魔剣異聞録~The Legendary Dark Slayer/Zero   作:月に吠えるもの

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Mission 40 <虚無の担い手>

……眠い。とてつもなく眠い。

錬金術に夢中だったスパーダが戻ってくるまで自室で待ち続けていたルイズであったが、結局眠気に耐えることはできずに力尽きてしまっていた。

自分が虚無に目覚めたこと、その力をこれからどう扱えば良いのか、むしろ自分はこれからどうするべきなのか。

色々なことをスパーダに相談に乗ってもらいたいのに、一体いつになればその時が来るというのか?

 

――お、おい……。本当に……やるのか? 俺ぁ、まだ心の準備が……。

 

まどろみの中で朦朧としていると、ふと微かに何かが聞こえてくるような気がする。

起きて確かめてみたい所だが、やっぱり眠い。それにもしかしたらただの夢による幻聴なのかもしれない。

 

――確かに俺っちは初代ガンダールヴが握っていた剣だったよ? けどな、俺ぁただの剣だ。俺を持つ奴が戦うんだ。……もう剣でも何でもねえけどよ。俺自身が戦うなんて疲れちまうぜ!

 

デルフっぽい声が大声で狼狽している様子だが、どうせただの夢だ。無視しよう。

 

――そ、そりゃあ確かにそう言ったよ? でもありゃあ言葉の綾って奴で……本気で俺自身が暴れたかったわけじゃ……。

 

何をそんなに戸惑っているのだろうか? そして、この声は誰と話しているのだろう。もう一人いるのかどうかさえ判らない相手の声はまるで聞こえない。

 

――なぁ、本当に良いのかよ? 相棒にとっちゃ確かに宝の持ち腐れかもしれねえけどよ。いくら何でも自分の役目を他の奴に押し付ける使い魔なんざ、聞いたことがねえ。

 

――相棒が伝説じゃなくなろうが、俺自身が剣でなかろうが篭手だろうが何だろうが相棒は相棒だよ? けど、だからって俺に押し付けなくなって……。

 

――はぁ……まったくとんでもねえ奴にガンダールヴが宿っちまったもんだ。……悪魔だぜ、本当によ。って、相棒は悪魔だったよな……正真正銘の。

 

その声にはもはや諦めの念がはっきりと感じ取ることができる。

そして、次の瞬間には話し相手と思われる声が一度だけ、はっきりと響いてきていた。

『私は私だ。ガンダールヴなどではない』

地の底から響くような恐ろしくも冷徹な威厳に満ちた声。

紛れもなく、ルイズが待ち焦がれていた男の声が聞こえてきたのだ。

「起きろ、ルイズ」

スパーダの声で意識が明瞭となってきた瞬間、たった今耳にした恐ろしい彼の声は、いつもの冷徹でクールな調子の声となって自分の名を呼んでいた。

寝惚け眼のまま体をむくりと起こす。昨晩は制服のままベッドの上に座ってスパーダの帰りを待っていた中で転寝をしてしまったのだった。

「……ス、スパーダ!?」

まだぼんやりとする思考を覚醒させてみれば、目の前にはこの数日間パートナーをほったらかしにしていた男が立っていたのだ。

気が付けばもう朝のようだ。窓の外からは柔らかな朝日の光が射し込んできている。

「遅いじゃないのよ! 何日もパートナーを放っておいて! 相談があるって言ったじゃない!」

「悪いがその話は後でしてもらう。まずは支度をしてもらおう」

腕を組んだままルイズの癇癪をいなすスパーダはそう冷徹に促してきていた。

突然のことに目を丸くして呆然とするルイズ。スパーダは踵を返すとそのまま部屋を後にしようとする。その腰には閻魔刀を携えて。

愛剣であるリベリオンや魔界から持ち帰ってきたフォースエッジという剣は置いていくようだ。

「ちょ、ちょっと! 支度って!? 何の話よ! っていうか、どこに行くのよ!」

起床一番にいきなり催促されて今一状況が分からないルイズは混乱し、スパーダの背に叫びかけていた。

「これからトリスタニアへ向かう。正門で先に待っているぞ」

「へ? ト、トリスタニア? 何でまた……」

「王宮から我らに召喚がかかったらしい。詳細は知らん」

肩越しに振り向きながらそう答え、スパーダは退室していった。

(ま、まさか……例の件で?)

スパーダの言葉を聞いてルイズは息を呑んだ。

王宮からわざわざ直接呼出しがかかってくるだなんて。ただごとではないはずだ。

……と、なるとやはり自分の虚無について何か問い詰められるというのか。この数日間、何も沙汰が無かったというのに。

スパーダが相談に乗ってくれる前に、ついに訪れてしまった運命の時。

一体、自分はこれからどうなってしまうのだろうとルイズは不安に駆られていた。

「あ……」

ベッドから降りたルイズはふと、気が付いたことがあった。

先ほどスパーダが自分を起こすために呼びかけてきた時のことである。

スパーダは自分のことを「ミス・ヴァリエール」と敬称で呼んできていたはずなのに、いつの間にか名前を直接口にしたのだ。

……それがルイズには何だか少し不思議な嬉しさを感じていた。

 

 

トリステインの王宮より魔法学院から呼び出しを受けていたのは四名だった。

ルイズにスパーダ、そして何とキュルケにタバサまで一緒だったのである。

 

『――ルイズ・ド・ラ・ヴァリエール。――スパーダ・フォン・フォルトゥナ。

――キュルケ・フォン・ツェルプストー。――タバサ・シュヴァリエ・ド・パルテル。

以上四名は至急トリステイン王宮に出頭されたし』

 

それが宮廷からの申し付けであった。

四人は王宮からやってきた使者の馬車に乗り、そのままトリスタニアへと向かっていった。当然、今日の授業には出席しない。

正門でタバサと一緒に待っていたキュルケが「遅いわよ」とルイズに文句を言ってきたが、今は彼女と口喧嘩をしている暇などなかったのでさっさと馬車に乗り込む。

トリスタニアに到着するまでの数時間、四人は狭い馬車の中でそれぞれの時間を過ごしていた。

タバサは毎度のように持参していた本に目を通し、キュルケは爪を磨いたり化粧をしたりして暇を潰している。

ルイズは膝の上に拳を置き、体を揺らしてそわそわしたりと落ち着かない様子であった。

そしてスパーダはというと、馬車の出発と共に「着いたら起こしてくれ」と言うなり閻魔刀を傍らに立てかけ、腕と脚を組んで眠り始めたのだ。

「ねぇ、ルイズ。あなたタルブから帰ってきてからちょっと変じゃない?」

「な、何のことよ」

キュルケが突然切り出してきたのでルイズは一瞬口篭った。

「あなた、何だかよそよそしいのよね。あたしは別に気にはしてなかったけど、何か隠し事でもしてるのかしら?」

「べ、別にそんなこと……ないわよ……」

明らかに動揺した表情で返すルイズは目を背ける。

相談相手になってもらうはずだったスパーダに話しかける分には普通に接していたのだが、他の相手となると彼女の言う通りの態度になってしまうのだ。

それは当然だ。自分が伝説の〝虚無〟の使い手だったなんて知った日には不安のせいでどうしてもよそよそしい態度で応対してしまう。

「ま、あたしは別に良いけどね。……それにしても朝っぱらに王宮から、しかもあたし達にもお呼び出しがかかるなんて。何の用なのかしら」

本来なら外国人であるはずのキュルケとタバサまで直接呼び出しを受けているのだから、疑問に思うのは当然だろう。

「知らないわよ」

「やっぱり、タルブでのことなのかしらねぇ。ま、あれだけ暴れたりしてたら王宮に目を付けられるのも当然だろうど」

どこか他人事のように呑気な口調で言うキュルケにムッとする。

もしかしたら自分は虚無について指摘・糾弾されてしまうのかもしれず、不安が拭い去れないというのにこいつと来たら……。

「あたしが付けてあげたダーリンの名前まで知ってるってことは、トリステインの王宮も結構詳しく調査してるってことよね」

「そういえば何であんた、勝手にスパーダの名前を自分で付けてるのよ」

「だって、ダーリンは昔はフォルトゥナの領主様だったんでしょ? 名前があったって不思議じゃないわ。ま、〝フォルトゥナ〟だけは確実でしょうね」

ゆらゆらと馬車に揺られながら、そうした会話をルイズとキュルケが中心となって続け、一行は王都トリスタニアのトリステイン王宮へと到着した。

 

 

 

 

つい先日戴冠式を終えてアンリエッタはトリステインの女王となった。女王となった彼女の主な公務は接待であり、国内外の客と会うことが多くなっているはずだ。

何らかの要求や家臣からの報告、機嫌の伺い、それは朝から晩までともう様々であろう。

ルイズ達も客人の一人であるため、先の謁見が片付くまで待たされることになり、一度城内のサロンへと通される。

およそ十分後、ルイズ達に謁見の順番が回り、衛士に連れられてアンリエッタ女王の執務室へと案内された。

「……何をじろじろと見てるのかしら」

王宮内の廊下を歩いているとすれ違った貴族達がちらちらと一行に怪訝な視線を向けてきていることにキュルケは首を傾げる。

タバサは貴族達の視線がスパーダへと注がれていることに気付いていた。

どうやら彼らは杖ではなく、剣を携えている貴族である彼が気になっているのだろう。

メイジではなく、剣士のような出で立ちの者が王宮内を歩き回るのが珍しく感じているのだ。

「ルイズ・ド・ラ・ヴァリエール殿ご一行がお見えになられました」

「通してください」

扉の横に控えていた呼び出しの衛士が客の到着を告げ、中から入室を促す声がかかる。

執務室へと通された四人――スパーダを除く三人は恭しく頭を下げた。

「ルイズ! ああ、ルイズ!」

机にかけていたアンリエッタは待ち侘びていた客人達――特に幼き日からの無二の親友を目にして気が楽になったように喜びを露にしていた。

彼女にとっては今度の客人はこれまでの客のように表情も態度も気疲れするような作り物にする必要はないのだ。

ルイズに駆け寄りひしと抱きしめるアンリエッタ。

「ご即位、おめでとうございます。アンリエッタ女王陛下」

首肯したまま祝言を口にするルイズであったが、アンリエッタはそれが不満なようだった。

「やめてちょうだい、ルイズ・フランソワーズ。そのような他人行儀は承知しません。わたしが女王になろうと、あなたはずっと大切なお友達なのですから」

「……分かりました。それではこれからも、〝姫様〟とお呼びしますわ」

「そうしてちょうだい、ルイズ。皆様も、どうぞ楽になさってください」

アンリエッタに促され、首肯していたキュルケとタバサも頭を上げる。

客人一行の顔を改めて見回すアンリエッタは毅然とした表情のままであるスパーダを見るなり、一礼をしだす。

「ひ、姫様!?」

一国の女王となったばかりなのに自ら頭を下げる姿にルイズは驚いた。

「一ヶ月ぶりでございますね。スパーダ・フォン・フォルトゥナ殿」

「そうだな。だが、どこでその名を知った?」

腕を組み、スパーダは尋ねる。キュルケが勝手に付けた偽名を知るのは僅かしかいないはずだ。

「先日、アルビオンとの戦争で被害を受けたタルブの村からの報告書を拝見しました。スパーダ殿がタルブを復興する足掛かりのためにお力添えをしてくれたとか」

面を上げたアンリエッタの言葉にスパーダは合点が言った。確かに偽名のフルネームを村長に名乗っていた。

その王宮からの調査で、キュルケが勝手に付けたスパーダの偽名を知ったのだ。

「あなたには多大な感謝を申し上げます、スパーダ殿。ルイズ達をアルビオンで守ってくれただけでなく、戦争の犠牲となった方達にも救いの手を差し伸べてくれました。

一ヶ月前、あなたがルイズと共におられなかったので、何としても御礼を直接言いたかったのです」

そう。一ヶ月前、アンリエッタは自分の無茶な願いから危険な任務を任せてしまったルイズ達が無事に帰還してくれた中、スパーダとだけ顔を合わせていなかったのだ。

実に今回の謁見は彼とは二度目の顔合わせということになるのである。

アンリエッタは威厳ある貴族としてのカリスマを備えているスパーダに強い憧憬の念を抱いていたのだ。

彼のような聡明な貴族がもっとこのハルケギニアに居てくれれば良いのに、と理想を抱いて。

異邦の貴族である彼とはもっと話をしたいと願っていたが故、今回の謁見は良い機会だったのである。

「わたくし達もタルブ復興のために尽力を致しましょう」

「それで、我らを召致した用件はなんだ。そのようなことを話すためにわざわざ呼んだわけではあるまい」

「スパーダ。姫様に失礼よ」

「良いのよ、ルイズ。いくら女王になったといっても、この方よりはずっと未熟なのですから」

ルイズを制したアンリエッタは机に戻り四人と向き合った。

 

「まずは改めて……あなた方には厚く御礼を申し上げます。此度のタルブでの戦において力を貸してくれて、心より感謝致します」

再び四人に向かって恭しく頭を下げるアンリエッタ。

アンリエッタはタルブに兵を率いる前からルイズ達が戦ってくれていることを知ることで、自らも挙兵していたのだ。

無二の親友とその仲間達の行動が、自分に勇気を与え後押しをしてくれるきっかけとなったのである。

「あなた方の助力が無ければ、我が軍の勝利はあり得ませんでした。あのゴーレムもあなた達の仲間のものなのよね? ルイズ」

「もったいないお言葉でございます、姫様。わたくし達は自分達でやれるだけのことをしただけなのです。

……ですが、あのゴーレムについてはわたしは何も……」

「私が予め雇っておいたメイジによるものだ。気にすることは無い」

ゴーレムの話を聞いて、スパーダはそう告げる。

魔界にいた以上、タルブでの戦いはルイズの視界を通してしか見えてはいなかった。故に空にいた彼女達の戦いしか覗き見てはいない。

だがゴーレムが出現してトリステイン側についていたとなれば下手人が誰であるか即座に理解した。

魔法学院の秘書、ロングビル――かつて〝土くれのフーケ〟と呼ばれていた女である。

彼女はスパーダに力を貸してくれると約束し、アルビオンに復讐をするとも誓っていた。

故にアルビオン軍を自分の土塊のゴーレムで薙ぎ倒し、悪魔の軍勢とも戦ったのだろう。

先日学院に戻った時には既に秘書の生活に戻っていた彼女は顔などに小さな傷を作ったりしていたが、周囲やオスマンには転んで怪我をしたなどと言って誤魔化していた。

そしてスパーダに対してさり気なく「借りは一つ返したわよ」と言ってきていたのだ。

 

「いつの間に雇っていたのよ!?」

「あら、そうだったの」

メイジの正体は不明だがそれもスパーダの手によるものだと知り、ルイズとキュルケは驚く。

タバサだけはメイジの正体を知っているために特に反応はない。

詳細を知ったアンリエッタは満足したように微笑む。そこまでスパーダは自分達を陰ながら支えてくれたことに感服していた。

誰に言われるでもなく自分の意思で行動を起こし、最終的に良き結果を導き出す。……まさに理想の貴族である。

……と、いうことはもしかしたらあの幻獣達も――

 

「わたくしは此度の戦で、あれほど恐ろしい思いをしたことはありません……」

少し憂いを帯びた様子となったアンリエッタにルイズ達は目を丸くした。

「あのような、恐ろしい悪魔がこの世に現れただなんて……今でも信じられないわ」

「わたし達も同じ思いでございます。姫様……」

ルイズの顔が強張り、キュルケとタバサも同様の面持ちを浮かべていた。

魔界からの直接侵攻という恐ろしい出来事など、ハルケギニアの歴史上初めての事態だったのだ。

あのようなこの世の物ではない脅威をこの身を持って体験した以上、その心と脳裏にずっと刻み付けられるのだ。

 

「あの悪魔の軍勢は、アルビオン共和国の皇帝・クロムウェルが契約を結んで呼び出されたのだそうです。何と恐ろしい真似を……」

タルブ戦役が終わってからアンリエッタの元には様々な調査報告書が届けられていた。

さきほどのタルブ村における件の他にも捕虜となったアルビオン軍の兵士達への尋問により得られた報告にもアンリエッタは目を通していた。

多くの兵士達があの悪魔達について、アルビオンの貴族派が革命を起こした時にも度々姿を現して加勢してくれていたことを語っており、捕虜の一人であったレキシントン号艦長のヘンリー・ボーウッドによればタルブ戦役で現れたあの巨大な黄金の悪魔……あれこそがクロムウェルが契約を結び、異形の兵と力を与えた張本人なのだという。

あの悪魔がハルケギニアにもたらした被害はタルブだけでなく、その近郊の山々はおろかタルブから十リーグ以上も離れた場所さえ焼き払っていたのだ。

そのおかげで壊滅してしまった町村がいくつもある……。

ボーウッドは尋問でこのようなことを述べていたという。「魔に魅入られたあのクロムウェルは、もはや人間ではない。悪魔だ」と。

 

実際の所、神聖アルビオン……レコン・キスタはアビゲイルの手駒に過ぎなかったわけであり、そのアビゲイルが魔界に追い返されたために、アビゲイルからの支援はこれ以上受けられない。

それに艦隊を失った以上、再編するにはかなりの期間が必要となる。数ヶ月間は大規模な侵攻は仕掛けては来れない。

もっとも、トリステイン側も艦隊をタルブで敵からの騙まし討ちで全滅させられたため、同じく再編するまでは逆にアルビオンへ攻めることも当然できないが。

「ですが、あの危機もあなた達のおかげで切り抜けることができました。ルイズ、スパーダ殿。

……あの悪魔の大群を滅ぼした光……あれはあなたなのよね? ルイズ」

「そ、それは……」

微笑みながら真っ直ぐに自分を見つめてくるアンリエッタにルイズは困惑する。

ああ、ついにこの時が来たか。まさかあの時の光が〝虚無〟だなんて知られれば自分は一体どうなってしまうのか。

「な、何のことだか……わたしには……」

悪あがきに等しい行為でしかなかったが、ルイズは視線を逸らしてとぼける。

だが、隣に控えていたキュルケがため息を零しながら肩を叩いてきた。

「もう良いじゃないの、ルイズ。正直に陛下に吐いちゃいなさいな。自分が使ったあの魔法は〝伝説〟だって」

あっけらかんとした口調で喋るキュルケの言葉にルイズは顔を強張らせた。

「あんた、どうしてそれを……」

「あのね? ルイズ。あたし達の目の前であんな魔法を堂々と唱えておいて、そんな言い方はないんじゃない?

あたしだって、信じられないわよ。まさか〝ゼロのルイズ〟と呼ばれていたあなたが……」

先日タルブから魔法学院へと戻ってきたキュルケはあえてルイズを詮索こそしなかったものの、タバサと共に密かにルイズの魔法について考えていた。

あの時ルイズが嵌めていた水のルビーの指輪と手に抱えて広げていた始祖の祈祷書が尋常ではない神秘的な光を放っていたこと……そして何より、空を覆い尽くしていた悪魔の軍勢はおろか、巨艦レキシントン号さえも沈めてしまったという偉業を成し遂げたのだ。

それだけのことをしたものが伝説以外の何だというのか。キュルケもタバサもすぐに見当を付けていたのである。

 

「ルイズの使ったあの魔法は間違いなく、伝説の〝虚無〟の系統だ」

キュルケにそう反論されて顔を引き攣らせるルイズであるが、スパーダまでもが冷徹にそう指摘してきたのでさらに目を丸くしてしまう。

「ス、スパーダ……」

相談しようと思っていたことを先に口にされて戸惑う。誰も何も知らないと思い込んでいたのは、自分だけだったのだ。

「隠さなくてもいいわ、ルイズ。城下では〝奇跡の光〟だなんて噂をされているけれど、わたくしは奇跡なんて信じない。

あの光が膨れ上がった場所、アルビオンの戦艦の真上にあなた達が乗っていた風竜は飛んでいたのでしょう?」

アンリエッタの、キュルケの、そしてタバサの視線がルイズへと集中させられる。キュルケとは反対の隣に佇むスパーダは瞑目したまま沈黙していた。

……もう、観念するしかないようだ。

「実は……あの時――」

これ以上隠し通すことができなくなってしまったルイズは、今でも肌身離さず持っていた始祖の祈祷書について、この場にいる四人に語り始めた。

それは同時に自分がしようとしていたスパーダへの相談事にもなっていた。

アンリエッタからもらった水のルビーが光りだし、白紙であったはずの始祖の祈祷書のページに古代文字とルーンが浮かび上がり、その呪文を唱えることであの巨大な光……〝エクスプロージョン(爆発)〟が生み出されたことを。

そして、始祖の祈祷書にはスパーダが指摘したように紛れも無く虚無の系統と書き記されていたことも……。

 

話を聞かされた同級生二人は目を丸くして驚嘆していた。普段は自分には関係のない話には興味の無さそうなタバサも微かに表情を険しくしている。

あの時、ルイズが見入っていた白紙の祈祷書にそんな秘密があったというのか。キュルケとタバサにはその祈祷書に記されていた文というものが全く視認できなかったのだから。

じっとルイズを見つめていたアンリエッタは話を聞き終わり、そっと頷いた。

「王家にはこう言い伝えられています。始祖ブリミルは、かつて三人の子に王家を作らせ、それぞれに指輪と秘宝を遺しました。

我がトリステインに伝わるのが……ルイズ、あなたの嵌めている水のルビーとその祈祷書です。そして、始祖の力を受け継ぐ者は王家に現れると」

「へぇ、そんな言い伝えがあったの……」

キュルケは感嘆と頷く。帝政ゲルマニアは元は都市国家群で貴族同士の利害関係の上で寄り集まることで出来上がったという歴史の浅い国。

故に元首は始祖ブリミルとは何ら関係のない存在であるため、当然そのような伝説などとは無縁なのだ。

「でも、わたしは王族では……」

「ラ・ヴァリエール公爵家の祖先は王の庶子」

困惑したように否定するルイズに、ぽつりとタバサが呟く。

「つまり、お前には王家の血が流れているというわけだ。ルイズ」

スパーダにまで指摘されてしまい、ルイズは微妙な表情を浮かべていた。

……と、いうより何でこの二人はそんなことまで知っているというのだ。

タバサは外国人、スパーダに至っては異世界の貴族……悪魔なのだというのに。

スパーダは学院の図書館で本を読み漁り、様々なハルケギニアの知識を知り得ているために当然ルイズの実家であるヴァリエール家の歴史のこともある程度は知っているし、タバサは今回のルイズのことでキュルケと一緒に独自で調べたりして知り得ているのだ。

 

「その通りよ、ルイズ。あなたもこのトリステイン王家の血を引いているの」

椅子から立ち上がったアンリエッタはスパーダの元まで歩み寄る。

「スパーダ殿。左手のルーンを見せてはいただけませんか?」

スパーダは手袋を外し、己の手の甲を露にさせた。そこにはルイズの使い魔の証であるルーン――ガンダールヴの印が刻まれている。

(何か薄い……?)

……心なしか、以前よりルーンの刻印が薄くなっているように思え、ルイズは顔を顰めた。

「ガンダールヴの印……始祖ブリミルが従えていたという、あらゆる武器を自在に操り、主の呪文詠唱の時間を確保するために生まれたという使い魔……」

「そういう触れ込みらしいな」

スパーダは何の感慨も無さそうに冷淡に呟いた。

ルイズはガンダールヴと聞いてはっとする。そういえば一ヶ月も前、任務の最中ラ・ロシェールで一泊した際にワルドから話を聞いていた。

「ならば納得のできることです。スパーダ殿、あなたはルイズ達を守りあの巨大な悪魔を仕留めたのですよね? それは決して並の人間ができることではありません。

主を守るのは使い魔の役目。ならばこそ、そのガンダールヴのルーンが力を与えてくれたのでしょう」

アンリエッタは悪魔の大群を率いていた強大な悪魔と一戦を交えたという一人の英雄の話も耳にしていた。

始祖ブリミルの加護を得たイーヴァルディの勇者がハルケギニアに降臨したなどと噂が広まってはいるものの、このことに関してもアルビオン軍の捕虜達からの尋問の報告で知っていた。

突如、どこからともなく現れた紅蓮の剣士の影が悪魔の総大将と人智を超えた激闘を繰り広げ、その戦う様はとても人間とは思えないものだったそうだ。

その剣士はレキシントン号の真上で悪魔の大群を全滅させた風竜に乗るメイジ達と同じく、最終的にはその竜の背に乗じて地上へ降りていった、と。

風竜に乗っていたのは一ヶ月前に宮廷を訪れた魔法学院の生徒――すなわちルイズ達であったことは知っていたため、その剣士の正体がスパーダであるとアンリエッタは確信を得ていたのだ。

 

「……さてな」

アンリエッタからの言葉を受けても気の無い返事しかスパーダは返さない。

可能な限り悪魔の力を解放した以上、ガンダールヴのルーンはスパーダに何の影響ももたらさない存在となっていた。

故にあの戦いはスパーダ自身の力のみでアビゲイルに戦いを挑んだのだ。

魔界へ足を踏み入れ、再びハルケギニアへ舞い戻り、アビゲイルを倒すまでの間に役立ったことといえば、ルイズとの感覚の共有で戦時中のタルブをルイズの視界を通して目にしたということだけだが。

そしてさらに、今のこのルーンはもはやスパーダにとっては宝の持ち腐れであった以上、形だけでしかなくなっている。

 

「伝説の虚無に、伝説の使い魔……もう何が何やらね……」

キュルケは嘆息を吐いて驚きっぱなしであった。

自分達の目の前に三つの伝説が堂々と姿を現しているだなんて、あまりにも荒唐無稽だ。

伝説の虚無――伝説の使い魔――そして、伝説の悪魔。

そんな伝説がこうすんなりと自分達の前に現れて良いものなのだろうか?

ルイズが抱いていたのと同じ思いが、キュルケの心にも生じていた。

 

 

 

 

スパーダのガンダールヴのルーンを見つめていたアンリエッタはルイズの方を向いて微笑んだ。

「ルイズ、スパーダ殿。……あなた達二人の成し遂げた戦果と功績は、ハルケギニアの歴史の中でも類を見ないほどに偉大なものです。

これほどまでに多大な成果ともなればルイズ、本来ならばあなたには領地はおろか、小国を与えても良いくらいのなのよ。

そしてスパーダ殿。あなたさえ宜しければ〝シュヴァリエ〟の称号を叙することも可能でしょう」

とんでもない言葉がアンリエッタの口から出てきて、ルイズは目を見開いた。

「りょ、りょ、りょ、領地!? 小国!? で、で、で、でも……そんな……わたしどもに分不相応な……」

わたわたと慌てるルイズをキュルケは面白そうに横目で見やっていた。

同時にスパーダの方も見てみるが、彼はどうやらシュヴァリエの称号や叙勲といったものには興味が無い様子で腕を組んだままだ。

「でも、今度ばかりはそういう訳にもいかないの」

だが、アンリエッタの表情が曇りだしたことでルイズの混乱もそこで収拾した。

キュルケも意外そうな顔を浮かべている。

「虚無の系統は本来ならば一国でも持て余すほどの大いなる力だ。その力の存在が公となればルイズの身を危険に晒すことになる」

ちらりと横目でルイズを見やったスパーダの表情は真剣だった。

「その通りです、スパーダ殿。わたくしが恩賞を与えればルイズの功績が白日の下に晒されてしまいます。

敵がルイズの秘密を知れば、彼女の力を手に入れようとするはず……そして、王宮内部にも信用できる者ばかりがいるというわけではありません。

ですから……」

「わたしは構いません。この身は全て姫様に捧げると常々誓っておりました。

友である姫様の力となり、助けることができた結果だけで充分でございます。そしてこれからも、姫様のお力となりましょう」

微笑みを浮かべ、ルイズはそう告げる。

友を救い、ハルケギニアを魔界の侵攻から守りたいという純粋な思いだけで自分は杖を振るったのだから。

恩賞が授けられないのは、全てルイズの身を案じてのこと。そのための恩情こそが、ルイズにとっては何よりもの恩賞でもある。

「本当にありがとう、ルイズ。あなたはやっぱりわたくしの一番のお友達ね」

二人の少女は抱擁を交わし、互いの友情を確認し合った。

「始祖の祈祷書はあなたに授けましょう。ですが、虚無の担い手であることは決して口外しないように。無闇に力を使ってもいけませんよ」

「かしこまりました」

アンリエッタはそれまでほとんど蚊帳の外であったキュルケとタバサの方を振り向き、申し訳なさそうな顔をする。

「キュルケ殿にタバサ殿。改めて御礼を申し上げます。

ルイズと共にあそこまで力を尽くしてくれたあなた方にも本来ならば恩賞を与えたい所なのですが……」

「まあ別に良いですわよ。わたくし達も、ルイズの魔法については誰にも喋りませんわ」

手を広げ肩を竦めながらキュルケは頷く。

タバサは初めから恩賞などには興味も無く、ルイズの魔法についても元々、口数が少ないのだから口外することもないだろう。

 

「……わたくしの大事な友を、これからもよろしくお願いします」

安心したように笑みを浮かべて二人に頭を下げると、アンリエッタは再びルイズの方へ顔を向けた。

「ルイズ。これからあなたはわたくし直属の女官としましょう。何か困ったことがあれば、必ずわたくしに相談してください」

そう言い、アンリエッタは書簡を取り出すとルイズに差し出した。

「王室発行の正式な許可証よ。何かあった時のためにこれをお持ちなさい」

恭しく一礼したルイズはその許可証を受け取る。

これによりルイズは王宮を含んだ国内外への通行、及び警察権を含むあらゆる公的機関の行使が可能になったというわけだ。

「信じられないわね……あのルイズが……」

女王直属の女官という、一学生ではあり得ない地位を手に入れてしまったルイズにキュルケはため息を吐いていた。

ここの所、色々なことで驚いてばかりだ。

 

許可証を渡したアンリエッタは今度はスパーダの方へ向き直った。

「スパーダ殿。これからもどうかルイズのことを守ってあげてくださいませ」

「うむ。そうさせてもらおう」

一礼してきたアンリエッタにスパーダは頷いた。

「……それと、実はスパーダ殿にわたくしから一つお願いがあるのです」

唐突に切り出してきたアンリエッタにスパーダ以外の三人は面食らった。

スパーダに直接用事があるだなんて、一体何だというのだろうか。

話を持ちかけられたスパーダも黙ってアンリエッタの話とやらに耳を傾ける。

「三日後に、この王宮でトリステインの主だった閣僚や貴族達を集めて今後の様々な方針について決める諸侯会議が開かれます」

「ほう」

「今の所、出席するのはわたくしを含めておよそ十二名ほど。そして、もう一つ席を用意してあります」

アンリエッタは真摯な表情で真っ直ぐにスパーダの目を見つめ、言葉を続ける。

「その会議に、ぜひスパーダ殿も出席して頂きたいのです」

「ひ、姫様!? ど、ど、どういうことですか!?」

スパーダは表情一つ変えなかったが、逆に驚いたのはルイズの方だ。

トリステインはおろかハルケギニアの貴族ですらないスパーダは、遠い異国――異世界のフォルトゥナの元領主。

一応、彼は東方から来たという触れ込みにはなっているようだが……完全な部外者を重要な会議に出席させようとは、どういうつもりなのだろう。

「今回のタルブで我々は勝利しました。しかし、それもあなた達のように多くの助力が陰ながらあったからこそのもの。

このトリステインは歴史ある国家ではありますが、現実では今でも衰退の一途を辿っているのです」

アンリエッタは少し気落ちした顔を浮かべる。

確かにトリステインは伝統やしきたりなどに固執するあまりに年々、その国力は低下傾向にある。

事実、今回もアルビオンに一国では対抗できないがためにゲルマニアと同盟を結ばなければならなくなってしまっているのだ。

「わたくしは今後のトリステインの国力を高めるための一環として、新たな近衛隊を設けたいと考えております」

「新たな近衛隊?」

「ええ。その隊は元々、今回のタルブでの戦いにも参加していた平民で構成された小隊だったの。

隊に所属しているのは全員が女性で、剣と銃を巧みに操って襲い来る悪魔達を相手に奮戦していたのよ」

ルイズの呻きにアンリエッタは笑みを浮かべながら答えた。

「特に、その隊を率いていた方は平民でありながらメイジにも勝るほどの獅子奮迅の活躍をしてくれたわ。

稲妻を纏う剣を振るい、メイジの魔法にも匹敵する兵器で悪魔達を蹴散らしてくれたのよ」

「アニエスのことか」

若干、興奮したように話すアンリエッタにスパーダが横槍を入れた。

稲妻の剣……盟友の化身を手にする人間はたった一人だけだ。

「彼女をご存知なのですね。スパーダ殿」

「前に少しな。すると、彼女を隊長として新たに部隊を新設するのだな」

「はい。彼女達の力は、これからのトリステインに必要となるでしょうから。特例としてそのアニエスにはシュヴァリエの称号を与え、隊長の任を務めてもらうことになるでしょう」

「で、ですが姫様……その者達は平民なのでしょう? 魔法を使うメイジではないのに、近衛が務まるのでしょうか?」

ルイズは心配した様子で尋ねる。

アニエスとは以前、あのネヴァンとの一件で顔を合わせたことはある。

スパーダが信頼している以上、実力は申し分ないのかもしれないが……結局は平民。メイジではないのだ。

アンリエッタはルイズの言葉に大きなため息を吐いた。……心底残念そうに。

「ルイズ。あなたもこの宮廷の人達と同じことを言うのね」

「え?」

「宮廷の貴族達は、その近衛隊の新設に対して多くは反対の声が上がっているのよ。メイジでなければ貴族にあらず、魔法の使えない平民など無力でしかない、とね」

頭を振り、さらにアンリエッタは小さく息を吐く。

「わたくしは彼女達が無力だとは到底思えないわ。現実に、わたくしの目の前で力を示してくれたのだから……。

それなのにただ平民というだけで、力を侮られてしまう。……それではいけないのよ」

「失礼を申し上げますが、わたくしもそう思いますわ。如何に平民であろうと使い方次第でメイジにも劣らない力を発揮させられたでしょう。

それができなかったから、トリステインは小国などと呼ばれる結果になってしまったのだと思います」

キュルケはアンリエッタの考えに対して同意する。この女王は自国の欠点を見直そうとし、国をさらに強めようとしていることに素直に感心していた。

「ちょっと、キュルケ! 失礼じゃないの」

「いいのよ、ルイズ。むしろこうしてはっきりと言ってもらった方が今のトリステインの為になるものよ」

アンリエッタは再びスパーダと向き合った。

 

「しかし、反対の意見があろうともわたくしはその近衛……〝銃士隊〟の設立を押し通してみせます。……ですが、それだけでは決して宮廷の貴族達を納得させることはできないでしょう」

「それで、私に何をしろと言うのだ」

その諸侯会議とやらに出席してもらいたいアンリエッタの真意を問いただす。

「スパーダ殿。あなたはルイズの使い魔としてこのハルケギニアへ召喚されてから結構な時間を過ごしているかと思われます」

「ああ」

「あなたがこのハルケギニアに留まる間で思ったこと……それを会議の席にて述べていただきたいのです。どんな厳しいことでも構いません。

いえ、むしろそうしなければこの国は衰退するしかないのです。

……異国の貴族の力と知恵を、どうかわたくし共にお貸しください。スパーダ・フォン・フォルトゥナ殿」

「……」

偽名のフルネームでスパーダを呼ぶアンリエッタを、当人は冷徹な表情を浮かべたままじっと沈黙する。

一人の女王と一人の異邦の貴族――悪魔は視線を逸らさずに互いに見つめ合っていた。

 

 

 

 

アンリエッタとの謁見を終え、王宮の外へと出てきた四人はブルドンネ街の大通りを歩いていた。

街は戦勝祝いでタルブでの勝利から五日以上が経っているというのに未だ賑わい続けている。

ワインやエールの杯を掲げては「乾杯!」と叫んでいる男達の姿が多く見られた。

「本当に会議に出るつもりなの?」

「一応、顔だけは出してみる」

怪訝そうにルイズに尋ねられ、スパーダはそう答えた。

結局、スパーダはアンリエッタの要請を聞き入れて三日後の諸侯会議に出席することが決まったのだ。

スパーダはトリステインの貴族ではないため、外部からのオブザーバーという形で会議に参加する権利が与えられている。

発言権自体は小さいものだが、その僅かな発言で出席する貴族達を納得させるようなことを言わねばならないのだ。

「あんまり失礼なことを言ったりしちゃ駄目だからね? 宮廷の貴族達に目を付けられたりしちゃ、目も当てられないんだから」

「ああ。善処はする」

相変わらずつっけんどんな言葉で返事をするスパーダに、ルイズは少し心配になった。

幾千年もの時を生き様々な歴史を見届けてきたであろう悪魔と論争になることがあれば、それこそ数十年程度しか人生経験がない人間では勝負にもならないのだ。

「それにしても本当に色々大変なことになりそうね。あんたもダーリンも――」

横でタバサが本を読みながら並んで歩く中、キュルケが声を上げた。

「内緒だからね。絶対に」

「大丈夫よ。これからもゼロのルイズとして、よろしくお願いするわ」

キッと睨んでくるルイズの頭をキュルケは愛おしそうに撫でた。

伝説だなんて似合いそうにないし可愛げもない。やっぱりルイズはこうでなくてはいけないのである。

「それにしてもルイズ。あなた意外だったわね。女王陛下とは昔からのお友達だったんでしょ?

『自分の伝説の力を捧げる!』とか『神は姫様を助けるためにこの力を授けたに違いありません!』

……なんて、後先も考えないでとんでもないことでも言うかと思ったけど」

キュルケとしてはこれまで魔法の失敗ばかりしてゼロのルイズと呼ばれ、口惜しさに身を震わせていたであろうルイズが力に目覚めたことで変わってしまうのではないかと少し心配していたのだ。

 

「昔のあたしだったら、そう言っていたかもしれないわね」

ルイズの口から出てきたのは意外な言葉だった。

その言葉にキュルケは目を丸くする。

「でもね、あたし気付いたのよ。確かにあたしのこの力は強力よ。あたしでさえ持て余すかもしれない。

……だけど、その力に振り回されて、自分を見失うわけにもいかないじゃないの」

はっきりとした口調で、己を確かめるかのように呟くルイズ。

「あんただって見たでしょう? アルビオンで、悪魔の力を手に入れたワルドのこと……」

魔に魅入られ、レコン・キスタとの盟約で悪魔の力を手に入れたワルド。

完全に人としての心を失った者の末路……考えたくも無い。

「あたしはあんな奴とは違う。魔と力に魅入られて己を失ったりしたら、あたしはワルドと同じになる。

だから、あたしはこの力を自分が信じる者のために使いたい」

アンリエッタから正式に授けられた始祖の祈祷書に手を触れ、強く宣言したルイズ。

以前のルイズからは考えられない強い意思。それをはっきりと感じることができる。

ここまで成長していたことにキュルケは心底驚いていた。

「そう約束したんだもの。スパーダと。そうでしょ?」

スパーダの顔を見上げると、彼は微かに口元を綻ばせていた。

「そうだったな……。前にも言ったが、私はお前が道を踏み外しそうになればその修正の手助けはしてやろう。だが、それまでだ」

「判ってるわよ。パートナーを裏切るような真似はしないわ。だからスパーダも力を貸してちょうだい」

「いいだろう。……ルイズ、お前にこれを渡しておく」

そう言いながらスパーダは気付いたように懐から何かを取り出し、ルイズに差し出してきた。

 

「綺麗……」

銀の意匠が施されたそれは小さな鎖で繋がれた首飾りだった。装飾などは少ないものの、よく洗練された造りになっている。

台座部分にはよく磨かれた青く光る石がはめ込まれているが、サファイアなどの宝石とはまるで違うようだ。

……スパーダが胸元に着けているアミュレットとデザインがどことなく似ている。

「……エリキサ」

その首飾りに収まっている青い石を目にしたタバサがぽつりと呟く。

「霊石エリキサを加工したものだ。万が一の時はこれがルイズを守ってくれるだろう。出来る限り、身に着けておくといい」

「それじゃあ、これ……スパーダが作ったの?」

スパーダは何も答えずにルイズへとペンダントを手渡す。

ルイズは呆然としたまま手の中にあるペンダントを見入る。

スパーダのアミュレットの石は血のような赤い石であるのに対し、こちらは対照的な青だ。

その石を見ていると、どこか不思議な気持ちになる。

でもちょっと待て? それじゃあ連日コルベール先生の研究室に留まっていたのは全て、このためだったというのか?

スパーダが自分にプレゼントをするために……。

と、なるとこれは何かのマジックアイテムということだろうか?

 

そう考えると、ルイズの頬が仄かに染まり、綻びだす。

父親にプレゼントをしてもらったのと同じような嬉しさが込みあがってきたのだ。

「あらあら、良かったわね。ルイズ。殿方にプレゼントをしてもらうだなんて」

「う、う、う、うるさいわね! キュルケには関係ないじゃない!」

そう言いつつも、嬉しさを露にした様子でルイズはスパーダから渡されたペンダントを早速つけてみる。

チャラチャラと音を立てながら鎖を首の後ろで止めてみれば、自分の胸には青い石が輝くアクセサリーがあるのだ。

「あ、あ、あ、ありがとう……スパーダ。わざわざ、あたしのために作ってくれて……」

「うむ。大事にしてやれ」

口篭りながら礼を言うルイズに対し、やはりスパーダは素っ気無かった。

だが、パートナーからプレゼントをされたという事実に変わりは無く、ルイズの心は嬉しさでいっぱいだった。

 

作品の良かったところはどこですか?

  • 登場人物
  • 世界観
  • 読みやすさ
  • 話の展開
  • 戦闘シーン
  • 主人公の描写・設定
  • 悪魔の描写
  • 脚色したオリジナル描写・設定
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