才能の権化が才能を無駄遣いしていることを嘆くのは間違っているだろうか   作:柔らかいもち

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 パソコンが壊れた……。超ショック。続きを楽しみにしていた作品が作者さんがアンチが嫌になって消えたり更新されなくなったのも悲しい。

 ではどうぞ。


24階層への依頼

「『王女は執務に追われ続ける日々に疲れ切っていた。「早く嫁にいけ」「女らしい趣味の一つでも持て」と言うくせに城から一歩も出さず仕事を自分に押し付けて遊び惚ける矛盾だらけの国王(ちち)、申し訳なさそうにするだけで手を貸そうとはせずに仕事を持ってくる臣下、自分達の生活を維持している王女の功績を知らずに国王達ばかりを褒め称える国民。積み重なり続ける疲れは彼等彼女等に怒りを燃やすことすら許さず、このまま国のために人生を使い潰すのだろうと王女は考えていた。しかし、ある日城に誰にも気取られることなく侵入してきた男によって、王女は己が「女」であることを自覚させられた。男は侵入者に呆然とする王女を寝台(ベッド)に押し倒すと○○○を×××し、△△△△△から□□□□□の“ピーッ”を』――」

「やめてぇぇ! もう勘弁してくれよー!?」

 

 ダンジョン18階層、『リヴィラの街』の北部にある長大な水晶の谷間が形成された群晶街路(クラスターストリート)付近の裏道。ごつごつとした岩壁に空いた洞窟を利用して設けられた『黄金の穴蔵亭』という名の酒場。

 

 そんな扉も仕切りもない空洞で運営される酒場では犬人(シアンスロープ)の少女――ルルネが泣き叫んでいた。彼女は両手を後ろにして椅子に縛り付けられ、顔を真っ赤にしながらもじもじと股をこすり合わせている。

 

 周囲には酒を飲んでいるヒューマンや賭博に興じる獣人達がいるものの、全員が目を逸らしている。他人だから関わらないのではなく、身内事だからこそ関わりたくない――それがこの場にいる者の総意だった。早い話、客は全て【ヘルメス・ファミリア】であった。

 

 少女の大声を至近距離で聞かされたジークはそれまで朗読していた自作の官能小説(グリモア)を閉じると、ルルネに指を突き付けながら口を開く。

 

「お前が金に目がくらんだせいで訳のわからん依頼を受けるはめになったんだろーが! これで夜になるまで終わらなかったら娼館の予約がパアになるんだぞ? 儚い姫様系狐人(ルナール)のあの子が汚いおっさんに抱かれたら責任取れんのかっ、おぉん!?」

「金については悪いと思うけどさ、娼婦ならもう何回も身体を売ってるだろ。一人二人増えたところで変わりなくないか……?」

「この駄犬がよぉ! 天才の俺がその対策をしてない訳がないだろうが! 『ユニコーンの角』で作成した処女かどうかを判別する魔道具(マジックアイテム)であの子が未経験だってことは把握してるんだよ!!」

 

 超貴重な『ドロップアイテム』と五人も発現させていない『神秘(レアアビリティ)』を何に使ってるんだ、という同じ派閥の団員からの視線を意に介さずジークは叫ぶ。彼は性癖を拗らせた可哀想な生物なのだ。

 

 抱く女の子は処女がいい。野菜が初めてならともかく、他の男が抱いた後とか嫌だ。それと情事の上手さを比べられて「彼の方がよかった」とか言われたら衝動的に自殺しそうな気がする。色んな理由でジークは未経験の女しか抱くつもりがなかった。

 

「前までは俺の上半身を見るだけで泡吹いてたけど、やっと胸を触らせてもらえるところまで来たんだよ。ここまで稼いだ時間と好感度を他の野郎に奪われると考えただけで腸が煮えくり返るわ! 暇つぶしも兼ねてお前を『性感帯を刺激されてもないのに絶頂したクソ雑魚雌犬』にしてやるから覚悟しろ!」

「や、やだっ、ああああぁ――――!?」

 

 暇つぶしなんてあんまりだ、と言うこともできずに悶えるルルネ。周囲では巻き添えを喰らった者が前屈みになって震えている。聞きたくないけど聞きたい、動いたら達してしまいそう……色んな理由で誰もジークを止められない。止められそうな団長(アスフィ)は非情にも声の届かない場所へ一人避難していた。

 

 ちなみにアスフィが逃げるのもジークの計算の内である。今読んでいる魔導書(グリモア)は普通の枕を『淫夢で快眠枕』にすり替えられたことに気付かないまま寝たアスフィの部屋に、開錠行為(ピッキング)で侵入した時に考えたジークの新作だ。『豊饒の女主人』の看板娘に一冊魔導書(グリモア)を提供してしまったため、在庫補充も兼ねて書いたのだ。誰にもバレてないだろうと思ってこっそり性欲を満たそうとする彼女の姿が最近の楽しみである。バレたらぶち殺されるだろうが、死が怖くてエッチはできない。

 

 閑話休題。

 

 報復と暇つぶしでルルネを調教しているジークだったが、一つだけ不満がある。ルルネでは満足できないことだ。ぶっちゃけると合格ラインに到達していない。ハイレベルな美少女でなければ我儘なジークの性欲は満たされないのだ。

 

 しかし、アスフィは駄目だ。高確率で悪戯がバレて殺される。エルフの団員(ローリエ)はジークの調教(マッサージ)暗示療法(さいみん)の腕が一流だったせいで、合言葉と一緒に指を鳴らせば性欲に忠実なメスに変身するようになってしまった。それはジークの趣味じゃない。小人族(メリル)もイエスロリータ、ノータッチである。

 

 一切休みを入れずに朗読を続けたジークはあちこちから香りだした青臭さに顔をしかめると、息も絶え絶えのルルネに声をかけた。

 

「おい、ルルネ。やめてほしいか」

「……たのむ、もうやめてぇ……あたま、へんになる……」

「そうかそうか。なら俺の質問に答えてくれたら解放しよう。なに、一つだけだ――お前等、俺に何を隠している?」

 

 ジークはまったく目の笑っていない笑顔で尋ねる。馬鹿みたいに緩んでいた空気が瞬時に張りつめ、【ヘルメス・ファミリア】の団員の表情が凍り付く。

 

「おかしいと思ったのは今回の依頼に『援軍』が送られると知った時だ。ルルネ、お前に協力を要請してきた黒ローブは【ファミリア】のLv.詐称を知っていたんだろう? どっかの【ファミリア】やギルド長(ロイマン)の手下ならLv.詐称を知った時点で罰金(かね)を奪いに来たはずだ。そうせずに依頼を託すための脅しに使ってきたなら、十中八九、そいつはギルド長の更に上……ウラノス様の手駒とかだろう。それ以外にこんな真似(いらい)をする意味がないし、うちの【ファミリア】の秘密がバレるとは考えにくい」

「……」

「ヘルメス様もその辺りは織り込み済みだろう。むしろそうしてギルド(ウラノス)だけに有用性を示そうと考えていたはずだ。なのにLv.8(おれ)がいる集団に援軍? つまり……ヘルメス様はとびっきりの取引材料になる俺を徹底的に隠していることになる」

「……」

「ヘルメス様は何を危惧している? 俺の強さが規格外なのは今更だ。エロい発明品なんかはもっと今更だ。なんていうんだろうな……俺の強さがギルドに知られることじゃなくて、知られることで任される極秘任務が不味い感じか? いや、強さよりも俺の性格……綺麗な女の子が大好物なところかな?」

「……」

「ヘルメス様で他に気になることは……ああ、『異種族妊娠薬』と『擬人化薬』を見せた時の反応だ。俺の性への情熱にドン引きするというよりは、俺が何かを知ってしまったんじゃないかっていう表情をしてた。『擬人化薬』は亜人(デミ・ヒューマン)や神が使えばヒューマンに、犬や猫みたいな動物が使えば最も特徴が近い亜人(デミ・ヒューマン)になるけど――モンスターには試したことがないな。絶対に使うなと命令されたから」

 

 ジーク・グレイマンは天才だ。女好きで天才だ。

 

 アスフィが誰にも話したことがないはずの彼女の過去をエロのために知る調査力。『くっ殺の館』に訪れる客の深層心理に眠る複雑な願望(プレイ)を正確に見抜く観察眼。いい女を見逃さないために培った超直感(美少女センサー)

 

 性欲を満たすためだけにLv.8へ至った怪物が、『異端のモンスター(新たなフェチ)』を隠そうとする団員に気付かない訳がない。今回の依頼だって夜までに間に合わせる自信があった。にも関わらずルルネを辱めたのはアスフィやヘルメスがいないこの状況を作り出すためだ――暇つぶしだったのも本当だが。

 

 きっとここにいる大半が何のことかわからないだろう。確実に知っている団長と主神からはジークでも情報を抜き取るのは困難だ。だが……いくら面倒事を持ってくる馬鹿でも、盗賊(シーフ)としての腕は派閥内でトップクラス。ヘルメスもその腕を認めていくつもの機密文書の運搬などを任せている。知らないはずがない。

 

 隠すことは許さない――言外に告げてくるジークの視線にルルネは冷や汗が止まらなかった。状況の変化が目まぐるしすぎてついていけない上に、白を切ることもジークにはできない。頼みの綱のアスフィは援軍が来たと呼びに行くまで来ない。他の者もジークの圧と前屈みな姿勢と賢者タイムで動けない。

 

 万事休すか。全てを諦めたルルネが口を開きかけたその時。

 

「………………ルルネ、さん?」

 

 全員が入口の階段に目を向けた。そこには驚愕の眼差しを注ぐ金髪の美少女、アイズ・ヴァレンシュタインがいた。

 

 今の状況を整理しよう。

 

 客が全員変な香りを漂わせ、一人の少女が椅子に縛られて顔も下半身も大惨事。その女の子の前には下手人と思われる唯一無事な男。

 

 既視感(デジャヴ)だ。そして前回と絶対的に異なる点が一つ。ここはジークの(シマ)じゃない。『合言葉』を言わせる手筈のドワーフの主人は猥談にやられて気絶中。

 

 すらりと剣を抜くアイズ。ジークの顔から滝のように流れ出す冷や汗。「【目覚めよ(テンペスト)】」の詠唱とともに風を纏った少女は床を蹴った。

 

「ッッッ!!」

「ぎゃああああああああ!?」

 

 振り下ろされた猛り狂う風の刃を格好つけて真剣白刃取りをしたジークはズタボロになった。




 天才の片鱗を見せる変態。
 終わりどうしようかな。

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