前世の記憶を取り戻したら、原作開始前に死亡する予定のラスボスの妻になっていた件について   作:しらたま大福

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今後の話

 フィーナを連れて小樽を飛び出したオリガ一行は、小樽周辺の森へと潜んでいた。突然娘と男に連れ出されたフィーナは、もう逃げられない宿命にあることを悟ったのか、若干死んだ目で目的地に向かう前に一つ寄りたいところがあると話した。

 本格的な旅を始める前に、フィーナは知り合いのアイヌがいるコタンへと向かい、そこで旅の極意を授かりたいとの事だった。一応旅の極意としては、日露戦争を生き抜いた尾形が居るので必要最低限はなんとかなるが、「知識はあるに越したことはない」と語るフィーナの真剣な表情に、オリガは大人しく首を縦に振ったのだった。

 そんな訳で、知り合いのアイヌの元で色々と話を聞くフィーナを尻目に、オリガはせっかくだから母のいない所で今後の作戦を話し合うことにした。

 

「じゃあ、これからの予定をおさらいしましょうか」

 

 狩りに出ると偽り、尾形と共に森へと向かったオリガは、にっこりと微笑みながら口を開いた。

 

「現在金塊のありかを探っている人たちは大きく分けて三つ。パーパ率いる第七師団、刺青囚人の一人である元新撰組鬼の副長土方歳三、そして日露戦争帰りの不死身の杉元でしょ」

 

 オリガが仕入れた情報と、尾形が持っている情報を合わせると大きな派閥は三つ。オリガ達は未だに刺青人皮を一枚も持っていない。この時点で既に不利な状況にあるのだ。

 

「おじ様は論外として、土方一派か杉元一派のどちらかには接触しておきたいわね」

「俺としては土方歳三に一票だ」

「その心は?」

「杉元は怪しい」

 

 尾形は語る。いかに杉元が怪しいかと。

 

「直接合ってはないが、俺が集めた造反者達の一人が恐らく杉元と会った。川岸で見つかった瀕死の男は、片手を骨折、顎は割れ、低体温症で虫の息だった。死ぬ間際、最後の力を振り絞って書いたのは「ふじみ」という文字だ」

「だから、「不死身の杉元」と呼ばれたその人が犯人だってなったのね」

 

 ふじみという言葉が第七師団に伝わった時点で、きっと不死身の杉元は鶴見に目をつけられているとオリガは思った。

 

「お前も知ってると思うが、数ヶ月前にあった火災。あれはどうやら杉元と中尉がやりあった残骸らしい」

「え、不死身の杉元とってもすごいじゃない! あのパーパと真っ正面からやりあって生きてるって事でしょ! すごいわ、きっと不死身の杉元さんは知性と根性を兼ね備えた素敵な人なのね!」

 

 長屋一棟を焼く家事、近くの住人は夜に馬が暴れる音を聞いたと話していた。そんな派手な大立ち回りを行った後、鶴見達の追跡すら巻いた人物は一体どんな人物だろうかとオリガは想像した。

 

 オリガは強くて、頭のいい男が好きだ。それこそ、将来結婚するんだったら少なくともパーパとやり合って生き残れるぐらいの人間がいいと常々思っていたのだ。

 別に今すぐ結婚したい訳では無いが、思わず好みのタイプっぽいメンズの登場にオリガは思わずテンションが上がったのであった。

 

「で、杉元ってどんな人??」

「……うるせえ」

 

 キャッキャと一人で騒ぐオリガに、尾形は顔を顰めた。

 

「もしかして嫉妬?大丈夫、私の一番は尾形よ!」

「そんなものいらん」

「まぁ、酷い人ね」

「言ってろ」

 

 尾形はふと気づいた。オリガと言えばマザコン。マザコンと言えばオリガ。そんなマザコン娘が一番に母親を上げないとはどういうことだろうかと。

 尾形の訝しげな表情に、オリガはピンと来たかのように極上の笑顔で口を開いた。

 

「ちなみに、マーマは殿堂入りだからノーカウント! 優先するのは当たり前だから!」

「……」

「無視!」

 

 尾形からの華麗な無言ツッコミに、オリガは「悲しいわ……」と嘘泣きをした。大して出てもいない涙をわざとらしく拭きながら、あわよくば尾形の慌てた様子を見て見たいという一心でチラリと尾形に視線を向けた。

 

「……」

 

 じとっとした尾形の冷たい視線。その視線に、オリガは諦めたようにスパッと嘘泣きを辞めた。

 

「うっ……もう、分かったわ話を戻しましょう。それで、他にも懸念があるでしょ?」

 

 降参するように両手をあげれば、未だに若干冷ややかな視線ではあるが、多少マイルドになった目になり口を開いた。

 

「俺が集めた造反組が数人帰ってきていないのが気になる」

 

 尾形はオリガに向かって指を4本立てた。

 

「現在行方不明なのが、玉井伍長、野間、岡田、谷垣。この中のうち、谷垣だけが真面目な男で寝返りそうもなかった。だから、あいつに謀反の誘いはかけるなと言っていた」

「じゃあ何らかの拍子に謀反がバレて、その真面目な谷垣って人が他の三人をやったって事?」

「可能性は高い」

 

 尾形は事前に玉井伍長には、谷垣はやめておけと言っていた。注意はしていたが、最終的に玉井伍長は谷垣に声をかけたのではないかと尾形は思っていた。

 

「恐らく玉井伍長が谷垣の説得に失敗し、谷垣に殺されたのだろう」

「でもまだ第七師団(あっち)では、あなたの謀反の話は出てないわよ」

「谷垣はまだ帰ってきていない。あいつが玉井達との戦闘で、どこか負傷して療養してればまだ帰ってないのも納得できるだろ」

 

 現在谷垣は、うっかりアマッポに引っかかり近くのコタンで「ヒモ」と呼ばれながらもアシㇼパのフチに世話してもらっていた。

 だが、谷垣は玉井伍長達が謀反を企んでいたなんて知らなかった。尾形の思い過ごしであるのだが……ここでは誰もその事実を知らない。

 

 だから尾形は、谷垣を始末してしまいたかった。

 

「このまま谷垣を放置しておけば、残りの造反者が中尉に報告されるだろう」

 

 真面目に話す尾形を見て、オリガはその鶴見中尉によく似た瞳をぱちぱちと瞬きさせた。まるで珍しいものを見たと目で語るオリガに、尾形は嫌そうに顔を顰めた。

 

「なんだその目は」

「いや、尾形って以外と仲間を大切にするタイプなんだって思って」

「ハッ、そんなんじゃねえよ」

 

 口ではそう言ってるが、他の造反者達のために谷垣を口封じをしようとしている尾形は、どう見ても思いやりがある人間のそれだった。

 尾形の不器用な優しさに、オリガの口からは「ふふふ」と生暖かい笑い声が溢れ出す。座り込む尾形を覗き込みながら、相変わらずニヤニヤとだらしのない表情を浮かべたオリガは尾形へと付きまとう。

 

「尾形~、私は谷垣狩りのお手伝いした方がいいかしら?」

「お前の助けは必要ない」

 

 尾形はオリガの生暖かい目を追い払うように、しっしと手を払う。

 

「ちょうど杉元に恨みを抱えてる二階堂という男がいる。そいつを使う」

 

 二階堂浩平。先日の不死身の杉元との戦いで双子の兄弟である洋平を失い、その復讐をするために杉元を狙う男だ。

 まだここは小樽周辺、いつ鶴見中尉が現れるか分からない。そんな危険な場所にオリガを連れていけばお荷物になるだろう。そう思った尾形は、二階堂を使うことにしたのだ。

 

「え~、せっかくの相棒の初仕事だと思ったのに」

 

 そんな尾形のある意味の気遣いに、オリガはつまらなさそうに頬を膨らませた。

 

「俺たちの初仕事はもっと派手にしようぜ」

「それもそうね」

 

 相棒としての初仕事。その華々しいスタートをもっと盛大にやりたいと思う尾形の言葉に、オリガは嬉しくなってまた頬をニヤつかせた。

 簡単にのせられたオリガの姿に、尾形はこいつもまだガキだなと思っていた。

 うん、本心が分からない方が幸せなことも多いのである。

 

「じゃあ、私達先に行ってるからちゃんと来てね、相棒」

「あぁ」

 

 こうして、尾形は二階堂と合流するために一時オリガ達の元を去っていった。

 

 

 余談ではあるが、結局谷垣狩りは失敗し、鶴見中尉の追っ手に追われる事となった尾形に山中での尾行の撒き方を教えたのはオリガだった。

 

 そのおかげで、鶴見中尉からの尾行を完全に巻きオリガ一行は茨戸へと向かうことになる。

 

 

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