才能の権化が才能を無駄遣いしていることを嘆くのは間違っているだろうか 作:柔らかいもち
文才が欲しいと毎日思う。ではどうぞ。
「マジか……」
アポロン主催の『神の宴』の翌日。自慢の
「ロキ、先に言っておくよ。俺の眷属は『
「……そんなもんわかるわ」
ヘルメスに返事をする声は無機質だった。怒りや驚愕、己への不甲斐なさが混ざり合い、胸の中の感情を整理することに意識を裂かれていたからだ。それはきっと、隣で表情を消している男神も同じだろう。
同盟を組む際に一通り【ディオニュソス・ファミリア】の構成員を調べたロキは彼女のことを知っていた。ディオニュソスの忠実な眷属である彼女の背に刻まれる『恩恵』は当然ディオニュソスのもののはずなのに――。
「ぺニアか、これは」
「そうだ……
眠る少女の背中にあるのは清貧を司る女神の『恩恵』。神々の間で悪い意味で有名な貧乏神が眷属を得たという話は聞いたことがない。ましてや他派閥の眷属を無理矢理奪うなど、どこぞの
アウラ自身が『
「『エニュオ』の正体はディオニュソスか」
ある程度ロキはディオニュソスを疑っていた。しかし、その疑惑は決定的なものとは言えず、ディオニュソスの語る神意はロキの目にも本物として映っていた。こうして決定的な証拠を見るまで天界きってのトリックスターが欺かれていた。
その覆らない事実にプライドは傷ついたし怒りはあるが、それを抑えて何故お前の
「……ディオニュソスはぺニアの他にデメテルを『エニュオ』の身代わりにするつもりだった。奴の計画ではデメテルは俺達の注意を逸らす囮として最高だったらしいからな」
「ふーん……それで?」
「デメテルを操り人形にするために、奴はつい先日、彼女の眷属を大量に誘拐しようとしたんだ。消耗品の人質は多くても困らないと思ったんだろう」
「屑やな……」
「実行者は奴の唯一の手駒である
「……?」
ロキは自分の耳がおかしくなったのではないかと思った。都市崩壊の計画を事前に阻止したにしてはふざけているような内容が聞こえた。胡乱げな眼差しになったロキを無視してヘルメスは話を続ける。
「
「おい待てやコラ」
ロキを無視してヘルメスは舌を回す。
「で、レフィーヤちゃんに依存したフィルヴィスちゃんを取り込むために『賢者の石』と『ナンニデーモ菊』を使って
「よぅしいっぺん黙れ」
「ぐふぅ!?」
決して目を合わせようとせずに話し続けたヘルメスの鳩尾にロキの右拳が突き刺さる。その細腕にどんな力があるのか、腰の入ったいい一撃を喰らって崩れ落ちそうになる男神の胸倉を掴んで持ち上げる。
「卑猥な部分については後で
「お、俺もよく知らないんだ。眷属を守ったお礼にデメテルが本物の『賢者の石』のレシピをくれたってことくらいしか。他のは全く知らない!」
――デメテルがとある『愚者』を『「賢者の石」のレシピくれなきゃ畑の肥料にしちゃうぞ』と脅して手に入れたものをそのままジークに渡したのだが、そのことは誰も知らない。ついでに『賢者の石』の材料採取のために『オリンピア』へ行き、不器用過ぎた英雄の憎悪を『それ、俺に関係ある?』と切り捨てた挙句、『せくすぃーであだるちーな美女に生まれ変わって出直せ』というセリフと一緒にぶちのめして『賢者の石』の被検体にしたことは『オリンピア』の住人以外知らない。
「もうええ、じゃあディオニュソスの糞野郎は何処におる!? 流石にそれくらいは把握しとるやろ!」
「そ、それなら奥の部屋に――」
ヘルメスを放り出して目的の扉まで進む。ヘルメスの潰れたカエルのような呻き声を耳にしながら開いた扉の先でロキが目にしたのは――。
♦♦♦
「――首輪とリードで犬小屋に繋がれて上半身を亀甲縛りにされて、『アハハ、犬のウンコ~』ってアメリカンに笑う、頭がパッパラパーになったディオニュソスやった……」
「「「……」」」
【ロキ・ファミリア】の
「ついでに結構怪我しとったんやけど……なんでもナンパした時にディオニュソスくらい爽やかでカッコよくなってから出直せと言われたことがあったらしい。それにディオニュソスの眷属は可愛い子が多かったやろ? その鬱憤を晴らすためにボコったそうや」
「……ロキ。これを知ったのはいつだい?」
「ドチビとアポロンの『
「もう全部ジークに任せたら解決するよね? 僕は帰らせてもらおう」
「正気に戻れ、フィン。既にここが帰るべき場所じゃ」
疲れ切った笑みを浮かべて部屋から出て行こうとするフィンの頭を叩いてガレスが止める。ちなみに『
「何故これほど重要なことを黙っていた?」
「『教えたら忙しくなって娼館に行く暇もなくなるし、
「ほう。奴は何処にいる?」
「夜になったら娼館に行くらしいで。今の内に行っとかんと娼館が消滅しそうとかなんとか」
リヴェリアの姿が消えた。第一級冒険者でも見逃してしまう速さだった。最近リヴェリアの【ステイタス】の伸びヤバいもんなー……と、ロキは遠い目をした。
「……あー、とにかく近い内に『
「わかった。ところでジークも参加するのかい?」
「参加せんって。なんでも誘ってるとしか思えない恰好の赤髪の
何故か名前も知らないエルフが脳裏に浮かび、フィンにサムズアップしてきた。頭を振って追い出す。
「代わりに『
「……」
「ちなみにジーク一人なら『鍵』も解呪薬も必要ないらしい。扉は『賢者の石』を完成させたことが偉業と認められてLv.9になった【ステイタス】による力技で、
「代替案を出せとるなら助かるが……肝心な時に役立たずになるのう、あ奴は」
フィンもガレスもLv.9という単語に突っ込まなかった。どちらも情報量の多さに『遠征』を行った時以上に消耗していた。というかフィンに至っては現実逃避を始めていた。
そうこうしている間に時間は過ぎていき、『明日の僕達が頑張ってくれる』というヤケクソ気味の結論を出して解散となった。
男にはどこまでも厳しい主人公。エピメなんとかさんに毛程も同情しない。
ガチモンの『賢者の石』を作ればLv.は上がる気がする。
セックスしなければ出られない部屋で何があったかはここでは語らない。
ディオニュソスは『ユージン島』のキノコの胞子を吸ってしまったようだ。