前世の記憶を取り戻したら、原作開始前に死亡する予定のラスボスの妻になっていた件について 作:しらたま大福
※まだまだ本編では夢主と鶴見はエンカウントしない予定になってしまったので、おまけの小話ぐらいはイチャイチャに絡ませたいよね!!
むわりとした熱気が、私の肌を撫でる。ムズムズした熱のようなものが内側から少しずつ染みでるかのような感覚に、まだ眠いと訴える目を無理やりこじ開ける。
「……んぅ?」
ぼやけた視界の中、私をのぞき込む人がいた。
「フィーナ、起きたのか?」
甘い声が私の名前を呼ぶ。昔よりも伸びた髪を後ろに撫でつけ、綺麗に揃えられた髭が大人の魅力を引き出す。
私をのぞき込む、このとんでもない美中年は私の夫であった。
「あれ……篤四郎? どうして、ここに……」
「どうしてって、仕事が終わったからに決まってるだろう」
「……そっか」
この人がここにいるはずがない気がするが……、夫にそう言われればなぜだか納得してしまう。夫の人好きな笑顔を見れば、全てがそれでいいような気がしてきた。……イケメンってずるいなぁ。
「フィーナ」
夫が私の名前を呼ぶ。その声を聞いていれば、寝起きのせいでどこか頭の中に霞が掛かったかのように意識がぼーっとしているのに、何故か体が燃えるように熱いことを感じた。
膜に包まれた意識の向こうでは、ぐつぐつと何かが煮込まれている音が聞こえた。
「……ん、何の匂い?」
スンスンと鼻を鳴らせば、嗅いだことの無い不思議な匂いが鼻腔をくすぐる。
「あぁ、これはラッコの肉だよ。知り合いからいただいてね」
「へえ……ラッコねぇ、ずいぶん独特な匂い」
「あぁ、これは必ず夫婦二人で食べないといけないらしい」
「どうして?」
いたずらっ子のような幼い笑みを浮かべる篤四郎が、ずっと顔を近づける。
「分からないかい?」
「……えぇ」
吐息がかかるほど近い距離に、思わず私の胸はトクトクと忙しなく動き始める。
「顔が赤いね」
額に、耳に、頬に、唇に。篤四郎の熱い唇が感触を確かめるようにゆっくり落ちていく。
「……あっ」
小さく零れる声に、篤四郎は小さく笑って首へと手を伸ばす。少し汗で濡れた大きな手が、項を撫でる感覚にゾクリとした快感のようなものが背筋から伝わる。
「相変わらず首が弱いな」
「……そ、そんなことは……」
ないと言おうとした瞬間、首筋にチクリとした痛みを感じて思わず喘いでしまった。
「んぅ……!」
「君の白い肌に綺麗に色が付いたね」
「……っ、どうしてこんな……」
見上げた彼の顔には、しっとりと汗が滲んでいた。後ろになでつけた筈の前髪は、数束はらりと前に垂れ下がっているのがまた何とも言えない色気を醸し出している。
「私の目には……今の君は情欲的に映っているよ」
「……へ?」
……情欲的。つまり、エッチな目でみているという事だろう。
「フィーナからは、私に欲情してくれないのか?」
確かに彼の言うとおり、なんだか今日の彼はいつもよりもスケベに見えるのである。無言を肯定と受け取った鶴見は、その手をそっと襟元から服の下へと這わせる。
「あっ……だめよ、そんな――」
「大丈夫、ここには私たちしかいない」
「そ、そうだったとしても……んっ」
夫の手が私の膨らみに到達しようとしたその瞬間――。
「――ま! ……――きて!! マーマ起きて!!」
「……はっ!」
急に意識が現実世界へと帰ってきた。ここは網走監獄近くのコタン、夫の姿なんてものはどこにもなく、あれは全て夢だったことを悟った。
いつの間にかうたた寝していた私を心配そうにのぞき込むオリガの姿に、私は猛烈に自分の煩悩を恥じた。
「大丈夫? ダメとか、やめてとか言ってうなされてたけど……」
「…………大丈夫よ」
今の気分は賢者タイム。……穴があったら入りたい。私だってもういい年なのに、淫夢(未遂だけど)なんてみるだなんて……。オリガは気づいていないようなのが幸いだけど、私は気まずさで消えてしまいたい……。尾形くん私を殴って気絶させておくれ……。
「……あれ、この外套って」
「マーマが肌寒いだろうと思って、尾形から剥ぎ取った」
「剥ぎ取ったって……。あとで返してあげないと」
(尾形の外套に残ったラッコ鍋の残り香で、少しエッチな夢を見てしまった夢主であった)
「鶴見中尉、どうしましたか?」
「…………今朝の夢が、いいところで目が覚めてしまってね。とても残念に思っているところだよ」
ナニがとはいわないが、今朝は賢者タイムを過ごした鶴見篤四郎であった。