魔剣異聞録~The Legendary Dark Slayer/Zero 作:月に吠えるもの
――ギィンッ!
激しくぶつかり合う剣戟の音がヴェストリ広場に響き渡る。
「うわあっ!!」
ギーシュが握っていた剣はスパーダが振るったリベリオンの一撃を受けきれずに弾き飛ばされる。
それどころかギーシュ自身までも吹き飛ばされ、草地の上を転がされた。
「剣の握りが甘い」
スパーダは倒れ伏したギーシュに向かって一言を述べる。
ギーシュとスパーダの剣同士による戦いはまだ続いていた。
だが、もう決闘とは呼べないほどギーシュはスパーダに一方的にやられていた。
そもそも平民の武器である剣はメイジにとっては野蛮な代物として忌避される。故にギーシュはまともに剣などという武器は生まれてこの方一度も握ったこともない。
剣士として素人も同然なギーシュはスパーダの容赦のない剣技をまともに受けられず、何度も剣を手放しては吹き飛ばされていたのだった。
「ま、まだまだ……!」
だがギーシュは何度倒されても立ち上がり、剣を拾い直してはスパーダに立ち向かっていく。
無論、ギーシュのへっぴり腰で振るわれる剣はスパーダに当たるはずもなくリベリオンで軽くいなされるばかりだ。
「力みすぎだ。もう少し力を抜け」
スパーダ自身は一切攻めようとせず、向かってくるギーシュを軽く迎え撃つだけである。
だがギーシュの動きに対してまるで指導でもするかのように声をかけたりしていた。
「ひぎぃっ!」
リベリオンの強靭な一撃を受け止める度に響き渡る重く鋭い剣戟の音。そして、ギーシュの悲鳴。
剣を通して伝わってくる衝撃に、ギーシュの手も腕もビリビリと痺れてしまう。
「どうしたギーシュ! もうへばったか!」
「どうせ勝てないだろうけど、諦めんなよー!」
二人の男の剣のぶつかり合いを観戦する周りのギャラリー達は野次を飛ばすが、中には申し訳程度な応援も混じりだしていた。
ギーシュはぜいぜいと激しく息をついていて疲れているのは目に見えているが、スパーダは汗一つ流している様子がない。
だが何度倒れようと諦めずに立ち向かおうとするギーシュの気骨ある姿に多くの者達が好感を抱き始めているのは明らかだ。
「うわあっ!」
幾度となく剣を受けては投げ出されていたギーシュだったが、ついに限界を迎えようとしていた。
リベリオンの一撃を受け続けた剣はついに刀身を叩き折られてしまい、ギーシュ自身も倒れ伏したまま起き上がることもできない。
スパーダはリベリオンを突き立て、地を這わされたギーシュを見下ろす。
剣自体は折られたが、柄だけは手放すことなく握られていた。
「スパーダ。そこまでよ」
ずっと戦いを見届けていたルイズが声を上げると前に出てくる。
「あなたが強いのはみんなよく分かったわ。ギーシュももう限界だから、これで手打ちにしてあげて」
確かにもうギーシュはこれ以上、戦うことはできないのは火を見るより明らかだ。
スパーダ自身にもそれは分かっており、無言のままリベリオンを背中へと戻していく。
「ス、スパーダ君……」
ギーシュは息を切らしながらも顔だけを上げだす。その表情はまさに疲労困憊と呼ぶに相応しいほどに消耗しきっていたが、彼は爽やかな笑みを浮かべていた。
「ご、後日改めて……け、剣で再戦を、申し込みたい……」
「ギーシュ、あんた……」
「お前の好きにするがいい」
驚き呆れたような顔を浮かべるルイズに対し、スパーダは平然と返すのみである。
「か、感謝……するよ……」
満足そうに笑ったギーシュはがくりと顔を突っ伏してしまった。どうやら気絶してしまったようだ。
全て終わったとばかりにスパーダは踵を返して歩き出し、ルイズもその後をついていく。
ギャラリー達は圧倒的な実力で勝利を収めたスパーダを緊張の面持ちで見つめたまま道を開けていた。
「ギーシュ!」
振り向けば気を失ったギーシュに駆け寄り、介抱しようとするモンモランシーの姿があった。
「ねえスパーダ。その背中の剣、どこにしまってたの?」
「マジックアイテムの一種だからな。こうしてやれば小さくできる。それだけだ」
言いながらもスパーダの背中にあるリベリオンはまたも光に包まれて跡形もなく消えていった。
今度はそれをはっきり目にしたルイズだったが、スパーダの言葉に一応の納得を見せる。
「もう……それにしても本当にどうなるかと思ったわ。あなたがあんなに強かったから良かったけど……もうあんな決闘なんてしちゃだめよ」
「微力は尽くしてみよう」
「そういえばギーシュの奴、また再戦したいとか言ったけど……」
「別にまた決闘をしたい訳ではあるまい。別の用事らしい」
「決闘じゃなかったら、何だっていうのよ?」
「さてな。その時に聞いてみる」
相槌を打ちながらヴェストリ広場を後にしたスパーダが向かっていくのは本塔の方だった。
中に入ると、食堂ではなくさらに上階へ続く階段を上がろうとしていく。
「どこ行くの?」
「オスマンの所だ。君も一緒に来てもらう」
一体、学院長室に何の用があるのか。ルイズはスパーダの意図が分からず首を傾げた。
◆
「彼が……勝ちましたね」
「うむ……圧倒的じゃったな」
学院長室において、全ての成り行きを見ていたオスマンとコルベールは溜め息をついた。
コルベールがここにやってきたのは昼食が始まる直前、スパーダがヴェストリ広場で昼寝をし始めた時だった。
彼は先日から図書館から持ち出したいくつかの書物を自分の研究室で読み耽っていた。
スパーダの左手に刻まれていた使い魔のルーン――あまりにも珍しいそれが気になったために調べていたのである。
その結果、驚くべき事実が判明したのだ。
あのルーンは歴史の彼方に消えた、伝説の使い魔の証であると。
「やはり彼は〝ガンダールヴ〟なのでは……! これは大発見ですよ! まさかこの現代に伝説の使い魔ガンダールヴが……!」
「コルベール君。そう決め付けるのはまだ早いぞ」
興奮するコルベールをオスマンは冷静に抑えた。
二人はこの部屋に備えられたマジックアイテム・遠見の鏡を使って広場でのスパーダの戦いぶりを見届けていた。
先刻、コルベールがスパーダはガンダールヴなのではないかという議論をオスマンと交わしていた中、オスマンの秘書であるロングビルからギーシュがスパーダに決闘を申し込んだという報告が入った。
シュヴルーズら他の教師達は大騒ぎになる前に眠りの鐘を使って事態を収拾しようと使用の許可を求めたが、オスマンはそれを却下した。
喧嘩を売ったのはギーシュの側だというのは聞いており、ただの喧嘩に学院の秘宝は使えないという名目だったが、スパーダがガンダールヴなのかどうかを見極めるために遠見の鏡で決闘を見守ることに決めたのである。
「ワシにはな、彼の戦いぶりはルーンがもたらしている物ではないと思うのじゃ。あれは彼自身の実力じゃろうて」
「……は、はあ」
「それに――」
突然、厳しい顔つきになるオスマン。
「ワシはディテクト・マジックで彼を調べてみたが、とてつもなく恐ろしい魔力を感じ取った」
そうである。昨日、スパーダと会話をし終わった直後に立ち去ろうと振り返った彼の背中にすかさず魔法探査を行ったのだ。
彼が本当にメイジであるかを確かめるためだったが、彼から発せられる魔力はあまりにも強大で規格外なものだった。
それだけの魔力を持つ彼が、あれだけの力を発揮できるのは朝飯前ではないか、と思っているのだ。
おまけにあれは……とても人間ではあり得ないほどに強大で、ドス黒い魔力の波動だったことにオスマンは思わず震え上がる。
「とにかく情報が足りぬ。事を荒立ててはいかん。当分は我々だけの秘密じゃぞ」
「……分かりました」
息を飲んだコルベールが首肯をした、その時だった。
コンコン、と扉をノックする音が聞こえてきた。
「鍵はかかっておらぬ、入りたまえ」
オスマンが言うと、「失礼します」という少女の返答と共に扉が開き、二人の男女が姿を現した。
それは話題に上がっていた人物の主ルイズ、そしてその当人スパーダだった。
突然の来訪者に二人の教師達は驚く。
「どうしたのかね、ミス・ヴァリエール。スパーダ君も……」
「それが……スパーダが学院長と話をしたいって……」
ルイズ自身も困惑しながらスパーダを見やった。
何の用があるのか道中尋ねてみても、彼はそれに答えてはくれなかったのだ。
「うむ。何の話があるのかな? スパーダ君」
「ルイズの退学を受理してもらいたい」
前置き抜きで単刀直入に述べられた言葉に一同は絶句した。
「ちょっと! 何であたしが退学しなきゃなんないのよ!?」
「ああ……もしかして、先ほどの決闘のことかね? 心配いらんよ。ミス・ヴァリエールはもちろん、君にも責任はないぞ」
「そんなことはどうでもいい。彼女をこれ以上、ここにいさせる訳にはいかん」
スパーダの表情は涼しいものであったが、異様なプレッシャーをオスマンとコルベールは感じ取っていた。
「それは一体どういう……」
「教え子を実験台にするような連中の元に置いておく必要がどこにある」
コルベールが聞き終える前にスパーダは冷酷にそう言い放つ。
その一声にルイズは意味が分からないと言いたげに目を見開いていた。
困惑するオスマンとコルベールをよそに、スパーダの視線はちらりと遠見の鏡へと向けられる。
「それで私達の成り行きは見ていたのだろう。ならば、何故あの騒ぎを止めようとしなかった」
まさかスパーダは気づいていたというのか。オスマンとコルベールはたじろぐ。
ルイズも決闘を二人が見ていたという事実を知って驚いている。
「私の何を試そうとしたのかは知らんが、お前達は教師のはずだ。ならば何故、決闘を止めようとしなかったのだ?」
スパーダは決闘の最中、自分達を魔法で監視する者の存在に気付いていた。
その魔力を逆探知し、この学院長室から二人が高みの見物を決め込んでいることを察したのである。
「決闘をしたのが私だったから良かったものを、他の何かがギーシュと決闘をしていれば、彼は死んでいたかもしれん」
それこそスパーダとは別の悪魔だったら、容赦なくギーシュは殺されていただろう。
「私はギーシュを殺す気など毛頭なかったが、万が一にも手違いで命を落としていれば、それを傍観していたお前達はどう責任を取っていたつもりだ」
二人を非難するスパーダの表情は先ほどからまるで変化していないが、変わらないのが逆に恐ろしい。
三人は手厳しい言葉を浴びせてくるスパーダを愕然と見つめていた。
「教師であるお前達にはこの学院にいる全ての人間達を守る義務がある。それができないようでは教師失格だな」
「スパーダ! 学院長に対して失礼よ!!」
「だが彼らが君の学友を実験台にしたことに変わりはない。その気になれば君自身も同じように実験台にされかねん」
スパーダの腕を引っ張って叫ぶルイズにスパーダは冷徹に返すが、逆にルイズの神経を逆撫でた。
「だからって……!!」
「良いのだよ、ミス・ヴァリエール」
苦笑し、溜め息をついたオスマンがルイズを制した。
「……確かにそうじゃ。ワシらは好奇心を優先して、一番大事なことを忘れていたよ。君の言う通り、ワシらはとんだ大馬鹿者じゃ。君に教師失格などと言われるのも無理はない……」
コルベールもオスマンと共に頭を深く下げていた。
「いやはや……君には恐れ入るわい。ミス・ヴァリエール、君は本当に素晴らしいパートナーを得たようじゃな」
「ありがとうございます……」
オスマンから改めて祝辞を賜ったルイズは少々気まずそうに頭を下げていた。
「こんなワシらが言うのも何じゃが、ミス・ヴァリエールのことをどうか見守ってあげてくれ。ワシらが気に入らないと思ったなら、その時は自由にミス・ヴァリエールと共にここを出て行っても構わんよ」
スパーダはそれに答えず用が済んだとばかりに踵を返し、学院長室を後にしようとする。
扉を開けた直後、スパーダはちらりと肩越しにオスマン達へ振り返った。
「次はない。その時には彼女を実家に帰す」
「何言ってんの! 中退なんて嫌よ! もういいから行くわよ! どうもお騒がせしました!」
オスマン達に深く頭を下げたルイズは慌てながらスパーダの背中を無理矢理押して退室していった。
取り残された二人の教師は呆然とスパーダ達が去っていった扉を見つめていた。
「ワシらは何をやっとったんじゃろうな」
「まったくですね……」
スパーダは遠い異国から遥々この地に招かれながらも、ルイズのパートナーとなることを決めてくれた。
自分達はそれに応えようとしなかったばかりか、むしろ彼を裏切ろうとしていたのだ。
「彼の方がよっぽど教師に向いとるわい」
「まったくお恥ずかしい限りです……」
ガンダールヴだろうが何だろうが、そんなものは彼にとっては関係の無いことだ。
勝手に彼への好奇心を抱いて、教師として一番やってはいけない愚かな所業に自分達は手を染めてしまったのである。
もう本当に二度目はないだろう。今度、彼を裏切れば完全に見限られる。
そうはならないためにも、彼の期待に教師としてしっかり応えなければならないのだ。
◆
今日の夕食は昨日と異なり、スパーダもルイズの隣で食していた。
黙々と食器を動かすスパーダの姿を目にする近くの生徒達はいつもと異なり緊張した様子で黙り込んでいる。
平民上がりの貴族とはいえ、メイジの魔法が全く歯が立たず圧倒的な実力を見せつけた彼を畏怖するようになっていた。
この学院ではほとんどの生徒がドットである以上、喧嘩など売ろうものならギーシュと同じように返り討ちになるのがオチだ。
そのプレッシャーを間近で感じるせいでいつもはお喋りをしながら楽しむはずの食事も堅苦しいものになってしまう。
「ねえダーリン。今夜はこの後、お時間はあるかしら?」
だがそんなプレッシャーなど意に介さない者もいた。
スパーダの右隣、ルイズとは反対側の席についていた炎のような赤い髪を揺らす褐色の肌の女子生徒は積極的に話しかけてくる。
「何がダーリンよ! 大体、何でキュルケがこっちにいる訳!?」
不愉快そうに声を上げてルイズはキュルケを睨む。
いつもは違う席で他の男子を侍らせているはずなのに、わざわざスパーダの隣に来ていることが気に食わなかった。
「固いこと言わないの。せっかく異国の殿方と大事な親善をしてるんだから」
キュルケはルイズのことなど全く気にせず楽しげにスパーダと話しながら、片手でフォークを小さく切り分けられた肉に刺してひょいと口に運んでもぐもぐと食している。
「それでどう? わたし、もっとダーリンと色々なお話がしたいの。あなたの故郷のお話とか聞かせてもらいたいわ」
「私は図書館でまだ色々と調べ物がある。用事ならまた今度にしてもらおう」
「あらそう。残念ね~。でも、ダーリンは本当に勉強熱心なのね。どんな本をお読みになるのかしら?」
「次はハルケギニアに存在する亜人や怪物に関する本でも読もうかと思っている」
「あら、そういう本だったらタバサもよく読んでたわよね」
向かいの席ではタバサがスパーダと同じように黙って食事を続けていた。
タバサはまだ彼のことを警戒する様子で、ちらちらと視線をスパーダの方へやったりしている。
「良かったら寝る時間になるまで、あたしもご一緒させてもらおうかしら。ねえ、良いでしょ? ハルケギニアの知らないことならいっぱい教えてあげるわよ」
「好きにすればいい」
しなを作りながら体を寄せてくるキュルケに変わらぬ態度でスパーダは相槌を打つだけだった。
「それにしてもあなたの剣って本当にすごかったわねえ。メイジ殺しって初めて見るけど、あんなに強いなんて……オーク鬼とかなんて目じゃなさそうね。ああ……本当に燃えちゃいそう……! まるで本物のイーヴァルディの勇者でも見ている気分だったわ……! 痺れちゃう!」
「この色ボケ女……」
勝手に一人で盛り上がって陶酔するキュルケにルイズはぼそりと呟いていた。
(あの女にそっくりだな……)
先ほどから艶めかしい態度のキュルケにスパーダの頭に思い浮かんだのはある女悪魔だった。
かつて因果関係があった稲妻の力を操り、人間の精を糧にしていた妖艶な上級悪魔、〝妖雷婦〟ネヴァン。
キュルケはその女悪魔と髪の色も含めてとてもよく似た印象をしているのだ。とはいえ、さすがに肌の色までは違うのだが。
こうした感じですり寄ってくる女の扱い方もネヴァンはもちろん、人間界でたまに出会う娼婦らとの付き合いで慣れてはいた。
この手の人間は適当に相手をしていればその内、向こうから離れていくものである。
「それじゃあまた後で図書館でね~。ダーリン~」
お喋りで口を動かしていた割にスパーダよりも先に食べ終えたキュルケは手を振って去っていく。
会話に混ざらないまま食事をしていたタバサも完食すると杖を手にキュルケの後をついていった。
ルイズも半分以上食べ終えているが、スパーダもそれと同程度の量を食べ終えている状況だ。
「何がダーリンよ……勝手に色目使って迫るなんて……見境ないんだから」
腹を立てながらルイズは力を込めて肉をナイフで切り、パンを手にして噛り付いていく。
「放っておけ。ミス・ツェルプストーも本気ではあるまい」
「当然でしょ。キュルケは他に何人も付き合ってる男がいるんだから」
ずっと態度を変えないままでいるスパーダにルイズは仏頂面で答えると、キュルケについて色々と語りだしていた。
彼女はトリステインの隣国であるゲルマニアからの留学生だ。
話によれば去年に入学した時には早々に何人もの男子達がその野性的な美貌に惹かれてアプローチをしており、キュルケと付き合う権利を賭けて決闘騒ぎまで起こったらしい。
「ま、その決闘が終わった時にはもう別の男と付き合ってたってオチなんだけどね」
「ほう」
「今でもあんな感じよ。そういうことがあったのに、キュルケと付き合おうとする男は本当に多いわ。いつもだったら他の男子をまるで女王様のように侍らせてるんだから……!」
憎々し気に語るルイズはブスリとフォークを肉に突き刺し、頬張りだす。
「君は彼女を嫌っているようだな」
ルイズの態度から個人的にキュルケに対して敵意を抱いていることをスパーダは察していた。
「当然じゃない。キュルケの実家はあたしの領地とも隣なのよ」
何でもルイズの実家はトリステインの北東の果て、ゲルマニアとの国境に接している。
しかもその隣接した場所がキュルケの実家だというのだ。
過去、ゲルマニアとトリステインが小競り合いを行う度にルイズの実家のラ・ヴァリエールとキュルケの実家のツェルプストーは先頭を切って戦ってきたらしい。
それ故に家柄同士でかなり仲も悪いそうだ。
「それは因縁めいているな」
しかも息女同士もこの学院の宿舎で部屋が隣同士でやはり仲が悪いときている。
どうにもルイズとキュルケの一族は切っても切れない宿敵のような関係なのが明らかだ。
「それだけじゃないのよ! あたしのご先祖様たちはみんな代々、ツェルプストーの連中に恋人を奪われてるんだから! 許せないわよ!」
周囲の目も憚らずにルイズは叫んだ。周りの生徒達は面白いものでも見るかのようにルイズの癇癪を眺めているが、当の本人はまるで気づいていない。
最初の因縁は200年も前に恋人を寝取られたことに始まり、それからもある時は婚約者を奪われ、ついには妻さえも奪われてきたという。
恨みつらみに語り続けたルイズは悔しげにテーブルを叩いた。もう肩を上下させるほどに息を切らしている。
「君の家族はどうなのだ? やはり同じように誰かが奪われでもしたのか」
「冗談じゃないわよ! 父様達は違うわ!」
キッとルイズはスパーダを睨み返して大声を張り上げる。その剣幕には周りの傍聴者たちもビクつくほどの迫力があった。
「あたしが5歳くらいの時だったかしら……キュルケの叔父のオスカー伯爵は母様を寝取ろうと企んでいたのよ。でも、母様は逆にそいつを叩きのめして父様と一緒に追い返してやったわ。いい気味よ!」
勝ち誇ったように鼻を鳴らすルイズを見て周りは失笑混じりに溜め息をついていた。
「ならそれで良いだろう。君の両親は先祖と違って、間違いなくお互いに愛し合っているようだからな」
ルイズと同じタイミングで食べ終えたスパーダは食器を置きならそう述べた。
「君の語った先祖とやらはどうやらあまり愛し合えたとは言えんようだ」
「どういう意味?」
ナプキンで口を拭きながら怪訝そうな顔を浮かべるルイズ。
「ツェルプストーの先祖に恋人を奪われた……事実はどうか知らんが、言い返せばその者達は元の恋人を裏切ったということになる」
スパーダの冷酷な言葉にルイズだけでなく話を聞く周りの生徒まで愕然としたように凍り付いていた。
「もし本当に愛し合っていたなら、すんなり他人に靡いて付いていくことなどあるまい。元の恋人との間に何か不満でもあったか……最初から愛してなどいないからあっさり捨てたのだろう。浮気や不倫をする者というのはそういうものだ。博愛主義だとでも言うなら別かもしれんが、君の先祖は違うだろうな」
例えるならギーシュは前者なのかもしれないとスパーダは感じていた。
彼は確かに二股をかけてはいたが、元の恋人らしいモンモランシーへの愛情自体は薄れていないと見ている。
事実、決闘後に彼は自分を介抱してくれた彼女に言い寄っていたのだ。モンモランシー自身はつんと澄ました態度であしらっていたがまんざらでもなさそうだった。
「それではたとえ恋人を奪われなかったとしても、長続きはしなかっただろうな。むしろ別れて正解だったかもしれん」
「そ……そこまで言わなくたって……」
恋人を寝取ったキュルケの先祖自体は悪いのに、自分の先祖のことまで責められているようでルイズは俯いてしまう。
本当はどういう理由で自分のご先祖様の恋人や婚約者、妻達は離れていったのかさっぱり分からない。
「だが少なくとも君の両親は違う。お互いを愛し合い信じているからこそ、他者に靡くこともなかったということだ。君の両親の愛は間違いなく本物だな」
ルイズは目を丸くしながら呆然としていた。
まさか自分の両親をここまで認めてくれるなんて思いもしなかったのだから。家族が認められたことが嬉しく、自然と顔を綻ばせてしまう。
そして何より、パートナーとなってくれたスパーダ自身もキュルケに靡くことなく共にいてくれることが喜ばしいことだった。
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