前世の記憶を取り戻したら、原作開始前に死亡する予定のラスボスの妻になっていた件について 作:しらたま大福
場所は小樽。
「はぁ~……鶴見中尉に叱られる。私がユキコと話さなければ……きっと今頃白石を渡すという愚行を止められていたはずだ……。うぅ、ユキコと会えてうれしかったが……どうしてあのタイミングなんだ……」
鯉登少尉は「うおおおお」と言いながら正座したまま上体を後ろにのけぞって、ゴロゴロと畳の上を転がり始めた。まるで駄々っ子の子供がごねるように暴れる姿を、月島は死んだ目で見つめていた。
「鯉登少尉お気を確かに、過ぎたことはしょうがないです」
「うぅ……私がもっとしっかりしていれば」
「ホラホラ頼まれていた写真を持ってきましたよ」
「おお~ッ、良い良いッ、良いではないか! 月島あぁ!!」
月島の手に持っているのは、鶴見中尉と月島軍曹が二人で映っている写真である。奉天会戦の前ぐらいのその写真を、鯉登少尉は手汗がすごい状態でじっと見つめる。
「あとほんの少し早く生まれていれば……私もお供することが出来たのに」
哀愁漂うその姿。しかし、月島にとってその姿は複雑なものである。出世のエリートコースを爆走する鯉登少尉。そんな新任少尉を補佐するのが、たたき上げで経験豊富な軍曹だからである。
「……鶴見中尉の顔、どことなくユキコと似ているような気が……」
鯉登少尉は、ふと鶴見中尉の目元とユキコの目元が似ているような気がした。だが、見間違いかもしれないし、推しの顔の系統が似ていると言うことはオタク界隈ではよくある話である。
「ユキコ……あぁ、団子屋の娘ですか?」
「あぁ、鶴見中尉も好きな花園公園の団子屋にいる娘だ」
「そういえば、そこの看板娘はここ半年ほど見てませんね」
「……なに?」
鶴見中尉が一部の第七師団の軍人に、件の親子の捜索を頼んで半年ほどが経った。鶴見からは親子の行方を捜す理由として「特に娘の方が良く頭が周り、金塊探しに役立つはずだ」からという説明を受けていた。
さて、そんなお尋ね者の娘が旭川にいた……? これは偶然なのか、それとも必然なのか。月島がそこまで考えたところで、鯉登少尉は言葉を発する。
「先日旭川であったときは旅行だと言っていたが……」
「流石に半年も旅行に出ないと思いますよ」
小樽から件の親子が消え半年が経っているのだ。第七師団の誰にも見つかることなく半年も逃げ続けるなんてただ者ではない。その事を鶴見中尉に知らせなければと、思ったその瞬間。
「来てたのか、鯉登少尉」
「キェェェェェェェェ!!!(猿叫)」
鶴見中尉が現れたせいで、鯉登少尉からはおなじみの猿叫が飛び出た。そのせいで月島の耳がキーンとなったのはここだけの話である。