前世の記憶を取り戻したら、原作開始前に死亡する予定のラスボスの妻になっていた件について 作:しらたま大福
長テーブルに乗った鍋からはグツグツと煮える音と、味噌のいい匂いが漂う。待ちに待ったご飯タイム、ただしこの場所の空気は最悪。
しかも、食卓に着いているのは私たち合わせた11人+a(人間の剥製)という何ともカオスな食卓。まともな精神状態だったら、是非ともご遠慮したいご飯タイムである。
さて、私達がどうしてこんなカオスな食卓に着くことになったかと言うと、土方歳三陣営がついに主人公陣営+キロランケとエンカウントしたからである。
土方陣営+私たちは土方さんの宣言通りに夕張へとやってきた。そこで此度の騒動の中心となっている剥製屋に来てみれば、どうやら一足先に行った尾形くんが一暴れしたようで、剥製屋さんには兵士の死体が一つと、この屋敷の主は姿を消していた。しばらくして戻ってきた尾形くんと牛山さんは、泥や煤に汚れた真っ黒な姿で杉元くん達を連れて帰ってきた。
そして出会った土方陣営と、杉元陣営。この物語において三大陣営に入る二つの陣営が出会ったのだ。お互い腹の内を探り合う雰囲気の中、「手を組むか、この場で殺し合うか」。その両極端な提案をした土方歳三と、そんな幕末の生き残りを警戒する杉元たち。
両者一歩も引かない睨み合いの中、アシㇼパのお腹からは絶えず空腹を知らせる悲しい音が響いていた。真面目な話をする度に聞こえるのは「コロコロコロ」「グルルッ」「コロコロッ」とてもではないが真面目な話なんて出来ない。(というか、これで真面目な話が出来る人が居たら会ってみたいぐらいの音量だったよ……)
思わず杉元くんがその腹の虫にツッコミを入れた瞬間、ひょっこり現れた家永さん(全快した姿)の提案で、とりあえず腹ごなしをすることになったのだ。お荷物第一号である私は、せいぜいお料理とかぐらいしか出来ることがないので、家永さんの提案で皆で食べられる「なんこ鍋」を作ったのであった。
「こちら、『なんこ鍋』でございます」
「オイ家永、この肉……大丈夫なやつだろうな?」
「ご安心ください『なんこ』とは方言で馬の腸という意味ですから、ちゃんと馬のものを使ってます」
「私も一緒に作ったので、ちゃんと『なんこ』なのは確認済みです」
なんこの”原料”の心配をしている白石くんに向かって、安心するように笑顔を向ければ、隣に居たキロランケが吹き出した。私の菩薩のような笑顔に吹いたのか、それとも馬の腸が駄目だったのか……。
さすがにこの場で私の顔が変で吹き出したんですか?とは聞けなかった。「はい」と言われたら泣いちゃう自信があるもの。
一人そんなことを思いながら、自分もなんこ鍋に舌鼓を打つ事にした。そうすれば、杉元くんが私たちに向かって問いかける。
「……ところで、そこの軍服来てる人とお姉さん達は何者?」
「こっちは鶴見中尉の元部下の尾形百之助、こっちはその保護者のクレハに、娘のユキコだ」
土方さんから私たちの紹介をされた。その自己紹介にツンとそっぽを向く尾形くん、可愛らしい笑顔を浮かべながら手を振るオリガ。とりあえず、私も一番の年長者らしく淑女の笑顔で「私は無害のミジンコで、道ばたの草です」という気持ちを全面に押し出しながら杉元くんへと挨拶をする。
ところで土方さん。もしかして……保護者(私)が保護する中に尾形くんも入ってますか?? 私は確かにオリガの保護者ですけど、尾形くんの保護者までなったつもりはないのですが……。
「あの、私はオリガの保護者であって、尾形くんの保護者ではないのですが……」
「では近所の野良猫の飼い主というところか」
「それって野良猫じゃなくて飼い猫なのでは……? というか、私に尾形くんの手綱を握れるほどの技量はないですけど」
「近所の野良猫に餌をせびられるぐらいには、懐かれているだろう。なんだ、自覚がないのか?」
そう言った土方さんは、「ほらみろ」と尾形くんの方を指さした。そうすると、尾形くんのなんこ鍋が入った茶碗は既に空になっており、その空のお椀をずいっと私の方に向けて一言。
「おい」
私、息子いないけどこれは分かるぞ。この「おい」はおかわりを強請るおいだ! というか、私は尾形くんの母さんになったつもりはないのですが……。
まぁ、いいか。いっぱい食べることはいい事だ。いっぱい食べて、元気に働いてくれればいいと言うことにしよう。
「はいはい、分かりましたよ」
空のお茶碗に新しいなんこ鍋をよそって渡せば、「ん」と一言つぶやいてから静かにもきゅもきゅと食べ始めた。
尾形くんってパッと見は目が死んでて、空前絶後のセクシー上等兵なのに、食べ物をいっぱいに頬張って食べたりするところあるよね。そういうところは本当にあざと可愛いよ。これで愛されてないとか……、尾形くんの周りにいる人は、皆きっと頭おかしいと思う。
こんな可愛いネコチャンみたいな息子だったら、カアチャンになってもいいって思えるよ。
「ほらほら、別に誰も取らないからゆっくりよく噛んで食べなさい」
「(もごぉ)」
私が一人尾形くんにほっこりしていると、オリガは「ねえねぇ」という言葉と共に、ひょいっと杉元くんの方へと体を乗り出した。
「あなたが不死身の杉元さん?」
「あ、うん、そうだけど……」
「やっぱり! あなたとは是非一度会ってみたかったのよね!」
「俺に?」
「そうよ! 不死身の杉元さん、あなたあの鶴見中尉と派手にやり合ったんでしょ?」
「あぁ、まあそうだけど……」
オリガのテンションに、杉元くんはその目をパチパチとした。その顔には、明らかに「どうして?」と浮かんでいた。
しかし、オリガにはそんな杉元くんの表情なんて見えていないようだ。
「――凄いわ!!」
オリガの瞳は、どこかキラキラしており、そのまぶしいほどの視線をさらに杉元くんへと注いだ。
「……え?」
「やっぱり杉元くんは知力、腕っ節、悪運、全て持っているのね!」
恋する乙女というよりは、突然目の前で変身し始めたスーパーマンを見てしまったかのような視線である。これは完全に恋バナ系じゃなくて、オリガの中で杉元くんは使える人間だと認定したやつだ。
「おいおいおい、ちょっと待ってよユキコちゃ~ん」
さてさて、そんなオリガに向かって”待った”をかけるのは白石くん。
「こいつ一人だけだったら今頃無惨に死んでたぜ! この白石由竹がいたからこそ、杉元は今生きてんだ! この脱獄王白石由竹が華麗に杉元が閉じ込められている部屋に侵入して縄を解いたんだぜ!」
「私も杉元を追いかける鶴見中尉の馬を射った」
「そうなんだ、アシㇼパさんや白石のおかげで俺は無事に逃げられたんだ」
「まぁ、刺青人皮は肌着にして鶴見中尉が着てたから奪えなかったけど」
い、刺青人皮の肌着……?? え、元旦那様なんというものを来ているの??
「そうだったのね、じゃああなた達はとっても相性のいい仲間なのね!」
杉元くんたちの話を聞いたオリガは、眩しいものを見るかのような目で杉元くんたちを見ている。そして、「よし」と一言つぶやいてから、尾形くんの方を見る。
「私達もそうなれるように頑張らないとね、尾形!!」
「……」
「安定の無視!」
オリガよ、尾形くんはシャイなんだからハ○太郎みたいに「へけっ(CV津田○次郎)」するわけないでしょうに……。
「お~が~た~、返事しなさいよぉ~」
「(もごぉ)」
そんなオリガと尾形のやりとりをじっと見ていた杉元くん。彼は訝しげな表情を浮かべながらオリガを呼ぶ。
「……ユキコちゃん、一度裏切った奴はまた裏切るぜ。そいつを信用するのは辞めた方がいいと思う」
「杉元、お前とは今初めてあったが……流石にそんな風に言われると傷ついたよ」
「その顔のどこが傷ついてるって言うんだよ」
「そう見えないか?」
睨み合う二人の間にはバチバチと火花が散っている幻覚が見える……。
尾形くんは顎の縫合痕がないし、本人達も今回初めて会うと言っているのに……なんだこの杉元くんと尾形くんの険悪なムードは。このイレギュラーな世界線で、今のところ確執は生まれていないはずなのに……もう既にいがみ合うとか……。これが原作補正なのか、それとも単純にわんこ系男子と、猫系男子で相性が悪いのか……。多分なんとなくただ単に馬が合わないだけなような気もするけど。
でも、これだけは確実に言える。
「……尾形くん、杉元くん」
「はっ、はい!?」
食事中にいがみ合うのは――気分が良くないと言う事だ。
「食事中に喧嘩はやめなさい。せっかくのご飯が不味くなるでしょ」
「はっ、はい!!」
「尾形くん??」
「……はい」
「うん、二人ともよろしい」
私の注意にいそいそとご飯を食べ始めた二人を見て満足だ。大丈夫、君たちはやれば出来る子、YDKだって信じてるから。
「クレハは凄いな、杉元と尾形を笑顔で黙らせたぞ」
「アシㇼパ、ごらんなさい。あれがマーマの大技、青筋スマイルだよ」
「あれがクレハの大技か……まるでヒグマの威嚇のように圧がすごかったぞ!」
「……ちょっとユキコとアシㇼパちゃん、そんな風に言わないで」
「マーマが照れたわ!! 可愛い!!」
改めて子供達に指摘されるとなんだか恥ずかしいわ……。
「ところで、話を戻してもいいか?」
「あ、はいどうぞ……お構いなく」
あぁ、話が脱線しすぎてしまった。元々なんの話をしていたんだっけか?
「いずれにせよ、坑内から月島軍曹の死体が出ていないか確認しないと夕張からは出れない。死体がなければ絶対に判別方法を見つけなければならなくなる」
「……私、思い当たる人物がいます」
この後家永さんが「熊岸長庵」の名を出し、炭坑が落ち着いて遺体の搬送が始まってから月島さんの遺体を探しにいく流れとなった。もしも見つからなければ、月形の樺戸監獄に向かう流れとなった。
私の朧げな記憶のなかでは、確か月島さんは生きているような気がするけど……それを証明できる方法もないし、私が前世の記憶持ちという頭のおかしい事を話す気もないので、私は話の流れに身を任せることにした。