前世の記憶を取り戻したら、原作開始前に死亡する予定のラスボスの妻になっていた件について   作:しらたま大福

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始動

 

 

 辺見和雄を回収した杉元一行が、シャチと共に海の向こうへと消えるのを見届けた鶴見率いる第七師団一行は、ニシン御殿で資金源確保のために投資の勧誘を行っていた。先の戦闘での家の損害も合わさり、当主からの渋い反応に早々に見切りを付け切り上げようとする鶴見の元へ、一人の部下が報告のために近く。

 

「鶴見中尉殿、例の親子が家から消えました」

 

 部下からの報告に、鶴見は声にこそ出さなかったものの内心「やはりか」と呟いた。

 鶴見は密かに信用できる部下に妻子の監視を命じていた。妻と娘はロシアの血を引く見た目をしている。特に妻は生粋なロシア人と言うこともあり、ウィッグでその金髪の地毛を隠していたとしても明らかにロシア系の人間だという見た目をしている。

 ロシアと戦争をしていれば、彼女がただロシアの血を引いているというだけで攻撃してくる人間が現れるかもしれない。鶴見はその事を心配してた。

 せめてあの日守れなかった分、影から家族を守りたいという思いからの行動だった。

 

 しかし、絶賛父親に対して負の感情を積もらせている娘にとって、その監視は大きなお世話だった。不定期開催のお茶会、年に二回送られてくる匿名のプレゼント。匿名のプレゼントは、愛しい妻の誕生日と、愛娘の誕生日に必ず送られていた。祝うべきその二つの大切な記念日は、鶴見の中でこの16年間決して忘れることは無かった。

 

 そしてこの密かな護衛は、オリガから言わせれば「守るためという名目を掲げた自己満足の独りよがり」だと言うのだろう。しかし、もしも面と向かってそう言われたとしても、鶴見が彼女達から手を引く理由にはならない。

 

 これはオリガからの宣戦布告だった。「おじ様の掌で踊るつもりはない。私たちが欲しければ探し出せ」という意味の挑発だ。

 しかし、鶴見もそんな娘の行動を予想していない訳ではなかった。

 

「それで、誰か消えた兵士はいるかな?」

 

 16歳と言えども、まだまだ青く幼い愛娘。他の人間より多少頭の回転が早かったとしても、所詮ただの小娘である少女が、何も出来ないただの一般人である母親を連れて鶴見率いる歩兵第27聯隊を敵に回すなど無謀な事はしないだろう。

 

「鶴見中尉の睨み通りに数名消えております」

 

 部下からのその言葉に、鶴見の口角は僅かに上がった。

 

「誰が消えた?」

「尾形百之助上等兵、二階堂1等卒兵がここ数日で消えました。数週間前から戻らないのは、玉井伍長、野間、岡田、谷垣です」

「そうか」

 

 娘の性格上、信用する人間は少数に絞るだろうと鶴見は考えた。数が多ければ多いほど、守り手は増え行動の幅は広がる。しかし、裏切る人間がいる可能性も高くなり、計画はほころびやすくなるという欠点もある。今まで団子屋の看板娘しかしていない少女に、それほどの人数を指揮する技量は恐らくまだない。

 そうなると、その六名の中で少女の協力者はただ一人。

 

「本命は恐らく尾形上等兵だ」

 

 尾形百之助。鶴見は父親の花沢幸次郎を自害に見せかけて殺す機会を与え、一応は懐柔してみたもののいまいち腹が読めず、敵に回すと面倒くさい男。それが鶴見にとっての尾形百之助という男だった。

 

「……フッ」

「……鶴見中尉殿?」

 

 突然小さく笑を零した鶴見に、部下は「どうかしましたか?」と問いかけた。

 

「いや、何でもない」

 

 鶴見は娘が自分の嫌だと想う展開を確実に突いてきた事に、思わず自分との血の繋がりを感じた。その事が嬉しいようで嬉しくないような複雑な気持ちを抱きながら、その表情を元の鶴見中尉へと戻す。

 ふっと戻ったいつもの鶴見の表情に、自然と部下の背筋はピンと伸びた。

 

「引き続き尾形上等兵達の捜索に当たれ」

「ハッ!」

 

 鶴見の命令に部下は頭を下げて去って行く。

 その姿を見送りながら、鶴見は小さくつぶやいた。

 

 

「だが、オリガ(きみ)鶴見篤四郎(わたし)にはなれない」

 

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