才能の権化が才能を無駄遣いしていることを嘆くのは間違っているだろうか   作:柔らかいもち

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 主人公ってエレボスにそっくりなんだよね。で,アストレアと最後仲良さげだったんだよね。アストレア様ってSっ気がありそうだよね。……そんだけ。

 ちなみにこの作品を作る作者の気持ちは面白いのが見たい三割、悲劇をなくしたい三割、エッチなのが見たい四割です。

 アンケートの協力ありがとうございました。また別のアンケートを置くかもしれないです。

 


神月祭

 オラリオでは一年を通して様々な祭が開かれる。豊穣を祝う『女神祭』とこれまで亡くなっていった冒険者や英雄を悼む『挽歌祭(エレジア)』が『二大祭』と呼称される最も大きな催しだが、何でもかんでもお祭り騒ぎにしたがる人間の一面が垣間見えるような祭がたくさんある。

 

 聖夜祭、怪物祭(モンスターフィリア)偉業の日(グランド・デイ)……今夜開かれている神月祭がそうである。月を神に見立ててモンスターの魔の手から無事を祈る、というのがこの行事の目的だが、神が君臨した今の時代ではバカ騒ぎをするための口実にしかなっていない。

 

 しかし、誰も口を挟まない。神も人も騒ぐのが好きだ。財布の紐を緩めて散財し、楽しくなれたらそれでいいのである。

 

「――なのにどうして俺は縛り上げられて正座させられているんだろう?」

 

 路地裏に建つうらぶれた教会の雑草が繁茂する床に荒縄でぐるぐる巻きにされたまま正座させられているジークは、大部分が崩れてなくなった天井から降り注ぐ月の光を浴びながらぽつりと呟いた。

 

 祭は楽しいことが多いが、羽目を外して愚かな行動をする者も出てくる。その中にはジークがとてつもなく嫌いな人種がいるのだ。

 

 毛の薄い頭部に加齢と汗で臭う体臭、フケや油で汚い肌、運動不足なことが丸わかりの太った体躯。中年のくせして無駄に高い筋力と敏捷性と性欲。できた子供に責任を持たないのに美少女を見かけると同意もなしに襲い掛かって押し倒して犯す外道。なのに神々などの一部からは熱狂的な支持を受ける、モンスターよりも駆除すべき世界の害虫。

 

 その名は――『種付けおじさん』。

 

 美少女の天敵であるこいつ等がジークは嫌いだ。相手の気持ちを考えない欲望の奴隷が大嫌いだ。男と女が一緒に性欲を満たすなら互いが満たされなければならない。相手を苦しめ自分だけが気持ちよくなろうなんて言語道断。

 

 外見はいいのに性格や言動が残念でモテない女達を集めて【愛の夜宴(ラブ・サバト)】を開き、多くのモテモテ女子を送り出したほどの紳士ジークには『種付けおじさん』が――というか強姦とかする輩――が許せなかった。定期的に警備巡回(パトロール)をして美少女幸せを守っている。男は知らん、どうでもいい。

 

 そんな訳で神月祭だろうとジークは『種付けおじさん』を見つけ次第捕獲し、カマキリやスズメバチやハエを擬人化させた女達がいる部屋にぶちこんでいた。異形の美しさと言うべきか、擬人化した昆虫は美人が多い。おまけに性欲が強いし、モンスターじゃないから『怪物趣味』とも言われない。いいことづくめだ……元が昆虫だから本当に喰われて本当に逝ったり、子供を植え付けられたりする可能性が高いがな。

 

「さっきも『くっ殺の館(ひとんち)』に箱入り少女を連れ込んで勝手に使おうとしていた奴を催眠をかけた【男殺し(アンドロクトノス)】と一緒に閉じ込めたし……世の中のためになることばっかで、悪いことしてないと思うんだが」

 

 そう言って正座する自分を見下ろす団長(アスフィ)を見上げる。目の下に溜まった疲れを片手でぐりぐりとほぐす彼女は、深いため息を吐きながら口を開く。

 

「紳士ではなく変態紳士だし、【愛の夜宴(タブ・サバト)】って何ですかって話だし、相手が外道だからといって限度がありますが……後にしましょう。今、私が言いたいのは一つだけです」

 

 深く息を吸ったアスフィは――絶叫した。

 

 

 

 

 

 

 

「――薬盛って女神を分裂させるとか何考えてるんですかこのアホがぁーーーーー!!!」

「痛い痛い痛いっ!? Lv.8で評価Sのカンスト『耐久』と補正のかかる『スキル』持ちの俺になんでダメージを与えられるのアスフィ!? 暴力的なのは淑女としてどうかああああああああ頭が潰れるっ!!」

「うるさいうるさいうるさーい! ヘルメス(どいつ)ジーク(こいつ)も私にいっつも負担をかけて! 片方が消えればこの胃の痛みやストレスも軽減される……!」

「助けてー! アスフィが追い詰められて『何も仕事しない強いだけの団長(いのしし)を食べたら皆仲良く【ランクアップ】……』とか言い出したヘイズと同じ目をしてるぅー!?」

 

 どたばたと漫才を繰り広げる二人を他所に、ここ【ヘスティア・ファミリア】の本拠(ホーム)の教会の祭壇付近でも美しい蒼の長髪と凛とした空気を纏う女神、その女神と瓜二つなのに雰囲気は緩みに緩んでいる女神、ロリ巨乳な女神、三柱の女神に囲まれる少年を見守る鍛冶師の青年と小人族(パルゥム)の少女による喧噪が響いていた。

 

「いい加減オリオンから離れろ分身(わたし)!」

本体(アルテミス)分身(わたし)ではなく希望(エルピス)と呼んでおくれよ。ベルが私にくれた素敵な名前なんだ」

「白目を剥いて鼻に指を突っ込んであられもない顔をしてやろうかって脅しただろうが! あと感情も想いも共有(リンク)しているから、オリオンにくっつかれると嫉妬でもやもやするんだ!」

「あの子の薬はアルテミスの『恋をしてみたい』っていう本音を暴き出して、正直じゃない貴方の代わりに私を生み出しただけで、感情を共有したりする効果はないよ。だからその嫉妬はアルテミス自身が感じているのさ」

「な、な、な……そんな訳が……!」

「僕のベル君を取り合うんじゃなーい! というか速攻で落とされかけているのもどうかと思うけど、どうして神造兵器『オリオン』を召喚している上に送還されてないんだ! 『神の力(アルカナム)』だろうそれ!」

「『貞潔を司って純潔を尊ぶ女神なら清らかな人しか使えない道具とか持ってないの? 英雄譚に出てくる聖剣エクスカリバーみたいな……男は好みを判別するエクスカリバーを皆持ってる』と言われてな。それで『オリオン』を召喚しようと思ったら……なんか、できた!」

「そんなのでできてたまるかぁー!」

「貞潔と純潔の女神様の清らかな人しか使えない武器ですか……ならベル様は使えないはずだと思いますけどねー」

「何か言ったか、リリスケ?」

「いえ、別に」

 

 見目麗しい女神達にもみくちゃにされるベルが非常に羨ましい。あっちは柔肌やいい匂いを堪能できているだろうに、こっちは途轍もない握力と頭蓋が歪むメキメキという音しか堪能できない。あと昔言った下ネタをエルピスが口にした途端に力が強まった。

 

(狙ってただろあの女神……前に手紙を届けに行った正義の女神といい、どうして清純そうな女神はちらりと腹黒いところを見せて幻想をぶち壊してくるんだ……あっ、ヤバ)

 

 変な八つ当たりを考えていたジークの頭からメキョッ! という鳴ってはいけない音が聞こえ、次第に痛みとともに意識が消え去っていく。

 

「一万年分の恋をしよう、ベル!」と笑顔で話しかけられて赤面する少年に八つ当たりしてやることを誓いながら、ジークは気を失った。

 

 

 

 ♦♦♦

 

 

 

 恋を満喫したいという分身(エルピス)の願いを叶えるため、もしくは監視のため、ベルとエルピス、ヘスティア達が教会から出て行った。残っているのはエルピスに協力したヘルメス、お目付け役のアスフィ、気を失っているジーク、そしてアルテミス。

 

「……いいのかい、アルテミス。恋を満喫したら……ジークの薬の効果を最後まで発揮してしまえば彼女(エルピス)は消滅する。天界に彼女の核になっている『オリオン』が戻りかかっている以上、別れは避けられないことだが、いつ訪れるかわからないそれを見届けるために傍にいなくて大丈夫か?」

「……自分が恋にはしゃぐ姿を見続けろと? それも神友(ヘスティア)に見守られながら? 黒歴史を暴露されるより酷い拷問だよ……」

「それは確かに」

 

 煤けた背中に追い打ちをかけたくなるのが神の性だが、ヘルメスは自重した。『オリオン』を抜く恋人選定をイベントにした罰はドロップキックだったので「ありがとうございます!」で済ませられたが……これ以上からかうと矢が飛んでくる。物理法則を無視する矢は回避不可能だし、肛門括約筋に力を入れても抉って穿たれるため防御もできない。肛門に矢が不法侵入すれば天界送還待ったなしなため、頑張って我慢する。

 

 見えない場所で自分と同じ姿のエルピスがはしゃいでいる光景を想像して悶えていたアルテミス。しかし、急に背筋を伸ばして真剣な顔になるなり、ヘルメスと視線をぶつけ合う。

 

「ヘルメス、私も聞きたいことがあるんだ。とても真面目なことだ」

「……わかった。嘘偽りなく答えると誓おう」

「――この子供が何故、神造兵器を持っている?」

 

 ジークを指さすアルテミスは笑わない。ヘルメスも誤魔化しに走ろうともしない。神造兵器――神々をも殺す武器をジークが持っていると告げられたことに息を呑んだのは、アスフィ一人だけだった。

 

「オーディンが管理する神造兵器『ノートウング』。不死者に死を、決して壊れないものには破壊を、約束された運命に波乱を齎す……理を捻じ曲げる力。私の『オリオン』とは比べ物にならないだろう」

「……」

「『アンタレス』のような黒いモンスターにも通じていたということは、完全にこの子供の血肉となり、魂レベルで染まりきっているんだろうが……神々の言葉で『危機』を意味する『ノートウング』は、所有者にあらゆる危機を与えてくる」

 

【ヘルメス・ファミリア】では笑い話のようになっているが、ジークは三歳で天涯孤独になっていた。手を差し伸べてくれる者は誰もおらず、自分で行動しなければ死んでいたかもしれない可能性が高く、普通の幼児が同じ状況になればほとんど死んでいただろうと誰もが考えていた。

 

 それだけじゃない。ダンジョンに潜れば確実に『異常事態(イレギュラー)』が発生し、週に最低一回は暗殺者に襲われ、七年前を覚えている者から邪神に似ているという理由だけで毒を盛られたりなど洒落にならない嫌がらせを受けたりもしていた。

 

 それが全て規格外と言う他なかった『魔法』の代償と知ったアスフィは言葉もなく、ただ全てを知っていたはずのヘルメスを見つめることしかできない。

 

「この子に平穏は訪れない。何度生まれ変わろうと力を求めざるを得ない人生を歩むだろう。『救界(マキア)』のために子供の運命を弄んだなら……ヘルメス。私は『オリオン』を使うことも辞さないぞ」

 

 女神から噴き出る月の光のように美しく、冷たい『神威』。それを叩き付けられるヘルメスはしばらく目を閉じていたが、観念したように口を開いた。

 

「――ジークの父親のせいです」

「は?」

「だから、ジークの父親のせいだって」

 

 目を点にしたアルテミス。シリアスな空気が砕け散り、軽薄な態度を取り戻したヘルメスが笑いながら暴露していく。

 

「そもそも『ノートウング』はオーディンが槍の稽古をしていた時にうっかり壊してたんだよ。それを他の連中にバレたら面倒事になると予感したオーディンは証拠隠滅も兼ねて下界に降りたのさ」

「……あのオーディンが……うっかり? 他人に厳しく自分に万倍厳しくみたいなオーディンが?」

「キャラを守りたいって思いもあったんだろ。で、詳細は省くし、ジークの父親が酔っ払っていたのかヤンデレに追いかけられて慌てていたのかは不明だけど、『ノートウング』を壊したと勘違いしたんだ」

「……」

「証拠隠滅のために『黒竜』の鱗で粉になるまで神造兵器を摩り下ろして、それを悪食だった仲間の食事に混ぜた。そして秒でバレて自分の食事とすり替えられて、そのまま気付かずに食べたらしい」

「…………」

「以上だ。ジークも父親の知り合いから聞いただけで俺も真相はわからない。ダサすぎるから悲しき運命に縛られた血族みたいな壮大な話にしてくれって頼まれてたけど、嘘を言わないって誓ったからな」

「………………」

 

 そのままアルテミスは固まってしまい、しばらくの間動かなかった。シリアスな空気にしておいて真相がしょーもなかったら誰だってこうなるだろう。アスフィも同情的な視線を送っていた。

 

 その後、ジークが危機を嘆くどころか理を捻じ曲げる力を嬉々として使い、自分の血を材料に『性転換薬』やどんな種族にも使える『妊娠薬』、『擬人化薬』を作っていると知ってアルテミスのジークへの好感度が下がった。

 

 後日、感動的な別れをしたエルピスが何故か《ヘスティア・ナイフ》を依り代にして生きており、ベルと添い寝をしている現場を目撃したヘスティアが発狂した。

 




 アルテミスの眷属は薬を盛った罰でオラリオの外に置いてこられました。

 以下、ダンメモ5周年のネタバレがあるので注意。












 リリがフィアナみたいになってる話。
 凶猛の魔眼が『神の恩恵』を貰う前からあったためべらぼうに強く、恩恵をもらってからはフィンより遥かに強力な【ヘル・フィネガス】が発現する。どのくらいかというと敵味方の区別がつかなくなる代わりにオッタル並に強くなる。そのせいでLv.が上がらない。
 考えたのはソーマの神酒をラッパ飲みしても正気を保ったまま空き瓶でソーマを殴りつけて「眷属を見もしてないくせに見限ってんじゃねぇよもやし」と怒鳴って更生させるのと、フィンに幼い頃から求婚されてて「いい年して幼女に発情してんじゃねえよ気持ち悪い」って考えているのと、「こんな真似した時点で女として負けてるんだよ、お前は」と言いながら嫉妬で襲撃してきたティオネを返り討ちにするのと、七年前に狂ったように闇派閥とヴァレッタを蹂躙するとかかな。

 本編だと絶対にあり得ない展開だけど、どう思う?



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