前世の記憶を取り戻したら、原作開始前に死亡する予定のラスボスの妻になっていた件について 作:しらたま大福
一話目の前書きに、主人公の名前についての説明を追加させていただきました。お手隙の際にちらっと目を通していただけると嬉しいです!
(そろそろ話のストックがなくなってきて焦ってます )
なんやかんやあり、鈴川を脅して協力させると約束した私達は、旭川の近隣のコタンにお邪魔してから作戦会議が開かれた。とりあえず、詐欺師は詐欺師らしく第七師団の人間を騙そうという方向の作戦へと固まってきている。
上に行けば行くほど縦の繋がりが強くなるため、架空の上級将校はバレる可能性が高い、変装するなら実在する人物が好ましいと意見が出る中、鈴川聖弘は外で鳴いている犬の鳴き声を聞いてポツリとつぶやいた。
「犬童四郎助はどうだろうか」
鈴川の言う犬童四郎助とは、どうやら網走監獄の典獄を務める人物らしい。
「誰か実在の人物になりすますってのは、その人物と似ていない部分を減らすってことだ」
そういった鈴川聖弘は、髪を切って眉毛を薄くし、髪を前に流した。するとその姿を見た牛山さんは、「なんとなく似てきたかも」と小さくこぼした。
「第七師団内に網走監獄の典獄と親しい人間がいる可能性は低いが、よほど似てないと多少面識のある人間ならバレちまうぞ? 大丈夫か?」
「犬童は……厳格で潔癖、規律の鬼と言われながらも個人的な恨みで私を幽閉する矛盾を持ち合わせている。心の歪みが顔に現れている」
土方さんの言葉に、私の中の犬童四郎助像がどんどん厄介なオタクへと変わっていく……。土方さんから心の歪みが表れているって言われるなんて……よっぽど性格が悪そうな顔をしているんだろうなぁ……。
「たしかに……性格って顔に出るよな。ヒグマもキツネっぽい顔付きしてて睨んでくるのは、気性の荒いヒグマだって。そうなんだよね、アシㇼパさん?」
「ぐぅ……」
「ダメだ……おねむの時間だ」
ガクガク、ぐらぐら。眠すぎて首が座らないアシㇼパちゃん。その姿は誰がどう見ても完全におねむの姿だった。普段はあんなにしっかりして頼もしいけど、こういう時に見える年相応の姿は可愛らしい。
あまりにも首がガクガクなアシㇼパちゃんの姿に、せめて膝枕でもしてあげようかと腰を上げれば、向かいにいた杉元くんが「大丈夫」と口パクで私に伝えた。そう言われてしまえば、私は大人しく座り直すしか無くなってしまう。
さて、私たちがそんなやり取りをしている中、鈴川聖弘達の犬童講座は続いていた。あぁだ、こうだと犬童の印象を語る囚人チーム、それを聞いた鈴川はスッと下を向いた。
「ふむふむ、ならばこれでどうかな?」
そう一言言った鈴川聖弘がそっと顔を上げる。その表情を見た瞬間、――刺青を持っている人達が顔色を変えた。
「……!!」
「……」
すごい、めちゃくちゃ性格が悪そうな厄介オタクの顔になった!! 私は犬童がどんな顔か知らないけど、牛山さんや家永さんの表情を見る限りめちゃくちゃそっくりっぽい。
「……で、網走監獄の典獄に化けて第七師団相手にどうしよってんだ?」
「俺に考えがある」
そう自信満々言った鈴川は、犬童フェイスのままゴロリと床に寝っ転がった。その姿が、さっきまでさるかに合戦されて怯えていた姿とは打って変わっていた。やっぱり見た目が変わると人って太々しくなれるんだなと思った。
「杉元さん、何事も焦らないことが大事よ。ずさんな計画で鶴見中尉にバレて、旭川にいるあの人が送られて来ればきっと厄介なことになるわ」
「あの人?」
「……あぁ、あのボンボンか」
オリガからの「あの人」という言葉に、尾形くんはすぐにオリガの言いたい人物が思いついたみたいだ。「ボンボン」という言葉に、ふと原作のワンシーンが頭の中にフラッシュバックした。
『バルチョーナク』そう呼ばれる人物といえば……。
「多分尾形の想像通りの人物よ。第七師団所属で、鶴見中尉のお気に入りの薩摩隼人――鯉登音之進少尉よ」
あ、やはり薩摩奇公子でしたか。
「彼、鶴見中尉が絡むと少しポンコツになるんだけど地頭はいいの」
したり顔で鯉登少尉の評価を語るオリガ。そんな姿に私はふと疑問を覚えた。
……いや、ちょっと待って、どうしてオリガが鯉登少尉の事を知っているのだろうか?? しかも、鶴見中尉が絡むとちょっとポンコツになるという情報まで知ってるってことは、ただの顔馴染み程度ではないよね??
「確か、犬童は薩摩弁に精通してるはずだ」
「もしも鶴見中尉にこちらの作戦がバレて、鯉登少尉を送り込まれたら大変厄介なことになりますわ。薩摩弁の対策は行っておいた方がいいと思います」
「薩摩弁か……」
「ちなみに、私だったら薩摩弁はある程度は扱えますわ」
……だから、なんでオリガは薩摩弁まで知ってるのー!! いくらうちの子がめちゃくしゃ優秀だと言っても、普通そこまで勉強しないでしょ! しかも、北海道から遠く離れた薩摩弁……。
これは絶対あの子のことだから裏がある。
「実は、鯉登少尉は私が働いていた団子屋の常連さんだったんです!」
「……普通常連客のために薩摩弁を勉強するのか?」
「も……もしかして、ユキコちゃんってその鯉登って人のことが……好きなの?」
「おい、この女はそんな可愛いもんじゃねえぞ」
「ちょっと尾形、私に対して失礼よ」
恋バナの雰囲気に明らかにドキドキしている杉元くん。確か彼の愛読書は『少女時代』と呼ばれる少女向けの雑誌だったはずだ。乙女な杉元くんにとっては恋バナは心惹かれる話題だよね、分かるとも。
私もなんやこんやいって自分の娘の恋バナとか気になっちゃうわ。
「まぁ、事実だけど」
「事実なのか」
牛山さんのツッコミに、オリガはふっと誰もを魅力させる魔性の笑みで答える。
「何事においても上客の心を掴むのは大事なことですわ、特に鯉登少尉はお父様が海軍少将で現在は青森に設置されいる大湊要港部司令官ですもの。心を掴んでおいて損はない人物よ」
「ユキコちゃんめっちゃ策士ぃ~」
「ふふ、お褒めいただき光栄ですわ」
……果たして、本当にオリガはそれだけの理由で鯉登少尉の為に薩摩弁を勉強したのだろうか? 打算があるのは間違いないとして、自分が働いているお店の為にそこまで労働力をかけるのだろうか?
私だったら絶対そんな面倒臭いことはしない。これが、もし自分の両親の店とかだったらなくもない理由だと思う。でも、オリガはただの雇われ看板娘。そこまでする義理はない。
考えられるのは――実は自分の父親が鶴見篤四郎だということに気づいていて、父親の情報を手に入れるために鯉登少尉に近づいた? いや……さすがにこの考えは飛躍しすぎか。私は長谷川幸一の写真すら持っていない、彼の本名である鶴見篤四郎という名すら誰にも話していたない。
そんな中、当時赤ん坊であったオリガが見ただけで鶴見篤四郎を父親だと認識できるわけがなはず……多分。
……うーん、考えてもこれは結論が出ない。やっぱり、一度オリガとちゃんと話し合わなければいけない。
もしも、オリガが父親の正体を知っていたとしたら……私はあの子に教えなければならない。――私の秘密を。
一人そんなことを決意していると、杉元くんが土方さんと白石くんが繋がっていた事に気づいてまた一騒動があった。だが、結果的に白石くんは杉元くんたちを裏切っていなかった。
杉元くんはどうやら裏切りは絶対許さないマンみたいなので、白石くんの潔白が証明されて本当に良かったと思う。白石くんはあんな感じで散々役立たずとかなんだとか言われ続けているけど、いざというときには役に立つし、なんたって良いムードメーカーだから彼の存在に救われる人も多いはずだ。
ただ……偽物を渡されたと知った牛山さんが、巨大ストゥで白石くんの肛門を破壊してやると息巻いてたから、白石くんは頑張って牛山さんから逃げて欲しいところである。