魔剣異聞録~The Legendary Dark Slayer/Zero 作:月に吠えるもの
ニューイの月の三週目より、トリステイン魔法学院は夏期休業に入る。
およそ二ヵ月半にも及ぶ長い休暇であり、生徒達は実家の領地や親が王都で勤めているトリスタニアへと向かうのだ。
魔法学院はその間、極僅かの当直の教師を残して解放されたままとなるのである。当直は予め決められた日ごとに交代で行われ、帰省していても定期的に訪れなければならない。
最初にその役目が回ってきた教師はコルベールであった。
身寄りがないというコルベールは例の研究室が彼にとっての家であり、夏期休業中であろうと魔法学院に残り続けるのだ。
――ヒヒィーーーンッ!!
昼下がり、タルブ村へと続く街道に力強く響き渡る馬の嘶き。
それと共に虚空が揺らぎ、巨大な影が飛び出てきた。
蒼ざめた炎を身に纏う巨馬は大地に着地すると共に、速度を落とすべく前足に力を入れて踏ん張りだす。
それまで馬の倍は速く走れる幻獣ヒポグリフを凌駕する速さで走り続けていたゲリュオンは勢いを殺しきれぬまま慣性に従い、そのまま地を滑っていった。
「「きゃああああああっ!」」
急ブレーキを行うゲリュオンが引く馬車の上で二人の少女――ルイズとシエスタが悲鳴を上げ、同乗するスパーダにしがみついていた。
なだらかな斜面をおよそ50メイルほど進んだ所でようやくゲリュオンは停止し、その場で立ち止まる。
「着いたぞ。もう離れても構わん」
腕を組んだまま座るスパーダは自分にしがみついている二人に呼びかける。
「あうぅ~……激しすぎるわよ……」
二人は恐る恐る顔を上げ、ホッと安堵の溜め息をついていた。
「……この暴れ馬! もうちょっと優しく止まりなさいよ!」
ルイズは馬車の上で立ち上がるなりゲリュオンに対して癇癪を起こしていた。
だがゲリュオンは荒い息を吐くだけで、ルイズの怒りの声など気にした風もない。
乗馬が得意なルイズからしてみればゲリュオンの走りは乗り手のことなど気にしない上、あまりにも荒く激しすぎたため怒り出すのも無理はない。
下手をすれば速さと勢いに耐えられず振り落とされかねないほどのものだった。
事前にスパーダが掴まっているよう忠告はしてきていたので、かろうじてそうはなりはしなかったが……もうこんな暴れ馬には乗りたくない。
「スパーダさんの馬……これくらい走らないと満足しないんですね……」
機嫌が良さそうに首と炎の鬣を振るい、蹄を踏み鳴らしているその姿を見たシエスタはゲリュオンの精神状態がどうなっているかを察していた。
「そういう奴だからな」
元々は戦場を駆け回っていた戦馬であった以上、自分の気が済むほどに走らないとゲリュオンは満たされないのだ。
「あのゲリュオンって馬、本当に速かったわね。シルフィードでもぎりぎりだったわ」
上空からゆっくりと降下してきたタバサの使い魔・風竜シルフィードの上でキュルケは呆気に取られていた。
ゲリュオンの隣にシルフィードが着地するとタバサはひょいと飛び降り、キュルケも後に続く。
「きゅ……きゅいぃ……」
「わたしが呼ぶまで空で待っていて」
シルフィードが悪魔であるゲリュオンを怖がっている様子にタバサはそう命じる。
きゅい、と一鳴きしたシルフィードは翼を広げ、逃げるようにして上空へと飛び上がっていた。
「それじゃあ、あたし達も失礼させてもらうわね。ほら、ルイズ。もう少しそっちへ行ってちょうだい」
「ちょっと、押さないでよ……きゃっ!」
タバサとキュルケがゲリュオンの馬車に乗り込み座り込むと立ったままのルイズは声を上げるが、突如ゲリュオンが動き出したために馬車の上に倒れてしまった。
「何すんのよ! 動くなら動くって言いなさいよ!」
人語は解せても口は聞けないゲリュオンには無理な話であるが、ルイズは文句を言い出していた。
「ほら、ちゃんと座ってなさいよ。落ちちゃっても知らないわよ」
「うるわいわね。分かってるわよ」
キュルケに言われ、ルイズも拗ねつつようやく座りだす。
キュルケの隣に座るタバサは、以前死闘を繰り広げたゲリュオンの背中を観察していた。
一行を乗せるゲリュオンの馬車は、そのままゆっくり――だがそれでもそれなりに速度をつけたままタルブ村へと進んでいった。
スパーダ達が夏期休業となった魔法学院を離れ、こんな田舎まで来ているのは何も遊びにきたからというわけではない。
当然、学院が休業の間はシエスタら給仕達も必然的に休暇が与えられることになる以上、シエスタはそれまでの間は帰郷することになるのだ。
先の戦争で被害を受け、現在は復興中であるはずのタルブの様子を見るためにもスパーダはシエスタの帰郷に付き合うことにしたのである。
一緒についてきたルイズも本来ならば実家のヴァリエール領へと帰省するはずで、姉のエレオノールが迎えに来ることになっていたのだが……そうはいかなかった。
昨日、トリスタニア王宮での銃士隊長アニエスの叙勲と就任、そして決闘を見届け学院に戻ってくると、エレオノールからルイズ宛てに手紙が届いていた。
それによるとエレオノールはアカデミーの上層部より急に新たな仕事が与えられたため、迎えに行くまでもう何日か時間がかかるということだ。
よって、その間は時間を持て余すことになったルイズはスパーダについてきたのである。
キュルケとタバサがついてきたのは、帰省はせずに学院に残るという数少ない居残り組であり、単純に退屈であったからだ。
そうして学院を発った一行であるが、スパーダは自らが使役しているゲリュオンを呼び出し、それに乗っていくことにした。
ルイズとシエスタはタバサのシルフィードの方に乗り込むことができたにも関わらず、スパーダと一緒にいることを望んだためにゲリュオンの馬車に乗り込んだのである。
しかし、魔界の暴れ馬である上級悪魔・ゲリュオンの馬力と速さは圧倒的であり、ルイズは悲鳴を上げ続けシエスタもスパーダにしがみつき続けていた。
タルブまでは馬ならば通常、数日はかかる距離であるのを亜空間を自在に移動できるゲリュオンの能力により地形や障害物を無視することで一直線に突き進み、僅か数時間で到着したのだ。
◆
「うわあ! な、何だ! あの馬は!」
「か、怪物か!?」
「この間の悪魔だ!」
タルブの草原の一角に設けられた野営地にゲリュオンが現れ、人々はその威容な姿に驚きだす。
一般の馬より倍はある巨体である上、完全武装された戦馬車を引いているという物騒な姿であるのだから当然かもしれないが。
しかもその全身には炎を身に纏っている姿が余計に恐怖を刺激する。
「ん? あれは、シエスタじゃないか?」
「フォルトゥナ様までおられるぞ」
「何だ、フォルトゥナ様の使い魔ってことか」
ゲリュオンの出現に野営地はパニックなるかと思われたが、その馬車に乗っている者達が降りてきたことですぐに村人達の混乱と緊張は解かれていた。
戦火に焼かれたタルブを蘇らせるために力を貸してくれた貴族、スパーダの来訪を目にしたことで村人達は安堵する。
「お姉ちゃん! お帰りなさい!」
「今度は大きなお馬に乗ってきたよ!」
ゲリュオンの馬車から降りてきたシエスタの元に幼い弟妹達が集まってくる。
姉の帰郷を喜ぶ弟妹達の肩を抱き、シエスタは笑顔を浮かべていた。
「これはフォルトゥナ様。ようこそおいでくださいました」
「その後の状況はどうだ」
スパーダ達の元にやってきた一人の老人はタルブの村長であった。
歩み出てきた村長にスパーダは手短に尋ねる。
「はい。王宮から仕わされた方々のご協力もあり、順調に復興は進んでいます」
「そうか。ならいい」
周囲を見回せばアンリエッタが派遣したのであろう兵達が村人達と共に資材を運んでいるのが見えるし、村人への施しでパンなどの食糧が配られている様子も窺えた。
野営地には仮の住まいとして一世帯ごとににしっかり天幕が張られているため、この分ならばひとまずは安心というところだろう。
スパーダ達は村長と共に復興の現場へと足を運んでいた。
「うわ、もうこんなに進んでるのね」
「お父さんも一生懸命がんばってるんだよ!」
「早く元通りになるといいね」
シエスタは作業現場の状況を目にするなり、目を丸くしていた。傍では弟妹達もはしゃいでいる。
数週間前までは完全に焼き払われ、無残な廃墟と化していた村には既に家屋の一部がある程度出来上がっていた。
「へえ、ずいぶんとはかどってるみたいね」
「あれなんてもうほとんど終わってるじゃない」
キュルケもルイズもたった数週間でここまで復興が進んでいることに驚いている。
現場には村人や兵士達、そして人間以外の存在までもが作業にあたっているのだ。あれはどうやら魔法人形――ガーゴイルのようである。
「フォルトゥナ様のご指示通り、例の石を売って得たお金は全て復興に投入致しました。おかげで腕利きの職人を雇えましたし、ああしてガーゴイルも取り寄せたのです」
アンリエッタ女王の命により派遣された兵士達、ゲルマニアからの大工や職人、そしてガリアより取り寄せられたガーゴイル。
外からの物資の運搬も竜を使って運んできているため、かなりスムーズに作業ははかどっているのだ。
村を再建するためには惜しみなく、最大限に復興のための力を結集させる。それはスパーダが村人達が復興を始める際に告げた言葉である。
その言に従った結果、確実にタルブは再生の兆しを見せ始めているのだ。
この様子なら一ヵ月後くらいには村が再建するのも夢ではない。
だが、それでも村の問題が全て解決したというわけではないのも事実だった。
「これでは足りんな……」
タルブの村が修復されている様子を眺めていたスパーダはそのようなことを呟いていた。
「どういうことなの? 足りないって」
「何か不都合なことがございますかな。フォルトゥナ様」
ルイズ達はもちろん、シエスタも村長もその言葉を聞き、怪訝そうな顔をする。
「……どの道、今すぐには実行できんことだ。また今度話す」
スパーダの頭の中には何かしらタルブの更なる復興のための考えがあるのだろう。それは一体何なのか、今聞きたいくらいである。
しかし、スパーダはそれ以上のことを何も話しはしなかった。
当の本人が『今は無理』だと言っているのだから。
「本当に安心しました。あんなに復興がはかどってるなんて、驚いちゃったくらいです」
復興作業が順調であることを確認したスパーダ達が野営地へと戻る中、シエスタは安堵に満ちた表情を浮かべていた。
「そりゃああれだけ人もいるし、おまけにガーゴイルまで使っているんだものねぇ」
スパーダは復興資金の調達方法から、その資金をどう投入するか村人達にアドバイスを送った。
しかも国内だけでなく、国外からの協力も得られるような施策を行った。それが全て、見事に功を奏したのだ。
ゲルマニアという強国の出身であるキュルケの協力もあったからこそのものだ。
「やっぱり、だてにフォルトゥナの領主様をやってないのね」
スパーダは元は異国の島国、フォルトゥナを治めていた領主だ。
ルイズは時空神像の記憶を介してその姿を目にしていたが、スパーダの領主としての手腕・施政能力は一言で言えば有能だった。
領民や領地に何か問題があれば率先して解決にあたり、冷徹に的確な指示を出すことで効率よく自領での問題を解決していたのだ。
領主として統治していた頃の経験が活かされ、タルブはスパーダの施政によって今こうして確実に再生の道を歩んでいるのである。
「フォルトゥナのおじさん、領主様だったの?」
「それなら、ここの領主様になってくれればいいのにね」
先のアルビオンの侵攻でタルブの領主だったアストン伯は戦死してしまったため、タルブ領はトリステイン王家に献上され直轄・管理することが決まっていた。
しかし、王家が辺境の田舎であるタルブのことを常に気を配ってくれるわけではない。
今は緊急であるため人員が派遣されているが、それも村の復興が済み自足ができるようになれば当然引き上げてしまう。
領民はその土地を治める主の庇護の元で日々の生活を安全に過ごすことができるのだ。
前任のアストン伯は平凡な領主ではあったが、最低限の勤めは堅実にこなしていたため、それまでに大した問題はほとんど起こりはしなかった。
その主がいなくなってしまった以上、復興が済んだ後にも様々な問題が持ち上がるだろう。
そうした問題を報告すれば――領主がよほどの愚鈍や無能、横暴でもなければ――問題解決のために動いてくれるのだ。
「そんな無理なこと言っちゃ駄目よ」
無邪気にそのようなことを言い出す弟妹達にシエスタは言いつける。
「あら? ダーリンは一応、貴族なんだしタルブ一帯をお金で買っちゃえば領主様になれるはずよ。そうでしょ? ルイズ」
「う、う~ん……まあそうだけど……」
ルイズは微妙な表情をしながら唸っていた。
確かに外国人であっても貴族であれば領地を購入することはトリステインの法律上、何の問題はない。
しかし、スパーダはハルケギニアではなく異邦の貴族ということになっており、部外者であるのだ。
故にスパーダがトリステイン国内の領地を購入することができるかどうかは……微妙な所である。
「そんな金がどこにある」
スパーダはそんな彼女達の話題を一蹴にしていた。
(でも、スパーダさんが領主様になってくれたらなぁ……)
しかし、シエスタは内心ではそのような思いと願望を抱いていた。
スパーダはシエスタが多大な信頼を寄せるほどに聡明な貴族だった。
冷徹で寡黙ではあっても、こうして自分達平民に対しても分け隔てなく接してくれる彼はとても安心でき、心強い存在なのだ。
もしスパーダがタルブの領主になってくれたなら魔法学院での奉公を辞めて、スパーダの元で召使いとなって働きたいくらいだ。
自分が……悪魔の血を引く自分が仕えるべき主……。それが、同じ悪魔であるスパーダだった。
もっとも、当の本人はそんな気はないのも見て明らかなのだが。
「本当に商人が多く来てるわねぇ」
「みんな例の魔光石を買うために来てるんでしょ」
野営地はタルブの村人や派遣されてきた人員だけでなく、そこかしこに商人達の姿が見える。
彼らは現在、このタルブの地でしか採取できない希少なレアメタルである魔光石を求めてここにきているのだ。
「あの石だけじゃないみたいです。ほら、あそこを……」
シエスタが指差した先では商人が何やら樽を丸ごと購入しているのが見えた。
「以前からタルブにはワイン商が訪れていたんです。ここで作られたワインをああして買い取ってもらって、別の町や国に売っているんですよ」
タルブでは良質なブドウが栽培され、それによって作られたワインは土地の名品として知られている。
先の戦争で田畑が焼き払われ、当然ブドウ畑にも多大な被害が出ていたが、その全てが焼かれたわけではなかった。
村に近い方の畑は焼かれてしまったが、不幸中の幸いかそこから離れた山の近くにあるブドウ畑には被害はなかったのだ。
おまけに作られたワインの保管は村の地下倉庫で厳重に行われていたため、そちらも幸いにも無傷であった。
「でもワイン畑がほとんど焼かれちゃって、村が再建した後元に戻すのは大変ですよね。きっと……」
かろうじて保管していたワインがあったおかげで今もああして取引はできているものの、現状は深刻なのだ。
ワインを醸造する設備もタルブにはあったが、それさえも失ってしまったのだ。量自体は問題ないが、復興が済むまでは新たにワインを作ることもできない。
というより、田畑自体が焼かれている以上、小麦などの主要な作物の収穫さえ絶望的なのだ。
「お姉ちゃん……」
シエスタが憂いの表情を浮かべているのを見て弟妹達は心配している。
スパーダはそんなシエスタをちらりと見やるが、すぐに視線を外していた。
日が落ちた頃になると野営地では夕食の配給が行われており、シエスタは母親と共にその手伝いを行うことにした。
それと同時に、野営地ではある取引が行われることとなり、昼間と変わらぬ賑やかを保っていた。
魔光石の取引は週に四回、一日のインターバルを置いて行われている。
魔光石を採取し取引ができる大きさに加工する日と、その魔光石を実際に売る日とで分けられていた。
そしてその採取と取引が行われるのは日が落ちてくる夕刻以降からであった。
魔光石は昼間などの明るい時はただの石でしかなく、まだ浄化されていない状態のものもあるため、魔光石が光を放ち始める環境になればどれが浄化されている石なのかが分かり、採取が容易となる。
そして取引に関しても魔光石の効果を示しておかないと、初めて取引をする者がその信憑性を疑い、買い取ってくれないのだ。
基本的に夜間の短い時間で採取が行われるため、一日に採取できる量の平均はおよそ20~30リーブルほどだ。
「おお! これが例の光る石なのだな!」
夕刻となり日が大分落ちてきた今、実際に魔光石の取引が始まっている。
台の上には今回採取された魔光石が並べられて淡い光を放ち、商人達が目の色を輝かせていた。
「では、4リーブルほど買わせてもらおう! 600エキューでどうだね?」
「いやいや、同じ4リーブルならワシは800を出そう! ワシに売ってくれ!」
「なら私はその1.5倍、1200エキューを出すぞ!」
商人達は珍しい希少なレアメタルである魔光石を手に入れようと躍起になり、さらに値を吊り上げていく。
先日までは1リーブルにつき大体、100~150エキューが相場であったのが今ではさらにその倍にまで値は上がっているのだ。
このようにして購買者達の熱気は高まり、魔光石の価値は今や黄金に匹敵するものとなっている。
もっとも、そこまでの金を出してくれるのは商会に属するようなかなり規模の大きい商人だ。
中堅、小規模の商人だと1リーブル分しか買ってくれないのである。
「1リーブルで300エキュー……すごい値上がりよね」
「あれだけ高く売ってればあそこまで復興の人材や物資が集まるのも当然ね」
魔光石はもう黄金にも匹敵せんとする価値なのだ。今現在、タルブという田舎でしか手に入らないということからもプレミアがつく結果となっているのである。
本来ならば村にとっては莫大な利益となることは間違いないだろうが、村人達はスパーダの指示もあり、村の復興を最優先しているために全てが復興資金に回されているのだ。
「この数週間でおよそ7000エキューの利益か……」
「はい。こんな田舎ではまずこれだけ短期間で得られるものではございません。何もかもフォルトゥナ様のおかげでございます」
村長より手渡された魔光石のこれまでの取引が記された帳簿に目を通すスパーダ。
始めは1リーブル50エキューほどであったものが一週間で倍の100エキュー以上に、最終的には300~500と圧倒的なまでに値上がりしていた。
「このまま今まで通りにその利益は復興に回せ。魔光石の相場もこれ以上は上げん方がいい。今後は今の相場のままで取引を行うといい」
「承知致しました」
帳簿を返し、スパーダはルイズ達を連れて取引の場から去っていく。
◆
「では、また様子を見に来る。何かあったら魔法学院へ連絡を送れ」
「はい。またいつでもいらしてください」
タルブの視察を終えたスパーダ達はシエスタと別れ、魔法学院へ戻るためにタルブを後にした。
夜になったことでタルブの地に散らばった魔光石が光を放ち、闇の中に無数の光が浮かび上がり、幻想的な光景を生み出している。
この仄かな光が闇を恐れる人の心に安心感を与えてくれるのだ。
「あたしはもう嫌よ! そいつに乗るのは真っ平ごめんだわ!」
野営地の外へ出るなり、ルイズは大声を上げていた。
スパーダは再びゲリュオンに乗り込もうとしたのだが、ルイズはゲリュオンに乗るのを拒否したのだった。
「そうか。タバサ、いいな」
ルイズの言葉を聞いたスパーダは即座にタバサに確認を取り、タバサは頷いてくれた。
ゲリュオンを魔力へと変え体内に戻し、上空で待機していたシルフィードが降下してくると一行はその背に乗り込んでいた。
地上を荒々しく走っていたゲリュオンとは違い、やはり空を静かに飛べるシルフィードは乗り心地が良かった。
「それにしてもわざわざそれを買っていくなんてね。もしかして気に入ってるの?」
キュルケはスパーダが傍に置いている木箱を見ながら肩を竦めていた。
スパーダは帰り際にタルブのワインを購入していたのだ。その中にはワインのボトルが五本詰められているのである。
今は村の事情もあるため値段は通常よりも高くなっており、一本につき10エキューだった。
「ああ」
以前、シエスタの家に泊まった際にタルブのワインを口にしたスパーダはその味が気に入っていたのだ。
「ねえ、昼間にスパーダが言ってた……今タルブに足りないものって一体何のことなの?」
「そう言えばそんなこと言ってたわね」
学院へと帰路へつく中、シルフィードの背の上でルイズはスパーダにそう尋ねていた。キュルケもその話題には興味がある様子である。
元領主のスパーダがタルブ復興の様子を目にして何か気にかかることがあるのだろうと見ていた。
「産業だ」
「産業?」
「しばらく農業は再開できんし、第一それだけでは足りん」
タルブの主要な産業は農業であり小麦やブドウなどの作物が生産され、そこから土地の名産品であるワインも生産されていた。
しかし、田畑はタルブ戦役で焼かれたために深刻な被害を受け、同時に行われていた牧畜に関しても家畜は全滅してしまった。
故にタルブを支えることができる新たな産業が必要だと考えていた。
魔光石の取引による利益など所詮は一時的なものでしかなく、タルブを支え続けることはできない。
「元領主様なりの気配りって奴ね。で、何か考えでもあるの」
「一応な。だが、それには魔法学院へ戻らねばならん」
「そこで何か計画でも立てるってわけね」
キュルケもルイズも、スパーダが一体どのような計画を思いついているのか興味津々だった。
異国のフォルトゥナの元領主であるスパーダはどうタルブを再建しようというのか、まるで想像もできない。
夜が更けてくる頃になって、スパーダ達は魔法学院へと戻ってきていた。
既に生徒や教師達は帰省しているため、学院はほとんど無人に等しかった。
朝方には正門前で帰省のために馬車がごった返しになり騒がしかったのが嘘のような静けさである。
「遅いお帰りのようね」
「まだいたのか」
シルフィードを降り、正門を潜ったスパーダ達一行を出迎えたのは魔法学院の長、オスマンの秘書を勤めるロングビルであった。
彼女は一日の仕事を終え、夜の散歩をしていたのだった。
「オスマン学院長の仕事がまだ色々と残っているものだから……。私もその手伝いよ」
ロングビルは魔法学院が夏期休業中はオスマンが学院に用事がない限りはトリスタニアの修道院へティファニアに会いに行く予定だったのだ。
「明日は暇をもらえるから、あの子の所へ行くわ」
「そうか。まあ、ゆっくりすることだ」
「ええ、そうさせてもらうわ。……そうそう。あなた達がいない間に、あなた宛てにゲルマニアから荷物が届いたわ」
軽く労いの言葉をかけるスパーダに微笑んだロングビルは思い出したように切り出していた。
「そうか、来たか……」
その言葉だけでスパーダは送り主が誰であるかを察する。
「ミスタ・コルベールに預かってもらってるから、早く引き取りに行った方がいいわよ」
「うむ。……タバサ、もう一度シルフィードを飛ばせるか」
「ええ~? また出かけるの? 今日はもう休みましょうよ~」
疲れた声でルイズは不満そうに言い出す。
「別に付いてこなくても構わん。私一人でも用は為せることだ」
「何言ってるのよ。あたしも付き合うに決まってるじゃない!」
だが、ルイズは気丈に言い返す。パートナーの行動には最後まで付き合うのは当然なのだ。
作品の良かったところはどこですか?
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