魔剣異聞録~The Legendary Dark Slayer/Zero   作:月に吠えるもの

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Mission 64 <双頭の兄弟> 前編

 

ラドの月が早々に一度目の週を過ぎ、二週目に入った初日。

すなわち虚無の曜日にスパーダ達は目的地であるアルビオンの首都ロンディニウムへ到着していた。

この数日間、大陸のあちこちを廻って訪れた多くの町はほぼ無人で閑散していたのに対し、レコン・キスタの本拠地だけはさすがに違った。

故に一行は町外れの森の中で息を潜めているのだった。

「あんなに兵隊がいっぱい……」

「二万……まあ、三万はいるわね」

タバサの遠見の魔法により俯瞰で映し出されるロンディニウムの風景にルイズ達は食い入っている。

キュルケの言う通り、城下町の至る所には武装した兵士達が闊歩しており、上空では竜騎士達がまるで鳥の大群のように遊弋し飛び交っているのだ。

「民を守る気は無いってことね。ふん……やっぱり馬鹿ばっか……」

腕を組んだまま木の幹に背を預けるロングビルは憮然とした顔で鼻を鳴らす。

ロンディニウムの厳重な警備は城下の先、小高い丘の上に建つハヴィランド宮殿の周辺が特に顕著だった。

城門の前では主の居城を守るように騎士の軍団が、敵を待ち構えるかのごとく布陣している。

各地から引き揚げたアルビオンの残存軍は全てここに集結しているのは明らかだ。

 

「亜人はいないみたい」

観察していたタバサが淡々と呟く。

「悪魔共との潰し合いで使い切っちまったかね」

デルフの言に一同は納得した。

オーク鬼にトロール鬼、そしてオグル鬼とアルビオン大陸に生息し、レコン・キスタが戦力として用いていた凶暴な亜人達の姿は影も形もない。

それどころか、大陸中を廻ってきた今まででさえルイズ達はその姿を一度として目の当たりにしてはいないのだ。

下手をしたら、このアルビオン大陸の亜人達は完全に全滅してしまっているのかもしれない。

「元々ここは魔界化しかけていたからな。生存競争に負けたということだ。気の毒だな」

ルーチェの銃を取り出し手元で弄りながらスパーダはそう語った。

 

力なき者は生き残れない。敗北はすなわち死あるのみ。

 

並の人間よりも遥かに強い力を持つはずの亜人達では、魔界における絶対の掟には耐えられなかったのだ。

だからこそ、住民の多くはこの魔の巣窟と化した無法地帯から次々と逃げ出したのである。

 

「で、どうするの? スパーダ」

「いっそのこと強行突破しちゃう? ……正直、あたしもちょっと退屈なのよね」

キュルケが肩を竦めるのには理由があった。

アルビオンにやってきてからこの数日、スパーダ達は各地を廻りレッドオーブを用いた結界を作り続けていた。

廃墟と化した町や砦から、人里離れた森の中、港町ロサイスにダータルネスの郊外と100を超え、魔界の下級悪魔達が蟻一匹でも入り込めないくらいに分厚く隙間の無い規模と化しているのだ。

だが今日までその繰り返しであり、稀に数匹の悪魔達が襲ってきたのを軽く退ける程度でろくな戦いをしていない。

魔界化しかけて悪魔達の巣窟になりかかっている割には、あまりそうとは感じられないくらいに悪魔達との遭遇は少なかったのだ。

人里から離れた地域でほんの少し多めに現れる程度であり、まるで既に悪魔達が駆逐されてしまったかのようで、あまりにも閑散とし過ぎている。

レコン・キスタの本拠地に乗り込むと言うのだから、激しい戦いを想像していたキュルケは思う存分暴れてやろうと張り切っていたのに、これでは肩透かしも良い所である。

もっともスパーダにしてみれば無駄な戦いをしなくて済むためか「楽で良い」と答えただけだったが。

 

「ここまで来たら、いっそ小細工抜きでも良いんじゃねえの?」

デルフもキュルケに同意した。一番退屈なのは誰でもない、このインテリジェンスアミュレットなのだ。

「それも良いだろう。だが、私達の目的はそもそも戦うことじゃない」

そう。今までのアルビオン巡りはいわば寄り道に過ぎない。

ここからが、スパーダが本来この地にやってきた真の目的に取り掛かる本番となるのである。

 

レコン・キスタの指導者クロムウェルを討伐し、アンドバリの指輪を取り戻す。

 

それこそが、スパーダ達がこの地で果たすべき最大の目標だった。

戦うのはあくまで目的を阻む障害を振り払う行為に過ぎない。

「ここにはまだ住民が残っているからな。あまり暴れ過ぎるのも何かと迷惑だろう」

戒厳令でも布いているのだろうか。通りには兵士達の姿しか見えないが、家屋の窓から顔を出す市民が所々にはっきり映っている。

「じゃあどうするの?」

スパーダの力をもってすればあれだけの大軍を正面から相手にしても力尽くで楽々と片付けられるだろう。

だがあえてそれをする気がないスパーダには何か策があると見てルイズ達は注目した。

「陳腐だが陽動が一番だな」

あっさりとそう告げたスパーダはちらりとロングビルの方を振り向く。

 

「君には奴らを引き付けてもらいたい。その間に私達は城に突入する」

「秘書さん一人で大丈夫? いっぺんにあれだけの数を相手にしたらさすがに参っちゃうんじゃない?」

彼女がかつてハルケギニアの貴族達を震撼させた盗賊、土くれのフーケであることを今ここで知るのはスパーダ以外にキュルケとタバサだけだ。

ルイズも彼女が元はアルビオンの貴族、しかも王族とも所縁があったサウスゴータの出身であることなら知っており、スパーダもこうして信頼を寄せている実力あるメイジであることは理解できる。

だが、いくら何でも数万の敵を一度に相手にするのはさすがに無茶というものである。

「別に私は良いけどね」

「少なくとも奴らの戦力は二つに分散させる。こいつにも任せよう」

ロングビルは何の異論もなくあっさりと引き受けるが、スパーダはさらに付け加えだす。

彼の手元にはいつの間にか取り出されていた魔具が一つ握られていた。輪を中心に三つに分かれ、鎖に繋がれた小振りのロッド――ケルベロスである。

魔具の状態から本来の姿に戻して町の中に放ち、敵軍を引き付けるのだ。

 

「まさかあの淫乱女も出す気?」

「いや。ケルベロスだけで充分だろう」

目を細めだすルイズはネヴァンも呼び出すのかと思ったが、そうではないと知ってホッとした。

 

 

「敵襲ぅーーーーーっっ!!」

昼を過ぎたロンディニウムの上空で警戒を続ける竜騎士達は恐るべきものを目の当たりにしていた。

灰色の曇り空の下、薄暗くなりつつある中でその巨大な影はロンディニウム南部の街道を外れた森の中から忽然と姿を現したのだ。

およそ30メイル近くはあるその巨人――土くれのゴーレムは遠くからでもはっきり響く地響きを轟かせながら、真っ直ぐに近づいてくる。

「トリステインとゲルマニアの刺客か!?」

「急げ、急げ! 出撃だーーーっ!!」

ロンディニウムに集結するアルビオン軍の残存兵力は次々とゴーレムを迎え撃つために動き始める。

ハヴィランド宮殿は首都の南に建っている。即ち、ゴーレムが首都に辿り着けば真っ先に狙われる場所は決まり切っていた。

よって、アルビオン軍は早急にゴーレムを迎え撃つために続々と首都外へと出撃している。

 

何しろ現れたゴーレムは一体だけならまだしも……二体もいるのだから。

強力な土のメイジの手により作り出されたこの手の巨大ゴーレムを倒すのは中々に骨が折れる。それが二体もいるとあっては生半可な戦力では太刀打ちできない。

それこそ首都に辿り着けば自分達の指導者である皇帝クロムウェルの命を脅かすことになる。

故に主力軍が迎撃のために過半数が出撃し、首都に残った一万足らずの残存軍は城の守りを固めることになった。

 

だが、ロンディニウムの脅威はこれだけでは終わらなかった。

 

――オオオォォォーーーーーーンッ!!!

 

ゴーレムを迎え撃とうとアルビオン軍が出撃して数十分の時が経った頃である。

「ば、化け物だあぁーーーーっ!!」

町全体に轟く激しい獣の咆哮に残った兵士達は慌てふためいた。

中央の広場で突如として立ち込めだした冷気の霧。その中から姿を現したのは彼らがこれまで見たことのない恐ろしい幻獣だった。

これまで戦力として使っていたが既に全滅してしまった狂暴な亜人達など比較にならない。

三つの首を生やし、全身に氷を纏う巨大な狼を前に兵士達は圧倒されてしまう。

 

――オオオォォォーーーーーーンッ!!!

 

――オオオォォォーーーーーーンッ!!!

 

――オオオォォォーーーーーーンッ!!!

 

その三つ首が同時に雄叫びを上げると、容赦のない猛攻が兵士達を襲った。

氷のブレス――巨大な氷塊――雨あられのような氷の礫――それぞれ異なる三つ首の口から吐き出される凍てついた攻撃はまず上空を飛び交う竜騎士達に殺到する。

ハルケギニア最強と謳われるアルビオンの竜騎士は、成す術もなく次々と地上へ叩き落とされていった。

それはまるで竜を相手にしているような圧倒的な威圧感だった。

 

「我は役不足だな……まあ良い……」

独りごちたケルベロスは次なる標的に向けて前進を始める。

「ほどほどに相手をしてやれ」そうスパーダにケルベロスは命じられていた。

どんなにつまらない相手と戦うことになろうと、同志であるスパーダに任じられた使命を果たすのが自らの役目である以上、敵が何者だろうと関係ない。

「我に挑むか。力無き者どもよ」

ゆっくりと一歩一歩、石畳を踏みしめてハヴィランド宮殿へ進もうとすると城門前に残っていた軍団が次々と広場に殺到してくる。

立ち塞がり、取り囲んできた兵士達は主の居城にケルベロスを近づけないためにも武器を構えていた。

「攻撃っ!」

「奴をこれ以上進ませるな!!」

「ここで食い止めろ!」

数千を超える兵士達の弓が、メイジの騎士達による魔法が一斉に放たれる。

足を止めたケルベロスは堂々と、それらの攻撃を受け止めていた。

当然、弓矢は自らが纏う氷の鎧に難なく弾かれ、メイジ達の魔法は多少なりとも一部を砕くがまるで堪えた様子はない。

 

――オオオォォォーーーーーーンッ!!!

 

「怯むな! 撃て! 撃て!」

大気をも震わせる威嚇の咆哮を浴びせかけられるも、騎士達は果敢にも立ちはだかる魔獣に立て続けに魔法を放っていった。

魔力の矢、火球の礫、ケルベロスと同じ氷の槍。怒涛の連撃を無我夢中で叩きこむ。

ここは通さない。何としてでも食い止めてみせる。

恐ろしい魔獣を前にしても決して屈しない闘志を燃やす彼らは目の前の強敵を迎え撃つことに熱中し続けていた。

 

 

「まったく……単純なものね……本当に馬鹿ばっか」

ロンディニウム裏手の郊外――自らが造りだした自慢の巨大ゴーレムの片割れの肩の上に立つロングビル……マチルダは溜め息交じりに冷笑した。

以前はこれだけのゴーレムは一体作るのが限界だったが、スクウェアとなった今の彼女にしてみれば容易いものである。

この上から一望できるロンディニウムの町の中と、その近くで慌てふためくアルビオン軍の姿がよく見える。

スパーダの作戦は見事に上手くいった。

敵の本拠地に対して敵襲が来たとなれば、如何に何万も兵が守りを固めていようと迎撃に出ざるを得ない。

ましてやその敵のインパクトが大きく、主の居城を直接攻撃するとなれば、余計にそうなる。

だが、ここまで単純に囮に乗ってくれるとは実に単純なものだとマチルダは心底、敵を嘲笑していた。

 

「さて……お出迎えといこうじゃないの」

自分が操るゴーレムを迎え撃とうと迫ってくる何万もの軍団を見下ろしながら好戦的な笑みを浮かべるマチルダ。

それまでロンディニウムに向けて歩を進ませていたゴーレムの足を止め、自分が相手をすべき敵を俯瞰する。

スパーダ達がハヴィランド宮殿に突入し、目的を達成するまでこの連中を足止めしなければならない。

さすがにこれだけの大軍を相手にするのは初めてだが、不安など感じずむしろ上等であった。

「かかってきな! 土くれのフーケの恐ろしさ、たっぷりと思い知らせてやるよ!」

自分の大切なものを奪い、たった一つ残されたものさえ傷つけようとし、挙句の果てには故郷さえも滅茶苦茶にしたレコン・キスタに復讐すること。

それこそマチルダ・オブ・サウスゴータがこのアルビオンの地で成そうとしていた最大の本懐だ。

かつて多くの貴族達を震撼させたメイジの大盗賊、土くれのフーケは憎きレコン・キスタから「主君を守る軍隊」を文字通りに「盗んだ」のである。

 

 

ほんの一時間前まで一万を越すアルビオン軍が敵襲に備え、陣を張っていたはずの城門前はすっかり無人になっていた。

街の中央広場に現れた怪物を食い止めるために残っていた全軍が急行したおかげで、ハヴィランド宮殿に続く入口は完全にがら空きと化している。

今なら一介の火事場泥棒でさえ、堂々と中に入り込みかねないだろう。

その城門前の空間に突如亀裂が入り、ぱっくりと裂けて大きな穴が開いたのだ。

中から出てきた四人組――スパーダを先頭にルイズ、キュルケ、タバサと続くと閻魔刀によって作られた亜空間の穴は独りでに塞がっていった。

「本当、驚くほど上手くいったわね」

したり顔でキュルケは城下に続く道を振り返る。

丘の上に位置するこの場からは町の広場がよく見え、城の守備軍は氷の力を操るケルベロス相手に必死になって戦っている。

「そりゃあ、あんな化け物がいきなり街中に現れりゃなあ」

「少々上手くいき過ぎという気もするがな」

閻魔刀を鞘に収めながらスパーダは呟く。

陽動作戦自体が難なく成功したのは上出来であったが、あまりにあっさり成功したというのも少し腑に落ちなかった。

 

「ここに、レコン・キスタの親玉がいるのね……」

「オリバー・クロムウェルだったかしら? 悪魔に魂売ったのがどんな奴なのか見物ね」

ルイズは目の前の大きな城門を見上げて唸りだす。キュルケも鼻を鳴らして微かに冷たい笑みを浮かべていた。

「アンドバリの指輪もここにあるのは間違いないようだな。微かに魔力が感じられる」

「じゃあ行きましょ! とっ捕まえて、姫様の元に突き出してやるんだから!!」

「おいおい、あんまりはしゃぎ過ぎんなよ。敵の本拠地なんだぜ。まだ中には衛兵がいるに違いねえ」

「わ、分かってるわよ」

張り切り、意気込むルイズはデルフに咎められてムスッと口を尖らせる。

スパーダを先頭に四人は城門を潜り、まずは広大な中庭へと足を踏み入れていった。

 

「兄者よ。見慣れぬ者達が見えおった」

「うむ。見慣れぬ者達じゃ。城の兵ではないぞ」

その声が聞こえだしたのは本当に唐突だった。

「な、何!?」

慌てふためき辺りを見回すルイズだけでなく、キュルケも咄嗟に杖を抜いて身構えだしていた。

「あれ」

スパーダと共に落ち着き払ったままなタバサは彼が見上げる城門の脇を指差している。

見れば門を潜ってすぐ両脇には五メイルほどの高台が設けられていたのが分かる。ちょうど自分達の死角になる場所だった。

女子(おなご)が三人。はて、一体何用であろうか」

「兄者よ。少なくとも客人ではあるまいて」

その上には異様な巨体の姿がはっきりと見える。初めはオーク鬼のような亜人かと思われたがそうではない。

 

(ほう……こいつらか)

台の上で胡坐をかいて座する巨体にスパーダは感嘆と唸りだす。

「何よあいつら……」

目を丸くしながらルイズ達三人の少女は二つの台の上に見入っていた。

朱色と碧色、それぞれ異なる色をした半裸の鬼らしき巨体はその手に大柄な剣を正面に突き立てたまま座しているのだ。

「首がない」

「え?」

タバサの指摘にルイズとキュルケは面食らった。

「客人でなければ何者じゃ? ルドラよ」

「ふむ。巷を騒がす白き魔剣士とやらでないことは確かじゃ」

巨体に反してやけに小さめな頭は口を動かして人語を喋っているが、よく見ればそれは鬼の顔ではなかった。

下から見上げる視点と角度の都合で最初は分からなかったが、鬼の巨体と顔は繋がっておらず別々だったのだ。

口を動かす顔は手にする剣の柄頭にあしらわれた精巧な彫刻であり、本来頭があるべきはずの巨体の頚部にはぽっかりと抉られたような浅い穴で窪んでいる。

その異様な姿はルイズ達を困惑させた。

 

「こりゃおでれーた! 剣が喋ってやがるぜ!」

「今更何言ってんのよ。あんた、自分が何だったか忘れたの?」

「あ、そういやあ俺も前は剣だったっけな」

デルフが間の抜けたことを言いだすので呆れたルイズは突っ込んでしまう。

「ねえ、何なのあいつら? あれも悪魔なの?」

「アグニとルドラだな。……こんな所にいたか」

キュルケの問いに答えたスパーダは小さく溜め息を零した。

タバサは鬼達の会話から、碧色の方がルドラで、朱色の方がアグニ――兄弟であると即座に理解する。

 

かつてスパーダはケルベロスにネヴァン、ゲリュオン、そしてベオウルフとテメンニグルの塔に上級悪魔達を封じてきた。

多くの面々とはこのハルケギニアで顔を合わせ、大半は自分の手中に収めたものの、未だ会っていなかった最後の連中がこの二体の兄弟悪魔にして、魔具の一つであった。

この悪魔達は少々変わっており、本体は手にしている剣の方で、あの鬼の体は仮初めに過ぎない。

魔具というのは悪魔の魂が形になったものであるが、アグニとルドラは存在そのものが魔具という実に変わり者なのである。

そして自分達の魔力で生み出した傀儡の肉体を操り、勇猛果敢に敵を薙ぎ倒す。

 

〝炎風剣〟またの名を〝双戦鬼〟――それがこの双子の兄弟悪魔の通り名だった。

 

スパーダが魔界を裏切る前はネヴァンやケルベロスらと共に魔帝ムンドゥスの麾下で共に戦ってきた強者である。

その兄弟もまた、この異世界ハルケギニアに迷い込んでいたのだ。

恐らくレコン・キスタがどこかで見つけたのをこの場所に門番として配置させていたのだろう。

「白き魔剣士でなければ、やはり曲者か?」

「かもしれん。あの者も剣を手にしておる。それも我らと同じ魔具じゃ」

「……はて。どこかで見た覚えがあるが……?」

「うむ。テメンニグルで会った。いや、もっと前から会っておるな。魔界の同胞じゃ」

「名は何と申したかの? 思い出せん」

「兄者よ。彼の者の名は魔剣士スパーダじゃ」

「おお! 思い出したぞ! あのスパーダか!」

「そうじゃ。魔界に反旗を翻し、魔帝をも討ち倒した、あの魔剣士スパーダじゃ」

古風な口振りで、アグニとルドラはいつ終わるとも知れぬほど饒舌に語り合っていた。

こちらの存在には気付いているようで、気づいていないのか完全に無視していつまでもペラペラとお喋りを続けて勝手に盛り上がっている。

「いつまで喋ってんのよ、こいつら……イライラするわね」

「まったくだ。本当にお喋りな奴らだぜ」

「あんたが言えた口じゃないでしょうが」

「……放っといて良いんじゃない?」

ルイズだけでなくキュルケでさえ勝手に喋り続ける悪魔達に鬱陶しそうにしていた。

「賛成」

タバサも即座に同意する。敵対するでもない様子なので、相手にしていても時間の無駄なだけである。

スパーダも別段気に掛けることもなく中庭を進もうとしたその時だった。

 

「Wait!(待たれい!)」

「Yes, wait!(待たれよ!)」

ほんの数歩進んだ途端、一行は呼び止められた。

小さな地響きと共にアグニとルドラは重い腰を上げると、高台から飛び降りて一行の目の前に着地する。

オーク鬼よりもさらに一回り大きい二メイル半以上の逞しく精悍な、首の無い巨体は腰を落とし逆手に持った剣を構えだす。

「な、何よ!!」

「やる気になったって訳?」

スパーダ以外の三人は立ち塞がった二体の鬼を前に杖を取り出し身構えた。

「我らの使命はこの城への道を守ること!」

「城に入る曲者を阻むこと!」

先程までのどこか間の抜けたような雰囲気とは打って変わった厳めしい態度だった。

アグニは右手、ルドラは左手、それら剣を握る利き手とは逆の岩のような無数の鋲が肩から手甲にかけてびっしりと連なる腕を前に出して威嚇してくる。

 

「上等だ! やろうってか? へへへっ! やっと俺達の出番が来たぜ!」

このアルビオンへやって来て、デルフは初めて嬉々と声を弾ませていた。

アミュレットが青白く光を放ちだし、ルイズの背後には光の魔人ガンダールヴの姿が浮かび上がった。

左手に大剣を握ったエルフの幻影はさらに右手を横へと流す。すると手の中に生じた小さな光が細長く伸びだしていき、さらに膨れていく。

瞬く間に二メイルはあろうかという円錐状の長槍(ランス)が出来上がった。

魔人が槍を掴み、一触即発の緊張した空気が両者の間を流れだす。

 

(すごい剣……)

鬼達が手にする剣を見つめるルイズは息を飲んだ。

アグニとルドラの刀剣は見るからに攻撃的だった。

スパーダの身長くらいはあるであろう大柄で肉厚な刀身は反り返り、剣先は尖っておらず太く広がっていてさながら鉈のようだ。

一番印象的なのは刃が刀身に沿って段を作っていることで、まるでノコギリのような形になっていることだ。

あんな刃で斬られたら、決して痛い程度では済まないはずだろう。ただ敵を斬り裂くだけではなく、残酷に削りさえもするのだから。

 

そんな恐ろしい半月刀を手にする悪魔達は身構えたまま微動だにしなかったが……。

「な、何よ」

ルイズはもちろん、キュルケまでもが目を丸くしだした。

「何なんだぁ? 一体、どうしたってんだい」

突然二体の鬼達は本体である剣を正面に突き立てると、その場で片膝を突いて跪いたのだ。

いざ戦いが始まる――そのはずであったのに、悪魔達からは戦意が微塵も感じられなかった。

 

「魔剣士スパーダ」

「我ら兄弟の力を超えし、偉大なる剣神よ」

柄頭の頭部が口を開き、恭しい口調で喋りだす。

腕を組んだまま一連の流れを見守っていたスパーダは二体の兄弟達の顔を見据える。

「深き地の底のテメンニグルより、我ら兄弟はこの異界の地に召致された」

「我らに与えられし使命はここでは果たせぬ故、この城を守る任を授けられておった」

「我ら兄弟の力は、汝に及ぶべくもなし」

「我らと剣を交えるまでもない。我らが守りしこの道、思うがままに通られよ」

アグニとルドラの起こした行動にルイズ達は困惑しつつ、スパーダを見つめていた。

この悪魔達は顔見知りであろう魔剣士スパーダの力を最初から認めていたのだ。

(律儀な奴らだ)

小さな溜め息を吐いてスパーダは薄い笑みを浮かべた。

「ずいぶんと話が分かる連中なのね」

拍子抜けしたとばかりにキュルケは両手を広げて苦笑した。タバサも戦わないと知るとさっさと杖を下げてしまう。

「鈍いが、馬鹿ではないからな」

「どっちなのよ」

「少なくとも賢明な奴らだ」

 

頭は悪いが思慮は深い――それがアグニとルドラの本質だった。

多くの上級悪魔達は自らの力に時には過大なほどの自負心を持つものだが、この兄弟達は良くも悪くも自分の力というものを正確に把握しているのが長所である。

故に自分達を超えられる力を持つ者を認められる度量もあるし、敵との実力差が分かっていれば潔く敗北も受け入れられる。

だからこそ、スパーダの力をよく知る彼らは戦わずして降参したのだ。

 

すんなり通さなかったのも、単に自分達に与えられた番人の役目として通行者に対して律儀に許可を出したに過ぎない。

 

 

ともかく、レコン・キスタが用意した門番とは戦わずして城に入ることができる。実に好都合だった。

自分達が配置した番人の本質を知ってか知らずか、迎え撃つ相手も悪すぎたことが彼らの不幸なのだ。

「何だよ……根性なしな連中だなぁ。悪魔だったらちっとは戦いやがれってんだ。せっかく手応えのありそうな奴らだったのによう……」

デルフはがっかりしたようにぶつぶつと呟いていた。

やっと思う存分に戦えると思ったのに期待外れだったのだから無理もない。

「待て。まだ消すな」

用の無くなったガンダールヴの魔人が薄っすらと消え行こうとする中、スパーダは呼び止めてきた。

「え?」

「お出ましだ」

言い切ると同時に懐から抜いたルーチェ、オンブラの銃を即座に左右に向けて銃弾を放った。

中庭に響く鋭い銃声と共に、弾丸は遥か先でそれぞれ小さな影を撃ち砕く。

「む!?」

「新手か!?」

アグニとルドラも即座に立ち上がり颯爽と身構えだす。

「何、あいつら?」

見れば中庭の至る所から異様な姿の怪物が次々と現れだしていた。

剣や手斧、鋸刃のついた円盾を手にした人骨。だがその全身は血と錆に汚れた鉄の檻のようなものに封じ込められている。

人の形に合わせた造りの鉄檻ごと動き回る白骨死体はややぎこちないながらも人間と変わらない動作をしていた。

 

「おお、フィニスの連中じゃ」

「然り。この城の主が飼い慣らしておる同胞ではないぞ」

それは元は罪人を身動きができないほどに拘束して餓死させるという残酷な処刑具に過ぎなかった。

だが、この拷問器具によって無実の罪で殺された者も含めた刑死者達の怨念が宿り、一個の悪魔と化したのがフィニスと呼ばれる種族である。

こうして誕生した死者の怨念に操られるこの人形達は、自分達が受けた苦痛と恐怖、そして死を生者にも味合わせようと彷徨うようになったのだ。

「どうやらアルゴサクスがちょっかいをかけてきているらしいな」

この下級悪魔達を戦力として扱う者をスパーダはよく知っていた。

陽動作戦を開始する前に、一応今までのようにレッドオーブで結界は張っておいたのだが、それを破ったとなるとそれよりも格上の上級悪魔がいることを意味している。

「アルゴサクスって、スパーダが言ってた覇王って奴のこと?」

「ルイズ! 後ろ!」

キュルケが叫び、ルイズの背後に迫っていたフィニスに火球をぶつけた。

次々と姿を現しては迫ってくるフィニス達をスパーダだけでなく、キュルケとタバサも魔法を放って次々と仕留めていく。

 

突如、城門の外壁が轟音と共に砕け散り、大きな穴が穿たれていた。

「来たな」

「な、な、な、な、何だぁ!?」

「「――何奴!」」

ルイズ達も振り向けば、重々しい足音を響かせる、フィニス達とは違う大きな影を垣間見る。

「覇王に魂を捧げし者は――」

「ここかぁ!?」

荒々しい声を上げながら、その巨体は姿を現した。

「何、あいつ!?」

「えらくごっつい奴が出てきやがったな」

アグニとルドラよりもさらに一回りも大きく大木のように太く逞しい巨人だ。

だがその全身はフィニスのような鉄檻で覆われ、両手の先端には太い鎖を垂らすと共に大きな鉄球が繋がっていた。

「タルタルシアンにプルートニアン……なるほどな」

「我らが敵手、覇王の尖兵!」

「豪腕なる〝双頭囚〟!」

「覇王アルゴサクスの手先」

「あの猿と同じってことね」

先日、ガリアでも戦った巨猿・オラングエラと同じ存在であることをキュルケとタバサは理解する。

 

「我ら兄弟が狩るべき者は――」

「――ここにいるのかぁ!?」

巨人の首は一つではなく、巨体に反した小さな頭が左右に二つ並んでいた。

胴体から下よりもびっしりと厳重に覆い尽くされた拘束具の僅かな隙間からは赤と青の眼光がそれぞれ覗いている。

 

双頭の巨人、タルタルシアンにプルートニアンは元々二体の豪腕な兄弟悪魔に過ぎなかった。

太古の昔、その暴れ振りから多くの悪魔達を困らせた挙句、自分が属する中小の勢力を率いていた上級悪魔にすら背いて暴れ殺したこの兄弟達はついに魔界の深淵に幽閉されてしまったのである。

その時に身に着けさせられたのがあの拘束具で、単体では破壊することはもちろん振りほどくこともできなかった。

だがこの兄弟達は自らの肉体と魂、力を一つにすることで拘束具を纏ったまま動き回るようになったのである。

結果、彼らは自らを封じ込めるはずであった鉄檻さえも鎧にすることでより強力な存在と化したのだ。

 

「狙いは恐らく、こいつらだな」

ちらりとスパーダはアグニとルドラを見やる。

この兄弟悪魔達は今現在だと、オラングエラと共に覇王アルゴサクスの勢力に属している。

そして自分が纏う鉄檻と同じフィニスの一団を率いるようになったのだ。

どうやら、アグニとルドラの魂を狙ってこの地に送り込まれたらしい。

(それとも奴の方か)

だがスパーダはアルゴサクスの狙いがこの兄弟達だけではないと感じていた。

このアルビオンの地にいるらしい〝白い魔剣士〟

その悪魔が何者であるかは、スパーダには薄々見当はついていた。

 

「きゃあっ!?」

「……っ!!」

巨人が右手を突き出すと、鎖に繋がれる鉄球が砲弾のような勢いで真っ直ぐに一行の元に飛んでくる。

『――ハアッ!!』

未だ消えずにいたガンダールヴの魔人は手にしていた長槍を投げ放ち、鉄球に正面から衝突させた。

槍は砕け散るが、軌道が大きく上にずれた鉄球はスパーダ達の頭上を掠めて飛んでいき、最後は地上に落下した。

落下地点にはちょうどフィニスが数体駆けてきており、問答無用で圧し潰してしまう。

「散れ!」

「きゃっ……!」

横へ飛んだスパーダの一声と共にキュルケとタバサは反対側に飛び出す。ガンダールヴの魔人に抱えられてルイズもスパーダの傍まで来ていた。

ついでにアグニとルドラもその場から軽く跳躍して左右に分かれていた。

直後、鎖に繋がれた鉄球が巨人の手元へ瞬く間に引き戻されていく。

「おのれぃ! 邪魔だてするかぁ!!」

「小娘ども! 貴様ら諸共、嬲り殺しにしてくれるぞ!!」

ルイズの方を振り向いて双頭の兄弟達は怒号を浴びせてくる。

それまで藍色に染まっていた巨体は怒りを表すかのように赤色へと変わっていった。

「……っ!」

「面白れぇ! かかってきやがれってんだ!! 相手をしてやるぜ!」

威勢の良い声を上げてデルフははしゃいだ。ガンダールヴの魔人も新たな長槍を作り出し、右手に握り締める。

だが、またもデルフの期待は裏切られることになる。

「用が済むまでそいつらの相手でもしていろ」

スパーダは自分の近くにいたアグニにそう命じると、城の方へ向かって歩き出す。

 

「Got it!(合点!)」

「All right!(承知!)」

アグニに同調してルドラも威勢よく応えた。

「「フンッ!!」」

二体の鬼が腕を交差させて力を込めると、手にする刀剣には体色と同じ薄く光るオーラが纏わりだしていた。

アグニには燃え盛る炎が、ルドラには絡みつく疾風と、それぞれが宿す力がはっきりと目で分かるほどに顕現したのだ。

 

「あ、待ってよ! スパーダ!」

「いや、ちょっと待て! 俺の出番があああぁぁぁぁ……!!」

慌ててルイズはスパーダの後を追い出すが、デルフの無念の叫びが空しく響き渡る。

「タバサ?」

スパーダ達が城に入っていくのに対して、ルドラの隣に立つタバサは杖を構えて同じように巨人を見据えていた。

「わたしは残る」

「じゃあ、あたしも付き合うわ。たっぷりと暴れてあげるわよ!」

ほくそ笑んだキュルケは背後に迫っていたフィニスへ炎を浴びせかけ、難なく蹴散らした。

 

――グゥオオオオオオオオッッッ!!

 

両腕の鉄球を力一杯に振り上げ、双頭の巨人は雄叫びを上げた。

 

 

「な……な……な……」

ハヴィランド宮殿の執務室でクロムウェルは窓に張り付き、愕然としていた。

衝撃と共に幾度となく部屋が短く揺れるのが繰り返されるが、今やそれすら意識していない。

「これは一体どういうことなのだ? ミス・シェフィールド……!」

目を見開き中庭を見下ろしたまま、背後に控える黒髪の秘書に震える声で語りかける。

シェフィールドは彼の方を見向きもせず、机の上に置かれた小さな鏡に見入っていた。

そこにはクロムウェルが見るものと同じ光景が鮮明に映し出されている。

「あなたが与えてくださったあの番人どもは、どうして奴らを倒そうとしないのだ!? 何故、自ら降参するのだ!?」

「……ちっ、役立たず共め」

振り返り喚き立てる男を無視するシェフィールドは忌々しそうに舌を打っていた。

最初、侵入者の前に番人の悪魔達が立ちはだかった時にクロムウェルは歓喜していたが、戦いもせずに降参するという予想外の展開によって一気に絶望のどん底に突き落とされてしまう。

シェフィールドにしてもまさかこのような結果になるとはまるで想像していなかったので、呆気に取られてしまった。

侵入者を阻むという役目は果たせなかったものの、乱入者の登場で実力を見ることができるのが幸いではあったが。

 

(それにしてもあの娘がここにいるとは……)

失望した連中よりもシェフィールドが今注目するのは、侵入者の一人である青い髪のメイジだった。

それは主が飼い慣らしている番犬の一人である北花壇騎士の一人である。

用がある時しか呼び出さないはずの者がここにいることにシェフィールドは眉を顰めていた。

(ジョゼフ様には一応報告しておくべきね)

「ああ……あ……もう、おしまいだ……あの悪魔は、私を殺そうとここまでやってくる……!! 私は、死にたくない……!」

慄き続けるクロムウェルに熟考しているのを邪魔されたシェフィールドは、はっきりと嫌悪に顔を顰めだす。

幾度となく見届けてきたこの小心者の狼狽は、もういい加減に見飽きていた。

(……うるさいわね)

振り向けば、崩れ落ちたクロムウェルが頭を抱えて縮こまって子供のように怯え切っている。

つい先刻には会議の最中に敵襲の報を受けても、シェフィールドに言われるがままだったとはいえ狼狽する他の閣僚を尻目に落ち着いた態度で迎撃を指示してみせた姿が嘘のようである。

 

「慌てることもないでしょう? ガリアの艦隊は間もなくこの城に到着するわ。それまで持ちこたえれば良いだけのこと」

それでもシェフィールドは柔らかな笑みを――いつもより硬い表情だったものの――向けながら怯えた子犬のように蹲るクロムウェルの前にしゃがみ込み、その顔を覗き込む。

「し、しかし……もう……じ、時間が……」

「閣下。アンドバリの指輪を渡しなさい」

意に介さずにっこりと薄い笑みのまま命じてきたシェフィールドに、クロムウェルはガタガタと震えながら指から外したマジックアイテムを手渡した。

それを自らの指に填めたシェフィールドは愛おしそうに指輪にあしらわれた宝石にそっと指先で撫でた途端……。

 

「お、おおお……!?」

クロムウェルは驚きに目を見張った。アンドバリの指輪がこれまで見たことがないほど妖しく輝きだしたのである。

それだけではない。シェフィールドの額もまた同じように煌めきだし、彼女は目を瞑ったまま意識を集中しているのだ。

初めて目にする光景に、クロムウェルはたった今までの恐怖とは異なる好奇と戸惑いが混じった眼差しで秘書を見つめ続けていた。

「私が時間を稼いできてあげるわ。あなたはここで大人しくしていると良い」

やがて光が治まると共に踵を返したシェフィールドは扉に向かって歩き出す。

その後ろ姿を床に這い蹲ったまま見届けるクロムウェルは、縋るような眼差しを送りながら叫んだ。

「おお……! ミス・シェフィールド……もう、そなただけが頼りなのだ……! 頼むぞ……!」

「Useless idiot.(役立たずにもう用はないわ)」

退室する寸前、無視して呟かれた冷酷な呟きはクロムウェルの耳には一切届かなかった。

 

 

首都ロンディニウムの遥か上空――アルビオンの竜騎士隊が警戒していた場所よりもさらに上、数百メイルに位置する場所に一頭の風竜が人知れず羽ばたいていた。

曇り空の中に紛れていた純白の風竜は空を見張る者達がいなくなったことで、旋回しながら降下するとハヴィランド宮殿の僅か数十メイルの頭上までやってくる。

「これはこれは……ずいぶんと派手にやるもんだな」

竜の背中に跨る金髪の少年、ジュリオ・チェザーレは面白おかしそうに小さな笑みを浮かべて下を見下ろしていた。

宮殿の中庭では悪魔達に混じって二人の少女も果敢に戦っている姿がよく見える。

巨人の振り回す鉄球を必死にかわしつつ魔法を放ち、二体の首なし鬼もまた巨体に似合わぬ軽快さで猛攻をかわしては手にする刀で反撃を加えている。

「あーあー、見境が無いね。まともに喰らったらひとたまりもないよ」

周囲に次々と現れる悪魔達は巨人の鉄球に巻き込まれてその身を砕かれ、残骸を撒き散らしていった。

そればかりか城壁の一部に当たれば分厚い石の壁をまるで柔らかい土のように呆気なく砕いて大きな穴を開けてしまう破壊の力を見せつけている。

 

『脳みそまで筋肉だからネ~。ワァオ!! アブナイ、アブナイ。もうちっとでミンチになる所だったネ』

「綺麗なお姫様達がそんな風になるのは見たくないなぁ」

ジュリオが苦笑していると、頭の中で陽気な声が響きだす。

誰にも聞こえないその声にジュリオは雑談するかのように自然な口振りで返していた。

『さーて、ジュリオちゃん。今日はあんたが自分で伝説の魔剣士に会ってみるんだネ。せいぜい痛い目に遭ってきな』

「痛いのは好きじゃないんだけどね」

『なーに、オレ様に任せてもらえりゃノープロブレム! ジュリオちゃんは体だけ貸してくれりゃ良いのサ。死にゃしないって! ――タブン』

宮殿の塔の一つの屋上にアズーロが降り立つ中、ジュリオの姿は影に包まれていく。

左右の異なる月眼だけが、闇の中で一際煌めいていた。

 




※タルタルシアン、プルートニアンはゲーム中では個別の中ボスとして登場しており、本作のように合体はしていません。

作品の良かったところはどこですか?

  • 登場人物
  • 世界観
  • 読みやすさ
  • 話の展開
  • 戦闘シーン
  • 主人公の描写・設定
  • 悪魔の描写
  • 脚色したオリジナル描写・設定

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