前世の記憶を取り戻したら、原作開始前に死亡する予定のラスボスの妻になっていた件について   作:しらたま大福

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親子

 

 杉元の病室から出て、一組の親子は廊下を進む。鶴見は自分の胸ほどしかない娘のつむじを見下ろしながら、面白そうに小さく口を開いた。

 

「随分と演技が上手いじゃないか」

「……うるさいわね」

 

 揶揄うようなその声に、オリガは不快感を隠すことなく返した。先ほどの杉元との仲直り、それは下心があったとオリガは認めていたのだ。

 現在金塊の暗号を解く鍵は、のっぺら坊の娘であるアシㇼパが握っている。そして鍵を握るアシㇼパが一番信用しているのは、杉元佐一だ。杉元と因縁を作ってしまうと、のちのち面倒くさい事になってしまう可能性が高いと感じたオリガは、早急に鶴見との関係性を公表して杉元との仲を回復させたいと考えた。

 先ほどの鶴見との親子喧嘩も、そのための一芝居……と言えたら格好よかっただろうが、あのやりとりは7割方本当にやっていたのであるが――鶴見はそれに気づいたのかは彼のみが知ることである。

 

「女はちょっとぐらい小悪魔な方がモテるのよってマーマが言ってたわ」

「モテたい相手でもいるのかい?」

「手駒は多い方がいいでしょ。それに、誑かす(そっち)はあなたの得意分野でしょ」

 

 ジトッとした娘からの目線に、鶴見は「そうでもないよ」と返した。

 鶴見は何でもないようにしているが、オリガはここ数日で嫌というほど目の前の男が色々な人間を誑し込んでいる事に気づいていた。

 鯉登少尉しかり、宇佐美上等兵しかり――様々な人間が、“鶴見中尉の娘”というブランドを掲げたオリガが気になってしかたがないと言った雰囲気だった。(その中に単純に美少女に引かれて話しかけていた者も数名いるが、そこは一旦置いておく)

 娘としては、父親が一部の(屈強な男達(部下達))からクソデカ感情を抱かれているシーンを目撃するのは結構辛いものがある。

 

「……まぁいいわ。今回そんなことを問い詰めるためにわざわざあなたを訪ねに来たわけじゃないもの」

「では、私に一体何の用かな?」

 

 まぶしいものを見るかのように目を細める鶴見。娘のオリガにでさえ、鶴見の表情の意図は分からなかった。

 しかし、オリガはそんなことで怖じ気づくような娘ではなかった。

 

「鶴見中尉殿、お手隙の際に少しお話よろしいかしら?」

「あぁ、もちろんだとも。久しぶりに二人でお茶でも飲もうか」

 

 鶴見はエスコートするように手を差し出し「お手をどうぞ」とキザっぽく笑う。そんなかっこつけた父親の姿に、オリガは呆れたようにため息をつきながらその手を取った。

 

 

 

 二人で廊下を歩く美男美少女な親子の姿に、一部の人間が小さく悲鳴を上げていたのはここだけの話である。

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