魔剣異聞録~The Legendary Dark Slayer/Zero 作:月に吠えるもの
翌日、当然ながら学院では昨晩から朝まで騒ぎが続いていた。
何せ、由緒正しいこのトリステイン魔法学院が、世を騒がす怪盗〝土くれのフーケ〟のターゲットにされ、しかも巨大なゴーレムによって大胆な襲撃をされてしまったのだ。
厳重に〝固定化〟の魔法で防御を固められ、破壊されるはずのない宝物庫がこうもあっさりと破られ、さらにそこで保管されていた〝破壊の箱〟までまんまと盗まれてしまった。
『破壊の箱、確かに領収致しました。 土くれのフーケ』
堂々と壁に刻まれた犯行のメッセージに、教師達は口惜しさに皆、肩を震わせるばかり。
学院創設以来の大事件、そして過去に例を見ない大失態だった。
本日の授業は全面休講。
学院長室には教師達と昨晩の四人の目撃者達が集められ、対策会議が開かれていた。
……しかし、実際に行われているのは、教師達の愚痴や責任の押し付け合いばかりだった。
当直の教師は誰だったのか、衛兵はどうしていたのか、衛兵など所詮は平民に過ぎないから当てにならない、などと醜い口論が続けられるばかり。
そして、昨晩の当直であったシュヴルーズがサボっていたので責任を取れと他の教師達が言い、オスマンがそれらを嗜める。
まともに当直などできた者はいない、そしてこの責任は教師全員にあるという事実を述べると教師達は誰も反論できなくなり、俯いてしまった。
(どうしようもない連中だな)
教師達の他にルイズ、キュルケ、タバサが並んで立つ中に混ざって、スパーダも腕を組んで目を瞑ったまま沈黙していたが、教師達のあまりの無能さに頭を抱えたくなった。
この世界の貴族とやらは貴族……いや、メイジとしての力と権威に溺れ、そしてその上で胡座をかいているだけの者が多いようだ。
普段からそのような状態なのだから、肝心な時には何もできない。
こんな腑抜けでは、連中が蔑んでいる〝平民〟とほとんど何も変わりはしない。
教師達が静まった所でオスマンがコホンと軽く咳払いをし、ルイズ達の顔を見回す。
「さて、昨晩の出来事の目撃者は君らだと聞く。詳しく説明してもらえんかの?」
そこでルイズが前へ出て、昨晩のことを有りのままに手早くオスマンに報告を行った。
無能な教師達に比べて、的確に報告を行える彼女達の方が立派だ。
ちなみにあの後、タバサの使い魔シルフィードがゴーレムを追跡したそうだが、その道中で土くれの山だけが残されていたのを発見したらしい。
これでは後を追おうにも手がかりがない。
……しかし、一つだけ手がかりはある。
いや、手がかりというより真実なのであるが。
「ミス・ロングビル! どこへ行っていたのですか!?」
と、コルベールが興奮した様子で声を上げるとスパーダが思い浮かべていた人物――土くれのフーケこと、ロングビルが姿を現していた。
「申し訳ありません。朝から急いで調査をしておりましたの」
さて、首謀者は一体どのような作り話を語ろうというのか。スパーダは内心、興味を抱きつつ彼女の報告とやらに耳を傾けた。
ロングビル曰く、学院近在の農民から聞き込みを行い、近くの森の中にある廃屋へと入っていった黒ずくめのローブ姿の人間を見たという情報を得たらしい。
そして、そこがフーケの隠れ家ではないかという推測をオスマンらに伝えていた。
「黒ずくめのローブ? それはフーケです! 間違いありません!」
と、話を聞いていたルイズが叫ぶ。
「そこは近いのかね?」
「はい。徒歩で半日、馬なら四時間といった所です」
(話があまり上手くないな)
スパーダは内心で深く溜め息をついていた。
彼女の作り話はどこも不自然な点だらけだ。
何故、その黒ずくめの正体がフーケだと断定できるのか。それに馬でも片道四時間はかかってしまうような場所まで行って調査をし、情報を仕入れて帰ってくるというのには無理がある。
学院へ帰ってくるだけでも昼過ぎにはなるはずだ。
……と、これだけ不自然な報告であるが、誰も疑っている様子がない。
その後、コルベールが王室衛士隊に頼んで兵を差し向けてもらおうと提案したがオスマンは知らせている間にフーケは逃げてしまう、学院の不始末は学院で解決する、と答えていた。
ロングビルはその言葉を待っていたかのように薄く微笑んでいる。
(彼女はまだ何か用があるのか?)
ここでは破壊の箱と呼ばれている――アレ。
アレを盗んでしまえば、ここには用済みのはずだろう。
それなのに戻ってきたということは……恐らくアレの使い方が分からない。だから誰かに実際に使わせてみようか、そんな所だろう。
だが実際の所、アレは彼女では扱えやしないのだが。
「では、捜索隊を編成する。我こそはと思う者は杖を掲げよ」
オスマンが有志を募うが、教師達は困ったように互いに顔を見合わせるだけで誰も杖を掲げない。
「ん? どうした? フーケを捕まえて名を上げようと思う者はおらんのか!?」
どうにもならない腰抜け達だった。やはり、普段は魔法の力に頼っているだけでいざ本気のいざこざになれば強大な相手に恐れをなして何もできないようだ。
ただ、責任の押し付け合いに参加しなかったコルベールだけはフーケではなく別の何かに恐れているようだ。それが何かは分からないが。
それに何故か、オスマンとコルベールはちらりと視線をスパーダに向けてきているのが少し気に食わなかった。
スパーダは今度ははっきりと細く息を吐くと、スッと一歩前へと進み出た。
「私が行かせてもらう」
教師達やルイズはスパーダの行動に驚きざわめきだし、目を見張る。
そんな中、教師達の中から一人の黒い髪をした若い男がスパーダの元へ近づき、杖を突きつけてきた。
「魔法も使えぬ異国の没落貴族ごときが出しゃばるな!! これは我々の問題だ!」
風系統のメイジであるギトーが、スパーダに対して敵意を剥き出しにして突っかかってきた。
しかし、スパーダは目の前に杖を突きつけられているのにも関わらず、まるで動じず逆に涼やかな表情でこう返してきた。
「そうか。では、学院を代表してお前にフーケの討伐へ行ってもらうとしよう」
その言葉が出た途端にギトーの威勢は一気に萎え、顔が青ざめだす。
「聞けば、お前は風系統の優秀な教師だそうだな。ならば、フーケを捕まえるのも簡単なはずだろう。おまけに名も上げられて一石二鳥だな」
「い……いや、私は……」
弱々しく口篭り、杖を手にしていた手が力なく下げられていく。
「やる気がないならでしゃばるな。臆病者は引っ込んでいるがいい」
下手に出しゃばってきたギトーにスパーダは容赦のない冷酷な言葉をぶつけだす。
ギトーは唇を噛み締め、悔しそうにスパーダを睨みながら下がっていた。
(何なのよ……これが貴族の姿だというの?)
ルイズはあっさりと引き下がっていったギトーを見て、心底呆れ果てる所か憤りさえも感じていた。
生徒の規範であるはずの教師達は、貴族の誇りはおろか矜持さえも捨て去り、フーケに恐れをなしてしまっている。
それどころか責任逃れとその押し付け合いに終始し、己の保身のことしか考えていない。
魔法を使えることだけが貴族? 違う。敵に後ろを見せず、立ち向かう者のことを貴族と呼ぶのだ。
この中で最も貴族らしく、敵に後ろを見せようとしないのは異国の貴族だと彼らが散々馬鹿にしているスパーダだけ。
ならば、その正しき姿と行動を自分も示さなければならない。
オスマンが有志を募ってからずっと俯いていたルイズは我慢が限界に達し、己の杖を顔の前に掲げだした。
「ミス・ヴァリエール! あなたは生徒ではありませんか! ここは私達教師に任せて……」
「先生方は誰も掲げないじゃないですか!」
シュヴルーズが諌めようとするがルイズは腰抜けな教師達全員に向けて責めるようにしつつも毅然とした態度で叫んでいた。
教師達は誰もその言葉に反論できない。ぐうの音もでない事実だったからだ。
スパーダはそんなルイズの姿を見て、微かに笑った。
正直、彼女には付いてきてもらった方が都合が良かった。彼女を成長させてやるには良い機会である。
次にキュルケやタバサまでもが杖を掲げて同行を申し出る。
「ヴァリエールには負けられませんわ。……でも、あなたまで付いてこなくても良いのに」
キュルケが困ったようにタバサを見るが、「心配」とだけ答えていた。
オスマンはうんうん、と満足したように頷いていた。
「では、彼女達に頼むとしよう。何より、ミス・タバサは若くしてシュヴァリエの称号を持つ騎士だと聞いている」
タバサは返事もせずに突っ立っていたが、教師達やキュルケ、ルイズは驚いたように彼女を見つめていた。
まあ、あれだけのやり手ならばそれくらいの称号は持っていてもおかしくはない。
スパーダは別段、驚きもせずに彼女をちらりと見ていた。
次にオスマンはスパーダとルイズを見比べる。
「皆も知っておるはずじゃが、ミス・ヴァリエールの使い魔……ミスタ・スパーダはグラモン元帥の息子、ギーシュ・ド・グラモンと決闘して勝利している」
教師達の視線が、一斉にスパーダへと注がれる。
「それに昨晩、しくじったとはいえフーケのゴーレムとも正面から立ち向かったそうじゃな。彼のような勇気が諸君にはあるのかね? 彼らに勝てるという者がおるのであれば、前に一歩出たまえ」
ほとんどの教師はスパーダのことを魔法も使えない、どこの馬の骨とも知れない異国の没落貴族、平民上がりの生意気な男と蔑んだ視線で見ている。
だが、それを差し引いても彼の操るその剣術は人間とは思えぬものだった。
彼ならば、土くれのフーケに後れを取ることはないだろう。
……もっとも、魔法も使えぬ没落貴族などに自分達が後れを取るというのがどうにも悔しく感じられたが。
スパーダを除く三人は真顔になって直立し、恭しくオスマンに礼をする。
「オールド・オスマン。私が案内を務めますわ」
ロングビルが前へ出てきて、案内役を買って出る。
もっとも、彼女は首謀者なので、案内というより誘い込むというのが正しい。
「うむ。彼女達を手伝ってくれたまえ」
「もちろん。そのつもりですわ」
「ちくしょう……ひどいぜ、相棒……」
一方、ルイズの部屋へと置き去りにされたデルフリンガーはさめざめと泣き続けていた。
スパーダは自分を置いて、フーケの討伐に行ってしまった。
連れていってくれ、と懇願してもスパーダは「今のお前に用はない」と冷たく答えて、自らの愛剣を持って出て行った。
何故、力を示したのに使ってくれないのだ?
やはり自分が使っている愛剣の方がいいというのだろうか。
自分だって錆びてはいるが、あんな剣達なんかに負けない名剣だというのに。
リベリオンと閻魔刀に対する嫉妬が湧き上がってくる。
「あの悪魔……俺も使ってくれよぉ……」
誰も語る相手のいない部屋の中で、デルフは愚痴を呟き続けていた。
◆
一行は屋根のない荷馬車でフーケの隠れ家へと向かっていた。
御者はフーケこと、ロングビルが務めている。
スパーダ達は馬車に揺られながら、ただただ到着を待ち続ける。
「ミス・ロングビル。どうして御者を自分で? 手綱なんて付き人にやらせればいいじゃないですか」
そんな中、キュルケがロングビルに話しかける。肩越しに少しだけ顔をこちらに向けながら、ロングビルは答えてきた。
「いいのですよ。私は、貴族の名を無くした者ですから」
「だって、あなたはオールド・オスマンの秘書なのでしょ?」
「ええ。……でも、オスマン氏は貴族や平民だということに、あまり拘らないお方ですから」
表情は微笑んではいるものの、その裏側はとても哀しそうであるようにスパーダは思えていた。
自分のことを没落貴族などと呼んでいた連中はあの学院にいたものの、それはあくまで余所者と認識してのことだろう。
ロングビルは本当に、その没落貴族と呼べる位置にいるのかもしれない。
彼女の家が何らかの事情で取り潰しに遭い、貴族としての地位を捨てなければならない理由があったのだろう。
そして、そのために盗賊という身分に落ちぶれなければならなかったのだ。
それは自らが生き抜くためか、はたまた共に巻き添えを食らった大切な人のためか。
「差し支えなかったら、事情をお聞かせ願いたいわ」
キュルケが興味津々といった様子でロングビルに詰め寄るが、ロングビルは困ったような笑顔を返すのみ。
「いいじゃないの。教えてくださいな――」
御者台ににじり寄ろうとするキュルケに、スパーダは瞬時に閻魔刀を抜刀して突きつけた。
突然のスパーダの行動に、タバサを除く三人は驚き目を見張った。
「よせ。彼女には話したくない理由がある。それを無理に抉り出しても彼女を傷つけるだけだ」
「そうよ! 聞かれたくないことを根掘り葉掘り聞こうだなんて! 空気を読みなさい! これだからゲルマニアの女は野蛮なのよ!」
ルイズまで彼女を責めるが、キュルケは一瞬ルイズの方をつまらなそうに睨んだ。
本来ならば彼女に嫌味を返してやりたい所だが、自分に突きつけられている閻魔刀を手にするスパーダの冷たい瞳は、本気で怒っている。
キュルケは仕方なく自分の位置へと戻り、大人しくすることにした。
「ミス・ロングビル。すまなかったな」
閻魔刀を納めたスパーダはロングビルに声をかける。
ロングビルはスパーダを見つめたまま呆気に取られていたが、すぐに微笑を浮かべて「いえ。良いのですよ」と、答えていた。
スパーダに対して感謝をしているような、それとも余計なお世話だとでも言いたそうな複雑な感情が入り混じった笑みだった。
馬車はその後、鬱蒼とした深い森へと入っていった。
ここから先へは馬車では進めないため、徒歩で進むことになる。
薄暗い森の奥へと小道を通ってしばらく進んでいくと、一行は開けた場所へと出た。
どうやら森の中の空き地のようであり、その中にぽつんと建っている廃屋が確かにあった。
「私が聞いた情報だと、あの中にいるという話です」
茂みに身を隠したまま、ロングビルはそう言う。
あの中ではなく、ここにいるのが正解だ。
大体、あんな場所を隠れ家にするというのがそもそもおかしい。本格的に山狩りをされれば完全に包囲されるのは目に見えている。
その後、ルイズ達は作戦を立て始め、タバサが地面に絵を描き始める。
スパーダはそれには参加せず、ちらりとロングビルの背中を見続けていた。
結局三人の作戦は、誰かが偵察兼囮役となってフーケを誘い出す、ということに決まったようだ。
「で、誰がやるの?」
キュルケが尋ねると、タバサは「すばしっこいの」と答える。
三人の視線がスパーダへと向けられるが、本人は首を横に振っていた。
「私より、ミス・タバサが適任だ。体も小さいし、罠にもかかり難いだろう」
そう返され、タバサは少しの間を置いてからこくりと頷く。
「私はこの辺りを偵察してきますね」
ロングビルがそう言って、森の中へと姿を消そうとする。
「ちょっと、どこへ行くのよ」
彼女の後を付いていこうとしたスパーダを、ルイズが不満そうに呼び止めた。当の本人も驚いた様子でスパーダを振り返る。
「私も同行しよう。君らで廃屋の調査をしてくれ」
「いえ、良いですよ。私一人で」
ロングビルが微かに焦った様子でスパーダの同行を拒否するが、
「君一人では危険だ。相手はあれだけ〝巨大で強靭〟なゴーレムを作り出せるのだからな」
そう答え、ロングビルの肩を叩くと彼女と共に森の奥へと姿を消していた。
その後、タバサが廃屋の偵察を行い、フーケがいない上に何も罠がないことも確認すると中へと入っていく。
何か手がかりがないものか、ほこりだらけの廃屋内を調べ始める三人。
タバサがその中にあったチェストを開けてみると……。
「これが、〝破壊の箱〟?」
タバサが中から引きずり出し、抱えているそれを見てルイズが不思議そうに声を上げる。
それは側面に奇妙な骸骨の紋章が刻まれたスーツケースにしか見えなかった。
ルイズも破壊の箱は初めて見るのだが、これは一体どうやって使うのだろうか?
「あっけないわねー」
キュルケが拍子抜けしたように声を上げる。
「中に何が入ってるのかしら? ちょっと、貸してみて」
タバサから受け取った破壊の箱をキュルケが開けようとするが、鍵が掛かっているのか開かない。
杖を振るい、開錠の魔法をかけてみてもビクともしない。
大きさの割にそんなに重くないことから、中には何も入っていない様子なのだが……。
「そんなことより、早くスパーダ達を呼んできましょうよ」
ルイズが促し、三人は廃屋の外へと出て行った。
◆
森の奥へと偵察へ向かっていった二人の男女。
その片方が、もう一人に己の杖を突きつけていた。
しかし、剣を背負う男はその状況にまるで動じず、腕を組み続けている。
「……いつから? 私がフーケだと分かったのは」
ロングビルは先ほどまでの温和で優しそうな秘書の笑顔ではなく、その目は油断無く得物を狙う猛禽類のように鋭くなっていた。
「昨日、君が大胆なことをしていた時だな。〝ロングビル〟の魔力と〝フーケ〟の魔力は性質から、何から何まで全く同じだった」
腕を組んだまま軽く肩を竦めるスパーダ。
悪魔である彼には魔力を持った存在の力量や性質まで感じたり、見たりすることは容易いこと。
いくら彼女が変装をしようが、それはスパーダにとっては無意味なことだった。
ルイズ達と別れ、その姿が見えなくなってきた頃にスパーダは唐突にロングビルにこう問いかけた。
「君が朝一番に仕入れてきたという情報。あれは少々無理があるな。何故、あれだけの具体的な情報を短時間で持ち帰られたのだ? 馬でも片道四時間はかかる距離をたったの数時間で君は持ち帰ることができた」
スパーダのその指摘にロングビルは「こちらも必死になって調査をしましたので」と、とぼけた。
もちろん、さらにスパーダは追い討ちをかけた。
「君が朝一番で調査をしに出かけたのであれば、戻ってくるのは最低でも昼過ぎになっていたはずだ。にも関わらず、君は短時間であれだけの具体的な情報を仕入れて戻ってきた。それは何故か? ……フーケの行動を随一、監視でもできる人間でなければ不可能だからだ。そして、それができるのは、〝本人〟である君くらいなものだ」
そこまで指摘をしてやると、ロングビルは微かに舌打ちをしながら素早く振り向き、スパーダに杖を突きつけてきたのだ。
少しでも動こうとすれば、彼女は確実に一撃で仕留めるような攻撃をしてくるだろう。
だが、スパーダはまるで動じない。涼やかな表情のままだ。
「……私の魔力が分かる? あなた、平民出身の貴族だと聞いていたけど……何者?」
「ただの没落貴族だ。異国にはそのような奴がいるということだ。まあ、君のあの報告も不自然過ぎだからな。昨日のあの時、君と会っていなくても学院長室での報告で気づいてたかもしれないな」
「……何もかもお見通しって訳」
僅かに口端を歪めるロングビル。
「君が私達をここに呼んだ理由は大体分かる。君が盗んだという〝破壊の箱〟とやらの使い方が分からないのだろう?」
「そうよ。盗んだは良いけど、使い方がまるで分からなかったの。それじゃあ売ったって、全然意味がないじゃない? それで、学院の誰かに使わせてそれを知ろうと考えたのよ」
「私達以外の誰も知らなかったらどうするつもりだった? ……いや、予想は付くな。君が呼び出したゴーレムで叩き潰し、また別の誰かを呼んでいた、そんな所か。だが、君だけがのこのこ戻ってきた所で却って怪しまれるだけだと思われるがな」
「……もっとも、その前にあなたをここで始末しないといけないけどね」
杖をスパーダの胸に近づけてくるロングビル。
だがそれでもスパーダは動じずに嘆息するだけだ。
「……それは良いとして、君はあの〝破壊の箱〟とやらがどういう物か知っているのか?」
普通ならば下手に動けば殺されるという緊迫した空気の中、スパーダは平然と顎に手をやり、そう尋ねる。
「それをこれから知ろうって言うのよ。あなた達を使ってね」
不敵に笑うロングビルであるが、スパーダはかぶりを振ってはっきりと告げた。
「やめておけ。あれは君はおろか普通の人間が手にする物ではない」
「馬鹿にしないで? 使い方さえ知れれば後はどうとでもなるわよ」
「これは警告だ。……あれを下手に使うのはやめておけ」
スパーダの声音が低く、冷たいものへと変化し、ロングビルは僅かにおののく。
「あれはな、本来は〝破壊の箱〟という名前ではないし、マジックアイテムですらない。〝災厄〟という意味を持った強大な力を持つ兵器だ。それも、私の故郷で作られたな」
「あなたの、故郷? ……いきなりそんな話をされて、信じると思って?」
「信じる、信じないかは君の勝手だがな」
未だロングビルに杖を突きつけられているのにも構わず後ろを振り返り、言葉を続ける。
「だが、重ねて言う。あれは君がまともに扱えるような代物ではない。……下手をすれば君自身が命を落としかねんぞ」
真剣に言葉を続けているスパーダに、ロングビルの身が強張る。
彼は自分の動揺を誘おうとする訳でも、油断させようとしている訳でもない。
ただ真剣に、事実を伝えようとしている。
そこには彼女に対する殺意はおろか、敵意さえもまるでない。
「そうだな……その気になればこの森なんぞ簡単に消し飛ばせる」
その言葉にロングビルの顔は僅かに青ざめた。
「君があれの使い方を知って売るのは大いに結構だ。だが、あれがいずれ君にもいるであろう大切な人を傷つけないとも限らん。……いればの話だがな」
スパーダが発したフレーズにロングビルの表情がさらに青ざめる。
カマをかけたつもりだったのだが図星だったようだ。実に好都合である。
「そうなった時、あれを戦いが好きな奴の手に渡りでもすれば、どうなるか明白だな。君が使い方を知って売った以上、それからの持ち主もそれを知るだろう。そして、その破壊の箱は数多くの災厄をもたらし続け、いずれは君の――」
「……やめてっ!!」
ロングビルが突然叫びだし、スパーダは肩越しに振り向いた。
杖を下ろしていたロングビルが俯き、肩を震わせていた。
スパーダは彼女へと向き直り、その前に立つ。
「……捕まえたいなら、とっとと捕まえなさいよ。あなただって正体を知っていたのなら、どうせ私を捕まえるためにわざわざここまで来たんでしょう? だったら、好きにすればいいわよ」
唐突に観念した態度を取る彼女に、スパーダは肩を竦める。
「そんな気はさらさらない。……第一、君をフーケとして捕らえた所で私には何の意味もない」
スパーダの口から出てきたとんでもない返答にロングビルは呆気に取られた顔を見せていた。
「じゃ、じゃあ……何しに来たっていうの」
「君に少し協力して欲しいことがあってな。聞いてくれるか」
それからスパーダの口から出てくる言葉に、ロングビルは顔を顰めていた。
「……どういうつもり?」
「何、彼女達を鍛えてやりたいだけだ。存分に力を見せてもらうぞ。〝土くれのフーケ〟」
ニヤリと笑い、スパーダはロングビルを伴って廃屋の方へと戻っていく。
彼の足元には、漆黒のオーラが霧のように湧き上がっていた。
◆
何事もなく破壊の箱を見つけることができたルイズ達は、偵察に行ったロングビルとスパーダを迎えに行くため、すぐさま廃屋の外へと出ていた。
「スパーダ! 破壊の箱を見つけたわよ!」
外へ出て来た途端、森の奥に紫のコートを纏った銀髪と緑の髪の男女の姿をかいま見て、ルイズは歓声を上げながら手を大きく振った。
しかし、森の中から出て来た二人の男女の姿を見て、ルイズとキュルケの表情から笑顔が消える。
破壊の箱を抱えたままのタバサは相変わらず無表情ではあるが、自らの杖を構えるその瞳には凛々しさに満ちた闘志が宿っていた。
スパーダの肩にはロングビルの右腕が乗せられ、彼女は彼に体を支えられたまま苦悶の表情を浮かべて荒々しく息をついている。
「ど、どうしたのよ!?」
ルイズが駆け寄ろうとした途端、破壊の箱を地面に置いたタバサが突如森の中へ向けて無数の氷の槍を放っていた。
森の奥で〝ズンッ〟と硬質な何かを貫くような音が響き渡る。
「スパーダ、一体どうしたの!?」
ルイズ達の近くまでやってきてロングビルの体を地に下ろすスパーダにルイズが詰め寄った。
「話は後だ。……お出ましだぞ」
スパーダは森の方を振り向きながら、背中のリベリオンに手をかける。
ルイズはハッと森の方へ視線をやると、その奥から無数の人影が次々と姿を見せるのが窺っていた。
いや、人ではない。あれは……。
「ゴ、ゴーレム!?」
姿を現したのは大きさが1.8メイル近くはある、体を煉瓦色の石で造られたらしいゴーレムだった。
もちろん、その数は一体ではない。十は超える数のゴーレム達が森の中から次々と姿を現したのである。
昨日、学院を襲ってきたゴーレムに比べれば大きさは比べるまでもない。だが、今度は逆に数が多い。
しかも土くれの体ではなく、その体は硬い岩石だ。
おまけに、大の大人並の速さでこちらに駆けてくる。
「ファイヤー・ボール!」
「ウィンディ・アイシクル」
キュルケが火球の礫を、タバサが氷の矢を放ち、ゴーレム達を迎撃している。
スパーダは顔の前で構えていたリベリオンに魔力を込めると、それを投げ放った。
ブーメランのような勢いで回転しながら飛んでいくリベリオンが次々とゴーレム達を薙ぎ倒していく。
そして、まるで意志があるかのようにまっすぐ、持ち主の手元へと戻って来ていた。
しかし、それでもゴーレムの数はまだ十にも昇る。あの数で一斉に攻められたら危険だろう。
呆気に取られていたルイズも我に返り、自らの杖を手にして魔法を放つべくルーンを唱えようとする。
「な、何するのよ!」
突然、スパーダが杖を手にするルイズの腕を掴んできたため、声を上げていた。
スパーダはルイズの腕を掴んだまま、耳元で囁いてくる。
「昨日も言ったが、あいつらのすぐ傍で爆発させるようにするんだ」
その言葉に、このような状況であるにも関わらずルイズは逆上してスパーダに食ってかかった。
「何よ! こんな所まで来てあたしを馬鹿にする気なの!?」
スパーダの手を振り払おうと暴れるルイズ。
だが、それでもスパーダはあくまで冷静にルイズへと語りかける。
その間、キュルケとタバサが必死になって魔法を放ちゴーレム達の迎撃を続けていた。
「……いいか、ミス・ヴァリエール。前にも言ったが、君のあの爆発は決して失敗ではない」
「何言ってるのよ! あんなものが、成功なわけないじゃない!」
「あの爆発が他のメイジ達には認められないものであろうと、君はどうしてそれを新しい力として活かそうとしない」
真剣な面持ちでルイズを見続けるスパーダはさらに続ける。
「たとえ他の者達からは単なる失敗としか認められなくとも、それを君自身の手で育めば良いだけのことだ。そして、他の者達に新しい力としていくらでも認めさせてやればいい。君自身の力をな。……己の力を拒絶するな。自分を信じるがいい」
スパーダはルイズの腕から手を離すと、手にするリベリオンを構えてゴーレム達に向かって突撃していった。
ルイズは呆然としたまま、その場に立ち尽くしていた。
スパーダはルイズの身長よりも大きいリベリオンをまるで棒切れのように軽々と振り回し、ゴーレムを薙ぎ倒していく。
キュルケとタバサの魔法も合わさり、次々と破壊されていくゴーレム達。数が減ったと思ったら、今度は土が盛り上がり、新たなゴーレムが姿を現した。
さらに錬金がかけられたのか、その体が煉瓦色の石と化す。
「これじゃキリがないわよ!」
杖の先から炎の渦を放っているキュルケが叫びだすと、新たに出現したゴーレムがもうすぐ目の前まで迫って来ていた。
そちらへ杖を向けようとすると、また別のゴーレムが突撃してくる。
タバサはエアカッターによる風の刃でゴーレムの石の体を斬り裂き、接近してきたゴーレムにはエアハンマーを放って吹き飛ばしていた。
しかし、そのせいでキュルケの援護に手が回らない。
「あっ!!」
振るわれたゴーレムの拳がキュルケの手から杖を弾き飛ばし、彼女の体を突き倒した。
それほど強い一撃ではなかったものの、ゴーレムは地面に倒れたキュルケに追い討ちをかけようと、ゆっくり両手を頭上で組んで振り下ろそうとしている。
キュルケは思わず目を瞑ったが、目の前の二体のゴーレムが突然爆発し、その細かい破片を浴びることになった。
「ファイヤーボール!」
キュルケを襲おうとした二体のゴーレム。ルイズはそいつらに向けて魔法を放っていた。
唱えるルーンそのものはファイヤーボール。しかし、イメージするものは全く違う。
ピンポイントに、ゴーレム達のいる場所に小さな爆発を発生させる――そうイメージをしてみた。
(ほ、本当にできた……)
その結果は見ての通りだ。
今までまともに魔法を使おうとしても、それは爆発を起こすだけだった。
狙いを外し、あらぬ場所に爆発を起こしてしまうことも度々だった。
魔法が一度も成功せず爆発しか起こせないことに、ルイズは昔から悔しさを感じていた。
……だが、今のは違う。
今まで通りの爆発だった。しかし、これまで起きた爆発はまるで制御が効いていないため、狙った場所にさえ起こせないものだった。
しかし、スパーダのアドバイス通りにしてみたら……。
(本当に、本当に今のがあたしの魔法?)
思いもしなかった結果に唖然としていたルイズは、他に残っているゴーレム達にも、自分がイメージしたように様々な爆発を起こしてみた。
するとどうだ。全ての爆発がピンポイントに発生し、ゴーレムを吹き飛ばしたのだ。
「あ、あの子の魔法よね……?」
キュルケは尻餅をついたままゴーレム達を爆発で吹き飛ばしているルイズを見て、呆然としていた。
唱えているのは自分も軽々と使えるファイヤーボールやタバサが現在、使っているエアカッターといったものであるが、それで起きるのはいつも通り、ただの爆発に過ぎない。
本来なら笑うべき光景なのだが、今回ばかりはそうはいかない。
何故なら、彼女によって起こされる全ての爆発が、ゴーレム達を確実に薙ぎ倒しているのだから。
一体、これはどういうことなのだろう。失敗の魔法なのに、まるで自分の手足のように操っているなんて。
「……ふ、あたしも負けてられないわね!」
不敵に微笑むと落としていた杖を拾い、残ったゴーレム達に〝微熱〟のキュルケの炎の魔法をお見舞いしてやった。
◆
スパーダの剣技、そして三人の少女達の魔法でゴーレムは次々と蹴散らされていった。
中でもルイズの爆発による魔法は、多数のゴーレムを倒すには最適のものであり、本人も己に自信がついてきたのか次々とゴーレムを吹き飛ばしている。
(やれやれ……やっと自分に自信がついたか)
スパーダは、何度も口添えをしてやっと自分の持つ力の使い方を自覚してくれたルイズに嘆息した。
本来ならばスパーダだけでもこれだけのゴーレムを薙ぎ倒すのは容易いことだが、今回ばかりはあえて実力はほとんど出さずに、ルイズ達に積極的に倒させてやろうと考えていた。
フーケこと、ロングビルも良い演技をしてくれた。
今も彼女は弱々しく地面に手をついたまま、その手にこっそりと杖を握っている。
彼女に頼み、まずはギーシュのワルキューレのように小さなゴーレムを造ってもらい、ルイズ達に戦わせるようにしてもらっていた。
もちろん、手加減はしてもらう。彼女達を鍛えるためなのだから。
だが、もうウォーミングアップはこれくらいで良いだろう。
ちらりとスパーダはロングビルの方へ視線を送って目配せをしてやると、彼女は弱々しい演技をしつつもこくりと頷いた。
「こ、今度は何!」
煉瓦のゴーレム達を全て倒したと思ったら、その残骸が一瞬にして土くれと化し、一か所に集まっていくと瞬く間に巨大なゴーレムとなっていたのだ。
昨日のものよりは小さいが、それでも20メイルはあろうかという巨体にルイズ達は慄く。
さらに土くれであったその体が今度はくすんだ光沢を持った灰色の鋼によって錬金されていた。
「どうやら、本気みたいね!」
キュルケが吠え、ルーンを唱えようとする。
ルイズも続いてルーンは今まで通りのファイヤーボールであるが、爆発をしっかりイメージして魔法を放とうとした。
今の自分なら、あのゴーレムでも倒せるかもしれない。いや、倒せるはずだ!
敵に後ろを見せない貴族ならば、あのゴーレムも倒さなければならないのだ。
一発で吹き飛ばせる爆発をお見舞いしてやる。
「待て」
ゴーレムに攻撃しようとルーンを唱えようとする二人の肩を掴み、制してくるスパーダ。
「何するのよ。早くあいつを倒さないと!」
ルイズの叫びにスパーダは首を横に振る。
そして、ゴーレムの背後に広がる森の方を顎で指していた。
「タバサ!」
キュルケはゴーレムに目も暮れず、森の方へ向かって駆けていくタバサの姿を見た。
そして、森の中に向けてウィンディ・アイシクルを放っている。
「あっ……」
ルイズは氷の矢が飛んでいった森の中で蠢く人影を目にした。
その人影ははっきりとは見えはしないものの明らかに人間であり、そして素顔を隠すためのフードを被っている。
(間違いない! あれはフーケね!)
さっきのゴーレムもこいつも、あいつが操っているのだ。
黒い人影は森の奥へと逃げていき、タバサもそれを追って森の中へ入っていった。
「っ……!」
ルイズは声にならない悲鳴を漏らし、尻餅をついていた。巨大なゴーレムの拳がいつのまにか振り下ろされ、自分達を叩き潰そうとしたのをスパーダがリベリオンを盾にして受け止めていたのだ。
「君達は奴を頼む。奴さえ何とかすれば、こいつも消える。こいつは私が相手をしよう」
こんな巨大な拳を受け止めているのにも関わらず、スパーダは相変わらず涼しい表情で答え、促していた。
本当ならば、パートナー一人だけをこんな相手と戦わせて自分は戦わないなど、そんなのはメイジではない。
だが、何も戦う相手は一人ではないのだ。
そして、そちらの方を倒せば全てが終わる。
「……良いわよ。あたし達がフーケを捕まえるまで、足止めをしてちょうだい! それと、絶対に死んだりしちゃ駄目よ!」
起き上がったルイズはタバサが追って入っていった森へと駆けていき、キュルケもその後をすぐに追っていった。
「ヴァリエールには、負けられないわよ!」
◆
「フンッ!」
ルイズ達が森の中へと消えていったのを見届けた直後、受け止めていたゴーレムの巨大な拳を押し返し、転倒させる。
巨体に見合った凄まじい衝撃で、大地が震動する。
スパーダは軽く嘆息を吐くと、全てが終わったと言いたげにリベリオンを背負う。
そして、先ほどタバサが置いていったままの〝破壊の箱〟の元へと歩み寄り、その取っ手を掴んで拾い上げると拳でコンコンッ、と軽く叩いてやった。
「全部、あなたの思い通りになった訳ね」
起き上がったロングビルが呆れたように言いながら、歩み寄ってくる。
「君こそ良い演技をしてくれたな。今までオスマンの秘書の皮を被っていただけはある」
「……良いわよ。別に褒められたって嬉しくないわ」
ロングビルはどこか不機嫌な表情でプイッ、と顔を背ける。
「そう腐るな。……良い演技をしてくれた礼に、こいつの使い方を教えてやる。ちょうど良い実験台もある」
必死に起き上がろうとバタついているゴーレムを見て、ニヤリと微かに笑う。
「そういえば、あなたの故郷で作られたってことだけど……こんな箱が本当に兵器なの?」
怪訝そうな顔でロングビルはスパーダが持つ破壊の箱を見つめる。
スパーダはロングビルを下がらせると、起き上がったゴーレムをじっと睨んでいた。
(こいつはまだ機嫌が良くない。どれ……)
スパーダが肩に担いでいた破壊の箱を頭上に掲げると、箱は眩い光に包まれていく。
光が消えると、スパーダの手元には箱であったはずの物は跡形もなくなり、十字状の大柄なボウガンへと姿を変えていた。
「なっ――」
ロングビルもあまりの突然なことに仰天してしまっている。
スパーダはボウガンと化した破壊の箱を構え、ゴーレムに狙いを定める。
ボウガンから銛のように大きな矢尻がついた矢が放たれ、ゴーレムに命中した途端、爆発を起こした。
スパーダは問答無用で、次々とボウガンから矢を放ち、ゴーレムの体に命中させていく。
着弾する度に爆発し、ゴーレムの体を砕いていくそれは、もはや矢ではない。爆弾だ。
破壊の箱が再び光に包まれると、また形が別の物に変わった。
(う、嘘でしょ?)
何十にも束ねられたような長銃となり、スパーダはそれを片手で軽々と持ち上げると引き金を引く。
それだけで十を軽く超す銃口から凄まじい炸裂音と共に無数の火が一斉に噴き、ゴーレムの腕を粉砕していた。
(まだ何かする気!?)
これだけでも唖然とするしかなかったロングビルであるが、スパーダが巨大な銃となっている破壊の箱の銃口を足元にドン、と置くとまた光に包まれていく。
今度はロングビルも知っていた、戦艦によく積まれて大規模な戦争で使われる大きな砲身を持った大砲へと姿を変えていた。
戦艦に積まれたりするものよりは全然小さいが、それでもあんな大きな砲身から放たれるものを喰らえば、自分の作ったゴーレムと言えど跡形もなく吹き飛んでしまう。
スパーダは大砲と化した破壊の箱のハンドルを回して砲身の角度をピタリとゴーレムに狙いを定める。
そして取っ手を引くと、これまた耳が痛くなってしまいそうな騒音を立てて砲口から巨大な火球が放たれ、ゴーレムの胴体に着弾した。
凄まじい爆発を起こし、爆風にロングビルは顔をマントで覆い隠してしまう。
そして次に目に入ってきたものは、上半身が跡形もなく粉々にされ、下半身が土くれの山となって崩れていく、自分のゴーレムの哀れな姿だった。
もはやロングビルは開いた口が塞がらない。
確かに、〝破壊の箱〟と呼ぶべき凄まじい破壊力だ。
だが、初めはあんなに小さかったはずのあの箱が何故、原型を無視してあんな物へと変わることができるのだ? 分からない。
スパーダの故郷で作られたと言っていたが、一体彼の故郷はどんな場所なのだ。
ハルケギニアの技術では、とてもじゃないがあんなものは作れない。
砂漠の民であるエルフですら、不可能だろう。
光に包まれ、元の箱へと姿を戻した破壊の箱を肩に担いだスパーダは、唖然とするロングビルの元に歩み寄ってくる。
「こんな所だ。分かったか?」
「わ……分かる訳ないじゃない! 一体、何なのよそれ!」
「君達が呼んでいるだろう。〝破壊の箱〟だと。もっとも、本当の名は〝パンドラ〟と言うのだがな」
〝災厄兵器パンドラ〟――魔界で生み出された、文字通り破壊をもたらすための魔具である。
様々な災いが詰められていたという人間界の伝説で有名なパンドラの箱と同様に、こいつも様々な災いと破壊の力が秘められているのだ。
持ち主の記憶とイメージに反応して自在に姿を変え、様々な武器と化すのである。
こいつを扱うには、姿を変えるための武器の知識などを持ち主が知っていなければならないため、武器のことをあまり知らない人間が使っても意味はない。
ちなみに、変形させなくとも一応使うことはできるのだが……。
変形する仕組みについてを聞かされたロングビルは口をあんぐりと開けて呆然としていた。
「……こんな所だ。君が大事にする者があれみたいにされたいのであれば、譲ってやっても良いが」
土くれの山を顎で指し、パンドラを差し出してくるスパーダだがロングビルは首をブンブンと横に振る。
「そうか。……では、彼女達を迎えに行くとしようか」
パンドラを肩に担ぎ、森の方へ歩き出すスパーダ。
呆けていたロングビルもその後を追う。
(そういえば、あいつをフーケに仕立てるとか言っていたけど……どういうつもりよ)
ロングビルは森の中で目にした、スパーダが呼び出したあの異形の姿を思い浮かべていた。
先ほどから広場の方で何度も爆音が響いてきているのだが、タバサは構わずフライで森の中を飛翔していた。
(人間じゃ、ない……)
森の中に見つけたフーケと思わしき人影を見つけ、その後をフライを用いて追っていたタバサは先に回りこんでいたのだが、目の前にいる存在に眉を顰めていた。
フードで顔を隠した女性らしき姿をしているのだが……影のように漆黒の全身からはどす黒いオーラが湧き上がっており、そのフードの奥には不気味に赤く光る目が覗けていた。
こいつは間違いない――
「ジャベリン」
瞬時に呪文を唱え、杖の先から氷の槍を放つ。
しかし、相手が人間ではないと確信して容赦なく放った氷の槍は、フーケと思わしきその人影をすり抜け、背後の木に刺さったのだ。
あまりに突然な出来事に目を見開くタバサ。
フーケはニヤリ、と赤く光る三日月のように大きく裂けた口を綻ばせて杖を構えていた。
「タバサ!」
「ファイヤー・ボール!」
フーケの背後からルイズとキュルケが姿を現し、キュルケがフーケの背に向けて火球の礫を放つ。
慌ててタバサは射線から外れ、フーケの側面へと回り込んだ。
「えっ!?」
キュルケとルイズもタバサと同様に驚愕する。
火球は確かにフーケの背中に命中したはずだが、これもまたすり抜け、その先の木の表面を焼き焦がすだけであった。
「ど、どういうこと!?」
(やはり、あれは悪魔……)
既にその姿を見た時から、フーケが人間ではないことを確信していたタバサは、思わぬ所で悪魔と戦えることで杖を持つ手に力が入った。
こいつはこの間、自分も戦ったような奴とは全く性質が違う。
あの時はこちらの攻撃が通ったのだが、こいつには何故か効かない。
「あれが……フーケなの?」
「人間、じゃない……?」
ルイズとキュルケもフーケの正体に驚いているようだ。
フーケは振り向き様に杖を突きつけ、その先から無数のどす黒い影の塊を二人に向けて放っていた。
咄嗟のことに対応できない二人であったが、その目の前に飛んできたタバサが、エア・シールドによる分厚い空気の壁を作って攻撃を防いでいた。
即座にウィンディアイシクルで反撃をするものの、やはり氷の矢はまるで手応えがなくすり抜けてしまう。
フーケは再びニヤリと不気味な笑みを浮かべている。こちらを馬鹿にしているのか。
「どいて! あたしの魔法で……!」
ルイズが杖をフーケに突きつけ、ファイヤーボールのルーンを詠唱する。
先ほど、ゴーレムを次々と屠っていたようにフーケの周辺で大きな爆発を起こしていた。
(駄目……!)
もしかしたら、と思ったが木々をいくつか吹き飛ばしただけでフーケ本人は全くの無傷だ。
「もうっ! 何でよ!」
「ちょっと待って!」
ルイズが癇癪を起こして叫んでいたが、キュルケが声を上げだす。
今の爆発で森の木々がいくらか吹き飛ばされたために、日の光が森の中へと射し込んでいた。
光を浴びるフーケは絶叫を上げて苦しみだし、女性であったその姿が実体を持つ影法師のような姿へと変わっていた。
「あいつ、光が弱点なんだわ!」
キュルケが愉快そうに叫びつつ、隙だらけのフーケにファイヤーボールを放った。
タバサも素早くジャベリンを放つと、今度はしっかりとキュルケのファイヤーボール共々、フーケを捉えていた。
氷の槍が胴体を串刺しにし、火球がフーケを焼き焦がす。
ドサリ、と仰向けに地面に倒れたフーケはどす黒い体を液状のように溶かし、地面へと吸い込まれていった。
「や、やったの……?」
ルイズがフーケの倒れていた地面に杖を向けたまま息を呑む。
「ほう。そいつを倒せたのか。やるな」
不意に三人の背後から感嘆の声がかかり、振り向くとそこには、破壊の箱を肩に担ぐスパーダとロングビルの姿があった。
キュルケはダーリン! と嬉しそうに叫びながらその身に抱きつくがスパーダは気にした様子もなくルイズに顔を向けている。
「……今の、本当にフーケだったの? あれは、人間じゃあ……」
「ああ。私達も偵察中にそいつに追われたからな。それに昨日、姿を見ている。間違いなく、そいつは〝土くれのフーケ〟だ」
スパーダが断言し、どこかまだ釈然としない様子のルイズだったが、とにかくフーケの撃退に成功したということで納得することにした。
「君達の活躍で、フーケは見事に倒せたな」
相変わらず冷然としつつも三人を称えてくるスパーダに、キュルケとルイズの顔がぱっと輝き、喜びを露にしていた。
タバサも顔には出さないが、嬉しそうな様子だった。
「当然よ。〝微熱〟のキュルケにかかれば、フーケを倒すなんて容易いもの」
キュルケが誇らしそうにすると、ロングビルはじっと細い目で彼女を睨んでいる。
「何言ってんの。あんた一人で倒したわけじゃないじゃない!」
「みんなのおかげ」
三人がフーケ撃退の成功に喜び、そして騒ぎ出す中、地面に溶け込んだ影の悪魔――〝死影霊〟ドッペルゲンガーは、誰にも気づかれぬまま主であるスパーダの足元へと移動し、そのまま沈黙していた。
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話の展開
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戦闘シーン
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悪魔の描写
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