才能の権化が才能を無駄遣いしていることを嘆くのは間違っているだろうか   作:柔らかいもち

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 次回か次々回で原作突入予定。R18はR18に登場させるキャラを出し切ってからの予定。

 追記。ごめん、嘘ついた。性欲を抑えきれず書いてしまった。


手紙

 勘違いと能力の高さが仇となって大惨事になった三日後。

 

「ふうぅー……なんとか許してもらえた」

 

 改めて一人で【ロキ・ファミリア】に謝罪に行ったのだが、友好的な目を向けてくる者は一人としていなかった。エルフの団員は殺せだの店を潰せだの怒鳴って来るし、それ以外も非難の眼差しを浴びせてきた。

 

 それでも命も店も無事だったのは話し合いをしたのが幹部陣とロキのみであり、ほぼ全員が圧倒的な利益を見せたら取引が可能だったからだろう。『俺は童貞だぁ!!! あと子供できたら遊べなくなるし!』と【ロキ・ファミリア】に響き渡る大声で宣言し、それをロキが信じられない顔で肯定したのも大きい。

 

 いかがわしいことをしていた、というのがジークの店を潰す大義名分だったのだ。前提が崩れ去って悔しそうにする幹部陣に勝ち誇っていると、『ムカつくドヤ顔してんじゃねーよクソ童貞!』とベートに言われた。かっちーん、ときた。

 

「うっせー! お前等だって生娘と童貞の集まりだろうがバーカ!」

 

 この発言に対して【ロキ・ファミリア】は押し黙るしかなかった。

 

 ベートはそーいう経験がある。あるが、普段の彼の態度が問題だ。弱い女は嫌いだ興味ないだと言っているのに女性経験があると宣言してしまえば――

 

『ベートさん……下半身には正直なんですね……』

『硬派を気取ってるくせに、やることはやってるんだー。ダサーい』

『ベート・ローガ~! レナちゃんはいつでも貴方の子供を作れるよ~~~!!』

 

 男性団員からは生暖かい目で見られ、アイズを中心とした女性団員からは白い目を向けられ、仲の悪いアマゾネス姉妹には思いっきり笑われる。そして最後のは何だ。欠片も身に覚えが無いのに異様に悪寒がした。

 

 ティオネはフィンがいなければ見栄を張って(団長と)経験済みだと言えたかもだが、想い人がいる前では無理だ。万が一、他の男と寝たと勘違いされたら心中するしかなくなる。

 

 フィンもベートと似たようなものだ。経験済みを選べばティオネが間違いなく殺しに来る上、本当に同族と寝たのかを疑われる。未経験だと言えば四十を超えても女を知らない魔法使いを超えた賢者だと馬鹿にされる。男のプライド的に嫌だった。

 

 アイズとリヴェリアは当然未経験。ティオナは胸囲(かわいさ)がないため論外。ガレスは空気を読んで黙っていた。結果、誰もジークに言い返せなくなった。

 

 他にも先日提供した魔導書(グリモア)、『遠征』の手伝い、珍しいアイテムの融通を約束したことで許された。特に魔導書(グリモア)を渡したことが一番効果的だったのではないかとジークは思っている。

 

「なんたって俺が魂を込めて書いた官能小説だからな!」

 

 魔導書(グリモア)は作成者の性格が反映される。『自伝・鏡よ鏡、世界で一番美しい魔法少女は私ッ ~番外・めざせマジックマスター編~』なんて地雷臭のするタイトルだったり、『ゴブリンでもわかる現代魔法』とかいう文言だったりと、効果はあるけど内容が微妙になったりするのだ。

 

 ジークの魔導書(エロ本)は凄い。男でも女でも読み込まずにはいられないほど文章力が高く、使い終わった頃にはイってしまう。それも快楽に蕩けた顔を晒して。人がいるところで使うと大惨事になること間違いなしの一品である。金持ちのドラ息子が美人な婚約者の前で読んで『魔法』を取得し、かっこいいところを見せようとして破談になったという話もあるくらいだ。狙って売り込みに行ったかいがあった。

 

 更に童貞が使うと低確率で魔法スロットを増やす効果もある。競売にかけたら笑えるほどの値段で落札された。――代わりに性欲が消滅して二度と戻らなくなるが。どこかの国の唯一の後継者から性欲がなくなって滅びかけているらしい。ジークには『これで永遠の魔法使いじゃん。よかったね! キャハ☆』としか言えない。

 

 そういった効果を一切説明せずに『黄昏の館』を後にしたジークが向かっているのは【ヘルメス・ファミリア】本拠(ホーム)、『旅人の宿』だ。示談と言っていいのかは不明だが、【ロキ・ファミリア】を叩き潰す必要はなくなったとヘルメスに報告するためである。しかし――

 

「止まりなさい」

 

 のんびりと鼻歌を歌いながら歩くジークに後ろから声がかけられる。振り向いた先には色素が抜け落ちたような灰の髪をした美少女が立っていた。ジークの中でヘルメスへの報告の優先順位が地の底に落ちた。

 

「これを」

「え?」

()()()()から、貴方宛てです。必ず拝読しなさい」

 

 どうやって自分の店に連れ込もうかと考えている内に女は手紙を押し付けて去っていった。ちなみに彼女――ヘルンがジークに向ける眼差しは汚物を見るようだった。

 

 俺のイケメンフェイスに微塵も表情を変えないだと……!? などと謎に慄きながら手元にある二通の手紙に視線を落とす。一通はハートマークが付いている以外飾り気のないこぢんまりとした手紙。もう一通は極東の筆で書かれたと思われる『果たし状』の文字がある長方形の封筒。

 

「ラブレターに果たし状、だと……!?」

 

 前者は神々によれば『校舎裏で待っていると書かれていて、そこには何故自分を呼び出したのかもわからない美人な子がいるまでがお約束(テンプレ)』らしい。しかもラブレターには偽物が紛れ込んでおり、ピュアな少年を嘲笑う悪質なものまであるとか。

 

 後者は神々によると『夕日を背に河原で全力で殴り合い、最後は笑顔で拳を合わせて友情が芽生えるまでがお約束(テンプレ)』という代物である。俺が全力で殴ったら大抵の奴は木っ端微塵になるんだけどな、などと考えながら『果たし状』の封を開く。ラブレターはお楽しみのため後にする。

 

 ……ふむふむ。なるほど。

 

(……指定された場所にこなければ【ファミリア】を消滅させるってあるんだけど)

 

 これって脅迫状じゃないだろうか? あまり綺麗ではない無骨な字で綴られた文を読み終わったジークはそう思った。

 

 続いて小さな手紙を開けて読む。フムフム、フニャリータ。

 

(……こっちも指定された場所にこなければ【ファミリア】を消滅させるってあるんだけど)

 

 字は違うけど内容は一緒だ。指定された場所も一緒だ。もうラブレターの皮を被った劇物にしか見えない。無視したい。纏めて破り捨てて燃やしたい。というか『お前の主神(かあちゃん)、でーべーそ!』って言いながら投げつけたい。戦争になるからやらないけど。

 

(ぬあー……殲滅するのは得意だけど、守るのは苦手なんだよ。指定された場所からして相手はあの【ファミリア】だろうし。はぁ……行きたくない)

 

 全身で気怠さを表現しながら行き先を変える。指定された場所は都市の第五区画。繁華街のほぼ中心。

 

 ――『戦いの野(フォールクヴァング)』と呼ばれる、都市最強と名高い【フレイヤ・ファミリア】の本拠(ホーム)である。

 

 

 

 ♦♦♦

 

 

 

ジークを確認するなり即座に開いた荘厳な門をくぐると、そこには白や黄の小輪が揺れる美しい野原が広がっていた。都市にあるとは思えない原野の奥には宮殿か神殿と見紛う巨大な屋敷が建っている。

 

(頼む、ここの女かフレイヤ様が俺に告白するとかであってくれ! だって一応ラブレターもあったし!)

 

 それら一切に意識をやらず、ただひたすら祈っていたジークが目にしたのは美しい女神――では当然なく、二M(メドル)を超えるゴリマッチョの猪人(ポアズ)だった。ショックで崩れ落ちそうになるが踏みとどまり、膝をガクガクさせながら尋ねる。

 

「俺に『果たし状』を送りつけたのはお前か、【猛者】オッタル」

「そうだ」

「……ラブレターをくれたのは?」

「俺だ」

「??????????」

 

 ちょっと意味がわからない。というか理解したくない。全身に鳥肌が立った。膝が折れそうだ。

 

「俺、男と恋愛する趣味はねぇぞ!?」

「違う。あの方に頼んで代筆をしていただいた。お前は女からの誘いであれば乗って来ると踏んでな」

 

 とうとう地面に崩れ落ちるジーク。泣き喚きながら地面を転がり回る。ちなみに【フレイヤ・ファミリア】の団員はいない訳ではなく、壁際によっていただけだ。今ではオッタルとジークを包囲するように円陣を組んでいるため、全員がジークの痴態を見ている。

 

「嘘吐きー! 純粋な童貞を弄んで楽しいか!? そんなだから『魔法』が一つしか使えないんだよ非童貞脳筋!」

 

 あっ、誰か(エルフ)が『純粋な童貞があのような店を開くものかモンスター童貞』ってゴミを見る目で言った。……言ってはならないことを言いやがったな。こっちだって容赦しねぇ。

 

「……一応、『果たし状』はラブレターとも呼ぶらしい」

「そんな神の屁理屈聞きたくない! 俺はな、ラブレターでも告白でもいいから俺のことを好きだって言ってくれた女の子と交際したいんだよ! 遊んで思い出作ってお互い初めての夜を過ごして、その後でプロポーズするとか夢見るくらい純粋なんだよ! てめえ等穴兄弟と一緒にすんな!」

 

 次の瞬間、大剣が、長槍が、大斧が、大槌が、長刀が、黒剣が、銀槍が、『魔法』が、ありとあらゆる攻撃がジークに襲い掛かった。転がって避けた彼がいた場所が瞬く間に粉砕される。都市を揺るがすほどの衝撃に乗っかって包囲網を脱出した直後。

 

「【金の杖、銀の竪琴。二つの眠りに導かれ、どうか夢の楽園へ】」

 

 速攻で短文詠唱を完成させる。実は【ロキ・ファミリア】を歯牙にもかけずボコボコにできたのはとある『スキル』のおかげだった。今も発動しているのだが、あの夜ほど条件が揃っていない。『切り札』を使えば別だが、()()()からこちらを観察する視線があるため使わない。

 

「【ケーリュケイオン】」

 

 代わりに発動するのは当たれば勝ち確定の『催眠魔法』。人数が増えるほど効果が薄くなるものの、Lv.7だろうが数秒無防備にできる初見殺し。数秒あれば後は簡単である。

 

 オッタル達第一級冒険者をぶん殴り、昏倒させた上で催眠をかける。これでしばらくの間は起きられない。男性団員にも似たような処置を施し、女性団員は胸や尻を揉んでから客を選定する魔道具(マジックアイテム)を使い、適性があった者には店の紹介状をポケットに入れてから催眠をかけていった。

 

 十分も経った頃にはジーク以外に立っている者はいなかった。低レベルの団員には纏めて使ったとはいえ、詠唱のし過ぎでジークは喉が枯れた。転がっている団員から回復薬(ポーション)を拝借し、喉を潤しながら上を見る。正確には摩天楼――『バベル』の最上階を。

 

「いつから俺がLv.を詐称してたことに気付いてたんだろう、あの女神。店に来てほしいエルフがいる酒場にいる鈍色の髪の巨乳の子も【フレイヤ・ファミリア】に大事に扱われてるし……はぁ。こいつ等に目を付けられてもいいことなんて一つもないな」

 

 空になった試験管を綺麗に拭き、回復薬と似た色をした媚薬を入れて元に戻し、『戦いの野(フォールクヴァング)』を後にする。

 

 報告しなければならないことが増えちゃった。憂鬱な気分になりつつ本拠の近くまで来た時、汗水を垂らすヘルメスが見えた。彼もジークの姿を捉えるなり大声で叫んだ。

 

 

 

 

 

 

 

「ジーク! ファルガーがお前の魔導書(グリモア)を読んでから変になったんだけど!? 具体的には『俺は悟ったのです――男の股間にあるものはこの世で最も不浄だと。故に斬り落とします』とか言い出して俺のブツにまで手を出そうとしてきた! 何とかしてくれぇー!」

(そうだ、【九魔姫(ナイン・ヘル)】――リヴェリア達のパンツを返してなかった。どうすればいいか聞きに行こう)

「おい待て、待つんだ。待てってば! ファルガーの奴、零能の俺が一番やりやすいと思って狙ってるんだよ! いつ見つかってもおかしくな――あぁぁぁぁっ!? 俺を助けろっ、置いていくなっ、ジークゥゥゥゥゥゥゥゥ!!」

 

 

 

 ♦♦♦

 

 

 

 夜の『ダイダロス通り』。選ばれた者しか辿り着けない扉が開かれ、中から出てきた灰髪の男がくすりと笑う。

 

「やっぱり来た。あれだけの快楽を与えられて忘れる方が不可能だ。どんな人物だろうと、俺はその欲望を尊重しよう。さぁ……どんな風にして欲しい? エルフの御三方」

 

 




 ジークが持っている『スキル』

・あらゆる感情や欲望で能力値に補正がかかる『スキル』。性欲で常に高補正だぞ! そこに怒りや哀しみが加わったりもすると効果が上がるぞ! 精神喪失にでもならない限り消えないぞ!
・経験値獲得量を上げ、【ランクアップ】に必要な経験値量を下げるスキル。例えば他人が一人でミノタウロスを十匹倒さなければ【ランクアップ】できない時でも、ジークは複数人で一匹倒すだけで【ランクアップ】するぞ! チートだ!
・精神力を消費して手足から衝撃波を出す『スキル』。フェルズ涙目の性能と燃費の良さだぞ!
・女を屈服させる度、恒常的な能力補正がかかる『スキル』。ザルドの『神饌恩寵』の性欲版。汚いオーバーイートだ!
・魔力と体力を消費して傷や状態異常を回復する『スキル』。無理なのはフレイヤの『魅了』くらいだぞ!
・『呪詛』を無効化する『スキル』。あくまで自分自身限定だぞ!

 一番チートなのは三つ目の『魔法』だぞ! お楽しみに!


 ……最低評価のコメント「頑張ってください」の意味が凄い気になる。どこがどう悪いと思ったのかを全部書いてくれた人、めっちゃいい人だったんだなと思った。

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