才能の権化が才能を無駄遣いしていることを嘆くのは間違っているだろうか 作:柔らかいもち
ぴちょん、と天井から滴り落ちた水滴が弾ける。落ちた雫と窪みにできた水溜まりがぶつかり合い、発生した静かな音がとある妖精の耳朶を震わせた。
「…………っ? ここは……」
瞼が緩慢な動きで開き、露になったリヴェリアの翡翠色の瞳に淡い光が入る。少しだけ目を細めて光に慣らした彼女は辺りを見渡した。
どうやらここは床も壁も天井も剥き出しの石材で造られた部屋らしく、壁に取り付けられた小さな魔石灯では照らしきれない暗闇が四方に続いているほど広い。部屋のあちこちに何かが置かれていたが、リヴェリアの目は一ヶ所で止まった。
「アリシア、レフィーヤ!」
ここに運び込まれる前に共にいた仲間の姿をはっきりと見られたのは、彼女達の傍にカンテラ型の魔石灯が置かれていたから。仲間の無事を確認したリヴェリアだが、生じかけた安堵はあっさりと潰れた。
アリシアは壁に寄りかかりながら石床に座り込んでおり、両手を鎖によって頭の上で何重にも拘束されていた。しかし、それ以上に不味いのがレフィーヤだ。
彼女は
想い浮かぶのは死を願う言葉を口にしていたエルフ達。警鐘が貞操の危機を伝え、女性にとって悪夢に等しい光景を脳裏に映し出す。もしこんな未来が実現してしまえば、エルフの中でも潔癖なアリシアは二度と立ち直れなくなるだろう。まだ若いレフィーヤだって心を砕かれるかもしれない。リヴェリア自身も耐えられる自信がない。
危機感に突き動かされたリヴェリアがレフィーヤ達に近付こうとした瞬間、ガシャッ、という音が響いた。ここでようやくリヴェリアは自分の体勢に気付いた。
彼女もレフィーヤ同様、四肢を枷で拘束されていた。異なるのは天井から伸びる鎖が短く、嫌でも立った姿勢を強制されるところだけ。Lv.6の【ステイタス】を発揮して破壊を試みるも、鎖はギチギチとなるだけで千切れない。魔導士とはいえLv.6の『力』でだ。
(
何度も鎖を引っ張り、その度に耳障りな金属が擦れ合う音が響く。やけに室温が高いのか、それとも焦燥が膨れ続けているせいか、噴き出る汗で服がぐっしょりと濡れて不快になる。それに何故かダンジョンに潜った後とは異なる未知の倦怠感がのしかかっており、リヴェリアの抵抗する力を奪っている。
「くっ……外れないっ!」
ついに苦渋の声を漏らし、手足に込めていた力を緩めて息を吐いた時だった。
「おやおや……もう目が覚めたのか。流石は【ロキ・ファミリア】の第一級冒険者、リヴェリア・リヨス・アールヴ」
「!」
唐突に闇から産まれ落ちたかのように、リヴェリアの眼前に男が立っていた。
身長はリヴェリアより高く、一八○
「……貴様は何者だ?」
リヴェリアの口から零れたのは男の正体を問う純粋な疑問。
彼女は魔導士だが歴戦の冒険者だ。武芸を嗜む者特有の癖や立ち振る舞いを見抜く目を持っている。リヴェリアを抵抗なく攫えるほどの強さを持つ者など世界規模でも数えるほどしかいないため、即座に犯人を特定できると考えていた。
しかし、わからない。リヴェリアは目の前の男の正体を見抜けない。都市最強の【ロキ・ファミリア】と【フレイヤ・ファミリア】の誰とも一致せず、彼等以上の技量を感じさせる化物なんか欠片も覚えがない!
「何者か? お前達を攫った者だ。それ以上でも以下でもない」
「……っ! なら何が目的でこんな真似をした? 私達が【ロキ・ファミリア】だと知った上でこの所業、命が惜しくないのか」
正体が探れないなら目的を。可能性は低いが【ロキ・ファミリア】の名声に怯えて退くことを願って派閥の名前も出す。
すると、唯一見えていた男の唇が釣り上がった。
「目的? お前達みたいなエルフを凌辱するだけだが?」
リヴェリアの頭が熱くなる。殺気が籠った目で睨みつけるが、男は飄々とした態度を崩さない。囚われた妖精を嘲笑うように足音を立てて歩き始める。
「俺はお前達のようなエルフが好きだ。美しい上に気高く、悪逆非道を許さない。俺の噂を耳にすれば光に誘われる虫のようにやってくる間抜けなところが大好きだ」
「自分の貞操と仲間の尊厳。どちらも破滅への選択だ。そして……大いに迷い、大いに悲しみ、大いに嘆きながら選んだそれに意味がないと思い知った時の顔と声は最高だ! 一生飽きることはないだろう」
「日の当たる世界に戻っても救われることはない。それどころかその身に付いた穢れが一層際立つだけだ。後はもう堕ちるだけ……全身を底なしの沼に沈めて綺麗なところを塗りつぶし、全てを真っ黒に染め上げて、完全に諦めるために何度も俺の下へ来るようになる」
ゆっくりと語りながらリヴェリアの周りを歩いた男は彼女の前で止まる。そして、告げる。幾人もの女の尊厳を砕いてきた悪魔の宣告を。
「【
「ゲームだと?」
「そうだ、ゲームだ。今から一時間、俺はお前を性的に嬲る。耐えられたら全員解放するし、どんな要求にも従おう。だが、一度でも絶頂すれば――あちらで寝ている【
「なっ!?」
「おまけで排卵誘発剤も使ってやろうじゃないか。俺みたいなイケメンの子供を妊娠できるんだ……感涙に咽び泣くといい」
「この……外道め!」
鎖を鳴らしながら睨みつけるが、男は余裕の笑みを崩さない。それが途方もなく悔しかった。
「俺を外道と呼ぶか。なら第二の条件だ。絶頂した後でも俺はお前を苛めるが、時間内に意識を失わなければ犯すのはお前だけにしてやる。どうだ、お前の失態は頑張り次第で取り消せるようにしてやったぞ。優しいだろう? ……あっ、自分だけは助かるために奴等を見捨てるのも選択肢に含まれているぞ。好きに選べ」
――『悪』だ。目の前の男は『悪』だ。どす黒い『悪』だ。
自分のために部下を切り捨てるなんてリヴェリアにはできない。ゲームに乗ればほぼ間違いなくレフィーヤ達は犯されることになる。敢えて希望を見せているのもより絶望させるためだろう。
「選べよ。自分が清い身でいるために部下を見捨てるか、誇りに拘り道連れにするか。選ばないなら全員の貞操を奪ってやろう。ほら、選べよ。とっとと選べ。仲間を見捨てるのか、誇り高いエルフの王族が?」
「ふざ、けるな……ふざけるなっ!! お前は人を、女をっ、何だと思っている!?」
「そんな常套句は聞き飽きた。だから、そら――選べよぉ」
女の感情が汚されたくないと泣いている。エルフの矜持が仲間を助けろと怒鳴っている。自分自身の魂は選びたくないと叫んでいる。
だが、男は時間を与えようとしなかった。「そうか」と呟くと踵を返し、レフィーヤ達の方へ歩を進める。
「なら特等席で眺めているといい。自分可愛さに見捨てた女どもが犯されるところを――」
「――待て」
「なんだ?」
「……ゲームをやる。結果が出るまで、二人に手を出すな」
「……はははははっ! これは傑作だ。自慰行為もしたことがなさそうな
わかりやすい挑発には乗らない。反応しても相手を喜ばせるだけだ。ならば道は一つ。悪魔が見せびらかす偽りの希望を本物にすること。
決意を瞳に宿し、嗜虐的な笑みを浮かべる男の視線と真っ向からぶつかり合う。男の手が伸ばされ、リヴェリアは強く歯を噛み締める。
ゲームが始まった。
――四〇秒後。『耐異常』を貫通するほど効果の高い媚薬付けにされ、性的な快感に慣れていないリヴェリアが絶頂するのは余りにも早かった。
そこから五分が経過し、体力は底をついた。次は【
そして。
ドゴンッ!! という轟音が響く。振り返った男の前に転がるのは足の形に歪んだ扉。間を置かずにいくつもの魔石灯の眩い光が暗闇を切り裂いた。
瞼が落ちていく。狭まっていくぼやけた視界が捉えたのは小さな黄金色の影。
(……………………フィン)
助けに来てくれた仲間の名前を胸中で呟くのを最後に、リヴェリアの意識は途絶えた。
ジーク(【純潔の園】も【千の妖精】も薬を吸い過ぎたせいで起きないんですけど。えぇ……俺、睡眠姦とか無理なんだけど。本当にどうしよう。というか魔道具の反応からして【九魔姫】にはまだサービスをしないといけないんだけど、大丈夫かこれ?)
外道ムーブも得意な演技の才能まである主人公。
ちなみにセッ……ができないだけで、胸で挟んでこすってとかはできます。
多分ここのifがR18になるな……。