前世の記憶を取り戻したら、原作開始前に死亡する予定のラスボスの妻になっていた件について 作:しらたま大福
月の光のない漆黒の夜。強い風の音が全ての音をかき消す今夜、ついに網走監獄への潜入が決行される。それぞれのポジションに着き、作戦が実行される頃。私はインカラマッさんに呼ばれてコタンの外へと出ていた。
「こんな所に呼び出してしまって申し訳ございません」
「大丈夫ですよ、一体どうしたんですか?」
「一度クレハさんとはきちんと話してみたかったんです」
そういったインカラマッさんは、その何事も見透かすような瞳でじっと私を見た。
「あなたも、運命を変えた人ですね」
「……えぇ」
彼女の言いたいことは分かった。死ぬ運命だった私が今も生きている。その事を占いで察したのだろう。
「私は、あの湖で死ぬ運命でした。なのに……谷垣ニシパは私の占いを覆してくれた。ここに来て初めて、私は運命を変えられることに気づきました」
「私の持論ですけど……運命なんてちょっとの運と、少しの勇気でいくらでも変えられるものだと思います」
「えぇ、今の私もそう思います」
私の運命は、良くも悪くも変わった。死ぬはずだった私とオリガは生きていて、ここにいる。それでも、運命という大きな歯車は変わらず回っている。きっと私たちの命というものは、小さなものなのだろう。
「私、鶴見中尉からあなたの正体を聞きました。クレハさん、いえ――ルフィーナさん」
あの人からウイルクについての情報を教えて貰う代わりに、こちらの情報を提供していたインカラマッ。まさか、私の情報すらも教えていたなんて……意外である。
「……あの人は、私に何か言ってましたか?」
「いいえ」
あの人は、一体私たちをどうしたいのだろうか。……分からない。
「鶴見中尉は、アシㇼパちゃんを捕まえた後ここに来ます。そして、あなたとユキコちゃんを捕まえます」
「……インカラマッさん、そんな大事なことを私に伝えていいのですか?」
きっとインカラマッさんは、私たちが変なことをしないようにコタンにとどまらせるようにするべきだったのだろう。私のその言葉に、インカラマッさんはすっとその瞳を細めた。
「最初は黙っているつもりでした。でも、私はあなたに嘘をついていたくないと思いました」
「運命を変えた仲間だからですか?」
「はい。そして、あなたもこのままではダメだと思っているのではないですか?」
その言葉に、私の心臓がドクンと跳ねた。
……確かにインカラマッさんの言うとおりだ。娘があの人に会いにいくと決めたのに、母親である私がここにいて待っているだけというのは違う気がする。本当だったら、あの子と一緒にあの人の元へ行って全てを明らかにするべきだたんだろう。
「あなたはどうするのですか? ここにいれば、もうすぐ鶴見中尉達があなた達を迎えに来るはずです」
「私は……」
一瞬言葉に詰まる。でも、すぐに私は真っ直ぐ前を向いて言葉を紡いだ。もう私の心は決まったから――。
「あの人の元に向かいます」
思ったよりも自分の声に力がこもっていた。……なんだ。私、自分が思った以上にあの人に会いたかったんだ。
「その言葉を待っていました」
私の言葉にインカラマッさんは優しい笑みを浮かべ、その手を差し出した。
「行きましょう、愛する人の元へ」
「ええ」
インカラマッさんに手を引かれながら、私たちは網走監獄へと向かう。各の――愛の形を証明するために。