才能の権化が才能を無駄遣いしていることを嘆くのは間違っているだろうか   作:柔らかいもち

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 フィンがボロクソに言われてて笑った。


蹂躙

 扉を普段の彼らしからぬ豪快な蹴りで破ったフィンが指示を出すより早く、男が動揺から立ち直り人質にするためかリヴェリアに手を伸ばすより速く、彼女――アイズは動いていた。リヴェリアとの距離を一瞬で喰い尽くし、腰から引き抜いた銀の剣《デスペレート》を男に向けて流れるように振るった。

 

「ちぃっ!」

 

 舌を弾いて躱した男はならば他の二人を、とレフィーヤとアリシアのいる方へ顔を向けるが、二人の傍には大双刃(ウルガ)湾短刀(ククリナイフ)を携えた双子のアマゾネスが立っていた。どちらも近付けば殺すと言わんばかりの殺気を放っている。

 

 部屋唯一の出入り口は言うまでもない。小人族(パルゥム)の勇者を始めとしたドワーフと狼人(ウェアウルフ)の第一級冒険者、魔石灯と武器を構える第二級冒険者達によって塞がれている。

 

 あっという間に人質を奪われ逃げ道も失った男が口を開く。

 

「どうやってここに辿り着いた? 俺の装飾品(アクセサリー)を付けた獲物は制約(ギアス)で第三者がここを知りかねない言動を一切取れなくなる。攫う時も痕跡は残さなかった」

「無駄を嫌うリヴェリアが趣味の悪い魔道具(マジックアイテム)を付けて、何も言わず夜遅くに若い女性団員を連れてどこかに行こうとしていた時点で怪しいと思っていた。後は僕の勘と獣人の嗅覚で『ダイダロス通り』へ向かったと大まかな当を付け、人海戦術で見つけ出した」

「……マジかよ、クソ。【勇者(ブレイバー)】の知恵と勘はヤバいって聞いてたけどここまでかよ。おねショタとショタおねが似合う小人族(パルゥム)程度にしか見てなかったのに……」

 

 大好きな団長への侮辱にぴきっっ、と【ロキ・ファミリア】の大多数から青筋が走る音が響く。特にティオネは隣のティオナが状況そっちのけでドン引きしてしまうほど怒りで顔を歪めていた。

 

 部屋に入った時に確認した血痕らしき赤が付着した拷問器具、すぐに目を逸らしたが女性にとって最悪の辱めを受けたリヴェリアの姿にフィンの忍耐も限界であり、今の一言で一線を越えた。

 

 すっと腰を落として槍を構える。軽口を叩いていた男もついに顔色を変え、フィンを宥めるかのように両手を前に突き出す。

 

「落ち着けよ【勇者(ブレイバー)】。せっかちな男は嫌われるぞ。もしかして小人族(パルゥム)の見た目通り器も小さいのか?」

「ああ、僕は器が小さいんだ。君を死ぬ寸前まで痛めつけたいから投降なんてさせる気はないし、なんなら四肢を破壊して団員達の中に放り込んでやろうとも思ってる」

「ちょっとした冗談だろ。待てって。お前は同族の異性を探しているんだろう? 紹介してやるから武器を降ろせよ。そうだ、【凶狼(ヴァナルガンド)】と【重傑(エルガルム)】、こいつを止めろ! そしたら【九魔姫(ナイン・ヘル)】で楽しませてやるぞ!」

 

 フィンを止めるのは不可能と悟ったのかベートとガレスに取引を持ち掛ける。

 

「ハッ、行き遅れの年増ババアなんざ御免だ。とっととくたばれ」

 

 仲間であるはずの団員達(エルフ)から強烈な殺気をぶつけられながら、ベートは鼻で男を嗤う。

 

「残念じゃがエルフの細い身体に興味はない。大人しくフィンに負けろ」

 

 ガレスは大戦斧を肩に担ぎ直し、拒絶の意を叩き付ける。

 

「枯れたジジイにホモの狼が! 誰か俺を助けようと思う奴はいないのか! 俺に付けばいくらでも女を楽しめるぞ!」

「死ね」

「死んで」

「死んでください」

「そんな誘いに乗る馬鹿は【ロキ・ファミリア】にいないわ。もしいたら殺す」

 

 殺気を増幅させる女性団員と彼女達に怯えて縮こまる男性団員。派閥内での力関係が手に取るようにわかるが、何の意味もない。

 

「もう遺言は十分だろう? 終わりだ」

「くっ、クソッタレがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」

 

 地を這う獣の如くフィンが駆ける。突き出されていた手が腹を庇う位置に来たが関係ない。まとめて貫いてやる、と金の槍《フォルティア・スピア》を繰り出した。

 

 

 

 

 

 

 

「――なんちゃって」

 

 

 

 

 

 

 

 ガキンッ!! という音を立てて黄金の穂先が()()()()()()()()()。男はすぐに手を閉じて槍を掴み、引っ張る。碌な抵抗もできずに前のめりになるフィンの顔面を鷲掴み、力任せに床へ叩き付けた。

 

 どんな時も【ファミリア】を鼓舞してきた【勇者(ブレイバー)】は、そのままピクリとも動かなくなった。

 

「――え?」

 

 その場にいた全員の時が止まる。第二級以下の冒険者は何が起きてフィンが床に押さえつけられているのかわからないという困惑で。第一級冒険者は再び軽薄な笑みを浮かべた男の想定を遥かに超えた強さに対する戦慄で。

 

 男の纏う空気が変わる。追い詰められていた小物から、憐れな獲物を狩る無慈悲で絶対的な狩人へ。

 

 アイズ達は実力差を理解しながらも挑みかかろうとするが、フィンに槍を突き付けられて動けなくなる。

 

「飛んで火にいるなんとやら、っていう極東の諺があったよな。この状況にピッタリだ。女好きの神のお眼鏡にかなった綺麗な女が沢山いる。――楽しみだなぁ、お前達を本能に忠実な雌にしてやるのが」

 

 悲鳴を上げて女性団員が震える。瞳が恐怖に染め上げられる。今の攻防で男の言葉が不可能ではないと悟り、自分達の末路がリヴェリアと同じだと理解する。女の戦意はあっけなく砕かれた。

 

「ここは俺の楽園で、聖域で、理想郷だ。侵入者(おとこ)は例外なく拷問して苦しめて排除しているが……今日の俺は気分がいい。女を置いていけば見逃そう。そして母性皆無な女神(おや)に泣き付け。クソイケメンお兄さんに苛められて逃げ出しましたってな」

 

 男性団員は憤ることもなく青ざめる。部屋で存在を主張する拷問器具が不安を助長する。使われた未来を想像した者は身体の端から力が抜けていくのを感じた。男の意地は全てを諦めたように沈黙した。

 

 男は動けない【ロキ・ファミリア】に満足したのか一つ頷き、呻き声を出すこともできずに気絶したフィンを見下ろす。そして嗜虐的に唇を吊り上げると、口に槍を捻じ込んだ。

 

「テメェッッ!!」

「動けばこいつを殺すぞ【怒蛇(ヨルムガンド)】。それとも好きな男の前で犯されるのがお好みか?」

 

 愛する人へのふざけた真似にティオネの怒りが頂点に達する。【怒蛇(へび)】の名に相応しい形相を浮かべて襲い掛かろうとするが、言葉一つで止められる。それでも湧き上がる怒りを隠すつもりは毛頭ないのか、強く歯が噛み締められた口と握りしめられた手からは血が滲み出ていた。

 

 ティオネに向けていた顔を戻し、男はフィンの口の中の槍を動かす。

 

「どうだ【勇者(ブレイバー)】? 自分の得物(ブツ)を舐めさせられる気分は? どうせ股間の槍は小さいから手に握る槍は大きくしたんだろ? んん? 困るだろ、身の丈に余るどころか物理的に身長の倍はあるブツとか。抱かれた女死ぬぞ。街中で勃起したらどうするんだ? まさか、ズボン破いてブラブラ揺れるソーセージを見られても気にしないというのか? お前に惚れるのは余程の馬鹿だろうなぁ――」

「さっきから、ごちゃごちゃ、ぐちゃぐちゃ、あることないこと並べて、団長を馬鹿にしやがって……」

 

 ティオネの口から小さな声が漏れる。不味いと思ったティオナが落ち着くよう呼びかけるが、妹の制止も自分自身の理性も受け付けないほど、ティオネの怒りは膨れ上がっていた。

 

「――ぶっ殺す!!!」

 

 いかなるモンスターの『咆哮(ハウル)』にも勝る怒声を上げ、石床を粉砕し、突き抜けた憤怒で発動した【大反攻(スキル)】によって紅く染まった息を吐きながら襲い掛かった。

 

 男はティオネを見る。

 

「ふむ。抗うことを選んだか。俺も強気な女を捻じ伏せる方が好きだから大歓迎だ」

 

 そして告げる。

 

「だから――『蹂躙』してやる」

 

 そこからは宣言通りの蹂躙、いや、それ以上に『瞬殺』であった。

 

 ティオネは槍で薙ぎ払われた。

 ティオナは壁に叩き付けられた。

 ガレスは殴って沈められた。

 ベートは蹴り潰された。

 それ以外は攻撃されたことに気付けぬまま意識を飛ばした。

 

 知覚を振り切って行われる攻撃。アイズが終わったと気付いた時には、仲間は全員倒れていた。

 

「お前で最後だ、【剣姫】」

「!」

 

 アイズの前に男が現れる。剣を振ろうとして《デスペレート》が自身の手になく、男の手中に収まっていることに初めて気が付いた。『魔法』を使おうと後ろに下がるが、男の手が少女の首を絞め上げ、そのまま華奢な身体を持ち上げた。

 

 両手で男の手を解こうとするが叶わない。じたばたともがいても男の手が緩む気配はなく、逆にアイズの気配が薄れ始めた。

 

「怖がることはない。お前達は全員が俺に腰を振るようになる。苦しみも悲しみも苦痛も、復讐心さえも忘れて、俺から与えられる快感だけを求めて生きていく女に生まれ変わるんだ」

 

 嫌だ! 心の中でアイズは叫んだ。『悲願』を忘れることは、彼女の人生を全て否定することと同じだ。それだけは絶対に認められない。

 

 しかし、少女の意思に反して現実は非情だった。力を失った手足はだらりと垂れ下がり、目から光はほとんど消えていた。金の少女の瞼が降ろされようとした、直前。

 

「――ちょ~っと待ったー!!」

 

 軽薄な声が響いた。首から手が離され、アイズの身体が床に転がる。ごほごほと咳き込んで息を整えていると、

 

「ギリギリセーフかな? セーフだよね? 全員倒してるけど性的なことをしてないならセーフだと言ってくれぇ!! ――あ、リヴェリアちゃんがあられもない姿になってる完全にアウトですはい」

 

 錯乱していたかと思えば全てを諦めたかのような声音になった。

 

「……? どういうことヘルメス様? ……営業妨害で叩きだされたいの?」

「そんな訳ないだろ天才なんだから気付けこのアンポンタンッッ!! リヴェリアちゃん達はこの店、というかお前を調べてたんだよ! そんでもってお前が攫っちゃったからこんな大事になってるんだYO!!!」

「……でも魔道具は反応してたぞ? 故障もしてなかった」

「そうだとしても性格とかでわかるだろ!? というか相手を選べよこのアホ天才!!」

 

 営業妨害? アンポンタン? アイズが頭に大量の『?』を飛ばしていると、男は震える手でマスクを外し、呟いた。

 

「……噓だと言ってよ、バーニィ」

 

 

 

 ♦♦♦

 

 

 

「なるほどなぁ。そんなことがあったんか」

 

【ロキ・ファミリア】本拠(ホーム)、『黄昏の館』。フィンの私室兼執務室でロキは机に腰かけて笑顔で頷いていた。

 

 床に正座しているヘルメスを全く笑ってない目で見下ろし、頷いていた。

 

「――って納得できるかボケェェェェェェ!!!」

 

 ですよねー、と怒髪天を衝くロキを見てヘルメスはさめざめと泣いた。その隣には「フブゥ……」と呻き声を上げる肉塊が転がっていた。

 

 肉塊の正体はジークである。叩きのめした【ロキ・ファミリア】の面々を治療し――レフィーヤとアリシアは【ディアンケヒト・ファミリア】に預けた――目覚めた彼等彼女等に告げたのだ。煮るなり焼くなり好きにしろ、と。とても男前な宣言だと自負している。

 

 そして本当に煮て焼かれて袋叩きにされた。フルボッコだ。男前な面は見る影もない。どうして生きてるのか不明なレベルのダメージである。

 

「まず何やねん『くっ殺の館』って! 人類(こども)が思いつく店やないやろ!」

「いやー、元々ジークはこういうのが好きでね。『くっ殺』の概念(ジャンル)を教えたらこうなった」

「自分が原因やないか! リヴェリアの口から『くっ……殺せ』なんて初めて聞いたわ! 興奮したけど!」

 

 今回の騒動を説明するにあたって避けて通れないのがジーク特製の魔道具(マジックアイテム)だ。リヴェリアとロキに懇切丁寧に魔道具の説明をし、ロキが嘘じゃないと判断した途端にリヴェリアは崩れ落ち、泣きながら震える声で『くっ……殺せ』と呟いた。今は私室でアイズに慰められている。

 

「次! フィン達が来た時点でおかしいと思うやろ!」

「『助けに来た仲間があっけなく負けて、その仲間の前で凌辱される』シチュエーションが好きな子が割といたみたいでね……。その類だと思ったんだって」

「んな訳あるかい!」

 

 ヘルメスを蹴り倒し、更にげしげしと踏みつける。ジークをやらないのは零能になっている神ではダメージを与えられないからだ。肩で息をするロキはボロボロになったヘルメスをこれだけは見逃せんと睨みつける。

 

「色々聞きたいことはあるが今日はこれで最後や。この子供のLvは?」

「レ……Lv.7。【ランクアップ】もできるよ……これだけ、強くなったのは………………エッチなこと、したいから……だって……ガクッ」

「死んだふりすんな、起きろ! ウチの子供達のメンタルどうしてくれんねん!」

 

 ジークが性癖が捻じ曲がった童貞であることは【ロキ・ファミリア】に知れ渡っている。その結果、自信を無くす者が大勢出ているのだ。いくら強くても相手が『性欲に馬鹿正直な童貞』だと知ってしまえば、ショックの大きさは計り知れない。やるせなさも凄い。あのベートですら負けん気を出すこともなく部屋に引きこもった。

 

 その後始末をどうするのかと優男の神を揺さぶるが起きない。死んだふりをしているのはわかりきっているので、本当に殺してやろうかという考えが脳裏を過ぎる。

 

「すんません。後日改めてお詫びに来るんで、今日は帰っていいですか?」

 

が、いつの間にか復活したジークがヘルメスを担ぎ上げていた。ロキは反射的に怒鳴りそうになったが、ジークが懐を漁り出したのを見てやめる。

 

「なんや? 金でウチの顔叩いて許してもらおう考えとるんなら本気で怒るで?」

「そんなつもりはないですよ。これどうぞ」

 

 渡されたのはどう考えても懐に収まりきらない厚さの本――魔導書(グリモア)だった。

 

 は? と首を傾げるロキ。ウン千万する貴重書をなんで懐に入れてるのかとか、今どうやって取り出したのかとかを考えていると、

 

「もう一冊どうぞ」

「えっ?」

 

 二冊目の魔導書(グリモア)が重ねられる。ロキの腕に一億ヴァリス以上が乗っている。二重の意味で重い。

 

「おまけにもう一冊」

「ちょっ、まっ」

 

 三冊目。ロキの膝と腕ががくがく震え出す。怒りとかが一時的に吹っ飛んだ。

 

「あとこれ、『賢者の石』。好きに使ってください」

「……」

 

 貴重品を渡され過ぎたロキの意識は途絶えた。

 

 

 

 ♦♦♦

 

 

 

「あの数の魔導書(グリモア)、どうやって手に入れたんだ?」

「自分で書いた」

「……『賢者の石』は? アスフィに壊されただろ?」

「『持っているだけで賢者タイムになれる石』を略して『賢者の石』って呼んでるだけだぞ?」

 




 ジークの金の稼ぎ方。『魔導』と『神秘』で魔導書を作って売る。もう札束で頬をぺしぺしする時代は終わり、魔導書の角でつんつんする時代になっている。相手が頷かなければ鈍器にもなる。

 これで一区切りつきました。忙しくなるので次の投稿は遅くなると思います。

 言い忘れていましたが、これは原作が始まる少し前を想定して書いています。
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