才能の権化が才能を無駄遣いしていることを嘆くのは間違っているだろうか 作:柔らかいもち
ダンまちで嬉しいお知らせがたくさんありましたね。ダンメモ五周年、アストレア・レコードの書籍化、ダンまちの18巻、ソード・オラトリアの13巻。どれも楽しみです。
あと才能の無駄遣いというより、ただの変態のイメージが強くなっています。いい案があったら教えてください。
ではどうぞ。
妙なことになったな、と夕日を浴びるジークは思った。
「ベル君っ、さっきからボコボコにされまくってマゾにならないか心配なくらいなんだけど、大丈夫かっ!?」
「だっ、大丈夫ですッ!?」
オラリオを囲む市壁の上には白髪の少年と金髪の少女、灰髪の青年と黒髪の幼女神がいた。壁の上では少女が少年を剣の鞘で変な趣味に目覚めてしまうのではないかというくらいタコ殴りにしており、その光景を壁の隅にいる青年と幼女神が時折ヤジを飛ばしながら眺めている。
話は24階層の事件の三日後まで遡る。
この働きがなければ死者が出ていたかもしれなかったためにアスフィから得た情報を共有してもらえたのだが、同行していたアイズに頼みごとをされたのだ。
強くしてほしい、と。
ジークが気絶した後、
ジークはそれを承諾し、隠れ家であるこの市壁の上に来るよう言ったのだが……何故かベルを連れてきた。なんでも以前迷惑をかけてしまったから、その償いとして戦い方を教えるとのこと。
『フッ……俺は孤独が似合う一匹狼の
『こんな場所に雨に濡れたウサギが……よし、家に連れて帰って飼ってあげよう。ボコボコにして鍛えてあげよう』
『ボッコボコのギッタギタにしてすまなかったな、ウサギさん。よし、家に連れて帰って飼ってあげよう』
ベートの声で彼が絶対に口にしないセリフを言ってみた。ベルもアイズも動揺し過ぎたせいでベルが気絶しまくり、訓練にならなかった。
『ティオネー、愛してるー! 本当は君との子供が欲しくてたまらないんだー!』
『僕は一族の再興という使命のために尽力している。パルゥム仮面と名乗って世間の人気を求めたこともあった……でもあまり意味はなかった』
『親指にティンッと来たぁああああああああ!!』
フィンの声で全力でふざけた。どこかで愛に燃えるアマゾネスの雄叫びが上がった。今度はアイズだけが動揺し続け、ベルがたくさん気絶した。
『エイナさん大好きー!』
『はぁい、ベイベーたち! セクシーサンキュー☆』
『ヘスティアママァ~! ボク、すっごく頑張ったんだよ~! ご褒美にぃ、膝枕をしてぇ、頭をヨシヨシしてほしいなぁ~!』
ベルの声で恥ずかしいことを叫んだ。ヘルメスから聞かされた母性溢れる女神ナンバーワンにしたおねだりだが、やったジークも恥ずかしかった。ベルが羞恥と衝撃で気絶した。
アイズにじゃが丸くんから「お前は俺のこと好きみたいだけど、俺はお前のこと、あんま好きじゃねーから」と言われる催眠をかけた。ショックでアイズの手元が乱れ、ベルが気絶した。アホなんじゃないかと思った。
ベルにアイズから「……気持ち悪い。とにかく嫌い。近付かないで」と拒絶される催眠をかけた。ショックでモロにアイズの攻撃を受け、壁の上から落下しそうになった。常に上から刺さる銀の視線が痛かった。
まぁ、こういった嫌がらせは訓練にならないからやめろと言われて初日で終わっている。今やっているものといえば、気絶したら『淫夢で快眠枕』でベルにイキ恥を晒させ、その間にジークがアイズの相手をしているくらいだ。
そして訓練五日目の今日、昼寝の訓練をするとかいうアイズの寝言で昼寝をすることになった際、ベルが寝ているアイズを襲いそうになり、それをジークの催眠のせいなのではないかと疑いをかけてくる以外に何もないと思っていたら、昼飯を買いに行った二人がロリ巨乳を連れてきた。
で、今に至る。
ヘスティアが来てからベルは一度も気絶していない。ヘスティアに声帯模写を披露した時、彼女のリクエストに応えたセリフを聞こえる声量で言っても気絶しなかった。耐性が付いてしまったみたいで残ね……訓練の成果が出てよかった。
ちなみに神であっても、見た目がロリなヘスティアにジークが変な真似をすることはない。それに彼女はヘルメスとは比べ物にならない神格者だった。男女二名の唾液を混ざ合わせ、外気に接触させずに摂取すれば莫大な栄養と発情作用、妊娠率増大の効果がある希少な果実を栽培している話をした時、「なんて頭の悪い食べ物なんだ……」みたいな目で見られたが、好感の持てる女神だ。無言でジークが【ランクアップ】を果たすほどの偉業と認められた効果を持つ薬品を複数渡すと、彼女は無言で受け取っていた。
話題に挙げた果実は『深層』の『
ジークがリューに好かれる可能性は皆無になっている。とある一件から入手した『呪詛の聖典』という呪われてるのか祝福されてるのかわからないモテない女の怨念が宿った本が頭の悪い事件を引き起こし、その本を目覚めさせたのがジークだとバレたのだ。この事件で化石レベルの潔癖モンスターエルフであることを自ら暴露するはめになったリューにはそれはもう嫌われた。
非常に残念な展開になってしまったものの、悪いことばかりではない。この事件に巻き込まれてしまった【タケミカヅチ・ファミリア】に謝罪に行ったのだが、忍者の格好をした極東少女がいたのだ。とてもエッチだった。
(はっ! しまった、こんなこと考えてる場合じゃなかった)
些細な考えでもエッチな方向に膨らませてしまうのはジークの悪い癖だ。頭を何度か叩き、アスフィから得た情報に思考を巡らせる。
敵から得られたのは『彼女』と呼ばれる存在が
以前『遠征』の協力を約束したのだが、今回の『遠征』にジークは行かない。恐らくヘルメスと手を組んだロキが、取引に使える情報を与えることを拒んだのだろう。下の者の成長に繋がらない、フルチンの敵がいきなり大量に現れたらどうするつもりなんだ、と尤もらしいことを並べていたが、間違いなく建前だ。
(来るとわかっているならずっと目を閉じていれば問題な――)
「あっ、こらっ、えげつないぞ!?」
隣でアイズに向かって抗議するヘスティアの動きに合わせ、たゆんっ、と双丘が弾んだ。それを察知したジークは、限界まで目を見開いて素晴らしい光景を記憶した。計算され尽くした恐ろしい罠にはめられ、ヘスティアの神としての一面に恐怖しながら思考を戻す。
ジークは今ある材料だけで考えた。そして『彼女』と『
(敵が『アリア』ってしつこく言ってたからなぁ……『彼女』の正体は多分『精霊』だ。どうして敵になっているかはさっぱりだが。『
前者はほぼ勘だけで判断したが、後者はしっかりとした根拠がある。
中立であり便利屋でもある【ヘルメス・ファミリア】は様々な依頼をこなす。一員であるジークも例外ではなく、苦労人のアスフィと同程度の仕事をこなしている。顔に疲れが出るのは両者の能力差を表しているのだが、それはさておき。
一月ちょっと前、ジークは儚げな町娘から『唐突に響き渡る「ヌゥゥゥヴォォォォォッ!!」という謎の雄叫びをどうにかしてほしい』という依頼を受けた。ほっと息を吐く少女が恋人らしき
そして雄叫びが聞こえた【ディオニュソス・ファミリア】に潜入し……見てしまった。
『ダイダロス通り』の貧乏神が、意識が朦朧としているデュオニュソスの眷属を己の眷属にどんどん『
最初はペニ〇が下半身の象徴の名前に違わぬ寝取り大好きの救いようのない神で、ディオニュソスは『ちゅーに病』の上に寝取られ大好きの自分以上のド変態で、神のぶっ飛んだ性癖にフィルヴィスの目が死んでいるのかと思っていた。というか記憶を封じていた。見た目も年齢も婆な神の寝取りとかどこに需要があるんだ。『ちゅーに病』だって見るに堪えない。脳も心も破壊される。
だが、今となっては話が変わる。ロキ、ヘルメス、ディオニュソスの眷属は24階層の一件で『
しかし、証拠がない。『
一応、色んな状況証拠からデメテルも犯人候補になったが、すぐあり得ないと取り消した。
あの女神ならこんな手間をかけない。怒ればこちらが手を打つ暇もなく息の根を止めにかかる。飢えという恐ろしい方法で都市の住民を苦しめ、少ない食料を奪うために殺し合わせて醜い本能を曝け出させて嘲笑うくらいはする。フレイヤにドッキリを仕掛けるためだけにグラサンをかけた女神に『神威』を発しながら脅され、散々こき使われたジークには確信があった。
(どっちにしろ証拠が揃うまでは保留だな。ヘルメス様が送還される可能性を潰すためにも黙っておこう)
ジークは意識を切り替え、時間の流れに身を委ねながらボコボコにされるベルを眺めていた。
「アイズに嫌われる幻覚を見せたし、性欲を高めるために淫夢もたくさん見せた。明日ギルドに行ってアイズの【ランクアップ】の報告を知れば心は限界まで弱まるだろう。狙うならそこだ」
「酷いですね、弱みに付け込むなんて」
「お前が依頼してきたんだけどな。嫌ならやめるといい」
「いいえ、ベルさんは絶対私がもらいます」
「部屋はこの前教えた隠れ家を使え。俺も自分が作った薬の効果を知りたい……しくじるなよ」
灰髪の青年と薄鈍色の少女がこのような会話を交わしたことを知る者は誰もいない。
♦♦♦
オラリオの南東に広がる砂漠地帯。友人である砂漠の国の王子から招集を受けて殺人的な日差しを浴びながら砂の海を進んでいたジークの視界に、不可思議なものが入った。
それは『黒い竜巻』。Lv.8の桁外れの視力は、空を黒く染め上げながら大きくなっていく竜巻の姿を正確に捉えていた。冒険者の本能もあれがとても危険であることを伝えてくる。
「……」
場所はとても遠い。ここから『黒い竜巻』まで壊してはいけない障害はない。ならやることは決まった。
「【人造、抜剣】――【ノートウング】」
ジークは旅を再開する。『黒い竜巻』が跡形もなく消滅した背後に目を向けることは一度もなかった。
数日後。
カイオス砂漠で有名だったジークの『絶体絶命のアラム王子を救った英雄』の称号が、『絶世の美男子であり名君でもあったシャルザードのアラム王子を趣味で性別を変えて二度と戻せなくしたクソ野郎』になった。
アラム王子、もといアリィの性別がバレてしまい、そのために臣下が吐いた嘘が『ジークが性転換薬を使って性別を変えられたが、恩人であり友であるから黙っていることを決めた』というものだった。
アリィは激怒したが、ジークは自分ならやりそうと考え取り消させようとしなかった。
主人公の名前の由来は超有名な竜殺しの英雄からです。だからといって『黒竜』に絶対勝つと決めていないので焦らずに。
三つ目の『魔法』を出した理由は竜殺しの英雄感を表現したかったからです。名前を調べてもらえばわかる。