魔剣異聞録~The Legendary Dark Slayer/Zero   作:月に吠えるもの

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Mission 43 <インターミッションⅡ>

数日前に遡る――

 

その日魔法学院の秘書、ロングビル――マチルダはアンリエッタ王女の戦勝記念パレードが執り行われている王都トリスタニアの城下町を訪れていた。

修道院に預けているティファニアに会いに来たついでで、この日行われる凱旋のパレードを一緒に見届けてやろうと考えたのだ。

「アンリエッタ王女万歳!」

「トリステイン万歳!」

ブルドンネ街の大通りを進む王女の馬車を筆頭にし、周りを魔法衛士隊が警護する行列に向けて観衆より次々と歓声が沸き起こる。

マチルダとティファニアは街路沿いを埋め尽くす群衆の中に紛れており、これから凱旋の一団が前を通りがかるのだ。

「すごい声……」

修道服に身を包むティファニアは観衆達の熱気に戸惑っているようだ。

「ま、戦争に勝ったんだからこれくらいは騒がしくなるものさ」

その戦争を先日、マチルダは直接この目で見届けてきたのだ。

既に足を洗ったはずの怪盗・土くれのフーケとして、アルビオン軍の勝利を盗むために暗躍していたのだから。

おまけに襲いかかってきた悪魔達をこの手で退けたのだ。

それは決して楽なものではなく、フーケとして修羅場を潜り抜けてきたマチルダであっても危うく殺される所だったのである。

だが、マチルダは生き残った。守るべき者の元へ帰るために必死に杖を振るい、生き残ったのだ。

結果、この妹分であるティファニアと再会することができたのだ。

「あの人が、この国の王女様?」

目の前を通りがかる一角の聖獣ユニコーンに引かれた馬車の小窓が開け放たれ、アンリエッタ王女が顔を見せる。

バラのような笑顔を振りまき、観衆達の声援に手を振って応えていた。

そうして観衆達の熱狂的な歓声はさらに強まるのだ。

「ええ。アンリエッタ王女……今じゃ〝聖女〟なんて呼ばれてるみたいだけどね」

「聖女……」

ティファニアは目を丸くしたまま、アンリエッタをじっと眺めている。

そして、優雅に微笑んでいるアンリエッタにつられて自分も微笑み返し、控えめにひらひらと小さく手を振っていた。

 

あのタルブでの勝利以来、アンリエッタは聖女と呼ばれて崇めらるようになった。

まあ、別にアンリエッタ自身はタルブではこれといって特別なことはしていない。王女が行ったのは、侵略してきたアルビオン軍を兵を率いて迎え撃ったということだけ。

だが、その行動を起こした結果、アルビオン軍は様々な要因はありつつもトリステインに敗北する末路を迎えたのである。

故にアルビオン軍を迎え撃つためのきっかけを作ったアンリエッタがそのように称えられるのも頷けた。

 

「ま、これからはあのお姫様も女王になるんでしょうけどね」

「女王様に?」

「そうさ。あのお姫様にはこれから色々と苦労が待っているってことだよ」

話によれば今回のタルブ戦役の勝利によってアンリエッタ王女は女王に即位することが決まったそうである。

このトリステインには長らく国の頭となる王位が空位のままであったそうだが、今回のアンリエッタの即位で新たな若き王が誕生することになるのだ。

ちなみにゲルマニア皇帝との婚姻の話は無かったことになったそうで婚約は解消、しかも軍事同盟は結ばれたままなのだとか。

「さ、それじゃあそろそろ戻るよ」

パレードの一団が完全に通り過ぎたのを確認すると、マチルダはティファニアの肩を抱き群衆の中を掻き分け、チクトンネ街方面に向けて進みだす。

戦勝祝いで沸き続けるトリスタニア城下町は至る所で、酔っ払いの一団が「乾杯!」と叫んでは酒をラッパ飲みにして空にし、賑わい続けていた。

マチルダに連れられるティファニアはそうした連中の傍を通りかかる度に困惑したような様子でちらちらと眺めている。

 

「おぉい。待ってくれよ、お嬢さん」

中央広場を通り過ぎてチクトンネ街まで入った途端、ティファニアとマチルダを三人の男達が呼び止めてきた。

やはりそこらで騒いでいる酔っ払いと同じで、見た所傭兵崩れのようであった。

相当に酒が入っている様子であり、顔を朱に染めている。

突然の出来事にティファニアは戸惑った様子で自分達に絡んできた男達を見つめる。

「なあ、尼さん。どうか俺たちに一杯注いでくれねえかい? 今日はせっかくの戦勝祝いのお祭りなんだ」

「そうだぜそうだぜ。どうか俺達にも尼さんの祝福をいただけないものかねぇ?」

下碑た笑いを漏らす男達は杯と酒瓶を手に迫ってくる。

と、マチルダは男達の視線を追い、ティファニアの豊満な胸へといっていることに気付いた。

どうやらこいつらは修道服の上からでも分かるティファニアの体が目当てなのだろう。

(この下衆め)

マチルダは思わず目を細くし、内心で吐き捨てる。

「え? えっと……」

突然のことにティファニアはどうすれば良いのかが分からずに困惑しっぱなしだ。

別にやりたくないのであれば断ればいいだけの話だが、まだ世渡りには慣れていないティファニアでは断れるはずもない。

もっとも、相手の様子では断っても無駄であろうが。

「さあさあ、俺達と付き合ってくれよ。尼さん」

ニヤニヤと笑いながら男はティファニアの腕を掴もうと手を伸ばしてくる。

「汚い手でこの子に触るんじゃないよ!」

が、それを見咎めたマチルダはティファニアの肩を抱いていた手で男の手を遮り、バシンと引っ叩いた。

「何しやがるんだ、このアマぁ!」

激昂した男はマチルダに掴みかかろうと詰め寄ろうとした。

男達にとっては大人の美女であるマチルダも悪くはないと思ってはいたが、彼らの目当てはあくまでティファニアなのだ。

マチルダはすかさずティファニアを庇うように後ろへと下がらせると、杖を抜き既に唱え終わっていた魔法を叩き込もうとする。

 

が、どちらも己の行動を相手に成すことはなかった。

「「「うわあっ!」」」

突如、一陣の突風が吹いた途端、男達はまとめて十メイル以上も吹き飛ばされていたのだ。

念力で伸してやろうと考えていたマチルダであったが、突然の出来事に呆然とした。今のは風系統の魔法、ウィンド・ブレイクである。

当然、これは自分によるものではない。風系統の魔法は自分の系統上、得意ではないのだから。

「せっかくの戦勝祝いに野暮な真似はやめてもらおうか」

突如、聞こえてきたのは粗野ではあるが、どこか気品のある男の声。

「な、何だ! てめぇは!」

声のした方を振り向けば、そこには一人の金髪の男が立っていた。

ぼさぼさにした髪にはバンダナを巻き、左目にアイパッチを装着したその青年は手に杖を握っている。

青いジャケットを着崩したその身なりからして傭兵メイジか何かなのだろう。この青年が男達に魔法を使ったようだ。

袖捲りをしている腕など、所々覗けている肌には無数の傷痕が見えている。

「メ、メイジ? き、貴族か!?」

突然現れた相手がメイジだと知り、男達はうろたえた。

「いいや。ただの落ちぶれ者さ」

自嘲した笑みを微かに浮かべると、青年はさらに杖を構えて呪文を唱えだす。

瞬く間に、その杖に小さな風が纏わりついていく。

「や、やべえ! ずらかるぞ!」

傭兵である男達は腰に拳銃を下げていたものの、相手がメイジだと知って分が悪いと判断したようだ。

呪文を唱えられる前に銃を構えていればメイジが魔法を放つ前に撃ち殺していた所だが、あいにく既に呪文は唱え終わっている。

「ちくしょう! おぼえてやがれ!」

起き上がるなり、悪態をつきながら脱兎のごとく逃げ去っていった。

 

マチルダとティファニアが呆然とする中、青年は杖を収めると何事も無かったように立ち去ろうとする。

助けた二人に声をかけることもなく、青年は人ごみの中へと消えて行こうとしたが、ティファニアは恐る恐る声をかけてみた。

「あ、あの……ありがとうございます」

すると青年はティファニアの方を振り返ると、何も答えぬままただじっとティファニアの顔を見つめだす。

しばらくすると、彼は何故か安堵したような微笑みを浮かべて頷いた。

それからはもう振り返らずに二人の前から立ち去っていく。

(あいつ……)

歩き去る青年の背中を見届けるマチルダは微かに眉を顰めていた。

今の顔は、どこかで見たことがある――いや、それどころか会ったことさえあるような気がする。

「どうしたの、マチルダ姉さん」

ティファニアが思いつめた顔をするマチルダに声をかけるものの、当の本人はティファニアの肩を抱いたまま沈黙を続けていた。

「今の人、姉さんの知り合いなの?」

もしやと思ってそう尋ねてみるが、やはりマチルダは何も答えない。

数分の沈黙の後、マチルダは小さくため息を吐くとようやくティファニアを振り返り、微笑んだ。

「……いいや、何でもない。赤の他人さ」

そうだ。自分はあの傭兵メイジのことなど何も知らない。

自分と同じ、表の世界からは消えてなくなってしまった人間のことなど。

かつては会ったことがあろうと、全てを捨てた者の後のことなど知る由もないのだ。

 

 

 

 

アンリエッタ女王の要請を受けて出席したトリスタニアでの諸侯会議から五日後――

 

形式上、ルイズの使い魔としてハルケギニアに召喚されたスパーダに対する魔法学院の人間達の印象は様々なものがある。

 

異国から流れて来た平民出身の没落貴族――

魔法を操るメイジですら歯が立たないメイジ殺しの力を持つ剣豪――

表面上は近寄りがたい威厳を纏った冷徹な貴族――

つっけんどんな所はあるが多くのハルケギニアの貴族達のような傲慢さとは無縁な男――

そしてまた新たに彼を印象付ける要素が認識されるようになっていた。

 

それは、異国の技術に精通した者――すなわち錬金術師としての一面だ。

 

先日、ルイズのためにエリキサの霊石を作るための錬金術を実施するためにコルベールの研究室を借り受けることになってからというものの、スパーダは毎日そこへ入り浸るようになっていた。

ギーシュ達生徒らへの剣の特訓は既に彼ではなく、彼の弟子であるギーシュが主体となって自主的に行われるようになっていた。

何しろ、今のスパーダはとても忙しいのだ。

アンリエッタ女王が新設する近衛隊、銃士隊の隊員達に支給する予定となっている武装の一部を、スパーダが作ってやることになったからである。

 

銃と剣を操り、戦力を補強するためのマジックアイテムを持たせることで、メイジにも匹敵する力を持たせる……それが銃士隊のコンセプトだ。

だが、魔法至上主義であるこのハルケギニアでは剣や銃のような武器は下賎な道具として貴族達に見られているため、魔法効果を持たされた武器というものはあまり真剣に研究されてはいない。

それどころか、体面などを一番に気にする性質上、従者に持たせる武器も見映えばかりを優先した実用的とはほど遠い代物ばかりなのだ。

高名なメイジが錬金で鍛え上げた鉄をも斬り裂くという触れ込みがある黄金の剣があったとしても、実際は鉄はおろか岩さえも斬ることができない鈍らであったりするのだ。

そんなものはまさに貴族達の虚栄心の塊そのものでしかない、役立たずの飾り物である。

故に銃士隊の隊員が持つ武器をそのような中途半端な代物とするわけにはいかないのである。

 

スパーダも悪魔である以上、魔具を生み出す技術は当然身に着けている。

だが、さすがに本物の魔具を持たせるわけにはいかず、あくまでハルケギニアのメイジでも製作が可能なレベルの魔法効果の付与されたマジックアイテムを錬金術で作ることにしたのだ。

そのために魔法学院に戻ってきてからすぐに再びコルベールの研究室を借りることになった。

コルベール自身は「遠慮せずに使ってくれ」と許可をくれているため、スパーダもありがたくコルベールの研究設備を使わせてもらっていた。

足りない物は時空神像を利用して補っている。

 

そのスパーダの錬金術に興味を持った一部の生徒や教師は、その実演を一目見ようと普段は誰も近づかないコルベールの研究室である掘っ立て小屋に足を運んで覗くようになったのだ。

異邦から来た没落貴族として見られている以上、スパーダは系統魔法を使えない者と認識されている。

だが、系統魔法以外の様々な魔術や秘術に精通する者として新たに印象付けたのである。

もちろん、彼を好ましく思わない者……特に一部の教師達は得体の知れない術を使う異端者と陰口を叩いていたが。

 

この日の午後、スパーダは研究室で椅子に腰掛け、一冊の本を読み耽っている最中だった。

数時間前までは生徒達や研究室の持ち主であるコルベールが実演を見学していたのだが、コルベールと共に授業へ行ってしまったのである。

そして残ったのは、スパーダの行動を個人的に監視し続けていたタバサのみとなっていた。

 

彼の横の大机の上には、十本以上にもなる長剣等の武器が重ねられていた。

どれも街の武器屋でも取り扱うような至って普通な鋼鉄製の剣であるが、実際はただの剣ではない。

それぞれ鍔の部位には円形の宝玉が硫黄色、炎色、水色と三色が三角上に嵌めこまれている。

その裏側にも赤い勾玉を中心にし、左右には三日月状の緑と赤色の石が一つずつ嵌まっている。

この五日間、スパーダが錬金術を駆使して一本一本、精魂を込めて確実に鍛え上げた代物なのだ。

隊長であるアニエスは既に戦友の化身であるアラストルを所持しているため、これは全て他の隊員が振るうものである。

 

「相変わらず規格外なものばかりを……」

手にする本に目を通していたスパーダは思わず口端を綻ばせる。

本のあらゆるページには無数の挿絵が描かれ、注釈も簡単に記されている。

その挿絵の一部は明らかに銃と呼ぶべきもので占められていた。だが当然、ハルケギニアで出回っているような代物ではない。

あるページの挿絵にはこのような注釈があった。

 

『ティターニア――独立した自我を持つ生きた魔銃。所有者の意識と精神を乗っ取ることで自らが活動する肉体を得る』

 

「これでは銃を使うのではなく、銃に〝使われる〟ではないか……」

この本……レゾネに記されているのは全てが魔具であり、魔銃と呼ばれるものなのだ。

当然、魔具を作ることができるのは悪魔のみ。そして、精巧な魔銃を作ることができる悪魔はただ一人だけである。

 

銃士隊が使用する銃であるが、単純にマスケット銃や火打ち式の拳銃を持たせるだけでははっきり言って戦力の増強にはならない。

まずハルケギニアで用いられる銃器の中でも最新と言われるマスケット銃でさえ銃身内部にはライフリングが刻まれていない滑腔式であり、弾丸も球型なので命中精度が極めて低いのだ。

ライフリングの技術自体はハルケギニアにも存在こそするものの、ここでも弊害となっていたのは貴族達である。

武器は邪道とし、平民の武力向上を嫌う貴族達の反発によってあまり積極的には取り入れられてはいないのだ。どうしても必要な場合は特注品で作ってもらわなければならない。

 

剣と同じく銃もマジックアイテムとして運用させる必要があるのだが、スパーダは銃器に関しては知識はあってもそれを作ったり改造する技術が無いのでそれはできない。

そこでマキャヴェリに銃士隊に合いそうな銃の試作品を作ってもらうことにしたのだ。

スパーダがマキャヴェリにつけた注文はというと……。

 

1.銃身内部にはライフリングを刻み付け、弾道を安定させる

2.火薬は用いずに風石の力を使って弾を発射する

3.単発では心許ないので、銃身は複数あると良い

4.弾はできれば球弾ではなくドングリ型

5.あくまでもこの世界の人間でも作れるレベルの代物に留めろ

6.ルーチェとオンブラのようなこの世界にとっては規格外すぎる性能はいらん

 

というものであった。

連発式の銃自体は人間界でも16世紀の終盤頃にドイツのとある好事家な貴族が趣味で作らせた8連発式の回転拳銃として存在はしている。

さすがにそこまでの性能の銃は彼女達にはいらないが。

ゲルマニアで活動するマキャヴェリに先日手紙を送った所、昨日その返事と共に注文していた試作品が届いていたのである。

テーブルに重ねられた剣の横に置かれた封開けられた木箱の中に納められたのがそれであった。

外見は三つの銃身が束ねられた火打ち式の拳銃である。スパーダ自身は使ったわけではないが銃身にはライフリングが刻まれており、ちゃんと要件は満たしているようだ。

これを実際に銃士隊に使わせ、その性能を確かめてもらうわけだ。

ちなみに代金として100エキューを請求されたが、マキャヴェリ曰く「つまらない仕事だった」そうである。

まあ確かにマキャヴェリにとってはこれくらいの改造や製作は朝飯前なので不満を感じるのは分からない訳ではない。

 

では何故、マキャヴェリの魔銃のレゾネが届いたのかというと……。

手紙にはパンドラとアルテミスを預かっていることを記したら、そのことに対する返答と共にこれも送られてきたのだ。

パンドラはマキャヴェリがハルケギニアへやってきた際に落としてしまったものであり、アルテミス自体は複数作ってあるのでその一つだという。

スパーダが預かってくれているのであればそのまま使って構わないということで、ありがたくそうさせてもらうことにした。

そして、新しい魔銃がいくつか出来上がっているのでこのレゾネを読んで「必要があれば注文しろ」という言葉が添えてあった。

 

「それも破壊の箱と同じマジックアイテム?」

今まで持参した本を読んでいたタバサはスパーダの隣に来ると、横からレゾネを覗き込んでいた。

「ああ。別に必要はないが」

魔銃はあの二つとルーチェ、オンブラさえあれば充分なのである。

 

さて、スパーダは銃士隊のための装備を作り上げ、銃器の試作品も届いたので後はこれをトリスタニアへ届けるだけなのであるが、動こうとする様子はない。

実は今日、スパーダの元にトリスタニアの魔法アカデミーからの客人が来るという知らせが昨日届いたのである。

恐らくはルイズの姉であるアカデミーの研究員、エレオノールが来るのだろうが一体何の用事なのかは詳しいことは聞いていない。

だが、向こうから直々に出向いてくるというのであれば一応、会っておいてやろうということでその客人をこうして待ち続けているのだ。

そうして待ち続けること数時間……。

「おーい、スパーダ君」

研究室の扉が開け放たれると、姿を現したのはこの研究室の主である男、コルベールであった。

もう午後の授業が終わって戻ってきても良い時間帯だ。

「アカデミーからのお客がやってきたぞ」

「そうか。どこにいる」

「ああ。今、正門にいる。早く会ってあげたまえ」

「これはそのままにしておけ」

レゾネを机に置いて立ち上がったスパーダは机に置かれた剣の束と銃の箱を顎で指すと、研究室を後にして正門へと向かっていく。

タバサも本をしまい、その傍についていった。

 

 

 

 

「今日のコルベール先生の授業は中々面白かったわね」

「元はスパーダが教えてあげたものなんでしょう? そう感じるのは当然よ」

午後の授業を終え、土の塔から出てきたルイズとキュルケは肩を並べて歩いていた。

今日の午後はコルベールが教鞭を取り、ルイズ達のクラスを受け持って自らの知識を生徒達に教え込んでいたのである。

その講義の内容であるが、いつもは自分のおかしな研究を実演して生徒達からは呆れられてばかりのコルベールであったが、今日は違った。

スパーダがコルベールに伝授した錬金術を主体にしたものであり、今までに無い斬新な講義内容は生徒達を唸らせたのである。

「それにしても良かったわね。失敗しないで成功できて」

「う、うるさいわね!」

ルイズは手の平に乗るほどの小さな透明の石を手にしていた。キュルケも同じく炎のように赤く輝く丸い小さな石を手にしている。

錬金術の講義内容は、風石や火石といった貴重な精霊石を人工的に生成するというものである。

コルベールは杖は使わずに羊皮紙に描かれた魔方陣や様々な実験器具を用いて試しに火石を作ってみせたのだ。

その時は普段、コルベールの研究を認めない生徒達ですら驚嘆し、教室中から歓声が飛んだほどである。

生徒達も何人かその錬金術の実験を試しており、失敗する者もいれば成功する者もいた。

ルイズとキュルケも参加し、キュルケは自分の火の系統と同じ火石を作ってみせた。

ルイズが挑戦する際は生徒達からいつものように「ゼロのルイズはやめろ!」「どうせまた失敗するよ!」などと野次が飛びはしたが、本人は構わずに実験に手をつけた。

実験自体は必ずコルベールの補佐がつくため、ルイズはコルベールの言われた通りの作業を行った……。

……結果は、大成功だった。

ルイズは大気の力を集めた精霊石、風石を見事一発で作ることができたのである。

その光景に多くの生徒達が驚き、戸惑う姿を見せていたので普段からゼロのルイズと馬鹿にされていたルイズとしては見返してやれたこともあってとても充実した気分であった。

中には負け惜しみを吐く生徒もいたが、成功したという事実がある以上、ルイズは気にも留めなかったが。

「まあ、あたし達が異国の技術を学んじゃいけないなんて決まりは無いんだし、思い切ってダーリンから教わってみようかしら?」

「う~……」

確かにそれは悪くはない話かもしれないが、メイジとしての力もつけたいというのも事実。たとえコモン・スペルとはいえ魔法自体は使えるようになったのだから。

しかし、自分の系統は伝説の虚無。一体、何をどうすれば虚無の魔法を身に着けられるのか分からないのでどうしようもない。

この祈祷書はエクスプロージョン以外のページは相変わらず白紙のままであるし……。

しかもスパーダでも読むことができないらしく、結局はそれ以上は謎のままであった。

(そこんところが厄介な所だよなぁ。虚無の魔法って奴はよ)

「本当にそうよ……」

「……何、独り言を言ってるの?」

「え?」

怪訝そうに尋ねるキュルケにルイズはハッと我に返った。

今、確かに誰かの声が聞こえたのだ。いや、正確には頭の中に響いてくるようなものだったのだが……。

だがその声はキュルケのものではなかった。何しろそれは男の声なのだから。

しかし、どこかで聞いたような……。

 

「これ! ちびルイズ!」

「ひっ!?」

気付けば本塔前の正門広場までやってきて、唐突に横から響いてきたのは自分を叱り付ける声だった。

もはやルイズにとっては聞き慣れると同時に恐怖を感じるその怒鳴り声に間の抜けた悲鳴を上げてしまう。

恐る恐る、声のした方を向いてみれば……。

正門には一台の馬車が停まっており、ルイズの目の前には見慣れた金髪の女性が仁王立ちしていたのだ。

厳しい表情を浮かべ、腰に両手を当てたままつかつかと歩み寄るその女はルイズの姉、エレオノールであった。

「エ、エ、エ、エレオノール姉さま!?」

突然、ここにはいるはずのない自分の姉の存在にルイズの顔は真っ青になり、余計に困惑する。

「もっとシャキっとしなさい! ラ・ヴァリエール家の者がそんなにきょろきょろと戸惑ったりするものじゃありません! ましてや自分の学友の前なのよ!」

唐突にして姿を現したエレオノールはルイズをピシャリと叱りつけてきた。

頭の上がらない姉の出現にルイズはもう怯えた猫のように縮こまってしまっている。

「まあ良いではありませんか。ミス・ヴァリエール。わたくしフォン・ツェルプストーはそんな細かいことなど気にはしませんわ」

キュルケは挨拶ついでにエレオノールを宥めようとするものの、家名を出した途端、エレオノールはピクピクと眉を引き攣らせてキュルケの顔を睨みつける。

そして、再びルイズの方へ顔を向けると……。

「いだ! ひだだだだ!」

「このおちび~~~~~! よりによってゲルマニアのツェルプストーと仲が良いですって!? ご先祖様に恥ずかしくないの!?」

ヒステリックに喚きたてるエレオノールはルイズの両頬を抓りあげていた。

ルイズにとっては以前まで仇敵でもあったキュルケであるが、今となっては悪友にして正真正銘の学友という関係であったのだ。

だが、先祖代々因縁があるのを気にするエレオノールはそれが許せなかったようだ。

「で、でぼぉ……」

「でもじゃありません!」

必死に反論しようとするルイズであるが、エレオノールの怒りは治まらない。

「エレオノールさん。良いではありませんか。昔は仲が悪かったとしても、今の二人は友人として付き合っているんですよ?」

突然かかったのは穏やかな雰囲気と気品のある男性の声だった。

馬車の方から三人の元へ黒ずくめの青年が静かに歩み寄ってくる。

キュルケはその青年の端正な容姿に見惚れ、「あら、いい男」と呟いている。

「あなたは黙っていなさい! モデウス!」

エレオノールは肩越しに振り返り、そのモデウスと呼ばれた青年を睨む。

(モ、モデウス?)

エレオノールに抓られながらもルイズは現れたその青年の名前と姿に目を見張った。

以前、時空神像のエレオノールの記憶を通して目にした黒髪、黒ずくめの男。

二日酔いをしたエレオノールに秘薬を渡したというその男は、自分のパートナーであるスパーダも見知っていたという。

何故なら、その男はかつてスパーダに師事し、彼の元で剣を教わっていた悪魔だというのだから。

作品の良かったところはどこですか?

  • 登場人物
  • 世界観
  • 読みやすさ
  • 話の展開
  • 戦闘シーン
  • 主人公の描写・設定
  • 悪魔の描写
  • 脚色したオリジナル描写・設定
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