前世の記憶を取り戻したら、原作開始前に死亡する予定のラスボスの妻になっていた件について 作:しらたま大福
オリガは母からの『前世の記憶』という助言の元、漁夫の利を狙うために今か今かとその時を待っていた。
杉元達が潜入していったはずの舎房からは、既に戦闘の開演を告げるマシンガンの音と囚人達の悲鳴が、今も吹き渡る風が死の匂いをすぐ傍まで運んできた。
しかしオリガはそのすぐ傍まで這い寄っている地獄の気配に臆することなく、自らの目的のためにじっと冷静に息を潜めていた。
オリガは母から、のっぺら坊は舎房ではない場所に隠されていると聞かされていた。
事前に網走監獄内の地図を見比べながら、門倉と土方の会話を盗み聞きしていた。舎房以外に人を隠せそうで、人の出入りが極端に少ない場所と言えば、教誨堂しかないと考えたオリガ。彼女は小柄な体を生かして教誨堂近くの建物の縁の下へと潜り込みじっと息を押し殺していた。そうすれば、途中アシㇼパを連れた土方一行がやってきて、教誨堂へと向かっていった。
土方のその行動に、オリガは自分の仮説が間違っていないことを確信した。
しばらくして、アシㇼパだけは一人で舎房の方へと戻っていったので、杉元を助けるために戻ったのだろうと当たりをつけたりをしつつ、その時が来るのを待った。
照明弾の光に照らされた影を見て、杉元は背後から不意打ちを狙っていた二階堂と戦闘に入った。断片的に聞こえてきた声と、人が殴り合う音に、オリガは杉元が来たということを察した。縁の下から声の方に匍匐前進で進んでいけば、その場所に着いた頃には既に二階堂との戦闘は終わっていた。右手が吹き飛ばされた二階堂を義足で殴る杉元に、オリガは声を上げて呼ぶ。
「杉元さん! こっちへ!!」
「ユキコちゃん!? どうしてここに!!」
コタンで待機している筈だったオリガがここにいる姿に、杉元からは困惑の声が上がる。「詳しいことは後で話すわ、とにかくこっちへ! 多分すぐに他の兵士が来るわ!!」
オリガは杉元を手招きし、自分と同じように縁の下に入るように手招きした。一瞬オリガが土方と繋がっていることも考えたが、今この状況では直ぐにそれを判断できないため一旦はオリガの指示に従うことにした。
杉元が縁の下に体を滑り込ませれば、近くで兵士達が二階堂を発見した声が聞こえてきた。
「のっぺら坊を探しましょう。腱を斬られているから、きっとすぐにここからは離れられないわ」
「……どうして、ユキコちゃんはここに来たんだい?」
「私は決着を付けたい相手が居るのよ」
「決着?」
オリガは匍匐前進をやめないまま答えた。
「この説明はちゃんとアシㇼパが居る前でするわ、だってアシㇼパと約束したから」
「……うん、分かった」
その力強い声に、杉元はオリガを信用して見ようと思った。今まで見てきた彼女は、きっとアシㇼパの害になることはしない、そう思ったのだ。
――杉元とオリガがのっぺら坊とエンカウントするまであと少し。