魔剣異聞録~The Legendary Dark Slayer/Zero   作:月に吠えるもの

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Mission 34 <破壊者、降臨> 後編

王都トリスタニアにアルビオンからの宣戦布告の報が届いてすぐ、城下にもこの一大事が知れ渡っていた。

途端に城下町は騒然となり、市民達は恐怖と不安、混乱に陥る。

アルビオンとは不可侵条約を結んでいたのではないのか。国内は戦争の準備など整っていないのにどうするのか。アルビオンはこのトリスタニアにまで攻めてくるのか。

そして、王宮はアルビオンにどのような対応をこれから取るのか。アンリエッタ姫殿下の婚儀が一体どうなったというのか。

小国であるトリステインにとってアルビオンの戦艦がここトリスタニアまで攻めてくるのも時間の問題だ、と誰かが騒ぎ立てることで市民達の不安と恐怖が煽られる。

平和な日常を送っていたはずの市民達は一瞬にしてパニックに直面していた。

だが所詮は平民に過ぎない彼らにできることなどなく、ただ慌てふためき続けるだけである。

「戦争? 戦争が起きたの?」

「テファは心配しなくて良いよ」

市民達が騒然とするブルドンネ街の中、ロングビル=マチルダは不安に狼狽するティファニアの肩を抱いてやった。

数日後にゲルマニアで行われる予定であったアンリエッタ王女の結婚式。

その王女がこれから馬車に乗って出発するはずだったので、せっかくだからティファニアと一緒に見送ってやろうかと思ってマチルダはこのトリスタニアを訪れたのである。

ティファニアも王女がどういう人物なのか期待していたのだが……。この様子では婚儀どころの話ではないだろう。

「とにかく、今日はもう修道院で大人しくしてなさい」

「マチルダ姉さんはどうするの?」

「大丈夫。テファがそんなに心配する必要なんてないから」

ティファニアの肩を抱きながらチクトンネ街の修道院を目指すマチルダは密かにほくそ笑んでいた。

アルビオンが……レコン・キスタがいよいよ攻めてきた。スパーダは明日の日食の日に攻めてくるかもしれないと言っていたが、一日程度の誤差など何ら問題は無い。

あいつらはマチルダから、ティファニアから大切なものを奪っていった。

レコン・キスタが滅ぼしたアルビオン王家により身分と家族を、そして今度はそのレコン・キスタの手によってこれまでマチルダが守ってきた孤児達の命を奪われたのだ。

彼らの生活費を稼ぐために〝土くれのフーケ〟という盗賊に身をやつし、貴族達への復讐を兼ねて犯罪行為に手を染めてまで守ってきたものを、奴らは容赦なく奪っていった。

(くそっ……あいつら……)

思い出したくもないのに、マチルダの頭の中では未だ子供達の末路が呼び起こされる。

 

――妖魔や亜人の細胞を組み込むことで、我々は人を超える天使の力を得られるのだ。

 

――やはり、こんな子供を相手に儀式を行っても体も精神も耐えられないみたいだな。

 

――見ろ。もう人としての意識も持たない、ただの血に飢えた化け物だ。

 

――こんな役に立たないガラクタどもはな、こうして処分してしまえば良いのさ。

 

悪魔の酷薄な笑みと言葉。子供達の変わり果てた姿。

ぎり、とマチルダは唇を噛み締め、苦い表情を浮かべていた。

(奴ら……絶対に許さないよ)

悪魔のような所業に手を染め、自分達を苦しめ大切なものを奪い去っていったレコン・キスタへの復讐。それがマチルダの新たなる杖を振るう理由。

土くれのフーケを敵に回せばどうなるか、今こそ奴らに思い知らせてやる。

(そろそろ借りも返さないといけないしね)

そして、自分達に何度も救いの手を差し伸べてくれた、人の心を宿す伝説の悪魔、魔剣士スパーダ。

彼は明日の日食にこの世界に現れるという、悪魔達を迎え撃とうとしているという。

現在、レコン・キスタに侵攻されているタルブへと昨日から赴いているそうなので、そこで剣を振るって戦うであろう彼の力になることができる。

そろそろ自分達を助けてくれた恩に報いなければマチルダ・オブ・サウスゴータの、人間としての名折れだ。

 

 

アルビオンからの宣戦布告より数時間後の午後。

アンリエッタ王女による陣頭指揮の元、タルブに陣を張ったアルビオン軍を迎え撃つための王軍が編成されていた。

主な構成は状況を既に把握しアンリエッタの呼びかけで即座に召集した、三種の幻獣を駆る近衛の魔法衛士隊。

さらに彼らからの連絡を受け、竜騎士隊や城下に散らばった王軍の各連隊も直ちに召集されていた。

つまるところ戦う意志を持つ者、そしてトリステイン王家に心から忠誠を誓う者達が此度の戦へと赴くことになったのである。

しかし、如何せん急ごしらえでかき集められた軍隊であるためにその兵力はわずか2000程度にしかならない。

元々、戦争の準備を整えていなかったがためにトリステイン王国が配備できる兵力はこれで精一杯だった。

おまけにメルカトール号を始めとする主力艦隊を失い、制空権をアルビオンに完全に奪われてしまったことも致命的な痛手であった。

 

軍事同盟の盟約に基づいてゲルマニアへ軍の派遣を要請したものの先陣が到着するのは三週間後などという答えが返ってきた。

彼らはトリステインを見捨てる気なのだろう。いくら軍事同盟を結んだとはいえ小国のトリステインへの加勢のためだけに戦力を失いたくはないということだ。

もっとも、アンリエッタ曰く「ならばそれで結構。ゲルマニア皇帝との結婚は無期延期とします」と強気に返していたのだが。

 

「姫殿下の輿入れが、まさかこんなことになるとはな……」

戦争が始まったことによる混乱が続くトリスタニア城下のチクトンネ街の大通りを進む金髪の女剣士。

平民出の軍人であるアニエスの今日の仕事は、アンリエッタ王女とゲルマニア皇帝の結婚式場の警備のはずであった。

宮廷の貴族達にとって、メイジではない平民でしかないアニエスのような人間は正直邪魔者に過ぎない。

 

『下賎な平民ごときに何ができる』

『剣しか振れない平民にはちょうど良い似合いの仕事だ』

 

そうこき下ろされ、嘲笑われる彼女達は必要な時だけ呼び出され、しかもメイジ達にとっては物足りない、もしくは厄介事でしかない仕事を押し付けられてばかりだった。

それはほとんどはした金で雇われ使い捨てられる傭兵のような扱いに等しい。

そして貴族達が与えた仕事で不始末が起きると、彼らは口々にこう吐き捨てる。

 

『だから平民など役に立たないのだ』

 

かといってその仕事にメイジ達が割り当てられることはなく、平民である彼女達に任され続ける。

結局は保身が大事である多くの貴族達にとっては些細な失態で不名誉を負いたくないがための矛盾に満ちた意識と行為であった。

貴族達のそんな考えなど平民のアニエスにとってはどうでも良いことなのだが。

「戦支度くらいはしないとな」

やがてアニエスが辿り着いたのは、一軒の建物。そこは一階が小麦粉などの穀粉を取り扱っている店であった。

店主であるふくよかな中年女性が現れたアニエスの姿に目を丸くする。

「おや、アニエスさんじゃありませんか!? 今日は仕事があるって……」

「忘れ物を取りに来ただけだ」

そう言いながら、アニエスは店の奥へと入っていき、階段を上がっていく。彼女はこの建物の二階の一部屋を借りているのだ。

部屋に入ると、アニエスは机の上に置いてあったペリ卿特製の対怪物・悪魔用のグレネードランチャーを手にする。

そして同じく机に置かれているベルトを腰に身に着ける。そのベルトの周りには、このランチャーに装填される砲弾が10個、並べられるように固定されている。

婚儀の警備にこのような代物を持っていくことができなかったために今日は使わない予定だったのだが、戦となれば遠慮も配慮も必要あるまい。

準備を整えたアニエスは部屋を後にし、建物の外へと出ていく。店の主人は彼女が完全武装して出てきたのを目にして息を呑んでいた。

(お前も存分に振るえそうだな)

馬に乗るため駅に向けて大通りを歩くアニエスは背負っている大剣・アラストルの柄に手をかける。

この稲妻の魔剣は屈強の剣士であるアニエスに更なる力を与えてくれるだけでなく、その命を守ろうとしてくれていた。

力ある強者に大いなる加護を与えるアラストルは、もはやアニエスにとっては無くてはならない相棒といっても過言ではない。

故に今回の戦でもその刃に宿る力を全力で引き出してやろうと闘志を燃やしていた。

「アニエス殿!」

ブルドンネ街入り口の駅に到着すると、そこではアニエスと同じ装いをしている20名弱の女戦士達が馬に乗り込んでいた。

全員が腰に剣と短銃を携え、さらにはマスケット銃などを革帯で肩に吊るして武装している。

彼女達は今日、アニエスと共に本来婚儀の警備を行うはずであった同僚達であり、彼女が配属されている平民で構成された一小隊である。

同じ女性ではあるがアニエスと同じく男などには負けない気迫と苛烈さを持ち、熟達した腕前を持つ戦士ばかりだ。

もっとも貴族達にとってはメイジにも劣る弱小集団だと見下されているのであるが。

「既に各連隊はアンリエッタ王女の率いる本隊と共に行軍し、タルブへと向かったそうです」

「よし。我々もすぐに合流する。敵はアルビオンの兵や軍艦だけではない。決して気を抜くなよ!」

『はっ!!』

馬に乗り込んだアニエスから檄を飛ばされ、他の女戦士達もそれに答えて返礼した。

剣と銃を武器にして戦う彼女達は、これからメイジ達でさえ味わったことのない戦いの中に飛び込むことになる。

 

 

 

 

アンリエッタ王女が率いる2000の軍隊が出陣し始めた頃、タルブの草原では熾烈な戦いが続いていた。

タルブの領主、アストン伯が防衛のために出向いた90名弱の兵達は上空に停泊している戦艦から地上に降り立っていくアルビオンの兵達へと突撃していた。

侵攻拠点とするには最適な場所であるタルブの草原ではあったものの、上陸を開始したばかりのアルビオンの地上部隊はまだ戦闘準備そのものが整っていないために

その軍勢をまともに相手をするのは厄介なことである。彼らはタルブ伯の領軍からの突撃に押され気味であった。

本来ならばアルビオン産の火竜に騎乗した竜騎士達が空から地上部隊の援護を行えば良いのだが、彼らにとっては予想外の事態が起きているのだ。

「生意気な小娘どもめ!」

火竜に搭乗している竜騎兵の一人が舌打ちをし、呻いた。

それはタルブ村上空であるこの空域を飛行している他の竜騎士達とて同じである。

「たった一騎だぞ! 我らがあんな子供ごときに……!」

彼らが忌々しそうに睨んでいたのは、空域を飛び回る一匹の風竜。

初めはたった一騎だということで舐めてかかった竜騎兵達であったが、その侮りこそが彼らの誤りだったのだ。

風竜の吐くブレスは攻撃力こそ低いものの火竜よりも速度に優れるために、火竜のブレスも彼らの魔法も中々当てることができない。

作戦開始から姿を現していた自軍勢である異形の魔物達も、ことごとく屠られていっている。

 

的の大きい竜を狙い、当たりさえすればそれだけで搭乗者もろとも地上へ墜落する。火竜の火炎のブレスであれば翼ごと搭乗者を焼いてしまうこともできるのだ。

「何故、効かん!?」

だが、運良く当てることができたとしても風竜の体は一瞬、赤く発光するのみでまるで傷がつかない。

搭乗者の青髪のメイジが杖を振ると、風の障壁によって阻まれて攻撃が届かない。

おまけにその竜に乗っているのは、トリステインの竜騎士などではなかった。

……ただのメイジの学生。それも三人の女だ。

 

「そろそろ引き上げ時じゃない?」

アルビオンの竜騎士達の攻撃をかわし続けていたシルフィードの上でキュルケが呟く。

横から突っ込んできたブラッドゴイルにファイヤー・ボールによる火球をぶつけて石化させ、地上へと落としていた。

「何言ってるのよ! まだいけるわ! このままあの竜騎士達を倒しちゃっても……」

「村人達の避難は済んでいる。これ以上、彼らを引き付ける必要は無い」

杖を振るって自分達を取り囲む三匹のベルゼバブを『炸裂』の魔法で吹き飛ばしながら意気込むルイズであったが、タバサがちらりと地上へ視線をやって冷静に呟いていた。

竜騎士達が放ってくる魔法や火竜のブレスを避けきれないため、エア・シールドによって攻撃をできるだけ通さないようにしているのだ。

シルフィードに当たってしまっても、スパーダから託されていたスメルオブフィアーによる結界を先ほど施していたために万が一、何回かは被弾しても大丈夫である。

「で、でも……あたし達が逃げたらこいつらもあっちへ行っちゃうわよ?」

納得できないルイズが指すのは、草原に降り立ったアルビオン軍と戦っているタルブ領主の軍勢である。

タルブの村人達を逃がすために時間稼ぎの陽動を行っていた結果、つゆ払いのために村を焼いていた竜騎士達はそちらへと急行できないでいたのだ。

このまま陽動を続けていれば、抗戦している領主の軍勢が地上部隊を何とかしてくれるとルイズは思っていたのだが……。

「残念だけど、この竜騎士達がいかなくても彼らは全滅しちゃうわ。見なさいよ」

キュルケが空に停泊し続けている無数の軍艦を指し示す。

「100にも満たない軍勢に、その何倍の数の兵達がどんどん降りてきてるのよ? あれじゃあとてもじゃないけど、勝ち目がないわ」

初めは善戦していた領軍であったが、次第に数を増やしていく敵軍に囲まれて劣勢になっていく。全滅するのは時間の問題であるのは目に見えていた。

だからといって、自分達が救援に向かえば二の舞になるだろう。おまけに十数隻もの軍艦が空から地上を砲撃してくるのだ。自殺行為もいい所である。

「とにかく、一度例の門がある広場へ戻りましょう。もしかしたら、ダーリンが戻ってきてるかもしれないし」

「退却」

頷いたタバサが短く呟くと、竜騎士の魔法をかわしたシルフィードが大きく翼をはばたかせ、戦闘空域を離脱するべく反転する。

 

「逃がしはせんぞ!」

「我らを敵に回して生きて帰れると思うか!」

当然、竜騎士達は自分達の敵である彼女達を易々と帰そうとはしてくれない。

何より、ハルケギニア最強と言われるアルビオン竜騎士隊のプライドもあり、おめおめと敵を討ち漏らすなど屈辱でしかないのである。

「しつこいわね!」

背後から次々と魔法や火竜のブレスが飛んでくるのをシルフィードは必死にかわしている。

風竜とはいえ幼生であるシルフィードは全速力を持ってしても、良くて火竜よりも僅かに速いくらいのスピードしか出せない。故に中々振り切ることができなかった。

後ろを向いたキュルケは杖から炎の渦を放って竜騎士達を牽制した。左右に避ける竜騎士達の攻撃と追走が一時的に止む。

「ウィンディ・アイシクル」

さらにタバサも氷の矢を拡散させることで回避に徹する竜騎士達が追撃を再開できないようにしていた。

その間にシルフィードは彼らの攻撃の射程外へと逃げることに成功する。

「バーストっ!」

僅かに残ったベルゼバブやブラッドゴイル達はしぶとく追いかけてくるが、ルイズが放った爆発による爆風の中へと突っ込み、そのまま地上へと墜落していく。

 

三人を乗せたシルフィードは一度、タルブ近郊の空域から外へと向かった。

追っ手が来ないことを確認すると、そこから40メイルほど低空を飛行しつつ大きく迂回して南側からタルブへと戻っていく。

どうやら竜騎士達は地上部隊の援護に向かったようだ。領軍は……考えるまでもない。

「降下」

広場のある森の上へとやってきて、降下を始めるシルフィード。

ルイズはその間、タルブの制圧を推し進めているアルビオン軍を口惜しそうに眺めていた。

(何よ……今に見てなさいよ……)

スパーダが戻ってきたら、彼の力を借りて必ずアルビオンの軍艦を叩き落してやることをルイズは心に固く誓っていた。

悪魔なんかの力を借りてアルビオン王家を滅ぼし、あまつさえこのトリステインを侵略しようとしている恥知らずな輩には鉄槌を下さなければならない。

それを自分の手で果たしてやらねば、ルイズの心から湧き出る怒りは収まりそうもない。

「まだ戻ってきてないのね……」

シルフィードは広場の中央に着陸するが、相変わらず地獄門に開けられた次元の裂け目からは瘴気がこちら側に流れ込んでくるのみだった。

そして、石版の周りではスパーダが従え、留守を任せている悪魔達が静かに佇んでいる。

ゲリュオンは荒々しく息を吐きながら蹄をその場で踏み鳴らし続けている。

無数のコウモリ達を侍らすネヴァンはケルベロスのヌンチャクの輪に腕を通し、くるくると回して弄んでいた。

その隣でネヴァンの姿を写し取っていたドッペルゲンガーは動きを真似ている。

みんな退屈そうな様子であったが、関わり合いになるのはよそう。

「ま、仕方ないわ。このままここで待ちましょ」

スパーダが帰還していないことを残念がるルイズにキュルケが言う。

明日の日食までもはや時間が無い。それどころかアルビオンが先に攻めてきたという最悪の状況だ。

本当にスパーダが日食の時までに帰ってくるのか、ルイズは少し不安になっていた。

 

 

 

 

タルブの村人達はアルビオンの戦艦がトリステインの艦隊を全滅させてしまったという光景を陰で目にした時、何か恐ろしいことが起きていると理解はしていた。

戦争が起きたのか? だがしかし、アルビオンとは不可侵条約を結んでいるはずだ。では、今目の前で起きたのは一体なんだ? 

不安と困惑が彼らの心に渦巻き、アルビオンの艦隊がこのタルブへと向かっている間もただじっと陰で見ていることしかできなかった。

あまりの異常な事態に、彼らは今すぐすべきことを失念していたのである。

そんな村人達を動かしたのは、一つの叫び。

 

「み ん な 逃 げ て え え え ぇ ぇ ぇ っ ! !」

 

村中に突如響き渡った、少女の絶叫。

恐怖と緊張が入り混じりながらも、力をふりしぼって外へと吐き出された声は家の中に引っ込んでいた村人達の耳に届いていた。

 

――逃げろ。

 

たったそれだけの言葉が、失念していた村人達を突き動かした。

アルビオンの艦隊が上空に停泊する前に聞き届けられた必死の叫びのおかげで、村が焼き払われる前に全ての者達がその外へと逃げることができたのだった。

「お姉ちゃん、怖いよぉ」

「えぇ~ん!」

村人達を逃がした叫びを発していたシエスタもまた、泣きじゃくる幼い弟妹達を連れて南の森へと向かって走っていた。

父は家にいる母を連れに戻り、我が子達をいち早く安全な場所に逃げるように命じていたのだ。

「大丈夫……大丈夫だから……」

弟妹達をなだめるシエスタの顔は、真っ青だった。

本当はシエスタ自身も、恐怖と緊張でその身を震わせているままだったのだ。激しく高鳴る心臓も、息苦しさも未だ収まる様子がない。

ちらりと肩越しに空を見上げると、そこには目を背けたくなるほどの恐ろしい光景が広がっていた。

(悪魔……)

タルブ上空に停泊する軍艦から次々と飛び上がる竜。だが、それよりももっと恐ろしいものが目に入る。

竜達と共に空を飛び交う異形の影。それはシエスタが密かに存在を感じ取っていた血に飢えた闇の眷属達だった。

気配を感じるだけで苦しくなるというのに、直視をすれば余計にひどくなる。

……とにかく、今は逃げるしかない。

シエスタはもはや振り返らずに弟妹達を連れ、他の村人達と共に南の森を目指して駆けていった。

 

 

 

 

紫に妖しく輝く雲海が一面に、どこまでも広がっている。

頭上にあるのは空ではなく闇。ただそれだけだ。星も太陽も、月さえもないこの混沌の世界の空に広がるのは、ほとんどが禍々しい暗雲である。

だが魔界の奈落の底、深淵の奥深くともなるとその暗雲はおろか空さえも存在しない領域もあるのだ。

この領域へと足を運ぶのは、実に1500年以上も久しい。

雲海の中から突き出るように伸びているのは、切り立った細い断崖絶壁がいくつも集まることで出来上がった禿山である。

その高さは優に数千メイルにも達し、雲海と闇だけが広がる空間を地平線の彼方までどこまでも見渡すことができる。

ここには道などというものが存在せず、岩場を飛び越えることでしか登ることのできない険しい場所だ。

スパーダはその禿山の岩場を飛び移っていくことで、難なくその頂へと上がっていた。

「やっと頂上だな! しっかし、とんでもねえ場所だな。火竜山脈なんか目でもねえぜ」

左腕のデルフが歓声を上げる。光で満ちた空間から一転した闇の空間は、まさしく魔界と呼ぶに相応しい過酷な所だ。

かつて始祖ブリミルが迷い込み、すぐに逃げ帰ってきた所に比べれば天と地以上もの差である。

スパーダは禿山の頂を歩き、前へと進んでいった。この領域に悪魔達の気配はない。

高低差が激しく複雑な地形であった頂の上を歩いていると、その先に何かが見えだす。

「何だ、ありゃあ?」

デルフが怪訝そうに声を上げた。

禿山の頂の一角、岩に突き立てられているものがあった。スパーダは真っ直ぐと、そこへ近づいていく。

「これが、相棒の忘れ物なのか?」

「ああ」

目の前に立ち、見下ろすのは一振りの両刃の長剣であった。

リベリオンより一回り小さいそれは剣首には三面の髑髏の意匠が施されており、刃幅もリベリオン並に広いのだが剣先に沿って狭く、鋭くなるのが異なっている。

一切の無駄がない造形はリベリオンほどの重厚さや迫力はないものの、逆にリベリオン以上に研ぎ澄まされ洗練された鋭さと威圧感を備えていた。

そのような威厳に満ちた長剣が岩にしっかりと突き立てられていた。

まるで御伽噺にでも出てきそうな伝説の剣が封印されているような光景である。

「こりゃあ、ただの剣じゃねえか。こんなもんを取ってくるために里帰りしたっていうのかよ」

デルフが拍子抜けした様子で呟いていた。かつては剣であった彼としてはそこらの店にある品と大して変わらないように見えているようだ。

事実、〝今〟のこの剣からは何の魔力も感じられない。愛用のリベリオンや閻魔刀でさえ振るわずとも魔力を纏っているというのに。

だがそれは表面上に過ぎない。この剣は現在、完全に封印されいわば仮死状態になっているのだ。

 

(久しいな……)

スパーダは目の前にある長剣――1500年以上ぶりに、己の分身を感慨深げに見つめていた。

かつてスパーダが魔界と決別する前に振るっていたのも剣であった。

魔剣士スパーダを象徴するものはやはり剣であり、様々な魔界の剣を手にして振るったこともある。

だがスパーダが最も長きに渡って使いこなしていた剣はたった一振りのみ。

それが目の前にあるこの長剣。リベリオンや閻魔刀と同じくスパーダの魂から作り出された、彼自身の力が写し取られた化身。

その剣を手に魔界の抗争を生き残り、そして魔帝ムンドゥスの人間界侵攻を食い止めたのだ。

だが、この剣は現世に留まる前、魔界の奥深くの領域であるこの場所へと封印した。

己の強大過ぎる力の大半を、この分身へと移すことで人間界で活動するのに支障が出ないようにしたのだ。

本来ならばそれでもう再び使うことは無いと思っていたのだが……。

 

(今一度、私と共に。我が魂の化身よ)

スパーダは胸元のスカーフからアミュレットを外し、剣の真上でかざしていた。

銀と金、二面を持つ縁の中央には血のような真紅に輝く宝玉が淡い光を発し始める。

やがてアミュレット全体が赤い光に包まれると、スパーダの手から離れてひとりでに長剣の中へと吸い込まれていった。

「おおっ!? な、何だぁ!?」

その途端、長剣の全体から夥しいほどの魔力が紫のオーラとなって溢れ出し、炎のように揺らめいていた。

今まで何の魔力も感じられなかった剣から、今度はスパーダもはっきりと分かるほどの強大な魔力が満ち溢れている。

アミュレットは封印を解除するための『鍵』の役目を果たしているのだ。

 

剣の柄を両手でしっかりと握り締める。1500年以上ぶりに手にする分身の手ざわりはすぐにスパーダの手に馴染んだ。

それを一気に引き抜いた途端、岩場が突如として大きく揺れだした。

幾多に集まって禿山を成している切り立った岩場が突如として崩れだし、スパーダが立っている岩場を中心にして放射状に弾けていく。

遥か下の雲海へと落ち、そしてせり上がりだしていた。

「我が魂にして、仮初めの化身よ。今一度、我と共に」

スパーダは己の分身――フォースエッジを天に向かって力強く掲げた。

溢れ出る魔力はその元であるスパーダの全身に浸透していき、彼の全身を紫のオーラが包み込んでいた。

フォースエッジと現在のスパーダの身に宿る魔力が融合し、その力はさらに高まっていく。

 

「とほほ……何てこった。こんなすげえ魔剣があっただなんて。俺の出る幕じゃねえ。完敗だ……完敗だよ……」

フォースエッジから流れ込んでくる魔力を感じ取り、デルフはさめざめと泣き出していた。

かつては伝説の剣であった彼は、このフォースエッジが自分を軽く凌駕する伝説の剣であると認めざるを得なかった。

これだけ強大な力を宿した魔剣など、ハルケギニアのどこを探しても見つかりはしないだろう。

故に同じ剣として、敗北を認めなければならなかったのだ。

 

スパーダはゆっくりと正面にフォースエッジを構える。未だ溢れ出る魔力が紫のオーラとなって纏わりついている。

リベリオン以上に研ぎ澄まされ、洗練された白刃が静かに煌く。

「フンッ!!」

掛け声と共に袈裟へと力強くなぎ払った。

刃に纏わりつく魔力が剣圧となり、離れた岩場へと直撃する。

フォースエッジの一撃を食らった岩場は、粉々に砕け散ってしまった。

(強すぎるな……)

フォースエッジをゆっくりと前に降ろすスパーダは苦い顔を浮かべていた。

分身であるこのフォースエッジはスパーダの魂そのものであるが、この状態はまだ真の力を発揮しているわけではない。

この状態で発揮できる力はせいぜい全体の1/3ほどのものでしかないが、1500年の間に新たに高まった今のスパーダ自身が持つ魔力と合わさることで全盛期だった頃の半分以上のものとなっていたのだ。

故に、完全に力を引き出してしまうのはやめておいた方が良さそうだ。そうなると全盛期のスパーダの力を超えることになってしまう。

かつてのスパーダをも超えたその力ならば魔帝ムンドゥス級の強大な悪魔を相手にしても不足はしないだろうが……その力を発揮するのは最後の切り札とした方が良いだろう。

ましてやハルケギニアでその力を引き出し続ければ安定を崩すどころかハルケギニアそのものを滅ぼしかねないのだ。

 

 

 

 

アルビオンからの宣戦布告、そしてタルブへの侵攻が始まってから数時間が過ぎた午後。

アンリエッタ王女を筆頭とした2000の兵によるトリステイン王軍はアルビオン軍によって占領されたタルブへ向けて進軍していた。

本来ならば婚儀に相応しい純白のウェディングドレスを身に纏い、王族のみに騎乗が許される一角の聖獣ユニコーンに引かれる馬車に乗ってゲルマニアへと向かうはずだった。

だが今となってはそんな晴れやかな状態ではない。

アンリエッタはウェディングドレスを「動きにくい」と吐き棄てることで乱暴に脱ぎ捨て、今は物々しい戦装束に身を包んでいる。

馬車に繋がれていた一頭のユニコーンに跨った彼女は、真っ先に集まった近衛の魔法衛士隊を含めた2000の兵達を率い、戦地へ向けて街道を駆けていたのだ。

そこにはもう、多くの高級貴族達が暗喩し、ゲルマニアとの軍事同盟を結ぶための生贄に過ぎなかった飾りの姫の姿はどこにもない。

「殿下。竜騎士隊からの報告でタルブ領主、アストン伯が戦死されたとのことです」

「そうですか……」

隣を走る馬に乗るマザリーニからの言葉にアンリエッタの顔が僅かに曇った。

タルブへ向けて進軍を続けていく中、偵察に向かっていた竜騎士達から戦地の情報が舞い込んでくるのだ。

アルビオン軍は防衛のために出向いたアストン伯の領軍を蹴散らし、タルブ草原の占領を完了させ、現在は上陸した兵が陣を張っているという。

報告によればその兵力はおよそ3000。戦争の準備が整っておらず急ごしらえでかき集められたトリステイン軍の実に1.5倍の兵力差だ。

おまけに巨艦『レキシントン号』を筆頭にした十数隻もの艦隊がタルブの上空に堂々と留まっているのだ。

トリステインの主力艦隊は既に全滅してしまっているのは相当な痛手である。敵軍の艦隊は空から容赦なく地上を這い回る自分達を砲撃してくるであろう。

明らかにトリステインには不利な状況が揃っていた。地上の部隊には対抗できたとしても、空という地の利を得た艦隊を落とすのはあまりにも困難だ。

トリステインの勝ち目は限りなく薄い。

 

(それでも、やるしかないのよ)

アンリエッタはこれから生まれて初めて目にすることになるであろう『敵』の姿を思い浮かべ、密かに打ち震えた。

勇気を振り絞り勢い余って出撃したとはいえ、アンリエッタとて何も戦いに全く恐怖を感じないわけではないのである。

だが、その恐怖と震えを周りに悟られるわけにはいかない。

この命に代えても、タルブを奪還してみせる。出陣の際、母と生きているかも分からぬウェールズへと誓ったのだから。

騎乗するユニコーンを走らせながら、アンリエッタはそっと目を伏せて己を落ち着かせる。

「マザリーニ枢機卿。アルビオン軍と交戦したという魔法学院の生徒達については、何か報せは届いておりますか」

「はい。報告によればアルビオンの竜騎士隊と交戦をしたそうですが、戦線を離脱して森の中へと身を隠したそうですな。

その者達が竜騎士を引き付けてくれたおかげで、アストン伯の軍勢も敗れながらもアルビオン軍に対して多少なりとも損害を与えられたようです」

その報せを受け、アンリエッタは安堵の吐息をそっと漏らしていた。

幼き日からの無二の親友が生きてくれていることに心から安心する。彼女の勇気ある行動を知らねば、自分はこうして兵を率いて戦地へ赴くことなどなかったのだ。

アンリエッタに勇気を与えてくれた親友は、誰に頼まれるでも命令されるでもなく、自らの意思で戦地へと赴き行動を起こした。

誰かに命令され、求められたから行動を起こしてからでは全てが遅い。苦しむ民の姿を目にし、すぐに自ら行動を起こせる者こそが真の貴族、そして王族の姿。

(ルイズ。あなたが貴族として勇敢に戦っていたのであれば、わたしもまた王族として勇敢に戦わねばならないわね)

自分に勇気を与えてくれた桃色の髪の幼馴染みへと思いを馳せ、アンリエッタはユニコーンを走らせた。

王女の率いる2000の兵達は、傾いてきた日の光を受けながらタルブへ向けて街道を突き進んでいく。

 

トリステイン王軍のタルブへの到着は、明朝を予定としていた。

 

 

 

 

アルビオン軍のほぼ一方的な奇襲によってトリステイン艦隊とタルブ領軍は全滅させられ、タルブの草原は数時間と経たぬ内に占領されていた。

既に夕刻となり、徐々に日が沈みかけていく。タルブ地方の空はオレンジ色に染まり、西の空には見事な夕焼けが広がっている。

広大なタルブの草原から望むことができるであろうその風景は見る者の心を打つであろうが、今となってはそれを楽しもうとする者は誰もいない。

竜騎士によるつゆ払いによって火をかけられたタルブの村は未だに火災が続いており、村人達が住まっていた家々も、タルブの名産として知られ良質なブドウが採れる畑も容赦なく炎に包まれていた。

地上に降下したアルビオン軍は予定よりやや遅れはしたものの、占領した草原に陣を張っていた。

アストン伯率いるタルブ領軍による意外な抗戦によって地上部隊は打撃を被ったものの、その損害は200程度と3000の兵からしてみればかすり傷にしかならない。

100にも満たない兵力であった領軍がその30倍もの戦力である大部隊を相手に一矢報いたのは称賛に値するかもしれないが。

もっとも、いくら地上部隊が損害を受けたとしても、主力である10隻以上もの戦艦は無傷。地の利を押さえているアルビオン軍の優位に変わりはない。

 

「本当に腹が立つわ! 堂々と居座っちゃって!」

「しょうがないでしょ。戦争ってのはそういうものなんだから」

南の森の小さな広場に響くルイズの癇癪。それを宥めつつもあっけらかんと答えるキュルケ。

タバサは地に伏せているシルフィードに寄りかかって座りながら、ちらりと空へ視線をやったが、すぐに持っていた本に戻していた。

彼女達が見上げる夕空の中には、無数のアルビオンの軍艦がシルエットとなって浮かび上がっている。それを目にする度にルイズは悔しそうな顔をしながら喚いていた。

あんな条約破りで、ハルケギニアを脅かそうとする悪魔と結託なんかしているレコン・キスタに一泡を吹かせてやりたいというのに何もできないだなんて。

「屈辱だわ……」

せっかくスパーダのおかげで自分だけの新しい力を見出し、それを鍛えてきたというのに、あんな戦艦が相手ではそれはまるで役に立たない。

人間や力の弱い悪魔が相手ならば一以上の結果が出せるのに、相手が悪すぎて自分の力はゼロでしかないのだ。

 

ゼロ……その単語が浮かんだ途端、ルイズはとてつもない屈辱と歯がゆさに肩を震わせる。

もう自分はゼロではないというのに、相手が悪すぎるというだけでゼロに戻ってしまうなんて……これ以上の悔しさはない。

こうして空に浮かぶ軍艦を見上げていると、軍艦にさえ「お前の力は無力だ」などと言われているように感じられ、彼女の神経を逆撫でる。

「えいっ!」

八つ当たりでそこらに転がっていた小石に『炸裂』の魔法を放つ。ポンッ、微かに花火みたいに弾けて小石を弾き飛ばす。

「無駄撃ちしてると精神力が無くなっちゃうわよ」

「分かってるわ」

キュルケの言葉にルイズは拗ねながら杖をしまうと膝を抱え、顔を埋めていた。

 

もうじき日没となり、すぐに夜が訪れるだろう。キュルケはそこらから集めてきた焚き木に発火の魔法をかけ、火を点けていた。

一行は焚き火の傍で座り込み、暖を取る。明日の戦いに備え、心身ともに休ませなければならない。

特に精神力はメイジが魔法を発動させるために最も必要な要素なのだ。

「まだ戻ってこないわねぇ。ダーリン」

地獄門が魔界への扉を開き続ける中、ルイズ達はこの広場でスパーダが帰還してくるのを待ち続けていたのだが、未だスパーダが戻ってくる気配がない。

日が落ち、辺りが暗くなることで地獄門に開けられている次元の裂け目の光がより一層際立っており、どこか神秘的に見えなくもなかった。

とは言っても、相変わらずその裂け目からは魔界から瘴気がこちらに流れ込んでくるので近づくことはできないのだが。

「何で戻ってこないのよ? すぐに帰ってくるって約束したのに……」

虚しく開き続けるだけの魔界への入り口。その向こう側からスパーダが姿を現すのを待ち望み、ルイズはやきもきしながらじっと見つめ続ける。

それはまるで、親の帰りを家の入り口の前で待ち続けている寂しがりな子供のようである。

「焦ったってしょうがないわよ。まだ時間は残ってるんだから。その内にひょっこり帰ってくるわ」

楽観的に、常に前向きに物事を考えるキュルケはルイズのように極端に心配したりはしない。

それに対し、時が経つにつれてルイズの心を不安が襲ってくる。本当に、スパーダは戻ってくるのだろうか。

あの裂け目の向こう側に、スパーダの故郷が広がっている。あの裂け目に飛び込んで、彼を迎えに行きたい衝動に駆られたのも一度や二度ではない。

だが、結局ルイズは待ち続けることしかできなかった。ハルケギニア以上に過酷な世界であろう地獄に飛び込んで、人間である自分の力なんて何の役にも立たないだろう。

 

実に歯がゆい。実にもどかしい。実に虚しい。

たまらなくなって、ルイズは顔を膝に埋めたままいじけていた。

眠っている間に、もしかしたらキュルケの言うようにひょっこり戻ってきてくれているのかもしれない。でも、できれば自分が起きている間に戻ってきて欲しい。

戻ってきた彼と一緒に、伝説の魔剣士のパートナーに恥じないように、悪魔を倒し、レコン・キスタの侵略を食い止めてやりたい。

そんな様々な思いを次々と湧き上がらせていると。

 

――キャハハハハハ……。

 

不意に、鐘の音と共に不気味な笑い声が聞こえたような気がした。

がばりと咄嗟に顔を上げ、ルイズは辺りを見回す。杖を取り出し立ち上がると、きょろきょろと宵闇に包まれている広場のあらゆる場所へ視線を向けていた。

「どうかしたの? ルイズ。そんなに慌てて」

「あんた達、今の聞こえなかったの? 悪魔よ! 悪魔!!」

「悪魔達の気配はない。あれを除いては」

タバサが指したのは、地獄門の隅で静かに待機しているスパーダが留守を任せた悪魔達だ。

この宵闇の中でも彼らの姿はよく目立つ。蒼ざめた炎に包まれたゲリュオン、紫電を纏うネヴァンのシルエット。ドッペルゲンガーだけは闇と同化していて見えないが。

「はぁ!? あいつらのことじゃないわよ! あんた達だって今の音が聞こえなかったの!? あれは悪魔に間違いないわ!」

あくまで楽観的なキュルケ、ポーカーフェイスを崩さず否定するタバサにルイズは声を上げる。

ルイズの頭の中では不気味な笑い声が絶えず響いてきているのであるが、それが聞こえているのは当の本人だけであり、キュルケとタバサには何の音も聞こえてこないのだ。

全く状況が分からない二人は突然慌しくなったルイズの姿に首を傾げるのみ。

「あなた、ダーリンの帰りが待ちきれなくなっておかしくなっちゃった? 良い? 悪魔はいないの。音だって聞こえないし、気配も何も無いのよ。もうちょっと落ち着きなさいな」

「おかしいのはあんた達の耳の方でしょ!」

まるで取り合おうとしないキュルケにルイズは憤慨する。今でも絶えず悪魔達の笑い声が聞こえてくるというのに。

 

――スパーダ。

 

――スパーダ。

 

――スパーダ。

 

突然、頭に響いてきた怨嗟と憎悪に満ちたおぞましい悪魔の声。

ルイズのパートナーにして、伝説の魔剣士スパーダの名前。その名が聞こえると同時に、全く別の声が頭に響いてくる。

「おいおい、全部相手にする気か? ざっと100はいるぜ?」

それは紛れも無く、ここにいるはずの無いスパーダが篭手として所有しているはずであったデルフリンガーのものだった。

「今の内に慣らさねばならん」

 

「スパーダ?」

さらに、丸一日耳にすることはなかったパートナーであるスパーダの声まで聞こえてくる始末。

戻ってきてもいない彼らの声が聞こえてくることにルイズは狼狽した。

「っ!?」

「どうしたのよ? 本当に大丈夫?」

聞こえもしない悪魔達の声に慌てふためいていたルイズが今度はうずくまり、左目を押さえたり擦りだしたためにさすがのキュルケも心配になった。

「何よこれ? いきなり目がぼやけて……」

ルイズは自分の左目に映りだす光景が突如として真夏の陽炎のように揺らめき、歪みだしたことに困惑する。

やがて右目に映る宵闇に包まれた広場の光景とは別のものが、左目の視界に映り始めていた。

ぼんやりと徐々に変化していくその光景に集中するため、ルイズは右目を手で覆って視界を塞ぐ。

その間にも、頭の中では様々な声や音が響き続けていた。

 

――アッハハハハッ……。

 

――キャハハハハハ……。

 

――キャハハハハハ……。

 

次々と響き渡る不気味な笑い声、中には言葉で表せない奇妙な雄叫びまで混ざって響き渡る。はっきり言って、やかましい。

揺らめきつつも徐々に明確になってくる左目の視界に映りだしたのは、どことも知れぬ荒れ果てた風景であった。

宵闇で覆われたルイズ達のいる広場よりもやや明るかったが、それでもかなり薄暗い場所である。事実、空には重苦しい暗雲がひしめいていた。

そこはどこかの町の廃墟なのか、至る所に大小様々な瓦礫の山や丘が散在し地面になっているという、殺伐とした場所である。

朽ち果て倒壊した城らしき建物の壁には巨大な十字架が突き刺さっているなど、ハルケギニアではまず見られないであろう異様な光景だった。

(これって、もしかして……魔界なの?)

ルイズはその殺風景なものを目にし、目に映るこの光景が、スパーダの故郷である魔界であることを察していた。

以前に夢で目にした血の湖が広がっていた場所にも劣らない、恐ろしい風景である。やはり、魔界にはこんな殺風景な所しかないのだろうか。

(な、何よ!? 死神!?)

そして、その悪夢の風景の中にいたのは……もちろん悪魔だ。

奇妙な雄叫びや不気味な笑い声を上げ、黒い霧と共に瓦礫の山に次々と姿を現したのは大きな漆黒のローブを身に纏い、禍々しい巨大な鎌を手にするまさに死神と呼べる悪魔であった。

その巨体な死神の他にも、黒のボロ布を纏う痩せこけた背のかなり低い死神や、濁った緑のボロ布にトゲ付きの鉄球が付いた杖(スタッフ)を手にする死神など、種類も様々だ。

その総数は先ほどデルフの声が言ったように100にも上るだろう。

 

――キャハハハハハ……。

 

――キャハハハハハ……。

 

――キャハハハハハ……。

 

数は10にも満たないが、大きな死神達は絶えずよく響く不気味な笑い声を上げ続けている。

「かぁーっ! うるせえな! おい相棒! さっさと片付けちまおうぜ! 耳障りでたまんねえ!」

「一番うるさいのはお前だ。少し黙れ」

肝心のスパーダの姿が見えないと思ったら、ルイズの視界の左端から何かが飛び込んでくる。

「きゃっ!」

いきなり目の前に灰色のボロ布を纏った死神が二体現れたと思ったら、視界に飛び込んできたそれが死神の鎌を強引に奪い取り、鋭い回し蹴りが放たれて死神達をまとめて吹き飛ばす。

それは紛れも無く篭手のデルフリンガーを装備しているスパーダの左手と、上質な革の靴と紫のスラックスを身に着けたスパーダの右足だった。

鎌を奪い取った左手はそれを今しがた吹き飛ばした死神の一体へと放り投げた。ヒュンヒュンと音を立てながら回転し飛んでいった鎌は死神の顔面に突き刺さる。

茶色い血飛沫を散らし、死神は断末魔を上げながら溶けて消えていく。鎌も死神の消滅と共に砕け散っていた。

 

この視界と視点……もしかして、スパーダが目にしているものなのか? 

ルイズは固唾を飲んで、本来なら目を覆うべき悪夢の光景に食い入っていた。

「一体、どうしたっていうのかしら? ルイズったら」

ルイズがその光景に集中している中、キュルケはルイズの身に何が起きているのか分からず怪訝そうに彼女を見つめていた。

突然悲鳴を上げたり、「危ない!」と叫んだり……一体どうしたというのだろう? 

そんな中、ルイズの反応などを観察していたタバサはある結論へと達するに至る。

「たぶん、使い魔に与えられた能力。使い魔は主人の目となり、耳となる……」

実際にシルフィードと感覚の共有を行ったことのあるタバサがルイズの身に何が起きたのかを理解する。

「それじゃあ、ルイズはダーリンの見ているものが見えてるってことなのね」

「恐らくそう」

それを見ることはできるのはスパーダと使い魔の契約をし、パートナーとなったルイズだけ。一体、どのようなものが見えているのか気になる二人であったがこればかりはどうにもならなかった。

「っていうことは……あの様子からして、ダーリンは悪魔達と戦ってるみたいね」

興奮したあのルイズの反応からしてスパーダが今陥っている状況をある程度把握することができる。

間違いなく、彼は今魔界で悪魔達と一戦を交えているのだ。どんな悪魔とどのように戦っているのか、それを見ることができない二人は気になって仕方がない。

 

「わっわっわっ! 何!?」

死神達の集団を真正面から対面していた光景が突然、その真上から見下ろすものへと切り替わっていた。

空中で逆立ちにでもなっているのか、スパーダの体が視界の中に入らない。

スパーダは赤いオーラを宿したルーチェ、オンブラの二丁拳銃を真下に向けて高速で連射する。射撃の反動のためか、スパーダの体は少し浮き上がっているようだ。

豪雨のように降り注ぐ銃弾の嵐を頭上から受けて死神達は混乱している。

「きゃあ!」

くるん、と身を翻したらしいスパーダが瓦礫の地面に着地し、再び死神の集団を正面から対峙する形となっていた。

スパーダが目まぐるしく動くせいで、思わず吐き気を催すほどに酔ってしまいそうである。正直、スパーダのこの視点からでは何が起きたのかを正確に判断するのは困難だ。

死神達は手傷を負いながらもおぞましい声を上げながら迫ってくる。

 

不意にゴォン、と低い鐘の音が鳴り響いたと思ったら、いきなり目の前の空間が歪み大きな死神が鎌を正面で交差に振り回しながら突進してきたのだ。

「ひっ!」

本当はその場にいるはずもなく身の危険など無いにも関わらず、思わず恐怖に目を瞑った。

視界が闇に閉ざされた途端、キィン! と鋭い音が響き、死神の断末魔が轟く。

恐る恐るルイズが目を開けて見ると……そこには迫ってきたはずの死神が全身を中心から縦一閃に断ち割られていたのだ。

パックリと左右に分断され、茶色い血飛沫を撒き散らしながら死神は霞のように消滅する。

チャキン、と剣を静かに収める音が響く。どうやら、閻魔刀という刀で斬撃を繰り出したようだ。

スパーダの視点だとどのようなものが見えていたのか気になったが、見れなかった。目を閉じてしまったことを少し後悔する。

「フンッ!!」

スパーダの掛け声と共に、右端から剣が袈裟へと振り上げられる。力強く、豪快に振るわれたためにスパーダの腕と手にする剣がが霞んで見えた。

一振り――たったそれだけで嵐のような旋風が巻き起こり、死神達へと襲い掛かる。

スパーダが対峙していた100の死神達は皆、その剣風によって薙ぎ倒され、ズタボロに傷つけられて地に倒れ伏していた。

中には瓦礫に突き刺さり、下敷きになり、そのまま息絶え消滅するものまでいた。ほとんどの死神達が虫の息で、動くこともできないようである。

「すごい……」

ルイズは思わず息を呑む。剣をたった一振りしただけで敵の軍勢を軽く薙ぎ倒すその光景は痛快であり、同時に畏怖すら感じてしまう。

恐らく、あのリベリオンという剣を振るったのだろう。魔剣士スパーダの剣技ならばそれくらいのことなど容易いはずだ。

一番体の大きな死神達もかなりの傷を負っているが、それでも倒れるには至らず執拗にスパーダに迫ってくる。

 

――スパーダ……。

 

――スパーダ……。

 

――スパーダ……。

 

呪詛の言葉を呟きながら迫ってくる死神達。スパーダはぐるりと奴らを見回し、一瞥しているようだ。

リベリオンを片手で振り回しているのか、ヒュンヒュンと空を切る音が聞こえてくる。

死神達もスパーダの出方を見ているらしく、すぐに攻撃を仕掛けようとはしてこない。だが、絶えず呪詛と怨嗟の呟きや不気味な笑い声を上げ続けて威嚇してきていた。

次はどのようにして攻めるのかルイズも手に汗を握りハラハラしながら見守っていたが、突然その視界がぼんやりと揺らめきだし、歪みだしていた。

視界に映る魔界の風景が、ルイズ達のいる広場の風景へと徐々に戻っていく。

「ちょっと! ま、待ってよ! まだ終わっちゃ駄目よ!」

まだスパーダの戦いは終わってすらいないのにそれを途中までしか見届けられないなんて冗談じゃない。

慌てて叫んで止めるが、言い始めた途端に左目に映る風景が完全に元に戻ってしまっていた。

「おかえり」

代わりに映りこんだのは、面白そうに自分を眺めていたキュルケとタバサの姿が焚き火の明かりで照らされているものだった。

覆っていた右目を開けると、ルイズはその場で力なくへたり込む。

「一体何が見えたの?」

「……スパーダが戦ってる所よ。彼、悪魔達と戦っていたわ。それもたくさんの……」

興味津々なキュルケの問いかけに息を切らしつつも答えるルイズ。

しかし、ルイズには分からなかった。どうしてこんなものが突然見えたのか。

「それは使い魔に与えられた能力。あなたは彼が今見ているものを共有することで目にすることができた」

困惑するルイズの思いを察したのか、タバサが呟いていた。

その言葉にルイズは息を呑む。確かに、使い魔の契約を行った使い魔とは感覚を共有することができるというが……。

今までまるで感じることのできなかったものが、今になってできたというのか? 

それじゃあ、やはりあれは本当に今スパーダの身に起きていることなのか。だとすれば、彼は今も……。

「やめなさいよ、ルイズ」

「な、何よ!」

唐突に諌め始めたキュルケに立ち上がったルイズは噛み付く。

「ダーリンがどこにいるかも分からないのに迎えに行けるわけないでしょ」

ルイズの考えなど何でもお見通しと言わんばかりに答えるキュルケであったが、それですぐ引き下がれるルイズではなかった。

「だ、だからって……! 自分の使い魔を、パートナーをこのまま放っておくなんて……!!」

「ダーリンの強さはよく知ってるでしょ? だったら、ルイズの見たように悪魔達と戦っていても負けるはずなんてないわ。

それともダーリンは死にかけそうなくらいピンチだったわけ?」

「そうじゃないけど……」

「だったらパートナーとして待ってあげなさいよ。さっきも言ったでしょ? そのうちひょっこり帰ってくるって」

一見すると他人事みたいな言い方だが、キュルケはイーヴァルディの勇者に等しい魔剣士スパーダの力が何者にも屈するはずがないだろうと信じていた。

彼の身に何かが起きても、彼は己の力を持ってそれを振り払い、必ず自分達の元へ戻ってきてくれるだろう。

だからキュルケは安心して彼を待つことができるのだ。

キュルケのここまで楽観的な言葉に渋い顔を浮かべるルイズ。タバサの方を見やると、彼女もキュルケに同意しているのか無言のままこくりと頷いていた。

ルイズはやるせない顔で、ちらりと地獄門の方を見つめる。

次元の裂け目からまた悪魔が這い出してきた所を、ネヴァンが稲妻を放って仕留めているのが見える。

「早く……戻ってきなさいよ。帰ってくるって約束したんだから……」

 

 

 

 

漆黒と紅蓮の乱舞が螺旋を刻みながら一直線に突き進む。

それは瓦礫の山を宙に巻き上げ、薙ぎ倒し、触れるものを容赦なく粉砕していった。

スパーダの全身から溢れる魔力は赤黒いオーラとして具現化する。鋭い衝撃波に閃光の尾を伴ったフォースエッジによる渾身の一突きがヘル=バンガードを貫き、肉体を抉り削っていく。

普段、魔力を用いずに繰り出される高速の突進突きは悪魔の巨躯さえも吹き飛ばすほどの破壊力を持つ。

今放った一撃は、突進そのものにさえ容易に敵を弾き飛ばすほどの力を秘めていた。夥しい魔力を溢れさせ、剣先にその全てを集中させれば強大な悪魔でさえ仕留められるほどの威力を発揮する。

魔剣士スパーダの必殺の一撃をまともに食らったヘル=バンガードは魔力を纏ったフォースエッジに貫かれたまま、その身を跡形もなく粉砕されていた。

 

――キャハハハハッ……! 

 

背後でヘル=バンガードの笑い声が響き渡る。

たった今仕留めたのが七体目であるため、残るは二体。その一体がすぐ後ろにいる。もう一体は瓦礫の山の上からこちらを窺っていた。

ヘル=バンガードがスパーダの頭上めがけて鎌を振り下ろした瞬間、スパーダは左拳を後頭部へと振り上げ装着している篭手のデルフで受け止め、弾き返していた。

それと同時に魔力を込めたフォースエッジを瓦礫の上にいるヘル=バンガードへと投擲する。

空を切り裂きながら、一直線に飛んでいったフォースエッジをヘル=バンガードは鎌で難なく弾き返す。

弾かれて宙を舞ったフォースエッジだが、勢いは衰えずそのまま回転を激しくすると軌道を自ら反転させ、ヘル=バンガードへと襲い掛かる。

ブーメランのように飛来しては様々な角度からヘル=バンガードの体を切り刻んでいくフォースエッジ。ヘル=バンガードが別の場所へ転移しても、魔力によって探知しているフォースエッジから逃れることはできない。

 

フォースエッジを投げ放ってすぐにスパーダは左手で背負っていたリベリオンを手にし、体を大きく反転させ、水平に薙ぎ払った。

ヘル=バンガードの胴体を一文字に斬り裂いたのを意識する暇もなく、スパーダは戻ってきたフォースエッジを掴み取る。

左手にリベリオンを、右手でフォースエッジを手にしたまま満身創痍のヘル=バンガードへと一気に詰め掛けていく。

ヘル=バンガードは鎌を正面で構えると、回転させながら開き直ったようにスパーダ目掛けて突貫してきた。明らかに苦し紛れと言わんばかりの攻撃であった。

せめて敵に一矢報いねばという殺戮本能より繰り出される特攻。だが、相手が悪すぎた。

 

スパーダは難なくリベリオンで鎌を捌き弾き飛ばすと、丸腰となったヘル=バンガードの首をそのままフォースエッジで斬り落とした。

「やっと片付いたなぁ。もう、喋っても良いよな?」

初めにうるさいと言われ、今までずっと黙っていたデルフはここでようやく声を上げる。

リベリオンとフォースエッジを交差させるようにして背負うスパーダは特に言葉を返さない。それは肯定していることを意味する。

「どうだい? 久しぶりの愛剣とやらを振るってみた感想は」

「まあまあだな」

フォースエッジの扱いに関しては重さやリーチは違えど今まで使っていたリベリオンとさほど変わらない。

だがリベリオンよりも己の魂の分身であり長年連れ添ったフォースエッジの方が魔力が浸透し易い。

単体での威力そのものはリベリオンに僅かに劣るかもしれないが、取り回しの良さや魔力を上乗せさせた攻撃に関してはフォースエッジの方に分がある。

久しぶりに手にした愛剣の力に改めて馴染むため、現世へ戻るまでは可能な限りフォースエッジを振り回すことに決めていた。

「あ~あ、俺っちもせめて剣の時にもっと相棒に振るってもらいたかったよ。そいつに出番を取られちまうのが分かっててもよ……。何だよ……他に剣は必要ないとか言ってたくせに……そんな凄ぇもん隠してたなんてよぉ……。俺だって、初代ガンダールヴが作ってくれた、伝説の魔剣だったってのに……」

フォースエッジだけでなく、スパーダが手にする全ての魔剣に対して恨めしそうにぶつぶつと呟くデルフ。

未だスパーダに剣として振るってもらえなくなったのを根に持っているようである。

 

「ちぇっ、せめて動ける体がありゃ自分で暴れられるってのに……」

「ならば戻ったら別の器でも作ってやろうか」

「いいよ、いいよ。器を離れたり移される時ってのは正直、気持ち悪いったらありゃしねえんだ」

デルフと談義を交わしつつも、スパーダは急いでハルケギニアへと続く門がある領域へ戻るべく駆けていた。

後は来た道を逆走すれば良いだけであり、己の魔力を解放させたまま全力で疾走していく。

フォースエッジを手にしたことで力の大半を取り戻し、故郷である魔界の魔力を糧にすることでスパーダは来た時よりも早いペースで進むことができていた。

まだ真の力を解放してはいないとはいえ、今の魔力の状態ならば本来の姿を維持し続けることも可能だが、それは止めておく。

本来の姿に戻るということは、それだけスパーダの膨大な魔力を放出することを意味する。その魔力を嗅ぎつけ、悪魔達と遭遇することになってしまうからだ。

一秒の時間さえ惜しい今の状況では悪魔達と無駄に戦うことを避けたい。

本来の姿に戻らずともこれならばハルケギニアで日食が起きる前に現世へ戻れるかもしれない。

むしろ道中、タルブの地獄門に繋がっているあの領域以外にもハルケギニアへと繋がっている出入り口を見つけることができればすぐにでも現世に戻れる。

もっともそれが魔界のどこにあるのか分からない以上、探していても時間の無駄だ。

(約束は果たさねばならぬからな)

ルイズとは必ず戻ると約束をした。形だけではあるが使い魔の契約を、悪魔を側に置く契約も交わした。

彼女の命ある限り、そして人としての心を持ち続ける限りその人生を見守ることを誓った以上、まず自分が現世に戻らねば話にならない。

数時間前、ガンダールヴのルーンが映し出したアルビオンのレコン・キスタが攻めてくる場面を見届けたため、もはや魔界で時間を割いている暇もない。

現在、現世では何が起きているのかは分からない。ルーンはあれからスパーダにルイズの視界を映そうとはしなかった。

一分一秒でも早くハルケギニアへ戻るべく、スパーダは魔界の荒涼とした大地を駆け抜けていった。

 

 

 

 

深夜になっても、タルブの草原に係留されたレキシントン号を筆頭とするアルビオンの軍艦は夜空の中に不気味なシルエットを浮かばせていた。

夜空の中には同時に赤と青、二つの大きな月が空に浮かび、ハルケギニアの大地を淡く照らしている。

月に一度のスヴェルの日が近づいている今、本来は距離を置いているはずの双月は互いに隣り合うようにして浮かんでいた。

明日の昼、この二つの月が一つに重なるだけでなく、ちょうど重なり合った時に太陽を覆い隠し、大地に闇をもたらす――すなわち皆既日食が起きるのだ。

十年単位で滅多に見られない光景であるが、日食が続く時間はおよそ十数分でしかなく、多くの人間達は普段ならばその日食を平穏な時の中で見ようとしていただろう。

戦争が始まった今となってはそんな余裕はないだろうが。

(その僅かな時間……魔界の勢力がこの異界の地へ攻め入ってくる……)

数時間前に火災が治まり、大半が焼け落ちてしまった民家だけが残されたタルブの村。

そのすぐ外に広がる草原との境で腰を下ろし、双月を静かに見上げる黒ずくめの青年がいた。

本来なら既に戦場となっているにも関わらず青年は堂々と、そして悠々とした様子でただ空を眺め続けている。

(我が師……魔剣士スパーダ。あなたはその時に我らの前に姿を現してくれるのですか?)

モデウスは月を見上げながら己の師への思いを巡らす。

スパーダが魔界を去り、人間界へと降り立ってからの1500年以上もの間、モデウスは魔界にいながらも師の人間界での様々な話を悪魔達より耳にしていた。

 

――曰く、悪魔達が辺境の孤島に築いた魔界へと繋がる巨大な門を剣の力により封印した。

 

――曰く、人間の魔術師によって召喚され、破壊の限りを尽くそうとした羅王を打ち破った。

 

他にも様々なスパーダの活躍が挙がっている。多くの悪魔達にとっては逆賊であるスパーダの忌まわしい話、人間達にとってはまさに英雄譚に相応しい活躍。

だが、人間界ではスパーダの英雄譚は時が経つにつれて廃れていっており、一般では半ばおとぎ話のような扱いをされているという。

無論、禁書や重要な記録を残した本が所蔵された大きな図書館などではその活躍が事実であったことは記されてはいるのだが。

(あなたがこの異界の者達を救おうとしているのであれば……明日の侵攻を嗅ぎ付けているはず)

人間界でスパーダが悪魔達の暗躍を察し、どこからでもすぐに飛んできて食い止めていた時のように。

モデウスでさえ魔界勢力の侵攻と暗躍を耳にしているのだ。事実、あのアルビオンとかいう国での紛争もそれが原因だという。

(あなたがこの異界の地に足を踏み入れているのを知った時、私は驚きました)

スパーダがこの異界に足を踏み入れ、活動しているのを知ったのは一ヶ月も前のことだ。彼は魔法学院とかいう場所で滞在しているのだという。

居場所を突き止めたモデウスであったが、自らの足でその学院を訪れ師に会おうとは思わなかった。

(魔剣士スパーダ……我々が目にしたいのは、あなただけではない。あなたの『剣』と『力』も、この目と体で感じたいのです)

一度は剣を捨てた身とはいえ、モデウスも魔界の剣士のはしくれ。

魔剣士スパーダの弟子として、出来ることならばその再会は平穏の時ではなく、戦いの渦中で果たしたかった。

(兄さんも共にいてくれれば良かったのだが……)

同じ魔剣士スパーダの弟子であった兄がこの異界の地に来ていることは分かっているのだが、モデウスは兄の消息を掴むことはできなかった。

兄のことだから、明日の侵攻のことはやはり耳に入っているのだろうが……恐らく姿を現すことはないかもしれない。

強者との戦いを求めている彼は確実に強い敵と戦えると知らねば自ら戦地に赴くことはない。

ましてや自分のように魔剣士スパーダの存在を知り、彼が現れるかもしれないという可能性を察していないなら。

 

 

 

 

夜具もない中での野宿は正直辛い。それが二日も続けば尚更だ。

ましてや名門ラ・ヴァリエール家の娘として育ってきた身としては、ふかふかなベッドの中でゆったりと心身共に休ませたかった。

だが、こんな状況ではそんな文句も言っていられないのでルイズは我慢して眠ることにしたのである。

キュルケやタバサと同じように、シルフィードの体に身を寄せながら。

ベッドとは違うこんな寝心地の悪い場所では安眠などできなかったが、それでも休息を取れるだけマシだった。

こうして眠っている間にスパーダが戻ってきていることを願い、静かに休むことにした。

「――ズ……イズ……! ……ルイズ!」

まどろみの中でゆったりと夢を見る暇もなく熟睡していたが、そんな中でキュルケが自分を呼ぶ声が聞こえてくる。

「何よ、うるさいわね……。もう少し眠らせてよ……」

だが、寝ぼけている彼女はそのまま寝言を呟くだけであった。

「起きなさいって! ……もう、しょうがないわね!」

いつになく慌てた様子のキュルケの声だったが、どうしたのだろう? 意識がはっきりしないルイズはそれを理解することができない。

その内、何だか自分の体がふわりと宙に浮かび上がったような感覚を覚えていた。

それでもルイズは目を覚ますことはなく、くーくーと寝息を立てている。このままもう一度熟睡してしまうかと思われた時……。

「痛たっ!」

突如として地面に叩きつけられたことで、ようやくルイズは目を覚ます。

胸を強く打ったために一瞬息ができなくり、げほげほと咳き込みながらも体と顔を起こしたルイズは杖を手にしたキュルケが呆れた様子で自分を見下ろしているのが目に入った。

「何をするのよ! 人がせっかく寝てたっていうのに!」

「じゃあここでずっと眠ってなさい! あれが聞こえないっていうならね!」

食って掛かるルイズをキュルケはいつものように余裕を持って軽くあしらおうとはせず、激昂し叱り付けてきたのだ。

あまりに血相を変えた真剣なキュルケの態度にルイズはびくつき、言葉を失った。

(何がどうしたっていうの?)

ここまでキュルケが真剣に怒っているのが理解できないルイズであったが、その目に映る風景、そして耳に届いてくる音で徐々に状況を察していく。

気がつけばもうとっくに夜が明けており、青空の中に太陽が高く登り陽光が燦々と降り注ぐ見事な快晴である。時刻は昼前だろうか? 

(何……? 大砲!?)

耳をつんざく重々しい轟音が大気を震わせながら響いている。それも一回や二回ではない上、断続的に発せられているのだ。

これは明らかに、アルビオン軍の戦艦の大砲の音だ。この音が轟いているということは……。

「タバサ! シルフィードで飛んでちょうだい!」

ハッとしたルイズが大声を上げたが、タバサは既にシルフィードに乗り込んでおり、いつでも飛ばせる状態だった。ルイズよりも早く起きていた二人はとっくに準備を済ませていたのである。

寝坊したルイズにキュルケが呆れて肩を竦めるが、今はぼやぼやしている暇はない。

二人が急いでシルフィードに乗り込むと、早速広場の上空、100メイルほどの高さにまで舞い上がる。

 

「何よ……あれ……」

そこから三人が目にしたのは衝撃的な光景だった。

タルブの草原より1000メイル上空に浮かび上がった十数隻のアルビオンの戦艦。その周囲を飛び交う竜騎士。草原を覆いつくすアルビオン軍。

そして草原の向こう側、小高い丘の上には数千にもなる一軍が見える。

どこの軍勢なのかと一瞬考えたルイズだったが、あれだけの手勢を即座に用意できるのは……。

「恐らくトリステインの王軍でしょうね。ほら、旗だって掲げてるみたいだし」

ルイズが思っていたことを言葉にしたキュルケ。タバサが遠見の呪文によって空気を遠眼鏡のように屈折させ、その軍勢を拡大させた風景を三人の前に写し取ったのを指差す。

キュルケの言う通り、トリステイン王家の証である白百合を象った紋章の記された旗をその軍は掲げているのだ。

馬に騎乗し、剣状の杖を振るう王軍の兵隊達。マンティコア、ヒポグリフ、グリフォンと三種の幻獣を操る王軍のエリートにして近衛の魔法衛士隊。

そして、その軍の最後尾の一団の中、純白のユニコーンに跨っていたのは……。

「姫様!」

そう。ルイズの無二の親友である王女アンリエッタその人だった。

だがその姿はいつも目にする王女としての清楚な純白のドレスでも、本来明後日にゲルマニアで執り行われるはずだった婚儀のためのウェディングドレスでもなく、

マントに鎧という明らかに戦のための衣装に身を包んでいるのだ。

その手には彼女が愛用する水の魔法の力が蓄えられている王家の杖が握られている。

(これが姫様なの……?)

ルイズは遠見の魔法によって映し出される幼き頃からの親友であるアンリエッタ王女の凛々しく威厳に満ちた姿に息を呑んだ。

今までに見なかった王女の勇ましい姿……たとえ遠見の魔法を介してでも彼女からは王としてのオーラをありありと感じることができる。

「へぇ~、この様子じゃ陣頭指揮はアンリエッタ王女様みたいね。中々似合ってるじゃない」

キュルケも戦装束を身に纏ったアンリエッタの姿に感嘆としているようだ。

ではやはり、アンリエッタ王女はアルビオン軍と戦うことを決意したのだろう。

何もせずにアルビオンによって国土を蹂躙されるくらいならば彼女は最後まで敵から国を、そして民を守ろうと立ち上がったのだ。

 

(姫様。……お傍にいられなかった私をお許しください)

もしも王女が自ら王軍を率いて戦うのだということを知っていれば、ルイズはせめて親友としてその傍で彼女を支えてあげたかった。

だが、今となってはもう何もかもが手遅れだ。ならば自分達にできることはただ一つ。

……だが、それを実行しようと考えが行く前に気づいたことが一つ残っている。

「っていうか、キュルケ! タバサ! スパーダは!?」

そうである。慌てていたので思わず失念していたが、スパーダは魔界から戻ってきたのか? 

シルフィードの背中の上でルイズはキュルケに掴みかからん勢いで食って掛かると、彼女は苦い顔を浮かべていた。

「残念だけど、まだ戻ってきてないのよ。ルイズはダーリンの様子が見えたりしないの?」

「……見えないわよ」

ため息交じりに返された言葉にルイズはがっくりと肩を落とす。

何でまだ戻ってこないのだ? 

日食までもう本当に残された時間は僅かだというのに、あの地獄門を通って魔界へ行ってから丸二日が経とうとしているというのに、何故彼は未だこのハルケギニアへ帰還してこないのだ。

彼が必死になって悪魔達を退け戻ってこようとしているのは分かる。……だが、戻ってくると約束したではないか。

それが果たされない限り、彼は自分との約束を裏切っていることになる。

「仕方がないわね。じゃあ、あたし達で一仕事といきましょうか!」

失望にも似た思いがルイズに襲い掛かろうとしたが、キュルケが威勢がよい声を張り上げて杖を取り出していた。

「タバサ。ダーリンからもらった道具は後は何が残ってる?」

「バイタルスター、デビルスター、アンタッチャブルが三つ。スメルオブフィアーが二つ」

タバサがマントの裏を覗き込んで預かっていた道具を確認する。

「充分ね。じゃあ、早速思いっきり暴れてやるとしましょうか!」

その行動にルイズはキュルケの本意を不思議と受け止めることができていた。

彼女はこう言っているのだ。「スパーダが戻ってくるまで、自分達でできることをやれば良い」と。

先日と全く同じことを再度、ルイズに伝えていたのだ。あの道具をスパーダが託してくれたのも、そういう意味なのである。

……ならば、彼が帰還するのを待つ間、やるしかない。たとえ日食の時が訪れた後であろうが。

「ちょっ! ちょっと待って、タバサ!」

タバサがシルフィードにアルビオン軍に向けて飛んでいくよう命じた途端、ルイズは慌ててそれを引き止めた。

「何よ。あなたのご友人のアンリエッタ王女様も戦ってるのよ?」

「いいから! さっきの広場に一度戻って!」

キュルケの言葉を受け流し、タバサに訴える。

タバサはルイズの真意が分からなかったものの、とても真剣な様子だったのでそれを聞き入れた。

 

要求通りに広場へとシルフィードを着陸させた途端、ルイズは地面に飛び降りると地獄門の方へと駆けていった。

「うっ……」

地獄門の次元の裂け目からは絶えず魔界の瘴気が溢れてきており、一瞬咽たルイズはマントで口と鼻を覆って近づいていく。

その隅で退屈そうにしているスパーダから留守を任された者達へと。

「ちょっと、アンタ!」

ゲリュオンに寄りかかったままハープを奏でているネヴァンに開口一番で詰め寄るルイズ。

「嫌よ。私は人間同士の戦いなんかに興味はないもの。あなた達で勝手にやれば良いんじゃなくて?」

まだ何も言っていないというのにまるで無関心な物言いに思わず頭に来る。

「誰もアンタの助けなんていらないわよ! そんなことより、スパーダから預かってる破壊の箱をあたしに寄こしなさい!」

「破壊の箱? もしかして、これのことかしら」

ネヴァンが片手を振ると、コウモリ達がゲリュオンの馬車の上から大きなスーツケースを持ち上げてきていた。

スパーダが所有していたマジックアイテム、破壊の箱――パンドラという魔界の武器である。

「そうよ! さっさとそれをこっちに……きゃっ!」

言うが早いか、コウモリ達はルイズ目掛けてパンドラの箱を落としてきた。慌ててそれを受け止めるものの、意外に大きいこととその重さで下敷きになってしまう。

「あらあら。人間ごときにそれが使いこなせるのかしら? これは見物ねぇ」

「うるっさいわね! アンタはその門を大人しく見張ってなさいよ!」

パンドラを抱えたまま起き上がり立ち上がったルイズは小馬鹿にした態度を取るネヴァンを睨み付けると、すぐにシルフィードに乗ったまま待っている二人の元へと戻っていく。

「それ、破壊の箱でしょ? ルイズ。あなた、それの使い方知ってるの?」

「何もないよりマシでしょ!」

一応、どうやって使うのかはスパーダが簡単に教えてくれたのだが、ルイズ自身はこれを扱いこなせるとは思っていなかった。

でも箱のままでも使えるということなので、自分達の戦力として使うことにしたのである。せっかくスパーダが残していってくれたのだから。

「さ、タバサ! 準備OKよ! 行きましょう!」

改めてシルフィードに乗り込んだルイズがパンドラを抱えたまま叫ぶと、頷いたタバサがシルフィードを再び空へと飛び上がらせた。

アルビオン軍は戦艦が地上のトリステインの王軍に対して容赦なく砲撃をかけている。制空権を奪われている以上、何とかしなければアンリエッタ王女が危ない。

(すぐに加勢致します……! 姫様!)

戦場へ向けて飛んでいくシルフィードの上でルイズはアンリエッタ王女に宣誓する。

国のため、民を守るために戦う無二の友、アンリエッタを助けること。それがスパーダが戻るまで自分達にできることなのだ。

 

徐々に戦場へ近づいていこうとしていく中、タバサはちらりと空を見上げた。

今は大地に大いなる光をもたらし続けている太陽。

その光り輝く太陽へと徐々に近づく大きな影がある。

(およそ一時間……)

既に完全に一つに重なり合った月が間もなく太陽に重なり始めることだろう。

そして一時間後には、あの月が完全に太陽を覆い隠す形となり、短時間だが地上に闇をもたらす皆既日食となる。タバサも生まれて初めて目にすることになる光景だ。

 

スパーダの言が正しければ、その日食により魔界とハルケギニアの境界が極限にまで薄れるという。

そしてその闇がもたらされる間に、悪魔の勢力がこのハルケギニアに侵攻を仕掛けてくる。その予兆が、先日のアルビオン軍と共に現れた下級悪魔達。

一体どんな悪魔が姿を現すのか、タバサにはまるで予想できない。

分かるのは、決して有象無象の悪魔達だけが攻めてくるのではないということ。

ハルケギニアの歴史には一切存在しなかった、熾烈な戦いが繰り広げられるということのみだ。

作品の良かったところはどこですか?

  • 登場人物
  • 世界観
  • 読みやすさ
  • 話の展開
  • 戦闘シーン
  • 主人公の描写・設定
  • 悪魔の描写
  • 脚色したオリジナル描写・設定
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