才能の権化が才能を無駄遣いしていることを嘆くのは間違っているだろうか 作:柔らかいもち
皆さんありがとう。ではどうぞ!
・とある旅の神の憂鬱
俺はジークを眷属にした時、下界にやってきてから一番の衝撃と興奮を与えられたと言ってもいい。だって本当に才能の塊だ。戦いに関する才能なんか【ランクアップ】による戦闘能力向上の桁がえげつない。この子一人で『
そう思って好きにさせていたのがこのヘルメス、最大の誤りだったよ! ああ、神の目と頭脳をもってしても読めなかったさ。ジークの性欲があそこまで突き抜けていたなんて! 英雄色を好むと言うし、性欲に制限はないと聞くけど限度ってものがあるだろ!?
問題はジークが作り上げた薬品だ。何なんだよ『卵子に作用して神とも異種族とも子供ができる薬』って!? 神やエルフとドワーフ同士みたいな異種族間では性行為をしても絶対に子供はできない。その法則を『避妊薬要らずで気軽に楽しめるのもいいけど、スリルがあった方がよくない? あと孕ませって事実が超興奮する!』とかいう理由でぶち壊すなよ!
絶対に量産するなと厳命したけど……無駄になりそうな気がする。よりにもよってミアの酒場の看板娘に話してしまったそうだし。何が『だってだって! 面白いことを聞かせたら気になるエルフの同僚を紹介してくれるって言ったんだもん! ……極上の獲物を見つけた肉食獣みたいな顔になって怖かったけど』だよ……。泣きたいのは俺だよ。絶対に
もう一つの問題作は『擬人化薬』だ。一定時間限定だが、文字通り神だろうがモンスターだろうが人間にする。まぁ、こっちは俺の責任でもある。モンスターや犬や猫みたいな生き物が人間になるとスタイル抜群の美男美女になるのがお決まりなんだぜ! って教えちゃったからな……。
この薬を最も欲しがりそうなのは『異端のモンスター』達だが、俺はジークにだけは絶対に教えないようにしている。エルフ並に整った容姿をした雌が混じっている――これだけでジークは絶対に気に入る。雄だけなら見向きもしなかっただろうけど。今は極少数で協力体制を築いているが、もし処分を決定した時にジークに敵になられるのは避けなければならない。彼の背に刻まれた【ステイタス】を知っているからこそ、どれだけ勝ち目がないのかわかっている。
それにしてもどっちの薬もあの方と『異端のモンスター』を狙っているとしか思えない効果だな! 本当に知らないんだよな? タケミカヅチやアスフィみたいな苦労人にして背中を煤けさせてやろうとか考えてないよなぁ!?
ああ駄目だ、嫌な想像ばっかり浮かんでくる。何度か都市の外にお使いに行かせたけど余計な寄り道とかしてないよね? ……そういえば「『テルスキュラ』こえー、アマゾネスマジこえー」が独り言になってた時期があったけど……まさか――
「ヘルメス様! ジークのアホが『【
そういえばつい最近、【フレイヤ・ファミリア】に襲われて腹を立ててたなぁ……きっと一割はその仕返しだろうな(残りは性欲)……俺、今からそこに行かないといけないんだけどなぁ……。
儚く笑った俺は、部屋に慌てて入ってきたアスフィに言った。
「後は任せたぜ、アスフィ!」
「逃げるなこのクズー!」
♦♦♦
・ギルドの人気ナンバーワン受付嬢の不満
私、というか私達ギルドの受付嬢には悩みの種がある。ギルドに来るたびナンパをしてくる神ヘルメスの眷属、【
冒険者登録を行うために初めてギルドへ訪れた際の印象は最高だった。十三歳という若さでありながら背は高くて顔の造りもよくて、澄みきった碧眼で相手の目をしっかりと見て話す。腕っぷし自慢の冒険者は素行の悪い人が多いから、見た目や所作がちゃんとしている少年に私達はとても好感を覚えた。
長年ギルドに勤めており、今では受付嬢のまとめ役になっている
必要事項が記入された書類を私が受け取り、新たな冒険者になったグレイマン氏だったが、私の隣にいるミィシャに笑顔を向けたのだ。ギルド内にいた男性は嫉妬の炎を燃やし、女性はまさか早すぎる恋の芽生えかと胸を弾ませ、ミィシャは新人なのにもう寿退職しちゃうのー!? と顔が真っ赤になった。
ジークは爽やかな笑みを浮かべてミィシャの手を取り、瞳をグルグルさせ始めた彼女に告げた。
「その胸の大きさでノーブラ、いいと思います」
――学生来の友人であるミィシャは小柄にも関わらず胸がある。そしてこの日、寝坊でもしたのか大慌てで来ていた。なら下着を付け忘れていた可能性もゼロじゃない。ギルドの制服は身体のラインが出るけれど、下着の有無までは判断できないから本当にノーブラだったのかもしれない。
でも! よりにもよって! こんな時に言う!?
グレイマン氏のふざけた行動はそこで終わらなかった。笑顔のまま生きた石像と化したミィシャから手を離し、私の方を向いてある数値――私のスリーサイズを口にした。エルフならぬエロフの
他の受付嬢にもスリーサイズ、パンツやブラジャーの種類や色、現在の体重と適正体重を告げ終わってから彼は立ち去った。ギルド職員どころか冒険者も固まる中、止まっていた時を打ち砕いたのはローズさんだった。
「……とっととくたばらないかな、あのクソガキ」
ギルド職員として決して言ってはならない言葉だったが、誰一人として咎めることはなかった。
あれから五年の月日が経った。グレイマン氏がダンジョンに向かって大怪我をして帰って来る日は一度もなく、それどころか数人しか持っていない『神秘』の発展アビリティを発現させたLv.3になっていた。
私達を嘲るような笑みを浮かべてやってくることは腹立たしいし、事あるごとに下着や体重について触れてくることは怒りを通り越して殺意を覚えるレベルだが、一番嫌なのは私が新しくアドバイザーをすることになった冒険者、ベル君と同じ声をしていることだよ! この前もグレイマン氏かと思った同僚がベル君を怒鳴ってしまったことがあったし……。
「エイナさぁあああああああん!!」
受付をしている人の顔が強張る。善意の塊のような白い少年には笑顔を向けたいが、性欲の化身みたいな灰色の青年には笑みなんて見せたくない。でも声だけの現状ではどうすればいいかわからない。私にはその気持ちが痛いほどわかった。
それでも私はギルド職員としての矜持で笑顔を作る。どんな性格破綻者でも、冒険者は生きて帰って来ることが一番いい。そう思っているから。
――そんな私は血塗れで走ってくる少年を見て絶叫を上げた。
♦♦♦
・【
ヘルメス様から『こいつに命の尊さを学ばせてほしい』と頼まれ、私はジークさんに治療術や薬品の調合法を教えていたのですが……彼に対する悩みが尽きません。
仕事に関して文句は欠片もないのです。薬品の配合法を一目見て覚えるどころか自力で答えに辿り着き、より低いコストで高い効果を発揮する調合法を編み出しましたし、治療施術も既に私に準ずるほどの腕となっています。
悩んでいるのは、私や患者への対応です。
子供相手なら丁寧なのですが、患者が大人の男性になると一気に変わります。少しでも態度の悪い相手なら適当な
女性相手だと『せくはら』? が酷い。臀部を見て安産型かどうかを判断し、歩き方で「今日、初夜を迎えたっぽい」と呟き、意味もなく生理周期を当ててきます。治療施術も女性の肌に傷を残したくないという以外に、合法的に視姦できるという理由がありました。そんな理由で上をいかれた仲間達が憐れでなりません。
特に悩ましいのが私への『せくはら』です。胸やお尻を私以外にバレないよう見てきますし、飲食物には媚薬に似た成分をした栄養剤を混入してきます……無駄に効果が高くて嫌になる。
この間など疲労回復マッサージを行ってきました。本当に疲労が嘘のように取れましたが……私が抵抗しないのをいいことに、胸や太腿の内側のような性感帯まで触れてきてっ、終いには――!
「ああああああああぁー!!」
「どうしたんだアミッド、疲れてるのか!? 丁度『絶対に淫夢を見るけど快眠できる枕』を持ってきたから休憩がてら添い寝しよう!」
「貴方が原因です!!!」
薬品に対する理解や観察眼をセクハラばっかに使う主人公。
最後のは好きに想像してください。