前世の記憶を取り戻したら、原作開始前に死亡する予定のラスボスの妻になっていた件について 作:しらたま大福
次の投稿からは、月曜日と金曜日の22時投稿にシフトチェンジします。よろしくお願いします。
次回の投稿は、6月13日(月)の予定となります!
網走監獄潜入作戦が実行され、しばしの時が経った。何事もなく終わってくれと願う気持ちとは裏腹に、舎房近くの火の見櫓から侵入者を知らせる半鐘が高々に鳴らされた。監獄全域に聞こえる半鐘の音。それは、丸木舟で待機していた谷垣と夏太郎の元にも届いた。
明らかにこれは異常事態であり、作戦の失敗を告げる音だった。音の方角から考えて、杉元達の侵入が看守にバレたのだと考えるのが普通だが、丸木舟で待機を命じられていた谷垣と夏太郎にはその詳しい詳細を確認するすべはない。
「おいおい……どうする?」
「どうするも何もここで待機するしか……」
作戦が失敗したと考えこの後の身の振り方を考えていれば、谷垣達の元に二人の人影が持ち近寄ってきた。
「インカラマッとクレハさん!?」
彼女の持つランプの光に照らされたのは、インカラマッとフィーナの姿だった。本来だったらコタンで待機している筈の二人の姿に、谷垣は目を見開き困惑の声を零す。
「どうしてここに? 村で待機してるはずじゃ……」
「谷垣ニシパ、いますぐここから逃げてください。ここにいたらあなたが巻き込まれてしまう……!!」
インカラマッが谷垣の手を引いたその瞬間。谷垣達が居る対岸とは反対の岸に一つの松明が灯った。先ほどまで真っ暗闇だった岸辺に浮かんだ松明の光。それは網走監獄を繋ぐ唯一の橋に向かって、一つ、また一つ点火していく。
その光景はまさに、網走監獄へと何者かが焼き討ちに行く光景と言っても差し支えがなかった。
自分達以外の人間の攻め入る姿に、谷垣はハッと自らの腕を引こうとするインカラマッの姿を目に入れた。谷垣からの疑惑の目に、インカラマッはランプに照らされた光の中、谷垣に向かって答え合わせをした。
「谷垣ニシパから、小樽へ偽名の電報が届くと私は彼らに教えていました」
「……インカラマッお前何を」
谷垣がインカラマッを問い詰める声を聞きながら、フィーナは夏太郎の腕を掴んだ。
「夏太郎くんも早くここから離れましょう」
「もっ……もしかしてクレハさんも、鶴見中尉と繋がっていたり……?」
「いいえ、私は違います! 無実です!!」
フィーナの慌てた態度に、夏太郎はすぐにこの言葉は本当だと察した。そして、ふといつも一緒に居たはずの彼女の娘が居ないことに気づいた。
「そういえば、ユキコちゃんは……?」
「ユキコは今監獄の中に居ます」
「えぇー!! いつの間に!!」
てっきりコタンで待機していると思っていた少女は、なんと谷垣と夏太郎が気づかないうちに網走監獄へと潜入していたらしい。全く気づかなかったと漏らした夏太郎に、「あの子は賢い子ですからね」とフィーナは言った。親馬鹿全開な言葉であるが、オリガ本人が優秀であるため否定は出来ない夏太郎である。
「とにかく、ここから離れないと――」
次の瞬間、爆発音が響き渡った。網走監獄へと繋がる唯一の橋が爆発された。
「橋が!!」
「うわぁ……」
「……派手に爆破されたわね」
本格的な開戦の合図に焦りを感じていれば、ドドドという何かの音に一斉に川下の方を見た。
「川下からなんかデカイのが来るぜ!!」」
「あ、あれは――駆逐艦っ!!」
暗闇に紛れ、四機の「雷」型駆逐艦が網走川を航行してきたのである。第七師団を乗せた「雷」型駆逐艦は、網走監獄の兵に向かって大砲を構えた。船上では、上官が砲撃準備の声を上げる。
「トンネルに逃げろッ、急げ!!」
谷垣の声に一斉にその場に居た全員がトンネルを駆け抜け始めたその瞬間、けたたましい爆音と共に、大砲の弾が網走監獄の壁を破壊した。
大砲が網走監獄の壁を破壊し、どんどん第七師団が上陸を始める。
第七師団の網走監獄攻略は、まだまだ始まったばかりだ。