魔剣異聞録~The Legendary Dark Slayer/Zero 作:月に吠えるもの
「「母様!」」
「カリーヌ!」
膝を突いたカリンの姿にルイズ達が声を上げていた。
「下がりなさい!」
思わず駆け寄ろうと足を動かす前にカリンは威厳のある声で制した。ルイズ達はその声にピタリと体が固まり、動けなくなってしまう。
カリンは静かに立ち上がり、杖を横へ流して水面に立つスパーダを見据える。
先程突撃して上空へ連行した際に落としたリベリオンがどこからともなく回転しながら飛来し、スパーダが掲げる右手へと吸い込まれていく。
「This is the end.(これで終わりだ)」
スパーダが冷たい声で呟くと、横へ振り付けたリベリオンの刀身を徐々に赤いオーラが包み込んでいく。
それに応えるようにカリンも自らの杖を掲げ、静かに呪文を唱えていく。
「お、おいっ! カリーヌ! あれを使う気なのか!?」
その様を目にする途端に公爵が年甲斐も無く声を荒げだす。ルイズとエレオノールはそんな父の慌てぶりに眉を顰めていた。
「この悪魔を滅ぼすにはもはやこれしかありません」
公爵の叫びにカリンが答えると、彼女の杖の先端に光が灯りだした。さらに同じ杖の役目を果たすブーツも同じように徐々に眩い光を放っている。
見る間にカリンの全身をオーラが包み、うねる炎のごとく強さを増していた。
「あいつ、本気か……!」
焦る公爵の顔を見てルイズは母がこれから使おうとしている魔法がスパーダを死に至らしめようという大技であることを察した。
今までの戦いですら常人ならまず間違いなく秒殺され、命を絶たれているであろう一撃ばかり繰り出していた。スパーダという悪魔を滅ぼすために。
だが、それでもこうして殺しきれない以上、全ての力を注いだ大技を持ってスパーダを殺す気でいるのだ。
カリンの周囲に小さな雷光がパリパリと音を立てながら纏わりつき、さらに掲げた杖の先の頭上へ集まり光の球が生み出されていく。
見る間に膨れていく光球と同様に蛇のように太く大きくなる雷光がさらに吸い込まれて際限なく巨大になっていった。
中天に浮かび上がりだしたのは、二つのトライアングル。
「う、嘘でしょう? あれって、ヘキサゴン・スペル……!?」
モデウスの肩を抱き体を支えるエレオノールが目を見開いて愕然とした。
カリンが今繰り出そうとしている魔法はスクウェア・スペルではない。
本来、メイジの足せる系統は四つまでしかないが、例外として複数のメイジ同士で魔法を上手い具合に組み合わせることでその威力を高めることができる。
それは極めて高度な技で実力者同士で息を合わせなければまともな力は期待できない。トライアングルはおろかスクウェアクラス同士であっても至難とされる。
だが選ばれた王家の血筋のみがそれを可能にし、魔力も詠唱も、動きさえもシンクロされることによって合体した魔法は絶大な威力を発揮する。
故に人間の限界であるスクウェアを超える魔法は二人以上のメイジの存在が不可欠である。
「こんな、こんなことがあるはずないわ……!」
だが、カリンはその強大なヘキサゴン・スペルをたった一人で使おうとしているのだ。
メイジには……いや、人間では決してあり得るはずの無い現象と光景をエレオノールは認められなかった。
「そりゃああれぐらい出来て当然だろうさ。もうお前さんらが知ってるメイジどころのレベルじゃねえんだからよ」
「な、何ですって? っていうか、あなた何なのよ! ペンダントが喋った……」
「喋って悪いってのかよ。まあ、そりゃあどうでも良いわな。とにかくお前さんらの母ちゃんはメイジのクラスで言うなら御覧の通り……ヘキサゴンクラスは確実だってことなのさ」
「は、はあ!? 馬鹿言うものじゃありません! メイジのクラスはスクウェアが限界……」
「そのメイジの限界と常識を超えちまってるのよ。もうありゃあほとんど化け物染みてるぜ。俺でも吸収し切れねえぞ、あんなの」
アミュレットのデルフの言葉にエレオノールは余計に混乱してしまう。
二人の話を聞いていたルイズは一気に血の気が引き、顔色が青くなる。
以前、アンリエッタが偽りのウェールズと共に繰り出した魔法。それを母はスパーダに使おうとしている。
スパーダならば防ぎきることは不可能ではないだろうが、それでも彼を殺そうとする一撃を放とうとしていることに変わりはない。
何者も介入することのできない伝説の魔剣士と烈風の騎士の戦いを前に動けなかったルイズは衝動に駆られて足を踏み出していた。
「ルイズ!」
「母様! やめて! やめてください!」
呼び止める父の声も耳に入らず、ルイズは大声で叫んだ。
激しく雷光が弾け散る音が絶えず続き、十メイル以上にも膨張していた巨大な雷球を掲げるカリンは、膨大な魔力の奔流を纏わせるリベリオンを手に身構えるスパーダから視線を外さない。
「スパーダは悪魔だけど、母様が思ってるような悪魔じゃないんです! お願いだから、もうやめて! これ以上戦わないで!」
必死にルイズは母に、そして自分のパートナーに訴える。
自分の大切な人達が互いに殺し合う――その果てに待つのはどちらかの死という残酷な結末。
まるで意味のない戦いを続ける二人のこの状況でさえルイズには受け入れ難いものだった。
「魔帝ムンドゥス所縁の者に、いいえ……悪魔に、人間を理解できる心など存在しないわ」
だがカリンはルイズの訴えを一蹴していた。
スパーダもまた、自分に立ち塞がる者は蹴散らす――という意思が滲み出た冷然とした顔を浮かべるだけだ。
「母様っ……」
あまりに非情な答えに、ルイズの中で何かの糸がプツンと切れた。
どうあっても二人は戦いを止めようとしない。ならば、それを誰かが止めなければならない。
マントの裏から取り出した始祖の祈祷書を開くと、ルイズは己の杖を手に静かに詠唱を囁きだす。
「ルイズ?」
謳うように紡がれていく呪文にエレオノールと公爵は怪訝そうにルイズを見つめていた。
それは二人が全く聞いたことのないルーンの調べだった。コモンスペルはもちろんのこと、風でも水でも、土でも火でもない未知の調べだった。
「デルフ……お願いするわ」
「おうよ! これなら行けそうだぜ。任せておきな! 唱え終わったらすぐ俺にかけるんだぜ!」
低い声で呟くルイズにデルフが答え、アミュレットが表面に刻まれるガンダールヴのルーンと共に眩い光を放ち始める。
公爵とエレオノールは今まで見たことのないルイズの姿に思わずたじろいでしまっていた。
一方、カリンが描いた二つのトライアングルは静かに絡み合い、生み出した巨大な雷球に巨大な六芒星を刻みつけていた。
二つのトライアングルが干渉し合い、荒れ狂う膨大な魔力のバランスを整える。
そしてその六芒星の中心に、さらに一点の光が刻まれる。
『風』『風』『風』、『水』『水』『水』、二つのトライアングル――そしてドットの『風』。
激しい稲光と荒れ狂う烈風を撒き散らしながら雷球を包み込むオーラ。
それは瞬く間に形を成し、巨大な竜の顔を彷彿とさせるものと化していた。
魔を滅ぼす騎士、『絶風』カリンが悪魔達との戦いの中で編み出した奥義。
選ばれし王家のみに許された系統をも超える、異端にして禁断の系統。
雷神の鉄槌――トール・ハンマー。
目の前に立つ悪魔を滅ぼすにはカリンが繰り出せる限界であるこの七つを組み合わせた系統を使うしかない。
愛する家族を悪魔の手から守るためにも。
「Just Die! Devil!!(滅びなさい! 悪魔め!!)」
ついに呪文が完成し、カリンは杖を振り下ろした。
竜のオーラが口を開き、咆哮する。その喉の奥に含んだ巨大な雷球と共にスパーダ目掛けて殺到した。
対するスパーダはまるで動じることなく後ろへ引き絞っていたリベリオンを手元でくるりと一転させ、一気に正面へ突き込んだ。
繰り出された渾身の突きが大気を抉りながら纏っていた紅蓮のオーラを突撃槍のごとき巨大な魔力の衝撃波として放っていた。
二つの膨大な魔力の塊はただ突き進むだけで周囲にとてつもない余波をもたらし、全てを紙きれのように吹き飛ばしてしまう。
どちらもまともに食らおうものなら人間はもちろん、強大な竜も悪魔でさえ塵一つ残らず消え去ることだろう。
ましてやぶつかり合えばどれほどの被害を撒き散らすかも分からない。
だが、二人が放った渾身の一撃が衝突することはなかった。
「何……?」
カリンは怪訝そうな顔で目の前で起きている出来事に呆気に取られる。
今にも二人の技がぶつかろとしていたという所で、突如その間に光が飛び込んできたのだ。
人の形をした青い光はカリンの魔法とスパーダの魔力に挟まれながらぶつかり合うのを遮っている。
『こりゃあさすがに厳しいもんだぜ……! ディスペルかけて正解だったな……!』
息も絶え絶えなデルフの声が響き渡る。
アミュレットのデルフが発現させ操るガンダールヴの魔人は右手でカリンの雷球を、左手の大剣を使ってスパーダの魔力の突進を受け止めていた。
ルイズが唱えていた虚無の魔法、ディスペルの力が込められた魔人の体はデルフリンガーの能力で吸収すると同時に魔力を中和している。
二つの魔を制する能力が見る間に二人の放った技の力を抑え込み、掻き消していった。
やがて荒れ狂っていた二つの魔力はまるで最初からそこに存在していなかったかのように跡形も無く消滅していた。
『ふぅーっ、いやいや大したもんだぜサーシャよお!』
デルフが歓声を上げると、ガンダールヴの魔人は宙を浮かんだままルイズの元へと戻っていき、その姿を幻のように消していった。
「ル、ルイズ……」
「あなた、一体……」
振り下ろした杖を構えたまま立ち尽くしているルイズを公爵とエレオノールは愕然と見つめていた。
たった今、この小さな娘が何者も立ち入ることのできない戦いに介入し、それを止めてしまったのだ。
カリンもまた自分の奥義をあっさりと消し去ったルイズに唖然としていた。
そんな娘の姿を見つめていたが、杖を下ろしたルイズは顔を伏せたままゆっくりと岸辺の方へ歩み出てくる。
「何で……っ!」
面を上げたルイズは今まで母はおろか家族のだれにもに見せたことがないような怒りの色で染まっていた。
「何でこんな馬鹿なことをするの!? どうして二人が殺し合わなきゃならないの!? スパーダ! あなたは母様を殺す気だったの!? そんなことをして何になるのよ!」
強烈な視線で睨まれるスパーダは静かにリベリオンを背に収めていた。
ルイズは今度は母、カリーヌの方を睨みつける。その目には涙が浮かび、怒りだけでなく悲しみの混じった複雑な表情を浮かべていた。
カリーヌは娘にここまではっきりと怒りを向けられ、思わず動揺してしまう。
「母様も……! どうしてスパーダを殺そうとしたのですか!? 彼はわたしの大切なパートナーなのに! 母様にも、父様にも、姉さまにも認めてもらいたかった大切な人なのに!」
普段からこうして面と向かって反抗したりすることなどあり得ず、そう教育もしてきたカリーヌは初めて見るルイズの姿に目を丸くする。
「彼は悪魔なんかじゃないわ! 母様はスパーダの何が分かるというのです! 何も知らないのに、悪魔というだけで殺そうとするなんて……!」
「ルイズ! 落ち着きなさい! 母様に歯向かうなんて失礼なことを……」
「姉さまは黙っていてください!」
慌ててエレオノールが駆け寄り、宥めようとするがルイズの怒りは治まらない。
「母様なんて……」
真っ直ぐと母の目を怒りの目付きで睨みつけるルイズはあらん限りの声で叫んだ。
「I hate you!(母様なんて、大嫌い!)」
娘からの悲痛な叫びにカリーヌは僅かに眉を顰め呆然とする。
「ルイズ……」
力なく腕を下ろすと、ルイズも肩を大きく上下させながらその場で立ち尽くしていた。
公爵もエレオノールもどうすれば良いのか分からず途方に暮れてしまう。
「旦那様! 奥様!」
そこへ執事のジェロームが数人のメイド達と共に姿を現し、駆け寄ってきていた。
「何事だ?」
血相を変えた様子のジェロームに公爵は我に返り、問いただす。
「カ……カトレア様が! お倒れになって……!」
息を切らしつつも何とか報告を行うジェロームの言葉に公爵はもちろん、ルイズ達三人の女性も一様に愕然とした。
◆
ルイズ達は大慌てで城の廊下をバタバタと駆け抜け、カトレアの自室へと向かった。
(ちい姉さま……!)
一番大切な家族の身に異変が起きた。それは特に病弱なカトレアには誰もが望まない展開だった。
「旦那様! カトレア様が……!」
「しっかり!」
公爵が先頭で飛び込むように扉を開け放ち中に入ると、そこではメイド達に介抱されるカトレアの姿があった。
「は……あ……あぐ……」
床に膝を突き、胸と喉を押さえながら苦しみ喘いでいる。
「ちい姉さま!」
「カトレア!」
ルイズとエレオノールは真っ先にカトレアに駆け寄った。
見ればカトレアの額や首筋からは大量の冷や汗が滲み出ている。
二人が呼びかけても何も返すことができずに蹲ったままだ。
病弱で今まで咳き込んだりすることは多々あったものの、ここまで苦悶したことなど一度もなかったはずだった。
「あれは……」
部屋を見渡すカリーヌが見つけたのはベッド横のテーブルに置かれていた瓶。
スパーダが渡していた何らかの薬だったであろうそれは中身が空になっている。
それが意味することは……。
「……カトレアに何を飲ませた?」
カリーヌは最後尾で入口に立つスパーダを振り向く。彼は中庭からここへ来る道中から今に至るまで全く平然としたままだ。
苦しんでいるカトレアとそれを気遣うルイズ達を静かに眺めているだけで何も答えない。
「答えろ! お前がカトレアに飲ませたのは何だ!?」
悪魔であるスパーダが用意した得体の知れない薬のせいでカトレアが苦しんでいるのは確かだ。
中身の正体が分からないままでいたカリーヌはカトレアが飲んだ薬の所有者だったスパーダに激しく詰め寄った。
「何だと? フォルトゥナよ! それはどういうことだ! 一体、ワシの娘に何をした!?」
公爵までもが妻と共にスパーダへ詰め寄るが、スパーダは一瞥すらせずに口を開く。
「少し黙れ、ピエールよ。もう少しの辛抱だ」
本名で呼ばれた公爵はスパーダが発したプレッシャーに思わずたじろぎかける。
「ハア、ハア、ハア、ハア……ッ! う、うう……!」
カトレアはさらに発作が強くなり片手を床について蹲ってしまう。
「ちい姉さま!?」
「カトレア!?」
「これは……」
見ればカトレアの全身から白と黒の煙のようなものが湧き出てきているのがはっきりと分かった。
「あ、ぐ……」
「しっかりして、ちい姉さま!」
想像を絶するであろう苦しみに悶え続けるカトレアだったが、やがて力なく床の上にバタリと倒れ込んでしまう。
直後、カトレアの体から湧き出た煙が彼女の頭上へと集まっていき、形を成していく。
「きゃあっ!?」
「これは……!」
ルイズが悲鳴を上げ、エレオノールまでもが驚愕に顔を歪めた。
現れたのはドス黒い煙と霧の塊で、その中には血走った無数の眼が剥いておりユラユラと蠢いているのが分かる。
一体どこに口があるのか分からないが甲高い奇声を上げているそれは紛れもない悪魔に等しい存在だった。
この世のものとは思えない気味の悪さに一同は嫌悪に顔を歪めてしまう。
――ギエエエッ……!
雷鳴のような鋭い轟音が響き渡り、苦しそうに蠢いていた悪魔のガス状の体が砕け散り、跡形も無く霧散していく。
前に出てきたスパーダがルーチェの銃を手にし、多量の魔力を注ぎ込んだ弾丸を放ったのだ。
「……ちい姉さま!」
「カトレア! しっかりしなさい!」
ルイズ達家族はもちろん、部屋中の動物達も次々と倒れ込んだカトレアの周りに集まってきていた。
「嫌あっ! ちい姉さまあ!」
「……だい……だい、丈夫……よ……ルイ……」
縋りつくルイズに息も絶え絶えに喋ろうとするカトレアだが、目は虚ろでまともに口を動かす気力さえも無い様子だった。
「喋ってはいかん! ルイズ、早くそこをどきなさい!」
公爵が命じてルイズが離れると、入れ替わるようにスパーダが屈んでカトレアの体を抱き起こす。
「スパーダ! ちい姉さまはどうしちゃったの!? 何とかして!」
「待っていろ」
取り乱しながら懇願するルイズにスパーダは懐から取り出したバイタルスターをカトレアの胸元にかざす。
生命力に満ちた緑の光が溢れだし、彼女の体を包み込んでいく。
ルイズ達、特にカリーヌは顔を顰めたままその様子を見守っていた。
やがてバイタルスターは光を失うと共に小さくなり溶けるようにして消えていく。
「スパーダ、さん……」
目を開いたカトレアはたった今まで苦しんでいたのが嘘のように、いつもの顔色に戻っていた。
バイタルスターの効果を知っているルイズはそんな彼女の顔を見て満面の笑みを浮かべる。
「誰か水を持ってきてやれ」
事も無げにスパーダは一行に告げると、呆然としていたメイド達が慌てて動き出していた。
◆
夕刻、居間に集まったヴァリエール家の面々とスパーダはソファーに腰を据えて向かい合っていた。
カリーヌはもうデビルハンターの正装からいつもの貴婦人の服装へと戻っており、公爵の隣の席に控えている。
その間でも目の前にいるスパーダとその隣に立っているモデウスに厳しい視線をぶつけ続けていた。
「ちい姉さま。お体は本当に大丈夫なの?」
「そうよ、カトレア。無理するんじゃないわよ」
スパーダと公爵達を挟んだ長いソファーにはヴァリエールの三姉妹達が並んで腰かけていた。
カトレアは数時間自室で休んでいた身であり、つい先程起きたばかりなのである。
「大丈夫ですわ。あんなに苦しかったのが嘘みたいです。スパーダさんがくれたお薬のおかげですわ」
心配する二人にニコニコと笑みを返すカトレア。
「ちい姉さまに一体何を飲ませたの? スパーダ」
「悪魔祓いの聖水だ。あの程度の悪魔ならば体から追い出すのも容易い」
錬金術により生み出されたホーリーウォーターは悪魔を消滅させ、魔界の瘴気や邪気なども浄化させることができる神聖な水だ。
スパーダほどの上級悪魔には効果が薄いが、中級以下の悪魔であれば一滴浴びせるだけでもかなりの効果が期待できる。
人間が飲んだ場合、もし肉体に悪魔が巣食っていた場合はそれを外に出させることも可能なのだ。
「何であんな気持ち悪いのがちい姉さまの中から出てきたのよ……」
「あれは魔界では大して珍しいものでもありませんが、人間にとっては病魔と呼ぶに等しいものです」
「じゃあ、まさかカトレアの病気の原因は……」
「ええ。妹さんに憑りついていたからですね。エレオノールさんらメイジの魔法では手が付けられません」
顔を顰めるルイズとエレオノールにモデウスが説明する。
あのガス状の悪魔は魔界ではどこにでも生息している脆弱な下等生物であり、他の悪魔達の餌になるのは日常茶飯事だ。
だが稀に人間界に姿を現すこともあり、憑りついた相手の命を少しずつ体内から喰らっていくのである。
それにより原因不明の奇病に侵されたようになり、大抵は命を喰らい尽くされて体を蝕まれ衰弱して死に至る。
スパーダはカトレアにこの悪魔が巣食っていたのを初めて会った時から見抜いていたのである。
「でもちい姉さまの体から出てきたってことは、もう病気は治ったのね? これで元気になるのよね?」
「残念だがそうはいかん」
顔を輝かせるルイズだがスパーダは冷然と返す。
「カトレアはかなり長い間、アレに憑りつかれていたらしい。その間に餌にされ、削られた命そのものは元には戻らん」
憑りついていた悪魔を体から追い出したためにこれ以上は命を喰われることが無くなったというだけに過ぎず、彼女の肉体そのものはボロボロなのである。
「じゃ、じゃあ……ちい姉さまはどうなるの!?」
「それはこれからのカトレア次第だ。あのまま憑りつかれていれば彼女に残されていた命はもって五年程度だっただろうが……」
表情一つ変えないまま残酷な言葉を口にするスパーダにヴァリエール一家の顔色が一瞬で青ざめる。しかし、余命を宣告された本人は逆に何の反応も示さず聞き入っていた。
そこへルイズがソファーのクッションを掴むとスパーダの顔目掛けて力一杯に投げつけていた。
「ちい姉さまの前でそんなこと言わないでよ! 馬鹿っ!」
「良いのよ、ルイズ」
金切り声を上げながら癇癪を起こすルイズをカトレアが宥めた。
「いつ自分の命の糸が突然切れてしまうかもしれないって、私も何となく分かっていたから……」
僅かに悲しそうに、それでも笑顔だけは絶やさないまま頷く。
「悲観はするな。これからの君次第で残された命を伸ばすことはできる。相応の生き方をしていればこの先、10年、20年と生きることができるかもしれん。だが、それには君自身に生きたいと願う心がなければならない」
スパーダの話をカトレアだけでなく、ルイズ達さえも真剣な面持ちで聞き入っていた。
真っ直ぐにカトレアと視線を交わすスパーダはさらに続けていく。
「私に言ったな。外の世界をルイズ達のように羽ばたいてみたいと。それだけの願いを抱いているのであれば君は充分にその命を保つことができるはずだ」
「スパーダさん……」
「もっとも、あの病魔から解放されてばかりだ。一ヶ月はこの城で静養していろ。それからルイズの夏期休業が終わるまで少しずつ体を慣らしていけば良い」
元々カトレアは体がルイズ達ほど強くなかったのに加えて悪魔に憑りつかれたために余計に悪化させてしまっていたのだ。
彼女が夢見ていた自由に羽ばたけるその第一歩として、まずは弱っている体を休めて回復させなければならない。
「カリンよ。お前は庭にあった武闘神像を砕いているな?」
カリーヌへ視線を移したスパーダの言葉に話を振られた当人は目を丸くしていた。
スパーダは先日まで中庭にあった武闘神像が無くなっていることに気づいており、それを破壊したのが烈風カリンであることを察していたのだ。
「その時に得たブルーオーブはまだ残っているか」
「……ええ。あります」
「ならばそれを一つカトレアに与えてやるといい。多少なりとも彼女の失われた命を伸ばしてやることができるはずだ」
生命の欠片とも呼ばれる魔石、ブルーオーブは非常に希少な代物である。
人間に使えばその肉体はたとえ虚弱だろうと豊かな生命力に満ち溢れるようになり、定期的に使い続ければ不老長寿さえも実現しかねないほどに寿命を保つこともできる。
カリーヌが年齢の割にあり得ないほどに肉体が若々しいのも、過去に何度もブルーオーブを使っているからなのだろう。
事実、デビルハンターとしての稼業を三十年も続けていたカリーヌは度々戦利品の一つとしてブルーオーブを手に入れており、悪魔との戦いで傷ついた際にそれを癒すのに使っていた。
「カトレア。もう君を縛るものは何もない。残された君だけの生を望むままに生きろ」
再びカトレアの方を見るスパーダの言葉に本人は呆然としていた。
(ちい姉さま……?)
カトレアの横顔を見るルイズは一見、特別なものは一切感じられないように見える彼女の表情に薄っすらと何か別の感情が極僅かだが滲み出ようとしていることに気づいていた。
それが何であるかを考えようとする前にカトレアはいつものように柔らかな微笑みを浮かべていた。
「……やっと、元気になれる兆しが見えてきたんですものね。ルイズやエレオノール姉様と一緒にこのヴァリエールの外を出歩ける日が来れるなんて夢みたい」
そっとルイズの頭を優しく抱いて撫でてくるカトレアにルイズはそっと寄り添っていた。
「スパーダさん。この命が続く限り、今を……そしてこれからの時間を精一杯生きてみますわ。あなたが与えてくれたこの貴重な時間を無駄にはしません」
カトレアからの言葉にスパーダは静かに頷く。
ヴァリエール家の面々は誰もが安堵の面持ちでカトレアが病という呪縛から解放されたことに喜んでいた。
◆
「スパーダ……その、あの……ありがとう。ちい姉さまを助けてくれて」
「ところでルイズよ。お前の魔法のことだが……」
ルイズが礼を告げる中、今まで黙っていた公爵が突然にして別の話題を切り出してきた。
反応したルイズは父の方を気まずそうに見やる。
「お前が目覚めた系統は何なのだね? 私達に正直に報告しなさい」
「そうよ、ルイズ。あなたが唱えたあの呪文……全然聞いたことが無いわ。おまけに母様の魔法を消しちゃうなんて」
直接、ルイズが唱えた呪文を聞いていた二人にとっては一体何の系統なのか気になって仕方がなかった。
昔から魔法が使えず失敗してばかりいたはずのルイズが初めて見せてくれた初歩中の初歩であるコモン・スペルではない彼女だけの系統。
その正体は本人にしか分からないことで、直接伝えてもらわなければ家族のだれにも理解できない。
「そ、それは……」
「ルイズ。ちゃんと私達を見て話しなさい。隠し事はいけません」
さらにルイズは気まずそうに視線を逸らしてしまうが、母・カリーヌにまで促されてしまう。
自分の系統は家族にさえ告げることはできない。だが、それを見られてしまった以上はもう隠し通すことはできない。
もう覚悟を決めて話すしかないのか。だが、真実を告げれば何と言われるのか不安で心がいっぱいになって話すことを躊躇ってしまう。
「ルイズの系統は虚無だ」
「ス、スパーダ……!」
スパーダが不意に口を開いて告げた言葉にルイズは焦りながらも驚いた。
「お前達メイジの魔法は四大系統の他にもう一つ、伝説と称される第五の系統・虚無がある。ルイズはその系統に目覚めている」
どうせもう隠し通せない以上は抵抗しても意味が無いため、スパーダが代わりに答えてやったのだがヴァリエール家の面々は目を点にしていた。
「虚無、ですって? ルイズが? ……スパーダ! 冗談も大概になさい! そんなおとぎ話なんて信じられるわけないでしょう!? あなた、虚無の系統が何なのか知ってて言ってるの!?」
「落ち着くのだ、エレオノール」
思わず立ち上がって叫ぶエレオノールを公爵が諌める。
「……フォルトゥナよ。確かにエレオノールの言う通り、虚無とは歴史の彼方に消えた伝説の系統だ。お主の言葉だけではそれを信じることはできぬが……我らは事実、ルイズの未知の力を目にしたのだ。その事実を認めない訳にはいかん。……ルイズよ。あの時見せてくれたのが虚無なのだね?」
「……はい」
「このことを知っているのはフォルトゥナだけなのか?」
「姫様……アンリエッタ女王陛下も存じています」
「それと魔法学院のダチが二人くらいだな。なあに、ばらされる心配は無いから安心しなって」
アミュレットのデルフが付け加えて囁いていた。
公爵もカリーヌも互いに顔を見合わせると大きな溜め息をつく。
「まあ。ルイズが伝説だなんて。本当に夢みたいな話ね」
「なるほど。虚無、か……確かに公には明かせぬ大きすぎる力だ。だがルイズよ。お前はその力をどう使いたいというのだね?」
「それは私が決めます。私は自分が目覚めたこの力を、正しいことのために使いたいのです」
真っ直ぐに厳しい視線を向けてくる父をルイズは目を逸らさないで見返していた。
「正しいこと、か。……しかし、虚無の系統は一人の人間が扱うには過ぎた力だ。力に魅入られ、己を見失い、そして誰かに利用されれば世に災いをもたらす危険もある。それは他の系統とて同じことだ。分かっているね?」
「そのために彼が、私のパートナーであるスパーダがいるのです。もしもの時は彼がわたしのことを止めてくれます」
「ヤバそうな時は俺も引き留めてやるさ」
「ルイズがまたアルビオンへ行こうと決めたのはこれが理由なのか」
デルフの言葉を無視し、公爵はスパーダの方へ視線を移した。
同時にカリーヌも射るような視線を叩きつけてくるがスパーダはまるで動じない。
「フォルトゥナよ。またアルビオンへルイズを誘おうとするのはどういう理由なのだ? 聞けばお主はルイズを連れてあの危険極まりないアルビオンへ、しかも敵の中心へ乗り込もうとしているそうだが」
「な、何ですって!? あなた、一体どういうつもり!? ルイズをアルビオンへ連れて行くですって!? 何を考えてるのよ!」
公爵の言葉にエレオノールが仰天した上にスパーダを咎め立てる。
「よもや、ルイズが目覚めたという虚無の系統を利用し、破滅へ追いやろうとしているのではないか」
「私がアルビオンのクロムウェルに用がある。彼女はその仕事を手伝ってくれるだけだ」
スパーダの返答に公爵は渋い顔を浮かべる。カリーヌもまた厳しい瞳でルイズとスパーダを見比べた。
「ルイズ、分かっているのですか。この悪魔に付いていくことはあなた自身が破滅に落ちる危険を孕んでいるのですよ」
「そんなことは分かっています。ですが、わたしは彼を……魔剣士スパーダのパートナーとして手助けをしたいのです。……それに母様は誤解しています。スパーダは決してわたし達人間に危害を加えようとしているのではありません。事実、わたし達はこれまで幾度も彼に救われてきました。タルブの戦でも彼がいなければトリステインはおろか、このハルケギニアさえもが悪魔達の手に落ちていたかもしれないのです」
母、カリーヌがスパーダに敵意を抱いているのを見てルイズは必死に訴えた。
伝説の魔剣士スパーダの活躍を直接目にしているからこそ、彼が人間に味方をする正義の存在であることを家族に認めてもらいたいのだ。
「魔帝ムンドゥス所縁である悪魔のお前が、何故人間の味方をする? 一体、何を企んでいるというのですか」
「私はただの魔界の逆賊。そして今はルイズのパートナー。それ以上も以下もない。我らが気に入らぬというのであればいつでも杖を向けるがいい」
「公爵夫人。少なくとも、我らはあなた方の敵となる気はありません。それだけは信じていただきたい」
信じられないというように疑いの目を向けてくるカリーヌに二人の悪魔は毅然と答える。
エレオノールは自分の傍に置いていた男が人では無いという事実に不安の面持ちを浮かべた。
従者として共にいてくれたモデウスにエレオノールもまた幾度も助けられていた。アカデミーの仕事で調査に赴いた際、現れる怪物を彼は自らの剣で討ち倒し、平民とは思えない貴族にも匹敵する教養の高さから常日頃よりサポートもしてくれていた。
どんな男でも付いていけず逃げ出してしまいそうな高飛車で激しい気性でありながら、モデウスは全く気にせずありのままにエレオノールに付いてきてくれていたのだ。
この青年との交流は今まで出会ってきては離れていった貴族の男達では決して味わえなかった感情をエレオノールにもたらしていた。
故に彼が人と世界に災いをもたらす悪魔である事実を認めたくなかった。
「モデウス……あなたは何故、私の従者になることを選んだの?」
「別に大した理由なんてありませんよ。エレオノールさんが僕を雇い、それに応えただけのことです。あなたが望むのであれば、いつでもお手伝いさせてはもらいますよ。色々と世話になった礼もありますから」
いつものように穏やかな顔で答える黒髪の青年にエレオノールが抱いていた不安が拭い去られていく。
ただ純粋に従者として、恩義のために仕える。それだけがモデウスがエレオノールの傍にいてくれる理由だった。
そこにはエレオノールを破滅させようなどという悪意は一切感じられない。
軽く咳払いをした公爵が再び口を開いた。
「悪魔とは本来、この世に災いをもたらし仇なす者。人間を堕落させ、闇へ陥れる存在だ。本来ならばカリーヌと同じくお主らに杖を向けねばならない」
「父様!」
「しかし、お主らは今までずっと我が娘達を守り通し、さらにはカトレアの病を取り払ってもくれた。我らが感謝をしてもし切れないほどの恩があるのも事実。だが、ルイズをまたも危険に晒そうというその悪魔のごとき所業だけは断じて認めるわけにはいかん」
スパーダに多大な恩義はあっても、自分の家族を危険に晒そうとしていることだけは許せない。
公爵もカリーヌほどではないがスパーダとルイズを引き離す意向を示している様子だった。
それは紛れも無く家族を想ってのことだったが、だからこそルイズはスパーダのことをしっかり認めてもらいたかった。
深呼吸をしたルイズは真っ直ぐに両親の顔を見つめ、語り出す。
「父様、母様。お二方が考えているほど、今のハルケギニアは甘くはありません。この世界は今、悪魔達に狙われているのです。父様の言いつけ通り、このラ・ヴァリエールに残っていたとしても、悪魔達の魔の手は伸びてきます。どこにいても安全な場所なんてありません」
毅然とした態度で話すルイズの姿にヴァリエール家の面々は目を見開き驚いていた。
子供とは思えないその真面目な態度は今までに見たことがないものだった。昔のルイズであれば決して考えられないような強さが込められている。
「ですがスパーダは悪魔でありながら、同胞を裏切りわたし達人間に味方をしてくれると決めてくれました。その彼が、このハルケギニアの脅威を取り払うためにアルビオンを裏で操っていた悪魔の残党を討とうとしているのです」
ヴァリエール一家達の視線がスパーダに釘付けになる。
何故、彼本人がアルビオンへ用があるのかなど全く理解できなかったが、ルイズの言葉からその意を察する。
「父様達がわたしを守ろうとしているそのお気持ちは分かります。しかし、魔剣士スパーダはパートナーであり使い魔でもあります。メイジにとって使い魔は一心同体も同然。ならばわたしも彼のパートナーとして、その手助けをしたいのです。無論、決して無茶などする気はありません」
メイジとしての常識まで説かれて公爵達は複雑な顔をしていた。
危険な使い魔が相手ならばそれを引き離すというのも道理だが、スパーダ個人は決して危険な存在ではないとルイズは信じ、語っているので何も言い返せない。
「どうしても父様達がスパーダのことをお認めにならないというのであれば、わたしはこのラ・ヴァリエールを出奔する覚悟がございます」
「ルイズ……!?」
家出をしてでもスパーダに付いていきたい。その言葉が本気であることを一同はルイズの発する空気から悟っていた。
居間は沈黙に支配され、家族が驚愕の表情でルイズを見つめる中、じっと成り行きを見守っていたカトレアがくすくすと笑いだす。
「父様と母様の負けですわ。ルイズがこんなに信じているのはスパーダさんが決して人間に災いをもたらすような悪魔ではない証拠です。もしもお二人が悪い悪魔だったら、とっくにこのラ・ヴァリエールは滅んでいますし、私達もこうして話し合うことなんてできませんもの」
言いながらカトレアはルイズの頭を撫でる。
「それにルイズは父様達が思っているほど一人ぼっちじゃありません。魔法学院ではきっとルイズやスパーダさんのことをよく知るお友達や先生もいらっしゃいます。もう少し、この子の周りにいる人達のことも信じてあげてはどうですか?」
「ちい姉さま……」
「ルイズ。あなたは本当に強くなったわね。いつまでも甘えん坊の小さなルイズだと思っていたけど、もうとっくにあなたは巣立てる強い子になっていたのね」
カトレアの言葉は真実だった。ルイズはヴァリエールの家族の誰もが知らない間にここまで強くなっていたのだ。
その理由の一つが、彼のパートナーであるスパーダであることは疑いようのないことだった。
「スパーダさん、モデウスさん。これからもルイズとエレオノール姉様のことをよろしくお願いしますわね。特にエレオノール姉様はこれでも意外と怖がりだったりすることもありますから。ルイズがこんなに強くなったんじゃあ、立場が逆になっちゃうかもしれませんもの」
「カ、カトレア……!」
余計な一言にうろたえるエレオノールに対し、モデウスは変わらぬ穏やかな表情で小さく頷く。
公爵もカリーヌも深刻な表情を浮かべて黙っていたが、スパーダの方へ向き直り口を開く。
「フォルトゥナよ。何があっても我が娘を守り通すのだ。ルイズが目覚めた虚無の力がその子を狂わせぬように、そして他の誰にも利用されぬよう見守って欲しい」
「私は決してお前を信じはしません。もしも我が娘の身に何かあれば我が杖がお前の心臓を貫くことを覚えておきなさい」
「俺っちもいるんだから安心しなって。娘っ子には指一本触れさせやしねえし、ちゃんと相談役になってやるさ」
無言を返答とするスパーダに代わり答えるデルフもまたルイズの協力者であることを改めてアピールする。
「『烈風』カリンよ」
口を開いたスパーダはカリーヌの方を振り向き、その厳しい瞳を見据える。
「お前には聞きたいことが山ほどある。私が魔帝ムンドゥス所縁の悪魔だと何故分かった?」
スパーダの言葉にルイズも息を呑む。母は一体何故、魔界の王の名を知っているのか気になって仕方がなかったのだ。
「大方、三十年前の事件が魔帝の一派と何か関係があるのだろう」
恐らく魔法学院のオスマンが語っていた30年前に烈風カリンが関わった事件に魔帝ムンドゥスが絡んでいるのは間違いないとスパーダは確信していた。
しばし目を伏せて考え込んだカリーヌは真っ直ぐスパーダの顔を見つめ返してくる。
「話せば長くなりますが、構いませんね?」
「その必要は無い。直接見せてもらう」
言うや否や、中央のテーブルに光の粒が突如として湧き出し始めていた。
スパーダとモデウスを除く一同は何事かと目を見張るが、やがて見覚えのある黄金の像が光の中に姿を現す。
「まあ」
カトレアが目を丸くするそれは今まで見てきた物よりずっと小さな、手持ちができるほどの時空神像だった。
またも新たな分身が生み出された瞬間である。
「な……! 何でこれが……!」
エレオノールが引き攣った顔を浮かべる中、スパーダは黙々とレッドオーブを取り出し、次々と神像へ捧げていった。
吸い込まれていくレッドオーブをヴァリエール家の面々は不思議そうに眺めていた。
「その女の周りで30年ほど前に起きた出来事を映せ。時間や場所は適当で構わん」
カリーヌを顎で指しながらスパーダはそう命じると時空神像の砂時計から放たれた光が壁中に広がっていく。
やがてそこに神像が記憶している映像が浮かび上がっていった。
「これは……」
「あなた……」
映し出された光景に、公爵とカリーヌは目を見張り驚いた。
『我が名はサンドリオン。謹んでお相手仕る』
『カリン・ド・マイヤールだ。僕の風は困ったことに強すぎる。あなたの命を奪うことになるかもしれないが、ゆめゆめお恨みなされるなよ』
光の中に、今はもう遠く過ぎ去った過去が、うら若き日の自分達の姿が映し出されていたのだ。
作品の良かったところはどこですか?
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登場人物
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世界観
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読みやすさ
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話の展開
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戦闘シーン
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主人公の描写・設定
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悪魔の描写
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脚色したオリジナル描写・設定