才能の権化が才能を無駄遣いしていることを嘆くのは間違っているだろうか   作:柔らかいもち

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 文才が欲しい。無駄遣い要素って難しい。


お店の準備

『――死んでしまいたい』

 

 リヴェリア、アリシア、レフィーヤの三名がそれ――ジークの魔道具(マジックアイテム)を手に入れたのは偶然と成り行きである。

 

 リヴェリアに魔導士として師弟関係にあるレフィーヤが少しでも恩を返そうと、都市西南の第六区画の複雑な隘路に建つ『ウィーシェ』というエルフが好む造りをした喫茶店に誘い、その場に居合わせたアリシアも両者から誘われ同行した。

 

 眼鏡をかけたエルフの主人に案内された瀟洒なテーブルを囲い、それぞれが飲み物や軽食を頼んで話に花を咲かし始めた頃。その物騒な言葉は聞こえたのだ。

 

 声に反応してレフィーヤ達が振り向いた先には、彼女達と同じ女性のエルフが三人いた。その内の一人がうわ言のように「死にたい……」と呟き、他の二人は賛同するように首を縦に振る。

 

「……お前達、何があった?」

 

 他種族に比べて寿命が長いエルフの命を軽んじる発言に、リヴェリアは叱声を浴びせようと口を開いたが、影を落とした彼女達の顔を見て心配の声をかける。

 

「リヴェリア様!? も、申し訳ございません、耳を汚す言葉など聞かせてしまって……我々はここで失礼いたします!」

「待て。詫びる気持ちがあるのなら、何故そんなことを口にするようになったのか教えてくれないか?」

 

 畏敬の対象である王族(ハイエルフ)にそう言われてしまえば、店を出ようとしていたエルフ達は引き返す他ない。レフィーヤ達がいるテーブルの椅子に座っても口を小さく開閉していたが、リヴェリアの視線に観念したように口を開いた。

 

 しかし……、

 

制約(ギアス)、だと?」

「はい。だから我々は何があったのかをお話しできません。何処で誰がやったのかもお伝えできません。一つ言えるのは、一度でも『奴』に襲われればほぼ逃げられません。奴が生きている限り、この胸の奥で燻るものと向き合わされ続けます……。リヴェリア様を尊敬するからこそ、関わってほしくはありません」

 

 ただ、と前置きをして彼女達は水晶がはめ込まれた腕輪を机に置いた。これは? とアリシアが尋ねる。

 

「奴が獲物に付ける目印です。これを装備した際に状態が変化し、装備した者だけで特定の場所に行けば奴は必ず現れます。その場所だけは私からもお伝えできますが……如何なされますか?」

 

 暗い同族の顔を見て黙っていられるほど【ロキ・ファミリア】のエルフの誇りは腐っていない。それぞれが悩む素振りもなく腕輪を付けると、全員の腕輪の水晶が光った。

 

 ありえないものを見るかの如く目を見開いたエルフの口から告げられた場所は――『ダイダロス通り』だった。

 

「――昼に話した彼女達のLvは3。そして【万能者(ペルセウス)】にこの魔道具(マジックアイテム)を調べてもらったが、『神秘』と『魔導』の発展アビリティがなければ作成は不可能とのことだ。気を抜くなよ」

「つまり、最低でもLv.4の『魔法』を使える誰かが相手ということですね」

「何者でも関係ありません。同胞にあのような表情をさせた罪を償わせてあげましょう!」

 

 準備も警戒もしていたが、ノコノコと三人だけで『ダイダロス通り』に赴いてしまったエルフ達は、あっさりと攫われた。

 

 ちなみに魔道具(マジックアイテム)の鑑定を依頼された時、アスフィの目は色んな意味で死んだ。

 

 

 

 ♦♦♦

 

 

 

 ブィィィン……と無機質な音を立てながらピンクの水蒸気を吐き出す魔道具(マジックアイテム)。吐き出される水蒸気は透明な管の中を通り、別の部屋に運ばれていく。超硬金属(アダマンタイト)を石材で覆って造られたその部屋には意識のない三名のエルフが拘束されていた。

 

 噴き出す水蒸気は媚薬を気化したもので、魔道具(マジックアイテム)を作ったのはもちろんジーク。『耐異常』対策に作成したお香は効果抜群でエロい雰囲気を自然と形成してくれるのだが、いかんせん拉致監禁のシチュエーションでやっているのと近所迷惑にならないように防音処理を施しているため、空気を通すための孔が小さい。なのですぐに煙たくなってむせてしまうのだ。以前とある大国の貴族なのに騎士をやっている客が『くっ……ころぐほっ』とキメ台詞で咳き込んで二度と来なくなったことがあるため、急いで作成に取り掛かった過去がある。媚薬には肌に潤いを与え喉の調子を整える成分が含まれており、『なんで媚薬にしたのですか……!?』と聖女に怒られるほど効果が高い。

 

「……」

 

 開閉可能な覗き穴から部屋の様子を窺う。それなりに時間が経ったが、ピンクの煙が満ちるにはまだかかりそうだ。排気量を上げた方がいいだろう。魔道具(マジックアイテム)の調整をするためのダイヤルを摘んだその時、

 

「兄ちゃん、遊びに来たよ!」

 

『ダイダロス通り』特有の異常事態(イレギュラー)発生! 偶に親切にしただけでやたらと懐いた子供達が見つかりにくい場所にあるはずのこの店に何故かこんな時間にやって来た! 

 

 知り合いにこんな所を見られたら焦るだろう。ジークのような天才だって焦る。『こんな時間に来るな。非常識だろうが!』と怒鳴って『お兄ちゃんのやってることの方が非常識だと思う』と聡い半妖精(ハーフエルフ)の子供に論破され、『俺はブタの燻製をしているだけだ!』と無理矢理捻り出した言い訳を『ブタの前にメスって付くんでしょ? この前アマゾネスのお姉さんが言ってたよ』と無垢な犬人(シアンスロープ)の女の子に斬り伏せられ、狼狽えたりだってする。

 

 しかーし! 伊達にLv.7をやっていないジークは言葉での勝負を一瞬で諦め、『催眠魔法』という最強の切り札を切ることを決意する。大人気ないと言うことなかれ。『大きくなったらお兄ちゃんと同じことしたい!』と言った子供達の夢と笑顔と性癖を守るためなのだ。

 

 防音処理のせいで重たい扉が開くまでの間に、ジークは短文詠唱を恐ろしい速度で唱える。そして扉が開いた瞬間、ダイヤルから弾かれたように離れた手から光が放たれ、子供達を包み込む。何が起こったのかわからないまま夢の世界に旅立った子供達を丁寧に抱え上げ、彼等の住処である孤児院に連れていく。

 

「ふぅ……やれやれだぜ。子供の思考回路はダンジョンより読めないな」

 

 急いで店に戻ったジークは魔道具(マジックアイテム)に近付く。急がなければエルフ達が目を覚ましてしまう。『くっ殺の館』の仕事人の誇りにかけて、ムードを微塵も作れない水蒸気を見せる訳にはいかな……ん? なんで魔道具(マジックアイテム)がブォンブォンッと唸りを上げてんの? あ、さっき『魔法』を使った時に手が当たってダイヤルが最大まで回って……やっべ。

 

 仕事部屋を覗き込む。ピンクしか見えなかった。慌てて空気を入れ替えて中にいた三人を見てみると、全員が大惨事になっていた。特に【千の妖精(サウザンド・エルフ)】は女の子がしちゃいけない顔をしていた。一番若いから性欲も大きいのかもしれない。

 

 まだ意識が戻ってなくてよかった、パンツだけはバレそうだし履き替えさせておこう、服は汗と勘違いしてくれるといいなぁ……と祈りながらジークはタオル片手に証拠隠滅を始めた。

 

 果てしなく自業自得だった。

 




昼間のエルフ達「(自分がこの様な性癖をしていたなんて……もう隠すこともできなくなったというのに、羞恥よりも解放できる悦びを感じてしまっている! ああ……)死んでしまいたい」

目を見開いた時(リヴェリア様も私達の同胞!? でも何でしょう、この失望を上回る感情は――!!?)

アスフィ(今度からこの人たちをどんな目で見ればいいんだろう…あの屑天才が作った胃薬飲んで寝よう)

ちなみに魔道具の発動条件も伝えることは出来ません
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