才能の権化が才能を無駄遣いしていることを嘆くのは間違っているだろうか 作:柔らかいもち
ではどうぞ。
「『王女は執務に追われ続ける日々に疲れ切っていた。「早く嫁にいけ」「女らしい趣味の一つでも持て」と言うくせに城から一歩も出さず仕事を自分に押し付けて遊び惚ける矛盾だらけの
「やめてぇぇ! もう勘弁してくれよー!?」
ダンジョン18階層、『リヴィラの街』の北部にある長大な水晶の谷間が形成された
そんな扉も仕切りもない空洞で運営される酒場では
周囲には酒を飲んでいるヒューマンや賭博に興じる獣人達がいるものの、全員が目を逸らしている。他人だから関わらないのではなく、身内事だからこそ関わりたくない――それがこの場にいる者の総意だった。早い話、客は全て【ヘルメス・ファミリア】であった。
少女の大声を至近距離で聞かされたジークはそれまで朗読していた自作の
「お前が金に目がくらんだせいで訳のわからん依頼を受けるはめになったんだろーが! これで夜になるまで終わらなかったら娼館の予約がパアになるんだぞ? 儚い姫様系
「金については悪いと思うけどさ、娼婦ならもう何回も身体を売ってるだろ。一人二人増えたところで変わりなくないか……?」
「この駄犬がよぉ! 天才の俺がその対策をしてない訳がないだろうが! 『ユニコーンの角』で作成した処女かどうかを判別する
超貴重な『ドロップアイテム』と五人も発現させていない『
抱く女の子は処女がいい。野菜が初めてならともかく、他の男が抱いた後とか嫌だ。それと情事の上手さを比べられて「彼の方がよかった」とか言われたら衝動的に自殺しそうな気がする。色んな理由でジークは未経験の女しか抱くつもりがなかった。
「前までは俺の上半身を見るだけで泡吹いてたけど、やっと胸を触らせてもらえるところまで来たんだよ。ここまで稼いだ時間と好感度を他の野郎に奪われると考えただけで腸が煮えくり返るわ! 暇つぶしも兼ねてお前を『性感帯を刺激されてもないのに絶頂したクソ雑魚雌犬』にしてやるから覚悟しろ!」
「や、やだっ、ああああぁ――――!?」
暇つぶしなんてあんまりだ、と言うこともできずに悶えるルルネ。周囲では巻き添えを喰らった者が前屈みになって震えている。聞きたくないけど聞きたい、動いたら達してしまいそう……色んな理由で誰もジークを止められない。止められそうな
ちなみにアスフィが逃げるのもジークの計算の内である。今読んでいる
閑話休題。
報復と暇つぶしでルルネを調教しているジークだったが、一つだけ不満がある。ルルネでは満足できないことだ。ぶっちゃけると合格ラインに到達していない。ハイレベルな美少女でなければ我儘なジークの性欲は満たされないのだ。
しかし、アスフィは駄目だ。高確率で悪戯がバレて殺される。
一切休みを入れずに朗読を続けたジークはあちこちから香りだした青臭さに顔をしかめると、息も絶え絶えのルルネに声をかけた。
「おい、ルルネ。やめてほしいか」
「……たのむ、もうやめてぇ……あたま、へんになる……」
「そうかそうか。なら俺の質問に答えてくれたら解放しよう。なに、一つだけだ――お前等、俺に何を隠している?」
ジークはまったく目の笑っていない笑顔で尋ねる。馬鹿みたいに緩んでいた空気が瞬時に張りつめ、【ヘルメス・ファミリア】の団員の表情が凍り付く。
「おかしいと思ったのは今回の依頼に『援軍』が送られると知った時だ。ルルネ、お前に協力を要請してきた黒ローブは【ファミリア】のLv.詐称を知っていたんだろう? どっかの【ファミリア】や
「……」
「ヘルメス様もその辺りは織り込み済みだろう。むしろそうして
「……」
「ヘルメス様は何を危惧している? 俺の強さが規格外なのは今更だ。エロい発明品なんかはもっと今更だ。なんていうんだろうな……俺の強さがギルドに知られることじゃなくて、知られることで任される極秘任務が不味い感じか? いや、強さよりも俺の性格……綺麗な女の子が大好物なところかな?」
「……」
「ヘルメス様で他に気になることは……ああ、『異種族妊娠薬』と『擬人化薬』を見せた時の反応だ。俺の性への情熱にドン引きするというよりは、俺が何かを知ってしまったんじゃないかっていう表情をしてた。『擬人化薬』は
ジーク・グレイマンは天才だ。女好きで天才だ。
アスフィが誰にも話したことがないはずの彼女の過去をエロのために知る調査力。『くっ殺の館』に訪れる客の深層心理に眠る複雑な
性欲を満たすためだけにLv.8へ至った怪物が、『
きっとここにいる大半が何のことかわからないだろう。確実に知っている団長と主神からはジークでも情報を抜き取るのは困難だ。だが……いくら面倒事を持ってくる馬鹿でも、
隠すことは許さない――言外に告げてくるジークの視線にルルネは冷や汗が止まらなかった。状況の変化が目まぐるしすぎてついていけない上に、白を切ることもジークにはできない。頼みの綱のアスフィは援軍が来たと呼びに行くまで来ない。他の者もジークの圧と前屈みな姿勢と賢者タイムで動けない。
万事休すか。全てを諦めたルルネが口を開きかけたその時。
「………………ルルネ、さん?」
全員が入口の階段に目を向けた。そこには驚愕の眼差しを注ぐ金髪の美少女、アイズ・ヴァレンシュタインがいた。
今の状況を整理しよう。
客が全員変な香りを漂わせ、一人の少女が椅子に縛られて顔も下半身も大惨事。その女の子の前には下手人と思われる唯一無事な男。
すらりと剣を抜くアイズ。ジークの顔から滝のように流れ出す冷や汗。「【
「ッッッ!!」
「ぎゃああああああああ!?」
振り下ろされた猛り狂う風の刃を格好つけて真剣白刃取りをしたジークはズタボロになった。
天才の片鱗を見せる変態。
終わりどうしようかな。