの姿がそこにあった。
シエスタが夕食を届けに女子寮へ赴いた時、ルイズはようやく縛られていたマントを外すことができた所であった。
現れたシエスタは食事のトレーをルイズに差し出したものの、物凄い剣幕で「スパーダはどこに行ったの!」などと叫んで追求してきたため、思わずシエスタは怯んでしまった。
あの後、スパーダはロングビルと食事を持って食堂とはどこか別の場所へ行ったのだけは確認したがそれ以上は分からなかった。
ルイズは乱暴に食事を奪い取り、部屋に閉じこもると貴族としての慎みなど全くない、やけ食いのような速さと動きで夕食を胃袋につめこみ、スパーダとロングビルを捜し求めて学院中を駆け回っていたのであった。
道中、運悪くルイズと遭遇してしまったギーシュとモンモランシーからもスパーダ達の居場所を聞き出そうとして、杖を突きつけて脅したりもしていた。
その時のルイズの表情は、まるで鬼か悪魔のようなものであったという……。
「ちっ、まったく無粋な小娘だねぇ! 私達の時間を邪魔するだなんて!」
「スパーダはあたしのものなの! 年増のおばさんは一人で寝ていればいいんだわ!」
椅子に腰掛けているスパーダにルイズも抱きついた。
「スパーダ。ご主人様を一人にしないで。あたしと一緒に眠ってよ。使い魔が一緒じゃないと、安心して眠れない」
「ふざけるんじゃないよ! あんたみたいな小娘にスパーダが振り向くものかい!」
ルイズを突き飛ばしたロングビルはスパーダの体にがしりと強く抱きついた。その拍子にシーツが剥がれ、彼女の細くしなやかな裸体が露となる。
尻餅をついたルイズは顔を顰めてロングビルを睨みつけた。
「やったわね! 許さないんだもん!」
ルイズは杖を振り、シーツを念力で浮かべてロングビルの顔を包み込んだ。
「むぐ! むぐ!」
「ファイヤー・ボール!」
そして、間髪入れずにとても小さな爆発の魔法を叩き込み、ロングビルを吹き飛ばす。
威力が抑えられたその一撃では昏倒することはない。
「この小娘め!」
ロングビルも机の上に置いておいた己の杖を手にし、身構える。
「決闘よ! 決闘! どっちがスパーダといっしょに眠る権利が……」
『Shut up.(黙れ)』
突如、微動だにしなかったスパーダが地の底から響くような恐ろしい声で呟いた。
思わず、二人はその声に身を震わせて振り向く。
見ると、スパーダの全身から赤黒いオーラが煙のように吹き出ている。
『Why you can't even sleep in quiet? Foolish scum.(お前達は静かに眠ることもできんのか? 愚か者が)』
悪魔としての本性を露にしたスパーダは瞑目したまま、腕を組んで喋り続ける。その静かな声は明らかに、怒りが込められている。
下手をすれば、抱えている閻魔刀を抜き出すかもしれない威圧感を発していた。
『Don't wrath me off anymore. Bitches.(私をこれ以上、怒らせるな。雌犬どもめ)』
その一言を最後に、スパーダの全身からオーラが静かに消え失せていた。
ロングビルとルイズはごくりと息を呑み、スパーダを見つめていたがやがて互いに睨み合う。
だが、その口からはもうこれ以上、互いを罵る言葉は出なかった。
「……今夜だけよ。ここにいていいのは」
「明日からは、スパーダには指一本触れさせないもん」
床に座り込んだ二人はスパーダの膝に寄りかかったまま、眠りについていた。他の女がスパーダの近くにいるだけで我慢ならなかったが、これ以上暴れればスパーダが本気で怒るので自重する。
二人が愛する男は静かに眠ることを望んでいる。ならば、その願いを叶えるために二人は今にも互いに魔法をぶつけてどかしてやりたいのを必死に抑えていた。
(まだネヴァンの方がマシだ)
二人が熟睡したのを見てスパーダは大きなため息をついた。
ホーリースターを一つ取り出し、ロングビルの頭にかざすと青い光が溢れだし、彼女の体を包み込んでいった。
モンモランシーに責任を取らせるなら、一人分だけで充分である。
作品の良かったところはどこですか?
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登場人物
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世界観
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読みやすさ
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話の展開
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