才能の権化が才能を無駄遣いしていることを嘆くのは間違っているだろうか   作:柔らかいもち

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 ネタでしかない。


才能の使い方

 何枚もの海図や陸路の地図が壁に張り出され、砂時計や旅行用の鞄と帽子などの物品が溢れかえって旅人の家を彷彿とさせる部屋は、【ヘルメス・ファミリア】の本拠(ホーム)、主神であるヘルメスの神室である。

 

 書類の束やチェスの駒で山脈が築かれた机で開けたワインをグラスに注ぎ、椅子に腰かけるヘルメスは一人呟く。

 

「彼が俺の眷属になってもう五年も経つのか……。まったく、神の俺がこんなことを言うなんて。時が経つのを早く感じるようになったのか、遅く感じるようになったのか、自分でもわからないな」

 

 ヘルメスが思い浮かべているのは一人の青年である。

 

 青年と出会ったのは彼が十三歳の時。都市外に住むとある好々爺に連絡(コンタクト)を取った帰り道で『オラリオに行きたいんだけど金がないんだ。だからモンスターの「ドロップアイテム」を売って資金を稼ぎたいんだけど、これっていくらで売れる?』と、()()()()()()()L()v().()()()()()()()()()()()()()()()に腰かけて尋ねられた衝撃は今でも忘れられない。

 

 彼の質問に答えるより先に『神の恩恵(ファルナ)』の有無を聞き、ない、と返されたヘルメスは確信に胸を震わせた。この子には間違いなく才能が、資格が、強さがある。

 

『英雄』になるための全てを兼ね備えている、と。

 

 そこからは早かった。あの手この手で自身の派閥(ファミリア)に勧誘し、いい返事をもらった瞬間に全速力でオラリオに戻り、すぐさま『恩恵』を授けた。

 

 そこでもヘルメスは笑みを浮かべた。最初から発現していた『魔法』はどれも魅力的で、成長速度やLv.って何だっけと言いたくなるほどぶっ壊れた効果の『スキル』を見た時にはヤバすぎる顔になっていた。――具体的には長い間留守にした挙句、大量の仕事を押し付けていきやがった主神を折檻してやるために部屋に入った団長(アスフィ)が、変態(ヘルメス)から美少年を守らねば、と全力でぶん殴ってしまうくらい。

 

 神聖文字(ヒエログリフ)を解読できるアスフィも彼の【ステイタス】を見てヤバい顔になってしまったがそれはさておき。

 

 眷属達と共にダンジョンに向かわせ、どんな様子だったかを尋ねてみれば、帰って来るのは彼が天才であることを証明する言葉の数々。

 

 『恩恵』を授かったばかりなのか疑わしい速度だった。

 モンスターの動きや弱点を瞬時に見抜く目を持っている。

 相手の動きに気持ち悪いくらい合わせ、誘導していた。

 攻撃に無駄な力や行動が欠片もなく、極東の豆腐のように斬り捨てていた。

 もう『並行詠唱』を使っていた。

 

 ダンジョンに行く度に眷属達のプライドとか自信とかをベッキベキにする少年は、なんと半年で【ランクアップ】した。なんなら【ステイタス】はオールSになってた。これにはヘルメスも乾いた笑いを零すしかなかった。

 

 そんな天才だった少年だが、【ファミリア】で爪弾きにされるということはなかった。彼は人と接するのが上手だった。

 

 困っている人がいたら助ける。冗談や軽い悪だくみなら嬉々として乗って来る軽さがある。空気だってちゃんと読む。『モテたい』と真顔で宣言する潔い欲がある。なにより主神の言うことを素直に聞いてくれる(ここ重要)。

 

 だからヘルメスは少年を可愛がった。悪い遊びを教えたし、なんなら連れて行った。女神だけが入れる浴場に覗きに行き、彼だけ成功していた(ヘルメスはギタギタにされた)。子供にはまだ早い神々の概念――『ヤンデレ』『ツンデレ』『クーデレ』といった女の子関連のものを語り尽くした。

 

 そんな日常の一幕がありながら少年は青年へと成長していき、メキメキと強くなった。『神秘』や『精癒』のようなレアな発展アビリティも獲得した。

 

 もう語る必要もない。ヘルメスが手に入れた眷属は『才禍の怪物』に匹敵する天才である。

 

「ふぅ……」

 

 過去の思い出から戻ってきたヘルメスは小さなため息を吐くと、勢いよくグラスをあおった。そして衝動のままに頭をかき回し、絶叫する。

 

 

 

 

 

 

 

「なのになんで『くっ殺の館』とかいう卑猥な店をオープンするところまで行っちゃったんだ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 いや、わかってる。原因はわかってる。でも認めたくないと心の中のヘルメス・ソウルが叫んでいる。

 

 ヘルメスは会わせちゃったのだ。Lv.5になった時、『英雄候補』のお披露目のために神随一のエロ爺と会わせてしまったのだ。そこでまぁ、ゼウスは面白おかしく余計な情報(もの)からいらない情報(もの)まで吹き込みまくった。青年の欲望をデンプシーロールの如く刺激しまくった。

 

 その結果、青年の中には『凛々しい見た目をした綺麗な女の子達はお前さんみたいなイケメンに「くっ……殺せ!」と言いつつ力尽くで気持ちよくされることを望んどるんじゃい』という爺のセリフが魂に根付くレベルで残った。なんなら『スキル』まで発現した。影響受けすぎだろ、とヘルメスが思う暇もなく、青年は動いた。

 

 オラリオの女性で最高位のLv.6が来ても『圧倒的な力で捻じ伏せるシチュエーション』のためにLv.7に。『耐異常』で媚薬やお香が効かないという事態を防ぐために『調合』アビリティを獲得し。優れた観察眼や器用な手先は女性の性感帯を刺激することに使われた(派閥の女性団員が実験台になった)。

 

 ここまでふざけた理由でLv.7になった馬鹿がいるだろうか? こいつ、【ランクアップ】に苦労したことないんだぜ? しかもな、野郎やブサイクのアへ顔は見たくないとか言って選り好みしているくせに、『くっ殺の館』は大繁盛してるんだ。金は手に入るし気持ちいい思いもしている。

 

「見てるか、ザルド、アルフィア……それにエレボス。こんなのが『英雄』になっても俺は喜べる自信がないぜ」

 

 天に還った神友達に言葉を零し、ヘルメスは酒に走った。

 

 酒に走った理由? ダンジョンそっちのけで女を食いまくっているはずの万死に値する男が【ランクアップ】できるようになったからですけどなにか?

 




 評価が良ければ続きを書きます。
 レベル6まではダンジョンでモンスターを倒して。後は戦いとは関係ない偉業です。

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